●とある町にて
「知っての通り、来たる2月3日は節分だ」
御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)は重々しく語る。
「節分には豆を撒き、柊鰯を門口に飾る……どちらも、鬼を祓うと伝えられているからな」
だが、しかし。今年、この町に現れる鬼は、豆も柊鰯も効かない最強の鬼なのだという。
「元はといえばとある小学生が、『鬼は強いのに、豆に負けるだなんて可哀想』と言いだしたせいらしいのだがな……それが、クラスぐるみで『豆に負けない鬼とはどんな鬼か』議論を始めてしまい、周囲の大人も巻きこんで大いに噂になってしまったらしい」
そして噂はサイキックエナジーと結びつき……ついには、都市伝説『最強の鬼』が生まれる土壌ができてしまったようだ、と百々は言う。
「その鬼は鋼鉄の鎧を纏い、魔法の巨大金棒を軽々と操り、空を飛び、炎を吐き、邪竜に変身して人を喰らうばかりか、グリーンピースも食べられる、だそうだ……まさに童が考えそうな鬼よ。しかし我らは、逆にそれを喰ろうてやらねばならん」
ちなみに身長10メートル。噂によれば「学校の裏山に住んでる」らしいので、どうにかして山から住宅地に出てこないようにしながら戦わねばならない。彼には豆は効かないが、豆を撒く人間を憎悪しているらしいので、彼の矛先を町から逸らすには、大量の豆が必要になるだろう。
「逆に言えば、いかに豆を使うか次第で、戦いを有利に進められる、とも考えられる。最強の鬼とやらとの知恵比べ、存分に楽しもうではないか」
参加者 | |
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アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814) |
異叢・流人(白烏・d13451) |
山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836) |
神原・燐(冥天・d18065) |
九形・皆無(黒炎夜叉・d25213) |
安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263) |
御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264) |
紫崎・宗田(孤高の獣・d38589) |
●巨鬼、現る
それは、特撮のいちシーンをも思わせた。
ゆっくりとした一歩が刻まれる度、大地は揺れ、木々はへし折れる。彼は、足元にいちいち気を配るような真似はせず、悠然と、ただ泰然と我が道を往く。
まさに最強の名に相応しい振舞いであった。巨体、膂力、分厚い鎧……それらは人間などという矮小な存在から見れば、紛うことなき『最強の鬼』。
(「しかし……機械の鎧に空まで飛ぶとは、我の推理どおりながら面妖であるな」)
腕組みして仁王立つ鎧武者――御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)の双眸が、鬼の顔を凝視する。表情は兜に覆われ窺えず、ただ、町を睨む目の光だけが爛々と輝いている。
あれは、本当に『鬼』であるのだろうか? それとも鬼をモチーフとした巨大ロボであるのだろうか?
「うぅん、わたしがあまり鬼のことを知らないだけかもしれませんが……」
金棒と巨躯。それくらいしか神原・燐(冥天・d18065)にはそれに『鬼』の要素は見出せなかった。いや、一応は鎧も鬼らしい虎柄なのだが、この巨体と鎧では、単なる派手なデザインとしか認識しようがない。
「あなたは何も間違ってないわ」
首をかしげ続ける燐を、アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)がフォローして溜め息を吐いた。
「だってこれ、『盛りすぎ』以外の何物でもないでしょう。いくら、男の子が最強議論をしたがるのはよくある話だと言っても……」
それからチラリとアリスが横目を遣ると、紫崎・宗田(孤高の獣・d38589)は彼女の言わんとすることをさっぱり理解してないようだった。
「なぁに、相手がどんな『最強』を持ってこようとも、ぶっ潰しちまえば同じこと。そういうことだろ?」
せいぜい最強の肩書きどおり、腕試しに値する強さを見せてみろ……そう嗤って腕まくりする宗田を止めるなど、果たして誰にできようか?
宗田の拳に闘気が宿る。勇ましさのとおりに一直線な、あまりに若すぎる喧嘩殺法だ。
(「あの戦い方では長生きできまい」)
少なくとも、異叢・流人(白烏・d13451)と同じ人生を歩んだならば。宗田には、話がこうまで大きくなる前に子供たちに豆撒きの由来を教えてやる大人が必要だったのと同様に、誰かが戦い方を教えてやらねばなるまい。
だが、流人にはもっと気にかけねばならぬ者がいた。
(「燐……。今は、俺の為すべきことだけを考えねばな」)
●灼滅者流の鬼退治
「さて……町に出られては困る今回ばかりは、『鬼は内』でしょうかね?」
見事な投球フォームからくり出された九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)の豆投擲が、鬼の胸元に当たって爆ぜた。豆撒きの語源は『豆を炒る』すなわち『魔目を射る』……目に豆をぶつければ鬼だろうが何だろうが怯みそうだと皆無は思うが、巨大すぎて当たらぬのは仕方ない。
「さあ、鬼はどう出るでしょうか?」
すると皆無の期待に応えるかのように、鬼はゆっくりとふり向いて、皆無を憎悪の瞳で凝視する。
その憎悪を煽るべく、拡声器から安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)の声がとび出した。
「そこの鉄人っぽい鬼に告ぐ。直ちに降伏しなさい。当方には、対鬼用兵器が大量に用意されています。抵抗は無駄です」
それからジェフも豆を。足を止め、金棒をふり上げて、灼滅者たちの思惑どおりに町の存在を忘れてジェフを追いかけはじめた鬼を見て……。
「お豆さんに負けない鬼さん……お豆さんを投げる人間を敵視しているせいで、私たちにいいように踊らされるんだったら、それは結局お豆さんに負ける鬼さんなんじゃ……?」
山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)が非の打ちどころのないド正論を口にした。ホントだよ。気づきなよ噂してた小学生。
図星を突かれて激高したのか、金棒の狙いが透流へと変わった。大地を抉る一撃を、透流は軽々と跳躍して躱し、逆に金棒を殴って衝撃を鬼まで届かせる!
そして、その上を勢いよく駆けあがる皆無。自らの肉体のみを鬼として、金棒から腕へ、腕から肩へ。そこから放った目狙いの一撃は……傾げた首のため兜に阻まれた、のだとしても、人造羅刹の腕力はそれごと敵の脳髄を震わせる!
生まれる隙。その瞬間を見逃さず、アリスの周囲で白が渦巻いた。
「Slayer Card, Awaken! 私たち流の追儺式は……あなたの最強伝説を、誰にも気づかれないうちに誕生と同時に葬るというものよ」
白き魔力が鬼の体を次々に穿ち、僅かに半歩、しかし確かに半歩よろめかす!
「さあ、かかってきなさい。そのブリキのドレスから微塵に砕いてあげる!」
「おおっと。では、次は僕の出番ですね。ええ……こんなメカオニラと戦えるなんて、発明家としては幸運です」
勝手に謎の怪獣名をつけたジェフの眼鏡が光り、木陰から新(珍?)発明の謎巨大ポリタンクを抱えてやってきた。
「どこぞでは、鬼の角のように見える長芋を卸すので『とろろ』で鬼を祓うのです……鬼対策が豆だけだと思いましたか? さあ、踏んでぬめって転びなさい……日本人を舐めてはいけません」
お前ハーフだろってツッコミはともかく、くぐもった悲鳴を上げて引いた右足を持ちあげた鬼は、ほとんど倒れる寸前だった。そして……残した左足の上を見たならば、のけ反るほどに腕を引き力を溜める宗田の姿!
「お前……最強なんだってな」
にぃ。宗田の全身が反りを解放した。
「だったら……これくらい耐えられるよなぁ? 俺は、強ェやつにしか興味無ェもんでな」
渾身の一発が、鎧の脛当てを凹ませる。それが本当に中身に届いたかまでは判断がつかぬが、少なくとも重心くらいはずらせたはずだ。
さらに、続いて百々。
「では……我も、『人斬りの太刀』の噺を語るとしよう。さて聞け、時は……」
おどろおどろしい語り口に喚ばれるように、鬼の周囲に人魂が浮かびあがった。その中に朧げながらひと振りの刀の姿が現れて、鬼をひとりでに斬りつけてゆく!
「この刀は無銘ではあるが……鬼を切れば鬼切と呼べるやも知れぬな」
百々が、禍々しい笑みを浮かべた時には、鬼は、ほとんど腰を抜かして転びかけていた。だが……その時鎧のジェットパックが赤々と輝きはじめ、倒れるはずだった体を空中へと逃す!
●手負いの獣
「グルルルァァァ!!!」
鬼の怒りの咆哮は、まるで猛獣を思わせた。
少し離れた場所に着地して、大きく息を吸いこむ巨鬼。それだけで生まれる嵐のような風に乗せておけば……透流の豆は、それに乗り鬼の口へとまっしぐら!
「この山には、いろんなとこにたくさんのお豆さんを用意しておいた……だから、どこへ行っても逃げられない」
そして透流は、真っすぐに鬼へと指を突きつける。
「もしも、本当にお豆さんが怖くないって言うなら、逃げずに食べてみたらいい!」
……ごう!
けれども透流に返ってきたのは、猛りくるう炎の渦だった。炎は、飛びくる豆を、木々を焼く。そのまま、町の家々まで焼かんとするごとく!
「これは、いけませんね……えっと、鬼はー外ー、福はー内ー……でしたでしょうか?」
燐が鬼の足元へと投げつけた豆が、鬼の怒りを燐へと向けた。
射る視線、渦巻く炎。でも大丈夫。彼女には『惨禍』と……何より流人がいる。それに彼女は……無垢な少女であるのと同時、何かを殺めることにだけは手馴れた少女!
燐は、魔よりもなお深淵なる力を秘めた矢を、迷うことなく自らにつき立てた。今までは癒しの力をこめて、仲間たちを助けんがために放たれていた矢を。
すると刹那……常闇が逆に炎を呑みこんで、一瞬の空白地帯を作る。
その空間を、ひとつの影が飛翔した。
「燐を傷つけようとした罪……決して見すごすことはできんな」
闇に背を押された影の存在は、鬼には至近に現れるまで見えぬ。そして、鬼がようやく影――流人の存在に気づいた時には、暗殺者の一撃が鎧の隙間に向けて放たれている!
「グアァァァ!」
全てを砕く金棒の一撃が、お返しに流人を薙いでいた。振りぬかれた金棒の先端に目を遣れば、無数に生えた凶悪な鉄棘のひとつに、流人のコートが引っかかっている……ただし、コートだけが。
彼自身は空中で身を捩り、最愛の少女の隣へと降りたっていた。そのことに鬼は気づけない……何故なら彼の姿を探すべき視線は、再び豆投擲を始めた人間どもへと注がれていたのだから!
「以前会った都市伝説の中で最大級の鬼も、かつて闇堕ちした私自身も3m級。その3倍も大きいのですからどれほどのものかと思ったのですが……結局はやはり子供たちが考えたものですか」
そんな挑発をしながら皆無は退いていった。向かうはなるべく山の奥。
豆と破魔弓を撃ち分ける彼に、鬼は疎ましそうな仕草を見せた。が、無視して踵を返すことは百々が許さない。
「ほう。『最強の鬼』ともあろう者が、あれほど挑発されて黙っているのか?」
返事に代わり、力いっぱい振りおろされる金棒! ここまでも随分と片鱗を見せてはくれたが、やはり鬼とは短気なものだ……だが構わない、伝承どおりの強さと弱点をかね備えてこそ、百々が蒐集する七不思議に相応しいのだから!
「が……我はここだ」
金棒を躱し、宙へと舞った鎧武者の重量が、重力を味方に鬼の鎧へとつき刺さった。そして上から攻めた百々とは対照的に、下でも宗田が雄たけびを上げる!
「よそ見してんじゃねぇ……かかって来いよオラァ!」
ついには脛の鎧を完全にはぎ取った宗田は、踏みだされた鬼の一歩に蹴られてふっ飛ばされていった。ジェフの『タンゴ』が巻きこまれ、木の幹と宗田に挟まれ悲鳴を上げるが、お蔭で宗田の方はまったくの無事だ。
「あー……足引っぱんじゃねェぞ」
「まったく……素直ではありませんね」
バツが悪そうに目を逸らして吐きすてた宗田も素直ではなかったが、ジェフも素直とは縁遠かった。
「おっと、素肌が出てきましたね。では、余ったとろろを流しこんでやりましょう。シュウ酸カルシウムの針状結晶による痒み、鎧の下では辛いでしょう……」
●邪鬼竜とその末路
「グオォ……ググ……グ……ギャーオ!」
その時、鬼の咆哮が変化した。
あれほど硬かった装甲がパージされ、中から現れるのは屈強な肉体。
燐を庇うように流人の手が伸びる。武器を逆手に構える彼の目の前で……鬼は全身から鱗を生やし、四足に翼持つ爬虫類の姿へと変化する!
「ドラゴンに変身する鬼さん……? それって、鬼さんじゃすでにないんじゃ……」
またもや透流のツッコミが容赦なかった。だが、ドラゴンに変身できると強い……それが小学生男子ルールというものなのだ。そのルールに則るがゆえに……最強の鬼が変じたドラゴンは、強い。
炎を通りこして熱線の域に達したブレスが、容易く大地を沸騰させた。
「鬼じゃないのに、こんなに強いだなんて……!」
恐怖を感じる自身を奮わせながら、透流はその強敵へとたち向かってゆく。相手は巨体が災いし、せっかくの翼を活かせない……ならば、歴戦の灼滅者にとって、巨大な置物など恐るるに足らぬはず!
「なるほど。あの巨大金棒は尻尾になったのね」
ツッコミに回らず冷静に見極めたなら、アリスにはそれが敵にもならぬことが手に取るように判った。
「あんな丸太みたいな尻尾をぶち当てられるのは御免だけれど、人型の時と違って上へは攻撃できなくなったでしょう」
ならば……彼女は箒を掴んで上空に回り、尾の付け根へと術を叩きこみ続ければいい!
無論、それで尻尾を切断できるほど、竜の体はやわではなかった。が……かといって何も効かぬほど、鱗が無敵であるわけもない。
「燐……構わん。奴を撃て」
乱れ撃たれる熱線を、何の予備動作もなく横跳びして躱し続けながら、見る間に竜に肉薄してゆく流人。鱗につき刺した武器を足場とし、容易く敵の肩へと登ってゆく間、彼は燐の方を見もしない……そして燐も、流人の意図を問うたりしない。
敵の首筋にチェーンソー剣をつき刺した流人は、まるで鉄棒でもするかのように、全身でその柄にとり付いた。どの筋をどう切れば体はどう動く……そんな微調整をくり返したならば、竜の首は思わず捩れ、思わず悲鳴を上げた口が、ちょうど燐へと向けて大きく開く!
その瞬間……熱線とは別の色をした光が、燐から口の中へと飛びこんでいった。その冥き輝きが象徴するのは、一切の過程をのり越えた先にある『死』。
燐は、不思議そうな顔をした。だって、口から延髄を貫いたというのに、竜は暴れつづけているのだもの。
でも……きっと、次の攻撃は必要なかった。何故なら――彼女は知っている――、竜の死は目前に迫っているのだから。
「やれやれ。とんだ節分になったわね。この戦闘跡、一帯どうすればいいのかしら?」
震える四肢で体を支えようとする敵の頭へと、アリスはダメ押しの魔法矢を放った。竜は両膝と両肘をつく。
さらに……。
「これで、ようやく……『鬼は外』!」
指の間から零れ落ちるほど豆を握りこみ、透流の拳がそれを打つ! 悪を憎む心は鋼よりも強く! 鱗と肘の骨を砕き終えてすらなお、雷神の篭手の勢いは止まらない!
どう。
体を横たえた竜。その眼前に立ったなら、宗田はこう囁いてやる。
「鬼さんよぉ……いや、竜さんか? 俺のセンパイ方にすら勝てないようじゃ、最強たぁ呼べねぇな」
勝負はついた。竜の鼻先に最後の一発をぶちかましたら、清々したと言い捨てトドメを先輩に譲る。
「では……その目、貫かせていただくとしましょうか」
動けぬ竜へとゆっくりと近づく皆無の腕は、禍々しい鬼の力を帯びていた。
「はて、目潰し攻撃などは外道? 鬼の所業? それは結構――何故なら私の体は既に、文字通り『鬼』になってしまっているのですから」
●鬼退治の末に
「どうにか、町の被害はなく終えることができたが……はたして我はこの都市伝説を、どのように語り継げば良いのだろうな」
噂は百々のものになれども、正体はいまだに捉えがたく。
鬼か、竜か。最強とは何か。その真実を掴むには、心の中の小学生を、恥も外聞もなく解き放たねばならぬのかもしれぬ。
「それより皆さん、とろろ飛沫を受けて痒くなってたりはしませんか?」
そんなこともあろうかと、ジェフが酢の瓶を取りだした。痒みは、結晶を酸で溶かすと消えるらしいが……おや?
「皆の分を洗おうにも、2人ほど見あたらんな」
辺りを見まわし数える百々。
「けっ、そんなの、ほっときゃあいいさ」
悪態を吐いて帰路に着く宗田。
そんな頃……。
密かに流人とともに人前を離れた燐が、眠たげに、そっと流人の腕に寄りかかって無防備な姿を晒していた様子は、流人の他には決して誰にも見せることはない。
作者:るう |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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