ソウル・キャッスルズ

    作者:麻人

     どこからかかかってきた電話をとった甲斐は、一瞬だけ目をみはり、それからごくりと喉を鳴らした。
    「それ……そこから聞いたんだ? ああ、確かにそういう経験をしたことがある。もう6年も前、俺がまだ中学生だった時だ。夜九時ちょうどに自販機でコーラを買うと、自分の望む場所へ行けるって言う噂話」
     あの頃は受験勉強に追われ、鬱屈した気分が行き場もなく溜まるばかりだった。そしてある日――甲斐は悪夢のような場所に閉じ込められた。
    「一面灰色の建物の中で、どれだけ階段を降りても一階にはたどり着かない。当然出口も見つからない。だけど、気づいた時には外で気を失ってたみたいだ」
     甲斐は当時を思い出して小さく笑った。
    「その時、どうしてか周りにいた人達がさ、優しいけど厳しい言葉をかけてくれたのを覚える。『思い悩むのは悪いことじゃない』ってさ。それで結構気が楽になったんだ」

    「都市伝説を発生させるラジオウェーブの放送に新しい動きがあったっていうのはみんな聞いてるよね?」
     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)は灼滅者たちに今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)の調査によって得られた情報を伝えた。
    「過去にダークネス事件に関わって生き延びた一般人のところに電話がかかってきて、その体験談を話させるっていう聴取者参加型のラジオ放送なんだけど……その体験談をもとにした都市伝説の発生が確認されたの。急いで現場に向かってもらえる?」

     以前、受験勉強に囚われた子どもたちの苦悩や鬱屈がサイキックエナジーと融合して生まれた都市伝説。今回巻き込まれたのは同じ年頃の少女で、名前を雛季という。
    「学校やラインで繋がってはいるけれど、本心を言える友達や家族がいない。誰も本当の自分を分かってくれないという苦悩――ううん、逆かな。自分のことなんて誰にも分からないっていうひねくれた優越感? 周りにいる普通の人には分からない繊細な心を持った自分っていう幻想の殻に閉じこもっちゃってるんだね」
     都市伝説は雛季の心を反映して、冷たい牢獄のような城の形をとっている。主である雛季は中心にある王座で膝を抱え、他人を拒絶する。
    「現場にある自販機で誰か1人でいい、コーラを買えばそれが案内状。お城の中に招かれたらイコール戦闘開始だよ。このお城自体が大きな敵みたいなもの。柱も壁も床も、攻撃すればダメージが与えられる。同時にあっちからの攻撃も始まるから気を付けてね。列ごとにプレッシャーとダメージを加えてくるよ」

     ある程度攻撃を与えれば、城は雛季のいる玉座までの道を開くだろう。だが、そこに待っているのは元になった都市伝説のように取り込まれた人間を模した影法師ではない。まりんは軽く肩を竦めてみせた。
    「どうやら、体験者の話にあった『自分に助言をくれた存在』を都市伝説の一部として再現しちゃったみたいだね。影法師は前回の都市伝説を倒した灼滅者たちを模した8人。とはいっても、体験者は灼滅者としての彼らを知ってるわけじゃないからあくまで自分を救ってくれた存在としてのメタファーって感じかな。雛季のことを守るように壁になって、こっちに襲いかかってくるよ!」
     影法師は前衛と後衛に分かれ、積極的に攻撃を仕掛けてくる。前衛4人のうち2人は近接攻撃を得意とし、残りの2人は仲間を庇いながら回復もこなすようだ。
    「後衛の4人は前衛の後ろからばんばん遠距離攻撃を撃ってくるよ。雛季ちゃんが巻き込まれないように保護する必要があるけど、そんなことをしようとしたら影法師たちは彼女に危害を加えるつもりだと勘違いして邪魔してくるに違いないよ」

     なんとかできるかな、とまりんは灼滅者達を見回した。
     影法師8人と戦いつつ、雛季を保護して彼らを倒す。言うのはたやすいが、なかなかに難しい任務と言えるだろう。
    「全ての影法師を倒せればお城は消えて外に出られるはず。お願い、都市伝説を倒して雛季ちゃんを魂の牢獄から救い出してあげてね」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    斑目・立夏(双頭の烏・d01190)
    藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)
    神凪・陽和(天照・d02848)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    ステラ・バールフリット(氷と炎の魔女・d16005)
    ニアラ・ラヴクラフト(時代旧れ・d35780)

    ■リプレイ

    ●都会の片隅で
     凍てつく夜風から首元を守るように上着の襟を立てたギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は、腕時計に目を落としてぽつりと言った。
    「21時ちょうどっすね」
    「了解。それじゃ、いくよ」
     神凪・朔夜(月読・d02935)が請け負い、闇にぼうっと仄かに光る自販機へと向かった。
    「気を付けて」
     見守るように佇む姉の神凪・陽和(天照・d02848)を肩越しに振り返り、朔夜は安心させるように微笑む。
     斑目・立夏(双頭の烏・d01190)は隣に立つ相棒こと藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)の耳元に顔を寄せ、「覚えとる?」と囁いた。
    「6年前のあん時、徹やんに時間聞いたんや。後何分?って」
    「ああ……」
     常に無表情である彼の双眸が僅かに細められた。
     ラジオウェーブによって再現された都市伝説――ここではない望みの場所へ連れていく、『迷宮』の罠。あの時に救った少年が健在であるということ。再びの事件化は決して喜ばしいものではないが、甲斐の現在が知れたことは二人にある種の感慨をもたらしたようだ。
    「彼は元気か。……そうか」
    「ほんまにな。元気そうにしとるんわかってよかったわ」
     徹也の肩に肘を預けた立夏は、しみじみと懐かしむ。
     ステラ・バールフリット(氷と炎の魔女・d16005)が鷹揚に小首を傾げ、尋ねた。
    「班目様と藤谷様は原典となる都市伝説の灼滅に携わったのですよね。当時のことをお聞きしてもよろしいですか?」
    「ええよ。あん時も、ああやって自販機でコーラを買うて……」
     無口な徹也の代わりに立夏が説明する。
     ちょうど、朔夜の指先がコーラのボタンを押したところだ。鈍い音がして、コーラのペットボトルが転がり落ちてくる。
     黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)の足元に寄り添う霊犬の絆が尾を振った。まるでそれを合図としたかの如く、一瞬のうちに空間が切り替わる。

    ●魂の城
     生きた者の気配を感じさせない鋼の城の内部にて、微かに鼻を鳴らしてその心情を示したのはニアラ・ラヴクラフト(時代旧れ・d35780)だ。
    「魂の城。魂の牢獄。我等灼滅者が探索すべき精神世界――普遍的無意識領域――に似た性質だと思考可能だ。人類の脳髄には感情の地獄が渦巻いて在る」
     彼の言葉通り、そこは牢獄以外の何物でもない。今回の被害者である少女は他を排斥するための城を作り上げた。
    「ええ、まるでソウルボードのようですね」
     ステラが頷き、ゆっくりと辺りを見回す。
     そこは長くて暗い石造りの廊下だった。窓の外には曇った空が広がり、城砦らしき塔が見える。
    「――Castles in the air」
     見事な造りにステラがこぼした言葉。
     なるほど、とギィが訳した。
    「空想っすか。こんだけ豪壮なお城で中は牢獄ってのも皮肉が効いてるっすよね。なんとなく六六六人衆の拠点グラン・ギニョール劇場を想起させません?」
    「ええ。本当にここはソウルボードではないのでしょうか。ひとまず、飛行や想像物の具現化などはできないようですが……」
     ステラは色々と試してみるが、手ごたえは返ってこない。
    「これだけ似ているとシャドウに詳しい後輩に見せてやりたいところっすけど……」
     ギィが言いかけた時、地響きのような揺れが城全体を襲った。同時に武器を構えるような金属音。顔を上げれば、廊下の先に置かれた青銅の鎧が軋みながら動き始めている。
    「侵入者に気づいたようですね」
     ステラはスカートを翻し、しっかりと床を踏みしめて両手に砲を構えた。
    「愚昧なる抵抗。然らば屠る迄。既知の末路は虚無に根差す暗澹で在ると説く」
     ニアラの影が揺らぎ、『恋人』である女子高生の姿をとった影業が傍らに出現。
    「どうやら、あれが城の護りのようですね」
    「早く倒して雛季さんの元へいきましょう」
     空凛と陽和は頷き合い、同時に床を蹴って飛び出した。向かって来ていた鎧の振り下ろす武器を、太陽牙――クルセイドソードの刀身とバイオレンスギターの八重桜で受け止める。左右の壁からも槍が打ち込まれるが、こちらは剥守割砕を豪快に振り回すギィの戦艦斬りが壁ごと粉砕した。
    「攻略本があれば楽なんすけどね」
    「ほんまに。――っと、こんな大雑把な攻撃やのに結構効くやん。気ぃつけてや!」
     立夏の激励を伴ったセイクリッドウインドが一気に回廊を吹き抜けた。それに背を押されるようにして、攻撃手を担った朔夜とギィが突き進む。
     とにかく、手あたり次第攻撃を――!
    「さあ、城の中を押し通るっすよ」
     先陣を切るギィに続く徹也の返答はその拳だ。
    「――ッ!!」
     表情一つ変えぬまま、プレッシャーをかけてくるせり出した壁を鋼の拳で粉砕。
     朔夜は鬼化した腕を振り回して鎧を跳ね飛ばし、その後ろから現れた堅牢な扉に思い切り神霊剣を突き刺した。
    「あくまで玉座への道を阻むつもりみたいだね」
    「でも、私たちが来たからには通してもらうわ」
     陽和の一閃した爪跡が壁に深く刻まれる。無機物であるはずなのに手ごたえがあるのが不思議な感覚だ。確かに自分たちはこの城にダメージを与えている。確信をもって、陽和は半獣化で強化された手で太陽牙の柄を握り直した。
    「はっ!」
     気合の込められた一撃が扉を揺らす。
     続けて撃ち込まれる徹也の雷を纏った両の拳。更にはニアラの影業たる『恋人』が逆手に持ったサバイバルナイフを振りかぶり、一撃を加える。
    「これでいかがです?」
     後方から放たれたステラの斬影刃――激しい攻撃によって傷んだ扉にその刃が届いた時、蝶の羽が瞬いて灼滅者たちを阻むそれが激しい破壊音とともに瓦解した。
    「道が開けました」
     陽和はその先に佇む八人の影を見て、あっ、と声を上げた。
     さてお姫様にご拝謁、と広間に踏み込んだギィも片目を閉じる。雛季を守るように布陣しているのは騎士というにはあまりにも昏い影を帯びた者たち。
     空凛は神妙な面持ちで彼らと対峙する。
    「あれが、灼滅者達を模した影法師……」
     確かにそれは甲斐を救った彼らの面影を残している。その中に自分らしき姿を見つけた立夏は懐かしげに目をすがめた。ただし、唇は癒しの歌を紡ぎながら。影法師の群れの背後に『それ』を見つけたニアラは顔面の筋肉を歪つな形に引き攣らせる。
    「精神が晒す憧れ。牢獄の如き輪郭」
     雛季は玉座の上にぽつんと座り込んでいた。
     抱え込んだ両膝に顔を埋め、丸くなっている。
    「我が脳髄に似た『頑固』な部分」
     ニアラから迸る激情の根源は同族嫌悪なのか、あるいはもっと違う何かなのか。二度目の戦闘の火蓋を切って落としたのは、真っ先に飛び出したギィの斬撃と後衛の影法師が放った毒の弾丸の交錯。
    「護り。或いは狂乱――脳裡へ寫すは黄の印」
     影法師の毒はニアラが置いた標識の効果によって相殺される。
     ギィは一撃を与えるなり離脱。刃を水平に構え、今度は刺突の姿勢を取った。敵は反撃に出るも、その矛先は果敢にも仲間の壁となるべく進み出た空凛によって阻まれる。
    「絆は陽和の援護を」
     可愛らしいポメラニアンの霊犬が「きゃん!」と鳴いて、玉座目指して飛び出す陽和の後を追いかける。雛季を守護する影法師たちはそれを邪魔しようとするが――不意打ちのように降り注いだ無数の光線に怯んで、顔を上げる。
    「こういう砲台みたいな立ち回りは久しぶりです」
     そこでは、右手にクロスグレイブ、左手にガトリングガンを構えたステラが悠然と微笑んでいた。影法師たちが麻痺している間に、ラビリンスアーマーによって守りを固めた陽和が雛季の元にたどり着く。背後から麻痺を逃れた影法師が手を伸ばすが、飛び込んだ絆の斬魔刀がそれを斬り落とした。
    「雛季さん」
     虚ろな目のまま返事をしない少女の姿にかつての己を重ね、陽和は切なげに眉を寄せた。昔は自分もこうして殻に引きこもっていたのだ、朔夜と共に。
     一方、玉座の前方では激しい戦いが繰り広げられている。
    「徹やん、そっち!」
     徹也に背を預け、死角を無くしながら立夏が叫ぶ。
     敵味方が入り乱れ、気を抜くとどれが撃破優先順位の高い敵なのか見失いそうになるのだ。
    「……お前か」
     徹也は無機質な瞳で見抜くと、その顔面にギターの柄を叩きつけた。闇の輪郭が崩れ、消失する。
    「俺は任務を遂行する」
     おそらくは己を模したのだろう敵を拳ひとつで粉砕してなお、表情ひとつ変えはしない。相変わらずの相棒を頼もしく感じつつ、立夏はあの時のことを思い出していた。
    (「こうして戦っとると、なんや過去に戻ったみたいやな」)
     ただし、違うのは関係性だ。
     負傷しても眉ひとつ動かさない相棒を癒すついでに片目を瞑って見せれば、微かに返る頷き。それだけで通じ合える。
     もう一方の防御手は空凛が加えたバイオレンスギターによる過激な殴打と朔夜の鬼人変炸裂によって、こちらも消失。
    「悪いけど、ここは勝たせてもらうよ。あなた達は雛季さんを守ろうとしているのかもしれないけど、ここには……自分しかいないこの場所には、彼女が本当に望むものはないんだよ」
     続けて襲いかかる攻撃手を、朔夜は持ち替えたクルセイドソード――可惜夜で横薙ぎにする。受けた傷はすぐに立夏が癒してくれる。それに、この敵さえ倒せば再びニアラの交通標識が『黄の印』を掲示するだろう。
     いざとなれば、徹也にも空凛にも回復手に回る準備がある。
    「だから、今はあなた達を倒すことに全力を注ぐよ」
     強化の持続には拘らず、朔夜の振るった神薙剣に気圧された影法師が体勢を崩した。そこへニアラの『恋人』が迫る。回転――黒い髪が宙に舞って、追撃。振り返る間もなく、ギィの紅蓮撃が背後から跡形もなく燃やし尽くす。
    「雛季さん、しっかりして。このままここにいても、自分の殻は破れませんよ」
     玉座に座る少女の肩を陽和が揺すると、幼さを残す瞳がゆっくりと開いた。背後から迫りくる気配を感じた陽和は彼女を抱きかかえ、戦場から離脱する。背中からばっさり斬られたが、気にするものか……!
    「きゃんきゃん!」
     絆の浄霊眼と、口元に手を当てて叫ぶ「頑張りや!」という立夏の歌声が陽和の受けた傷を癒していく。
     追いすがろうとする影法師の背を、ステラのばら撒く弾丸が蜂の巣にする。同時に二体が消失するのを見送って、ステラは攻撃の目的を敵の行動阻害から殲滅へと切り替えた。視界の隅にニアラの放つ死弾が6体目の影法師を討つのが見えた。
    「残りはあなた方、2人だけですね」
     ステラは告げて、放つ――それは業を凍結する光の砲弾。
     凍てついた影法師へと、いつの間にか忍び寄っていた徹也が鋼鉄の拳を振るう。逃げる暇などギィの振り回す斬艦刀が与えない。残る2体をまとめて間合いに捉え、一息に刃を振り下ろす。残る敵はついに1体。
    「決まりやね」
     もはや回復は不要となれば、立夏の声色が攻撃のそれと切り替わる。
    「是で在ると解く」
     握り締めた拳が与える罰の名を心傷と説くニアラ。影法師に逃げ場はない。何故ならばそもそもここは牢獄だから。鼓膜を裂く歌声と魂を抉る拳に見舞われたそれは、断末魔すら上げることを許されずに消失する。

    ●雛季
    「それらしい存在は見当たりませんね」
     索敵の成果は上がらず、ステラは肩を竦めた。
    「もう少し何か情報が得られればよかったのですが……」
    「ま、件の都市伝説は灼滅できたのでよしとしましょうや」
     ギィが振り返る先では、ちょうど雛季が目を覚ましたところだった。最初はぼんやりとして状況を理解できていないようだったが、そのうちに自分を取り囲む年上の人間たちに怯えるような仕草を見せた。
    「大丈夫ですよ」
     空凛は安心させるように微笑んだ。
    「ええ。あなたと似たような境遇にあった者、と言ったら分かってもらえるでしょうか」
     陽和がそう言って自分と朔夜を目で示すと、雛季は「え?」と首を傾げた。
    「自分だけの殻に閉じこもるのもいいけど、案外、外に目を向けてみたら、いいものが見つかるものだよ?」
    「……それは……」
     あなたたちに何が分かるの、という反論は出鼻から挫かれてしまった。
    「少なくとも、自分だけのお城に籠ったままでは、訪れる人もいません。理解者が欲しいならば、他人がいる、お城の外に出ることも大事です」
     空凛が後を引き継ぐと、「でも」とようやく首を振る。
    「私はみんなとは違うから。きっと、分かってなんかもらえない」
    「本当にそうか?」
     淡々とした問いの主は徹也だ。
    「う……」
     雛季は口ごもる。
    「お前を理解しようとしてくれる者は、居たのではないか」
    「あの、私を守ろうとしていた人たち?」
     違うと徹也は首を振る。
     あれは甲斐の話を元にしてラジオウェーブが作り出した幻だ。決して本当の理解者ではない。
     困惑する雛季の前にしゃがみ込んで目線を合わせた立夏が笑うと、彼女はびくっと肩を揺らした。
    「なあ、わかって欲しかったら素直にならなあかんよ。せっかくの人生やさかい、躊躇せずに思うまま生きてみいや?」
    「で、でも……そんなことしたら嫌われちゃうよ」
    「最初はそうかもしれん。だが何時か、良い友と出会えることを願っている」
     徹也の言葉は雛季の虚を突いたようだ。
    「いつか」
     繰り返して、肩を落とす。
    「すぐじゃないんだ……」
    「せやでー? わいらも6年前はこない仲良ぅなるて思ぅてなかったさかいに、なー?」
     相棒の首に腕を回して、立夏は笑う。
     徹也は相変わらずの無表情だが、気持ちは伝わったようだ。雛季はうらやましそうに立夏と徹也、陽和と朔夜たちを見てため息をついた。
    「……いいなあ。私はどうすればいいのか、全然わかんないよ」
     切なげに呟く雛季の肩を陽和が叩く。
    「ちょっと頭を上げて、眼を開けて、周りを見てみて」
    「ゆっくりでいいから、試してみたら?」
     朔夜の言葉に、ようやく彼女は頷いた。
    「わかった」
     やれやれ、と離れた場所でギィが頭をかいた。
    「これで一件落着っすかね」
     隣に立つニアラは虚空を見つめている。
     もうここにはない魂の城――否、牢獄を生み出す業深き想いに思いを馳せつつ。
    「人間の精神が孕む、超越的な力とは凄まじい理よ」
     やがて次なる未知の恐怖を得んとして、徐に背を翻す。

    作者:麻人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年1月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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