巨大スサノオ体内戦~白狼の力が宿る時

    作者:夏雨


     密林化された群馬の一帯に、巨大化したスサノオは現れた。その出現はナミダ姫が灼滅され、スサノオ大神の力が暴走したことを示している。
     ひたすら咆哮を繰り返し、塔のようにそびえ立つスサノオ。その足元を執拗に攻撃し、体内へと続く穴を穿つ人影があった。
     いくら穴を広げられても、スサノオは気に留める気配はない。
     両腕と一体化した電動刃、改造された釘打機、折り畳み式のノコギリ刃など、工具を携えた5人の六六六人衆に指示を出す男は、シミだらけの薄汚れた包帯を両手に巻いていた。5人が穴を掘り進める間、男は手に巻いた包帯の匂いを幾度となく吸い込む。満たされない欲望に焦がれるぎらついた眼差しで、「匂いがどんどん薄れていく」とつぶやいた。
    「足りない足りない、全然足りねぇ……もっと新鮮な絶望の匂いがほしい」
     依存症患者のような物欲しそうな病的な眼差しは、スサノオ大神の全身を見上げ、男はブツブツとつぶやき続ける。
    「雑魚同士で群れて仲良しこよしを狙ってたらしいけど……ナミダ姫。あんたの力は有効に活用させてもらう。どっかの邪魔者が来る前にスサノオの力を手に入れて、好きなだけ暴れまくるのさ」
     スサノオ内部の更に奥へと道を切り開いた配下の1人は、
    「イブキさん。このまま大神の中枢まで行けそうですよ」
     と、男へ呼びかけた。


    「まさか本当に成功するとはね……ナミダ姫の暗殺」
     招集された灼滅者たちを前にし、そうつぶやいた暮森・結人(未来と光を結ぶエクスブレイン・dn0226)だが、望ましくない現状を皆に伝える。
     ナミダ姫を灼滅したことにより、制御されていたスサノオ大神の力は、100メートル近い巨大なスサノオ15体となって群馬密林に顕現する状況となった。
    「君らには、スサノオ大神として現れた力の暴走を止めるっていう後処理が残ってるんよ」
     スサノオはその場にいる以外動く気配はなく、数カ月経てば力も何もかも消滅していくという。しかし、ナミダ姫から解放されたスサノオの力を他のダークネスが見過ごすはずはない。
    「当然スサノオの力を手に入れようと動き出すダークネスがいるね。その1人がマンチェスター配下の六六六人衆、イブキと呼ばれている奴が手下を連れてきてる。君らにはこいつらの相手をしてほしい」
     イブキらはスサノオの体内に侵入し、力の源がある中枢を目指し出す。侵入経路に沿って跡を追い、力を手に入れようとするイブキらを倒し、スサノオを内側から消滅させることが任務となる。
    「スサノオは生物っていうか、力の集合体みたいなもんなんよ。こいつは内側から破壊した方が効率がいい。地道に横穴作ってる暇はないから、素直に跡を追いかけて六六六人衆を止めてほしい」
     スサノオを消滅させ大地へと返すことで、ダークネスが力を利用することはできなくなる。
     イブキをボスとする5人は、ジョン・スミスの影響により量産され、DIY工具を武器とする六六六人衆たち。スサノオを破壊し、邪魔をしようとする灼滅者たちに対し全力で挑もうとするだろう。
     DIY六六人衆とは一線を画す実力であることが窺えるイブキは大振りのナイフを扱い、両手に巻かれた包帯は『ダイダロスベルト』と同様の役割を果たす。
    「スサノオの力の源がより近い体内で戦うことになるんだけど……影響があるとすれば、相手の戦力かもしれんよ。そこら辺は何が起きるか、行ってみないとどうにもね」
     結人は渋い表情で警告を繰り返した。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)
    イヴ・ハウディーン(ドラゴンシェリフ・d30488)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)
    風上・鞠栗鼠(螺旋街の若女将・d34211)
    土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)
    華上・玲子(甦る紅き鳳凰・d36497)
    竜胆寺・元親(書士さんは元はもっちぃあ・d37695)

    ■リプレイ


     密林化した群馬の域内を駆ける灼滅者たちの姿。
     スサノオ大神の元へと駆けつけた灼滅者らは、力の奪取を阻止するために一様に侵入を果たしたダークネスらを追っていく。すでにスサノオ内部の六六六人衆にその事態を知る術はない。
     スサノオの足元にいち早く大きな穴を見つけた富士川・見桜(響き渡る声・d31550)は、スサノオの咆哮にかき消されないように声を張り上げた。
    「あそこだ! 急いで追いかけよう」
     内部を覗き込めば、人ひとりがやっと通れる縦穴が奥へと続いているのがわかる。
     先行していく見桜は、垂直に近い斜面をよじ登った後を見つけた。突き立てられた複数の太い釘を足場にしたようだ。
     見えないガラス板で隔てられた向こうに白炎が揺らめいているかのような、不思議な狭間を進んでいく。
     1人ずつ後に続くしかない狭さ故、見桜の後ろへ土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)、千布里・采(夜藍空・d00110)、九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)は1列に続いていく。
     奥へと進む順番を待つ間、
    「久し振りに暮森先輩から頼まれた仕事だから、しっかりやらないとな」
     充分に気合いを入れたイヴ・ハウディーン(ドラゴンシェリフ・d30488)が内部へ続こうとすると、「イヴ……あんたの兄ちゃんからや」と風上・鞠栗鼠(螺旋街の若女将・d34211)が呼び止める。
     呼び止めた鞠栗鼠がイヴの肩にかけたのは、『八代目』とかかれた羽織。
     羽織に袖を通して再度気合いを入れるイヴに対し、竜胆寺・元親(書士さんは元はもっちぃあ・d37695)は言った。
    「若のお兄さんの分まで、微力ながらお手伝い致します」
     元親を始めとする鞠栗鼠、華上・玲子(甦る紅き鳳凰・d36497)ら、ウイングキャットの先生、ナノナノの白餅さんを含め、1人1人の頼もしい存在にイヴは信頼の眼差しを向ける。
     「皆で乗り切るで!」と威勢よく意気込みを見せる鞠栗鼠の隣りで、玲子は何か言いたげなにやにやした表情でイヴを見つめてくる。
    「……何、ニマニマしてんだよ!」
     さすがに見過ごせず指摘したイヴに対し、玲子は言葉を返す。
    「いや~、青春してるかわいい後輩を応援したいと思ってるだけなりよ」
    「相手は年上か。玲子ちゃんから聞いたで」
     と言う鞠栗鼠もにやつきながら続ける。
    「暮・森・先・輩のためやもんなぁ、頑張らんとな」
     からかい半分で言い連ねる2人に対し、イヴは顔を真っ赤にして抗議する。
    「い、今はそんなことよりスサノオだろ!」
     玲子と鞠栗鼠は「いやん♪」と抱き合ってみせ、ごまかすだけで反省はしていない。
    「お2人がいてくれるお陰で、若の緊張も解れますね」
     そのやり取りをのほほんと見守る元親に対し、イヴは目的へと急かした。
    「止めてくれよ、竜胆寺先輩。オレらもはやくついていかなきゃだろ」


     後ろに続くはずのイヴらの様子を気にかけて、采は何度か背後を振り返る。やがて紅の向こうにその姿を確認すると、筆一の背中に視線を戻した。
     切り開かれた道を勇んで進む見桜のペースに合わせながらも、平常の調子を崩さずに采はつぶやいた。
    「不思議なもんやねぇ、スサノオさんの中にお邪魔することになるとは……」
     采の手の平の下に伝わるのは壁面に触れたような感触ばかりで、その下で白炎は変わらず揺らめき続けている。
     筆一は采の言葉を背に受けて、
    「このままダークネスに力を渡す訳にはいきませんし、最後まで油断せずにいきましょう」
     そう意気込みつつも悪路に息を荒くしていた筆一だったが、緩やかになり始めた傾斜に差し掛かりどうにか乗り切る。
    (「――そう、あいつら程度にスサノオの力は渡せない」)
     そう胸中でつぶやきながら黙々と采の後に続く紅は、平静な様子を保っているように見える。しかし、奥へと進み続ける間に今は叶わぬ願いとなったスサノオとの共存、ナミダ姫の最後に思いを馳せていた。すると、奥から響いてくる男の声が紅の意識を引きつける。
    「きっとこの向こうだ! 近くにあるはずだ」
     その声により、全員が近づく敵の存在を感じ取った。
     道の向こうに見える風景は、開けた空間があることを示している。
     速やかに狭い通路から躍り出る見桜に続々と続き、共に広い空間に出た采は自らの霊犬を顕現させた。
     六六六人衆らが切り拓いた道とは異なり、1つの器官のような空間。六六六人衆らは炎の壁の向こうにあるものを掘り当てようと、各々の武器で炎を切り崩している。炎は衝撃を与えられると土塊のように砕け散っていく。
     両腕に備えた電動刃を掲げた1人は、その場に現れた灼滅者たちの気配に気づいた。
     鉢合わせた全員が一斉に武器を構え、見桜は殺気立つ敵に向けて言い放つ。
    「あなたたちに恨みはないけど、ここで倒れてもらう」
    「来たか、灼滅者!」
     「スサノオの力は、俺たちがいただくのさ!」と刃を翻すイブキ。
     激しくかち合う攻防の中で、筆一、元親らが槍のように掲げた標識は黄色に転じ、輝きを帯びた標識は仲間へと保護の力を展開した。
     紅の背中から吹き上がる炎は双翼の形を現し、周囲の仲間を含め破魔の力を引き出していく。
    「彼女の力は、誰にも渡さない」
     そうつぶやく紅は、両腕の電動刃で襲いかかる男を相手取る玲子を狙う1人に対し、ガトリングガンの重量感のある砲身を向けてけん制した。
     次々と剣戟が交わる中、オーラの法陣を浮かび上がらせる采は敵の動きに抜かりなく注意を配る。


     敵の1人の足元から不自然に発生する濃霧が、灼滅者らの判断を鈍らせつつある。ノコギリ刃を構えたその1人を狙おうとすれば、けたたましい電動刃の駆動音が鳴り響き、両腕の刃を突き出す2人に阻まれる。
     イブキの両腕から垂れ下がるほどけた包帯は自在に伸縮し、鋭く空を切る刃と化す。鋭く伸びる先端とナイフが交わる連撃。激しい攻撃を続けるイブキらは、その後方で掘削を続ける2人から注意を逸らそうとしていた。
     玲子は迷うことなく手の平から閃光を走らせ、紅も後方の2人に向けて照準を合わせた。
     直撃する連射とビームは2人の動きを止め、イブキは鬼の形相で紅へと迫る。
    「邪魔するなら、お前からさ!」
     見桜は透かさずその線上へと立ち入り、刃を向けるイブキと正面からかち合う。
     イブキは反撃を避けようと刃を滑らせて飛び退く。その拍子に弾丸のように飛び出す包帯が見桜を狙う。攻防の隙間を縫うようにして迫った一撃は、見桜の左肩から鮮紅を散らした。
     それでも衰えない勢いのままに、見桜はイブキに向けて剣を振り向ける。相手を切り捨てると同時に舞い散る青白い燐光の向こうに、イブキは立っていた。イブキをかばった1人は見桜の攻撃をいなし切れずに倒れ伏す。
     勇ましい攻勢を貫く見桜は、
    「誰も倒れさせないし、スサノオの力にも手出しはさせない」
     イブキらの線上へと進み出て攻撃を仕掛けにいく。
     イブキらと激しくやり合う中で、采の霊犬も支援役の要として加わり、苛烈さを増す攻防を繰り広げる者の傷を癒し続ける。
     イブキの指示を受けて壁を削り続ける2人に対し、
    「うちらに集中せんと、痛い目見るで」
     鞠栗鼠は白い棺に備えられた砲門を向け、光を放つ砲弾を撃ち込んだ。更に白餅さんと先生も加勢し、しつこく妨害を繰り返す。
     稚拙さが目立つ他の六六六人衆の技とは異なり、イブキは確実に急所を狙いに来る。それに圧倒されるばかりではなく、灼滅者らは互角以上の相手であることを示すため食らいつく。
    「もうすぐスサノオの力が手に入るんだ、ビビってないで掘るんだよ!」
     妨害しようとする鞠栗鼠らをけん制しつつ、イブキは再度掘削を促す。
    「そこまでにしといてもらいましょ」
     采が構えた槍からは氷の切っ先が生成され、冷気をまとった鋭い攻撃が撃ち出される。
     掘削を続けていた1人へと突き刺さる衝撃は、そのまま壁へと衝突した体を鎮めた。
    「何してくれやがるのさ!」
     イブキは怒りのままに包帯を操る。枝分かれした包帯は采へと直進し、同時に筆一、元親へと伸びる。3人を同時に絡め取ろうとするイブキの攻撃だが、包帯をかわす采の判断により霊犬は筆一をかばいに走る。
     体へと巻きついた包帯は霊犬を壁へと叩きつけ、元親の右足に巻きついた。イブキの体の一部となって動く包帯は、片足をきつく締め上げながら元親の体を引きずろうとする。
    「今、助けます!」
     機敏に状況を判断する筆一は標識の能力を発動した。元親に巻きついた包帯は付与された保護の力によって弾かれ、傷を癒されていく。


     六六六人衆の1人が発生させる濃霧は傷の治癒を生じさせ、発生源の1人に向かう攻撃は敵に阻まれ続けた。それでもくじけるはずはない闘志を抱き、イヴの刀から放たれた一閃が霧の発生を停止させる。
     薄れ始めた霧の向こうに横たわる姿が現れると同時に、
    「安易な戦で傷付き泣くかたぎの⼈々を出すわけにはいきやせん! 当⽅……こわしや⼋代⽬雪⽕――」
     頭領らしい口調を真似るイヴは、イブキの行動を抑えるために動く。
    「仲間と共に⽌めさせてもらうぜ!」
     イブキを含めた残る3人は一丸となって応戦する。
     次第にイブキの包帯は全身を覆い始め、複数に枝分かれして目まぐるしく動き出す様子は、全力を開放した状態を見せつけているようだ。
     見た目だけに限らず、鋼鉄と変わらない包帯から放たれるいくつにも連なる鋭い攻撃が、対する者を圧倒する。守りを担う玲子へと一方的に攻撃を叩き込み、容赦なく突き飛ばす。
     イブキ自身は勢いを保っているものの、他の未熟な2人の戦力は次から次へと倒される。
     間合を維持して動き回るイブキは包帯をはためかせ、筆一の方へと突っ込む。各々の攻撃で阻止しようと踏み出せば、瞬時に絡みつく包帯が鞠栗鼠や采の動きを封じる。
     イブキを起点に伸びる包帯に引き寄せられながらも、鞠栗鼠はナイフを構えて突進するその動きを必死に目で追った。鞠栗鼠の影となって伸びる刃が、速やかにイブキへと忍び寄る。それでもわずかに上回るイブキの勢いが筆一の体に裂傷を刻み、その直後に鞠栗鼠の攻撃は達する。
     筆一は全身が激しく脈打つような感覚を覚えながらもよろける体を支えた。
    「手当します!」
     元親は努めて冷静に治療を行い、指先から浄化の光を筆一へと送り込む。
     ハートのオーラを生み出す白餅さんと霊犬が筆一に寄り添うのを一瞥し、
    「これ以上傷つけるなら、許さないよ」
     見桜はイブキを追い詰めようと即座に動く。
     両手で握り締めた剣の柄に更に力を込め、見桜の鋭い太刀筋はイブキの防御を切り崩しにかかる。切れ目なく振りさばかれる刃は目の前で交差しようとする包帯の間をこじ開け、イブキの体へと達した。
     反撃に転じようとするイブキは包帯を見桜の剣に絡ませようとするが、斧を振り下ろす玲子により阻まれる。大きく飛び退いたイブキは、
    「ナミダ姫を潰した連中の同類なだけはあるな」
     とナイフを構え直し強がって見せてはいるが、地面に滴る鮮紅も見て取れるように、消耗しているのは明らかだ。
     際限なく攻撃を叩き込む流れに乗じ、筆一と元親らが振りかざす標識は黄色に輝き、サーヴァントらと共に支援に全力を尽くす。


     紅のガトリングガンから放たれる弾丸のシャワーには、守りの大半は見込めない。銃身を傾けようとするイブキの包帯は、紅の右手をすばやく絡め取る。その包帯を巻き取るようにして急接近するイブキだが、紅との間に立ち入る玲子はイブキとぶつかり合う。至近距離まで迫る機を逃さず、玲子は悲鳴をあげる体にムチを打って構えた斧を振り抜いた。
     飛ぶように突き飛ばされたイブキを狙い、采の槍は間もなく迫る。突き出された槍は急所をかばうように体をひねるイブキの脇腹を捉え、イブキの体は無様に地面へと投げ出される。
     口元からは真っ赤な筋がもれ、蒼白な表情で目をむきながら立ち上がるイブキ。なおもナイフを構え、攻撃姿勢を崩さない。生き物のようにうごめいていた包帯は、しおれたように垂れ下がるものが目立つ。
    「スサノオォォォォ。俺にその真価を示すのさ!」
     イブキは真っ赤なツバを飛ばしながら、最後のあがきとばかりに声を張り上げる。
    「こいつらに消されるだけでさぁ、終わりたいのかよ!」
     追い詰めたイブキを囲む面々がとどめをさそうと身構えた瞬間、明らかな異変が訪れた。
     スサノオの咆哮が直接内部に響いているかのように、激しく震える大気。同時に、内壁の一部として燃え盛る白炎は一層青白く輝き出す。イブキの輪郭は青白いオーラをまとい始め、垂れ下がっていたすべての包帯は頭をもたげて獲物を狙う蛇のように起立する。
     構わずに攻撃を続けようとした玲子と見桜の首筋には、瞬時に包帯が巻きつく。凄まじい力で不敵にほくそ笑むイブキの元へと引きずられ、抵抗しようとした玲子は荒々しく組み伏せられた。
     加勢に向かうものは以前のイブキとの明白な力の差を感じ、勢いが増す反撃に怯みそうになる。次々と打ち込まれる鋭く重い一撃が灼滅者らを苛み、スサノオの力が流れ込むイブキには無駄口を叩くだけの余裕が生じる。
    「俺らが果てるまで潰し合いを続ける気らしいな。俺らとお前らの違いって、なんなのさ?」
     増える傷を顧みず、強靭な意志で戦線を維持し続ける各々の表情に、耳障りなセリフは少なからず影響を及ぼした。
    「気が済むまで潰し合え! 殺せ殺せ、灼滅者!」
     イブキの下卑た高笑いをかき消そうとするイヴは、
    「とっととくたばれ!」
     狙いを定めてエナジーの弾丸を放つ。脇腹の傷口をかすめた弾丸により、イブキの表情は苦痛に歪む。イブキが身悶えたのも束の間、イヴの体には一瞬にして包帯が巻きつき、マリオネットのように吊り下げられる。追撃を狙っていた采ももれなく捕えられ、宙に吊るされた。
     イブキは拘束した采へと新たに攻撃を射出する。采の霊犬は最後の力を振り絞り、采の前へと飛び出した。霊犬の姿は、体を張って攻撃の軌道を逸らしたことで打ち消される。その向こうで、采の槍からは音もなく氷の切っ先が生成されていた。
     霊犬が消え失せた直後、拘束に抗う采から放たれた一撃はイブキへと突き刺さる。体の中央に突き立った氷尖により、遂にイブキは顔色を失くして後ずさる。
    「最後まで嫌な思いをさせたいらしい――」
     徐々に緩み始めた拘束から逃れながら、采はゆるりと態勢を整え、
    「あんたらのボスのマンチェスターさんの方針でしたか?」
     「渡さないと言っただろ」と構えた紅のガトリングガンは、イブキ諸共背後の内壁を穴だらけにした。くずおれるイブキと共に、崩壊した壁の向こうにもう1つの空間が現れる。そこには一層青白く燃え盛る白炎の塊が鎮座していた。

     内部の核を破壊されたスサノオは間もなく崩壊を始めた。速やかに避難を開始した全員は、散り散りになる複数の白狼の姿を見送った。

    作者:夏雨 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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