巨大スサノオ体内戦~彷徨う力

    作者:九連夜

     殺気の塊としか形容のしようが無い黒々としたものが白い力を侵蝕し、霧散させた。
     その跡に巨大な通路のごとき空間が口を開いたのを見て、スパナやノコギリなどの工具を手にしたチンピラ風の男たちが歓声を上げる。
    「さすがっスね、おやっさん」
    「これなら俺たちの一番乗りは間違いないでしょ」
     無責任に騒ぐ面々を見ながら、今しがた凄まじい殺気を放った男――中肉中背の特徴の無い体つきに無精ひげを生やした中年男は、憮然とした口調で答えた。
    「お前ら、調子に乗るんじゃねぇぞ。前にも言ったが、他にどんな奴らが来るかわからねえんだ。ご当地どもは見た目に反して実力者揃いだし、アンブレイカブルの生き残りには精鋭が多い。最近は日和見を決め込んでいた吸血鬼どもも、この力の存在を知ったら動くかも知れねえ。それに連携攻撃が洒落にならないレベルの――」
    「『灼滅者』っスね。わかってますよおやっさん。数が頼みの半端モノに俺らが負けるわけないっスよ」
     チンピラ男が答えて、手にした雑草焼きのバーナーを振り回して見せる。
    「チッ」
     中年男は小さく舌打ちして、何も答えずに目前の通路を――実体とも幻ともつかぬ「白い力」に囲まれた道を見やると口のなかで呟いた。
    「ま、確かにこの力を丸ごと手に入れられれば、連中に一矢ぐらいは報いられるだろうがな。だがまあ、捕らぬ狸の何とやだ。灼滅されない程度に頑張るか」
     
    「皆さん、群馬密林での戦いはお疲れ様でした。殲術再生弾を使わずにスサノオ勢力をほぼ無力化できたことは、今後の戦いを考えると非常に大きな戦果です」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は教室に集まった灼滅者たちにそう告げると、いつもの柔和な笑顔を向けた。
    「ですが、言わば巫女であったナミダ姫を灼滅した事で、スサノオ大神の力が暴走してしまっているようです。この暴走した力のために群馬密林に15体の巨大スサノオが出現してしまいました」
     密林の戦いに参加した者たちが、撤退の間際に目撃した白い炎。それは全長100m近い巨体のスサノオだという。
    「幸い、悲しそうに慟哭するだけで、その場から移動する事も攻撃する事もありません。このまま放置していても数か月後には力を失って消滅するようなのですが、問題は、このスサノオの力を奪うために、ダークネス達が動き出していることです」
     未だ健在のご当地怪人たちに六六六人衆やアンブレイカブルの残党、さらには吸血鬼勢力所属とおぼしき者たちまで、さまざまな勢力がこの力を狙い我が物としようとしているらしい。
    「具体的には、巨大スサノオの体内にある力の中枢を破壊することで力を奪うことができるようです。皆さんには、ダークネスが侵入した経路から巨大スサノオ内部に侵入し、先行するダークネスを撃破した後、皆さん自身の手で中枢を破壊して、その力を他のダークネスが使用できないようにして欲しいのです。今回、対応をお願いするのは……」
     六六六人衆の残党の一群。マンチェスター配下の男に加え、最近闇堕ちしたらしいDIY工具の得物を手にした4名。
    「彼らはスサノオの体内に道を切り開きながら進んでいるので、その後を追えば当然ながら気づかれて正面戦闘ということになるでしょう。DIY組はダークネスとしても大したことはありません。個人差はありますが戦闘力は皆さん個人と同じかせいぜいちょっと上という程度、戦いにも慣れていないのできちんと連携を取って戦えばさほど脅威にはならないでしょう。問題はリーダーの男です」
     名は不明、通称『おやっさん』。あだ名の通りに見た目はさえない中年男だがランキングが残っていれば四百番台かひょっとしたら三百番台に位置していたかもしれない手練れで、手にした太い棒――戦棍から妖の槍とロケットハンマーを合わせたような多彩な技を繰り出す難敵だという。まともに戦えば少なくとも重傷者が出ることは避けられず、さらに悪い結果となる危険もある。またスサノオの体内という状況が戦闘に何らかの影響を与えないとも限らず、決して楽観はできない状況だ。
     ですが、と姫子は続けた。
    「幸いというか、その『おやっさん』は無理はせずにとにかく生き延びることを重視するタイプのようです。配下全員が斃されるか、あるいは当人が灼滅の危機を感じるところまで追い込めばむしろ撤退を考えるでしょう」
     今後のことを考えれば灼滅しておくに越したことは無いが、窮鼠猫を噛むで撃退されたりあるいは闇堕ち者でも出したら逆に問題が拡大する。そのあたりの判断は皆様にお任せします、と告げると姫子は再び微笑んだ。
    「皆様の努力でせっかく手にした大戦果です。ここでスサノオの力を再び大地に還して、作戦を完遂してください。皆様ならできると信じています」


    参加者
    神虎・闇沙耶(鬼と獣の狭間にいる虎・d01766)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)
    諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)
    榎本・彗樹(自然派・d32627)
    貴夏・葉月(勝利と希望の闇中輝華イヴ・d34472)

    ■リプレイ

     悲しげな鳴き声が密林の上に響き渡っていた。
     緑の木々の合間にそびえ立つ白い塔のような異形の巨狼、スサノオたちは、主を失った獣が上げる嘆きの咆哮をただ冬の空に向かって上げ続ける。
     その体内を闇の力に大きく抉られて、己の内に侵入されることすら気に留めることもせずに。
    「スサノオの慟哭とは……。消え行く自分を嘆いているのか、それとも……」
     緑の迷宮を抜けて巨狼の足下に辿り着き、さらにその足の付け根の部分に空いた空洞へと足を踏み入れながら、小柄な猫の姿の紅羽・流希(挑戦者・d10975)は眼に微妙な感慨の色を浮かべた。
    「彼らの頭(かしら)、いえナミダ姫を討つのは当然でしたね。ダークネスに大規模組織活動されても困りますし」
     答えているようで答えになっていない言葉を投げたまま、貴夏・葉月(勝利と希望の闇中輝華イヴ・d34472)は目隠しをつけた顔を前方に向けて冷然と歩き続ける。
    「ま、いずれにしても、ナミダ姫が残したスサノオの力、利用されるわけにはいかねえや」
     柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)が肩を竦めてみせた。
    「しかしなんやえらいことになったなぁ」
     普段と変わらず飄々と、周囲を見回しつつ歩みを進めるのは諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)。
    「どうなっとんのやろ。ほら、これ」
     無造作に手を伸ばす。生物の体組織のようにも見える壁は力を加えるとぐにゃりと歪み、生物とも魔のものともつかぬ異様な手応えを伊織の腕に伝えていた。
    「……まさか七不思議に加えられんやろしなぁ」
    「どういう理屈か分からないけど、急いだ方が良い」
     聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)の無愛想な声がその場の緊張感を取り戻させた。皆の歩みがわずかに速まる。そう、敵は目前。そして殲滅に成功しなければ大地から生まれたこの力は敵のものとなる。
    「そうだな。この力、在るべき場所に還そうか」
     言いかけた榎本・彗樹(自然派・d32627)の足が唐突に止まった。
    「……奪われて好き勝手に使われる前にな」
     眼がわずかに細まり鋭く前方を見据える。前方、霧のように漂う「力」の残滓の向こうに人影が浮かび上がった。四つ。いや五つ。
    「ああ、きっちり大地に還してやるのが討った俺達の務めだろう……と、どうした康也、腹でも減ってんのか?」
     得物のクロスグレイブ『証明の楔』を構えかけて、高明はそれまで傍らを無言で歩み続けていた弟分を見やった。
    「何でもねえ。スサノオの力……てめーらに持って行かせたりしねーよ」
     首を一つ振って答えた槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)は顔を上げ、戦意というにはどこか不安定な殺気を孕んだ声を前方の人影に向かって張り上げた。
    「俺が、食……いや、ぶっ飛ばす……!」
    「そいつぁ、困るな」
     長大な戦棍を担いだ中年男が、返事と共に霧から抜け出した。続いて脇からチンピラめいた風体の若者たちが次々に姿を現す。
    「こいつらッスね。さっさとやっちまいましょうよ」「おやっさん!」
    「まあ待ちな」
     逸るチンピラたちを手で抑え、中年男は無精ひげを掻きながら彗樹たちをざっと見回した。
    「あんたら灼滅者だろ? 後から来て丸ごと横取りってのもひでえ話じゃねえか。俺ぁ平和主義者なんだ、山分けでどうだい?」
     微笑を含んだ問いかけに答えるように、仲間たちを護る位置に神虎・闇沙耶(鬼と獣の狭間にいる虎・d01766)が進み出た。
    「そういう冗談は嫌いじゃないが、こちらも仕事でな」
     かぶった仮面の下から発せられる苦笑まじりの言葉に、男はさらなる苦笑で応じた。
    「どんな仕事だい?」
     問いに対する闇沙耶の答えは明瞭で、かつ正直だった。
    「敵の殲滅だ」
    「そうかい。じゃあ、仕方ねえな」
    『おやっさん』は納得したように頷いた。頷きながら予備動作無しで戦棍を振るった。想像を超える長さに伸びたその先端が忍魔の胸に突き立ちそうになった瞬間、闇沙耶と康也の影が同時にうねり、叩き落とした。
    「お、場数を踏んでるねえ」
    「戯れは無用」
    「ハッ」
     感心した男に向かってすかさず葉月の矢と、猫から人の姿に戻りながら飛びかかった流希の斬撃が飛び、しかし弧を描いて引き戻された戦棍に弾き飛ばされた。
    「ま、まってくださいよ!」「この野郎、おやっさんに手を出しやがって!」
     あわててチンピラたちが駆け寄り、そこへ残る灼滅者たちも一気に押し寄せて。
     巨狼の体内での戦闘は、そんな風に始まった。

    ●チームワーク
     強敵とまでは言えない。だが決して弱くはない。
     戦いが始まって始めて間もなく抱いた、それが葉月の感想だった。
     ノコギリと植木の手入れ鋏を持ったチンピラが前に出て暴れそれを『おやっさん』が的確に護る。後方からは鎌を持つチンピラが呪いの力を振りまく。エクスブレインの情報にあったバーナー使いは味方に護られ、無視はできない精度で皆に向けて炎を飛ばし、あるいは仲間を癒やしていた。
    (「……手練れとは聞いたが予想以上だな。別の意味でもだ」)
     素早く振るったナイフを戦棍にはじき返され大きく跳び下がった闇沙耶はちらと右側方を見やる。視線を受けた忍魔はチンピラの一人に蹴りを叩き込みながら無言で頷いた。
    (「ああ。こいつら、ゴロツキ以下の10人よりもよほどやっかいだ」)
     六六六人衆ジョン・スミスの文字通りの工作によって大量に闇堕ちしたDIY六六六人衆の集団を二人はそれぞれ片付けたことがあり、その実力のほどはよく知っていた。が。
    「この作戦、最終目的はスサノオの力だがな」
     掲げた標識で仲間たちにイエローサインの加護を送り続けながら、戦況を見て取った彗樹がそう口にする。
    「ああ、あいつを逃がすわけにはいかない」
     ノコギリチンピラの攻撃にカウンターで逆袈裟の一刀を打ち込み、直後に飛んできた鎌の魔力を受け流しながら流希が返答する。
     かつて彼が相対したのは、手に入れた力に溺れ灼滅者たちの誘導に簡単にひっかかった、ダークネスとしての矜持すら持たぬ阿呆共だった。だが今、流希の目の前でDIY道具を手にしたチンピラたちは紛れもない集団戦闘を繰り広げていた。もし短期間で彼らをここまで仕込んだのが『おやっさん』なのだとすれば。
    「迷ったときは基本に帰れ、やな」
     軽く髪を掻きながら、伊織は散歩にでも誘うように声をかけた。
    「神虎の兄さん、行きまひょ。皆さん、あとは頼みますわ」
    「おう!」
     闇沙耶が真っ先に答え、皆も弾かれたように応じて、フォーメーションを組み替える。伊織と闇沙耶はおやっさんを挟みその動きを封じる位置に。近距離攻撃専門の流希と高明のライドキャリバー『ガゼル』はノコギリと鋏の抑え。そして残りは――。
    「くらえ!」
    「ぎゃあ!」
     忍魔が掲げたロッドの虎の口の部分から強烈な稲妻が迸り、後方から炎と煙を振りまいていたチンピラを直撃した。
    「多少の無理があっても作戦通りに、か」
     掌の上に呼び出した風を刃に変え、彗樹も容赦なくバーナー男を切り刻む。
    「大丈夫か、康也」
    「心配すんな、高兄。……ぶっ飛ばす」
     己を気遣う兄貴分の声に何かを振り払うように大きく頭を振って応え、康也は狼のように姿勢を低くしたまま、その身を取り巻く金属の帯を一気に敵へと解き放った。
    「よし、やるぜ!」
     すかさず合わせた高明のそれと共に、一対のダイダロスベルトは螺旋を描いてバーナー男を直撃した。慌てて脇のチンピラが鎌を掲げてフォローに入るが、灼滅者たちの集中攻撃には対応しきれない。
    「おやっさん、助けて!」
    「ああ、今そっちに……」
    「余所見は止しい」
     ギン、と。
     行く手を塞ぐ封鎖線のように伊織のダイダロスベルトが伸び、飛び出しかけたおやっさんの戦棍と噛み合って嫌な音を立てた。その背後から闇沙耶が迫るが、後ろも見ずに繰り出された戦棍を腹に受けて一瞬、膝が落ちる。おやっさんはにやりと笑った。
    「いい連携だ。が、俺を二人ごときで止められると……」
    「違います」
     説明を省いた淡々とした言葉は、むしろ断罪のそれだった。直後に飛来した矢と霊撃の同時攻撃を避けきれずに男はを歪める。
    「癒やしを」
     己のビハインドたる『菫』を引き連れた葉月は次の弓に治癒の力を込めて闇沙耶に向け、己に課した役割を冷静冷徹に果たしていく。
    「この! くそ、どけぇ!」
    「どけませんねえ」
     仲間の危地と見て取ったノコギリチンピラが得物を振り回すが、流希はあくまでものんびりした風情でその動きを封じ込める。キャリバー『ガゼル』も少なくない損傷を負いつつもその任務を果たしているようだ。
     そして数分。
    「そ、そんな……」
     集中攻撃でボロボロになったバーナー使いが呻いた。
    「先ずはひとつ!」
     これで終わり、と忍魔が叫んだ。打ち合わせた両手の間から生み出された風の刃は過たず男の上半身を切り裂き、そしてバーナー男は闇と化してその場に消えた。
    「ちぃっ!」
     呻いたおやっさんに向けて右手に呼び出した炎の剣を叩きつけながら、闇沙耶は仮面の下から宣言した。
    「ここからは俺達が攻める番だ」
     相手に少なからぬ打撃を与えつつもそれ以上に攻撃を浴び、もってあと数分という状態になっていた彼はそのまま大きく飛び離れる。
    「せやな。俺らはいったん、退場させて貰いますわ」
     葉月と菫の援護をうけてなお深手を負っていた伊織は、下がりながら右手を挙げた。その手を叩いて、入れ替わるように流希が走り込んだ。勢いを殺さず愛刀『堀川国広』に闇を纏わせ、袈裟懸けに全力で打ち込んだ。受け止められた。鍔迫り合いの状態から流希は挑発めいた言葉を投げる。
    「お前らは碌な事を考えないからな、阻止させてもらおう。ついでに、マンチェスターの居場所も吐いてくれると嬉しいが」
     中年男は苦笑で応じる。
    「知らねえよ。知っていても教える義理はねえがな!」
     絡み合った戦棍と刀が離れる。その隙を縫うように狼めいたしなやかさで近づいた康也が、すれ違いざまに鋭い爪の斬撃を打ち込んだ。
    「それならこちらも用は無い」
     赤い色が周囲に煌めいた。彗樹が掲げた通行禁止の交通標識は、そのまま相手の存在を禁止するかのごとくにおやっさんに向けて叩き込まれた。
     続いて忍魔、さらに主の高明と位置を入れ替えたガゼルも包囲に加わり、葉月は引き続き全体を見ながらの援護を続ける。前後中衛の役割分担は変えぬままに一瞬で戦闘隊形を入れ替えたその動きを見て、ノコギリを手にしたチンピラが悲鳴のような声を上げた。
    「なんなんだよこいつら!」
    「だから言ったろ、連携が洒落にならねぇってな。よく憶えとけ」
    「いや、悪いがそんな余裕は」
     敵同士の会話に高明が割り込んだ。すでに流希からかなりの手傷を受けていた彼に、翼めいた意匠の断斬鋏を容赦なく突き立てた。
    「くれてやらねえ」
    「あ……」
     呻き声一つを残して、ノコギリを抱えたチンピラの姿も消え失せる。
     それきり言葉の応酬は途絶え、時折悲鳴と苦鳴が上がるままに、しばしただ無言で刃が交わされて。
     やがて。
    (「形勢はこちらに傾きましたか」)
     戦場の色合いの変化を葉月は全身で感じ取った。
    「あとは敵の援軍でも無ければ」
     小声で呟いた、その時だった。
    「……!?」
     彼女は弾かれたように上を向いた。何かの力の奔流を確かに感じ取った。そしてそれは降り注いだ。肩で息をし始めた『おやっさん』の全身へと。
    「おおおっ!」
     中年男は歓喜の叫びを上げた。その光景に真っ先に反応したのは康也だった。
    「あいつ、スサノオの力を、喰って……!」
     己が求めたことを敵がやっている。その事実に心の内の飢餓感を刺激された康也は迷わず飛び出した。
    「ぶっ飛ば――いや、喰ってやる!」
     狼の爪そのままに振り抜かれた一撃が中年男の胸板に突き刺さった。致命傷だったはずのその攻撃を受けて、『おやっさん』はにやりと笑った。
    「まだだ」
     戦棍が振り下ろされた。いや、突き降とされた。
     先ほどまでの戦棍の動きが旋風なら、これは落雷だった。背中に突き立てられた戦棍はひびが入らんばかりの勢いで康也を床に叩きつけ、そのまま動きを止めさせた。
    「おお、こりゃすげえ。これがスサノオの力ってやつか?」
     おやっさんはニッと笑い。そしてそのまま踵を返して走り出した。奥ではなく、出口に向かって。
    「え!? ここから反撃じゃ……」
    「馬鹿野郎、余裕のあるときに逃げんだよ!」
     コントのようなやりとりよりも灼滅者たちの反応のほうが早かった。
    「優先順位に変更なしや!」
     伊織の声を待つまでもなく、皆が一斉に走り出していた。チンピラたちを置き去りに、中年男の背を追いかける。
    「逃げるな、この……」
     真っ先にその背に迫り、忍魔はふと気がついた。
    「おやっさんじゃ呼びにくい。名前を言え、名前を!」
     振り向きざまに振られた戦棍に肩を抉られつつも構わず懐に入り込み、至近距離からフォースブレイクを叩き込む。
    「次の機会にな!」
     捨て台詞まがいの言葉に構わず迫ったのは闇沙耶と流希。影が巻き付き、黒い呪いが足を縛る。おやっさんはよろめき、だが振り返りざまに戦棍を振るった。最大級の一撃だった。
    「「!!」」
     二人は声も発さず崩れ落ちた。そのまま背を向けて逃げようとしたおやっさんの足を、伸びた腕が掴んだ。
    「逃がしませんって」
     倒れてなおマイペースの流希の表情に何を感じたか、おやっさんの動きがわずかに止まった、そのとき。
     黒い颶風と銀白の輝きが駆け抜けた。それはおやっさんの胸板を今度こそ貫き、床に叩き伏せた。
     魂で肉体の限界を凌駕したか。一度は倒れ伏したはずの康也だった。
    「その力……」
     仰向けに倒れたおやっさんにふらふらと歩み寄る、が。
    「こりゃ、お前らにゃ無理だよ。……あーあ。俺も焼きが回ったか」
     最期の苦笑を康也に向け、そのままおやっさんの姿は光と化して消滅した。

    ●終焉
     そして逃げ遅れたチンピラたちを片付け、肩を貸し合い、8人はスサノオの奥に辿り着いた。そこにあったのは、ただ「力の塊」としか表現のしようのない何かだった。
    「コレが中枢……」
     闇沙耶が無理を押して語りかける。が、「力」は何の反応も示さない。
    「食えない、か」
     康也が肩を落とした。慰めるようにその背を高明が軽く叩く。
    「仕方おまへん。そいなら」
    「ですねえ」
     伊織の視線を受けて進み出た流希の手には日本刀。
    「協力します」
     葉月が短く告げ、手にしたリングを振りかぶる。
     同時に振り下ろされた。
    「力」はそのまま抵抗もなく霧散し、ほどなくして周囲の空間全体が震え始めた。おそらくはスサノオの存在そのものが揺らぎ始めているのだろう。
    (「これで在るべき場所に還るだろう」)
     彗樹は心の中で呟くと、今は亡き誰かのために短い祈りを捧げた。
     一つ溜息をついて、気持ちを切り替えた忍魔が明るく皆に声をかけた。
    「……帰ろう。俺達に出来ることは全てしたんだから」

    作者:九連夜 重傷:神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766) 紅羽・流希(挑戦者・d10975) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ