民間活動~揺蕩うセカイへの階

    作者:六堂ぱるな

    ●十三階段の噂
     ねえ、知ってる? 校舎の端にある階段の噂。
     聞いた聞いた、七不思議でしょ。
     隣のクラスのずっと休んでる子、夕方に階段通って居なくなったって……。
     階段が窓からの夕陽に染まった時に通ったら、一段増えるってやつだよね。

     十二段だった階の数は十三になる。
     首を括る場へ罪人を送る処刑台の階の数と同じくなると、階段は上を歩くものを罪人とみなし、死出の旅へ送り出す。

    「そんなん信じてるとかバッカじゃね?」
     息まくのは度胸がウリの小学生男子。名を拓海といった。
    「バカとか言うよりガキだよ」
     眼鏡のブリッジをくいくい持ちあげ溜息をつくのは佑斗。見るからに勉強デキる系だが実際デキる。それから、眼鏡に夕陽を反射させて隣の拓海を見た。
    「けど、僕らが確かめる必要あるか?」
    「バッカ。オレらでやんのが大事なんだろ」
     全然怖くないって顔のつもりで拓海が目の前の光景を睨みつける。
     校舎の端にある階段はオレンジ色に染まっていた。周りにはクラスの男子有志と、怖いもの見たさの女子が少し。彼らの前で階段を上りきればヒーローになる。
     勇気を振り絞って階段へ歩きだすと佑斗の溜息が聞こえた。
    「……数を数えるぞ」
    「いち、に、さん……」
     二人の数える声が心なし小さくなる。
     そうして階段のてっぺんで、二人は顔を見合わせた。

     十三。

     待てよ、いつも十三だったかも。十三は縁起が悪いからそんなはずないだろ。
     小声で話し合う二人は唐突に気がついた。
     いつの間にかほの赤い、赤い靄の漂う空間のどこまでも続く階段の真ん中に佇んでいる。見慣れた廊下も窓もなく、クラスメイトたちはどこにもいない――。

    ●新たな試み
     教室に現れた灼滅者に一礼した埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)は、まずはリベレイターの投票結果の話から説明を始めた。
    「今回は民間活動を行うことに決定した。これにより我々エクスブレインの予知が行える状態になり、ダークネスの活動が明らかになったので介入を依頼する」
     目標はタタリガミの勢力だ。彼らはエクスブレインに予知されない間に、学校の七不思議の都市伝説化を推進していたらしい。学校内でのみ語られる為に予知以外では察知が難しく、既に相当数の七不思議が生まれているという。
    「なにしろ学校の七不思議だ。どこかで聞いたような話ばかりが湧いて出てくると思うが、丹念に潰していって貰いたい」

     場所は栃木県のとある小学校だ。歴史ある校舎の端にある階段で、二人の小学生が七不思議『十三階段』に囚われる。これを救助し、『安全を確保しつつより多くの人々に、ダークネスや都市伝説の存在と灼滅を目撃させる』のが作戦だと玄乃は語った。
    「ダークネスの事件はバベルの鎖の効果で『過剰に伝播しない』が、それだけだ。直接目にした人間に効果は及ばない。従って目撃者を増やし、社会が都市伝説やダークネスによる事件を事実として認識できるようにしていくのが『民間活動』の主軸となる」
     『十三階段』の能力は結界であり、縛霊手に似たサイキックだ。攻撃して結界を開くか、都市伝説の中に入って内側から攻撃すれば撃破できる。
     強いとは言えない都市伝説だが、囚われた子供たちばかりでなく周囲にいる子供たちの安全確保も含め、相応に作戦を練る必要がある。
    「それと忘れてはならないことだが。目撃した者たちにとって、諸兄らは『不思議な力で七不思議を倒した謎の人々』となる。目撃者たちにこの事態と諸兄ら自身をどう語るのか。よく考えて接してくれ」
     これはダークネスと灼滅者の存在を社会に明らかにしていく、第一段階なのだから。


    参加者
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)
    アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)

    ■リプレイ

    ●はじめの一歩
     学校の階段を覆う、揺らぐ不吉な赤い光。
     子供たちがパニックになる前に、文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)は階段ホールへ駆けこんだ。目の前の分岐点、選んだ先に希望ある未来を築く為に。
    「武蔵坂学園七不思議探偵団、出動だぜ!」
     びくっとした子供たちが振り返る。黒ねこ着ぐるみでスタイリッシュにキメた直哉が、歯がキラリと光るような笑顔を見せた。次の瞬間、階段の赤い光の中へ駆けこんでいく。
     同じく結界の内側担当の居木・久良(ロケットハート・d18214)が笑顔で、アリス・フラグメント(零れた欠片・d37020)は無愛想に――逆にクールな印象を与えていたが――次々と階段へ向い、消えていった。
    「落ち着いて、大丈夫よっ」
     子供たちを安心させるべく、久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)が笑顔で声をかけ、高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)はダブルジャンプ宙返りでダイナミック登場した。Tシャツの胸には可愛いいちごキャラ、毛筆(だいぶヨレたひらがな)で『とちぎのいちご』とある。
    「あの人達が助けに行ったから大丈夫! 俺達は皆を守りに来た正義の味方っ! ちなみに俺は栃木県民! 皆の先輩なんだぞー」
    「コレはあたしらにしか解決できへん。絶対助ける、ケド危ないから離れてて」
     『十三階段』の前に立った堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)が、今回は大人らしく言い聞かせる。演技に自信のない志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)は注目を集めることより、気持ちが伝わるように努めていた。
    「みんな、もう大丈夫だ。助けにきた」
     白衣を翻してやってきた明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)が位置を示した。
    「はーい、死にたくなかったらこっから入っちゃダメよ~?」
     素直に従う子供たちを視野に収めつつ、胸の裡ではちらりと考えてしまう。
    (「まぁこんな状況で、中に入ろうってゆー度胸の据わった小学生がいるとは思えないけどねぇ。いたらいたで、将来見どころがあるヤツだわ」)
    「あのね、誰か先生を呼んできてくれないかな?」
    「オレ呼んでくる!」
     杏子の要請に頷いた男の子が走っていくと、女の子が朱那を見上げた。
    「これ、先生に怒られちゃう?」
    「そりゃ怒られるやろケド。コレ信じてもらうには、誤魔化したらあかんやろ?」
     こうなると思っていなかったとはいえ、度胸試しで大事になったわけで。怒られるべきは怒られなければならない。

    ●手探りの一手
     結界の外から中は見えない。子供たちの痛いほどの不安を感じて、杏子はわかりやすい表現で説明した。
    「あたしたちは七不思議ハンターのようなものなんだ。だから安心してね」
    「皆、隣の子と手ぇ繋いでみてー。拓海と佑斗以外でいない子はいませんかー?」
     子供たちが全員揃っていることを確認して、麦は揺らぐ結界へ目をやった。
    「俺もクラスに担がれる系お調子者だったから、なんか気持ち分かるんだよねー」
    「そうか。早く解決して安心させてあげたいな」
     赤く揺らぐ結界の中を想い、友衛が頷く。

     どこまでも続く階段の真ん中でへたりこんでいた拓海と佑斗は、突然目の前に現れた三人を見て目を瞠っていた。
    「拓海くんと佑斗くんだね。助けに来たよ」
     久良が二人に手を貸し助け起こす。隣で黒ネコの着ぐるみを着た直哉がスタイリッシュに名乗りをあげた。
    「事件アル所に着ぐるみアリ。クロネコ・レッド、見参!」
     途端に赤い世界が波打ち、呑みこんだものを縛める力が襲いかかる。直哉が佑斗を、久良が拓海を庇って一撃を引き受けた。
    「あっ!」
     悲鳴をあげた二人に笑顔を向ける。彼らを守る為に来たのだから。
    「大丈夫だよ」
    「ここは俺達に任せてくれ。不安も絶望も希望に変える、それが俺達灼滅者だ!」
     久良の構えたガトリングガンが轟音をあげて結界を内側から穿ち、ご当地の力を満載した直哉のドロップキックが赤い世界を揺るがせる。
     アリスの左目が開いて、ちらりと子供たちへ視線を向けた。
    (「今までとは逆にわたしたちの戦いを見せなくてはならないのは変な感じです……ですが、する事は変わりません」)
    「このお噺の結末……必ず変えてみせます」
     階段から壁、壁から天井へと妖精のようにアリスは身軽に跳び、生命を刈り取る大鎌で赤い世界そのものへ斬りかかる。

     『十三階段』が内側から攻撃を受けたのを察し、外側からも攻撃が始まった。
    「キョンちゃん、イエローサインはあたしが受け持つからイイよ!」
    「しゅうな先輩、ありがとうなのー」
     カラフルなステッカーサインに黄色い輝きを宿し、朱那が前衛を加護で包んだ。杏子の美しい歌声が紡ぐ聖歌が、怯えた子供たちの表情を驚きに変えていく。彼女の傍らには相棒たるねこさんが姿を現し、魔法で赤い結界を撃った。
     畏れを銀爪にまとわせた友衛がざっくりと斬撃を浴びせると、赤い結界は著しいダメージを負ったようだ。
    「ほらこっちだよ! 栃木のいちごビーム!」
     子供向けにかっこよくキメつつ、麦がご当地パワーをこめたビームを放った。挑発が効いたのか、赤く揺らぐ結界が彼へ衝撃波を撃ち放つ。
     さしたるダメージがないことを確認し、瑞穂もバスターライフルを構えた。
     今まで通りダークネスとドンパチ繰り広げて、尚且つ同時に一般人の眼と身の安全を気にかけてやらなきゃならない。メンドくさー、とは思っても、やるのだ。

    ●重なるセカイ
     物語や映画の中の、さり気なく誰かを助け去って行くようなヒーローに憧れていた。そうはなれなくても、久良には真っ直ぐな覚悟がある。
     ほんの数分のことだったが、彼が無造作に攻撃を引き受け続けたのはこれが危険なことだったと教えるためでもあった。それにはアリスの苛烈な戦いぶりも役だっている。
     小柄な彼女の腕が異形化し、赤い空間を引き裂いた時には、拓海も佑斗も息を詰まらせたほどだ。もちろん久良は勇気づける言葉も忘れなかった。
    「ここまで来たんだ、勇気あると思うよ」
    「そうだな、見どころあるぜ!」
     直哉が笑う。実のところ不安も絶望も希望に変える力は、彼自身の笑顔と確実なガードがもたらしていた。
    「ふっ、この程度でクロネコ・レッドが倒れるとでも思ったか!」
     その頃、結界の外では子供たちが一行を熱心に応援し始めていた。
    「今年のいちごはもう食べた?」
     派手なハイキックを放ちながらの麦の話題は子供たちの緊張をほぐす。杏子が仲間を癒すための元気な歌に至っては、楽しげにリズムに乗る子もいた。
     騒々しい足音が近付いてきたのはその頃だった。
    「センセこっち!」
    「また火災報知機でもいじくったんでないの?」
     ジャージ姿の女性が子供に手を引かれて階段ホールへやってきた。明らかに生徒ではない一行に目を丸くし、次いで赤い光に包まれた階段を見て言葉を失う彼女を見て、瑞穂が仲間に声をかけた。
    「んじゃ、こっちの相手は任せて。そっちの小学生は任せたわよ~」
    「お願いしますなのねっ」
     応えた杏子が前衛の傷を癒し始める。その後ろで友衛が白い炎の灯った灯籠を掲げた。紅蓮の花びらのような炎が揺らめく階段を焼き、軽快な音をたてて滑る朱那のインラインスケートの踵が火を噴きあげるのを見て教師が声を裏返らせた。
    「何をしているの!?」
    「ああ、私たちは怪しい者ではないの。この子たちが危ない目に遭いそうだったから、安全を確保しただけよ」
     懐から煙草のパッケージ取り出し咥えようとした瑞穂がふと手を止める。
    「おっと、場所が場所だったわね。自重自重、っと」
     咥えかけた煙草をしまった瑞穂だったが教師はそれどころではない。朱那の蹴撃が階段を炎で包むに至って、目で消化器を探す。と、視線の先にいた麦が赤い衝撃波の直撃を受けた。子供たちの悲鳴の中、余裕綽々でポーズを決めながら衝撃波を打ち破る。
    「おっし、もーすぐ救出できそう! 頑張るぞー!」
    「がんばれー!」
     熱い声援を受け、赤い光を軽く躱した麦がご当地パワーを集中させる。それは結界の内側で、久良がモーニング・グロウのロケットエンジンを噴かした瞬間でもあった。
     これから先、人々と協力関係を築いて親近感を持って貰えるように、麦が選んだ技には希望がこめられている。
     久良にとってはいつだって変わらない生命がけの覚悟。真っ直ぐに誠実に。守らなくちゃいけないものを、守りたいものを守るために。
     ありったけの笑顔と意地で、ありのままのただのオレで、何よりもやさしくあるように。
    「いくぜ、いちごビーム!」
    「道よ、開け!」
     ご当地の力のこもったビームと、エンジンが赤くなるほど噴かしたジェットで振り抜いたハンマーの一撃は、同時に都市伝説を引き裂いた。
     階段ホールをまばゆい光が満たす。
     ――光が収まってみると、いつも通りの階段の前に立ちつくす拓海と佑斗、二人を守った三人の灼滅者の姿がそこにあった。
    「もう大丈夫だよ」
     久良が夏の日差しのような明るい笑顔で振り返って、終わりを告げる。

     アリスは階段に向き直った。既に『十三階段』はほとんど見えないほどに薄い。
    「恐怖により歪んだ可哀想な都市伝説」
     一つでも多くの都市伝説をハッピーエンドにしたいから。
    「わたしが結末を変えます。一緒にいきましょう」
     澄んだ青い瞳が光の粒を纏う都市伝説を見据える。光に包まれた都市伝説はゆっくりとアリスの前へやってきた。細かな光の粒となって左目に吸収されていく。
     かくて、人を呑みこむ『十三階段』は解決された。

    ●繋ぐ手とこころ
     子供たちや教師の間を抜けて、まず瑞穂が拓海と佑斗の側へ歩み寄った。
    「傷がないか診せてちょうだい」
     びくりとした二人を手早く診察し、ほっとした顔で立ち上がる。
    「大丈夫ね」
     そう言うと教師の方へ戻っていく。まだ茫然としている子供たちと目線を合わせて屈みこみ、朱那が切り出した。
    「あのね、この世界には本当にお化けがいて、不思議で危ない事が時々起きるんだ」
    「悪い奴が皆の噂を元にして怖いお化けを生み出している」
     探偵口調の直哉もそう言うと、もはやお化けという言葉を笑う者はいない。
    「お化けには良いお化けも悪いお化けも居る。私達は良いお化けを助けたり、悪いお化けをやっつけたりしているんだ」
    「危ないお化けは人の手では退治が出来ないんだ。だから、危ない噂には近付いちゃダメ」
     言い聞かせるように友衛と朱那が畳みかけ、直哉も重々しく続けた。
    「今回は運良く助けられたけど、いつも見つけられるとは限らない。不思議な出来事に遭遇したら直ぐ俺達に教えて欲しい」
    「お兄ちゃんたち、お化けハンターなの?」
    「あたし達は『スレイヤー』。ちょっとだけ、みんなと違う力を持ってる人間だよ」
     手をあげて質問した子供に、杏子がにこりと笑って答えた。
    「私も実は狼なのだ。ほら、耳も尻尾もあるだろう?」
     友衛が狼の耳と尻尾を出してみせると、子供たちからわっと歓声があがった。殺到して彼女の耳と尻尾をモフりまくる。
    「フワフワ~」
    「耳がこっち向いたよ!」
    「もしお化けを見つけたら、すぐにその場から離れて私達に教えてほしい」
    「自分達だけで危険な事はせずに、俺達と一緒に解決していこうな!」
    「はーい!」
     くすぐったいのを堪えて友衛が言う横で、直哉もヒーローっぽくアピールした。念の為、緊急連絡先として麦のクラブの部室も教えておく。
    「いいか、お化けのことをなぜか誰にも相談できなくなったら、宇都宮のオリオン通りでイチョウの葉印の餃子の皮売ってる店においで」
    「なんで餃子なんだ?」
    「ばっか、世をシノぶアレだよ」
     子供たちにうんうん頷いた麦は、拓海の頭にぽんと手を置いて真顔で釘を刺した。
    「友達を危険な目にあわせたって分かるよな。もうやるんじゃないぞ」
    「噂話に興味本位で近付くとこうなりますのでお気をつけてください」
     ジト目気味のアリスにも忠告されて、拓海が泣きそうな顔で頷く。
    「……うん。ごめんな、佑斗」
    「僕だって悪いよ。ごめんなさい」
     一緒に頭をさげる二人に、久良もにっこり笑ってみせた。
    「世の中には不思議で怖いことがたくさんあるんだ。何か見つけたら無茶しないで連絡して欲しい」
    「はい」
     笑顔で拓海と佑斗が声を合わせた。

    ●新しい始まり
     説明を聞いた若い教師は弱り切った顔をしていた。とはいえ人体から炎やビームが出るのを目撃しては嘘とも言えない。
    「あなたたちが悪い人たちでなさそうなのはわかりました。でも正直、私もちゃんと理解しているのかどうか……」
    「今はそれで充分よ。ただ今後もこういう事が起こり得るから、注意してほしいの」
    「子供たちが都市伝説の話をしてきたら、私たちに連絡をして欲しい」
     ダークネスが普通の人間には倒せないということ、情報を遮断するバベルの鎖。事情を説明した瑞穂と友衛に重ねて言われて顔をこわばらせる。彼女から怯えを感じ取った朱那は口を開いた。
    「同じ様な力を使うあたし達も、同じ様なバケモノに見えるかもしれないケド。それでもあたしらはヒトを、この世界を、ナニカを、守りたくて戦う。だから」
     どうか、この気持ちが伝わって欲しい。
    「今自分の目で見た事を信じてくれへんかな」
     朱那の言葉を聞いていた教師は、やがてきっぱりと頷いた。
    「わかりました、私は延岡といいます。連絡先はお預かりしますね」
    「先生、子供達の事、しっかり見守ってください」
     また何かないとも限らない。杏子の願いを聞いた教師は、ふと相好を崩して微笑んだ。
    「……ええ。あなたたちの事、信じられそうな気がします」
    「それは助かるわ」
     瑞穂がふうと肩を竦め、アリスもそっと安堵の息をつく。ねこさんを抱いた杏子は暖かな気持ちを噛みしめていた。
    (「あたしは、ずっと、一般人と一緒に、ダークネスの事を考えて行きたかった」)
    「どーだ、着ぐるみカッコいいだろ!」
     人々の闇堕ちを防ぐには皆が絶望ではなく希望を抱き歩む事が大事な事なのだ、と信じる直哉は、子供たちから不安を払拭しようと明るく振る舞っていた。
    「えー、変身はベルトがいいよー」
    「マジで?!」
     ずっこける彼を見て笑う子供たちに、もう不安や恐怖の翳はない。
    (「これはその一歩。あたし達が手にした絆を紡ぐ糸を、大切にしたいの」)
     丁寧に、一つずつ。それが杏子の願い。

     人々との関わりを如何ようにして行くか。
     まだ見ぬ世界へ向かう階の一歩を、灼滅者たちは踏み出している。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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