●Merry Christmas!
今年もクリスマスがやってきた。
クリスマスの街はおいしいものでいっぱいである。
食わねば損なのである。
ここ、武蔵坂学園でも例外なくおいしいパーティが行われるなら尚更――!
「ええっ、今年のパーティではあの巨大クリスマスケーキと武蔵坂一長いブッシュドノエルがまさかの復活するんですか!?」
告知を見たイヴ・エルフィンストーン(高校生魔法使い・dn0012)は素っ頓狂な声をあげた。
生徒達の手で装飾が施され、クリスマスツリーとなった伝説の木の前は、今年もクリスマスパーティーのメイン会場として使用されるようだ。
巨大ケーキとは、過去のクリスマスで登場した生クリーム、いちごクリーム、チョコレートのケーキが3段重ねになった人間の背丈ほどもあるケーキである。ブッシュドノエルのほうは有志の手作りだが、最終的に15、6メートルほどになったという。
「イヴ、実は気になってたんです。でも、両方食べきれるのでしょうか……」
「いや、よく見ろ。『ミニチュア版で再現!』と書いてある」
「今年は『武蔵坂のクリスマス、全部盛り!』がテーマなんだ……?」
鷹神・豊(エクスブレイン・dn0052)と哀川・龍(降り龍・dn0196)の言う通り、今年度のパーティでは学園がこれまでのクリスマスを思い出す様々な料理を用意するらしかった。
七面鳥やローストビーフ、各種ケーキやピザ等の王道クリスマスグルメが並ぶ会場の一角には鍋コーナーが設置され、おめでたい紅白のカニ鍋や、簡易暗室で隔離された闇鍋専用ブースがある。
いっぽう各種の生肉が勢ぞろいした肉コーナーの中央では丸焼き機で牛が丸焼かれ、ステーキやからあげなどの肉料理たちが焼肉ブースの周囲を要塞のように固める。ちなみに、野菜やご飯は近くにはないようなので欲しければ取りに行こう。
お菓子作り体験コーナーでは、用意されたドーナツをチョコやアイシング、ナッツやアラザン等で自由にデコレーションしてお菓子のクリスマスリースを作れるようだ。
土台は他にクッキーやマカロン等、小ぶりのものも用意されているので、気軽に自分だけのクリスマススイーツを作れる。チョコペンでメッセージを書いてプレゼントにするのも良いかもしれない。
もちろん、例年通り差し入れや手作り料理の持ちこみも大歓迎だ。
自慢の郷土料理を広める試食コーナーを開いてみるのも、友達同士で手料理や食材を持ち寄ってホームパーティや鍋パーティを楽しむのも自由。
思い出を振り返りながら懐かしのメニューを食べたり、気になっていたあのグルメにチャレンジしたり、普通に食べたいものをただ食べまくりにくるだけだっていい。
「生徒なら誰でも参加できるそうですから、行ってみましょうよ! 考えて食べないとすぐお腹いっぱいになってしまいそうですが……あっ、お持ち帰りもできるんですね。ふふ、これならどれにしようか迷っても安心です!」
こんなにおいしいものがあると全部食べたくなってしまいますから、とイヴは笑う。
「ツリーがどんな風に変身するのかもとっても楽しみですね。今年もいっぱいいっぱい、五年分のクリスマス、皆さんで楽しんじゃいましょう!」
緋頼が切り分けた手作りイチゴショートに、白焔のお気に入りの珈琲と紅茶を添えて。ドレスアップした【七天】はいつもの四人でパーティだ。
「腕、上げましたね?」
「鞠音、ありがとう。この日の為に準備したんだから」
緋頼は鞠音の拍手に笑顔でVサインを返す。鞠音に捕まり膝の上にお座りしたままの鈴乃は、フォークにケーキを刺した。
「では、鞠音さま。あーんしてくださいなのです」
「……美味しいです」
鞠音の膝は鈴乃の特等席だ。緋頼と白焔もあーん、とケーキを食べさせっこする。やっぱり四人でいるのは幸せだと、二人で頷き合った。
「来年の抱負とか、ありますか?」
「緋頼と鞠音と鈴乃に指輪を、かな」
「指輪、なのですか……?」
鞠音に対する白焔の答えに、楽しみにしてるねと緋頼は返す。それはきっととても大変、だけど良いことだ。遠くを見た鞠音は、膝の上で首を傾げる鈴乃をぎゅっと抱く。鈴乃の笑顔を見て、思った。
――ああそうか、私は今、幸せなのだろう。
「これだけ色々並んでいると、それだけですごいわね……」
「これも美味しいわよ藍晶ちゃん」
並ぶ料理の多さに藍晶と黒曜は目を丸くする。目当てのクリスマスケーキを食べて回り、〆は巨大ケーキ。折角のクリスマスだからと、藍晶はつまんだひと切れを彼の口許へ。
「……黒曜、これ」
恥ずかしそうな彼女に微笑みを返し、黒曜はケーキをぱくり。やっぱり大きいわねと笑いあいながら、二人で食べ進めていく。
「これ、みおが作ったんです、食べてくれますか」
「ん、これならいくらでも行けそうです!」
自作の一口ケーキを持ち込んだ水織は、食べすぎたらいくら灼滅者でも太りますよとイヴに釘を刺す。だが敬厳お勧めのオペラも気になるし、まだまだ足りない様子。
「このビクトリアスポンジ美味しいです。お二人もぜひ食べて下さい!」
「はい! そうだ。もし僕がケーキを焼いたら、イヴさん、食べてくださいますか?」
「勿論です蜂さん。その時はイヴもいい紅茶を準備しますね!」
つぐみにとって今年は10代最後のクリスマス。巨大ケーキやブッシュドノエル、チーズケーキにマカロン。甘味食い倒れに付き合う従兄の千鶴達も張り切りぶりに苦笑……。
「って貴方達の方が食べてるじゃないのヨ!?」
「食べすぎ? そんなことないよ。まだまだいけるよ? あ、たいちゃんケーキ気になる?」
かと思いきや、ビハインドの大智共々食欲が止まらない。目指すはケーキ全制覇だ。
10代は最後でもクリスマスはまた来るはず。その日まで、皆で生き延びよう。
「次はこっちの食べ物を食べに行こうよ!」
「カーリーさん落ち着いて! 全部食べないでなのですうう!」
「ちゃんと皆の分もあるよ!」
空のお皿の山を前に聖也は絶句したが、生き残ったケーキを何とか見つけだす。【夢の里】の面々はカーリーの暴食に負け気味だったが、食べないと勿体ない。聖也と燐も豪華な食事をマイペースに楽しんでいた。
「出てる食事では足りない可能性がありますので」
「あ、私もお洒落なチョコレート菓子を用意してきたのです!」
バスケットに詰めて持参したおにぎりとサンドを燐が出すと、聖也もにっこり笑ってチョコを取り出す。この笑顔が、燐には何よりのプレゼントだ。
喰うだけで飽き足らず創造に奔る【武蔵坂軽音部】。イチが餅と格闘している間にドーナツリース作りは順調に進んでいた。
「ちーたんと葉月は安定の堅実だな」
「発想が平凡とか言わないの葉くん!」
「オーソドックスかもしれないけど、クリスマスらしいじゃん」
二人が選んだのは緑の抹茶味だ。葉月はもみの木をイメージしたドーナツにアイシングの雪を乗せてデコる。
地味さが気になる千波耶が隣を見ると、時生の音符クッキーが目についた。チョコペンで描いた五線紙にマジパンの天使を乗せる。時生のチョコドーナツの上にはマカロンの雪だるま。どちらも歌っている顔だ。
「あたしも何か足したほうがいいのでしょうか……?」
「カラフルなチョコスプレーとか、かけるのどうかな」
ココアの夜空にアラザンの雪と砂糖の星をちりばめた夜奈のリースを見た朋恵は、アドバイスを受けドーナツにスプレーをぱらぱら。歌うロッテの絵を描きサンタ帽を乗せる。
「あ、これならどうだろう」
閃いたイチは徐に四本の串団子を出した。
ぐさ!
「もう少し、可愛い方がいいかな……」
強面なマジパンのくろ丸が、黒蜜と和三盆糖で染まったドーナツの穴に刺さった。怖い。
「みんな良くできてる! と思う」
葉月は言葉を濁した。
「食べるのがもったいない! あ、ぜひ写真撮らせて」
「トッキー、データ後でちょうだいね!」
時生がセットしたカメラに向かって千波耶がピースする。誘われたイヴも作ったリースを持ち、皆でポーズ!
「一さんは作らないんですか?」
「俺は食い専。あ、お前のはお腹いっぱいだからもういいです」
『らしさ』が満載なリースは皆の奏でる音のよう。真っ先に朋恵の作品から狙いつつ、葉が錠にそう言い放つと笑いが起きた。皆といると嬉しくて、楽しい。写真でもうまく笑えていたらいいな、と夜奈は思う。
鼈甲飴の歯車と鍵に囲まれたスチームパンクなドーナツの穴が、一瞬鍵穴に見えた。
錠が今、心の底から笑えるのは――こいつらのお陰だ。
「サンキュな」
胸に空いた大穴を埋めてくれたのは、確かに存在する縁。
「巨大パフェっていうのもロマンが詰まってていいものだぜえ」
「食べましょう……です……!」
煌希と噤はバケツに盛られたパフェを眺めて頷く。【漣波峠】のパフェは皆で一層ずつ作った合作だ。
まずは桃と生クリームたっぷりな煌希の層。王道の瑞々しい桃が好評だ。
二層目はチョコとクッキーを散りばめ、エクレアが入った噤の層。お菓子の家のような見た目も楽しい。
三層目のざく切りチョコスポンジは静の担当。ここには遊び心も盛り込んだ。
「サンタのメレンゲドールを隠しておいたから探してみてね!」
「……生き埋め? 誰か、救出してあげて……」
保達が慎重に捜索する中、気にせずガッとスポンジを取る詠。何か嫌な音がしたような……間もなく煌希が首なしサンタを発掘した。
四層目、抹茶プリンにマロンをちりばめた保の層は和の彩り。ビターチョコのほのかな苦みとふわふわ食感で口直しをしたら、五層目は仙の『しょっパフェ』だ。ここで豆腐クリームに苺とベリーのさっぱり味は嬉しいが……静がある事に気づく。
「底の方ソースの味がするんだけど!?」
「小さく切って入れたらそれっぽくなると思ってビッグカツを入れたよ!」
「え、詠ちゃ……」
大好きなコーンフレークに色が似ていると思ったらしいが……それまで目を輝かせてパフェを食べていた噤はオロオロ。カツを勧めかけられた仙は咄嗟に視線をそらす。
「あ、鷹神さん良い所に。少し食べていかない?」
「……これは本当にパフェか?」
最下層を押しつけ、無事完食しましたとさ。メリークリスマス!
「そこの2人には肉多目になー!」
「明莉さん余計!」
明莉が紗里亜とミカエラを指せば【糸括】は和やかな笑いに包まれた。5年目のクリスマスは何でもありなBBQ、清音の配った飲み物で乾杯だ。
「ワキザシセンセーにビシバシ鍛えてもろた成果、よかったら食べてみて!!」
「おいしいっ。ちょっとジェラシーっ」
「時間はかかるケド炊飯器でカンタンにできちゃうんだぜ。牛肉に塩コショウして……」
料理男子なポンパドールの手作りローストビーフの味は杏子も唸る程。作り方をレクチャーする弟子の成長ぶりを見ていた脇差師匠は、肉やマシュマロを焼きつつしみじみ頷く。
「そうそう、炊飯器って何気に便利だよな」
「椎那総菜店クリスマス名物、ローストチキン! 白粒胡椒が効いてて美味しいですよ♪」
紗里亜の実家名物の隣には、千尋が作ったチーズが蕩けるベイクドポテト&ほうれん草とベーコンのキッシュ。輝乃の野菜ポトフと海鮮クラムチャウダーも並ぶと、お肉の串を両手に持ったるりかがいい匂いに飛びついた。
「にっくー!」
「野菜もちゃんと摂りましょう」
紗里亜がどん! と置いたサラダの塔を隅也はまじまじ見た。無表情なりに衝撃を受けているようだ。
「……過去のパーティ、全部のせとは聞いたが……相当な規模だな………」
「美味しくて体が暖まるわぁ……お、手巻き寿司もあるじゃないか」
クラムチャウダーでほっと一息ついた千尋と腹ペコな輝乃が目をとめたのは、その場で作れる手巻き寿司。
「ポンパドールのローストビーフを巻いてみようかな」
「あたし、海老マヨーっ! すみや先輩は?」
「ではサーモンといくらを、お願いしたい」
用意した隅也へのお礼にと、杏子は輝乃達の力を借りて一生懸命ご飯を巻く。皆で寿司作りを楽しんだら、そろそろデザートの出番。
「………わたしはクッキーを焼いてきたわ………」
チョコチップやバター、抹茶等11種が味わえる清音のクッキーに杏子のカップケーキ、ニコの故郷ではクリスマスの定番な菓子パン、シュトーレン。初体験の味に明莉達も興味津々だ。
「肉乗せても美味いかな」
「にっくー!」
「……其の、向いていないのではないかな……本当は数週間かけてゆっくり食べるものなのだが」
今日は細かいことは言いっこなしだ。頭が肉一色の人々には黒パンを渡しつつ、ニコは皆で食べようと微笑む。
甘いお菓子に合う熱い紅茶を用意したミカエラが、トリに力作のケーキを出した。金の飴細工の炎に包まれた枝角風ブッシュドノエル、その完成度はさすが製菓学部。
「……コレ食べにくいよね~。ん、取り分けにくいから、壊しちゃえ~♪」
「って壊すんかい!?」
「待って!?」
脇差のツッコミと共に輝乃が慌てて写真を撮る。
……ぐぢゃ!!(力作が大破する音)
「あーー!!」
「落ち着くね、この空気♪」
「ボク、マグロ戦車にまたがるカピバラさん出そっか?」
「……」
今度コレクションにホタテも追加してなと、明莉は顔色が悪い鷹神を手招くるりかに海鮮串を渡す。このクラブ来年もカオスだろうな、と思いつつ。
毎年恒例【ガード下】肉祭り、今年は七面鳥一羽丸ごとチャレンジ!
だった筈。
「うんま! やっぱ日本人は唐揚げだな!?」
「唐揚げや焼肉のほうが米が進むよな」
「トールさんごはんおかわり要る?」
「なんで早々に別のもん喰いだしてんだオイ!」
暴力的な食は若者の特権とばかりに漣香達は平行で焼肉をしていた。貫の持ってきた野菜は減らない。銀が確保し、丁寧に切った七面鳥……一番食べているのは泰流である。
「さて焼けるのを待ってた豚トロを……」
「隙あり!!」
「あっあー!? ひどいそれオレの!」
肉を横取りした千巻は、豚トロと皿の上の七面鳥をぺろりと平らげおいしさに頬を緩めた。
失意の漣香にプリンで餌付けされ、貫の膝の上ですやすや眠るらいもん。癒しのぽっこりお腹に千巻は目を輝かせる。
「貸し出しもやってますよぉー」
「湯たんぽさん、おててあっためてー?」
「……ったく、ほんっとお前ら変わんねえな」
こんな光景も銀には最早日常だ。別に、いいけど、な。
イヴ達三人が【リトルエデン】の前を通ると、香乃果と穂純が焼いた高級肉(と野菜と海鮮)を峻が凄い勢いで食べていた。
「シャトーブリアンが焼けましたよ。一緒に如何ですか?」
「高級すぎだろ……俺達が食べて良いのか?」
誕生日祝いも兼ねてです、と香乃果が笑う。峻からは鳥と龍の箸置きを。
「よく死にかけたが充実した年だった。豊から無茶振りされると意欲が湧いてくる」
「今年は本当に危険な時もあったな。無事で良かった」
穂純からは駝鳥のカードスタンド。龍にはクリスマス色なミサンガとかのこ似な犬柄の手拭いだ。
「盆と正月が一緒に来た……!」
「クリスマスも誕生日も両方とも大事だよ。だからプレゼントは2個!」
最後は香乃果から鷹のネクタイピンとつるし飾り、皆にお揃いの雪結晶柄小物入れを。もっと思い出を増やそうと、願いを込めて。
「トーヤ! 肉タワーをバックに写真とろ!」
二人でポーズを決めればSNS映え抜群の写真が完成。今年も増えたクリスメモリアルを桃夜が見返している間に、腹ぺこクリスは肉を焼く。勿論トーヤの好きな味、火傷しないようふぅふぅして。
「はい、あーん!」
「うんまい! タン塩最高! はい、クリスもあ~ん♪」
「ありがとーう! んんー! うまーい」
クリスも上カルビを頬張り満面の笑みを浮かべる。バカップル上等、楽しく美味しくロマンチックにメリークリスマス!
食べる仕草に見惚れていたら不意に目が合い、想々は眼前の柔らかな笑みから視線を外す。想々が美味しそうに食べるから頬も緩むのだ。悪戯心に誘われ、シルキーは七面鳥をフォークで掬う。
「はい、あーん」
「うぇあ、あーんですか!?」
全てが綺麗な彼女には秘密もきっと見透かされている。だから、素直に嬉しい感情だけを。おずおずと料理を食べた想々は真赤な顔でおいしいです、と呟く。
次はデザートを、とシルキーは笑む。今日は特別な日、欲張りになったっていい。
【刹那の幻想曲】ではローストビーフが大人気。ゆまのミートローフや雄哉の一口サンド等、持ちこみ品も豪華だ。日ごろ食べられないものをと碧はターキーを選び、薫は焼きとうもろこしをもぐもぐ。目移りする空凛の一方で、明日香は脇目もふらず肉だけをもぐもぐしていた。
「わぁ、何か凄く幸せな気分になるよ! クリスマスを満喫してる感が出て来た!」
ごちそうに囲まれた蛍姫の嬉しい悲鳴が響く。食後はスイーツタイム、愛莉が提供する紅茶のロールケーキは自宅のカフェで焼き上げたこだわりの一品だ。
「家から紅茶の茶葉を持ってきたので、淹れますよ」
薫が淹れる紅茶の香りが広がる中、ゆまもお楽しみの手作りプディングを切り分ける。
「クリスマスプディングには指輪と金貨と指貫が入ってます! 誰に当たるのでしょうか、楽しみですねー!」
どきどきしながら、せーのでスプーンを入れる。金貨を当てたのは薫だ。
「将来有望ってことですね!」
「こういうのは初めてです」
「美味しかったし素敵! ゆまさんありがとう!」
指輪を手に入れはしゃぐ蛍姫に、次はウエディングケーキを作りますねとゆまはにっこり。濃い目の紅茶を飲みながら、雄哉はふと会場を見渡す。人は多いが居心地は悪くない。
「今までは、お祭りやパーティも素直に楽しめなかったのですが、やっと、楽しめるようになってきました」
皆さんのおかげですと笑顔を浮かべる大切な人の姿に、ほっとした。
「薫さん、この紅茶、どこで手に入れたの? ……あっ」
プディングの端から遅れて出てきた指貫に愛莉も思わず笑ってしまう。
行き交う皆が楽しそうで、幸せな空気に満ちている。こういう日常が、きっと大切なんでしょうね――空凛はしみじみ思う。
「……しあわせだ……」
「……こういう日がずっと続けば、本当に素敵ですよね」
満腹で夢うつつな明日香の傍らには、ビハインドのやまとが寄り添う。今日は皆、全てを忘れて楽しい一時を。シェア用のケーキを取り分けながら、碧は彼女の寝言に笑みを返した。
会場を回っていた龍は謎の餃子ゆるキャラ『ウザーくん』が気になった。
「……どこかで会った事ない?」
可愛く首を傾げるウザーくん。するとソムリエ服姿の陽坐が現れた。
「餃子ソムリエです! 第一印象でオススメをお選びし目の前でお作りしますよ!」
「へー面白そう。おれは?」
『白菜多目・中華スパイス入り本場の水餃子』と書かれた紙を出すウザーくん。全料理制覇を目指し、霊犬のあまおとと一緒にやってきた陽桜には『キャベツと豚脂の甘み・特厚もちもち水餃子』。
「霊犬用の餃子もできますか?」
「多様性は宇都宮の魅力、やりましょう!」
目を輝かせる陽桜。仲良しなんだな、と龍も微笑む。
「あまおと、今年も一年ありがとなのですよ。来年もよろしくお願いしますね♪」
「メリークリスマース! ジヴェアも餃子食べたい! 甘い物と交換しようよ」
豚の肉汁が溢れる羽付き餃子を貰ったジヴェアはメロンショートケーキやホワイトガトーショコラを皆に配った。陽坐の野望、クリスマスに餃子を食べる文化が根付く日は近い……?
恒例の【探求部】のパーティ、今年は闇ではない鍋だ。ゴマ味噌、トマト、カレー、みそ、しょうゆ、鳥がら。七波達が用意したスープはどれも食欲をそそる。
舞茸、椎茸、しめじで出汁をとりシラタキを投入。続いて鳥団子、鮭、餅巾着、猪と鹿の肉。仕上げはイサカが早朝から採ってきた新鮮な山菜と渓流魚だ。
「灰汁も抜いておいたから、軽く湯がくだけで食べられるはずだよ。全てのカチナに感謝の祈りを……」
「さ、そろそろ煮えたのでみなさんおわんを出してください」
藍が取り分けた熱々の魚を頬張ったイサカは、初体験な日本の鍋に感激する。明彦の実家、奈良から送られた肉を噛みしめた結衣奈も冬の風物詩だよねとしみじみ。隣に座った明彦が深く頷く。
「野生の猪や鹿は身が締まっていて、味わい深いんだよ」
「……あれ、わたし食べてばっかり?」
藍の鍋奉行捌きで皆食べる手が止まらない。七波が隙を見て具を追加するのも大変だ。
「奉行役はできませんでしたが、それもまた楽しいですね。イヴさん達もどうですか?」
「わあ、是非!」
「冬の鍋はほっこりして美味しいですね~♪ ありがとう、藍」
と、統弥は恋人ににっこり。皆で食べ進め、空になった鍋を前に結衣奈の目が光る。
「見せて貰うよ、君たちの答えを!」
挑戦を受けた統弥がすかさず研いできた米を出す。〆はやっぱり基本の雑炊、それが答えだ。卵と海苔の雑炊は身も心も温める。
結衣奈の肩を抱いた明彦の笑顔が記念写真の中央に写る。温かなひと時がそこにあった。
すきやき、蟹、キムチ、豆乳、ミルフィーユ。どの鍋も美味いよなと頷きつつ、手際よく食材を追加する紋次郎をサズヤはじっと眺めた。
「鍋奉行……」
「奉、行………?」
紋次郎とシェリーが同時に首を傾げる。期待通りの働きにご満悦な篠介、【Cc】の鍋パは安泰だ。
「欲しいのあれば取るから言ってな。暴雨もフライハイトも肉を喰え肉を」
「大丈夫、好き嫌いは無い」
女性の細さとは比べ物にならないよとアイナーは笑う。だが当の女性陣は……。
「やっぱり白菜! あっ、こんにゃくも……!」
「其処らが良く煮えてる」
「お奉行様、よく煮込まれたお野菜は、何故こんなに美味しいのでしょう」
白菜推しなメロと昭子は煮えた野菜をもりもり食べていた。鍋の食べ方も皆個性的、シェリーは茸から行くようだ。
「わたしもメロと一緒でお肉は最後派なの」
「其の方が体にいいって聞いた気も」
依子がくたくたの白葱を狙っていると、サズヤと目が合う。ネギが山盛りの皿に親近感を覚え、くすり。
「鈴木も肉、ちゃんと食べてる?」
「うぅ、お肉もおいしい……おいしいですね……つよい……」
どの鍋も好きな昭子は食欲が止まらず、冬のお鍋は無敵ですよと一言。皆の笑顔に和みながら、紋次郎と篠介も具を追加していく。
「いくつか鍋も有る事だ、〆も色々と出来そうだ」
「奉行さん、何方でも大丈夫です!」
お米や麺類の〆セットを持った依子が到着し歓声が上がる。奥に見える大きなケーキを見上げ、彼女は衝撃の一言を発した。
「篠介君、別腹もいっちゃいます?」
「つか皆食いしん坊か!」
「全部盛り、甘いも辛いもぜーんぶタベタイねっ!」
「どんとこい、ですよ」
「祭日の甘さも最後まで贅沢に堪能しちゃおう!」
気になっていたケーキに大はしゃぎなメロ、昭子とシェリーも乗気だ。
大勢で囲む鍋はこんなに身も心も温めてくれる。満喫、と復唱したアイナーは慄く男性陣へシェアを打診する。
ぽかぽか美味しい一日は最後までがっつり欲張りに。やりとりの一つ一つまで、贅沢に味わった。
作者:日暮ひかり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年12月24日
難度:簡単
参加:76人
結果:成功!
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