巨大スサノオ体内戦~遺志継ぐための鳥

    作者:ねこあじ


     群馬密林に悲し気な獣の慟哭が響いている。
     朱雀門残党を率いるルイス・フロイスは、精鋭の配下を連れて、この地へと足を踏み入れた。
     ルイスの意思を受け、朱雀門高校の制服を着た少女ヴァンパイアが、巨大スサノオへの攻撃を開始する。
     攻撃を仕掛けた瞬間、反射的に身構えるも白炎――幻獣は依然として悲し気に慟哭するだけであった。
     そして少女の放った攻撃は巨大な幻獣を穿ち、穴を作っている。
     ルイスは、その穴に足を踏み入れつつ、従うヴァンパイア達に、言葉をかけた。
    「ナミダ姫を灼滅した、灼滅者は暴走している。
     ナミダ姫の遺志を受け継ぐためにも、スサノオの力は我ら朱雀門が手に入れなければならない」
     と。
     ナミダ姫は、爵位級ヴァンパイアといった強力なダークネスを認める点で差異はあったが、基本的な方向性は朱雀門と等しかった。
     このナミダ姫を否定する延長上にあるのは『全てのダークネスを滅ぼし、灼滅者が世界を統べる』という未来だ。
     それは、ダークネス組織である朱雀門にとって、受け入れる事は出来ないのだ。
    「武蔵坂の暴走を止め、全てのダークネス組織を滅ぼすという未来を阻止するには、一定の力と発言力を持つ、武蔵坂学園と話ができるダークネス組織。
     ……現在の朱雀門には、その力は無いが、スサノオの力を手に入れれば、武蔵坂の暴走を止めるブレーキとなることができるだろう」
     道を、ひらくのだ。
     幻獣の体内を穿ち続ける攻撃は中枢へと続く道になりつつあった。


     教室に入る灼滅者達を待っていたのは五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)だった。
     一礼ののちに、彼女は説明をはじめる。
    「群馬密林での戦い、お疲れ様でした。
     ナミダ姫を灼滅したことで、現在、群馬密林でスサノオ大神の力が暴走してしまっているようです。
     この暴走した力から、群馬密林に15体の巨大スサノオが出現してしまいました」
    「巨大スサノオが……」
    「はい。全長100メートル近い巨体ですが、悲しそうに慟哭するだけで、その場から移動することも攻撃することもありません」
     それだけならば、このまま放置していても、数か月後には力を失って消滅するという予測が立っていた。
     だが、「彼ら」を取り巻く情勢がそれを許さない。
    「問題は、このスサノオの力を奪うために、ダークネス達が動き出しているのです」
     ダークネス達は巨大スサノオの体内に侵入し、その中枢を破壊して力を奪おうとしているようだ。
    「皆さんには、ダークネスが侵入した経路から巨大スサノオ内部に入り、侵入しているダークネスを撃破した後、その中枢を破壊して巨大スサノオの力を他のダークネス達が使用できないようにして欲しいのです」
    「外側から攻撃して、スサノオを倒すのは無理なのだろうか?」
     一人の灼滅者が尋ねれば、姫子は「はい」と頷く。
    「外から撃破するには時間が掛かりますし、その間に、ダークネスがスサノオの力を奪ってしまいます」
     姫子は地図上に記された巨大スサノオ――その一体を示した。
    「皆さんに向かってもらう巨大スサノオです。
     内部に侵入するのは、朱雀門のヴァンパイア」
     その組織名を聞いた灼滅者達の反応は様々だ。
     現状の『朱雀門』は――いや、考えるのはひとまず姫子の説明を終えてからにしようと灼滅者は思った。
     彼女の説明は戦闘能力のものへ移行しつつある。

     朱雀門は、会長のルイス・フロイスを筆頭に、精鋭のヴァンパイアで構成されている。
     組織としては壊滅している朱雀門ではあるが、油断は出来ないだろう。
    「彼らは道を切り開きつつ体内を進んでいるので、後を追うことは難しくないでしょう」
    「奇襲は難しそうだね」
     一人の灼滅者が呟いた。
     当然敵に気付かれ、となれば正面から戦うことになるだろう。
    「ナミダ姫と朱雀門の思想は完全に同じとは言えないのでしょうが、近かったのかもしれません。
     とはいえ、朱雀門や他のダークネス組織に力を奪われることを、ナミダ姫が許容するか否かは今となっては分からないことです。いえ、望んではいない筈です。
     スサノオの力は地に返して欲しいと、私は思っています」
     そう言って、姫子は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)
    戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    祟部・彦麻呂(快刀乱麻・d14003)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)
    アリス・ドール(絶刀・d32721)

    ■リプレイ


     群馬密林にて立つスサノオたちの慟哭は、真冬の空気を裂くが如く。
     猛る白炎の巨体。
     朱雀門のヴァンパイアたちが作ったであろう穴へと踏みこみ、駆ける灼滅者たち。
     見つけるのにさほど時間はかからなかった。
    「おや、来ましたか。お久しぶりですね」
     揺らめく真白のなか、学生服を着た色白のヴァンパイアが灼滅者たちの気配に気付き、振り向く。
     ――ルイス・フロイス。
     来るかもしれないと予想はしていたのだろう。驚いた様子はない。
     彼と灼滅者の間に朱雀門制服を着た三体のヴァンパイア。残る二体はスサノオの体内を穿つ。
    「待って。今すぐ掘り進める作業を止めて、こっちの話を聞くっすよ」
     牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)の言葉を聞き、三拍の間を置いたルイスは、やや気だるげに「聞いた通りだ」と配下のヴァンパイアたちへ声をかけた。
     本当に作業を止めただけだ。
     証拠に、アリス・ドール(絶刀・d32721)が前の護衛越しに奥の二体を見通せる位置に入った時、護衛のヴァンパイアが重心をずらし、半身の向きを変えた。
     アリスが大太刀の先端を地に預ければ、真下の白炎が揺らぐ。
     緊迫するなか、一礼した漣・静佳(黒水晶・d10904)がルイスに声を掛けた。
    「少しだけ、伝えたい事が、ある、の。
     貴方達の高校に、行った、わ」
     ルイスと、傍の朱雀門の制服を着たヴァンパイアたちを見つめる静佳。彼らが制服を脱がないのは、朱雀門高校がホームだったからだろう――そう、それは、今でも。
    「……彼らは最後まで、貴方を待っていた、わ。ロード・サスが来ても、尚。
     ……助けられ、なかった」
     脳裏に蘇る。
     どんな言葉を使っても、あの光景を表すことはできないだろう――それほどに惨い。
    「でも、彼らのことを貴方に伝えたい、と思った、から」
    「……心遣い、ありがとうございます」
     そう言ったあと、ルイスは「そうですか」と呟いた。誰に向けたものでもない。受け取ったものを心に仕舞い込むように。
    「それで、他には?」
     ルイスは灼滅者たちを促す。
     今、彼の赤い瞳には何の感情も宿っておらず、観察するかのようだ。
    「まずは否定させてくれ。武蔵坂はダークネスの虐殺をしているわけじゃない」
     ルイスの視線を真っ向から受け止め、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)は言葉を重ねた。
    「現代の支配を謳う組織を止める為に戦っている。――ナミダも支配に拘って、ウチと決裂した。
     学園は支配に屈しない。力の流儀じゃ止まらんぜ」
    「世界に反発し、力を以て邁進する組織ならではの弁ですね」
     応じたルイスの言葉は、個人として肯定し難いものであり、学園としては否定できないものだった。
     布都乃は続ける。
    「だが、オレ達に現状世界の意見を唱えられるのはアンタ位だ。強硬策に出る位なら引き返せ。
     その弁舌を使って、学園で意見交換すりゃどうだ」
     ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)もまた説得のため、一歩前に出た。
    「離散している他勢力を集結させれば交渉の場ももてるかと思う。その橋渡し役も担える。
     どうか一考して欲しい――争いを辞める事を望んでいる者もいる」
    「ルイス様……」
     アリスの前にいた少女ヴァンパイアが静かにルイスを呼んだ。その声色は「どうするのか」と問うものではなく「いつでもご命令を」という芯あるもので、灼滅者たちは内心身構えた。
     灼滅者たちを一瞥し、ルイスは微かな溜息を吐く。
    「抑止力を持たぬまま、喉元に刃を突きつけられた状態で御意見番の席に着くなど到底無理なことです。
     離散している他勢力の集結もまた、こちらに力が無ければ、難しいもの。
     事はシンプルです。
     我々がスサノオの力を得たならば、貴方がたの言う道も開けましょう」
     彼らがスサノオの力を得るか、得ないか。
     これが、関門であった。
    「少なくとも、自分らがスサノオの力を譲ることは無い。
     これは絶対」
     麻耶の言葉は、灼滅者側で一致したものだ。
    「だから、あとはどうするか……決めて」
    「――そういうことだ。続けろ」
     ルイスは手を止めていたヴァンパイアたちに向かって、言い放った。


     戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)の護衛ヴァンパイアに向けて構築した結界は、彼らの霊的因子を削ぎ落とし、一気に強制停止させる。
     それに伴い、場が広がった。
    「……最速で……斬り裂く……」
     アリスの動きは速い。
     獲物を捉えた斬撃は、鷹のように的確で、鋭い。
     まずは手前の護衛一体へ向かう集中攻撃。剣戟の音が絶え間なく続くなか、蔵乃祐は言う。
    「僕達が朱雀門に合流した時、銀夜目くんが流した情報で。
     校長の思想、発展した文明と首魁ダークネスが齎す人類存亡の危機、リベレイターの仕様等は全て把握している筈――灼滅者への侮辱はやめて下さい」
    「――ふ」
     蔵乃祐の言葉に、ルイスは口端を微かに上げて笑むものの、それは一瞬だった。
    「やはりと言うべきか。貴方がたは強い意志でダークネスを滅ぼそうとしている」
     暴走しているわけではない、意志を持ってダークネスと戦っている。
     そんな灼滅者を指し、ルイスは『暴走している』と判断している。
     彼の懸念は強化され、ダークネスと灼滅者、朱雀門と武蔵坂、双方の立場と主観の違いが明確に浮き出た。
     真白の世界のなか、ルイスの魔力を宿した霧が、方々に位置するヴァンパイアたちに向かってざあっと広がっていった。
     蝙蝠の翼を翻し、反転するルイスに合わせ、配下のヴァンパイアが更に穴へ攻撃を放つ。
    「させないよ!」
     穴からヴァンパイアを引き剥がすべく、真横に回りこみ長柄を振るう祟部・彦麻呂(快刀乱麻・d14003)。
     螺旋の如き捻りを加えた槍の穂先が、敵胴を穿つ。そのまま突き進めば、敵は態勢を崩して転がり離脱した。
    「力無き者が支配されるしか無い事には同意しますよ。
     それがナミダ姫を倒した理由だし」
     歩みを止めたルイスへ視線を向ける彦麻呂。
    「現に、あなたも武蔵坂を信頼できないからこそ、力を求めているんですよね。
     でも、他者が力を得るのを黙って見過ごすのは、度量じゃなくて慢心ですよ」
     力が無いなら降伏しご意見番を申し出るなど、やりようはあったと彦麻呂は言う。
    「武蔵坂の悲願は虐殺ではなく支配からの解放です。あなたの理想とは違っても妥協点は探れたはず」

     純白の霊犬・サフィアが六文銭を撃ちながら駆ける。敵に当たり、跳ねた六文銭は白炎のなかに消えていった。
     六角形を象るサイキックエナジーの光輪が護衛ヴァンパイアの身を裂き、場内で弧を描きつつ刻野・渡里(大学生殺人鬼・d02814)の元へと戻っていった。
     渡里の周囲を一周し、掌を軽く翳せばその動きに伴い滞空する。
     戦闘となっても、ルイスへの説得は続いた。
    「何を守るか、主とする対象が人か、ダークネスかの違い。
     俺達の目的は『ダークネスにスサノオの中核を渡さない』だ。
     それで、暴走を止めるつもりでいるなら……ここで俺達に灼滅されたら、本末転倒じゃないか?」
    「我々の目的は、『スサノオの力を手に入れる』。……貴方がたが妥協できないならば、これ以上、言葉を重ねても無意味でしょう」
     スサノオの力を渡せば、ルイス率いる朱雀門一派と再び話し合えたかもしれない。
     だが渡さないと決めた以上、戦闘行為は避けられない。
     それに付随する結果を覆すため、説得に動く灼滅者は声を掛け続ける。


     アリスが配下ヴァンパイアと一合、二合と切り結んだ刹那、アリスの刃が獲物を失い浮く。
    「!」
     蔵乃祐のテリトリーオブメビウスが敵二体を捉え縛り上げていた――敵一体の身が弛緩し、もう一体を仲間が追撃し灼滅するのを見るや否や、アリスは猫の如くしなやかに身を翻し、目標を残ったルイスへと変えた。
    (「……大き過ぎる力は……身を滅ぼす……こんな力……ないほうがいいの」)
     駆ければ足元の白炎が弾け、散る。
    「……斬り裂く……」
     彼の死角に回りこみ、Alice the Ripperを振るう。
     下段から斬り上げた時、鋼糸が降ってくるのが見えた。そのまま大太刀の遠心に身を任せ、アリスは一旦間合いから離脱する。
     大きく振り被り放たれた鋼糸は、ルイスの頭上に落ちてくる。
    「――ッ」
     蝙蝠の翼、異形化した腕が持つ剣でいくらか払うが、渡里が腕を振り指を微かに動かすだけで、糸の軌道は一気に狭まった。
    「俺達からしてみれば、ルイス達も支配側だ。
     穏健派もいれば過激派もいる……一枚岩ではないからな」
     実戦に身を投じ続け、日々研鑚を積んできた灼滅者たちは敵の力量を既に察していた。
     勝てる。だが、
    「止めるための力をと考えるなら――強い生き残りを集めて組織化する方が、俺達にとっては面倒なんだけどな」
     それでも声を掛け続けるのは、彼のダークネスにしては変わった考え方を買っているからだ。
     鋼糸を掴み、引きながらルイスが斬りかかってくる。
     緋色のオーラ纏う剣を受けるのは割り込んだ布都乃。横一文字に、胴を通る刃が自身の生命力や魔力を奪っていくのを感じた。
    「知恵者のアンタならもっと上手くコトを運べたんじゃねぇのか?
     それに、オレにとって支配主義の吸血鬼は復讐対象だが……アンタは違うだろ」
     握った拳に、己の血と緋の残滓。ウイングキャットのサヤが猫魔法を放ち、一瞬だけルイスの身が強張った。
    「双方被害を言い出したらキリがねぇ訳だし、主義は認めてたつもりだ」
     目前に迫ったルイスの腹を、クロスグレイブの銃口で突くと同時に光の砲弾が放たれた。
    「ココで倒れりゃ見下げたモンだぜ。会長サンよ」
     ばさり、と蝙蝠の翼をひらき、床に着地するルイスは即座に剣を振るった。
     迫るラススヴィの無敵斬艦刀を受け止め、硬質な音が辺りに響く。だが息をつく間はない。直ぐに他方から灼滅者の攻撃が放たれた。
     傷付いた灼滅者に向かって、静佳の光条が走る。
    「力を手に入れずとも、少なくない人達が、今の状況に想う処がある、わ。
     難しい事、だけれど……でも、貴方を死なせたく、ない」
     静佳が言う。
     弾かれた刀を戻し、再び斬撃を放つラススヴィ。
    (「ルイスの主張には全面的に賛成だ。
     ダークネスと灼滅者、双方共に歩める事の出来る、恐らく最後の機会であったのだから」)
     その時、意志を持ったかのような白炎が、癒すようにルイスの傷を辿りおさまるように消えるのを目にした。
    「……ああ、これがスサノオの力というわけですか」
     体内で何かを感じたのか、ルイスが呟いた。


     麻耶のクロスグレイブがルイスの身を地面へと叩きつける。
    「灼滅者は弱いんスよ」
     麻耶がクロスグレイブを抱えると、土のように白炎がはらはらと落ちていく。
    「弱くて、臆病で、心配性で、いつ闇に襲われるか不安で仕方ない」
     それが灼滅者っていう生き物だから――。
    「だから、殺られる前に灼る。
     少なくとも組織立って動けなくなる程度には、徹底的に」
     剣を突きたて、立ち上がるルイスの表情に笑みが浮かぶ。
    「哀れな。
     貴方がたは、籠から放たれた鳥。いまだ漠然と世界を見ている存在。
     飛んだ先の終着点が見えぬまま、弱さを盾に力を振るう――この存在を、哀れと言わず、何と言いましょう」
     それは、ダークネスと灼滅者と、そして一般人全てをある意味で護ろうとした男の言葉。
     何かが見えているのかもしれない。
     ルイス・フロイスは常に推測し、俯瞰の位置に在ろうと生きてきた男だ。
     言葉の意を、今や決裂した灼滅者たちは知る術がない。
     だが、逆を言えば、それは彼のただの推測でしかないものだ。
    「手前の大願は手前が叶えろ。
     生き足掻けよ、野心家。
     それが弔いだろ」
     だから退け――。
     布都乃の言葉に対し、ルイスは横目で彼を見た。剣を構えたまま。
     麻耶が言う。
    「先のことは、困ったその時に考えますよ。
     考えて悩んで憂いて動けなくなるくらいなら、暴走でも構わない。
     ――そう思います」
     男が、吐息だけで笑んだのが静佳には分かった。
    (「最後まで傍で見守る、わ。
     それが責務だと想うから」)
     白炎から畏れが昇りたつ――それを纏うのは蔵乃祐だ――彼は所謂下流の生まれ。貧乏人だった。
     豊かさに飢えた富める者から搾取されるがままの貧者。
     灼滅者に覚醒したきっかけは、社会と環境を憎み、両親と友人を呪ったからこそ。
    「僕の闇堕ち人格は。灼滅者、一般人、ダークネス全てが平等に痛みを分かち合うルイスさんの理想に共感したのかもしれません」
     有形無形の畏れを帯びた斬撃が、ルイスを斬り裂いた。
    「貴方も、爵位級の支配下で必死に足掻く側だったから。
     でも僕は。自分達の一方的な都合で人類を虐げる側にはなりたくない」
     足掻いて、抗って、迷って進んで、また迷う。
     迷いはない、なんて事はない。
     そんなことを彦麻呂は言った。
    「仲間同士でだって意見は割れる。
     自分の判断が正しいか、いつも葛藤してる。
     いつもブレッブレで、矛盾だらけで……」
     最期の抵抗とばかりに、彦麻呂の繰り出したマテリアルロッドを、ルイスが剣で的確に払いのける。
     だがぶれた重心を直ちに据え、体勢を立て直す彦麻呂の動きは速かった。
     ロッドを引き戻し、鋭く打つ。
    「けど迷わないって事は、思考を停止する事だと思うんです」
     大量の魔力を流しこめば、びくりとルイスの体が強張った。
    「私はこれからもきちんと悩んで、悩み抜いた上で自分の信じた道を進みます」
     その決断を暴走と呼ぶか、否か。目で問うた刹那、彼女の魔力が男の中で噴出してくるのを感じる。
    「何か、遺言とかあれば、聞きますけど」
     は、と彼が吐き出した息に、感情が混ざる――。
    「そう……ですね。灼滅者に、暴走をやめ、話し合いで解決する事を、望――」
     朱雀門高校・生徒会長の言葉は、最期まで続かない。
     ルイスの体内から力が弾け、彼は灼滅されたのだった。


     スサノオの中枢を破壊する――精神的にも、体力的にも、疲労のあまりに言葉は出ないままだが、目的だけは達さねばならない。
     大きな体内、力を、アリスは見上げた。
    (「スサノオの力……跡形もなく斬り裂く……」)
     アリスの初撃に続き、灼滅者たちが中枢を破壊するための攻撃を繰りだす。
     ざ。
     白炎が流れる。
     その動きにサフィアが渡里の傍へと駆け戻った。
     灼滅者の身をなぶり、消滅のために白炎が流動的に動く――。
     その白き炎へと手を翳し、軽く握るラススヴィ。残滓は散り、手には残らない。
    (「……最後にもう一度だけナミダ姫に逢いたかった」)
     大地に還っていくスサノオの力。
     蔵乃祐は、去年の臨海学校を思いだした。
     あの時は、ガイオウガの力を鶴見岳に還したのだ。
    「僕は。あの頃の僕が納得できる道を歩んでいるのだろうか」
     呟く声音は、白炎の流れに吸い込まれていく。
     轟々とした音のなか、微かに届くスサノオの慟哭も止んでいった。
     群馬密林に、静寂が満ちていく。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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