集え、魔法少女よ!

    「女子ならば、一度は憧れるものです。魔法少女に」
     色射・緋頼(色即是緋・d01617)は不気味な廃工場を背景に、集ってくれた仲間たちに語り始めた。
    「あ、女子だけではありませんね。愛好されるお兄ちゃん方も多くいらっしゃるようで」
     まあとにかく『魔法少女』が、普遍的人気のキャラクターであることは確かなわけで。
    「その人気に目をつけ『魔法少女にしてあげる』というふれこみで、少女たちやお兄ちゃん達を集めているソロモンの悪魔がいるのです」
     魔女王風の扮装をしたそのソロモンの悪魔は、既に10数人ほどの魔法少女ファンの一般人を集めているという。
    「私、潜入捜査を試み、今夜もこの廃工場で『魔法少女集会』が開かれるという情報を得ました……しかし、幸いなことに、まだ闇堕ちのためのサバトまでは至っておりません」
     本格的な儀式は、もっと人数を集めてからということなのだろう。
    「つまり今夜集うのは、闇堕ちもしていなければ、強化もされていない素の一般人。なので、今夜のうちに集会に乱入し、魔女王ソロモンを撃退しましょう……といっても、大勢の一般人がいますので、彼らをまず逃がさなければならないのですが」
     というわけで、緋頼の考えた作戦はというと。
    「一般人たちは、魔女王ソロモンの『いかにも』な魔女っぷりに惹きつけられているようなんですね。ですから、我々も魔法少女や魔女風の衣装や演出をし、更にラブフェロモンやアルティメットモード等、魅力強化系のESPを使用するなどして対抗するというのはどうでしょう」
     魔女王ソロモン以上に一般人を惹きつけることができれば、速やかに退避してもらうことも可能だろうというのだ。
     一般人さえ無事避難させられれば、あとは魔女王ソロモンを倒すのみ。
    「おそらく魔女王は、当然ながら魔法系のサイキックを使ってくるでしょう。武器としては、タロットカードと杖を持っていたようでした」
     相談しているうちに、冬の早い日が暮れてきた。
     緋頼は赤く染まった西の空を見上げて。
    「集会は真夜中に開かれますので、急いで魔法少女演出について相談しなければ……ああもちろん、戦闘についてもですね!」


    参加者
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042)
    色射・緋頼(色即是緋・d01617)
    コルト・トルターニャ(魔女・d09182)
    七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)
    白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)
    有栖川・ドロシー(マッドネスアリス・d37334)
    オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)

    ■リプレイ

    ●魔法少女集会
    「エロイムエッサイム……さあ、皆も唱和するのじゃ」
    「「「エロイム……」」」」
     廃工場のがらんとだだっぴろいフロアには、10数人ほどの魔法少女コスの善男善女が集まっていた。コスチュームがよく似合っている可愛らしい少女もいるが、ぱっつんぱっつんの衣装がはちきれそうなむさくるしいお兄ちゃんもいたりする。
     魔法少女志望者たちは、ビールケースを並べたステージの上で、節くれ立った木の杖を振り回し、呪文指南を行っている中年女性に、一心に熱い視線を注いでいる。
     その後も呪文の練習は続いたが、そのどれもに昭和の匂いがプンプンするのは、ステージ上の女性……『ソロモンの悪魔・魔女王』のトシのせいかもしれない。
     ところで魔女王、美人なのは確かだし、スタイルもよく、ラインストーンキラキラの体にフィットした黒のロングドレスも良く似合っている。いわゆる美魔女と呼んでも差し支えないだろう。
     だが、首の辺りなど見ると、寄る年波は隠せない。
     もしかしたら美魔女と呼ばれていい気になって、けれど段々キープしきれなくなってきて、様々苦悩して試しているうち、魔術にも手をだしてしまって闇堕ち……というクチだったりして? などと想像してしまう。
     観察しているうちに、集会は進んでいく。
    「うむ、呪文トレーニングはよくできた。ウォーミングアップが終わったところで、今宵はカバラにおけるアストラル界について話そうかの」
     面白そうだが、聞いている場合ではない。
     作戦開始だ。
     ――まずは。
     突然、魔女の話に聞き入る魔法少女志望者たちの間に、ぽとりぽとりと落ちてきたものがある。
    『イケナイワ イケナイワ』
    『カ弱イ人間ガカ弱ク呼ンデハ』
     不気味な言葉を喋りながら落ちてきたのは、幾体かの顔の無い人形だった。
    『今宵ハサバト。闇ノ匂イニ惹キツラレ、本物ノ魔女ガヤッテキタ』
    『魔法少女ガ、魔女達ガ……アナタ達ヲ、狙ッテイルワ!』
    「なにこれっ」
    「気持ち悪っ」
    「静まれっ、何者かが天井に潜んでおるぞ!」
     一般人たちが浮き足だち、魔女王が高々と闇を湛えた暗い天井を見上げた、その瞬間。
     バアン!
     フロア後方の窓と、側面の窓が同時に破られて。
    「待ちなさい!」
    「ストーップ!」
     2本の空飛ぶ箒が屋内へと滑り込んできた。
    「サバトなんかさせないわ! ここに魔法少女たちがいる限りはね! サバトなんて、魔法少女には似合わない!!」
     まずは神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042)が魔女王スレスレの高さを飛び回る。紫色の魔女コスチュームが、ポップで可愛らしい。
    「な、なななな、何者!」
     魔女王が身を屈めながら誰何すると、待ってましたとばかりに。
    「とうっ!」
     暗い天井から飛び降りて、魔女王と動揺する一般人たちの間に割り込んだのは有栖川・ドロシー(マッドネスアリス・d37334)。
     珍しく制服姿の彼女は、スレイヤーカードをスタイリッシュにソックスから引き抜き、謎のキラキラを纏いながら、いつものロリ可愛い衣装に変身し、
    「おんしら、騙されてはいかんぞ! そこな女は偽物、真なる魔法少女とは、そう! この妾なのじゃ! 天知る地知る人が知る! D☆D(ドラクル☆ドロシー)のマジカル殺法をその身に味わうのじゃ!」
     続いて扉から元気いっぱい駆け込んできたのは白峰・歌音(嶺鳳のカノン・d34072)。
    「ダメだな、全然ダメだぜ!魔法少女の本質ってやつが分かってないぜ、ダメ魔女! 魔法少女ってのは、かけがえのない願いを叶えたり守ったりするためになるんだ。ただ可愛くなるだけの魔法少女じゃ、真の魅力は得られないぜ! ……変身!」
     青色のアイドル風衣装が翻る。
    「憧れに付け込む悪魔のささやき!マギステック・カノンがそのささやきをかき消してやるぜ!」
     お次は、人形を天井から降らせたコルト・トルターニャ(魔女・d09182)が闇纏いを解除しつつ箒で降りてきて。
    「私はコルト・トルターニャ……人呼んで、魔女……あなた達みぃんな、石像に変えて、お持ち帰りしてあげるわ!」
     早速個人的趣味を主張する。
    「私は『ホワイトウィッシュ』白き願いを叶えるものよ」
     高い位置を箒で優雅に飛んでいるのはアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)。
    「あなた方、その下賎な輩から魔法少女らしさを感じたことはあったかしら? 所詮は流行りに乗ろうとして滑ってるだけの年増じゃない」
    「だ、誰が年増ですって~~!?」
     激高しかけた魔女の台詞を思いっきり遮って。
    「「Magical Slayer Loading!」」
    「私たちは魔に堕ちて、法の外に蔓延る悪を討つ少女!」
     2人揃ってひらりと窓から飛び込んできたのは七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)と色射・緋頼(色即是緋・d01617)。白く目映い光に包まれた2人は、背中合わせに立って、息を合わせて変身し、
    「マジカルサイコ、マリネちゃん。深き淵より只今参上です」
    「悪よ、このマジカルウェポンヒヨヒヨが成敗してくれます――この世の弱き人々に害をなし、この世を闇に覆わんとする悪を、この私が武器となり討ち果たす!」
     鞠音はゴスロリドレスに龍の鱗のような金と赤の甲殻を纏い、緋頼はフリルひらひらの白いドレス姿だ。
     同時に緋頼はアルティメットモード、鞠音はラブフェロモンを発動して血のように赤い瞳を細め、唇にゆっくりと指を当てて唖然としている一般人たちを見回して。
    「ここからは、魔法少女の時間です。皆さんは安全な所で、ね?」
     後方の扉の方を指し示すと、そこには。
    「邪悪なたくらみはそこまでですっ」
     やはりラブフェロモンをむんむんさせ、シスター服から、セクシーな銀色の甲冑姿に変身した、オリヴィア・ローゼンタール(蹴撃のクルースニク・d37448)が待ち受けていて。
    「アレは人に夢を与える魔法少女ではなく、人の夢を奪う悪魔なのですっ」
     一般人を外へと誘いつつ、無敵斬艦刀・バルムンクを敵に突きつけるように掲げ。
    「父と子と聖霊の御名によりて――魔法シスターの悪魔祓いの時間です」
     もちろん他のメンバーも変身と同時に魅力upのESPを発動するのも忘れてはいない。
     限りなく本物に近い……というかある意味本物、しかも若くてセクシーな魔法少女、あるいは魔女チームの出現に、一般人たちはまずは動揺し、そして見惚れ、感動し、憧れて……彼女らの言うとおりにふわふわした表情と足取りで出口へと向かい始めた。
    「ちょ、ちょっと待ちなさい! アタクシのこと忘れてない!?」
     しかし当然ながら、魔女王がせっかく手懐けた一般人たちを、解放してくれるわけもなく。
    「行かせないわよ!」
     魔女王は、杖を振り上げてステージをドシンと飛び降りた。

    ●魔法大戦争!?
    「さ、早いところ避難してちょうだい。今からお仕置きの時間なの。あなたたちは見ない方がいいわ」
     元崇拝者たちに詰め寄ろうとする魔女王を妨げようと、アリスが呼びかけながら素早く箒を飛び降り、眠気を誘う符を投げ、歌音はガトリングガンで威嚇射撃を始めた。
     緋頼が一般人の盾となるよう堂々と立ちはだかり、扉のあたりでは鞠音とオリヴィアがラブフェロモンフル活用で誘導をしている。
     続いてドロシーがマジックミサイルを撃ち込むと、
    「だいたい何なのよアンタたちは!?」
     魔女王は集会に乱入してきた上、いきなり攻撃を始めた灼滅者たちにまだ混乱しているようだが、鈴音は容赦なく滑り込んできて、炎の蹴りを見舞った。
     一方、コルトが瞳を光らせて狙いを高めていると、そこに魔法少女志望の太めメガネのお兄ちゃんがぽーっとした様子で寄ってきて。
    「あ、あの、お姉さまのトンガリ帽子ステキです」
     どうやら一目惚れされたらしいが、言い寄られた本人は焦る。
    「ちょ、ちょっと、本命はソロモンで……じゃなくて危ないから、とりあえず表で待ってなさい!」
     魔女王は、それを見逃さず……てか、嫉妬したようで。
    『きーーーっ、何なのよ、さっきまでアタクシにぽーっとしてたくせにっ。裏切り者には、粛正あるのみ。雷、しょうっかんっ!』
     杖を振り上げた!
    「危ないっ!」
     ガラピッシャーン!
     激しい嫉妬の稲妻を、身を挺して庇ったのは緋頼。
     同時に魔女王には、
    「雪風が、敵だと言っている……っ!」
     鞠音がThousand-Nightfeatheで流星のような跳び蹴りを、オリヴィアが紅い雷を纏った大刀で斬撃を見舞う。
     そしてアリスが魔女王を挑発するかのように、
    「安い忠誠は簡単に裏切られる。まあ、悪魔なんて契約の穴をついた人間に騙されるのが、おとぎ話の役柄だけど。だいたい、まだソロで活動してる悪魔がいたなんて驚きだわ。昔は、こういう人集めは信者の強化一般人がしていたものだけど、もう残っていないのかしら。落ちぶれたものね。悪魔が落ちぶれると何になるかは知らないけど。これ以上無様になる前に、葬ってあげる」
     光剣『白夜光』から光の刃を放出した。
    「い、言わせておけばっ! 魔法少女や魔女の人気は不滅よ! 大体アンタたちだってノリノリでキメてきてんじゃないのさ!!」
     間断なく攻撃されつつも、魔女王の口は減る様子もないが、そこに。
    「いくわよ、ひよひよ」
    「鈴音、合わせるよ」
    「「双唱『魔弾・雪月華』!」」
     緋頼と鈴音のダブルマジックミサイルがドカン!
     その背中には、コルトからの――にわかファンを外へと押し出しながらの――聖剣からの癒しの風が吹いている。
    『うぎゃあっ!』
     さすがにダブルミサイルの勢いはすさまじく、魔女王は尻餅をつき、その弾みにビールケースのステージがガラガラと崩れた。
     すかさず歌音が威嚇射撃から切り替えて鳳薙万里の羽環から光輪を飛ばし、オリヴィアは全力で刀を振り下ろす。
     しかしドロシーが小教区・泥梨から発射した氷弾は、かろうじてという感じで躱され、
    「うぉおのれぇぇぇ……」
    「きゃっ!?」
    「うわっ」
     魔女王が起き上がりざまに放った氷魔法が前衛を凍らせた。なんちゃってとはいえ、その魔力には魔女王を名乗るだけの威力はある。
     されど、鈴音は、緋頼に護られており、
    「ひ、ひよひよ、ありがとうっ……てーいっ!」
     庇ってくれた友人を気にかけつつも、怒りの炎を魔女に蹴り込んだ。
    「皆しっかりなさい、魔女王以上の啖呵切ったんだから!」
     コルトが素早く聖剣を抜き、癒しの風を吹き渡らせる。
     前衛が解凍される間にも、アリスは影業『汎魔殿』を伸ばして縛り上げ、鞠音が両手の斧を振り回して切り込んでゆき、
    「なるほど、攻撃は妙にそれっぽいんだなー」
     歌音はもうやらせまいとばかりにガトリングガンを激しく撃ち続けている。
    「助かりました!」
     解凍なった前衛たちも、負けじと攻め立てていく。
     緋頼が四方に広げたThousand-Daybreakで絡め取ると、オリヴィアは再度の斬撃を食らわせ、ドロシーは紅い逆十字を、魔女王の派手な黒ドレスに浮かび上がらせた。
    「ぐ……アタクシは手下も得ないままに滅びるわけにはいかないのよ……」
     統率の取れた連続攻撃に魔女王はよろけ、灼滅者たちを憎々しげに睨みつけた……と。
     その瞳が、不気味な紫色に光りはじめ……。
    「あっ、回復じゃないの!?」
     気づいたアリスは、咄嗟に影を伸ばして喰らいこんだ。続いて、
    「いくわよ鞠音。回復なんてさせるものですか――宝石は雪の様に」
     コルトが指輪から石化呪を放って、魔女王を宝石の華に封じ込め、
    「――刻み舞い散るは」
    「「罪の華!」」
     それを鞠音が緋色の逆十字で雪のように切り裂いた。
     華やかなコンビネーション攻撃によろめく魔女王に、灼滅者たちは更に攻撃を加えていく。
     緋頼が白縫銀手で抑え込むと、歌音はオーラを宿した拳で連打を見舞う。
    「魔法少女は、やっぱり明るくポップにわいわいじゃないとね!」
     鈴音は魔法の矢を撃ち込み、オリヴィアは魔女王の力までをも砕こうと、鋭く刺突した。
    「マジカル殺法!」
     ドロシーは力を込めた跳び蹴りをかまし、アリスが眠りの護符を貼り付けて、敵の動きを妨げる。
    「……こ、このままでは」
     魔女王は苦し紛れにタロットカードを投げ、魔法陣を浮かび上がらせたが、魔法少女たちはそれを苦もなく踏み越えて。
     歌音は、
    「オレはヒーローだけど、魔法少女という憧れの存在を守ってみせるんだぜ!」
     威嚇射撃で敵を釘付けにし、鈴音は炎を畳みかけてドレスを燃え上がらせ。オリヴィアは赤く火花を散らす剣で串刺しにして捕まえ、刀身の内なる力を光線として迸らせる。コルトは、
    「私の物になりなさい!」
     しつこく石化の呪いを、ドロシーは氷弾を今度こそとばかりに狙い澄まして撃ち込んで。
    「止めよ、鞠音」
     緋頼の合図に鞠音は、
    「懺悔も無さそう、ですしね」
     と、頷き。
    「「――ドラゴンブレイク!」」
     懐に入った緋頼が渾身の魔力を込めたTwilight moonで魔女王を弾き飛ばすと、星を散らしながら鞠音が踏み込み、黄昏よりも昏い一撃を見舞って――。
     無様に床にたたき付けられた魔女王は、もう動けない。
    「い……いい気になってられるのも今のうち」
     全身をホログラムのように揺らがせながらも、魔女王は見下ろす魔法少女たちに向けて呪うかのように顔を歪め。
    「アンタたちだって、すぐに魔法オバサンになるの……よ……」
     嫌味な捨て台詞を残し、魔女王は廃工場の闇に溶け込むように消えたのであった。

     悪の魔女王を首尾良く倒した正義の魔法少女たちは、意気揚々と戦場を後にしようと……したら。
     建物の外には、期待に満ちた魔法少女志望者たちが待ち受けていて。
    「お姉さま方、弟子にしてください!」
    「私も魔法少女になりたいんです!」
    「下僕でもいいです!」
     瞳をキラキラさせて駆け寄ってきた。
    「……とっとと帰れって言っておけばよかったわね」
    「ど……どうしよう?」
    「いっそ魔法少女モノのオススメDVDとか紹介するとかどうでしょう?」
     思わず顔を見合わせる魔法少女たちなのであった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年1月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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