巨大スサノオ体内戦~忠に生きる怪人たち

    作者:雪神あゆた

     こだまする慟哭の声が、異形の者たちの耳に届く。
     ここは巨大スサノオの体内。
     体内に侵入した異形――アフリカンパンサーに従う怪人たちの目の前には、白い塊。
     それは、スサノオの体を構成する力の塊だった。怪人達のゆくてを塞いでいる。
    「ラクダンサー様、お願いします」
     ペナント頭の配下怪人達の言葉に、リーダ格にしてラクダの頭の、怪人ラクダンサーは、
    「任せておけ、こんなの楽だ、楽ちんだ!」
     目の前の力の塊に跳びかかる。
    「砂漠を渡るひづめキーーックッ!」
     足と手を力の塊に叩きつける。轟音。砕け、はじけとぶ力の塊。
     ラクダンサーはさらに、殴り、蹴り、ビームを放ち、塊に穴をあける。スサノオの体内に道が切りひらかれていく。
    「ハッハ、楽勝! さあ進もう、配下たち。そしてスサノオの力を手に入れるのだ、全てはグローバルジャスティス様の為に」
     穴を掘りつづけるラクダンサーに、配下怪人たちは声をそろえ、
    「「グローバルジャスティス様の為に!」」

     学園の教室で、姫子は説明を開始する。
    「群馬密林での戦い、お疲れさまでした。
     この戦いでナミダ姫を灼滅した結果、群馬密林でスサノオ大神の力が暴走しているようです。
     暴走した力から、群馬密林に15体の巨大スサノオが出現しました。
     巨大スサノオは全長100m近い巨体。けれど悲しそうに慟哭するだけで、その場から移動しませんし、攻撃する事もありません。放置していても、数か月後には力を失って消滅すると思われます。
     が、問題があります。
     このスサノオの力を奪うために、ダークネス達が動き出しているのです。
     ダークネス達は、巨大スサノオの体内に侵入、中枢を破壊し力を奪おうとしています。
     皆さんには、ダークネスが侵入した経路から巨大スサノオ内部に侵入、侵入したダークネスを撃破した後、その中枢を破壊して、巨大スサノオの力を他のダークネスが使用できないようにして欲しいのです」

     灼滅者の顔を見つめ、姫子は続ける。
    「ここにいる皆さんに撃破してほしいのは、ご当地怪人ラクダンサーとその配下たち。彼らはアフリカンパンサーに従うご当地怪人です」
     グローバルジャスティスへの忠誠心に溢れた彼らが、スサノオの力を手にしようとしている。これは止めねばならないと姫子は険しい顔。
    「彼らは、道を切りひらきつつ体内を進んでいます。後を追うのは容易でしょう」
     しかし、追えば当然、敵に気づかれる。故に奇襲などは行えない。真っ向勝負することになる。
    「敵のリーダーは、人の胴体に、ラクダの頭が生えた怪人・ラクダンサー」
     ラクダンサーはご当地ヒーローのサイキックと、バトルオーラに相当するサイキック、計六種の技を使いこなす。
     特にご当地キックを得意とし、戦闘では、クラッシャーとして勇敢に戦う。
     配下の怪人は五体。皆、ペナント頭のペナント怪人だ。ディフェンダーとしてラクダンサーの護衛を担当。
     配下怪人もご当地ヒーローの三つのサイキックを使ってくる他、近単神秘のヒールサイキックも使う。
    「ラクダンサーはそれなりの実力の持ち主ですし、配下怪人も決して弱くはありません。皆さんなら勝てると思いますが、油断せず作戦を立て、全力で挑んでくださいね」

     一通りの説明を終え、姫子は、
    「スサノオの姫ナミダの灼滅に成功したのは、予想外の大戦果。
     けれど、スサノオの力を他勢力に奪われれば、勝利に水を差すことになるでしょう。
     ナミダ姫自身も、自分の力が他のダークネス組織に奪われるなど望んでいない筈。
     スサノオの力を奪おうとするダークネスを倒し、スサノオの力を地に返してあげてください」
     深々と頭を下げ、戦場に向かう灼滅者を見送るのだった。


    参加者
    四月一日・いろは(百魔絢爛・d03805)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)
    篠崎・伊織(鬼太鼓・d36261)

    ■リプレイ

    ●巨獣の中での遭遇
     スサノオの慟哭が、白い洞窟の中を反響する。
     巨大スサノオの体内を、学園の灼滅者八名は進んでいた。
     撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)と四月一日・いろは(百魔絢爛・d03805)は足を止める。
     二人の赤と金の瞳が、前方に異形達の姿――ご当地怪人達六体の姿を捉えたのだ。
    「やれ力の類が野に転がってるぞと来りゃァ、揃いも揃ってワラワラと――まるで砂糖にたかる蟻の行列でござんすね。持って行かせやしやせんぜ」
    「時遡十二氏征夷東春家序列肆位四月一日伊呂波。砂漠の舞い手に尋常に勝負を挑もう」
     式神刀『神憑』を抜刀する娑婆蔵、いろはの手には『聖堂剣【黒と白の世界】』の柄。
     月姫・舞(炊事場の主・d20689)も手にした影の布を揺らしつつ、娑婆蔵といろはに並ぶ。
    「スサノオの完全無力化までもう少しです。ばっちり決めていきましょう。いろはさん、団長、よろしくお願いしますね」
     信頼の籠った声で告げながら、敵への一歩を踏み出す舞。
     怪人達は灼滅者に顔を向けていた。眼差しには、警戒と敵意。
     黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)は怪人達に、黒と白の大鎌を突き付けた。先端にともる焔。
    「さぁ……断罪の時間ですの!」
     白雛の炎と声を契機に、灼滅者八人が動き出す。

    ●怪人の忠と、灼滅者の意志と
     怪人達もまた灼滅者へ駆けだしてくる。
     ペナー! と甲高い声をあげ、頭部のペナントを振るペナント怪人五体。両腕を顔の高さに構え、前進してくるラクダ頭のラクダンサー。
     七瀬・悠里(トゥマーンクルィーサ・d23155)は怪人に問う。
    「そーいや、大地の精髄とか狙ってるんだっけ? 今回のスサノオもその一環か?」
     陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)は溜息交じりに抗議。
    「ご当地も火事場泥棒が好きな事で。こんな時くらい静かにしといてくれないかな? せっかく一つの事が終わったんだ。最期くらいしんみり終わらせてよ」
     ラクダンサーは走ったまま、悠里と鳳花を睨んでくる。
    「お前達の言葉に答えるのは楽なこと。即ち――全ては、グローバルジャスティス様の為に!」
     強く踏み切り、跳躍するラクダンサー。
    「アフリカンパンサーが配下、ラクダンサー参る!」
     次の瞬間には、鳳花の顔に蹴りが刺さる。
     着地し追撃しようとするラクダンサー、鳳花を囲もうとするペナント怪人。
     すかさず、悠里は九字を切る。縁に文様の刻まれた懐中時計を光らせ、九眼天呪法を行使。悠里の力が怪人どもを怯ませる。
     鳳花は、ウイングキャット『猫』の支援を受け、体勢を立て直す。口を開いた。紡ぐ聖歌。クロスグレイブから、砲撃!
     その轟音が止まないうちに、黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)は敵群に飛び込んだ。
     柘榴は敵の只中でライフルの引き金に指をかけた。円盤状の光を射撃。怪人どもを薙ぎ払う。
    「ここで、きれいさっぱり終わりにするよ!」
     柘榴の檄に、
    「ああ――奪われる前に、止める!」
     篠崎・伊織(鬼太鼓・d36261)が応えた。
     伊織は装着した赤鬼の面越しに敵を見据え、『雷天轟刃』の切っ先を突き出す。迸らせた殺気で敵の群れを覆う。ペナント怪人達からあがる悲鳴。

     次々に攻撃し、敵を負傷させる灼滅者。
     白雛も、
    「ここで畳みかけますの!」
     と、クロスグレイブの砲門を開く。砲門から光線、光線、光線! 光線の乱射で敵の二体を麻痺させる。
     いろはは自身の足と腕とに視線をやっていたが、白雛に呼応し走る。敵との距離を一気に詰めた。
     そして閃かせる殺戮帯【血染白雪】。ペナント怪人の胸を貫いた。
     戦いの中で、いろはは問う。
    「一つ聞かせてほしい。キミ達は、スサノオの力を何に使うつもりなのかな?」
    「もう一度言おう、全てはグローバルジャスティス様の為に! 喰らえ、全てを悠久の砂漠に投げ入れる、ラク・ダイナミック!」
     ラクダンサーは答えるや否や、いろはに手を伸ばしてくる。
     いろはは腕を掴まれ、投げられてしまう。白い床に叩きつけられるいろは。
     ペナント怪人達も、いろはへ殺到。彼らの前に、白雛が立ちはだかる。いろはを狙った蹴りを、己の体で止める白雛。
     傷つく二人。が、
    「好きにはさせません!」
     舞が、交通標識を掲げる。イエローサインで、二人の傷と痛みをけしていった。
     舞は戦場に視線を走らせた。さきほどいろはが一撃を加えた一体が、胸から血を流している。瀕死だ。
     舞は娑婆蔵にアイコンタクト。ディフェンダーの二人が敵の注意を引き付けている今のうちに、攻撃を、と。
     娑婆蔵は舞の視線を受け、傷ついた怪人へ体を向ける。そして、
    「申し遅れやした。我流剣、姓は撫桐名は娑婆蔵、心の郷里の砂丘ごと! 十万億土の彼方まで根こそぎ撫で斬りにしてやりまさァ!」
     堂々の名乗りと宣言。そして、娑婆蔵は片足を半歩前に。片手の日本刀でペナント怪人の腕を払いのけ、式神刀『神憑』で肌を抉る。飛び散る血、敵の倒れる音。

    ●激戦の末に
     灼滅者たちはディフェンダー三名と一体、メディック一人の、強固な陣形で戦線を維持し、反撃していく。
     しかし、敵の守りも堅い。そのうえ、ラクダンサーの技は一発一発が侮れない威力を持つ。
     娑婆蔵は独りごちる。
    「堅い守り……なら、真っ向からぶつかって、穴をあけるまででござんすねェ……参りやす!」
     娑婆蔵は腕を振る。その腕が見えぬほど早く。一閃、二閃、三閃……硬軟自在の刃による斬撃の嵐。
     攻撃を放ち続ける娑婆蔵の前で、一体がひときわ大きく悲鳴をあげた。
     いろはは姿勢を低くし、疾走する。
    「やはりキミ達は強敵だよ、士気高く強力なカリスマが居る組織は、攻め難いからね。だからこそ、出来たは穴は見逃さない。一気に行くよ!」
     いろはの移動を阻止せんとラクダンサーの光線が襲ってくる。しかしいろはは止まらない、傷ついた一体へ接近。
     いろはは聖堂剣【黒と白の世界】を抜刀、横凪にクルセイドスラッシュ。ペナント怪人の胴を両断!

     怪人計二体を倒した灼滅者は勢いにのった。列攻撃を多用し、傷ついた敵へ集中攻撃。灼滅者は作戦と力で、さらに一人のペナント怪人を撃破する。
     柘榴は残る三体のダークネス、ペナント怪人二体とラクダンサーを見ていた。その目にあるのは、ダークネスへの殺意。
     ペナント怪人二体は腕を広げていた。回復の技を使おうとしている。敵が技を使うより早く、柘榴は杖で空中に五芒星を描いた。
     柘榴の力によって、気温が急激に低下。
    「「さ、寒いっ」」
     柘榴の技が、既に負傷していたペナント怪人二体を凍えさせ、命を奪いとる。
    「白雛ちゃん、後は、そいつだけだよっ」
    「ええ、後は一体を絶殺するだけ――ご当地怪人ラクダンサー、その闇に裁きを!!」
     柘榴の声を受け、白雛は、『罪救炎鎌ブレイズメシア』を振り上げる。黒い炎を点し――斬! ラクダンサーの長い首めがけ、渾身の一撃。
     手ごたえはあった。が、ラクダンサーは、
    「実に恐ろしい一撃だ。だが――ハハハハッ!」
     笑い出す。痛みで混乱しているのか?
     注意深く状況を見ていた舞は、はっとして目を見開く。
    「違う――黒嬢さん、気を付けて!」
     次の瞬間には、白雛の顎に、ラクダンサーの爪先がぶつかる。蹴りを放ってきたのだ。強い衝撃。仰向けに倒れる白雛。
     舞は白雛に駆け寄る。『黒影布』によるラビリンスアーマーで白雛を治療。舞は皆へ警戒を促す。
    「油断しないでください……今の蹴りの威力は、さっきまでより強くなっています。それに傷口も塞がっています!」
     舞の言葉通り、ラクダンサーの体から傷が消えつつある。
    「確かに痛みが引いて楽だ……これがスサノオの力か!」
     ラクダンサーは自信にあふれた声で言うと、今度は光線を放ってくる。
     鳳花は猫と共に戦場を走る。光線を体で止める。
     次の一分後には、猫が敵の投げを受けた。
     攻撃を受けながら、必死にリングを光らせる猫。鳳花も被弾しつつも、一歩たりともさがらない。
    「回復したとしても、パワーアップしたとしても……邪魔をするというんなら、片づけないとね」
     回復を猫や仲間に任せ、自身は十字架を振る。猫を投げ飛ばしたばかりの敵の背中を強打!
    「や、やるな、さすがは灼滅者……だが、スサノオの力で耐えてみせるっ。楽には勝てなくても、負けるものかっ」
     己をスサノオの力で回復させるラクダンサーに、
    「回復は厄介。ならば――」
    「それ以上のダメージを与えてやるぜ!」
     伊織と悠里が迫る。
     伊織は息を止めた。『雷天轟刃』でラクダンサーの肌を大きく切り裂く。肉体と防御を共に損傷させるティアーズリッパー。
     間髪入れず、悠里が『mysterious*time』を掲げた。赤い逆十字を召喚。
     防御の弱まったラクダンサーの左胸を、悠里は逆十字で刺す。
     ラクダンサーは両膝をつき――そして完全に沈黙。伊織と悠里の連携技が、敵を絶命させたのだ。

    ●獣を大地へ
     敵の消滅を確認し、伊織は赤鬼の面をずらした。
     あらわになった左目で、伊織は前方を塞ぐ力の塊を見る。
    「さあ、あとは壊すだけだねー」
     戦闘時とは一転のんびりした伊織の声。そして伊織は中枢への道を開くべく力の塊に切りかかる。攻撃で穴を掘るようにして、スサノオの体内を進む。
     同じく体内を掘り進めながら、悠里は呟く。
    「スサノオとの戦争はなくなったみたいだけど、もし戦うことになってたら、これだけの力を相手にしないといけなかったってことなんだよな……他の敵もこのくらいの力を……」
     悠里の声の直後に、スサノオの叫び声が、また響いた。
     やがて、灼滅者たちは、スサノオの力がひときわ濃厚に感じられる場所へたどり着く。
     鳳花は周囲を観察する。おそらくは、この場所こそが中枢だ。
     鳳花はしばらく仲間たちとそこを調べ、或いはスサノオに話しかける。だが、
    「スサノオから返答はないし、記憶も探れそうにないみたいだね。なら……ナミダ姫、これがボクなりの手向けだよ。スサノオの力、大地に還す。これで全て、終わりだ」
     鳳花の合図ともに、八人は、中枢の力の塊へ、一斉攻撃。
     柘榴も杖を振り、フォースブレイク。柘榴たちの攻撃が当たり――ゴゴゴゴゴ……ッ、激しい音。スサノオの体が、崩壊しつつあるのだ。
     灼滅者たちは、出口へと走り出す。
    「スサノオの力もきっちり潰せたし、ボク達とスサノオ勢力との戦いも、これで本当に終わりだね」
     柘榴の言葉に、頷く仲間。
     ご当地怪人の野望を阻止し、巨大スサノオの破壊に成功した灼滅者は、成果を学園の仲間に伝えるべく、走り続けるのだった。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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