おふとん(冬仕様)

    作者:泰月

    ●とあるサラリーマンの独白
    「――あ? 何であの時の事なんか……まぁいいけどよ、信じないと思うぜ」
     突然掛かってきたスマートフォンを取ったサラリーマンは、くっきりとクマの残った目で冬の青空を一度見上げて、続きを語り出した。
    「あれは春先の、まだ少し寒い日の早朝だった。案件がずっとデスマーチで、終電と始発で行き来する日が続いてた頃だ。駅までの道の途中で、アレは突然現れた。アレは容赦なく俺に這い寄って来ると――覆い被さった? 俺は飲み込まれた?」
     自分で話ながら表現に困ったのか、リーマンは1人首を傾げる。
    「まあ、兎に角そんな感じで襲われた。で、気づいたら3日後だ。路上に倒れてるのを発見されたってわけだ。もっと? 質感とか? そうだな――」
     電話の向こうで話を促されたのか、リーマンは記憶を頼りに話を続ける。
    「――ってとこだ。思い出せるのはこれくらい。しかし春先でまだ良かった。冬にこんなのと出会ってたら、俺はきっと抜け出せな――」
     話が終わりかかったところで、リーマンの口が突如、固まった。
    「……と言うかだな……今思うと……何で抜け出せたのか不思議でしょうがない。何故かって? そんなの決まってるだろ」
     リーマンの口調に力が篭り出す。
    「寝心地最高なおふとんの中なんて最高の空間だぞ。そこから抜け出して、どうしてデスマーチなんてクソみたいな現実に戻れるってんだ! あのふとん連中に、ふとんから抜け出したくなくなる力でもあったなら――その方が俺は幸せだったんじゃないか? なぁ、どう思う?」
     なお、このサラリーマン、今も絶賛(別の)デスマーチ中だそうである。

    ●こうなるともう引きこもり製造機な気がしてならない件
     都市伝説を発生させるラジオウェーブの放送。
     今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)の調査によって、都市伝説を発生させるラジオウェーブの放送の新たなタイプが判明した。
     それは、過去に事件にあったが生き延びている一般人の元に電話がかかり、その体験談を話させるという聴取者参加型だ。
    「で、その体験談を元にした都市伝説の発生が確認できたんだけど……何でよりによってアレの再来なのかしらね」
     夏月・柊子(大学生エクスブレイン・dn0090)がちょっと遠い目になったアレとは、何年か前の春先に発生した、おふとん都市伝説だ。
    「まあ、巻き込まれた一般人の記憶があやふやなのは仕方ないんだけど……なんか変な方向に性質の違うものになっててね」
     おふとんの寝心地最高。
     あの中はぬくぬくの最高の空間だった。
     そんな体験談が、どうやら語られてしまったらしい。
     結果、どうなったかと言うと。
    「以前の様に、徹夜明けで望む必要はなくなったわ。眠そう、布団に入りたい。早朝にそんな演技で出現するようになった」
     早起きすれば良いだけ。
     その代わり、別の問題が生じた。
    「今回は中に入っても、特別な眠気は催さない。代わりに、『おふとんから抜け出したくなくなる』ようにさせる能力を持っているわ」
     冬の朝、暖かな布団の中から抜け出して目覚めるのを躊躇った事はないだろうか。あの感覚が増幅され、このおふとんを死守せねば――とか、そんな感じっぽいらしい。
     ぶっちゃけると、催眠です。
    「じゃあ中に入らないで戦えば――と言いたいところなんだけど、中に誰かがいると動かなくなるのは、一緒なのよねぇ」
     つまり、覆い被さられたり巻きつかれたり引っ張りこまれたり、しろと。
    「まあ、ふわもふで衝撃吸収するし、関節とかないから良く動くし。向こうの方から覆い被さるか、巻きつくか、引っ張り込むか、してくるし?」
     なお、今回もおふとんは8枚出現する。
     つまり、1人1おふとん――って人数足りる? 大丈夫?
    「成程。だから私も呼ばれたのか」
     得心が言った様子で頷いたのが、上泉・摩利矢(大学生神薙使い・dn0161)である。
    「心得た。寝る方でも起こす方でも、手を貸そう。だが1つ付け加えるなら――私は寝付きは良い方だと思うぞ!」
    「……ちゃんと判ってる?」
     無駄に力強く言い切った摩利矢に、柊子が不安そうな視線を向けていた。


    参加者
    刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)
    桜川・るりか(虹追い・d02990)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)
    フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)
    茶倉・紫月(影縫い・d35017)
    イミテンシル・ナイトフォード(白衣のバリスタ・d37427)
    菜々野菜野・菜々(七言のナナ・d37737)

    ■リプレイ

    ●奈良説と高知説あるそうです
     とある師走の早朝。
    「誰だ。早起きは三文の得なんて言い出した奴。睡眠時間減ってるぞ」
     全身から眠いぞオーラを発する茶倉・紫月(影縫い・d35017)が、そんな恨み節を溢していた。
    「ぬくい場所があったら寝られる……ほら、あの自販機裏とか」
    「そう言えば、自販機の裏は何度か使ったな。確かに、いい風除けになった」
     眠そうに視線を彷徨わせる紫月に頷いたのは、上泉・摩利矢(大学生神薙使い・dn0161)だった。まだ羅刹だった頃の逃亡生活の記憶だろうか。
     その時だった。
     大きな影が8つ、彼らの頭上に現れたのは。
    「出たね、おふとーん!」
     桜川・るりか(虹追い・d02990)が何とはなしに上げた声に応えるように、バサッと広がりふわもふアピールするおふとんず。
    「ふえぇ、またあのおふとんです。しかもこの季節に現れるなんて……」
     現れたおふとん達を見上げ、フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)が不安そうに小声で呟く。
    「今回も、無事に戦い抜く事が出来るでしょうか……自信ありません」
     似て非なるものの経験があるが故に、払拭できない不安もある。
    「確かに、いつかの以上に抜け出せる気がしないな……冬の布団、ふかふかもふもふなんで最強じゃないか」
    「しかも前のよりぱわーあっぷ? 寝心地も、きっとぐれーどあっぷしてるのよね?」
     ごくりと息を飲むエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)と、その隣で小首を傾げる葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)は、経験者その2と3である。
    「それはぜひ、確かめてみなくっちゃ……じゃなくて、きっとすごく危険だから、しっかり灼滅しなくちゃ、です!」
    「そうだね。恐ろしい都市伝説だ。ここで灼滅しないと、世界を危険に晒す事になる」
     ぐっと百花が小さく固めた拳を、エアンの手が上から握る。
    「成程、布団だな。ひとまず……どうするか」
    「そんなの決まってるわ」
     思案する刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)の呟きに、イミテンシル・ナイトフォード(白衣のバリスタ・d37427)が、迷わず返す。
    「とりあえずまずは布団に入って寝心地を確認よ」
     言い切るなり、おふとんに向かっていくイミテンシル。
     いやまあ、入れってエクスブレインも言ったけど?
    「問題は、入って出て来られるか。寝心地……と言うより居心地が良い布団か。巷で言われる『人をダメにするシリーズ』と言うべきか悩むところだな」
     渡里も入る事は否定しなかった。
     というか悩むとこそこですかね。他にないですかね。
     一方、おふとん達も動き出していた。
    「さぁ来い布団共」
     時計の針のような漆黒の剣を手に、仲間をかばうように進み出る紫月。
    「俺を安眠の彼方へ連れて行ってくれ」
     駄々漏れの寝る気を破邪の光で覆い隠して――おふとんの1つの中に飛び込んだ。
     中身を得たおふとんがこぢんまりとした事で、その向こうに居た別のおふとんが良く見えるようになる。
    (「あ! あれは…前から気になってたお布団?! 色もぴんくで可愛い……」)
    「えあんさん……もも、あのピンクのお布団、ちょびっと良く見て見る……」
    「って、もも!?」
     結果、気になるおふとんを見つけた百花はエアンの手を離れてふらふらと近寄り、もふっとおふとんの中に隠れた。
    「うわすっげぇぬくい」
    「わぁ……ひんやりしない……ぬくぬく~」
     そして、布団の中からあがるこの声である。
    「ふえぇ、早いよぅ……」
     早々に3人も飲まれて、頭を抱えるフリル。
    「な、何て強敵なんだろう! これは壮絶な戦いが待ち受けてるとしか思えない――ま、ボクはたぶん即お布団から出るよ」
     るりかがきりっとした顔で告げる。
     それ、我々の業界でフラグって言いませんかね?
    「布団蠢く、カオス光景。少し私の、好みだけれど、出られないのは、とっても困る」
     菜々野菜野・菜々(七言のナナ・d37737)は七に拘った独特の口調で呟くと、やおら傍らのナノナノを、がしりと掴んで。
    「だから予定変更。ナノに先に布団、楽しんでもらう」
    「ナノォォォォォ!?」
     ぶん投げられたナノナノを、おふとんはもふっと優しく受け止め包み込むのだった。

    ●ツッコミが足りない
    「この寒空の下で! おふとんに入ってしまったら! 2度と、出て来れないような気がします!」
     フリルは、頑張っていた。
     覆いかぶさろうするおふとんを、獣化させた腕の一撃で振り払い、巻きつき、引っ張り込もうとするおふとんを避ける。
     でも、フリルほど頑張ってる方が少なかったりした。
    「ぬくぬく……ここは天国ですぅ……zzz」
     すっぽりとおふとんの中に収まり、顔だけ出したイミテンシルが寝息を立てる。
    「とりゃー。じゃーんぷ」
     るりかさん、なんで自ら飛び込んでんですかね。
    「それほど、強くないみたいだし、寝心地を確かめるのも……」
     渡里、お前もか。
    「えあんさ~ん……はやく~。この中、ぬくぬくよ~」
    「やっぱり危険……もも、今出して――うわっ」
     おふとんの中から、語尾にハートが見えそうな笑顔で手招きする百花。助けようと気を取られたエアンの背後から、おふとんが覆いかぶさろうと――。
    「えあんさん……っっ!」
     その瞬間、百花は最後の力と正気を振り絞って、おふとんごと飛び出した。
    「え、ちょ、布団合体だと!? ……あー……なんだろう、2倍暖かい気がする。これは気持ち良い」
     どうなったかと言うと、エアンと百花の上に2枚の布団と言う状況になった。
     どうしてこうなった。
    「み、皆さん、冬眠注意――ぁ」
     標識を掲げようとしたフリルが、おふとんの中に引っ張り込まれる。
    「ふえぇ、ゆ、油断しました。捕まってしまいました」
     ついにフリルもおふとんの中に陥ちた。
     同時に、動くおふとんもいなくなった。
    「起こした方がいいよな」
    「空いたらぼくも入らせてください」
     摩利矢が風を招いて吹き渡らせ、サポートに来た李白・御理もそれ合わせる。爽やかだが、冬の冷たさをはらんだ風が、ふとんから出る皆の顔や手足を吹き抜けた。
    「出たくないぃ……もうお布団さんと結婚するのぉ……お嫁さんになるのぉ……」
    「引きこもらせろ出たくないここで暮らす。ノー布団ノーライフ。布団のない人生なんて有り得ない」
     イミテンシルはおふとんにしがみ付き、紫月はおふとんの中に頭まで潜り込む。
    「このお布団、何でできてんのかなあ。羽毛かな? 噂の温かい繊維かなー」
     るりかはぬくぬくおふとんの中で、中からむにむに引っ張りぽふぽふ叩いたりして何か調べている。
    「ああ、くつろぐ。こたつと違って、暑くなり過ぎず程よい暖かさで……天国だな。冬山縦走してたら絶対に出られないな、コレ」
     渡里はしみじみと、中からおふとん分析中。冬山違うよ、ここ街中。
    「ぜったい離れないんだもん」
    「……うん、離れたくなくなるね。この中を我が家としてもいいかもしれない。二人でずっと、ごろごろ出来るなら……」
    「うん。ももも、もうこの中がお家でもいい。おふとんのお家で、えあんさんとずっところころして居たい」
     おふとんの中で、しっかりと手を握り合う百花とエアンは――ご覧の通りのらぶらぶ具合だった。
     何と言うか、新婚さんおめでとう!
     だけどそこ、自宅じゃねえからな!?
    「ふぁ……体がじんわりと温かくなってきます」
     いつの間にかおふとんの中でパジャマ姿になっているフリルの足元、おふとんの外には脱いだ靴が綺麗に揃えて置かれている。
     それぞれのおふとんの中から、ヒールサイキックの光が時折零れている。
    「どーするんだ、これ。誰から手をつければ」
     それを困った風に眺める、摩利矢と霊犬とウイングキャット。
    「仕方がないね」
     1つ頷いて、菜々が蝋燭を掲げる。
    「布団燃やすけど。中の人やナノは、たぶん無事だね。がんばれ」
     菜々が蝋燭を向けたのは、小さい何かが中でもがいているらしいおふとん。
     放たれた赤く揺らめく炎の花が、蠢くおふとんに燃え移る。
    「ナナナナナナナ!?」
     燃え盛り蠢くおふとんの中から、聞こえるナノナノの声。
    「炎上布団の御話?」
     菜々はそう言うが、炎はがっちりおふとんで遮られ、中まで届いていない。
     それでも自分の周りが燃えているのは判るようで、もがく動きが激しくなってきた。
    「ナーノー!」
     やがて、半ば燃え尽きたおふとんをたつまきで突き破って、涙目になったナノが煤に塗れて飛び出してきた。

    ●やはり引きこもり製造機だったか
    「眠くなる布団も素敵だけど、このぬくい感じで抜けられない感覚がこう何とも言えないんだよね。でも朝だ。バイバイ、おふとん!」
     実はおふとんの中で自分をオーラで癒していたるりかが、おふとん脱出。
    「そうだな。都市伝説だし、そろそろ倒さないと……でも、居心地がよすぎる、サフィアも……じゃなくて」
     渡里も出ようとするのだが、手招きしかけた霊犬サフィアに魂を癒す視線を向けられても、後一歩が。体が中々おふとんから出て行かない。
    「魔利矢、布団剥ぐのを手伝ってくれ」
    「わかった」
     頷いた摩利矢の拳が巨大な鬼のそれに変わっていく。
    (「やっぱ手加減なかったか」)
     鬼の拳でおふとんごと殴り飛ばされた屋根より高い空中で、胸中で呟く渡里。
    「起きてー。戦闘中だよー。これで起きないと、炎とかグーパンだよー」
     仲間のいるおふとんをゆさゆさしつつ、るりかは風を招いて吹き渡らせる。
    「不本意ながら……ぐーで引っぺがしていいわ」
     今の自分とおふとんの状態を冷静に考えて、その方が早いと判断したイミテンシルもまた、摩利矢の鬼の拳でおふとんごと吹っ飛ばされた。
    「……ん、リアンも。ありがとう、助かった」
     るりかの風と猫のリングからの光のお陰で、エアンは何とか自力で這い出てくる。
    「少しぼーっとするけど、大丈夫。ももは?」
    「うん……だいじょぶ」
     少し残念そうな百花も、手を引かれておふとんの外に。
    「起きなさい、学校遅刻するわよ」
    「遅刻……遅刻はいけないですね」
     お母さんっぽく起こそうとしてみたイミテンシルの言葉が効いて、現役中学生なフリルもおふとんから頑張って出てくる。
     続々と復活する、灼滅者達。
     だが、布団から出る気が全くなさそうな猛者もいた。
    「まだ寝てられて羨ましいとは思っていないぞ」
    「遠慮なくばんばんするがいい」
     エアンの杭の一撃が入っている布団に叩き込まれてもそう言い切る、紫月である。
    「どうしよう。食べ物で釣ってみる? お肉かな?」
    「もっといいものがある。しーちゃん先輩は、任せて」
     どうしようかと思案したるりかを制して、水燈・紗夜がおふとんの前に。
    「しーちゃん先輩。これなんだ?」
     取り出したのは、まだ霜がついた冷たい袋。
    「そ、それは……俺のチョコミント……チョコミント……!」
    「早く起きてこないと、冷蔵庫の中から持ってきたの全部、食べちゃうよ?」
     だらけていた紫月の目がくわっと見開かれ、おふとんから手が伸び――すすすっと手が届かない程度に下がって、紗夜はチョコミントアイスを開封、もぐもぐ。
    「っ! ! っ!? やめてください――やめろください」
     声にならない叫びを上げて、紫月がぷるぷる震える腕を伸ばす。そんな2人の頭上で、ばさっとおふとんが広がった。
    「ん? 数が少ない……って、いつの間に」
     迎撃しようとして、おふとんの数に疑問を抱いた渡里は、おふとんに包み込まれている御理を見つけた。
    「ぼくが、この催眠受け止め……くぅ」
    「ま、いいか」
     その表情は、実に幸せそうだったし、困ることもなし。しばしそのままにしておく事にした。
    「おやすみなさい。ナノがんばって」
     別のおふとんには、菜々が飛び込んでいた。
    「布団の寝心地は、確めてみたいし。眠気に抗う時間、もったいないし」
     誰に向けてでもなく、変わらぬ独特の口調で告げる菜々。
    「12月で寒いし。お布団暖かいし。なにより寝たい。おやすみなさい」
     そしてスヤっと寝落ちた。

    ●そして、1日が始まる
     包まれたり起きたり、起こされたりまた入ったり。
     そんな攻防を繰り広げる内に、おふとんは残り2枚にまで減っていた。
     そして――。
    「俺のチョコミントアイス……やっぱり三文の得ないじゃないか。布団め」
     若干八つ当たりじみてるような気がしないでもない事を言い放ち、紫月が鋏を操りおふとんに突き立て、切り裂き、その欠片を刃に喰らわせる。
    「誰もいないので、遠慮なく燃やす」
     菜々の蝋燭から再び放たれる、赤く揺らめく炎の花。
    「おふとんさんにも悪夢を見させてあげます!」
     フリルの影が膨れ上がり、炎上するおふとんを飲み込んで、ぎゅっと縮まった。
    「布団が、吹っ飛んだぁ!」
     使い古された駄洒落を叫びつつ、イミテンシルが振るった斬艦刀は、その言葉通りに影ごとおふとんを吹っ飛ばした。
    「しかし、この寒さで温かくて居心地が良いって罠以外あり得ないと思う……って、都市伝説は罠みたいなもんか」
     渡里の鋼の糸がおふとんの動きを縫い止め、サフィアが咥えた刃を突き立てる。
    「ホント、都市伝説なのが色々と惜しい限り。不眠で悩む人もこれでスヤァ出来る! だったら有効活用できそうなのにねー」
     るりかが惜しみつつオーラを纏わせた拳を何度も叩き込む。
    「いくよ、もも」
     胸元で蒼い軌跡を描くほどの高速で滑り込んだエアンが、おふとんの裾を斬り落とす。
    「まかせて、えあんさん。リアンもね」
     黒と紫で彩られたドレスを翻し、百花が奏でるギターの音の衝撃と猫魔法がおふとんを直撃。漏れ出た中身と、おふとんが消えていく。
    「何とか……何とかなりましたね」
     周りを見回し、動いているおふとんがいない事を確認して、フリルはほっと安堵の息を漏らした。
     途中は割とぐだぐだだった気もするけど、終わり良ければ、うん。
    「戻ったら二度寝しよ……さっさと魅惑のふかふかに包まれたい」
     欠伸を噛み殺し、歩き出す紫月。
     それは二度寝なのか、不貞寝なのか。
    「何かぬくぬくだらーってしてたせいか、お腹空いてきた。焼き芋でも買って食べて帰ろうっと」
    「そう言えば私も朝食まだね。どこかモーニングやってるカフェあるかしら?」
     るりかとイミテンシルは、街の方へと歩き出した。
     睡眠欲が満たされれば、食欲となるのも致し方なし。人間そう言うものだ。
    「……えあんさん、お家のお布団とラグも……もふもふに新調しましょ? もふもふ、リアンも好きよね?」
     羽猫を撫でながら、百花はエアンを見上げて。
    「でもって……ころころの続きをしましょ」
    「そうだな。お昼になったら、買い物に行こうか」
     きっと2人は、いつも通りにらぶらぶな1日を過ごすのだろう。
    「さて、私達も帰――ん?」
     何かに気づいた摩利矢が、頭上を見上げる。
    「……道理で冷えるわけだ」
     冷たい冬の朝の風の中に、ちらほらと白いものが舞っているのに気づいて、渡里が思わず襟を立てる。
    「すっかり冬だね」
     風花と呼ぶにも少ない、おそらく数分で止みそうな雪の欠片を目で追って、菜々はそう呟いた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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