龍脈封印儀式~ヒイロカミと祈願の湯

    作者:御剣鋼

    ●龍脈封印の儀式
    「先日の戦いでは誠にお疲れ様でございました。ナミダ姫が灼滅されたことで、スサノオ勢力は壊滅しました」
     また、巨大スサノオの力が他のダークネス組織に奪われることもなく、スサノオの多くも力を失い大地の力に戻っていったと、里中・清政(執事エクスブレイン・dn0122)は付け加える。
    「これ自体はとても良いことなのですが、少々問題が発生致しました。巨大スサノオにスサノオの力。そして、ナミダ姫が奪ったブレイズゲートの力などが、一度に大地に還元されましたことで、大地の力が暴走しかねない状態になってしまったのでございます」
     ガイオウガ及び、スサノオ大神の力の源は『龍脈』と呼ばれる大地の力だという。
     龍脈の力は『フォッサマグナ』とも呼ばれ、日本を真っ二つに引き裂く程の力を秘めていると、執事エクスブレインは眉を寄せた。
    「このまま誰も制御せずに放置した場合、巨大地震や富士山を始めとする、火山の連鎖噴火などの大災害が発生する危険があると、予測されております」
     冬の寒さに似た、ピリっとした空気が張り詰めた時。
     執事エクスブレインは「この危機に対して、頼もしい味方が現れました」と、微笑む。
    「武蔵坂学園で保護していた『ガイオウガの尾』が、龍脈の鎮静化と封印を行いたいと申し出てくれました」
     彼らによると、スサノオは龍脈たるスサノオ大神の一部であるため、龍脈の鎮静化が行われれば、スサノオ残党の大半も同時に消滅させることが出来るとのこと。
     また、大地の力を封印してしまえば、他勢力も大地の力を利用することが出来なくなり、地震災害なども発生しなくなるという。行わない理由はないだろう。
    「ただ、彼らの力だけでは、封印の儀式は行えません。なので、皆様方に儀式を手伝って欲しいとのことでございます」
     儀式が行われる場所は、自然が豊かな地域にある神社だという。
    「皆様方に儀式をお願いする神社ですが、箱根の山奥にある、とある神社になります」
     儀式を行う日程は『1月1日~1月11日』の間で、同行するイフリート化したガイオウガの尾が地脈の流れをみて、適切なタイミングで行うことになるようだ。
    「儀式の流れをざっくり申し上げますと、まず余裕をもって神社の近くまで移動します」
    「それって、普通に宿泊っていうんじゃ……」
    「次に、龍脈の流れのタイミングを見計らって神社に移動し、粛々と祈ります。神社の作法と儀式の内容が一緒というのは、とってもわかりやすいですね!」
    「それって、普通に初詣だよね……?!」
    「儀式が成功すると、神社近隣で天然温泉が湧出しますので、イフリートと共に温泉に入って、イフリートが大地の力と合一するようにサポートしてくださいね!」
    「要は初詣と温泉ツアー……って、それでいいのかあああ!!」
    「ついでに、一般人が迷い込まないように対処したり、大地の力を狙ったダークネスの襲撃に対して警戒してもよろしいかと!」
     執事エクスブレインが無駄にイイ笑顔でサムズアップした、その時だった。
    『マア、余リ気負ワズ、気楽ニナ』
     その後ろで控えていた緋色のタテガミを持つイフリートが頷き、悠々と歩み出る。
     同時に。シュルシュルと縮んでいき、小さな小さな少年――ヒイロカミになった。
    『コノ姿ノ方ガ、話シ易イナ。此レモマタ、絆ト言ウモノナノダロウナ』
     ヒイロカミの姿をしたガイオウガの尾は1人納得すると、すっと前を見据える。
    『先日ハ、ガイオウガノチカラヲ喰ラッタ、スサノオヲ倒シテクレテ、アリガトウ』
     ヒイロカミは何処か落ち着いた様子でぺこりと頭を下げると、灼滅者達を見回す。
     ガイオウガの尾となったことで、他のイフリートの意識が混ざっているのかもしれない。
    『コレカラハ、大地ノ力ガ利用サレルコトガ無イヨウニ護リ、末永クスレイヤー達ヲ見守リタイト思ウ』
     ――その為にも、灼滅者達の力を貸してほしい。
     そう告げたヒイロカミに迷いはなく、金の瞳は嬉々と輝いているようにも見えた。


    ■リプレイ

    ●初詣は炎獣と
    「満月さんは明けましておめでとうございますね。今年もよろしくお願いしますね」
    「は、初詣も久々ですし、しっかり願っておきましょう」
     結城は山吹色の振袖姿の満月の手を取ると、作法を1つ1つ確認しながら歩き出す。
    『コノ匂イ、懐カシイ……』
    「そう言えば、ヒイロカミは箱根のイフリートだったな」
     着物姿の渡里と共に紋付き袴姿で現れたヒイロカミは瞳を細め、周囲を見廻す。
     人払いが済んだ神社は静寂に満ちている。少年が此の地で大地と合一するのに感慨を覚えるのも、無理はない。
    「とても似合ってるよ」
     振り袖姿の晶が褒めると、ヒイロカミもはにかんでみせて。
     昔は服を着ることを嫌がっていたけど、尾になったことで心境も変わったのだろう。
    「イフリート達が繋いでくれる未来だ、俺達も重ねて行こう」
     結婚して初めての記念すべき初詣は、大切な儀式も兼ねていて。
     エアンが繋いだ手に力を込めると、葉新・百花も緊張していたのだろう、きゅっと握り返して来た。
    「私もヒイロっていうんだ。よろしくね」
     明日香と協力して人払いを済ませた【シス・テマ教団】の緋色は、ワルゼーを指差す。
    「あの額に紅生姜つけた人、がなんやかんやお世話になったらしいから会いにきたよ!」
    『オオ、ソウダッタノカ!』
     緋色とヒイロカミ中心にどっと笑いが広がり、御伽と竜雅も口元を緩ませて笑う。
    「龍脈の事はよろしく頼むぜ。頼りにしてっからよ」
    「やっと約束をはたせるな、ヒイロカミ。一緒にチョコレート食べようぜ!」
    『オウ任セロ! 参拝終ワッタラチョコ食ベヨウ!』
     お菓子に瞳を輝かせるヒイロカミは、年相応の子供のよう。
    「元気そうで何よりだ」
     人払いをしていた刑もまた、緋色の少年との再会に喜びを隠せずにいた1人で。
     ヒイロカミも刑を覚えていたのだろう、ブンブンと手を振って見せた。
    「わからなければ、手本を示すので傍で真似ればいい」
    「まあ、真摯に神様に礼儀正しく、穏やかに祈る事が重要だろうし」
     何時でも庇える位置に着いた摩耶が鳥居へ歩き出すと、人型の姿をとったセレスも静謐な空気を味わうように深呼吸。
     着物の感触を確かめていた茶之木・百花も、精一杯頑張ろうと後に続いた。
    「ふにゃあ〜ちょっと寒いですね」
    「すーすーして寒いけど、天気も良くていい感じなんだよ」
     作法を猛勉強してきた紅葉は眠気を打ち消すように着物を正すと、鳥居の前で一礼。
     毬衣もしっかり意識するように参道の端を歩き、手水場で手と口を清める。
     刑が賽銭を置くように入れ、茶之木・百花が鈴を鳴らすと、ヒイロカミは合わせるように拝礼した。
    「着物を着ると普段と違った感じがして楽しいな」
     お正月らしく着物を着て参拝に向かうのは【リトルエデン】の穂純達。
    「よく神社のお手伝いとかしてたけど、こういう時に役に立てそうで嬉しいな」
    「りねちゃんのおうち、神社のお仕事お手伝いしてるんだっけ」
     緑色の着物姿のりねから丁寧に作法を受けたるりかも、3人で久しぶりに出掛けることに嬉しそう。
    「これで地震災害とかも起こらなくなるなんて本当にすごいの」
     参拝の作法はしっかり勉強してきたという香乃果は、紅色の振袖姿。
     正しい作法で穂純と共に拝殿前に進むと、二礼二拍して昨年の感謝と今年の幸を祈る。
    (「自分で教えてて変だと困るもんね。慌てず慎重に」)
     心を込めて健康と幸を祈る穂純の隣で、りねも手を合わせる。
     儀式が成功するように、そして今年も皆仲良く過ごせますように――。
    「儀式の手順は二礼二拍手一礼……だったはずだ」
     エアンが葉新・百花を見ると、小さなジェスチャーが返って来る。
     首を傾げてから頷いたエアンが願いと祈りを込めるように手を合わせると、百花も儀式の成功と2人仲良く健康で暮らせるように、心を込めて祈る。
    「(龍脈が沈静化して、皆が心穏やかに一年を過ごせますように……)」
     粛々と参拝する毬衣。紅葉もまた龍脈の鎮静化と1年の平和と幸せを願って。
    「こりゃまた、年季の入った神社で」
     周辺に異常がないことを確認したギィと明日等も【天剣絶刀】の皆と拝殿前に立つ。
     小さくも格式ある拝殿前は、鎮護と安泰を願う儀式に相応しく見えて……。
    「人間とダークネス共に安らかに眠っていて欲しいものね」
     そして、より良い未来が開けることを願って。
     作法に則って参拝する着物姿の明日等に習い、ギィも粛々と祈願する。
    (「こうして誰かと一緒に行くのは久しぶりかなー?」)
     今は此の時を楽しもう。殺識もまた2人を真似するように、手を合わせる。
     結城と満月も作法に則り二礼二拍。皆の幸福を祈り、そして大切な人と幸せな時を長く過ごせるように願いながら、手を合わせた。
    「なんだか、不思議な感覚ですねぇ……」
     炎獣と人が並んだ光景に流希は瞳を細め、共に平和を祈願しようと皆の横に並ぶ。
     願いを終えて一礼して顔を上げると、ヒイロカミと目と目が合った。
    「何故、ガイオウガをそうも嫌っているのでしょうか……?」
    『嫌ッテナイ。ダッテ、オレ自身ガ、ガイオウガノ一部ダカラ』
     淡々と答えるヒイロカミに不安を覚えたワルゼーは、挟むように口を開いた。
    「大地の力の合一……、実際ヒイロカミ達の肉体や精神はどうなるんだ?」
    『大地ニ戻ルタメ、肉体ハ消滅スル。ケレド、精神ハ大地ト共ニアル』
     別れは皆覚悟している。
     それでも、本人の口から出た言葉に刑は拳を握り、摩耶は瞼を閉じて。
    「お久しぶりね。豪勇さん」
    『華夜モ元気デ、嬉シイゾ』
     霊犬の神命と共に周囲を警戒していた華夜も参拝を終え、ヒイロカミを包む人の輪が広がっていく。
    「これまでの縁が結んだ故の絆か」
     人の輪にある緋色の少年。ヴィントの瞳にも相互の信頼と絆が強く感じられて。
     願わくば同じ空の下、皆に幸在らんことを――。
    「私達の方こそ感謝すべきよね」
     明日等もまた、挨拶と共に感謝の言葉を交わさんと、人の輪に加わった。
    「るりかちゃん、なに食べる?」
    「香乃果ちゃん、ボク、全部食べたい。おまんじゅうもお蕎麦もどーんとこーい」
     ヒイロカミに挨拶を済ませた【リトルエデン】は、いざ美味しいもの巡りの旅へ!
     蕎麦と饅頭が楽しみだという香乃果に、るりかは店先の蒸したての蕎麦饅頭が美味しいと勧めると、穂純とりねの瞳が輝く。
    「そっかあ、ふかしたてが美味しいんだ!」
    「蕎麦湯飲むのがおいしいってパパが以前言ってたのを思い出しました」

     澄み切った空気を満喫した神凪の義きょうだい達も、特産品を使った料理を堪能すべく近隣の店に足を運んでいて。
    「ここにも綺麗な空気が一杯なのは、私にも分かります」
    「このワカサギ料理美味しいです。陽和は相変わらずの食欲ですね」
     ワカサギ料理を味わう双調と空凛の前では、約1名が凄い食べっぷりを発揮中♪
    「いつも腹ペコの私には最高のご馳走です」
    「陽和、口に蕎麦が付いてますよ」
     ワカサギ料理と蕎麦と饅頭を凄い勢いで平らげていく陽和に燐は苦笑しつつ、陽和の口元の蕎麦を取ってあげることを忘れない。
    「あ、お蕎麦美味しい。陽和、食べ過ぎてダウンしないようにね?」
     これも大自然の恵み、なのかも?
     そう思うと朔夜の箸もまた、軽快に進むのだった。

    「音、せっかくだしおみくじ引こうぜ」
    「私結構くじ運悪いので、ドキドキ致します……」
     神社と言えばおみくじ!
     これだと思う一枚を引いた御伽と音雪は、せーので同時に開ける。
    「……俺小吉。音は?」
     笑う門には福来る?
     さっと目を通して普通だなと顔をあげた御伽に、音雪が満面の笑みで微笑んでいた。
    「あっ、おみくじも引きたいな」
     茶之木・百花が引いたのは……小吉!
     おみくじを木に結んで今年の幸を祈る百花の隣で、セレスも同じものを結んでいて。
    「がぅーん、吉だったんだよー。紅葉さんはどうだったんだよ?」
     ヒイロカミに挨拶を済ませた毬衣と紅葉も、新年の運試しに挑戦!
     肩を落とす毬衣の直ぐ横で、紅葉はおみくじ箱を楽しそうに、シャカシャカ――。
     と、その時だった。神社の直ぐ近くで間欠泉がブワッと吹き出し、歓声が湧いた!
    「はわわ、大吉ですね!」
     ――今年も、皆が幸せに過ごせますように!
    「たくさん悩みましたが、家内安全、と」
     最後に絵馬を手にした音雪は、堂々と文字を入れていく。
     露草庵の皆の1年の無事と、健康を祈り願いながら――。
    「実は絵馬って書いたことないんだわ」
     書きたいことは色々あるけれど、一番は決まっている。
     御伽の願いは昔も今も変わらず、露草庵のこと。そう思える程、大切なのだと穏やかな笑みを浮かべていた。

    ●獣と人の祈願の湯
     神社の側で湧いた祈願の湯は無色透明で触り心地も実に心地よく。
     渡里と晶が建てたテントで皆と一緒に着替えたヒイロカミを、茶之木・百花が呼び止める。
    「お湯に浸からないように結んであげるね」
    『オオ、ポニーテール、カッコイイ!』
     百花に髪を結って貰ったヒイロカミは、上機嫌で湯に飛び込んだ。
    「ギィさんはお疲れ様です。良かったら背中流しましょうか?」
     儀式の補助をしようと湯に身を委ねた双調と朔夜は、先に湯に浸かっていたギィを見つけると、直ぐに呼び止める。
    「水着のまま突っ立てるのは寒いっすよ。自分も早速お湯に浸からせてもらうっす」
    「ささ、遠慮せずに」
     朔夜がニコニコと笑みを浮かべ、双調も寒かったでしょうしと微笑んで。
     折角の機会、2人はとことん温泉を満喫する気満々だ!
    「新年早々定番な感じもするけど」
    「だが、段違いに肌に良さそうだな」
     一方、喧騒から少し離れた所では明日等がゆるりと湯に浸かり、念には念を入れた優奈が殺界形成を解き放つ。
    「ふふ……いいお湯ですね」
    「か、肩凝りにも効きそうな良いお湯ですね」
     温泉の端の方では、結城と満月が仲睦まじく湯に浸かっていて。
     至近距離で瞳を細めた結城に、橙色のビキニ姿の満月の頰がみるみるうちに赤くなる。
     それでも好きな人の隣は心地良く、2人は身体を寄せ合うようにして、温まっていた。
    「日々の疲れがさっぱりと取れますね」
    「儀式の成功の為にも、ゆっくりくつろぎましょう」
     ヒイロカミに挨拶を済ませた燐と陽和は、空凛と姉妹3人水入らずを楽しんでいて。
     3人揃っての温泉は久しぶりなのか、揃って幸せそうに瞳を細め、湯に身を委ねる。
    「姉様と陽和との温泉って、凄く幸せですね」
     柔らかい温泉の湯気が、冬の風でふわりと揺れる。
     大好きな姉妹と味わう貴重な機会を存分に楽しもうと、空凛は湯に深く身を預けた。
    「はあ…寛ぐ。温泉は、どうしてこんなにも気持ち良いのか」
     隅の方で蕩けていたエアンの視界を湯気が覆った時だった。
     寛ぐ横顔が愛おしくて、葉新・百花が湯気に隠れるように、唇をエアンの頰に付ける。
    「えあんさん……今年もよろしくですv」
     はにかむ百花に、エアンも嬉しそうに微笑み返した。

    「私が背中を流してあげるね♪」
    『ムウ、モウ何十回モ、流シテル……』
     弟扱いする火華流に困惑したヒイロカミが見回すと、皆揃って蕩けている様子♪
     そんなゆったりまったりだからこそ、弾む会話がある。――思い出話だ。
    「冬の温泉って なんか気持ちいいよね」
    「イフリート達とまさかこんな関係になるとは思わなんだ」
     饅頭を片手に寛ぐ緋色にワルゼーは頷き、改めてヒイロカミに会えて良かったと笑みを浮かべて。
    「去ってしまうにしても、言葉を交わす機会があるというのは救いだな」
     セレスが名残惜しむように語り出すと、自然と見知った顔が多く集まっていた。
    「ヒイロカミ、僕の事を覚えているのだろうか」
    『アア、覚エテルゾ』
     その返事に安堵した蔵乃祐は、出会って以降の経緯は報告書で知ったと告白する。
     その時、自身が闇堕ちしていたことも……。
    「君の力になれなくて、脆過ぎる自分の覚悟が情けなかった……」
     だからこそ、炎獣達が此の日を自ら選んだことが、泣きたくなる位嬉しいのだ、と。
    「こうやって共に戦い、時には対決した相手と語らう風呂も良いと思わない?」
    『ソウダナ、ココアモ美味イ!』
     祈願の水と大地の熱が見事に溶け合った湯に、ヒイロカミと華夜は小さな笑みを零す。
     摩耶も口元を緩め、お代わりのアイスココアを差し出した。
    「いよいよ大詰めだな」
    「まあ小難しい事は抜きに、温泉を堪能するが此度の忍務!」
     其の絆が行き着く先に気に留めつつ、此の時を楽しもうと明日香は湯に身を委ねる。
     ヒイロカミの周囲に気を配っていたヴィントも、何時の間にか湯の心地に蕩けていた。
    「良く分からないけどこれで良いのかなー?」
    『イイゾ、ソノ調子』
     湯に蕩ける勢いでリラックスしていた殺識が、不意にヒイロカミに顔を寄せた。
    「……本当はもふもふしたいけど失礼かな?」
    「んー、自分も、ハグくらいはしたいっすけど」
     殺識に続いて挨拶と龍脈の守護を託しに来たギィも便乗してます、どうします?
    「な、なあ……君の身体、触らせてくれないか。少しだけでいい、頼む、少しだけでいいんだ……その柔肌……触らせてくれ」
     援護射撃に似た優奈の熱い視線に、ヒイロカミは両手をそっと頰に添えると……。
    『ヤサシク、シテネ♪』
    「それ、何処で覚えてきたの!?」
    「優奈が倒れた! 衛生兵、衛生へーいっ!」
     ぽっと頬を赤らめるヒイロカミに優奈が卒倒。モフりに来た灼滅者達には渡里が全力で湯を掛ける、カオスフル♪
    「雪が降っていたら雪合戦もできそうよね」
     静観を決めた晶は冷えた身体を温めるように、湯に身を沈ませる。
     そんな楽しい宴も、刻一刻と終わりに近づいていた。

    ●大地へ還る
    「何が来ても私が守ってあげ――っ!」
     終始ヒイロカミに付きっきりで憧れのお姉ちゃん気分を満喫していた火華流が、悲鳴に似た声を上げる。
     ヒイロカミの身体が霞んでいることに気づくや否や、幾つもの声と手が伸ばされた。
     ――ついに、別れの時が来たのだ。
    「俺の炎、忘れるなよ?」
     炎を纏った竜雅の手を、ヒイロカミも忘れるものかとぎゅっと握り返す。
     鶴見岳で掴み損ねた手と手が始めて繋がれる。互いに随分変わっても、変わらない確かなものが1つあったから――。
    「どうなるかは分からないが達者でな」
    「いつでも学園に遊びにこい。我は友として、おぬしの来訪を待っておるぞ」
     セレスが成り行きを見守る中、ワルゼーは言葉と共に髪飾りを握らせた。
    「ヒイロカミ、ありがとう…」
    「これからも、人類の優しき友として、宜しく頼む」
    「……ヒイロカミ、また会える時が来たら腕比べをしましょ」
     最後に。蔵乃祐と摩耶と華夜から贈られた言葉。
     ヒイロカミは皆の思いを全て抱くように、名残惜しむように、深く頷いて。
    『アア、マタ逢オウ。ソシテ』
     ――ありがとう。
     ヒイロカミは満面の笑みを浮かべ、ゆるりと獣形態へと姿を変えてゆく。
     緋色の炎は皆で紡いだ祈願の湯に溶け、大地の守護者となって、消えていった――。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年1月11日
    難度:簡単
    参加:36人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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