民間活動~空襲で死んだ花子さん

    作者:るう

    ●都内のとある小学校
     トイレの花子さん。
     それは、誰もが知っている怪談だ。
     そしてこの小学校にも、その噂は存在していた。

    「あと1ヶ月で卒業だけど、結局、誰も『花子さん』とは会わなかったんだよな」
     6年生の教室で、ある男子が椅子を揺らしながら言った。
    「実在するわけないじゃ~ん」
     同じようにしながら隣席の女子。彼女が次に続けた言葉は、あまりに意外なものだった。
    「あれ、空襲でトイレに逃げこんで死んだ子って話でしょ? うちの学校、創立いつよ?」
    「戦後じゃねーか!」
     思わず椅子ごとずっこける男子。今の今まで気づかなかった自分が憎い。だ、だが……そんなダサい結末では終われない!
    「ほ、ほら! 噂が間違ってるだけかもしんねーし! 夜とかに調べればなんか判るかもしんねーぜ!」
     女子は、また始まったとばかりに溜め息を吐いた。そして、ひらひらと手を振って教室を後にする。
    「じゃ、いつもの面子でも集めといて。あたしも付きあってあげるから」

    ●武蔵坂学園、教室
    「サイキック・リベレイターの投票の結果、今回はリベレイターを照射せず、民間活動を行なうことになりました」
     そう前置きし、五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)は未来予測を語る。
    「その結果、リベレイター使用中は予知のできなかった、タタリガミの活動が明らかとなりました……彼らは密かに、学校の七不思議から都市伝説を大量に生みだしていたようです」
     学校という閉鎖社会の中でのみ語られる噂は、表に出てきにくい。姫子によると知らぬ間に多数の都市伝説が生まれてしまっているらしく、灼滅者たちに、それらを片っ端から撃破してほしいと言う。

    「この度、3月に卒業を控えた小学生たちが、夜の学校に七不思議探検に出かけて『トイレの花子さん』に襲われてしまうみたいなんです。花子さんは、真夜中に3階の女子トイレの奥から3番目を3回ノックすると現れます」
     彼女は空襲で死んだという噂になっているので、トイレにやってきた人間に抱きつき、燃やしてしまおうとするだろう。もっとも彼女はタタリガミが粗製乱造した都市伝説のひとつにすぎないので、大した強さではないのだが。
    「そこで、戦闘に余裕がある分……できれば皆さんには、なるべくたくさんの一般人の方々に、事件と皆さんの戦いを目撃させてほしいんです」
     やってくる子供たちに見せるだけでなく、あらかじめ先生などに通報して呼びよせるなどしてもよい。『バベルの鎖』は直接体験した場合には働かないことを利用して彼らに『世界の真実』を伝え、一般人の認識を変えてゆくのが『民間活動』の意義なのだ。もちろん、灼滅者たちが彼らの安全を確保できる範囲で。
    「安全確保のことなら俺も手伝っておくさ、それが七不思議使いの務めってやつだ」
     とは、七不思議と聞いて首を突っこんできた白鷺・鴉(大学生七不思議使い・dn0227)の言。
    「……といっても、俺だけじゃどうにも目撃者に説明して理解して貰いきれそうにない。その方面でも手伝ってくれる人間が他にもいてくれたなら嬉しいぜ」


    参加者
    日向・和志(ファイデス・d01496)
    椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)
    竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    秋麻音・軽(虚想・d37824)
    栗花落・澪(泡沫の花・d37882)

    ■リプレイ

    ●夜の校舎へ
     ガラガラガラ……。
     聞きなれた軋み音を立てながら、秘密の細工をされた窓はゆっくりと開かれる。窓枠に足をかけて中を覗きこめば、いつもとは何もかもが違って見える夜の校舎内。
    「ね……ホントに行くの?」
     アオイの腕が、不安げにシュウゴへと伸ばされた。ひき返すなら今のうちだぞ、とカズトらに忠告するシュウゴの表情も、心なしか強張って見える。
     けれどもリサはひらひらと手を振る。それから、ドンとカズトを廊下へと押しこんで。
    「大丈夫大丈夫、どうせ何も出るわけがないんだから。でしょカズト?」
    「お、おう! 何も出るわけねーもんな!」
     どんどん進んでゆく友たちをほうっておくわけにもゆかず、遅れて足を踏みだしたアオイとシュウゴ。
     2人の心細さを慰めるのは、どこからともなくより添ってきた、1匹の人懐っこい猫だけだけだった。

    ●トイレの花子さん
     誰もいない廊下。
     闇に閉ざされた教室。
     遠くの壁に反射した自分の足音に怯え、アオイは手の中にやってきた猫をぎゅっと抱く。
     普段は大したことのない距離が、行けばひき返せぬ場所に見えてくる。けれどもここまで来た以上……皆、戻るという選択肢は思いつけぬのだ。

     ついに、4人はここまでやってきてしまった。
    「今日は女子トイレ入っても何も言わないから」
    「うっせーな、んなの当たり前だろ……」
     そんなリサとカズトのやり取りも、聞くからにある種の空元気。が、それでも勇気をふり絞り、扉を3回ノックして呼びかけたなら……。

     ひとりでに開く個室の扉。カズトらが思わず半歩退くのと同時、生々しく焼けただれた顔がとび出してくる!
     こんな時に出てくる悲鳴がきゃあなんて生易しいものじゃないことを、4人は自らの身をもって理解した。思わずのけ反った拍子に重なりあい倒れた4人へと、焼けこげた衣服を身に纏う少女は、ゆっくりと手を伸ばさんとする。
    「危ないから下がって!」
     アオイの手からとび出した猫が、栗花落・澪(泡沫の花・d37882)の姿に変化。4人の目がそれに釘付けになっている間に、誰かが子供たちの手を引いてやる!
    「みんな、危ないから逃げなさい」
    「花子さんはお姉ちゃんたちが引きつけますので」
    「太郎くんだぁ!?」
    「洋子さんが出たー!?」
     が……富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)と秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)が助け起こすための伸ばした手は、当の4人に払われてしまった。そりゃあ自分たちも個室から出ていけば、花子さんの仲間だと思われるのも仕方なかろうて。しかも清美は変なクリオネ、良太に至っては足のない幽霊を連れてるんだから!
    「安心してください。サムはみんなを助けてくれます」
    「中君も僕の友達です。悪いことはしませんから安心してください」
     そんなふうに宥めても、パニックに陥った子供たちが簡単に落ちつく素振りはない。
    「みんな、大丈夫だよ。オレ達には花子さんと戦える力があるんだ。軽くぶっ飛ばしておいてあげるよ」
     竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)もトイレ最奥の掃除用具置き場からとび出してきて胸を叩くが、4人には彼の言葉も聞こえていない。よしんば4人が冷静さをとり戻していたのだとしても、彼の位置からではトイレ入口に向かって逃げる4人を十分にケアするのは難しかっただろうし、登が花子さんの妨害に遭わずに合流するのも難しい。
     そんなてんやわんやな状況に終止符を打つために、日向・和志(ファイデス・d01496)も飛びこんでいった。
    (「こいつらを見ていると、あの頃のあいつらを思いだすからな……」)
     自分と彼らを重ねながらひと吠えすれば、犬の姿から人の姿へ。
    「ここは任せて大人たち呼んでくんねーか? おめーらにしかできねえ大事な役割だ」
     頼んだぜ、と念を押したなら、カズトは顔色こそ真っ青なままなれど、眼差しだけは強さをとり戻した。
     けれど、互いに助け逃げだす4人の背中へと、花子さんの手は伸びるのだ。が……その手がアオイに触れんとした瞬間、花子さんは潰れた蛙のような悲鳴を上げる!
    「よく頑張ったな。後は任せろ」
     どこからともなく現れたクレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)の『不死贄』が、花子さんを個室の仕切り板へと押しつけていた。
    「男子たち。女子たちを護りながら逃げてやれ。敵にたち向かうだけが護る方法じゃない」
     頷くシュウゴ。彼が率先して皆を奮わせた以上、灼滅者たちは4人が逃げおおせるまで時間を稼ぐだけでよくなったはずだ。
    「さあ、こっちへ」
     4人を安全なルートに導く、椎那・紗里亜(言の葉の森・d02051)の声。
     紗里亜の心配は、4人が途中で恐怖を思い出し、足を止めてしまわないかだけだった。
     でも……大丈夫。一緒に来るはずだった登とははぐれてしまったが、花子さんのことは皆が上手く足止めと誘導をしてくれるはず。ならば彼女は子供たちのペースに合わせてゆっくりとでも、離れた教室などに隠れるなどし、世界の闇の力について教えながら外を目指せば十分だ。

    ●目撃者たち
     一方その頃、校庭では――。

    「子供たちが校舎に忍びこんだ、という連絡があったのですけれど、目撃者なさった方ですか?」
    「ええ。兄弟のいる友達に先生の電話番号を教えてもらって連絡しました」
    「うちの子ったら、卒業間際のこんな時期にトラブル起こして……」
     安藤・ジェフらの通報を受けた先生や保護者たちが、次々に学校に集まってきているところだった。ジェフは適当なことを言ってはいるが、実際には秋麻音・軽(虚想・d37824)が誰もいなくなっていた職員室に向かって調べた連絡先に、幾人かで手当たり次第に電話したものだ。
     その軽は今、校庭の近くにはいない。彼女は、事前に先生たちにした「今夜学校に忍びこもうと子供たちが話していた」という通報が、先生たちを校舎に残すことではなく校舎の戸締りを厳重にチェックするという対策で終わってしまった残念さを胸に、すでに花子さんとの戦いに赴いてしまったのだから。
     が……集まってきたのは学校関係者だけに留まらなかった。
     校庭でバイクの爆音を鳴らした山田・透流。幾人かの近隣住人が苛立ちを覚え、学校のほうに目を向ける。するとそこには先生たちが集まっているわけで……1人2人は野次馬根性を出したくなるわけだ。
     そんな野次馬に紛れつつ、師走崎・徒が人々が校舎に入ろうとするのを止めた。
    「ちょっと待ってください。なんか様子がおかしいとは思いませんか……?」
     すると、直後……。

     バタン、という音がして、校舎扉から転がるようにとび出す子供たち!
    「この……バカズト!」
    「げぇっ!? 母ちゃん!?」
     子供たちは一瞬だけ怪異の存在を忘れ、現実の恐怖に直面するが、すぐに本来の脅威が彼らに迫る!
    「あ、あれは何なのだ!?」
     秋山・梨乃の差した指の先……そこには、幾度も後ろをふり返りながら校庭に逃げてきた灼滅者たちの姿と……それを追いかける、生きているかどうかも定かでない少女の姿があった。

    ●燃える少女
    「タス……ケテ……。アツ……イ……」
     全身から炎を上げながら、花子さんは人の姿を探す。
     クスリ……その時、花子さんが清美に狙いを定めて口許をつり上げたのは、灼滅者たちと子供たちからしか見えなかっただろう。
     ただれた指先で清美の服を掴んだ花子さん。炎が道連れにするかのようにその全身を舐めんとするが、清美の顔に浮かぶのは恐怖ではない。
    「秋山さん、今傷を治しますので、待っていてください」
     そんな良太の呼びかけも耳に入らずに、清美の手の中に宿る優しい光。彼女の清浄な霊力は、彼女にまとわりつく炎の舌をひき剥がしてゆく……まるで、花子さんのいる場所はここではないとでも言うように。
    「哀れな都市伝説ですね。すぐに終わりにしてあげますよ」
     ただ、その光の輝きは、良太に言わせてみれば『尚早だった』。清美を炎から救うのは、本当なら良太が任されたかったのだ……彼らの後ろで戦いを見守る間も、無言でアオイを背に庇いつづけるシュウゴのように。
    (「僕も、小学生時代はあんなだったかもしれませんね」)
     懐かしさと羨ましさを感じつつ、良太は天へと跳びあがる。大人たちの間からはどよめきが起こり……それは次の瞬間、悲鳴へと変わる!
     理由は、そこからのキックと、同時に放たれた登のパンチにあった。
    「楽しい……って言っていいのかわからないけど、学校探検の邪魔なんてさせないよ!」
     花子さんの体がもんどりうってはじき飛ばされる。
    「化け物はオレたちが倒してみせるよ。特撮のヒーローみたいなものだと思ってくれればいいよ……あんなにカッコよくはないけど」
     その言葉にリサが調子に乗って、十分カッコいいよー、と返す。
     が……それは花子さんに襲われかけた子供たちだったからこその言葉だったろう。事情を知らされず集まった大人たちの視点では違う――助けを求める死にかけの少女を、若者たちがいたぶっているように見える。
     和志の鋏がぎらついて、少女の肉を切り裂いた。狂乱した花子さんが憎悪の目を向けて、和志に執拗に追いすがらんとするが、『加是』に後を任せるように退った彼には迫れない。
     事情を知る子供たちの目で見れば、それは相棒の霊犬と巧みに連携し、花子さんを退治してくれる勇ましい姿に違いなかった。けれど、それを大人たちが目にすれば? どうして、『少女に鋏で切りつけた後、犬までけしかけた邪悪な若者』に決してならないと言えるだろう?
     止めに入ろうとした先生を、志賀野・友衛が、危険だからよく考えなおすよう説得している姿が見えた。
    「花子さんの動きは俺が見ておこう。君らはなすべきと思ったことをしてくれていいさ」
     白鷺・鴉(大学生七不思議使い・dn0227)が促せば、一旦戦列から離れ、子供たちの元へと向かってゆく澪。
     畏れられることには慣れている。愛する父に捨てられた後、力のせいで囚われて、力のせいで母を奪われて、力のせいでいじめられもした。
     ……だけど。
     澪は、それでも力に誇りを持っている。誰かを守れることに喜びを感じている。澪は、人間が大好きだ!
     だから、その力を応援してくれる子供たちにまで誤解を受けさせぬよう、大人たちへと語る。
    「僕たちは『灼滅者』っていって……ああいう危ない敵と戦うお仕事をしてるんだ」
     すると、わかってるぜとカズト。
    「ああやって霊を使役して、悪霊とバトルさせたりしてるんだろ?」
     ふり返ったクレンドが、使役、という言葉を聞いて少し悲しげな表情をしたように見えたが、すぐに彼は花子さんへと視線を戻す。
     人々に危害を加える都市伝説とはいえ、辛い目に遭った少女であることには変わりない。せめて苦しまずに速やかに眠ってもらうにはどうすればいいか……脳裏に、さまざまな計算が流れすぎてゆく。
     隣には常に『プリューヌ』の姿があった。かつて彼の最愛の妹であった少女は、はたして彼の選択を信じてくれるだろうか?
     少なくとも、彼らが助けた4人の子供たちは信じてくれたようだ。
     あの殺されかけている子供は誰だ、君たちだけでも無事に戻ってきてくれてよかったと、口々に言いたてる大人たちを前に、何やら悲しげな表情を浮かべるリサ。その肩にそっと手を遣って、紗里亜は彼女を勇気づけた。
    「そんな顔をしないの。さっきだって、無事に助かったんです。今だって私たちやカズトくん、皆がついてます」
     すると、言おうか言うべきかと悩んでいたリサの視線が、毅然と、灼滅者たちへの怒り収まらぬ中年男性へと向く。
    「あのね先生……襲ってきたのは花子さんのほうで、私たちは助けてもらったの」
     もちろん、先生はそんなこと信じてなどくれない。アオイがシュウゴの顔色を窺えば、彼も何やら堪えている様子。
    「私たちのこと、怖かった?」
     シュウゴへも紗里亜。すると彼は首を振り、はっきりとした口調で彼女へと答えた。
    「違います。僕たちを助けてくれた人が、悪く言われるのが嫌なんです」
     その直後! 彼の態度に背中を押されたか、突然、アオイが戦場に向かって駆けだしてゆく!
    「来ちゃダメだよ!」
     慌てて制止の声をかけた登の心配もよそに、彼女は戦いの邪魔にならない場所で足を止めると、大きく手を振り呼びかけた。
    「みんなー! 頑張ってー! 花子さんなんて、倒しちゃってー!」
     アオイの声援に応えるかのように、戦場が真っ白な霜に覆われた。
     任せてくれ……胸の中でそう答え、可愛くカッコよく呪文を編みあげたのは軽。大きく広がるドレスは魔法少女のようで、アオイの目がきらきらと輝きながらその姿を追う。
     子供たちの関係がこの後どうなるのかまでは、軽は責任を持てないし、口を出してよいものだとも思わない。だから、彼女がするのはただひとつ……4人が、自ずと『何か』を見いだせるような戦いをするだけだ。
    「カズトくん、シュウゴくん。女の子たちのこと、守ってあげてね」
     言い残し、再び戦列へと駆けだした澪。花子さんから噴きだす炎は煌々と輝くが、澪が祈りを向けた途端、その赤を蔦植物のようなシルエットが覆いゆく。
    「子供を脅すくらいしか能が無いんでしょう。僕達に敵うと思ってますか?」
     そんな良太の挑発を、花子さんには否定する言葉も力もないのだった。清美が最初に語ったとおり、そろそろ全てが終わりになってゆくのだろう。
     花子さんの炎の上に、さらに清美からの炎が覆いかぶさった。そればかりか登の白い靴先まで赤く燃えあがり、さらなる炎を畳みかけてゆく……。
    「危ないマネはもうナシだぜ? じゃねぇとこういう化け物に襲われて、俺みたいに……大切な友達、亡くしちまうからな」
     笑顔を作ってみせた和志の顔が再び花子さんに向くまでの間、カズトは衝撃を受けたかのように佇んでいたのが見える。そうだ……怪談が本当であることを望むということは、誰かを失ってもいいと望むのと同じじゃないか。
    「皆を危険に巻きこんだと思うなら、皆にもちゃんと謝りなさい」
     紗里亜に促され、カズトがバツ悪そうに謝ると、リサも、一緒に乗っちゃってごめん、と残りの2人へ。
    「いいよ。私、ちょっと楽しかったもん」
    「なんだかんだで一緒に来たのは、俺たちだもんな」
    「それと……先生や親御さんたちにも」
    「……ごめんなさい」
    「もうやりません」
     紗里亜の優しい微笑みが、子供たちへと注がれた。これでもう、これ以上戦いを見せつける必要はない。
     華麗に宙を舞った軽。その軌跡が、花子さんと交錯した途端……少女は、今まで上げもしなかったおぞましい悲鳴を上げる! 彼女の体には……幾つもの真新しい切り傷が生みだされている。
    「君は、二度と起こされることはない」
     クレンドの不死贄が花子さんの体を地面に抑えこむ。しばらくして、花子さんの体は動かなくなる。
     そして、クレンドが手を離したならば……そこには大人たちには信じがたいことに、骨の欠片すら残っていなかった。

    ●世界の真実
    「皆さんお怪我は……ないみたいで何よりですね」
     そう言って見まわした良太の目に……何やら言いたげな人々が映る。
    「ああ、これですか」
     そういえばあまり気にしてはなかったが、当然、最も傷ついているのは灼滅者たちだ。焼けた不死贄を握って真っ赤になっていたクレンドの手を、良太は一条の光を当てただけで治してやった。
    「驚いたかもしれませんが、これは夢でも映画撮影でもありません」
    「急にこんなこと言われても、信じにくいと思うけど……あの『花子さん』は、本物の化け物なんだよ」
     澪が改めて説いたなら、信じてる、とアオイ。澪が笑顔でさし出したぬいぐるみは、彼女が信じてくれたことへのお礼の品だ。
    「私たちは武蔵坂学園。人間では決して敵わない、直接見た人以外には伝わらない闇の力と戦っています」
     そんな紗里亜の説明を、今すぐ理解できた者がいたかは判らない……でも。今後ああいう化け物を見ることがあれば、必ずオレたちの話を思いだしてほしいと登。
    「だからその時はすぐに逃げてね。みんなにもこういう力があればいいんだけどね」
     登が指差した空中には、空飛ぶ魔女っ子、雲・丹がいた。……と思ったらすぐに、空飛ぶウニっ子に変化した。そりゃあこんな力、普通はない。
     が、対抗する力が限られている一方で……闇はどこにでも現れるものだ。
    「噂話の中には、こうして真実になるものがあります」
     堂々とした態度で演説を打つクレンド。
    「興味本位で近づかず、そして近づこうとするお知り合いの方は、止めるようにお願いします」
     何故なら、それを代わりに対処するのが武蔵坂学園なのだ。
    「見つけることがあったら連絡してください。対処いたしますので」
     そう頼んで頭を下げると、清美は恐怖を無事に耐えぬいた子供たちへとチョコレートを差しだした。
    「まだ恐怖が残ってるでしょう。甘いものを食べると落ちつきますよ」
     もっとも大冒険に対する胸の高鳴りは、しばらくは子供たちから消えはすまい。
     だからこそ軽はそんな彼らに、こういった『起こすべきでない魂』の噂を見つけたならば教えてほしいと頼んだわけだが……。
    「他にもいろいろ知りたければ、『まんぷく食堂』に遊びにくればいろいろ教えるぜ?」
     横から和志が、ちゃっかりと店の宣伝まで済ませていた。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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