民間活動~渇望する少女のワルツ

    作者:長野聖夜


     ――夕暮れ時。
     とある町にある中央公園で命辛々と言った様子で激しく喘いでいる少女がいる。
     自らが身に纏っていた衣服が黒と赤に染まっていくのを見つめながら。
    (「あいつからは何とか逃げられたけど……」)
     衣服についた赤は逃げる時に体の彼方此方をぶつけて生まれたものだ。
     このままでは、いずれ自分は彼に殺されるだろう。
     ……ふと、公園で遊んでいる子供達が目に入った。
    (「こいつらを殺せば、わたしは自分で自分を守れる様になる」)
     そう考えた、その時。
    「迎えに来たよ、我が愛しき花嫁よ」
     悠然と現れた一人の青年。
     その口調はまるで愛しき者を見つけた恋人の様で。
     陶然と囁かれた少女は一瞬惚けるが、直ぐに気を取り直しその場を後にしようとする。
     だが、青年の周囲の蝙蝠達が目前に回り込み、青年がゆっくりと少女へと歩を進めた。
    「心配することはない。我が汝を汝の望む所へ連れて行くから」

     ――そして。

     一陣の風と共に青年達はその場から消えていった。


    「サイキック・リベレイター投票の結果、民間活動を行うことが決まったよ」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が小さく息をつきつつそう告げる。
    「それで、俺達の予知が広範囲に広がった結果、現在のヴァンパイア勢力の動きが判明した」
     ヴァンパイア達は一般人を闇堕ちさせて戦力の拡大を謀っている。
    「ポイントなのは闇堕ちさせた後だ。闇堕ちした一般人を回収するための部隊がいる。堕ちた一般人が何らかの事件を起こすより前にね」
     そこまでで一つ息をつく優希斗。
    「そこで、君達には二手に分かれてこのヴァンパイアの戦力拡大事件に対して対処して貰いたい」
     即ち、回収部隊を待ち伏せして襲撃する班と、闇堕ちした一般人に対処する班だ。
    「此方の班の皆には兄の闇堕ちに巻きこまれる形で闇堕ちした一般人の少女……美雪ちゃんに対応して欲しい。皆、何とか頼めないかな?」
     優希斗の問いかけに灼滅者達がそれぞれの表情で返事を返した。


    「美雪ちゃんは、兄が闇堕ちするのに巻きこまれて闇堕ちしかけた。その時に命辛々、兄の手から逃げ延びて近所の公園に辿り着いたらしい」
     美雪が逃げた先は、彼女の住む町の中央にある公園だが、時間は夕暮れ時。
     最初はまだ、堕ちたばかりなので助けを求めるつもりだったのかも知れないが……。
    「このままだと兄であるヴァンパイアに襲われる危険がある、そう判断して彼女は完堕ちして力を馴染ませるために公園の人々を殺してしまおうと考えを改め、実際に行動に移す直前ディーンに回収される、と言うことらしい」
     因みにそれまでの彼女は極普通の女子高生として日常を過ごしていた様だ。
     また、まだ闇堕ちしたばかりなので今の灼滅者達なら問題なく対応できるだろう。
    「彼女を生かすも殺すも君達次第って事だね。まあ、これは前置きだけど。民間活動の本題は此処からになる」
     告げながら複雑そうな表情を浮かべる優希斗。
    「今回の皆の戦いをより多くの一般人に目撃して貰うためになるだけ派手に戦うという手法を取るのが一般人に皆の事を認識してもらう為に重要な手順になる」
     要するに、戦いを一般人への一種の見世物とする、と言うことだ。
     バベルの鎖は直接その事件を目撃した者には効果が無い。
     それ故の処置だろう。
    「最も目撃させるのは良いけれど、それは君達や美雪ちゃんだけではなく、目撃する一般人に被害が及ぶ可能性が出て来るのは留意する必要がある。その辺りの按配も皆の裁量に掛かってくるから、民間活動を行うつもりなら、くれぐれも気を付けて欲しい」
     優希斗の言葉に灼滅者達はそれぞれの表情で返事を返した。
    「闇堕ちした美雪ちゃんを回収に来るディーンは他班が何とかしてくれるはずだが、もし他班が失敗したらディーンの部隊が襲撃してくる恐れがある。その点は念頭に置いて置く様にするべきだろう」
     何処か疲れた様に溜息を一つつく優希斗。
    「……本当なら他にもっと良い方法がある気がするけれど、今俺達が考え付く限りだとこれが皆が行える民間活動の最善手だろう」
     そこまで告げたところで、優希斗が軽く頭を振るった。
    「その上で美雪ちゃんにどういう処置を施すか、もし多くの一般人に事件を目撃させるのなら今回の事件について説明するかを考えて行動して欲しい。どうか気をつけて」
     優希斗の言葉を背に受け灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751)
    乃董・梟(夜響愛歌・d10966)
    獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)
    七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540)
    松原・愛莉(高校生ダンピール・d37170)

    ■リプレイ


    (「出来ることなら、おにいちゃん達から連絡を受けられればいいのだけれど……」)
     携帯電話を見つめながら松原・愛莉(高校生ダンピール・d37170)は内心で思う。
    「大丈夫っすよ、愛莉っち、彼にはレイっちや、天音っちもいるっすから」
     愛莉の不安に気が付いた獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)の励ましに愛莉が頷いた。
    「天摩くん……ええ、そうね」
     天摩の励ましを見ながら文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)は内心で思う。
     今はただ、優希斗達からの情報を基に自分達が守っている一般人。
     その一般人と灼滅者で結びゆく新たな絆の形を少しずつでも着実に誠実に積み重ねていきたい。
     そうやって信頼を積み重ねていきその先に希望のある未来を築けることを願い、今出来る最大限の事を行いたい、と。
    「思い出しますね」
    「何をだ、栗橋?」
     栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751)が懐かしそうに目を細めるのに問うのは、神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)。
    「私も闇堕ちから助けられて、学園にやって来た事をです。だから今度は私が助ける番なんだって」
     綾奈がそう言って微笑を零す。
    「まさか特撮ヒーローものの真似っこをする事になるなんて思わなかったんですけどね!」
    「まっ、オレもヒーローなんてガラじゃないけどネ。オニーサンは女の子の味方デス、ななんてネ」
     冗談めかしつつその実人助けだもの、頑張らなきゃと言う強い想いと共にこの場に立つのは乃董・梟(夜響愛歌・d10966)。
    「見えて来たわ。皆、お話は此処までよ」
    「ええ……そうね」
     スタイリッシュモードに合わせて冷静に促すは、近江谷・由衛(貝砂の器・d02564)。
     由衛に同意する様に赤を基調とした和服ドレスをひらりと優雅に閃かせ、優雅な立ち居振る舞いを見せるは七夕・紅音(倖花守の大狼少女・d34540)。
     和服ドレスの上の軽鎧が優雅な仕草に合わせて衣擦れの音を立てた。
     紅音の指差す向こうにいる美雪の姿を認めた梟がベースを派手に掻き鳴らす。
    「さて、今日はギャラリーも居るし派手にいくカナ! BGMもバッチリ任せてネ!」
    「フム、それでは行くぞ、お前達!」
    「了解っす、神崎センパイ!」
     アルティメットモードの影響か、いつもより数倍増しの艶を出す黒髪を掻きあげ美雪へと駆けよる摩耶に飄々とした笑みのままに追随する天摩。
    「摩耶、いつもより調子良さそうだな。由衛も頼りにしているぜ」
    「ええ。行くわよ」
     微苦笑を零しつつ咲哉が走り出すのに由衛が続き、綾奈が近くにある高所へと駆ける。
     其々に迅速に行動を移す天摩達を見て愛莉が頷きを一つ。
    (「おにいちゃんは、天摩君や摩耶さん……ううん、此処にいる皆さんを信頼している。だから、あたしは美雪さんを全力で助けるわ!」)
     この場にいる誰もが願う、その最善の結果を祈って。


    「血……血を……!」
     衣服に付いた血を見ながら呻き、周囲の一般人へと向かおうとする美雪の周囲を聖なる風が覆い、付着していた血を浄化していく。
     驚き顔を其方に向けた美雪が見たのは巨大な長剣を掲げ、コイン状の光り輝く盾を構える騎士然とした摩耶。
    「な……なにっ……?!」
    「もう大丈夫だ! 我々は灼滅者。今、君の傷を癒したサイキックの力を使いこなす者達だ!」
     威風堂々たる騎士の名乗りの如き高らかな声を上げる摩耶の背後で勇壮且つ荘厳な調べが流れる。
     梟のBGMに乗って現れた摩耶のノリを見つつ割り込みヴォイスで語りかけるは愛莉。
    「美雪さん、こんにちは。何があったか、聞かせてくれないかしら?」
     愛莉の問いに自分の記憶を辿ろうとする美雪を見ながら、咲哉と綾奈、紅音が周囲の人々へと呼びかけていた。
    「皆さん、安心してください! 私達は灼滅者! 皆さんとあの子を守る為にやって来た者達です!」
     空中で宙返りをしながら着地した綾奈を見て、子供達が歓喜の声を上げている。
     一方で訝しさと何処とない怯えを見せる大人たちへとにはベースをBGMとして掻き鳴らしていた梟が笑いかけた。
    「大丈夫だよ~♪ オレ達が、あの子も皆も護るからネ。だから、ちょっとだけ離れていてネ」
    「あの、彼女は今どうなって……?」
     自分の子供を抱き締め守ろうとする母親の問いに紅音が粛々と説明を開始。
    「今、あの子……美雪さんは、ダークネスと呼ばれる悪にその心を奪われそうになっているわ。彼女は今、苦しんでいる。私達は苦しむ彼女を救う為に助けに来た灼滅者よ」
     綾奈達の派手なパフォーマンスに喜ぶ子供達とは対照的に戸惑いを隠せぬままに、紅音の説明に耳を傾ける大人達。
     その間に、愛莉に話の続きを促されていた美雪が不意に歌い出す。
     それはまだ人であった頃に彼女がよく歌った無垢なる想いの込められた歌。
     けれどもヴァンパイアとして堕ちかかっている今の彼女の其れには破壊の力が込められている。
     咲哉と由衛が歌声によって崩れる公園の遊具等から周囲の人々を自らを盾にして守り、天摩の前に摩耶が立ちはだかりその攻撃をコイン状の盾で受け止め雄々しく胸を張った。
    「大丈夫だ! 私は君に誰も殺させない!」
     堂々と摩耶が啖呵を切り美雪の関心が其方に向いた隙を見逃さず梟が一般人を少し離れた所へと誘導する。
    「此処までくれば、大丈夫だな」
     安全圏と判断した咲哉が一般人へと踵を返し胸を叩いた。
    「このまま俺達に此処は任せて欲しい。皆の事も、彼女の事も俺達が必ず護るから」
    「なぁ、にーちゃん達」
     真摯に語る咲哉に子供達の内の1人が声を掛けてきた。
    「どうした?」
    「その……そっちのねーちゃんが言っていたけれど、今、あのねーちゃんは悪い奴に心を奪われそうになっているんだよな?」
    「ええ。そうね」
     由衛が軽く頷き返すと、少年が紅音達をもう一度見まわした。
    「でも……にーちゃん達なら、あのねーちゃんを助けられるんだよな?」
    「ええ、そうよ。その為に私達灼滅者がいるのだから」
     紅音の呟きに少年が目を輝かせた。
    「じゃあ、俺、応援する! がんばってくれよ、にーちゃんたち!」
    「オニーサン達に、まかせなさイ!」
     少年の笑顔に梟が力強く頷いた。


    「お願い、その人達を殺させて! このままじゃ私は兄さんに……!」
     咲哉達に一般人の殺害を妨害された美雪が喚くがふと首を傾げている。
    「あれ? 何で、兄さんに私は……?」
    「お兄さんは……闇に堕ちて、ダークネスになったと思うわ。そして、今、美雪さんをダークネスにしようと巻き込んでいる」
    「……それじゃあ、私は……私も……!」
    「大丈夫です! 闇堕ちなんかしなくたって、貴女はお兄さんに取り込まれない! 自由でいられるんです!」
     悲痛な表情を浮かべ、涙を零しそうになる美雪の前に駆け付けた綾奈が叫んだ。
    「今、貴女を苦しめている者こそが闇、ダークネスよ」
     周囲の一般人達を守る位置取りのままに由衛が静かな声音で告げる。
    「私を苦しめる、闇……でも、だってこうしなきゃ、私は……」
    「キミは今自分の状況に絶望し、自分の闇に飲まれようとしているんっすよ」
     呻きながら緋色のオーラを這わせた手刀を放つ美雪の一撃に、全ての罪を背負っても尚、前に進む誓いの込められたOath of Thronsで剃刀の様に鋭い蹴りを放って相殺しながら天摩が呟く。
     堕ちたばかりの彼女では天摩の膂力に及ばなかったか美雪がよろけた。
    「だが、私にはわかる。今ならまだ元に、ヒトの世界に君は戻れる!」
     接近しコイン状の盾でその身を強打しつつ摩耶が畳みかける。
    「だが、もし君がそれに飲まれて、今周囲にいる人々を殺してしまえば君は戻って来れなくなってしまう! しかしいまの君はそうではないんだ!」
    「ダークネスは貴女の思考を操り、貴女の身体を奪うつもりでいるのよ」
     摩耶の声掛けに頷き由衛がそう事実を告げる。
    「私を操り、身体を奪う……? そんなこと、出来るの……?」
    「そうだ、美雪」
     漆黒のオーラで摩耶の傷を癒しながら一つ頷くは咲哉。
    「少なくとも、此処にいる人たちを殺そうとするのは君の意志ではないだろう。それは悪意を持った吸血鬼の唆しの筈だ」
    「……」
     咲哉の静かな一言に沈黙する美雪。
    「1人で戦えなくたって私達が支えます! 負けないで!」
     綾奈が声を張り上げながら雷と化した退魔の闘気を拳に纏わせ正拳突き。
    「私も、兄が闇堕ちして巻き込まれたわ」
     痛打によろける美雪を見つめながら割り込みヴォイスで語り掛けるは愛莉。
     ナノちゃんはふわふわハートで咲哉の傷を癒していた。
    「……えっ?」
     自分の意志とは無関係に、なのだろう。
     逆十字の光を由衛に向けて放ちながら呆然としたまま問いかける美雪。
     その様子を見ながら愛莉はそっと優しく頷いた。
    「それでも私は必死に抗って灼滅者になって、今此処にいるの」
    「闇に……抗う……」
     小さく呻く美雪の様子を見つめながら由衛が頷きを一つ。
    「そう、貴女はまだ間に合う。此処にいる私達は皆、貴女と同様、一度自らの内なる闇と戦った」
     流星の如き速度で踏み込み星の力を帯びた足払いを放ちながら続ける由衛。
    「そうっすね。そのまま闇に飲まれたら今のキミはなくなってしまうっすよ。でも、オレ達が戦うのはキミとじゃない。キミの闇っす」
    「私の……闇……」
    「そうだ。君の兄さんが飲み込まれてしまったその力だ。……そんなの悲しいじゃないか」
     自分の身体を、自分ではない何かに動かされている、その感覚があるが故に苦しむ美雪への咲哉の語り掛けに俯く美雪。
    「でも……私は……」
    「自分の中にある衝動が怖い?」
     そんな美雪を励ます様に。
     そう問いかけたのは梟。
    「オレもいつ堕ちるかと思うと怖いよ。でも大切な人を傷つけたくないから、こうして抗ってる。キミも大切な人がいるなら、その人の為に抗うんだ!」
    「私の大切な人……お父さん……お母さん……」
    「自分が自分でなくなりそうで、怖いわよね。……嫌、よね」
     愛莉の問いに頷く美雪。
     それに愛莉が静かに深呼吸をして魂の底から叫んだ。
    「だったら、内なるダークネスに抗って! 私達もお手伝いするわ!」
     ――私の時は、自力で撃退しなければならなかったけれど。
     でも……美雪はまだ間に合う。
     自分の様に……兄と言う家族に大切な家族を殺されると言う悲劇を見ずにすむ。
    「大丈夫、私達は貴女の闇に負けない! 皆が貴女を支えてくれる!」
    「そうっすよ。オレ達が戦うのはキミとじゃない。キミの闇とっす。だからキミも戦うんすよ、闇に飲まれず向き合って力を制御するんす」
     綾奈の叫びに同意し頷く天摩が両端の穂を持つ短槍で美雪を貫く。
     ――否。美雪を食らおうとするその“闇”を。
    「己の闇を恐れよ、されど恐れるなその力、っすよ」
    「そうだ美雪、君には心がある、力に溺れない強い心が。だから、君はこうして私達と話が出来ている! だから抗え、邪悪に! 私達が、君達を必ず助け出す!」
     天摩の告げた言葉に合わせる様に、摩耶が悠然と告げ大上段からまるでその闇を斬り裂く光刃の如き一閃を放つ。
     紅音が紅玉指輪『緋詰草』の狙いを定めて緋色の弾丸を撃ち出し、蒼生がそれに連携して斬魔刀。
    「うっ……ううっ……」
     苦しげに呻く美雪に囁きかけるは由衛。
    「貴女を狙う者達からは、私達が守るから。貴女も、貴女の中の邪悪に抗って」
     言葉と共に放たれた炎の蹴りは、まるで闇を浄化する舞の如き美しさで。
     その舞に引き寄せられる様に、美雪は静かに頷いた。
    「抗う……私の衝動に抗う……!」
     そのまま再び歌を歌う。
     闇堕ちをまだ完全に制御できていない現状、周囲へと破壊を齎すが、その威力は最初に比べて遥かに弱まっている。
    「そうだ。絶望的な状況にも希望を胸に立ち上がる。それが俺達灼滅者なのだから」
     咲哉が綾奈を庇い、【十六夜】の柄頭を美雪の頭部へと叩きつけた。
     更に摩耶に庇われた天摩が影から飛び出し、Oath of Thronsによる鋭い蹴りを放つ。
    「美雪、もう少し耐えてくれ。その邪悪を打倒し君の身体を取り戻す為にも!」
     摩耶が堂々と告げながら雄々しく踏み込みコイン状の盾を叩きつけた。
    「必ず私達が助けるから!」
     綾奈が呼びかけ硬質化させた貫手で美雪の右腕を貫き、梟が『赤イ糸』を展開し締め上げる。
     愛莉が斬影刃を放つと同時になのちゃんが竜巻を起こし、由衛が漆黒の星を思わせる蹴りを叩きつけ。
     ――そして。
    「大丈夫。これで貴女は助かるわ」
     紅音がひらりと舞う様に目の前に現れその腕に深紅の爪を用意してその身を引き裂くとほぼ同時に、蒼生の放った六文字射撃に射抜かれ……美雪が良かった、と言う様にその場にぐったりと頽れた。


    「美雪ちゃん!」
     頽れる美雪に愛莉、なのちゃん、梟、摩耶、綾奈が近づき其々に治癒のサイキックを使用。
     傷だらけになった美雪の身体が徐々に癒されていき……美雪がゆっくりと瞼を開いた。
    「あっ……私……」
    「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」
     ぼんやりとした表情のままに呟く美雪に微笑みかける摩耶。
    「美雪っちもこれでオレ達の仲間っすね」
    「これからもよろしくね、美雪さん」
     天摩が笑いかけ、綾奈が美雪へと手を差し出せば。
    「改めて。私達は灼滅者。私達の力になってくれている組織に通っている学生よ」
     愛莉が事情を説明しそれに軽く目を瞬く美雪。
    「組織……でも、通っているって……」
    「武蔵坂学園。貴女と同じ灼滅者の通う学校よ。一緒に来る?」
     愛莉の言葉に美雪が小さく頷く間に紅音が後ろで一部始終を見届けた一般人たちを振り返っていた。
    「……悲しい事だけど、いま、美雪さんに起きたことは、貴方達にも、いえ、人類すべてに起こる可能性があるわ」
    「えっ……」
     一部始終を見ていた女性の1人が不安げな顔をするが、でも、と紅音が続ける。
    「だけど、たとえその時が訪れても、絶望に打ち負かされないで。今回の様に、私達灼滅者が、必ず助けに行くから」
     それでも尚、隠し切れない不安を表情に表す大人もいた。
     そんな者達に対して梟がベースの曲調を変えて奏でる。
     奏でられたメロディーに誘惑された者達の笑顔に罪悪感を感じながら全力で笑顔を返す梟。
    「ケガはないみたいだネ? キミ達が無事で良かった。それじゃあ気を付けて帰るんだよ?」
     梟に促され疑う様子も無く帰宅していく人々。
    「にーちゃん!」
    「ん?」
     その直前咲哉に話しかけた少年がぴょこん、と頭を下げた。
    「皆守ってくれてありがとうな!」
    「ああ。そうだな。でも忘れないでくれ。今日みたいなことは例え誰かに話したとしてもきっと分かってもらえない。でも、こういった事はこれからも必ず起き続ける。だから、その時は、ここに連絡してくれ。そうしたら、俺達灼滅者が、必ず皆を助けに行くからな」
     そう言ってメモを渡され分かったと笑顔で頷き別れの挨拶を告げる少年を、咲哉はいつまでも見送っていた。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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