魂魄映したる影踏めば

    作者:六堂ぱるな

    ●影踏み鬼の唄
     そこで語られた噂話が都市伝説と化す放送は、深夜に世間を渡っていく。
     怪しげな放送を耳にした東雲・悠(龍魂天志・d10024)の進言で、教室に灼滅者が集まった。もちろんその放送が現実となれば、人が死ぬことになるからだ。
     話とは、曰く――。

     雲が重くたれこめた空に少し晴れ間が覗いて、女性はほっと息をついた。冬らしい寒さに首をすくめて境内へ入り、見慣れた大きな梅の木の辺りまで来た時。
     突然、楽しそうに笑う三人の女の子が現れた。三つ子だろうかそっくりで、白と黒と赤の着物を着ていた。取り巻くように左右と前で、歌を歌いながら女性の影を交互に踏む。

     かぁげやどうろくじん、じゅーさんやのぼーたもち。

     うらさびれた神社の境内に響く、少女たちの声はどこかうつろで。
     彼女は怯えというよりは戸惑いで、その場を離れることができなかった。
     身体の力が抜けていく代わりに声がすうっと近づいてくる。

     さあ、ふんでみんしゃいな。

     膝をつくと、地面に落ちた自分の影は抉られたようにあちこちがなかった。頭は欠け、肩はへこみ、腕はいびつで。
     白い着物の女の子が踏んだ、自分の影の胸に穴があく。
     それが、彼女が最期に見たものだった。

    ●陽のなかの月光
     都市伝説を発生させるラジオ放送があることは、赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査で突き止められた。都市伝説が人に害を為す事件に介入できるのは救いだが、手元のファイルに視線を落とす埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)の眉が寄る。
    「放送の内容は『影踏み鬼』だろう。影踏み鬼は本来月光のもとで行うものだそうだ。で、月はこれから日中に空を横切るサイクルに入る」
    「昼やるもんだと思ってたなあ」
     感心した声をあげる悠にも資料を渡し、玄乃は都市伝説の発生条件の説明に入った。
    「現場となる神社は昨年、祭祀者が絶えた。それにより『影踏み鬼』が解き放たれた――そういう放送だったな、東雲先輩」
    「ああ、そうだ」
     元は由緒正しい社の境内には大きな梅の木がある。一人きりで来た参拝者が近付くと、三人の少女の姿をした都市伝説が姿を現すようだ。
    「被害に遭うはずだった女性を帰らせた上で誰かが囮となるのでも、彼女を行かせるのでも構わないが、行かせるなら確実に安全を確保してくれ」
     都市伝説の少女たちは境内に一人で入ってきた対象に執着する。
     攻撃は咎人の大鎌によるサイキックに似たものだ。影を踏まれると本体が怪我をする。と言っても陽光にまぎれ目に見えぬ月光がなす影であり、灼滅者といえど躱しきるのは難しい。
    「さすがに影を踏むスペシャリストと言うべきか。それと、今の説明は放送からの類推にすぎない。予測と違う能力がないと言い切れないので気をつけて貰いたい」
     女性付近に住んでいて、遅い初詣に来た。初詣自体はここでなくても構わないので言いくるめるのは難しくない。最後に人が巻き込まれないよう人払いを忘れずにと付け加えて、玄乃は説明を終えた。仰ぐようにして悠を見上げて続ける。
    「手が空いていれば、東雲先輩も対応して貰えると助かる」
    「そうだなあ」
     資料へ目を通しながら悠は頷いた。
     新年早々犠牲などあってはならない。ましてそれが、本来実体なき都市伝説による被害なら尚更だった。


    参加者
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    東雲・悠(龍魂天志・d10024)
    コロナ・トライバル(トイリズム・d15128)
    アリス・ドール(絶刀・d32721)
    赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)

    ■リプレイ

    ●古の遊戯
     垂れこめた雲がひと時切れて晴れ間がのぞく。
     人気のない神社の社務所で、華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)は『影踏み鬼』について説明していた。
    「影は魂の真の姿を映す。古い考え方です。嫌いではありませんし、呪術的には正しくもある。今時の都市伝説とは思えないくらい正統派ですね。むしろ古の畏れに近い」
    「ふうん、面白そうやね。ケド楽しないコトが起きる前に止めんとな」
     興味深げに堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)が相槌をうつ横で、アリス・ドール(絶刀・d32721)も首を傾げる。
    「……影踏み鬼……そんな遊びがあるんだね……昔からある遊びでも……都市伝説は生まれる……昔からあるから……なのかな……」
    「着物姿も、その証左の一つと言えるでしょうか。だからといって見逃すつもりはありませんが」
     もちろん峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)も結論に異存はない。
    「影を踏んでくるならこちらは実体を穿つだけのこと。都市伝説の実体というのも妙な話だがな」
    「……まぁ……いいや……泣く子がいるなら……どんな鬼でも影でも……関係ない……影ごと斬り裂く……」
     ここに男性がいないせいか、アリスはリラックスして見える。椅子に掛けたコロナ・トライバル(トイリズム・d15128)が狼耳と尻尾をぴこぴこさせた。
    「影踏みかあ。童心に返ってつきあってもいいかな」
    「そろそろ時間だネ。ちゃちゃっと始めよっか」
    「ええ、行きましょう!」
     朱那に誘われ、気合十分に赤松・あずさ(武蔵坂の暴れん坊ガール・d34365)が立ち上がる。参拝客の女性を帰したら、囮として境内に一人で入るのだ。

     普段余程に人が来ないのか、参拝にやってきた女性は四人を見て不思議そうな顔をした。振り返った朱那が表情を曇らせる。
    「ココ今はお参りできんのやってー」
    「そうなんですか?」
    「立ち入り禁止みたいなんだ。ここじゃない所に行ったほうがいいと思うぜ」
     東雲・悠(龍魂天志・d10024)も言葉を添えた。境内の入口、鳥居の前では天方・矜人(疾走する魂・d01499)が立っている。
    「社屋の修理工事で今は境内に入れないみたいだ。別の神社に行った方がいい」
     矜人の口ぶりや首から下げた『通行許可』のパスケースから、彼を神社の関係者、氏子総代か何かと勘違いしたらしく、彼女は素直に踵を返した。あずさが安堵の息をつく。
    「うまくいったみたいね」
     女性が立ち去ったのを確認して、残りのメンバーが社務所から顔を出した。鳥居の先、正面に見える拝殿の横には梅の木が見える。
    「皆でカバーする。心配はいらない」
     力強く請け合う清香に微笑みを返し、あずさは境内へ足を踏み入れた。

    ●月光に舞え
     ぴんと張り詰めた空気を感じた。
     始めからそこにいたように、気がつけば三人の少女が出現している。
    「出たわね」
     あずさの傍らに相棒たるバッドボーイが顕現した。一行も飛び出すや少女たちの前に立ちはだかる。付近の音を外界と遮断しながら、紅緋が語りかけた。
    「テレビゲーム全盛の時代に、あえてアナクロな影踏みですか。決して嫌いではありませんけど、それが周囲の害になるのなら除くまで」
     邪気はないが、遭遇すれば人間の生命はない。だから悠は断固として言い切った。
    「お前たちの遊びは物騒すぎるんだよ。悪いが倒させてもらうぜ!」
    「あなた方に敬意を表して、影業を最大限に使って灼滅しましょう。この赤い影に飲まれて消えてください」
    『狩ったり狩られたりしようか』
     紅緋の通告に続いて清香がカードを解放する。既に殺気を放って人払いを始めていたアリスも封印を解いた。
    「……儚き光と願いを胸に……闇に裁きの鉄槌を……」
     小柄な肢体を純白の騎士鎧が覆い、白いドレープの下から見える青いスカートのコントラストが鮮やかだ。同じ青のリボンで金の髪はまとめられ、顔には白いバイザー。
     紅緋も自身の封印を解くと、唐草文様で彩られた祭服をまとって微笑んだ。
    「さあ、影踏み鬼。私たちが相手です。思いっきり遊んで、未練を灼き尽くしましょう。最後まで付き合いますよ」
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     骸骨の仮面を被った矜人が背骨を模したマテリアルロッドを手に告げる。

     ――かぁげやどうろくじん。

     三人の少女がうら寂れた神社の境内で軽やかに跳ねる。無邪気に笑う彼女たちのひと踏みは何故か、重い咎や怨念を含んでいた。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
     滑り出た赤黒い影が黒い着物の少女を縛める。一方、入り乱れる灼滅者の影が重なった一瞬をついて少女が影を踏むと、刃が突き立つような痛みが走った。
    「……斬り裂く……」
     猫のようにしなやかに攻撃をかいくぐり、斬撃は狼のように苛烈に。矜人のアシストを受けてアリスが彼の肩から跳び、白いドレープを翻して全くの死角から斬りつける。
    「遊びたいならつきあってやるよ。ただし今回きりだ!」
     少女の脇腹へ矜人の拳がめりこんだ。皮膚をひりつかせる放電は自身を怪異から護る加護となる。
     三人の少女が何もない地面を踏むたび、不可解なダメージを受けた。月光が作る視えない影を抉られているのだろう。カラフルなステッカーサインの標識に警戒色を灯し、朱那が声をあげる。
    「コロナ、こっちで手伝うヨ!」
    「それは助かるよ! くっくっく、影踏み四天王の我々に挑むとは良い度胸だ。命知らずよ、貴様も影に葬ってくれるわ!」
     傷ついた仲間の回復は行いつつ突然の悪役ムーブを始めるコロナ。少女を追ってバベルブレイカーのジェット噴射で飛び出した清香は、杭を叩きこみながら確認した。
    「ちなみに四天王は誰なのだ?」
    「無論、あの着物の三人にボク、そしてこのバッドボーイ様がリーダーだとも!」
    「いつから?!」
     叫んだあずさが少女を避けて跳び退くと、豊かな胸とツインテールがそれはもう魅力的に揺れた。少女にエルボーを食らわせて動きを縛める。バッドボーイは我関せず、尻尾のリングを光らせた。
    「四天王なのに5人(?)だと……!?」
     愕然とした悠が拝殿の屋根を蹴って空へ跳ぶと、一転して地へ自由落下。炎に包まれた槍の穂先が黒い着物の少女を貫いた。
    「新しいリーダー像だな!」
     笑う矜人のゴルドクルセイダーが破邪の光を放った。巨大な黄金の鞘は涼やかな音をたてて分解したとみるや全身を覆っていく。翼のような意匠のフルフェイス、輝くブレストプレートに鋭角的な籠手、脚部パーツも黄金。
     『スカル・クルセイド』。黄金の鎧に包まれた、矜人のもう一つの姿だった。

    ●日と月、魂と魄
     影を攻撃されることに灼滅者は戸惑ったが、それも始めのうちのこと。
     ジェット噴射に身を任せ、清香は杭で少女の胸を貫いた。光の粒がぱっと散らせながらも反撃の刃が放たれる。舞うように割り込みあずさを庇った朱那は、彼女に光輪のガードをつけて息をついた。
    「……最速で……斬り裂く……」
     納刀状態からの一閃、刃を陽光が滑る。小柄な肢体からは想像を絶するアリスの重い斬撃に、深く傷ついた少女はぐらりと傾いだ。
    「斬影刃。赤き影の刃よ、影に戯れるものを絶て!」
     紅緋の操るモンラッシェが疾った。風を巻き上げ迫ると黒い着物の少女の腹を穿つ。

     ――じゅーさんやのぼーたもち。

     歌声と共にあずさの影を狙った刃を、矜人がタクティカル・スパインを回転させて撃ち落とした。少女たちの動きで月の位置はおおよそわかる。
    「踏まれっぱなしは癪なんでな、こっちからも踏みに行ってやるさ!」
     反撃の踏み込みは黒い着物の少女の懐へ。目を瞠る少女に魔杖が叩きつけられ、小さな体が半回転する。追撃せんとするあずさの前に、赤い着物の少女が飛び出した。
    「打ってきなさい! どんな攻撃も耐えきって勝つっ!」
     少女のひと踏みは彼女の影を無数の刃で穿ったが、仲間の加護が防ぎきる。
    「これでダウンしてもらうわ!」
     渾身のドロップキックが鮮やかに決まり、黒い着物の少女が地面に叩きつけられた。輪郭がぶれると、少女は淡い光の粒となって消えていく。
    「ふ。奴は四天王の中でも最弱……四天王の面汚しよ」
     悪役ムーブ全開で朱那にダイダロスベルトを纏わせるコロナを、赤い着物の少女へ氷弾を撃ち込んだ悠が半眼で見た。
    「混乱は殴って回復って偉い人も言ってたしな。唸るぜ! 悪・霊・退・散!!」
     ごすっ。えらい鈍い音をたてて男女平等パンチがコロナの頭にヒットする。
     楽しげにステップを踏む朱那は、まるで少女たちと舞っているように見えた。
    「そう簡単に踏ませはせんよ」
     絶対思い通りにはさせへん。愛用のエアシューズが火の粉をまとい、加速で一気に燃え上がる。肉迫した朱那の蹴撃は少女を地面へ叩きつけ、炎が赤い着物を焼いた。
    「だいじょうぶ、ボクはしょうきにもどった!」
     たんこぶをさすりながらコロナが不敵に笑った。
    「タイミング合わせてね! ほら、行くぞー!」
    「任せとけ、脳天からぶち抜いてやるぜ!」
     彼女のダイダロスベルトに合わせて、悠も都市伝説を踏み台に宙を舞う。標的へ狙いを定めた意思ある帯が風を切る――軌跡は連携するはずの悠をも呑み込み、赤い着物の少女を地面へ叩きつけて砂煙を舞いあげた。
    「……あぁ、何てことだ間違えて悠君も巻き込んでしまったー」
     凡例に使えそうなレベルの完璧な棒読みだが、少しばかり早すぎた。ぎりぎり躱した悠がコロナの頭に神速のパンチを入れる。
    「って、お前わざと巻き込んだだろ!? 何度も同じ手は食わないからな!」
    「こらー! ふざけてると真っ先にやられるの囮だからね!?」
    「げふう?!」
     手加減したつもりのあずさのエルボーがコロナの鳩尾にキマる。
    「なんかすげえ音したがアレ大丈夫か?」
    「いつものことだから大丈夫よ!」
     ゴルドクルセイダーを揮いながら問う矜人に、フライングニーキックを披露したあずさがウインクで応えた。
    「いささかアトラクションじみてすらきたな」
     感心したように呟く清香の手で、運命裂きの名を冠した鞭剣が少女を追って絡みつくと絞め上げた。もがき出た少女が紅緋の影へ怨嗟でできた刃を放つ。
    「仲良きことは美しき哉、ですね」
     相槌をうった紅緋はカミの力を身に下ろし、うずまく風を膨れ上がらせた。これで相殺できないのなら受け止めるまで。
     紅色を帯びた風刃が漆黒の刃と激突した。せめぎあいは一瞬。怨念の刃を打ち破ると、赤い着物の少女をずたずたに引き裂く。

     ――じゅー、さん、やの。

     尚も唄う少女の傍らへ、白い着物の少女を足がかりに空を駆けたアリスが鷹さながらに舞い降りる。
    「……斬り裂く……」
     抜き放つ小太刀に鋼の刀身は存在しない。サイキックエナジーで出来た刃は柄まで赤い着物ごしに貫いた。唄は途切れ、小さな光の粒が溢れ出ると、赤い着物の少女の姿がぼやけて消える。残るは白い着物の少女だけ。紅緋が笑みを浮かべる。
    「真っ向勝負と行きましょう」

    ●戯の終わり
     陽を翳らせるほどの刃の雨。虚空から降り注いだ刃に影を抉られ、不可視の衝撃であずさの身体は鳥居をこえて手水舎に突っ込んだ。
    「きゃあっ!!」
     同時に清香も、自身の影に漆黒の刃が迫っていることに気がついた。庇い手たちの誰もが割り込める位置ではない。
     躱せないのならせめて、一手でも早く倒す!
     影と同時に引き裂かれながら清香は聞く者を惑わす美声を響かせた。都市伝説が立ち竦む間に、コロナの癒しの力が前衛たちを包みこむ。
    「まだまだ! 負けないし、止まらないっ!」
     跳ね起きたあずさの腕で縛霊手が展開した。助走をつけたラリアットが少女を吹き飛ばし、放たれた網状結界が縛める。
    「無茶すんなよ!」
     無数の怨念の刃を避けて天高く跳んだ悠の手で、槍の穂先が炎を噴き上げた。雷が落ちるように尾を引いた刺突が少女を穿つ。バッドボーイの尻尾のリングが輝いて、もう一押し仲間たちの傷を塞いだ。
     よろめきながら跳び退る少女に宙返りで朱那が迫る。
    「したら鬼サン、踏んだら交代やろ?」
     Air Riderのウィールが輝く星を撒き散らし、踵は少女の肩を蹴り抜いた。たたらを踏むその背後にアリスが滑りこんでいる。
    「……影踏み鬼……このお話は……もう終わりだよ……」
     アリスの『侯爵夫人』の斬撃は正確に、的確に、鋭く。風が鳴る音と共に硝子のように透ける刀身が抜け、白い着物の背がざっくりと裂けた。散る儚い光の粒。
     紅緋の腕が異形化し、鬼の膂力を宿した爪が胸を深々と引き裂く。と同時に背骨を模したマテリアルロッドが小柄な背を打ち据えた。
    「スカル・ブランディング!」
     矜人の魔力が内側から身の内を灼き尽くす。
     ゆらり、揺れた表情は楽しげで。地面に落ちた影踏み鬼の影は、霞んでいた。

     ――かぁげ、や。

    「さあ、お仕舞い!」
     唄を遮り、確固たる声で紅緋が告げる。
     鬼ではなくなった少女の体が透き通った。先に旅立ったふたりを追い、跡形もなく彼女は消えていった。

    ●見えぬ月の光の下で
     派手な立ち回りとなった割には、手水舎の柄杓が吹っ飛んでバラバラになったぐらいで片づけは済みそうだった。
    「すまないが手を貸してくれ」
    「オーケー、任せときな」
     清香と矜人で拾い集める傍ら、アリスは水盤に異常がないか確かめた。
     静まり返った境内を眺めて、悠はふと過去に想いを馳せる。以前は子供がよく遊びに来る神社だったんだろうか。人が行き交い、賑わって。
    (「今は昔、とは言うが、少し寂しい気がするぜ」)
    「おっと悠君、今まさに治療が必要そうだ!」
     耳としっぽをぴんと立てたコロナが声を弾ませて背後から襲い、もとい躍りかかる。例によって躱した悠は、首根っこを掴んで彼女をぶらんとぶら下げた。
    「何度も同じ手は食わないってさっきも言っただろ!」
    「ボクの善意が勢い余ったようだね……」
    「ほんまええコンビやね。打ち合わせ済みなんかと思うわあ」
     朱那が笑って言うと、コントに慣れっこのあずさがバッドボーイと肩を竦めてみせた。
    「ええもう、熟年夫婦レベルで息ぴったりなのよね」
    「「ちょっ?!」」
     声をハモらせて振り返る二人に笑い声があがる。社の佇まいを惜しむように眺めていた紅緋は、仲間を追って無言のうちに身を翻した。

     月光の影を追う鬼は消えたが、宵闇の中で怪異を語るものは未だいる。
     いずれ陽の元へ引きずり出すのは、鬼を引き継いだ者の役目なのかもしれない。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年1月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ