龍脈封印儀式~温泉だぞ、みんな集まれ!

    作者:空白革命

    ●スサノオとの決戦を回避したものの……
    「よう、この前の戦いは大変だったな。
     スサノオ勢力が滅びて大神の力も失われたわけだが、ちょっとばかり問題が起こってるんだ」
     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)が説明したのは、龍脈に関するエネルギー問題だった。
     大地の力である龍脈(別名『フォッサマグナ』)は日本を引き裂くほどの力を秘めている。
     これを支配したガイオウガが旧世代の勝者となりサイキックハーツを引き起こしたという歴史があるほどだ。
    「この龍脈がスサノオのナミダ姫が奪ったブレイズゲート・エネルギーで活性化されていて、このまま放置すれば暴発してしまうらしいんだ。一言でいえば大災害の頻発だな」
     この危機に声を上げたのは学園で保護していた『ガイオウガの尾』である。彼が(?)は龍脈の沈静化と封印を申し出たのだ。
    「彼らだけじゃ封印の儀式は行なえない。というわけで、皆に儀式を手伝ってほしいということらしい」

     気になる儀式の内容――それは。
    「温泉に入ってくつろぐことだ!」
     いや、ジョークで言ってるんじゃなくて、まじで。

     一月の1~11日の間で地脈の調子をみつつ適切なタイミング(判断は味方イフリートがしてくれる)で特定の神社へ行き、まず初詣を行なう。
    「変な話かもしれないが、初詣という古来からの神前儀式は大地の力を沈静化させる動作とほぼ同じなんだ。これを行なうことで、付近に天然温泉が湧き出すようになる。
     これに一緒に浸かってやることで、イフリートが大地と合一し龍脈を沈静化させることができるんだ」
     この間、一般人が迷い込むのを(ESPとかで)防いだりダークネスが大地の力を狙って襲来するパターンを考えて警戒するのだ。
     そこまで説明したところで、学園の保護していた『ガイオウガの尾』の一部がイフリート化したものが現われ、お辞儀するように頭を下げた。
     そしてカタコトの日本語を喋り始める。読み取りにくくならないように流ちょうに翻訳すると、こんな具合だ。
    「ガイオウガの力を奪ったスサノオを倒してくれてありがとう。思えば、我々が助けられたのはこの儀式のためなのかもしれない。大地の力が二度とダークネスに利用されることのないように、灼滅者たちを見守っていきたい。大地とひとつになることで」


    ■リプレイ

    ●雪の初詣
     手を二度叩く。
     鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)は目を閉じると、正しい作法で頭を下げた。
    「今日は会えるだろうか。イヌガミヤシキ」
     いつかの礼ができればいい。そんな風に思っていると、そばにいた海川・凛音(小さな鍵・d14050)が同意の視線を送ってきた。
     ここは雪の降る神社だ。誰かの殺界形成の影響ですっかり一般人はいなくなってしまったが、神社の風情はむしろ静かなときこそ深まる気がした。
    「知ってる名前が聞こえたわね」
     自分なりに身なりを整えたアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)がやってくる。そばについて歩くクロノ・ランフォード(白兎・d01888)。
    「足を滑らせないように気をつけて。今年も無事にすごすために、ちゃんと儀式を成功させないといけないからな」
     わかっているわという顔で頷くアリス。
     彼女たちは賽銭箱に小銭を投げると、手を打った。

    「新年のご挨拶、初詣ですよっ!」
     振袖姿の朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889)が、両手を広げて石畳の上に立った。
    「作法は……前に教えて貰ったような……どうでしたっけ? あれ?」
     くしなが困っていると、御鏡・七ノ香(小学生エクソシスト・d38404)と矢崎・愛梨(高校生人狼・d34160)が後ろから顔を覗き込んできた。
    「よかったら一緒にやりましょうか?」
    「えーと、お賽銭を入れて鈴を鳴らして、それから二礼二拍手一礼、だったよね?」
     二人とも初詣らしい格好だ。特に七ノ香は花柄の振袖を可愛らしく着込んでいた。一般人がいないこともあって、ビハインドも一緒である。
    「助かります! 一緒に行きましょう!」

     人払いをしたからか、神社はすっかりすいていた。
     井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)は手を合わせ、目を瞑って考えた。
     『今年もあいつと仲良く暮らせますように』といったことを頭の中で願って、目を開ける。
     温泉はまだわいていないらしい。もう暫くはこの辺りをぶらついてもよさそうだ。
     すこし歩くと、紅羽・流希(挑戦者・d10975)が真面目な顔で出店に立っていた。
    「人払いで一般人がいなくなっていますので、せめて暖かい飲み物くらいは……と。雰囲気が出ますよね」
     そう言って、流希はお茶を差し出した。

    「こんなにすいてる初詣って新鮮だなーっ」
     両手をグーにして突き上げ、椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)は深呼吸した。
     冷たい空気がかえって気持ちいい。
     そんな彼の背後より……。
     右から顔を出す陸・舞音(胸に秘めし蒼き激情・d35449)。
    「一月ですか。このクラスにきて半年になりますね」
     左から顔を出す卯月・あるな(ファーストフェアリー・d15875)。
    「みんなで遊びにくるのも久しぶりだねー」
     上からジャンプで顔を出す美波・奏音(エルフェンリッターカノン・d07244)。
    「去年初詣に来たときは、二人ともいなかったんだっけ」
     感慨深いねーと言いながらジャンプを続ける奏音。
     武流は黙ってされるがままになっていた。軽いハーレム男女比である。
    「まずは初詣だ。地球のためだ、しっかりすませるぞ」
    「作法わかるひと手をあげて?」
    「カンペもってきたよー。まずは……なんて読むんだっけ、この字」
    「昔おばあさんから教わったやり方でよければ、教えられますよ?」
     にぎやかに、しかしキッチリと初詣の手順をこなしていく四人。
     その様子を観察しつつ、自分で調べた内容と照らし合わせながらあとに続く人々も神社へ続く石畳を歩いていた。
     袴姿の彩瑠・さくらえ(幾望桜・d02131)と、振袖姿のエリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)である。
     二人とも別々の意味でシャンとしたよい背格好をしているので、並んだ姿がとてもよく栄えた。
    「今年もキミと、いろんな所にいけたらいいな」
    「……私もそう思うわ」
     すこしだけきょとんとして、エリノアは笑った。
     つられて笑うさくらえ。
    「さ、行こうか」
     差し出したさくらえの手を、エリノアが優しくとる。
     二人で並んで、石畳をゆく。
     一方。鳥居の前では乃董・梟(夜響愛歌・d10966)がぼうっと人の少ない神社を眺めていた。
    「神社の息子が他所に初詣ってのも……まあいいや」
     おまたせしましたと声をかけられ、振り向くと病葉・眠兎(奏愁想月・d03104)が初詣らしい格好で立っていた。
    「……ん。新年、明けましておめでとうございます」
     本年も相変わりませずどうぞよろしくお願いします、と礼儀正しく頭を下げる。
     つられて、というわけじゃないが同じように挨拶を返す梟。
     二人はキッチリと作法通りに一連の流れをこなしつつ、賽銭箱の前で一緒に手を合わせた。
     願いごとは二人とも同じ。声には出さないが、交わした視線でそれがわかった。

    「あけましておめでとー!」
     フェイ・ユン(侠華・d29900)が両手をばっと天に掲げた。
     赤を基調とした振袖が赤い鳥居にはまったようで、風景の白い雪と空の青によく映えた。
     一方でフォルトゥナ・ケレス(黒金の吸血鬼・d30980)は黒の袴姿でおっとりと神社の風景を眺めている。
    「フォルトゥナ君似合ってる!」
    「そ、そうですかね」
     えへへ、という顔をして照れるフォルトゥナ。
    「フォルトゥナくんもだけど、フェイちゃんもとってもよく似合ってるよ」
     後ろから来たフィオル・ファミオール(蒼空に響く双曲を奏でる・d27116)がぱたぱたと手を振る。青を基調とした振袖を着ていたことで、三人の間にいい具合の色分けが成されていた。
    「私はどう?」
    「フィオルちゃんも似合ってる! かわいいー!」
    「えへへー」
     二人して袖を振ってくるくると回ってみる。
     そんな光景を微笑ましく眺めつつ、フォルトゥナはメモを取り出した。
    「ジャパニーズ初詣について調べてきました。参拝の前にもマナーがあるそうですね」
     そう言って手水舎(途中にあるあの水が出てるやつ)の手杓子で水をすくって手にかけると……。
    「ひゃんっ」
     かわいい。
     じゃなくて。
    「一緒にやろっ」
     フィオルとフォイがはさむように横に並んだ。
     それからあーしてこーしてあれしてこれして、鈴をならして二拍一礼。
    「今年もみんなと一緒にいられますよに!」
    「楽しい一年になりますようにっ!」
     静かに無病息災の願いを込めていたフォルトゥナは、お願いを声に出した二人にきょとんとして……すこしくすぐったそうに笑った。
    「さ、あとで温泉にはいっていこっ」
     これもこれで正しい姿の初詣、なのかもしれない。

     初詣でありながらも大地への儀式。
     灼滅者たちの真面目なはたらきかけによって、神社の裏手にぽこぽこと温泉が湧き出した。
     中くらいのがひとつ、補足つながった小さいのがいくつか。折角だからということで幕でしきって即席の個別温泉に仕立て上げたのだった。
    「久しぶりの骨休めだな」
     曹・華琳(武蔵坂の永遠の十七歳・d03934)は諸々の支度を調えると、服を脱いで下に着ていた水着を晒した。
     ボーダーのついたタンキニ(上下にわかれたセパレート)である。
     折角なので抱っこカエルさんもセットで。
     華琳はつま先からゆっくり湯につかると、心から息を吐いた。
    「思い出はいろいろあるけど、きっとこれからもよい思い出を作れたらいいよね……」
     世の中が平和でありますようにと祈りながら、明日のために目を閉じた。

     お正月めいた水着をきた城・漣香(焔心リプルス・d03598)とビハインド。二人してちゃぷんと湯につかると、お盆に瓶のジュースをのっけて浮かべた。
    「雪を見ながら露天風呂に入ってジュースを飲むとか……高級旅館かな」
     そんな風にくつろいでいると、ずしんずしんと『ガイオウガの尾』が温泉に入ってきた。
     水かさがざぶんと上がる。
     見た目にはわかりにくいが、漣香はこれが融和派イフリートたちの合一した姿だということを知っている。
    「アカトラミサキ。そこにいるんだよね」
     漣香はジュース瓶を掲げてやる。
     これよりイフリートは大地と共に、みなを見守っていくことになるのだ。
     いろんなことを考えて、漣香は最後に、しっかりと笑って見せた。

     『ガイオウガの尾』に合一したイフリートの影を見ていたのは漣香ばかりではない。
     湯につかった脇差も、ビーフジャーキーを手にして語りかけていたりした。
     初めて出会ったあの日から随分たった。
     今こうして、託した想いが届いていたことを儀式という形で実感している。
    「これからも、ずっとよろしくだ」
     同じように、水着をきて温泉にはいっていた凛音やアリスが寄ってくる。
    「また会えましたね。これからは、ある意味ずっと一緒なのでしょうか」
     そっと触れる凛音。
    「改めて……わたしはあなたと友好を深めたいと思っていますよ」
    「この国の未来、よろしくお願いするわね」
     どこか優しい表情で語るアリス。
     挨拶を終えると、アリスは幕をくぐって隣の小さな温泉へと移った。
    「ん、アリス」
     温泉につかっていたクロノが手を翳す。
    「私が水着姿で残念だった、クー君? けど、肌を見せるときは二人っきりのときだけだから」
     寄り添って腕を絡め、指をはわせるアリス。
     クロノは水着のアリスも隙だけどねと笑って、雪景色に目をやった。

     個別に分かれた小さな温泉はもういくつかあった。さくらえとエリノアの入っている場所もそのひとつだ。
    「……」
    「……」
     奇妙に空いたふたりの距離。
     二人とも水面をじっと見つめたまま体育座りをしていた。
     水着をきているとはいえ、カップルで混浴は恥ずかしい……らしい。
    「折角一緒の温泉なのに湯けむりでかわいいお嫁さんの顔見えないと、僕寂しいなぁ?」
    「湯煙で見えない距離じゃないでしょ。そんなこと言われても……困るわ」
     さくらえは苦笑して、そっと手を伸ばした。
     湯煙の下で触れる指。そっと交わる指。
    「今年もよろしくね?」
    「ん……アナタ」

     幕で仕切られた露天風呂に、梟と眠兎が寄り添って浸かっていた。
    「雪景色に天然温泉、風流だねえ」
     頭にぱしゃんとタオルを乗せる梟。一方で眠兎は顎まで身体を沈める。
    「周りが雪というのも、寒いですが……風流とは、さむきもの、ですかね」
     その様子をちらりと見て、慌てて目をそらす梟。
    「リラックス、できてます?」
    「えっと、うん」
     眠兎の雪解け水のような透き通った肌や首筋を眺めているのは、理性を保つのが難しいことのように思えた。
     梟は目をそらしたまま、お湯と風景と、眠兎と一緒の空気にひたることにした。

     一方こちらは武流と三人の美少女。
     立場的なものを考えて、武流はコホンと咳払いして離れた所に浸かることにした。
    「ふう、冷えた身体を温泉で伸ばす……いいなあ」
     孤高なダンディタイムを味わおうとしたその時。左右と背後から奏音とあるなと舞音がそれぞれにゅっと飛び出した。
    「いいなあじゃないわよ」
    「折角水着も甘酒も用意したんだから、一人でどこか行っちゃわないでよね!」
    「気を遣っておひとりにならなくていいんですよ? お互い水着を着ていますし、ね?」
     彼女らに両手首をがしりと掴まれた。
    「うっ……け、けどさあ」
    「もうハタチになるんでしょ。そろそろ女の子に慣れなさい」
     上がろうとする武流の両肩を掴んで、奏音が再び湯に沈めた。
     そして三人にっこりと笑いあって、温泉タイムを再開したのだった。

     雪と神社と天然温泉。
     白いワンピースをきた七ノ香がビハインドの幸四郎と一緒にくつろいでいた。
     とはいえちょっと恥ずかしいようで、これも儀式のためと肩までつかっていたら……。
    「ふにゅう……のぼせちゃいました……」
    「おっと、大丈夫ですか? お水を飲んで、少しあがっているといいですよ」
     流希が丁寧に水やタオルを持ってきてくれた。
     そこへやってくる雄一。
    「イフリートか……そのうち、彼らと一緒に暮らせたら、それもそれで嬉しいって思うんだ。変かな」
    「いえ……わかります。今回は、彼らを最後まで見守りましょう」
     うん、と頷きあう雄一たち。
     一方で、温泉をここぞとばかりに満喫しようとする愛梨とくしな。
    「わーい、温泉だー」
    「太陽がまぶしいですね」
     岩の上で日の光を浴びていたくしなは、大きく息を吸い込んで、そして温泉へぴょんとジャンプした。

     こうして、儀式は暖かく完遂された。
     大地は守られ、人々は守られ、そしてまた、平和な人々に明日がくるのだろう。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年1月11日
    難度:簡単
    参加:23人
    結果:成功!
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