混戦の群馬密林~一触即発の介入

    作者:陵かなめ

    ●もたらされた情報
     群馬密林を探索していた灼滅者が、有力な情報を持って帰還したんだよ。
     千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)がそう言って灼滅者たちの前に立った。
    「群馬密林の地下にアガルタの口の入り口がある事、ご当地怪人のアフリカンパンサーが、ドーター・マリアに接触しようと配下を送り込んでいた事がわかったんだ」
     探索していた灼滅者の活躍で、六六六人衆とご当地怪人が戦闘し、ご当地怪人が敗北して殺されている。この戦闘の結果、群馬密林では、アフリカンパンサー率いるご当地怪人と、ドーター・マリア率いる六六六人衆が、一触即発の状況で睨み合う事になったらしい。
     ただ、と、太郎がさらに説明を続ける。
    「両者がこのまま戦いを始めることは無いようなんだ」
     この状況に対して、スサノオの姫・ナミダが、戦いを仲裁すべくスサノオの軍勢と群馬密林に入っている。この戦いは、戦闘が始まる前にスサノオによって調停され、ドーター・マリアはスサノオの傘下に入り、ナミダ姫とアフリカンパンサーは協力関係を強くするという結果になってしまうのだ。
     この結果は、スサノオの戦力を大きく増強する事になるだろう、と説明を受け、灼滅者たちが顔を見合わせる。
    「と、言うわけで、これを阻止するために、皆には、スサノオの調停が始まる前に戦闘に介入して欲しいんだ。両勢力が全面戦闘を行うような工作をしたりとか、戦闘の混乱を利用して有力な敵の灼滅を狙って欲しいんだよ」
     スサノオの調停が始まる前に介入する。
     太郎の言葉に、皆の顔が引き締まった。
     ご当地怪人と六六六人衆は互いに睨み合っている状態である為、130名程度の戦力であれば、気づかれずに近づく事が可能になっている。
     灼滅者が戦場に近づいてから、スサノオの軍勢が到着するまでは12分程度と予想されている。
    「これについては、スサノオの軍勢の進行方向も判明しているから、スサノオの軍勢の足止めをする事ができれば、到着を遅らせる事もできると思うんだ」
     しかし、当然ながら、正面から戦争に介入して戦うほどの戦力はないことも頭に入れておいたほうがいいだろう。
     いかにして両勢力の戦端を開かせるか、戦闘が発生した後に激化させ、スサノオの仲裁を失敗させるかが肝になるだろうと太郎は語った。
     最低限、双方の戦力を減らす事ができれば作戦は成功だが、ドーター・マリアがスサノオの傘下に加わらない、アフリカンパンサーとスサノオの関係が悪化するといった状況を生み出せれば、スサノオとの決戦で大きなアドバンテージを得られると思われる。
    「あとはね、作戦の立て方によっては、有力敵の灼滅も不可能ではないから、状況が許せば狙っても良いかもしれないね」
     ドーター・マリアの配下は、群馬密林の六六六人衆達。アフリカンパンサー配下はご当地怪人の軍勢、ナミダ姫配下は、壬生狼組をはじめとしたスサノオの軍勢である。
    「六六六人衆の残党勢力が、これ以上スサノオ勢力に加わるのは、阻止したいよね。それにしても、アフリカンパンサーとドーター・マリアの関係は、一体何なのだろうね?」
     少しだけ首を傾げ、太郎は説明を終えた。


    参加者
    新城・七波(藍弦の討ち手・d01815)
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    ヘイズ・フォルク(夜鷹の夢・d31821)
    イサカ・ワンブリウェスト(夜明けの鷹・d37185)

    ■リプレイ

    ●標的確認
    「密林かぁ……、故郷の森とは、ちょっと違った雰囲気だね」
     イサカ・ワンブリウェスト(夜明けの鷹・d37185)がきょろきょろと周辺を見回した。
     混戦の群馬密林は広く、周辺に他のチームの戦いの音は聞こえない。
     その中で、大きな木の陰に身を潜めている六六六人衆の姿を見つけたのは新城・七波(藍弦の討ち手・d01815)だった。十分にご当地怪人の陣営と距離を取り、膠着状態を保っているようだ。
     七波は仲間たちに目配せをして、標的を知らせる。
     リーファ・エア(夢追い人・d07755)が無言で頷いた。
     他の仲間たちも次々に敵を確認し、タイミングを見計らう。
     備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)は霊犬のわんこすけを手元に呼んで、こう言った。
    「うん。場所もまあまあじゃないかな?」
     地図などで位置関係を調べていた仲間たちも同意を示す。
     セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)は、武器を構えて合図を待った。
    「新しく六六六人衆になったどうしようもないのはともかく、ある程度は練度も高いだろうから上手いことやらないとな」
     見たところ、六六六人衆は戦力的に不利な状況を理解しているようで、ナイフを握り締めてはいるものの、ご当地怪人側へ攻め入るようではない。
     ヘイズ・フォルク(夜鷹の夢・d31821)がフードをかぶり顔を隠した。
    「頃合だな。俺は六六六人衆側に極力近づいてみるぜ」
     後は任せた、と仲間たちを見て、静かに進み始める。
     位置確認をしていたリーファも戦う準備を整え立ち上がった。
    「戦況を上手く利用……ですか。ま、悪くないですね」
     ウイングキャットのキャリバーを傍に置き、いつでも出ることのできる体勢をとる。
    「さて、うまく踊ってもらいたいところですね」
     七波が言うと、全員が六六六人衆へ向かい走り出した。
    「なるべくここで互いに潰しあってもらえるとありがたいですよね。兎にも角にも戦端を開かせないと」
     にらみ合い、膠着が続くのはよくないとリーファが言う。
     他の場所ではもう戦いを始めたのだろうか。
     少なくとも、目の前の戦場では、六六六人衆もご当地怪人も戦う気配はないようだ。
     草を踏み、木を掠める音がする。
     木の陰で身を潜めていた六六六人衆は、それを敏感に察知し眉をひそめた。
    「誰だ?! 戦いを始めようって言うのか?!」
     言葉では誰何しているが、敵はすでに臨戦態勢だ。
     敵は身を潜めていたとは言え、ここは戦場の真っ只中。
     遠距離攻撃で先手を取ることは難しかったが、こちらの思惑が見透かされた感じもしない。
     灼滅者たちはできるだけご当地怪人陣営と挟み込む形を取るように位置を取りながら、戦闘に入った。

    ●作戦開始
    「……密林に現れる怪鳥、というわけではないが、まあお前達の敵ではあるな」
     敵の前に降り立ったセレスは鳥人姿だった。
     ダイダロスベルトの帯を射出し、敵を狙う。
     戦いを仕掛けたこの場所は、六六六人衆と灼滅者の戦場となった。
     帯が敵の身体を貫く感触を確かめる。セレスは目を細め周辺に気を配った。戦場にご当地怪人の気配はない。怪人の陣営まではまだ少し距離があるようだ。
     そうなれば、目の前の六六六人衆との戦闘に集中するのだが、灼滅者たちは一気に畳み掛けるような開戦は避けた。
     鎗輔は両手にオーラ集中させ、狙いを定めて敵をチラリと見る。
    「奇襲は失敗か。仕方ないねぇ」
     言いながらオーラを放出し、六六六人衆を狙い打った。
     オーラキャノンに貫かれた敵の身体が傾ぐ。しかし、すぐに持ち直し六六六人衆は顔を上げた。
    「っ、数が多いが、やるってんなら相手になるぜ!!」
     負傷した部分を庇いながら、敵が切り込んでくる。
     鎗輔は敵の動きを見ながら来た方向とは反対側へ走った。
    「おっと、危ない。あ、こっちか、作戦失敗を知らせなきゃ」
     聞こえるか聞こえないかの呟きをしつつ、相手の反応を見る。奇襲失敗のアピールも、ありもしない作戦を仄めかすのも、こちらがご当地怪人と組んでいると誤認させるためのものだ。
    「!! 作戦だと?! さては、お前たちはご当地の……?」
     殺気を立ち上らせていた六六六人衆が、その言葉を聞いてはっと表情を強張らせた。
     どす黒い殺気が後衛の鎗輔、イサカに覆いかぶさってくる。
     二人を庇うようにリーファとキャリバーがその前に立ちふさがった。
    「そんな事を考えている余裕がおありですか?」
     デッドブラスターを準備しながらリーファが敵を見る。
     六六六人衆はイラっとした様子で睨み返してきた。
    「考える余裕? あるに決まってんだろ!!」
     敵から立ち上った殺気がさらに膨れ上がり、リーファたちの体を蝕んでいく。
     目の前の六六六人衆はリーファの言葉により、いっそう考え始めたようだ。この戦場に出てきた灼滅者たちが、ご当地怪人と手を組んで襲ってきた可能性を。
     庇われていたイサカが仲間の傷を気遣いながら一歩引いた。
     目の前の六六六人衆は、こちらの作戦に食いついたようだと感じる。
     イサカは白き炎を放出し、庇ってくれた仲間たちに向けた。
    「狙撃するなら身を隠すことも大事だよね」
     白炎蜃気楼が前衛の仲間に行き渡り、傷を癒しジャミング能力を高めていく。
     傷の癒えたリーファが漆黒の弾丸を解き放ち敵の身体を抉った。
     続けて新城がどす黒い殺気を放出し始める。
    「薙ぎ払います」
     無尽蔵に放出した殺気がよろめいた敵を覆いつくした。
     そうしながらも、ご当地怪人陣営に逃げ込もうと逃走の経路を探す。
    (「しかし、これは難しいかもしれませんね」)
     七波は心の中で一人ごちた。
     一度攻撃を仕掛けたからには、この場所が六六六人衆と灼滅者との戦場となった。さすが六六六人衆と言う所か、簡単に逃げる隙を作ってはくれないようだ。
     傷を負い、灼滅者とご当地怪人との共闘の可能性を考えながらも、その瞳はしっかりと自分たち灼滅者を捕らえていると感じた。
     六六六人衆は舌打ちをしてジロリと後方の木を見据える。
    「そこにもいるんだろう? 戦場で、隠れ果せると思うなよ」
    「ああ、さすがに気づきました?」
     そこからヘイズが前に出てきた。
     六六六人衆側に紛れ込もうとしたが、さすがに戦場ともなれば誤魔化しきれなかったようだ。ヘイズは地面を蹴り、一気に敵との距離を詰める。
     素早い動きで敵の懐に入り込み、急所を絶ち斬った。

    ●思考する六六六人衆
     幾度か攻撃を撃ち合い、戦いは続いていた。
     ヘイズが解体ナイフを手にする。
    「月華、敵を蝕む風を呼べ!」
     犠牲者達の呪いを毒の風に変え、竜巻として放った。
     毒の風は敵を飲み込み暴れ狂う。
     六六六人衆は体力を削られ顔をゆがめた。しかし、やはりこの戦場を抜けてご当地怪人の陣営に逃げ込むのは難しい。
     わざと攻撃をご当地怪人のいるであろう方へ飛ばすのも、望んだ効果は得られないだろう。
    「くそ、ご当地怪人共めが!! 灼滅者と手を組んで作戦を行うなど!」
     けれどヘイズは敵の言葉を聞いた。
     ご当地怪人の陣地へ逃げることはできずとも、目の前の敵は十分疑心暗鬼に陥っている。それを確認し、再び次の手に備え敵と距離を取った。
     次にセレスが妖の槍を構え間合いに飛び込んでくる。
    「そんなに考え事をしながら戦っていて良いのか?」
     言って、螺旋の如き捻りを加え槍を突き出した。
    「は――」
     何か敵が言おうとしたが、それを遮るように槍を手繰る。
     セレスの槍が、確実に敵の身体を貫いた。
     イサカは敵が攻撃を受けている間に、仲間たちの傷の具合を確かめていた。
     前衛の仲間たちには毒がまとわり付いているようだ。
    「清浄なる風のカチナよ……僕に力を貸して!」
     それを知ると、浄化をもたらす優しき風を招き仲間へと飛ばす。
     木の間を走り抜け、確実に前衛の仲間の傷を癒していく。
    「森の中でも、誰も見失わないよ。みんな、頑張って」
     そう言って皆を鼓舞しながら、イサカは走り続けた。
     鎗輔は遠距離から狙いを定めていた。
    「そろそろ沈んでくれないかなぁ。報告にも行きたいしね」
     相変わらず、相手に聞こえるかどうかの声で呟きながら雷を引き起こす。
     雷に打たれながら、敵はじっと考えているようだった。
     もちろん、鎗輔の言う『報告』などなにも意味なき言葉だ。だが、一度考え出した六六六人衆にとって、引っかかる言葉になりえている。
     リーファは祭霊光を後列のイサカに向けて放った。
    「ありがとう」
    「ええ、ここで倒れるわけにはいきませんからね。ご当地との作戦もありますし」
     礼を言われ、リーファは適当な話をでっち上げつつ返事をする。
     敵はその言葉を盗み聞きしていたようで、ぎりと奥歯をかんだ。
     自分たちとご当地とが協力している、と言う刷り込みが効いているようだと七波はその様子を見ていた。
     自分もあと一押しだと敵との距離を詰める。
     その時、突如六六六人衆がナイフを引いた。
    「どうしたのですか?」
     七波が慎重に敵へ言葉を投げる。
    「はは。いや、これは分が悪い。もちろん、負ける気はしないが、数がな」
     そう言うと、じりじりと後退していった。
     七波は、あと一押しすればこの六六六人衆を更に追い詰めることができると感じてはいたが、あえて追いすがることをしなかった。
    「私たちも無傷ではありません。後は約束通りご当地に任せましょう」
     そう言って仲間たちを見る。
     仲間たちも、敵の様子をしっかりと観察しながら頷いた。
    「そうだね。後のことはお願いしよう」
     イサカの言葉を厳しい表情で聞きながら、六六六人衆は撤退して行った。
    「さて、逃げた先でご当地怪人に仕掛けてくれたら上出来だな」
    「おそらくそうなるだろう。随分、こちらとご当地怪人との共闘を考えていたようだ」
     ヘイズとセレスが言葉を交わす。
     ともあれ、敵が去りそれを許したことで自分たちもこの場所から離れることができる。
     灼滅者たちは急いで戦場を観察できる場所へと移動を開始した。

    ●戦場激変
     六六六人衆とご当地怪人との戦闘はどうなったのか。
     それを確かめようとした灼滅者たちが見たものは、アフリカンパンサー率いる本隊の進軍であった。
    「動きが早いよね。何かあったのかな」
     不安げな表情でイサカが仲間を見る。
    「分からないが、様子がおかしいぜ。六六六人衆に対して追撃か?」
     ヘイズは茂みに身を潜めアフリカンパンサーの動きを見た。
     他の仲間も、どう動くか顔を見合わせている。
     と、その時、周辺に異様な殺気を感じた。
     鎗輔の頭の上に乗っていたわんこすけが小さく鳴く。
    「しぃ、気をつけたほうがいいようだよ」
     仲間たちは鎗輔の言葉を聞くといっそう静かに黙り込んだ。
     茂みをかき分けながら、二体の六六六人衆が歩いているのが見える。
    「早く見つけようぜ。紛れ込んだ灼滅者ってヤツをよ」
    「刈っていいんだろう? はやく殺りたいぜぇ!!」
     それぞれ武器を構え、戦う気を隠すこともなく歩いていた。
    「私たちを見つける、と言いましたか?」
     緊張した面持ちでリーファが呟いた。
     ご当地怪人ではない。明らかに自分たちを探しているようだ。
    「へへっ。武蔵坂の灼滅者ってよお、アフリカンパンサーを暗殺しようとしたらしいぜ?」
    「ウケルー! 灼滅者が他にも紛れ込んでるなら、殺すしかないっしょ」
    「他の奴らに先を越されないように、さっさと見つけようぜ」
     ケラケラと笑う二体をどうにかやり過ごし、仲間たちは顔を見合わせた。
    「何とかやり過ごしたか。しかし、これは……」
     セレスが厳しい表情で周辺を窺う。
    「武蔵坂の介入を気づかれてしまった、と言うことでしょうね」
     七波の言葉に、仲間たちも同意を示した。
     ヘイズは状況を考えながら皆を見る。
    「しかも、対策を取らせてしまったようだぜ」
    「まずいですね」
     ヘイズの意見には、リーファも同意だ。
     あの六六六人衆の様子を考えると、敵の内部で灼滅者狩りが命令されていると見て間違いないだろう。
    「どうしようか?」
     イサカが仲間に問うた。
    「戦局の混乱は成ったよ。僕たちの役目だったね」
     それは、確かなことだった。最初に対敵した六六六人衆には、十分に灼滅者とご当地怪人が共闘していると刷り込めたのだ。
     鎗輔が言うと、皆立ち上がった。
     この状況ではやむを得ない。
     灼滅者たちは急ぎ撤退し群馬密林を離れた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月8日
    難度:やや難
    参加:6人
    結果:成功!
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