クリスマス2017~ヤドリギの祝福を、ふたりに

    作者:朝比奈万理

     カラフルな季節も終わり、モノクロの気配が世界を包む12月。
     だけど街中にはクリスマスソングの華やかな、楽しそうな、優しいメロディがあふれ、鮮やかな赤、深い緑、そして清らかな白が世界を飾る。
     人々もどこかワクワクしながら、その日を待ち遠しく思う。

     今は深緑の学園の伝説の木も、とびっきりのお洒落をしたら綺麗だろうな。と微笑みながら楽しそうにクリスマスソングをハミングしている千曲・花近(信濃の花唄い・dn0217)。肩からは3段の脚立を担ぎ、お団子頭の少女――浅間・千星(星詠みエクスブレイン・dn0233)の背を追っていた。
     いい所にいたな。よし、手伝え! と脚立係を任されたのは、ついさっきのこと。
     千星の腕には大きな紙袋が下がり、黄緑の葉と白い実を付けた枝が抱かれている。
    「ねえ、千星ちゃん。その子たちって、ヤドリギ?」
     花近が小走りで彼女の隣まで歩を進めると、赤いリボンで綺麗にまとめられていることも分かった。

     ヤドリギは、ケルト神話や北欧神話では幸福、安全、幸運をもたらす非常に縁起の良い聖なる木。
     人々はクリスマスにヤドリギの小枝の吊るし、その下を通るときに幸福や安全、幸運を願っていた。
     ヤドリギには様々な伝説があるが、クリスマスにちなむものもある。
     ――クリスマスの季節にヤドリギの下にいる人は、キスを拒むことができない――。
     この言い伝えの発展形が、『ヤドリギの下でキスをするとヤドリギの祝福を受けられ、永遠に結ばれる』というもの。

     去年のクリスマスでは伝説の木の低い場所に下げられ、数多くの幸せを見届けたヤドリギだったが、今年は少し趣向を変えるということで。
    「プレゼントとキスを交換するのは去年と一緒なのだが……下げる場所多数設けることになったようで。場所を決めてついでに下げてきてくれと頼まれてしまってな……」
     ヤドリギの枝の束を十数束と脚立を任され、さて、どうしたものか。メイン会場近くにすべてを分散させるか。とうさぎのパペットと顔を見合わせて軽く途方に暮れているときに、偶々見かけた男子に声を掛けた。とは千星の談。
     困ったように笑っているが、ヤドリギに落とす眼差しは、とても柔い。
    「あー、それは困ったねぇ」
     同じように笑い、花近が考えること。
     それは、この枝の下で愛を確かめ合い、この枝の下で愛を育む、名も顔も知らない誰かと誰かのこと。
     誰かと誰かは、伝説の木のクリスマスツリーからも祝福をいただける、光に包まれた場所で愛を確かめるかもしれない。
     誰かと誰かは、賑やかさを少し遠巻きにして、クリスマスツリーやイルミネーションの光を見つめるかもしれない。
     誰かと誰かは、賑やかさから離れて、青空と星々に見守られながら、静かな二人だけの時間を慈しむかもしれない。
    「……その子たち下げる場所、こういうとこって、ありかな……?」
     花近のつぶやきに耳を傾けた千星の表情が、ぱっと明るくなる。
    「雰囲気の異なる場所か。人の好みは千差万別、多種多様、十人十色。伝えたい思いや愛だって、様々だ。いいな、それ! 採用!」
     花近をびしっと指差したのはうさぎのパペット。彼女をそっと下げた千星は、柔らかな笑みで。
    「各々の場所で、各々の贈り物にキス。そして生まれ育まれる各々の愛情。このヤドリギたちは色々な愛の形を見届けることになるのだな」
     髪飾りを揺らした花近もまた、優しい笑顔。
    「幸福や幸運、祝福が、みんなに降り注ぐといいね」

     ヤドリギの花言葉は、『わたしにキスして』。
     光に包まれた場所で、賑やかさから少し離れた場所で、そして、空に一番近い場所で。
     クリスマスイヴのその日。氷雪の中でも緑をたたえるヤドリギは、自分の下で出会うふたりを祝福する――。


    ■リプレイ

    ●Daytime
     陽の光と共鳴するように輝くイルミネーションに目を細めた澪音。名を呼ばれて振り返ると駆けてくる広樹の姿。
    「すまない、遅くなった」
     微笑みあう二人頬は心なしか赤い。
    「今日は楽しい一日にしよう」
     と広樹が差し出したのは小さな箱。中身は雪の決勝が煌くストラップ。
    「気に入って貰えるか解らないが、受け取ってくれるだろうか」
    「素敵! ありがとう」
     喜びのあまり思わず抱き着いてしまうけど、ふっと我に返り顔を赤らめる澪音。だけど。
    「これから先も……一緒に過ごしたいな」
     それは心からの言葉。そのまま彼の頬に口づけた澪音に、
    「……オレも同じ気持ちだ」
     今度は広樹が口づけを贈る番。

    「みかん様、おまたせしましたで……あ、あの、こちらプレゼントです」
     みかんの待つ瓦斯灯下まで到着するなり愛浩は、自分を見つめ続ける彼女の大胆な衣装に顔を赤らめ目を逸らし、早速と贈り物を差し出した。
     それは可愛らしい二対のリボン。
    「喜んでいただけるといい――」
    「愛浩くん、大好きなのよぅ♪」
     彼が言い終わる前に感激のあまりぎゅっとみかんが抱きつけば、
    「はい、わたくしもみかん様を愛しているでございます」
     彼女を受け入れそっと目を閉じた愛浩。間もなく、みかんの柔らかな唇が、触れた。

     賑やかな場所も好きだが、ふたりだけの時間は静かな場所で。
     ツリーを遠巻きに武流とメイニーヒルトも合流する。
    「武流、これ」
     とメイニーヒルトが差し出した贈り物は指輪。
     それを見て小さく驚いた武流も指輪を用意していた。
     金に輝く指輪は、春に巣立つ彼女への祝福と、
    「もう少しだけ、待っててくれよな」
     結婚の約束の証。
     ふたりは自然に向かい合って見つめ合う。
     逞しくはあっても彼が気にしている子供っぽさは、いづれ次世代を大きく育んでくれる。
     彼女から見れば子供かも知れないけど。武流は真っ直ぐに彼女を見つめた。
    「メイニーに似合うような男になるから」
     これは約束の口づけ。

    「アンリくーん、ここ、ここっ!」
     ベンチから立ち上がり、嬉しそうに手を振る沙耶々の笑顔にアンリも思わずつられ笑い。そして差し出したのは、彼女の髪に似合う細身のネックレス。
    「私がつけてあげるね。ほら、近づいて……」
     言われるままに小さく頭を下げた沙耶々。さらりとした気障な台詞と仕草の彼が誇らしい。
     だからお返しは突然を狙う。
     アンリに居直った瞬間、沙耶々は彼の唇に温もりの証を刻む。
    「ねぇ、来年は私たち……」
     18歳の年。そろそろ未来を見据えていこうか――。

     青空の元、屋上の手すりに寄りかかり待ち人を待つ式の元に現れたのは、菜々。
    「待ったっすか?」
    「全然待ってないよ」
     式は小さく首を振ってみせると、菜々は少し安心したように笑んで。
    「はい、プレゼントっすよ」
     差し出したのは、手編みのニット帽。
    「気に入ってくれるといいんすけど」
     小さくつぶやいた菜々に式は小さく頷いた。彼女からの贈り物なら、何でも嬉しい。
    「ありがとう。もうちょっと、こっち寄って」
     冬の風に式のロングコートが揺れる。式はその中に菜々を包み込んで、優しくキスを落として抱きしめる。
    「……もう少し、このままでいていいっすか?」
     菜々の呟きは、彼女をさらに温めた。

     リアナにとって玲那は放っておけない後輩。自分と共通点があって気にかけていた。
     そんな彼女に誘われて、小さく弾む心を白い息に変えて空を眺めていた。
     一方の玲那は迷いの表情を浮かべていた。
     理から外れかけた私で、本当にいいのだろうか――。
     それでも責は果たさねば。玲那は彼女に近づき声を掛けると、そわそわしながらラッピングが施された青い箱を差し出した。
    「あの、これプレゼントです」
    「大切にしますね。それじゃあ、お返し……しなきゃですね」
     リアナは受け取ると、玲那に屈むようにジェスチャー。少しだけ身長が近くなった彼女に目を閉じるよう告げ、
    「お返しです」
     と頬に親愛のキスを落とした。

    ●Twilight
    「千尋、待たせてゴメン。寒くなかった?」
     瓦斯灯にも火が入り。
     徒は彼女の前に立ち小さな小箱を取り出す。中身はバイカラークォーツのネックレス。
    「受け取って、くれるかな」
    「ありがとう……大切にするよ!」
     嬉しそうに自分の首にネックレスを付けた千尋は、過去の出来事から人と一線を引いて付き合ってきた。
     そんな彼女の心にごく自然に入ってきたのが彼だった。
    「徒先輩、大好きだよ。ずっと、あたしの側にいてほしいよ」
     千尋は柔らかな笑みを徒に向けた。
     こんな彼女の表情を知っているのは、徒だけ。
     だからこそ――。
    「ずっと君の側で君を護るよ。千尋、愛してる」
     言葉を交わし身体を寄せあった二人は、心と唇を重ね合う。

     花近を笑顔で迎えた桜は、クリスマスツリーを見上げて目を細めた。
    「去年からもう1年経ったのですね」
     去年はあの木の下で、彼を待ったのだ。時の流れは速いと彼と笑いあって。
    「桜。これ、受け取ってください」
     と花近が差し出したのはディップアートの桜モチーフイヤーカフ。わぁと声を上げた彼女の左耳に桜を咲かせ。
    「私からは……」
     花近の手を取り、桜が彼の手首に付けたのは腕時計。
     彼の嬉しそうな笑みに微笑み返し、自分に合わせた彼の唇に控えめにキスを落とす。
     ふと顔が離れれば目に映るのは彼とイルミネーションの光。
    「今日はまだお時間ありますよね……?」
     この綺麗な光の海を、あなたと歩きたい。

    「五十鈴様」
     名を呼ばれて振り返れば、遠くツリーを背に駆け寄ってくる愛しい子。
    「お疲れ様」
     と、頭を撫でれられて。日頃の感謝と幸い願う心託して散耶が差し出したのは、柊の葉が添えられた小箱。
    「ありがとう」
     受け取り柊の葉をつつくのは乙彦の嬉しさの表れ。
     散耶の手がぬくもりに包まれると、嬉しさで胸が高鳴りが頬が染まる。
     夕焼け色の瞳に見つめられ目を閉じれば、唇に触れるのはぬくもり。
    「愛しています、五十鈴様。ずっと、傍に……」
    「――有難う、俺も散耶のことを愛している。ずっと一緒だ。共に居てくれ」
     唇が離れ言葉を交わし、ふたりは強く強く抱きしめ合った。

     仲良く自分の前に現れた彼女たちを、千尋はほほえましく迎えた。
     ユーリが手にしているのは、手縫いのフェルト人形。
    「私と、タシェお姉ちゃんと、佳奈子お姉ちゃんと、千尋さま」
     これからも一緒にと願いを込めた。
    「ありがとう、大事にするよ」
     そう言って千尋は彼女の前髪を上げたが唇に礼を返す。
     赤くなるユーリの隣、次に佳奈子が差し出す白い箱には、グレーチェックのマフラー。
    「お気に召すといいのですけど」
     と、首に掛ければ先のキスを気にしてしまって。しかし千尋のキスは唇に。
    「いやじゃないでしょ? ありがとう、温かいよ」
     真っ赤になる佳奈子に、くすりといたずらな笑顔を向ける。
     赤くなるユーリと佳奈子をほほえましく見て、
    「気に入ってもらえるかしら?」
     と、雪景色カラーの箱を差し出すのはタシュラフェル。中にはログハウスと樅の木のスノードーム。
    「ありがとう。それじゃお返しに」
     唇へのキスにタシュラフェルは余裕そのもの。だけど嬉しさで頬が緩む。

     心の中の彼が教えてくれた。静かな場所が好きだと。
     沈みゆく夕陽に照らされた彼に、希沙は思わず抱きついた。
    「お待たせした?」
     行き先を秘めた隠れん坊は終わり、小太郎は思わず目を細めた。
    「……待ち遠しかったですよ……」
    「きさも逢いたかった」
     と鞄から取り出したのは、一通の手紙。
    「これ、受け取ってください」
    「……ありがとう」
     彼女に手を添えられて小太郎が伸ばした両手に舞い降りたものは手紙ではなく、小さな口づけ。
     それは、無意識の愛情表現。
     甘く詰るような眼差しのまま、俯く希沙の熱い頬に触れる小太郎の手もまた、別の熱を宿す。
    「覚悟して」
     彼の言葉に、希沙は瞳をそっと細めた。

    「や、待たせちゃったカナ?」
     梟の軽いノリの声に、いつものように平静を保ったまま振り返った眠兎。
    「いえ、大して待っていませんですけれど……」
     待つことは苦ではなかった。
     だって、すぐに来てくれるって信じていたから。
     夕日が沈む間際、下からあふれだしはじめた光がふたりを照らす。梟が待っていたのはこの瞬間。
     差し出したプレゼントは、白いマフラー。
     キミに首ったけ。そんな意味と少しの独占欲。
     あなたからもらえるものなら何だって嬉しい。彼の胸の中に飛び込んで、彼に届く等につま先立ちでお返しするのは確かなキスと、素直な気持ち。
    「大好き」

     やっほーの掛け声は、今や二人の定番の挨拶だ。
     寄り添って光の海を見つめれば。時兎からぽつり零れる素直な言葉。
    「ほんと、時兎って僕のこと大好きだよねぇ」
     意外な言葉に驚きつつも、からかうように笑んだ聡士。
    「さ、聡士だって俺の事大好きだから一緒居るんでしょーがっ」
     いつものノリで返してみれば、
    「大丈夫、ずっと傍にいるからさ」
     返る言葉に振り向いた時兎の両耳に宛がわれたのは、何か。それは白い耳当て。
    「……お返しはキス、だっけ?」
     時兎の声でお互い向かい合えば、それぞれの手にはカードが一枚。
     これは二人だけのクリスマスの儀式。
     時兎が笑めば、聡士も笑み返し。
    「さあ、始めようか――」

     去年とは待ち人交代。待たせる場所も彼女らしい。
     足元で輝きだす光に目を細め、紫月は微かな音の方を振り向いた。柚羽だ。
     柚羽は一度深呼吸して毅然と歩みだす。そして彼の前で止まると、
    「プレゼントです」
     と言葉少なに、小さな紙袋を押し付けた。
     こういうところも、紫月にはとてもかわいらしく感じる。
    「ありがとう」
    「中は開けてのお楽しみです。で、何をするかはわかっていますよね?」
     強がって素直じゃないところも、いつも通り。
    「わかっているから」
     微かに笑んだ紫月は、感謝と愛情をこめて彼女の唇にキスを落とす。
     甘く優しい温もりを素直に受け入れ、柚羽が思うことは。
     私はキミを――。

    「ごめん、待った?」
     贈り物を探していたら遅くなった。と雄哉は、愛莉に贈り物の腕時計を手渡した。
     彼女には心配をかけ通してしまったから。
    「お礼だよ」
    「無理しなくてもよかったのに……」
     穏やかに笑んだ愛莉は、雄哉の右頬にそっと口づけし、イルミネーションを眺めながら他愛ない会話に入った頃。
     雄哉の隣には楽しそうな彼女。それはもう見られないと思った笑顔。
     考えるより体が動く。素直になろう。
     愛莉を抱き寄せた雄哉は、彼女の唇にキスを落とす。
    「好きだよ、愛莉ちゃん」
     突然のキスと告白に、愛莉は瞳を潤ませる。
    「あたしも、おにいちゃんのことが、好き」
     だからもう、どこにも行かないで――。

    ●Holy Night
    「Feliz Navidad 断」
     そう自分の前に現れたエミリオの頬があまりに赤くて、思わず断は両手で包み込む。
    「……すっごく待った?」
    「僕は今……あはは、本当はちょっと前かも」
     早く会いたくてお互いが約束より少し早く来ていたことを知ると、顔を見合わせて微笑み合う。
     エミリオが手渡したのはリボンで飾られたクリアケース。中身は木製のオルゴール。
     オルゴールの上には子犬の人形が数匹。曲が鳴れば思い思いにじゃれ遊ぶ。動物が好きな断のために選んだものだ。
    「リオ……すごく嬉しい……Te amo Rio 貴方じゃなきゃダメなの」
     断はエミリオにそっと抱き着いて、唇にキスを落とした。

     ベンチ前に立ちながらニコは、広がるイルミネーションを広く眺めていた。
    「だーれだ!」
     ニコの後ろから抱き着いたのは未知。驚く悪友の顔を覗き込み、いたずらっ子の笑みのまま地面に着地して。
    「今のが俺からのプレゼントって事でどうよ?」
    「今の、とは……!」
     しどろもどろ。ニコの内心は愛おしさでいっぱいで、話したいことが吹っ飛んでしまった。
    「ちゃんとしたのもあるよ、後で家にっ」
     未知の言葉を遮ったのは両肩に乗った大きな手と、何時もの余裕は微塵もないニコの顔。
    「有難う。お前のそういう所が、いや全部が、愛おしくて、大好きだ」
    「俺も大好きだよ『悪友』は今日で卒業だな」
     笑んだ未知が目を閉じれば、額に温もりが触れ。
    「……今は此れが精一杯だ、どうか、今は許して欲しい」
    「……このヘタレがっ!」

     ゆったりした足取りで現れたレニーを迎える逢紗はにっこりとした笑顔。頭上のヤドリギから離れ、手すりから下を見つめる。
     下からあふれる眩い光は、まるで――。
    「光の河みたいだね」
     さしずめここは川の畔。静かな場所が自分たちには合う気がする。
     そう思いながら膝をついたレニーが逢紗に差し出したのは、バラの花束。
    「逢紗、愛しい君。お返しを望んでいいかな?」
    「ふふ、ありがたく受け取らせていただくわ。もちろん、お返しもね?」
     ヤドリギの下ではないが、拒む理由はない。花束を抱いた逢紗は立ち上がったレニーの唇にキスを落とす。
    「貴方にも、祝福を……愛してるわ」

     笑顔で迎えてくれた千星に。アンカーが差し出した箱には、アイボリー地に星柄のストール。
    「ありがとう。今、掛けていい?」
     目を輝かせた千星に頷いたアンカーの目に入るのは、うさぎのパペットをポシェットに収めた千星の右手の甲に縦に走る、大きな切傷の痕。
     幼い頃に負ったものだと目を伏せた彼女の右手を、両手でそっと包み。
    「この手をずっと繋ぎ続ける。絶対に離さないよ」
     目を丸くしていた彼女は、瞳を潤ませて笑んだ。それにふわりと笑み返し。
    「不肖の学徒だけど大好きな千星を一番想ってる」
     跪けば、小柄な千星と同じ高さ。
    「うれしい、有難う」
     言葉はやがて、確かなぬくもりに変わった。

     眉尻を下げて彼を迎えた満月。
     結城は、早速とプレゼントを彼女に差し出した。
    「そ、それではお返しです」
     どもる声はいつもと同じだけど。頬の熱を感じながら、満月は結城の唇にささやかなキスを落とす。
    「ありがとうございますね……私からもお返しした方がいいですかね?」
     対する結城の顔には余裕すら浮かぶ。
     お返しのキスは満月の頬をさらに染め。
    「せ、折角ですし、風景を見ていきませんか?」
     そう誘えば、眼下には光り輝く光の道。
    「綺麗ですね……できれば来年も再来年も……一生私と一緒に見てくれますか?」
     結城の言葉へのお返しは、もう決まっている。

    「お待たせ、先輩。これプレゼント」
     義人がセカイに差し出したのは、かんざし。
    「これをわたくしに!? ありがとうございます」
     笑んだセカイは贈り物を両手で受け取り胸に抱くと、義人の首にかけたのは白いマフラー。
     丁寧な編み目に目を落とした義人に、不意打ちのキスを落とした。
    「……その、たまにはわたくしの方から口づけをしても良いですよね?」
     そう頬を染めるセカイ。
    「……とてもうれしいよ、先ぱ」
     恋人同士になった後も『先輩』と呼んでいた。だけど、今日は特別な日。もう一つの贈り物を、あなたに――。
    「うん、とてもうれしいよ、『セカイ』さん。ありがとう、愛してる」

     眼下のイルミメーションから、ふと上を見れば、星空。
     クリスマスの夜はどこもキラキラしている。
     あの時――バレンタインもこうして胸は早鐘を打っていた。
    「誘われた時にはてっきり俺の方が待ちなんだとばかり思ってたよ」
     サーニャの前に現れた夜霧は笑んで、光に輝くかんざしをそっと手渡した。
     顔をほころばせたサーニャも練習通りに笑顔で時計を手渡して、自分に合わせるようにしゃがんだ夜霧と目を合わせ。
    「ドキドキしすぎてぎこちなくても、許してね?」
     ヤドリギの下で大切な人に口づけを。
     させるばかりでは性に合わない。と、夜霧はサーニャが寄越してくれた場所へ、さらなるお返しを――。

     学園で一番空に近い場所が、今年の待ち合わせ場所。
     ヤドリギの下、冬の風に白い髪を揺らして星空を見上げる真珠の姿があった。
     地下深い迷宮の仄暗い天井を見つめていた彼女にとって、空は特別なものだと思うから。
    「メリークリスマス!」
     声を掛ければ彼女は振り返り、咲哉を笑顔で迎え入れた。
     地上の星も彼女の笑顔を明るく照らして、5年目のクリスマスを祝福している。
     咲哉の手の中にある贈り物は金に輝く星のオーナメント。手渡せば彼女は目を細めてそれを慈しむように手で包み。そっと顔を上げると咲哉の唇にキスを落とす。
    「ありがとう、愛してる、真珠」
     優しく抱きしめ合う二人の上で、星がまた瞬いた。

    「待たせてゴメン!」
    「そんなに急がなくても、いいのよ」
     寒空の下を走ってきたマサムネを静かに迎え入れて、ココアを差し出した水鳥は、光の海と空の星に目を細める。
    「……すごく、綺麗です……」
     マサムネもカップを傾けながら片方の手で水鳥の手を繋ぎ、煌きを見つめ。
    「上も下も星空だ。綺麗だな。まるで宝石みたいだ」
     と口元をほころばせた。
    「オレは水鳥を最後の恋って決めてる」
     この先自分たちの未来が破滅でも、平和でも。
    「お前が好きだ、愛してる」
     マサムネのその言葉こそ、水鳥にとって何よりの贈り物。
    「大丈夫……一緒であれば……」
     向かい合う二人はそっと唇を重ね合った。

     それぞれの場所でヤドリギは謳う。
     このふたりに祝福を。永久の愛を。幸福を――。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月24日
    難度:簡単
    参加:47人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 14/キャラが大事にされていた 3
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