巨大スサノオ体内戦~白残火

    作者:西灰三


     嘆きにも似た咆哮を上げる白炎の巨体。その足元に異形の頭を持つ存在達が集っていた。
    「このように攻撃をすれば穴を開けられるようです」
    「ふむ、ならば奥の部分に中枢があるはずだ。それを破壊すればこの力を得られるだろう」
     ペナント怪人の報告を受けた牛頭のソロモンの悪魔が頷いた。彼らはご当地怪人陣営の者達であり、ナミダ姫が討たれ残ったスサノオの力を求めんとここに来た者達である。
    「それでは行きましょう、グローバルジャスティス様のために!」
    「グローバルジャスティス様のために!」
     もっとも、この陣頭指揮を取っているソロモンの悪魔の内心は違う。
    (「フフフ、せいぜい今のうちに言っているがいい。貴様らなぞに渡してなるものか」)
     反骨の心を秘めたソロモンの悪魔は決してそれを口にすることはない。決して付けられた部下が松阪牛ペナント怪人だったからとか、腹いせではないはず。断じて。
    (「この力さえあれば我らソロモンの悪魔の再興も夢ではない……!」)


    「みんな群馬密林での戦いお疲れ様! 大金星だったね!」
     有明・クロエ(高校生エクスブレイン・dn0027)が出迎えた灼滅者をねぎらう。
    「それで今回皆に来てもらったのは、その後に残った巨大スサノオなんだ。これが15体くらい暴走の結果出てきちゃってるんだ」
     ただこのスサノオ単体が被害を及ぼすという話ではない。100mほどある巨体の、その喉から悲しそうな慟哭を上げるだけだ。
    「このまま放っといても数カ月後にはなくなるんだろうけど、この力を狙っていろんな勢力がこのスサノオの元に集まってきているんだ。内部に入って中枢を壊して力を奪うつもりみたい。だから皆にはその後を追いかけて、ダークネス達を倒してから中枢を破壊して他の組織に使われないようにしてほしいんだ」
     つまり今回は他の組織の強化の阻止が目的となる。
    「それで皆にはそのうちの一体の所にご当地怪人陣営のソロモンの悪魔達を倒してきてほしいんだ。ソロモンの悪魔達が掘った穴を追いかければ見失うことはないよ。ただ、気付かれるから奇襲とかは無理。真正面からの戦いになるよ」
     続いて敵の戦力についてクロエは説明する。
    「敵は牛頭のソロモンの悪魔に、ペナント怪人が5体。ソロモンの悪魔はスナイパーで、ペナント怪人がクラッシャー2体にデェフェンダー3体。牛頭は魔法使いとマテリアルロッドのサイキックを、ペナント怪人は殴ったり蹴ったりステーキを食べたりするよ。温度差凄いね」
     それで、ともう一つ注意を付け加える。
    「このソロモンの悪魔の方なんだけど、戦闘中にスサノオの力が流れ込むんだ。回復したりダメージが増えたり。実際に本人が行動してるわけじゃないから、気をつけてね」
     常に起こるわけでは無いが、十分に想定に入れておく必要があるだろう。
    「スサノオの遺した遺産だけど、奪われれば次の戦いの燃料になると思う。そうならないようにみんなには頑張ってきてほしいんだ。それじゃ行ってらっしゃい!」


    参加者
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)
    栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751)
    雨積・舞依(黒い薔薇と砂糖菓子・d06186)
    椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)
    鏡峰・勇葵(影二つ・d28806)
    ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)

    ■リプレイ


     白く燃え盛るような体毛が見上げるほどに伸びている。ここに来るまでに遠目にもその姿は目に入っていたが、間近に見ればこれが大きな力であることは簡単に理解できる。
    「でけえな……これを狙ってくるって事は鼻が利くな」
     仮面越しにこの姿を覗いた天方・矜人(疾走する魂・d01499)の言葉が漏れた。なるほどこれならばどの組織も欲しがるには違いない。
    「近くで見るとやっぱり大きいですね……!」
    「何とも巨体なスサノオだね、その力を悪用されたらただ事じゃないよね」
     栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751)の言葉に鏡峰・勇葵(影二つ・d28806)が頷いた。既に多くの組織の火種となっている。
    「一難去っても……戦いは続いていくものね、一つずつ邪魔させてもらいましょうか」
     ため息をついた雨積・舞依(黒い薔薇と砂糖菓子・d06186)は呟きながら歩を進め始め、周りの灼滅者達もならう この巨体の周りを巡りながら、先んじたソロモンの悪魔達が開けた穴を探す一行。スサノオ勢力の遺したこの力については、各々に思うところがあるようだ。
    (「この力の源は……」)
     近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)の脳裏にはナミダ姫の暗躍が浮かぶ。昭和新山の楔にブレイズゲート、その他の方法で奪われた力。
    (「地に還したら、巡り巡って元の持ち主の元へと戻って欲しい」)
     かつて昭和新山にて自らの手で多くのイフリートを殺めた己の手を見る。それでもそんな心の動きを変わらない表情の奥に押し込めて足早に進む。
    (「イフリート、そしてスサノオか……」)
     椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)にとって片方は家族の仇、そしてもう片方はその仇から力を奪い策を弄して来た相手だ。どちらにせよ灼滅者が戦い下してきた者達だ。
    (「それでも、共に戦った壬生狼たちやナミダ姫の事を思うと今回の決着については色々と思うところはある。だから、彼らの死をこんな形で利用しようとする奴らは許せない」)
     一時とは言え肩を並べた事もある相手だ、彼にとって彼らの戦いで残ったものを他者に奪われるのは矜持に反する事なのだろう。
    「えっと、ここでしょうか」
     ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)がサイキックで開けられたと思わしき穴をちょうどくるぶしの辺りに発見する。
    「さあて、行きましょうか」
     くるりとバスターライフルとリィンフォースを呼び出した神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)がスサノオの体内に足を踏み入れる。この奥にソロモンの悪魔達がいるはずだ。


    「隊長! そろそろ休憩してもいいでしょうか!」
    「むう、よかろう。私はまだ進ませてもらうぞ」
    「おお、ここまでグローバルジャスティス様のために力を尽くしていただけるとは! ……直ぐにステーキを食べて戻ります!」
    「フ、ゆっくり味わっているといい」
    (「この力を得るときに邪魔されるわけには行かぬのでな……」)
     そんな和気藹々としたやり取りの中に響く轟音と叫び声。
    「残念、外れたわね」
    「ちょ、もう少しヒーローっぽくだな!」
     容赦なく先制攻撃をしようとした由衛の動きに矜人が思わずツッコミを入れる。
    「お前達……灼滅者か! 思ったより動きが早いな」
    「アンタ達もね。こんなに早く動くなんて独り占めしたくなるぐらい魅力的な力のようね」
     明日等は円盤状の光線を放ち、敵前衛にまとめて放射する。その多くは敵のディフェンダーに遮られるがそちらこそが目的。
    「当然だ。貴様らこそこれを取りに来るとは中々頭が回る」
    「これは俺には必要ない!」
     武流が吠えて先程攻撃を多く受けたペナント怪人に向かって蹴りを放つ。
    「下手したら闇落ちしそうだしな。オレもやめとくぜ」
     雷を纏った拳で同じ相手を狙った矜人だがこちらは別のディフェンダーに阻まれる。
    「ならば何故だ。灼滅者!」
     魔法の矢を由衛に放ちながら牛頭は問う。それを彼女の前に出た綾奈が手でそらすように受け止めて言葉を返す。
    「後始末まです! 消したと思って、後で大火事にならないように!」
    「つまりこの力を大地に返すというのか!」
    「そうよ」
     端的に肯定し守られた彼女はその場の空間から熱を奪う。
    「ス、ステーキが冷める!」
     対象となったペナント怪人達の叫びが上がる。だが躊躇せずに灼滅者達は畳み掛ける。
    「うろたえるな! 落ち着いて集中攻撃を今の女に向けるのだ! そこが突破口だ!」
    「簡単にはさせない! 銀狼帯よ、仲間に纏いて、その身を守る鎧となれー!」
     勇葵が彼女を守る様に銀色の帯を伸ばす。その間にソラリスがセイクリッドクロスで敵を削っていく。
    「……ところでそんな身の丈に合わない力を手に入れてどうするの?」
     伸びるダイダロスベルトと共に舞依が問う。それに対し牛頭が答える前にペナント怪人の一人が叫ぶ。
    「当然グローバルジャスティス様のために使うに決まっているだろう!」
     あ、ペナント怪人の後ろで目を反らした。


    「くっくっく、先程までの威勢はどうした」
     戦って数分、灼滅者達は不利な状況に陥っていた。
    「まさかこちらの壁役から攻撃してくれるとは思わなかったぞ」
     牛頭は勝ち誇ったように言い放つ。ディフェンダーは他のポジションにいるものより遥かに倒しにくい。複数いればなおさらだ。その間に他のポジションがフリーになっていればその行動が強化された状態で動いてくる。つまりこの場合だとクラッシャーのペナント怪人の出すダメージがメインとなって由衛を追い詰めていた。
    「回復が間に合わない……!」
     勇葵が回復を行い続けるが、敵の攻撃の苛烈さがそれを上回っている。ラビリンスアーマーの守りで幾分かは防げているが、このままでは長くは続かないだろう。
    「そこまで攻撃力は高くないんですが、これでは……!」
     綾奈が受けた攻撃を分析する。彼女と舞依、そしてリィンフォースの二人と一匹で今のところダメージを分散し続けているが、このまま集中攻撃を受ければ先に倒れるのは由衛だろう。
    「……困りましたね」
    「ここで諦めたら帰してやらんでもないぞ」
    「いえ、違うことです」
     ソラリスの呟きに勝ち誇った牛頭が問えば、彼女は口を開く。
    「ペナント怪人のみなさん、あなた方は松坂松阪牛推しですよね」
    「いかにもそうですが」
    「ですがそこの牛頭は……あろうことか仙台牛タン推しなんですよ!」
    「「「な、なんだってー!?」」」
     その場の敵全員が突然の情報開示に攻撃の手を止める。
    「な、何を根拠に……!」
    「そこの牛頭のお尻の模様を見てください! ……あの宮城県の形の紋章こそ動かぬ証拠!」
     ぶっちゃけ見えませんがそこは勢いで押し切る!
    「なぁ、一つ聞きたいんだけどさ。お前的にあれはアリなの?」
     武流が手近に居たペナント怪人に問いかける。目も口もないが困っている様子は伝わってくる、あともう一息だ。
    「そう言えばさっきの質問の答えに返してもらってなかったわね。目を背けていたけど、ちゃんと答えてくれないかしら」
     舞依の再びの問いかけに全員の視線が集中する。牛頭が意を決して口を開こうとした所で煎じて由衛が口を開いた。
    「知っているわよ、貴方が密かに考えている事」
     何を、と言う所で今度は明日等が不敵な笑みを浮かべて口を挟む。
    「……独り占めしたくなるぐらい魅力的な力のようね」
    「力を使って再興する。本当、実に悪魔らしい考えよね」
     今度こそ牛頭が押し黙る。武蔵坂学園の情報戦力は結構強力である。
    「た、隊長……?」
     言葉を発さない牛頭に対し、ペナント怪人達が不安げな視線を送る。そんな微妙な空気を敵側が醸成している中、ソラリスは追加で情報を放つ。
    「そいつ、『ステーキなんてこの歳だともたれて敵わんし健康にも悪い。それよりサッパリヘルシーな牛タンこそ至高!』とか『あんな脂っこいの食べてたら、健康診断で三冠王になってしまうわ!』って愚痴ってましたよ?」
     舌好調である。
    「……この戦闘が終わったら本当のところ教えて下さいね?」
    「お前達、敵の甘言に惑わされるな!」
     混乱に陥りながらも再び戦いの姿勢を取る敵達。その様子に矜人が肩をすくめながら一言。
    「裏をかかれてからじゃあ遅いんだぜ、ご当地怪人さんよ?」
    「私はご当地怪人ではない、ソロモンの悪魔だ! ……は!?」
     この状態でのこの返答である。ペナント怪人達からの信頼を牛頭が取り戻すのは、少なくともこの戦闘中は無理だろう。
    「くっ! こうなったら私一人でも……!」
     指示を聞かずに勝手に戦闘行動を行い始めるペナント怪人を牛頭は当てにせずに雷を呼ぶ。そしてそれが放たれる直前にスサノオから牛頭に対して力が流れ込む。
    「この力があれば貴様らなんぞ、ペナント怪人がいなくとも!」
     攻撃対象は変わらず由衛、だがその前に再び全体の動きを把握していた綾奈が立ちはだかる。
    「貴様ごと滅ぼしてくれるわ!」
    「私達は負けないんだから!」
     されども雷は彼女を焼き尽くすには至らず。それは問答中に治療を行っていた勇葵の動きがあったからこそだ。
    「治療は終わってるよ。あとは倒すだけ!」
     そして足並みの揃わない敵に対し、灼滅者達は反撃の狼煙を上げる。


     櫛の歯が欠けていく様に、敵の前衛が倒れていく。ペナント怪人達は互いをフォローし合うものの、牛頭には積極的ではない。そう言った隙を突いて灼滅者達の刃はついにソロモンの悪魔へと届く。
    「まさかここまで有利に働くとは思いませんでした」
    「この女……!」
     牛頭的には割といい所まで行っていたはずである。だがソラリスの会心の一言で全てが狂い始めた。
    「このまま決着を付けるわ」
     槍を手にした明日等がソロモンの悪魔に接近していく。既に前衛にいたペナント怪人は蹴散らされている。綾奈と舞依によって撃破されている。連携が取れていなければ簡単に撃破されるだけである。
    「おのれ……!」
     スサノオの力で自らに活力を取り戻し反撃を行う牛頭。けれども怒涛の勢いで灼滅者達はそれ以上の攻撃を行う。
    「お前のような奴らにそれ以上この力を使わせるものかよ!」
     武流が吠えて炎を『牙』と名付けた光の剣に込めて斬りかかる。ソロモンの悪魔はたじろぎ、その隙を見逃さず由衛が大きく回し蹴りを放つ。
    「馬鹿め! 貴様だけでも……何!?」
     だがその蹴りはフェイント、本命は縛霊手の一撃。死角からの一撃を受けた牛頭が回転しながら吹っ飛ぶ。そして立ち上がる前に矜人が脊髄のような杖を振りかぶる。
    「スカル・ブランディング!!」
     彼の一撃を受けた牛頭はこの世から消滅していった。

     ソロモンの悪魔達を倒した後、灼滅者達はサイキックで道を切り開きそして中枢へと辿り着く。
    「この中枢、どうすればいいでしょうか?」
     勇葵が首を傾ける。
    「せめてナミダ姫と一緒に眠らせてあげましょ」
     明日等の言葉にその場の全員が頷いた。彼らはそのために来たのだ。武流と由衛が何も言わず武器を手にして、そして振り下ろす。中枢に罅が入ったかと思うとそのまま砕け散る。
    (「ゆっくり、眠ってくれ」)
    (「……自分勝手な贖罪だけれど、これで償いになるかしら」)
     スサノオの巨体が消え、灼滅者達は振り返る。そこにはもう何も残ってはいない。
    (「……これで、また一つ」)
     舞依は自らが戦うべきものが消えているのを確認し踵を返す。まだ彼女の、そして灼滅者の戦いは続く。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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