巨大スサノオ体内戦~獣に迫る悪魔

     巨大な白き獣を見上げ、ソロモンの悪魔・グレーディアは、壮観だね、とつぶやいた。
     ナミダ姫が灼滅者に討たれた事で現出した、スサノオの力の暴走体だ。その悲嘆に満ちた慟哭を、風が運ぶ。それ以外にアクションを起こす事はない。
    「では目的を果たそうね」
     グレーディアの指示を受け、護衛のペナント怪人達が、巨大スサノオに攻撃を仕掛けた。
     そして表皮に穿った穴を通り、体内へと入る。内部でもビームを放ち、道を切り開いていく。
     純粋な力の塊ゆえ、スサノオ内部には生物的な器官がない。むしろ、岩盤を掘削していく感覚に近いかもしれない。
     グレーディア達の目的は、『スサノオ大神の力』を手中に収める事。だが、真正面から破壊するのは骨が折れるし、肝心のスサノオ大神の力に何かあっては、元も子もない。ゆえに、体内戦だ。
    「さあ、中枢はもうすぐだ。この力をグローバルジャスティス様に捧げよ!」

     灼滅者の前に姿を見せた初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)は、まず群馬密林での戦果を労った。
    「だが、ナミダ姫を灼滅した結果、スサノオ大神の力が暴走を開始。この暴走した力から、群馬密林に15体の巨大スサノオが出現してしまったのだ」
     巨大スサノオの全長は100mにも達するが、現在のところ、移動したり攻撃したりする様子はない。
    「放っておけば、数か月で力を失い、自然に消滅するだろう。だが、このスサノオの力を奪おうと、ダークネス達が巨大スサノオの体内に侵入しようとしているのだ」
     そこで、ダークネスの侵入経路から巨大スサノオ内部に潜入。ダークネスを撃破した後、巨大スサノオの中枢を破壊して、その力を誰にも利用できないようにして欲しい。
    「敵は、ご当地怪人傘下のソロモンの悪魔とペナント怪人だ」
     ソロモンの悪魔・グレーディアは、鹿のような一対の角を持つ、女性型悪魔だ。ソロモンの悪魔は、スサノオの力を制御するという点において一日の長がある。ご当地怪人の支援を受け、護衛のペナント怪人を5体率いて、スサノオの体内に向かったようだ。
     グレーディアは、魔法使いとマテリアルロッドのサイキックを使用する。一方、ペナント怪人が使うのは、ご当地ヒーローのサイキックだ。
     敵は、少しずつ道を切り開きつつ巨大スサノオの体内を進んでいるため、追いつく事自体は難しくない。
    「ただ、基本的に一本道だから、奇襲を仕掛けたり、挟み撃ちにしたりなどといった策を取る事は不可能だ」
     つまり、正攻法で戦うしかない、という事だ。
    「ナミダ姫の灼滅に成功した事は、大きな戦果だ。しかし、その遺産ともいえる力は、今、ダークネスを引き寄せてしまった。ナミダ姫の弔いとして出来る事は、スサノオ大神の力を大地に還す事くらいかもしれないな」


    参加者
    月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)
    ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)
    中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)
    アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)
    神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)

    ■リプレイ

    ●白狼体内行
    「予想はしてたけど、また此処にくる事になるとはな……」
     月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)達は、巨大スサノオの群れ、その一体を見上げる場所へとたどりついていた。
     巨大スサノオは、ただ慟哭するのみ。その姿が、ナミダ姫の死を嘆くようにも映るのは、いささか感傷的すぎるだろうか。
    「力の源が溢れりゃ余計な輩が群がる」
    「そう、他のダークネスに力を利用される前に、何としてもくい止めないと」
     森田・供助(月桂杖・d03292)や中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)が、決意を固める。
    「確かガイオウガの力をスサノオが継承してるとかなんとか……。そりゃ、悪魔の皆さん方も狙いますわな」
    「いくらダークネスの遺したものとはいえ、墓場荒らしのような真似は見過ごせんな。ナミダ姫には助けられた義理があることだし、一つ、働くとするか」
     そして、アトシュ・スカーレット(黒兎の死神・d20193)や伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)が、巨大スサノオへの接近を試みた。
     スサノオの力を奪わせない。その思いは、ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)も仲間と同様。ただ、その原動力となっているのは、これまで何度も交戦したスサノオ大神の為、という気持ちが大きい。
    「しかし、ここまでのサイズとなると、些か大味ですね」
     足元から見上げた白き獣の威容に、ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)が、苦笑した。
     もしこれと正面からぶつかるような事があったなら、さながら怪獣大決戦と言ったところか。
     グレーディア達に開けられた穴を発見すると、神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)達はそれをくぐり、スサノオ内部へと飛び込む。
     足早に先を急ぐ一行。だが、体内の道行は楽なものであった。先客の切り開いた道をただ進めばいい。この点だけはご当地怪人一行に感謝、と言ったところか。
     難点と言えば、景色の味気無さ程度であろう。普通の巨大生物ならば……そんなものを『普通』と言っていいのかわからないが……あってしかるべき血管や臓器などといったものは一切ない。いわば、雪のトンネルの中を行くようなものだ。
     やがて、待ち遠しかった変化が訪れる。一行の耳に、音が飛び込んできたのだ。

    ●力を渇望せし者
     灼滅者達の行く手には、ソロモンの悪魔の指揮の元、壁にひたすら攻撃をしかけるペナント怪人達の姿があった。
    「……灼滅者? 作業、止め」
    「けどグレーディア様、もう中枢は近いペナ」
     不満をもらすペナント怪人だったが、グレーディアに半眼でにらまれた。
     渋々灼滅者と向き直る怪人達を前に、優が眼鏡を外す。
    「さて、少し相手になってもらおうか」
    「こちらの都合で、あんたらにはここで朽ちてもらいますわ」
     翔汰やアトシュも臨戦態勢。先は壁。そして退路は自分達が塞いでいる。敵に逃げ場はない。
     無論、それを承知しているだろうグレーディアも、杖を掲げる。
     宿敵の健在な姿に、ジンザは嬉しさすら覚える。立場は違えど苦労は同じ。もっとも、トリガーを引く指を緩める理由にはならないので、容赦なく射撃を加えてやるが。
     グレーディアは後方に陣取ると、ペナント怪人三体を前衛に、一体を中衛に、そして一体を護衛として配置した。
    「グローバルジャスティスのため、などとそこの悪魔は言うが、お前達はそれが本心だと思っているのか?」
     蓮太郎が、陣形を整えるペナント怪人に揺さぶりをかけた。
    「悪魔はどこまでいっても悪魔。その言葉は信を置くに値するものなのか?」
    「グレーディア様はグローバルジャスティス様の忠実なるシモベペナ! 本人がそう言ってるペナ!」
    「……そういう事」
     怪人を肯定するグレーディア。だが、微妙な間が怪しい。
    「いくぞワンコ」
     黄色表示の交通標識で味方を保護する優の指示で、ビハインドの海里が動いた。まずは、随伴のペナント怪人から崩していく作戦だ。
    「ご当地怪人に恩はあるかもしれないけど、そいつはスサノオの力をグローバルジャスティスのために使う気なんかないようだぞ」
     暴露しつつ、朔耶の熱量奪取魔術が、ペナント怪人達を震わせる。またたく間に冷却された体に、霊犬・リキから六文銭の洗礼が浴びせられる。
     続けて、ヴォルフのガンナイフから薙ぎ払うように射出された弾雨が、ペナント怪人達の侵攻を阻む。
     出鼻をくじかれた敵陣へ、供助が殴り掛かった。振り上げた鬼腕が、ディフェンダーを殴り、潰す。その衝撃で地面たるスサノオの体が陥没したが、容赦していただきたい。
     しかし、仲間に引き上げられ身を起こすと、ディフェンダーが供助を壁へと叩きつけた。クラッシャーも、仲間をかばった蓮太郎を蹴散らす。
     他の怪人達も、色とりどりのご当地ビームを発射する。だが、その多くは、光の飛沫を散らして弾かれる。蓮太郎が展開したシールドが受け流し、あるいは軽減したのだ。
     新たに指示を飛ばそうとしたグレーディアが、まゆをひそめた。翔汰の投じた符が、感覚を乱すのを感じたからだ。仲間にペナント怪人に集中してもらうため、悪魔の相手は引き受ける。
    「その悪魔は、グローバルジャスティスに絶対の忠誠を誓っているフリをしてるだけで、本当は自分達の再興を狙っているんじゃないか?」
     ペナント怪人の疑念を拡大させるべく、翔汰が声を飛ばす。
     しかしそれを、悪魔は一笑に付す。
    「おや、そんなはずはないと? てことは、このペナントさん方の出身県もご存知ですよね?」
     相手のキックを、忍者仕込みの体さばきでかわしながら、ジンザが問う。
    「どうなんですグレーディア様」
    「魔術にとって、真の名は秘するべきもの。出生地も同じ」
    「なるほど! ……そうペナ?」
     首を傾げる怪人には構わず、グレーディアは灼滅者から熱量を奪い取った。

    ●思惑
    「あんたら、よく考えてみ? そっちのお嬢さんはガイオウガの力で今までやってこれたお人ですぜ? なら、その代用でスサノオを取られる、とは考えてねぇの?」
     アトシュが、破壊力を増した剣と言葉で、ペナント怪人を翻弄していく。
    「グローバルジャスティスの為でないのなら、お前達がその悪魔に従う理由はあるのか?」
     問うヴォルフ。
    「ええい、さっきからごちゃごちゃうるさいペナ! 何が正しいのかわからなくなってきたペナ!」
    (「お、やっとかかったか?」)
     アトシュが内心でほくそ笑む。
     戦闘面ではささいな乱れかもしれぬが、それを逃さず、ヴォルフは一気に踏み込むと、人狼の膂力を発揮。悲鳴を上げる暇さえ与えず、ディフェンダーを銀爪で斬り下ろし、これを撃破した。
    「余計な事など考えなくていいものを……」
     グレーディアが溜め息と共に、スサノオの壁面へと雷を降らせた。今のうちにさっさと力を回収するつもりなのだろう。
     そうはさせじと、翔汰のウロボロスブレイドが、グレーディアの腕に絡みつく。
     供助が愛刀『一颯』で敵をいなすと、氷結魔術を行使した。冷気が、敵陣を包む。
    「グレーディア、だったか。覆水は盆にかえらねえ。お前が、この力で復興を狙えど、だ」
     耐えかねたクラッシャーの一体が倒れるのを一瞥し、供助が悪魔に声を飛ばす。
    「スサノオの泣き声は聞いただろう。これを、狙って、どうなんだよ」
     しかし返答の代わりに、グレーディアは術を振るってきた。
     雷撃を至近距離で浴びたヴォルフの背中を、朔耶が支えた。ヴォルフは、視線で相棒に感謝を伝えると、再び怪人へと立ち向かう。
     傷ついた仲間へ、癒しの力を乗せた矢を放ちながら、挑発する優。
    「ソロモンの悪魔ともあろうものが、他所様の長に尻尾振ってお愛想かい。落ちるところまで落ちたもんだねぇ……ご当地の下僕」
    「嫌味のつもり?」
    「あー、いえいえ。むしろ感心してるんですよ?」
     指輪の魔力光で、怪人の足を撃ち抜いたジンザが、手をひらひら振って答えた。
    「裏切り策略姦計が専売特許だった悪魔さんが、グロジャスさんの靴を舐めてでも生き残ろうとする、立派な心掛けです」
     ジンザと悪魔の視線が、虚空で火花を散らす。
    「偉そうな事言うなペナ! アフリカンパンサー様暗殺を狙い、スサノオの姫を殺した! 灼滅者の方こそ悪いヤツペナ!」
    「悪役になる覚悟くらい、とっくに出来てますとも」
     ペナント怪人の反論に、ジンザが自嘲含みで応えた。
    「喰らうペナ!」
     ビームを繰り出そうとしたペナント怪人の視界が不意に遮られた。蓮太郎のシールドによって。
     そして蓮太郎自身は、そのわずかな隙に、相手の背後に回り込んでいる。相手に振り向く暇を与えず、黒き死を与える斬撃が、もう一体のクラッシャーの命脈を断った。
     その横で、無敵斬艦刀が空気を薙ぐ。アトシュの『ティルフィング』が、ジャマーの上半身と下半身を別離させた。
    「くそ……!」
    「おっと」
     最期に何かを言おうとした怪人の口を、素早くアトシュが塞ぐ。
    「グローバルジャスティス様万歳! とかは言わせないよ。……誰かの為、喜んで死ぬ連中は大嫌いなんでね」
     怪人の今わの際、一瞬垣間見せたアトシュの表情は、まるで堕ちた殺人鬼そのものだった。
    「実際問題……グローバルジャスティス本人の意図はどうなんだろうね?」
     朔耶が、敵スナイパーに影業を差し向ける。
    「それを灼滅者が知る必要はないペナ!」
     この感じ、ペナント怪人達もよくわかってないんだろうな……。
     朔耶は、影業の先端を刃に変換。下段から切り上げ、最後のペナント怪人を灼滅せしめた。

    ●白炎の加護
     あとは、悪魔を討つのみ。供助が切りかかる。
     響く硬質の音、刀と杖が、供助とグレーディアの間で十字を描き、火花を散らす。
     このままいけば、灼滅者の勝利は堅い。
     だが、後方から状況把握に努めていた優は、異変に気づいた。グレーディアの背後、スサノオの中枢らしき場所の白炎が、脈打つのを。
    「力が反応しているのは俺達じゃなく、悪魔の方か」
     優の推測は、すぐに証明された。
     皆の介入より早く、グレーディアに白炎が宿ったかと思うと、傷が癒えていくのだ。
    「ふふ……これがスサノオの力」
     グレーディアの顔に、初めて表情が浮かんだ。それは、歓喜と愉悦。
     これ以上調子づかせまいと、得物を腕に取り込んだアトシュが、渾身の斬撃を加えた。
     折られ、地面に落ちる角を飛び越え、蓮太郎がありったけの余力を注ぎ、斬撃する。
     敵の損耗は、激しいはず。だが、スサノオの力に酔うグレーディアはそれを感じさせない。
     威力を増した氷結魔術が、灼滅者達を襲う。先ほどの倍とまでは言わないが、相当に強化されている。
     ならば、その力自体を振るわせなければよいだけ。ヴォルフの光弾が、グレーディアの肩を撃ち抜いた。宙を舞う杖。
     リキと組んで、朔耶がナイフで相手を何度も切り裂く。お世辞にも行儀のいい太刀筋ではないが、それゆえに、傷口はボロボロとなり、しびれや氷結が増大する。
     敵に攻撃の隙を与えまいと、優も攻めに転じる。赤表示の標識で相手を打撃。残っていたもう一方の角をへし折った。
     畳みかけるジンザ。ガンナイフに収束させた魔力を、ミサイルとして射出。
     壁面を蹴った翔汰の体は、敵の頭上にあった。ここで決める。飛来するミサイルに合わせて、両手から放射したオーラを、グレーディアにぶつける。
     相次いで炸裂した2つのエネルギーが、グレーディアを焼き尽くした。
    「この力、もっと早く掌握していれば……」
     無念とともに倒れるグレーディア。
     翔汰は思う。もし、こんな力がダークネスに渡っていれば、その後の戦いがこちらにとって不利になっていたのは間違いないだろう、と。
     それから一同は、グレーディアに力を与えた中枢へと向かう。あと一仕事。
     残った力を振り絞ると、一斉に集中攻撃を加えた。スサノオの力の象徴たる白炎が浮かんだが、抗う事なく消えていく。
     奮闘を『ほめて』と海里からねだられていた優だったが、
    「ぁぁはいはい、よく頑張った……って、それどころじゃなさそうだ」
     崩壊を始めるスサノオの体から、速やかに脱出する灼滅者達。
     スサノオの力は地に還る。誰の手も届かない場所に。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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