
「フッ、俺の話を聞きたいって? 誰も信じやしないさ。貧乳を愛し貧乳に準じたあの日の俺を、誰も……」
ニヒルに貧乳専門誌を開く男。彼は電話口でこう語った。
「あるとき俺は、『ひんにゅうていこく』にいたんだ」
●わたしは無乳じゃないよ!
「『ひんにゅうていこくのやぼう』を覚えているか」
神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)がすごくシリアスな顔をしたから、きっとダークネス社会に関する世界的危機とかかなって思ったら、そうじゃなかった。乳の話だった。さいきんこんなんばっかか。
「かつて、あるダークネスのなりかけが築いた宗教団体は、貧乳をあがめるというものだった。俺はその時いなかったけど、相当頭のどうかしてる連中だったと聞く……」
優はシリアスな顔のまま語った。
「だがその事件がラジオウェーブを介して語られ、都市伝説として実体化が確認されたんだ」
その名も『ひんにゅうていこくかくめい』。
帝国を討ち滅ぼしたどーかしてる奴らの噂が混ざったり尾ひれが付いたりしてひとつの巨大な悪夢と化した。
それは帝国を滅ぼした悪魔兵団だ。
とち狂って刀を振り回す悪魔。
乳ある者は例外なく殺す悪魔。
人を縛り上げたりイヤンな意味で襲いかかってくる悪魔。
そんな悪魔たちを崇拝する邪教徒たち……。
革命によって滅びた帝国は、悪夢の伝説となってよみがえったのだ。
……って言っておくと壮大な感じがするので言っておくのであった。
「都市伝説に熱狂した人々が集まりとらわれているとも聞く。これは……武蔵坂学園の専門分野だとは思わないか! 行くべきだと、思わないか!」
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982) |
![]() 霧島・夕霧(雲合霧集のデストロイヤー・d19270) |
![]() 大神・狼煙(役目を終えた捨て駒・d30469) |
![]() 七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540) |
![]() 紫乃・美夜古(突っ込みは放棄するもの・d34887) |
![]() 神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383) |
![]() 立花・誘(神薙の魔女・d37519) |
![]() ヒトハ・マチゥ(ぶるぶるらびっと系月見草・d37846) |
●スターでウォーズする映画の冒頭のアレ
貧乳歴7122、貧乳帝国は偉大なる皇帝ぺちゃぱいちゃんによって築き上げられた。
幸福なる民たちは世の中の全乳が平らになることを祈って平和の祈りを捧げていた。
そんなある日、帝国を脅かす者たちが現われたのだ。
「――それが巨乳派、貧乳イジリ撲滅派、全乳独占派による宗教戦争であった。これを第二次成長期の貧乳喪失現象にちなんでJC戦争と呼んだ」
眼鏡を反射させながら語る大神・狼煙(役目を終えた捨て駒・d30469)。
これが百物語の使用シーンだっていって誰が信じるんだろう。
あと賑やかしに集めて置いたギャラリーがサーッといなくなったのどうすればいいんだろう。考えてなかった。ぜんぜん考えてなかったよ。灼滅者の『一般人はどんどんしまっちゃおうね精神』を忘れてたよ。
「安心したまえ」
水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)が時空を超えて肩ぽんしてきた。
『爆乳』と書かれたTシャツを着て肩ぽんしてきた。
「一人で何役もこなしてやんよ」
「仕方ない、手伝うとするか……」
眼鏡を親指の付け根でくいくいってやる潔癖っぽい仕草をしながら加わる神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)。
二人は後ろから霊犬とビハインドを引っ張り出すと、ぐいっと突きだしてきた。
「ほむらーんがな!」
「海里(ワンコ)がな!」
うっせーそいつらしゃべれねーだろ!
あとなつかしーなこのノリ!
「なつかしい……なつかしいな……あの時あのひとたち、私のことそんな風に見てたんだ……へぇ……」
瑠音と同じTシャツを無理矢理着させられた霧島・夕霧(雲合霧集のデストロイヤー・d19270)が、虚空を見ながら半笑いの表情を浮かべていた。
これには触れまいという顔(?)でそそっと後退するビハインドの光速老婆・榛名。
一方で、狼煙の(おもってんたんとちがう)百物語にぴくりともリアクションできなかったヒトハ・マチゥ(ぶるぶるらびっと系月見草・d37846)が、『こちら新生貧乳帝国』とかかれた看板の先を覗き込んでいた。
「ひっ……」
覗き込んだことで何か深淵を見ちゃったのか、ヒトハはカエルさんのぬいぐるみをぎゅっと抱いて後じさりしてきた。
「そうしたのよ」
「ほら、そこ会場なんだろ。早く行けって」
あとから入るつもりだった七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)と紫乃・美夜古(突っ込みは放棄するもの・d34887)がせかすようにヒトハを押しつつ、会場を覗き込んでみると……。
「貧乳聖典第一……ひんにゅうは撫でるもの! リピートアフターミー!」
「「ひんにゅうは撫でるもの!」」
「ワンスモア!」
「「なでるもの!」」
牧師の格好をした狼煙がバイブル片手になんか唱えていた。やめろ、さっきまで外で語ってた奴がいきなり中にいると物理的な整合性がとれないだろ!
「牧師様、新たなる貧乳ブロマイドを入手いたしました!」
「よかろう、みせたまえ、ふむふむこれはなかなか……」
完全に溶け込んでいる狼煙。
その様子を。
「……」
「……」
「……」
紅音と美夜古とヒトハはなんともいえない顔で見つめていた。
「あいつ、いつもああだったか?」
「奴は巨乳派を名乗っていたはずだけど」
「紅音ねぇ様……」
「なにも言わないで」
紅音は自分の胸をぽんぽんと二度叩き、何事も無かったかのように武装を展開した。
「また胸のはなししてる」
立花・誘(神薙の魔女・d37519)が椅子に座ってンまい棒さくさくしつつ、カメラ目線で振り返った。
「『ひんにゅうていこくのやぼう かくめいせんそう』……」
立ち上がりスカートをぱしぱしはたく。
くるんと回ってエイティーン。クールなポーカーフェイスで横ピースした。
「はーじまーるよ☆」
●この物語は灼滅者たちが世界平和のため悪と戦うダークネスバトルストーリーである
「偉い人は言った」
『ダイナマイトボディ』と書かれたシャツを着た瑠音は、バナナ食いながらキリッとした。
「『貧乳はステータスだ。あと拙者ケモミミロリババアツンデレ属性なんでブース回り分担OKですがあざーすざーっす』と」
「それ、偉人なの?」
「コミケスタッフの古参」
「ごめん、わかんないや」
瑠音とおんなじシャツを着るの刑に処された夕霧が死んだ目をしていた。まだバトルも始まってないのに。
夕霧がどのくらい肉体的に成長しているかって? 水着コンテストの全身イラストみてこいよ!
「そんなに平たいのが好きながら身体をおせんべいみたいにしてあげるよフフーフー」
キャラが若干壊れ始めた夕霧が早速邪教徒の皆さんをとっ捕まえて『あはは、こーいつー』のバイオレンスなやつを片っ端からかましていた。プレス工場みたいな手際だった。ついでに刀振り回すとち狂ったやつも『ぺったん☆』した。
一方、ほむらーんに腰掛けてスマホいじっていた瑠音が顔だけキリッとした。
「よし皆、戦闘ポジションにつけ。私はクラッシャー、ほむらーんはディフェンダー、おっさんはキャスターでナマステさんはバーサーカーだ」
「途中からソシャゲの話になっ――誰だそれ!」
知らない人を連れてきた瑠音を二度見する優。
「ほむらーんに乗れば私もライダーになれる気がする。投げればアーチャーにだって……!」
「やめろ、弓を打たないアーチャーなんているわけな……あ、いる」
米俵のことを考えながらスマホをいじりはじめる優。
彼らの後ろで海里や榛名がすごく真面目なアクションシーンを展開してるけど、これは別に見なくてもいいよね。DVD特典映像とかでいいよね。
「さて、そろそろ仕事しますか」
エイティーンした誘が胸元を強調するポーズ(と言っておけば各自想像で補完してくれるので何かに抵触せずにすむ)をとった途端、キシャーと言いながら緑の悪魔が現われた。
「邪教徒も欲望掛け流しの源泉を絶てば暴走をやめるはず。その貧乳を切り落として……切り落として……んー……ん?」
問題の時点で間違ってる図形問題みたいなものを前にして、誘が影技のナイフをもてあそんでいた。
「ないですね」
「キシャー!」
「うにゃー!」
両手をカマキリみたくして飛びかかってきた悪魔を、同じく両手をカマキリみたくして迎え撃つ夕霧。
二人はどたばたともつれ合ってなんか漫画でよく見るもくもくするやつを発生させた。
「わたしだって! わたしだって! 姉さんや妹みたいにすこしはねえ! すこしはねえ!」
もくもくが晴れた後、残ったのは体育座りをする夕霧だった。
『SUGOI DEKAI』と書かれたシャツに両膝を入れ襟首のところから膝小僧を出すやつをやって巨乳感を少しでも味わおうとしていた。
眼鏡(まだ外してなかった)を親指と薬指で挟むようにして直す狼煙。
「戦いの後は悲しみだけが残される……真理だな」
「真理だな、じゃないわよ」
紅音はやれやれという顔で額に指を当てた。
「本当なら今頃群馬の密林で世界情勢の一端を担っているはずが……なんで貧乳情勢の一端を担っているのかしら。担ってないわよ!」
「セリフノリツッコミ!?」
後頭部をぱしーんと叩かれてつんのめる狼煙。おっとっととよろめき、そのまま悪魔たちの胸に頭をごつんとやった。ごつんとね。
「あ」
『罪』の札を上げる美夜古、紅音、ヒトハ。
「ギルティ」
「ギルティ」
「ギルティ、です」
「「ぎゃあああああああああああああああ!!」」
あまりにそーぜつなあくしょんしーんなのでアニメ化を期待してざっくりかくけど、美夜古がソニックをビートして影で縛った黙示録砲が斬影刃でヒトハのジャッジメントがレイしーのシールドがリングしーのイエローがサインしーので最終的に紅音が蒼生(霊犬)をオーバースロー。
狼煙は悪魔といっしょに都合良く設置された階段をごろごろ転がり落ちていった。忠臣蔵みたく。
「七夕、唐辛子スプレーあるんだけど……いる?」
「もらっとくわ。目にやればいいのよね」
「シューっとね」
過酷な社会の一面を見せられ、ヒトハはかたかた震えながらカエルさんをぎゅってした。
刺激の強すぎる光景を見せないように両手で目隠ししてやる優。
「いっちゃなんだが、君のようなコはもっとマトモな依頼を経験したほうがいい」
「そんなこと言われても……です」
「おい貴様ら……!」
どっからも収拾をつけられないようなドタバタ大騒ぎの会場内。
その中央に鎮座した玉座的なものに、布袋を被った大男が現われた。
「そんなに好き放題しておいて、あとで『都市伝説と戦闘する依頼なのに戦闘してないじゃん』と身も蓋もないことを言われたらどうするつもりだ」
「その台詞が一番身も蓋もないわ」
「お前こそどうするつもりだ」
「ええい案ずるな、こういうのは最後にラスボス臭い強キャラと派手な戦闘シーンを描けばそれっぽくなるのだ」
「だからその台詞が身も蓋もないわ!」
「あと誰なんだあんた」
「フッ、この顔を見てもわからんか……?」
布袋をぬぐ大男。
眼鏡を光らせる狼煙と優。
「「その顔は……!」」
「そう、邪教徒A(石黒さん35歳独身)だ!」
「「誰だよ!」」
眼鏡を取って投げ捨てる狼煙と優。
さーて文体ごろっと変えてアクションシーン始めちゃうぞっと。
●これが戦闘依頼だってことを裁判で主張するためのシーン
先手必勝。
一歩目からトップスピードに達した紅音は玉座への階段を駆け上がった。
焦げた足跡。圧迫されて荒ぶる風。
一瞬足らずで刀の間合いへ入った紅音は石黒の顎に散弾銃の銃口を突きつけた。
紅音のまぶたが細く、石黒の瞳孔が広く、そして銃声が刹那の静寂を破った。
大きくのけぞり回避する石黒。
その側面へ超高速で回り込んだ美夜古が袖口から滑り出した影業製スペツナズナイフを逆手に握って叩き込む。
回避行動中の石黒の後ろ腰を、ナイフは的確に貫いていく。刃が服、皮膚、肉、骨、内臓に至るまでを手に伝わる感触で確かめて、美夜古は虚空から突如としてクロスグレイブを顕現。腰だめに構えてレバーを引き、至近距離の砲撃を敢行した。
エネルギー爆発が熱をもって広がり、玉座と高級そうな敷物を焼き焦がし黒い煙を上げていく。
直後、煙を破って現われる何者かの腕。他ならぬ石黒の腕である。
紅音の首をしっかりと握り、伴うように顔を近づける石黒。
再び見開かれる石黒の瞳孔に映ったのは紅音――と、その背より飛び出す二匹の霊犬であった。ほむらーんと蒼生は跳躍し、同時に六文銭射撃を開始。
石黒は目元を腕で覆って射撃をこらえるがそこまで含めて計算通り。
殺人的な眼光を放ち、闇から伸びた狼煙の手が石黒の後頭部を鷲づかみにした。
目の光りが弓弦の軌跡を描く。石黒の頭を掴んだまま強引に引きずり、振り回し、地面に叩き付ける。
振り上げた手には真っ黒なクロスグレイブが生まれ、『ごごん』というセーフティーロックの外れる音がした。
殴りつけること。杭を打ち出すこと。その二つを同時に行なえば必然大地が揺れ、階段がひき割れる。
胸に杭が貫通し、後頭部を陥没させた人間が生きているとは思えない。が、彼は都市伝説存在。サイキックエナジーが集合し生まれた伝奇のバケモノである。
自らの力で杭を引き抜くと、大きく空いた身体の穴から無数の赤黒い腕をはやした。
かんしゃくを起こした子供のように暴れ回る腕。
あたりの床という床を壁という壁を天井という天井を破壊しきり、立ち上がった石黒の姿は人間の形を逸脱していた。
例えるなら欲望のバケモノ。情欲のケダモノである。
大量の腕で編み上がった巨腕を振りかざし、スタンプアタックを仕掛けてくる。
それを受け止めたのは他ならぬヒトハであった。
カエルのぬいぐるみを強く抱きしめ身を縮めるが、彼の展開した影業が巨大なカエルの姿をとり、石黒の巨腕を受け止めていた。
否、黄色く変色した巨大なエネルギーリングがカエルとの間にはさまり、巨腕に対しカウンターヒールをしかけていたようだ。
ならばと反撃にでる優。
光り輝く義翼を複雑展開すると浮き上がった海里の援護射撃とあわせてレイザースラストを乱射。
赤黒い無数の腕とうねる翼がぶつかり合い、お互いを引きちぎり合っていく。
それらを、たったの一瞬で、ばっさりと切断するビハインド榛名。
水風船が割れるが如く、無数の赤黒い腕がはじけて散り、血まみれの石黒だけが残される。
誘はため息をつき、ポケットを二回叩いてから巨大な影業の弓を引っ張り出した。
更に二回叩いて矢を出して、つがえてみたして、ねらって射る。
それだけで石黒の片腕が吹き飛んでいく。
口笛をふきつつ、頭の後ろで手を組んだ瑠音が瞬間移動のように背後へ回り込んだ。くるりと身を転じ、後ろ回し蹴りで側頭部を爆発させる。
全身から赤黒い小さな腕を生やし、うぞうぞともがく石黒。
そんな彼に歩み寄り、にっこりと笑う夕霧。
まるで救いのように、しかし滅びのように、巨大なハンマーを生み出した。
「 」
唇が動いてなにかを言った。耳を喪失した石黒には聞こえなかった。
確かなことは三つだけ。
夕霧のハンマーが石黒を粉砕したこと。
足下の床をも粉砕したこと。
背後の壁をも粉砕したこと。
そして砕け散ったサイキックエナジーののこりかすを、狼煙がチョコレートでも噛み砕くように吸収した。
「……苦いな」
「って」
シリアスモードを解いて振り開ける紅音。
「なにをさらっと吸収してるのよ!」
エイティーンを解いてクール横ピースをする誘。
オチはない。このかわいさに免じて許して欲しい。
「ちゃんちゃん☆」
| 作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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