「俺の話を聞きたいって?
そうさ、マグロが空を飛んでいた。泳いでいたんだ。
誰に話しても信じてくれなかった。
けれど……あれは本当にいたんだ。空飛ぶマグロは」
●我招く魚群の衝裂に慈悲はなく、汝に普く鮪を逃れる術も無し――!
「マグロ・スウォーム!」
物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)が天空に向けて謎の詠唱をしていた。
ちがうの。中二病が遅れて来たんじゃないの。きいて。
「ラジオウェーブがかつてのダークネスの目撃者に噂を語らせることで、新しい都市伝説を生み出したらしい。
その都市伝説は既に実体化が確認されている。
しかも噂には尾ひれがつき、群れをなしているのだ。
そう!
まぐ――」
実体化した都市伝説『マグロ・スウォーム!』は空を飛ぶマグロの群れである。
リアルサイズのマグロが群れを成して飛んでいるというのはそれだけで結構な恐怖だが、こいつらがばっこんばっこん体当たりを仕掛けてくるというトラウマもんの都市伝説だ。
「なんか原点回帰感があるが、こいつに吹っ飛ばされれば一般人は即オダブツだ。見つけたからには、俺たちの手で倒そう! 三枚おろしだ!」
参加者 | |
---|---|
高麗川・八王子(KST634初期メンバー・d02681) |
備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663) |
物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160) |
荒谷・耀(一耀・d31795) |
カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368) |
立花・環(グリーンティアーズ・d34526) |
七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540) |
ヒトハ・マチゥ(ぶるぶるらびっと系月見草・d37846) |
●こんな気持ちでプレるのなんて初めて、もう何も恐くない!
「フゥ……すわマグロドリーム復活かと思ったが、ただの都市伝説とわかって一安心だ。いや、だからって全く無害にはならないが」
やれやれというアメリカンな方すくめジェスチャーをする物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)。
腕組みするカルム・オリオル(グランシャリオ・d32368)。
「少なくとも脅威度は下がったとみてええやろおなあ。名前もマグロドリームやなくて、マグロスウォームになっとるし」
「待て」
暦生がやれやれポーズのままギラリと眼鏡を光らせた。
「語尾が違う」
「なんて」
「語尾にエクスクラメーションをつけろ。マグロスォーム! リピートアフターミー!」
「マグロスォーム!」
表情のタッチまで変えて、カルムがキャラ的に滅多に出さない声を出した。
この時点でおわかり頂けただろうか。
今回は微弱なキャラ崩壊回だよ。大抵のアニメシリーズにも一話くらい挟まってるあれだよ。
例えばそう、荒谷・耀(一耀・d31795)。
「あれと戦うことになるなんてね……かつての戦い以来、ずっと倉庫の片隅に放置していたせいかしら。運命って、残酷ね」
冷酷な暗殺者が見せる一瞬の情緒、みたいな目をして懐に手を入れる耀。
「けれど、確実に灼滅してみせるわ。この――冷凍サンマでね!」
両手に冷凍サンマを逆手持ち、ラノベの表紙みたくキッと構えた。
リプレイからは分からないから解説しておくと、彼女の装備欄には『コールドサンマナイフ(解体ナイフ)』『コールドサンマソード(日本刀)』って書いてあるよ。どうかしてるよ。
その後ろでは、備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)がナマハゲみたいな顔してナタを持っていた。あと『マグロの美味しい食べ方』みたいな本を抱えていた。
けどこの本、マグロに直にかじりつく写真が表紙になってるんだけど大丈夫なの?
「大丈夫、マグロ、喰う」
「思考が原始人みたいになってらっしゃる」
ふむふむといって眼鏡をちゃきっとなおす立花・環(グリーンティアーズ・d34526)。
「まあいいでしょう。都市伝説の魚群ならば、漁業組合のおじさんたちも文句をつけてこないでしょうし。違法漁法もしほうだいですよたぶん」
にやり、と笑って環は懐からハモとマグロを取り出した。
「さあ、フィッシャーの時間だぜ」
何でこの人たちは魚を武器にしたがるのか。
いっぽうそのころ。
「紅音ねぇ様、この人たち……なんなんですか……?」
ぷるぷるしながら七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540)の影に隠れるヒトハ・マチゥ(ぶるぶるらびっと系月見草・d37846)。
なんの不幸か初依頼が貧乳教徒VS変人集団だったかわいそうな常識人である。二回目が魚群VS魚使いである。これサイキックハーツだよね?
「いいかしら、いっくん……」
そんなヒトハの頭に優しく手を置き、ベ○君をさとす紐神様みたいなトーンになる紅音。
「漢字の鮪(まぐろ)はもともとチョウザメを表わす言葉だったそうよ。中国から漢字が伝来した際に名前とイラストみて日本人が勘違いしたのがはじまりと言われているわ」
「そんな豆知識を今言われても……はっ」
ヒトハが何かの気配を見つけて髪の毛が一本ぴーんと立った。
「ねぇ様、近くに絶望の気配が」
「いっくん、いつのまにそんな機能を搭載し……」
振り返ると。
高麗川・八王子(KST634初期メンバー・d02681)が体育座りで白くなっていた。トーンを一切張ってない漫画イラストみたいに白くなっていた。
「な、なにかあったの?」
「なくしちゃったんです。いろいろあって、その」
スッと取り出した八王子のホワイトボードには『ぷれいんぐ』とだけ書かれていた。あとは白紙だった。
「紅音ねぇ様、これは?」
「プレを白紙にしてしまった人よ」
「そんなっ! 元気出してください、プレくらいなくても大丈夫ですよ!」
「大丈夫ですかね……ほんとに……?」
八王子を囲んで環や暦生たちがガッツポーズをしはじめた。
「そうですよ! 私のプレ分けてあげますから!」
「そんなお弁当のおかずみたいに」
「みんなで一行ずつ書こう、寄せ書きみたいに!」
「なんや、大変そうやなあ」
「僕、鮪、喰う」
「仕方ないわね、私のサンマデスティニーに加えてあげてもいいわ」
「みなさん……!」
八王子は立ち上がった。
寄せ書きされたホワイトボードを持って立ち上がった。
「私、やってみます!」
●ある意味最高のおもてなし
「きゃー、マグロマグロ。いまキハ110系200番台の車内で全力疾走してる私はごく一般的な女の子。強いて違うところを上げるとすればマグロに興味があるってことですかネ。名前は――はうあ!?」
突然隣車両から飛び出してきたカジキマグロにぶっささり、へぶーと血を吹く八王子。
腹に暦生って書かれたカジキマグロはにょきっと足を生やすと、かけていた丸めがねをちゃきっとやった。
「ホホホ、初めてですよ……私をここまでサシミにしたおばかさんは……」
「えっ何バナシです?」
「じわじわとなぶり殺しにして――ホギャー!?」
突如白い光に包まれるカジキマグロ。
はっとして振り返ると、磯臭さをシュオンシュオンさせて立つ耀。
「サンマリッパーのことかー! フリーザーマグロー!」
「奴は……」
荷物置くところからにゅっと出てくるカルムと鎗輔。
「聞いたことがある。怒りと悲しみと季節外れのサンマを併せ持ったときに覚醒する戦士……スーパーサンマ人」
「僕、鮪、喰う!」
「ククク、所詮貴様はサンマ星の残党。ハモとマグロを併せ持つ私にかなうずが」
「すとーっぷ!」
八王子が立ち上がり、両手をぶんぶん振った。
「なんですかこれ! おかしいじゃないですか!」
背景(電車内を表現するためのカキワリ)を支えていたヒトハと紅音がちらりと顔を覗かせた。
「ほら、怒ってるじゃないですか。だから205系3000番台がいいって言ったんですよ」
「でもあの内装、私の好みじゃないのよね」
「そういう話じゃなくて!」
八王子に言われて渋々撤収する背景……のさきには、マグロの群れことマグロスウォーム! が飛び交っていた。びしっと指さす八王子。
「今! 戦闘の! 最中!」
「すごい、いつもはっちゃけサイドにいる八王子パイセンが常識人みたいに振る舞ってる。これが白紙の力。可能性の獣」
「しゃらっぷ! ほら、戦いますよ! ほんとは私だって武器とか工夫して戦いたかったんですからね!」
「仕方ないわね」
――サンマを十字に構える耀。
「そこまで言うなら」
――ハモを首に巻き付ける環。
「お前の分まで、やりきってやるぜ」
――出刃包丁で刺突の構えをとる暦生。
三人はバッと同時に跳躍すると、こちらへ向かってくるマグロスォーム! の群れへと叫んだ。
「「おれたちの戦いはこれからだ!」」
「だから戦闘しろっていってんでしょ!」
ここぞとばかりに口調をブレさす八王子であった。
●調子に乗るとよくおこる現象
「くっ、なんてことだ……」
額から血を流し、よろよろと起き上がる暦生。
その背には八王子を庇っていた。
「チャバンかましてたらもう尺の半分も使い切っていたとは」
「戦闘と関係ないところで焦ってません?」
「だが俺は……退かない!」
台詞だけかっこよくした暦生は、包丁を勇者パースで構えると縦に横に振り回した。
包丁から放たれた光的なアレがアレして『鮪』の文字になって敵を切り裂いていく。どうやったんだいまの。
「もうだめです。このバトルはギャグパートだけで終わるんです。さんざん遊び尽くした結果最後の一行で『都市伝説は灼滅した――完!』とかいうんですきっと!」
八王子が頭を抱えて悩めるポーズをとっていると、彼女の前に戦士たちの背が立ち並んだ。
「安心してええよ」
「ここからは、少なくとも真面目にやるわ。行くわよ蒼生、いっくん」
「はい紅音ねぇ様!」
ヒトハはえいやっとカエルのぬいぐるみを掲げると、周囲になんかカエルっぽいイエローな光を伝播させた。
突っ込んでくるマグロスォーム! がカエルの光に阻まれ、その隙を突くようにカルムが跳躍。先頭のマグロスォーム! の頭を踏みつけると更にジャンプ。マグロスォーム! を次々と踏みつけると、ついでとばかりにバベルブレイカーを叩き込んだ。
ぱりーんと破られるカエルの光。しかし霊犬・蒼生の浄霊眼が紅音を包み込み、マグロスォーム! の体当たりを相殺させる。
「今夜は」
横一文字に剣を振り込む。
一瞬遅れてざくんと音がなり、もう一瞬遅れてマグロスォーム! たちがそれぞれずるりと二分割された。
「マグロ食べ放題よ」
そんな光景を一部始終みていた八王子は、くもりなきまなこで呟いた。
「やっぱギャグパートじゃないですか」
「コールドサンマッ――ソォードッ!」
耀、勇者パースからのサンマ大上段唐竹割り。
「コールドッ! サンマァ! ナァーイフッ!」
無数のマグロスォーム! の間を駆け抜け、逆手に握ったサンマを光らせる。
次々と爆発四散していくマグロスォーム! たち。
耀はふぁさっと前髪をかき上げると、ニヒルな空気と共に振り返った。
「ちなみにコールドサンマは凍るサンマとかけているのよ」
「だめだ、台詞も絵ヅラももう……」
両手で顔を覆う環。
その横を、ビーストと化した鎗輔が駆け抜けていく。あと霊犬のわんこすけも。
「僕、鮪、喰う!」
飛びつき、しがみつき、直接がぶりと食らいついていく。
墜落したマグロスォーム! にのしかかり、むっしゃむっしゃと食らっていった。
「マグロを……食ってる……」
「うっ」
膝を突いて口を手で押さえる環。
「あれ? それって別に普通のことじゃ」
「血抜きはした方がいいんじゃないかしら、たぶんだけど」
「たしカニー(納得できることがあると混入するカニの一種。塩ゆでが美味い)」
環はいつものように(いつものように!?)ハモを振り回して敵を切り裂いたりマグロを叩き付けて敵をたたきつぶしたりしていた。いつもギャグみたいな武器を使っているとこういうときかえって真面目に見えてしまうという、逆・劇ジャイの法則。
「ところで、なんで彼はアマゾン細胞に感染した人みたくなってるの? いつもああじゃなかったわよね」
「それはきっと……」
『僕、鮪、喰う!』と言いながらマグロを千切っては食い千切っては喰いしてる鎗輔を、環は冷静に見つめた。
「このプレ書いてたのが『聖なる六時間』だったからじゃないですかね」
「うっ……!」
口元を押さえて目を背ける耀。
あらぶる鎗輔。
●締め方ひとつ、味付け一つ
「皆さん大変です! もう尺がありませんよ! バトルものアニメのOPみたく集中攻撃で七色の光とかぶつけて敵を倒しておわりにしちゃいましょう!」
八王子が両手でジェスチャーしながら呼びかける中、仲間たちは……!
「魚って結局『焼き』に落ち着くわよね」
「あたる心配もなくて安心なんやろおなあ」
カルムの火(?)で炙ったマグロを串に刺してもっくもっくする紅音。
その後ろで蝗の佃煮を出してくるヒトハ。
「もう、紅音ねぇ様。お魚ばかり食べてたら栄養が偏るのですよ?」
「マグロ、ウマイ、モット、クウ」
後ろでは完全にアマゾった鎗輔が、わんこすけや蒼生と一緒にマグロをがつがついっていた。
「おいおい、ちゃんと味付けくらい考えておけよ。いくら新鮮でも飽きが来るぞ」
糸目をくにゃっとさせた笑顔でスパスパ刺身を作っていく暦生。
わーいと言ってゆず胡椒をさっさかしはじめる環。
「安心なさい。デキる私がお醤油もわさびも刻みネギも用意したわ!」
ちゃっとお醤油瓶とかチューブわさびとかを(アニメでナイフ沢山投げる人がやる構えで)見せびらかす耀。
時は完全にマグロパーティーと化していた。
「……」
こめかみを押さえる八王子。
なんか言いたげな目でじっと見てくるマグロスォーム! のみなさん。
八王子は、あのモギった切符みたいな剣をすっと手に取った。
こうしてマグロスォーム! はすべて灼滅されたのであった――完!
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年12月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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