夕暮れ迫る冬の校舎。
忘れ物を取りに来た高校生達は、廊下の奥から響くピアノの音に立ち止まった。
突き当りは音楽室。誰かがグランドピアノを弾いているのかも知れないが、こんなに見事な連弾を弾ける生徒がこの学校にいるのだろうか。
しかも今はテスト期間中。部活は禁止のはずだ。
一人の少女が、怯えた声を上げた。
「ねえ、ピアノの音聞こえない?」
「これってあれだろ? 七不思議の一つ『寂しがり屋のピアノ』。誰もいないのに音楽室のピアノが鳴って、聞いた人間は魂を奪われるとかなんとか」
「えー、やだこわい」
口々に言い募る間にも、だんだんピアノの音が大きくなる。
怯える仲間を叱咤するように、リーダー格の少年が廊下の奥に向けて歩き出した。
「誰かが弾いてるだけだろ。行くぞ!」
音楽室に向かうリーダーの後を、三人の高校生たちが追いかける。
翌日。
音楽室で何があったのか。まるで老人のように干からびた四人の高校生が、魂を抜かれたように呆然とした姿で発見されるのだった。
●
「皆、サイキック・リベレイターの投票お疲れさまや。いろいろ難しい投票やったけど、民間活動をすることになったんや」
サイキック・リベレイターを使用しなかったことにより、エクスブレインが通常予知をすることができるようになったのだ。
これにより、タタリガミ勢力の活動が明るみに出た。
「タタリガミ達は、うちらに予知されへんことを利用して、学校の怪談を都市伝説化する活動しとるみたいや」
閉鎖社会である学校内でのみ語られる学校の七不思議は、予知以外の方法で察知することが難しく、かなりの数の七不思議が生み出されてしまっているようだ。
これらの七不思議は、可能な限り予知を行い撃破していくことになる。
「うちが予知したんは、『寂しがり屋のピアノ』っちゅー七不思議や。誰もおらんのにピアノが鳴って、見に行ったらそこで魂を抜かれてまう、いう話や」
事件が起こるのは、地方都市にある県立高校の特別教室棟三階にある音楽室。
ここに、忘れ物を取りに来た生徒四人が音楽室へ入り被害に遭ってしまう。
今から駆け付ければ、彼らを避難させることができるだろう。
だが、『寂しがり屋のピアノ』はこの学校の生徒がいないと発現しない。
生徒たちが入った後に音楽室へ入り、撃破する必要がある。
無理にピアノを破壊しようとすると、ピアノの虜になった生徒たちが強化一般人となって襲ってくる。
KOすれば帰ってこられるので、普通に撃破しても構わない。
『寂しがり屋のピアノ』はジャマー。
サウンドソルジャーとバイオレンスギターのようなサイキックを使う。
「普通に倒してもうてもええけど、このピアノに合わせてセッションするとな、ピアノ以外にも意識が行くようになって魂を奪われへんのや。吹奏楽部の楽器を借りて、一緒にセッションしたら弱体化する上に民間活動の役にも立つはずや」
民間活動は、より多くの学生達に都市伝説の存在を知ってもらうことが必要となる。
バベルの鎖によって、都市伝説の事件は過剰に伝播しない。
だが、当事者として事件に関わった一般人は、事件を事実として認識することができる。
目撃者となった教師や生徒達に、これはどういう事件なのか、自分達は何故活動しているのか、もしまた事件に遭遇したらどうすればいいのか等を広報するのも民間活動の一環となる。
多くの人にダークネスのことを知って貰うのが民間活動の主軸となるので、可能な限り目撃者を増やすと良いだろう。
「では僕は、戦闘が始まった際の一般人達の避難をしましょう」
「頼んだで、葵はん」
頷いたくるみは、灼滅者達を見渡した。
「寂しがり屋のピアノとセッションして、弱体化して倒す。人も集めやすい事件やと思うけど、下手したら「セッションした後ピアノを壊して去っていく知らない人達」っちゅー扱いになりかねへん。信用してもらうための演出や演技が重要かも知れへんな。皆、頼んだで!」
くるみはにかっと笑うと、親指を立てた。
参加者 | |
---|---|
羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490) |
病葉・眠兎(奏愁想月・d03104) |
神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337) |
富士川・見桜(響き渡る声・d31550) |
月影・木乃葉(レッドフード・d34599) |
加持・陽司(炎と車輪と中三男子・d36254) |
榎・未知(浅紅色の詩・d37844) |
栗花落・澪(泡沫の花・d37882) |
木枯らしが吹き抜ける校門前に、音楽が響いた。
月影・木乃葉(レッドフード・d34599)刻むリズムに合わせ栗花落・澪(泡沫の花・d37882)が柔らかなフルートの音色を響かせる。
プリンセスモードを発動させ、ピンク色のドレスを翻す澪の姿に生徒たちの注目が集まった。
何事かと噂する生徒たちの声の間に、加持・陽司(炎と車輪と中三男子・d36254)の声が割って入った。
「テスト期間でお疲れの皆! 皆に伝えたいことがある、動きやすい格好で音楽室にきてくれ!」
困惑して立ち止まる生徒に、榎・未知(浅紅色の詩・d37844)はフライヤーを手渡した。
「テスト期間中も一時の休息は大事! 今日音楽室でセッションするから来てよ。あ、先生もよろしければ」
屈託ない未知の笑顔に、受け取った男子生徒と生徒指導らしい教師が思わず頷く。
澪と木乃葉が奏でる音楽に、陽司や未知達が配るフライヤー。
生徒達が続々と集まる中、澪は音楽室前でフルートを奏でる。
やがて入りきれないほどの人数の生徒が集まったのを確認した澪は、にっこり微笑んだ。
「僕達の音、楽しんで行ってね!」
優雅にお辞儀をした澪は、くるりと踵を返すと仲間の元へと合流した。
一足早く音楽室に入った富士川・見桜(響き渡る声・d31550)は、セッションの準備をしていた。
持ち込んだ機材をセッティングし、ドアを外して場所を確保。ストイックに準備を進める中、生徒たちが集まり始める。
告知した時間には音楽室に入りきれないほどの生徒や教師でいっぱいになり、場が混乱しかける。
葵は王者の風で生徒や教師を戦闘の邪魔にならない場所へと誘導し、サポートメンバーもそれぞれ配置につく。
予知にあった時刻が過ぎ、最初に鳴り響いたのはピアノの音だった。
誰も触っていないのに、ピアノの鍵盤が高速で叩かれ流暢な音楽が流れだす。
生徒達が一斉に呆けたように聞き入り出す中、一人の生徒がふらりとピアノに駆け寄ろうとした。
その時、ベースの音色が響いた。
少々演技めいた動作でスレイヤーカードを解除した病葉・眠兎(奏愁想月・d03104)は、エレクトリックベースを奏でながら生徒とピアノの間に割って入った。
催眠にかけ、魂を奪ってしまう音色が、眠兎の魂を深く抉る。
油断なくピアノを見ていた眠兎は、召喚したライドキャリバー・ラビット号を滑らせた。
間髪を置かずに再び音を奏でた、ピアノの危険な音色を受け止めたラビット号は、睨みを効かせるようにピアノと生徒たちの間でスロットルを鳴らした。
眠兎のベースを合図に、セッションが始まった。
突出したピアノを宥めるように神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)のアルトサックスが響き、ピアノの音色と融和させていく。
マイクを握った陽司は、我に返った観客たちに語り掛けた。
「武蔵坂学園のライブへようこそ! ライブの前に一つだけ、皆に守って欲しいことが……」
陽司のMCを遮るように、寂しがり屋のピアノは自分を顕示するように高らかにピアノの音色を響かせた。
ピアノを調和させようとする蒼のアルトサックスを振り払うように、情熱的な連符が後衛へと響き渡る。
まるで連符が刃となって襲い掛かるように、蒼達を引き裂く。
突然の流血に、場がパニックを起こしかける。そんな一般人を落ち着かせるように、清浄な風が吹き抜けた。
「皆さん、落ち着いてください。大丈夫ですから!」
羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)が叩く手拍子から溢れる清めの風が、後衛の傷を塞ぎ癒していく。
目の前で塞がれる傷に、観客たちは大きくざわつく。目の前で起こる不可思議な現象に、さざ波のように不安が沸き立っている。
そんな観客たちに、陽司は真剣に語り掛けた。
「皆! 俺たちの指示に従ってほしい! 俺たちは皆の味方だ! 必ず守る、だから安心してくれ!」
陽司のMCと共に、命がけのセッションが始まった。
●
休むことなく流れるピアノの音に、まずリズムが寄り添った。
ドラムでリズムを取る木乃葉は、ゴージャスモードを発動した。
手にしたドラムも衣装も、まるで画像が差し替えられるようにゴージャスに変化していく。
木乃葉のドラムと息を合わせてベースを奏でながら、眠兎はスタイリッシュモードを使用した。
ベースで両手が塞がれているにも関わらず、眠兎の衣装が大学生のお姉さん風からモノトーンの男装風の物へと変化する。
早着替え、というにはあまりにも見事で違和感のない衣装チェンジに、生徒たちは目を見開く。
彼らの耳に響くピアノとリズムのシンプルな構成に、蒼のアルトサックスが調和する。
生徒たちが再び音楽に意識を向けた時、ピアノの音がかき鳴らされた。
いち早く危険を察知した陽司は、マイクを握った。
「左に音波! 頼んだ大和!」
陽司の叫びが響くが早いか。駄々っ子のようにかき鳴らされた音の塊が、一人の生徒へ向けて放たれる。
目を見開くしかない生徒との間に、未知のビハインド・大和が割って入った。
庇われた女生徒は、庇ってくれた美青年に頬を赤らめるが、足が無いのに気づくと頬を青くする。
巨大な十字架を構えた未知は、Luxを構えるとピアノに叩き込んだ。
「生徒に攻撃、行かすかよ!」
未知の声に呼応するように、キツネユリはピアノに突撃を仕掛けた。
強烈な連撃を受けたピアノは、一瞬息が詰まったように音を止めるが再び連符を奏で出す。
攻撃のための音を再び溜めようとするピアノに、見桜はデモノイド寄生体の宿った両手を握り締めた。
音楽は現実と戦うためのものでもあるけど、誰かを傷つけるためのものじゃない。
だから。見桜は攻撃のために歌わない。
リトル・ブルー・スターを握り締めた見桜は、床を蹴るとクルセイドソードをピアノへ叩き込んだ。
ため込まれた攻撃のための音が、その衝撃で拡散する。
「これが、私の生き方だから!」
攻撃を受け、音が小さくなった隙を突いた陽桜は、眠兎へ向けてダイダロスベルトを放った。
包帯のように巻かれた白い帯が、眠兎の催眠を癒していく。
まるで生きているかのように眠兎へ伸びる帯に、生徒が息を呑む音が聞こえた。
今、自分は彼らの目にどう映っているのか。喉元までせり上がってくる不安に、陽桜は頭を振った。
(「今は、戦いに集中です」)
浮かんだ疑問を振り払った陽桜は、改めて戦いへと意識を向けた。
突出したピアノの音が小さくなり、灼滅者達の和音が場の空気を整える。
足でリズムを取った澪は、口を開くと歌を歌い始めた。
このままでは、何の前触れもなくサイキック戦を見せられた生徒達の心は離れていってしまう。
フルートを吹き、生徒達を歓迎していた澪の歌声に、生徒たちのさざ波のような小さな声が消えていく。
美しくよく通り、高音域を歌い上げる歌声が音楽室に響き渡る。
誰もが聞きほれる歌声にピアノまでも魅了したとき、もう一つの歌声が響いた。
●
たくさんの人たちが見守る中、未知はワクワクしながら高めの男声で歌い上げた。
(「人前でのセッション。学園祭みたいでテンション上がってくるな!」)
でもまだだ。まだ足りない。一歩引いた場所からこちらを窺う生徒達を、音楽が生み出す一体感の世界へと引っ張り出さなければ。
未知は生徒達を迎え入れるように両手を広げると、誘うように手拍子を叩いた。
心から歌を楽しむ未知の声に、顔を見合わせた数人の手拍子が響く。
空気を窺うように遠慮がちな手拍子を、陽桜は導くように歌を歌った。
陽桜のコーラスがダブルボーカルを盛り立て、場の空気が徐々にあたたまってくる。
歌に合わせて駆け出した陽桜は、踊りながら生徒たちの目の前で軽やかにステップを踏み、音楽へ誘っていく。
重なる歌声に、杏子は歌を歌を重ねた。
ひだのように重なる歌声に合わさった杏子の声は、調和する歌に溶け込んで楽しそうに響いた。
少しずつ手拍子を始めた生徒達を先導するように、アメリアはノリッノリで手拍子を取った。
友衛もまた手拍子を取り、生徒達の恐怖心を和らげていく。
脅威を倒すだけでなく、人々を助けることや、時にはこうして音楽を奏でることも大切な活動なのだ。
そんな思いを込めた手拍子に、葵達も参加する。
灼滅者達の手拍子は、生徒たちの心の障壁をリズムで崩していくようだった。
そこへ、タンバリンの音色が響いた。
リズムに合わせて澄んだ音をしゃららと鳴らした丹のタンバリンを合図に、生徒たちは一斉に手拍子を始めた。
温まった観客たちの空気に嬉しくなった見桜は、ギターを奏でた。
陽桜とのダブルコーラスを歌い上げながら、かき鳴らされるギターの音色に生徒たちも精一杯を返す。
生徒達が見桜達の音楽のファンになっているのは、ラブフェロモンの効果だけではないだろう。
その様子に、見桜は初心を思い出した。
見桜は、目の前にいる生徒たちのような普通の人を守るために戦ってきた。
灼滅者になりたかった訳でもない。
ただ歌を歌っていたい。そしてこの力があるのならば、戦ってみよう。
命がけの声でワンフレーズを歌い上げた見桜に、陽司は叫んだ。
「見桜、危ない!」
その直後。歌に魂を込める見桜に、ピアノの音の塊が叩きつけられた。
自分を見て! と言わんばかりの狂和音に、木乃葉が割って入った。
切り裂くような音を受け止めた木乃葉は、怒りを込めた目でピアノにバチを突きつけた。
「お前……。自分の音だけを聞いて欲しいとか、わがまま言うなよ!」
「その通り! 音楽は皆で楽しんでこそだろう!」
マイクを握り締めながら叫んだ陽司は、サイキックソードを握り締めると叱るようにピアノに叩きつけた。
アルトサックスを吹き続ける蒼は、ピアノを振り返ると踵を高く鳴らした。
足元から放射状に伸びたダイダロスベルトが、緩やかな弧を描きながらピアノへと突き刺さる。
やがて伸びたダイダロスベルトをなめらかに足元に戻した蒼は、滑らかに和音へと戻った。
そんな蒼の様子に、眠兎は爪弾くベースを更に早くかき鳴らした。
情熱的なビートが音波となり、再び高くなり始めたピアノの音を滑らかに鎮め、リズムの中へと戻す。
再びウォーキングベースに戻った眠兎は、ふと蒼と目が合った。
シャドウハンターの眠兎は、音楽についてはサウンドソルジャーに及ばないかも知れない。だが。
(「……これでも、音楽系クラブの部長ですし」)
今まで積み重ねてきた時間を自信に変えながら、眠兎はベースにハミングを乗せた。
重なる音色に、伊織は持参した三味線をアップテンポに奏でた。
洋の楽器がメインのセッションに、和の楽器が違和感なく響き渡る。
突然のアドリブにも難なく調和する三味線が、良いアクセントとなって音楽を盛り立てる。
歌と演奏、手拍子が一体となって場を一つ上の高みへと押し上げる。
もはやピアノは、自己を主張して無理な音楽は奏でない。
夢見心地なピアノの音色は、最高に高まった音楽の一つのピースとして高らかに奏でられている。
最後のフレーズが高らかに歌われ、割れんばかりの盛大な拍手が響き渡る。
長く続く拍手と口笛が収まった時、ピアノの音が響いた。
まるで子供が弾いているかのような拙い音色が、静まった音楽室を満たす。
誰もが、ピアノに耳を傾ける。消え入りそうなピアノの音は、突然勢いを取り戻した。
最後の足掻き、と言わんばかりの酷いピアノのノイズが、全方位に向けて放たれる。
生徒達が悲鳴を上げるよりも早く、灼滅者達は動いた。
セッション中も注意深くピアノを注視していた明莉は、真っ先に駆け出すと生徒と音の間に割って入った。
大胆に駆け出したアトシュは、戦場に最も近くにいた生徒の手を引き音の直撃を避けさせる。
手を引かれた生徒と入れ替わるように滑り込んだ柩は、襲う痛みに眉を顰めながらも生徒を音から守り切った。
生徒たちへの攻撃に神経を注いでいた灼滅者達の護衛に、誰一人として傷つくことなく守り切ることができた。
音波の攻撃が収まると同時に、弦が切れる音がした。
護衛の灼滅者達が動くのと同時にされた総攻撃に、ピアノが今度こそ完全に沈黙する。
切れた弦を空中に投げ出して完全に停止したピアノに、生徒たちは息を呑んだ。
●
再び降り立った沈黙に、陽司はマイクを手に語り掛けた。
「皆、音楽室のピアノが突然襲ってきて、驚いたと思う。だけど、こういう危険な存在は世の中に確かにあるんだ。――関わると、命の危険がある」
陽司の語り掛けに、生徒の一人が立ち上がった。
「……なんだよ。お前達、そのピアノがやべぇ奴だって知ってたのかよ!」
鋭く響く糾弾の声に、生徒達の間に再び不安が広がった。
さっきまでの一体感はどこへ行ったのか。こちらを窺う生徒達の視線に、陽桜は唇を噛んだ。
大きな音の塊から生徒を守ったあまおとの頭を、知らず撫でる。
不安と恐怖に彩られたあの目を、陽桜は知っている。
かつて灼滅者であることを知らずにテレパスを使ってしまった陽桜に対して投げかけた、「みんな」の視線。
今、彼らはどんな目で自分達を見るのだろうか。解ってもらえるのだろうか。
恐怖を押し殺した陽桜は、沈黙する生徒達へ語り掛けた。
「不思議な存在にも様々あるのです。誰かを傷つけたりする危険な存在もいれば、そういう存在と戦って守る存在もいます」
少し震える声を飲み込みながら、あまおとをそっと示した。
「この子は、守る存在です。不思議な存在ですけど、怖くはないのですよ」
「あのピアノもお前たちも、変な力使いやがって!」
混乱して喚きたてる生徒の前に、眠兎は立った。そして深々と頭を下げる。
「……驚かせてしまって、ごめんなさい。でも、もし私たちが居なかったら……君たちは、死んでいた」
眠兎は男子生徒の手を取り、視線を合わせながらピアノの事件の概要を語った。
眠兎の言葉に、学校の怪談を思い出したのだろう。数人の生徒が口々にピアノの怪談を語り始めた。
信憑性を増す眠兎の言葉に抵抗するように、生徒は叫んだ。
「嘘だろ! 学校の怪談とかって、単なる噂だろ?」
「今君達が見た『都市伝説』は本物だ、実在する存在なのだ。そして人に害為す其れらを退治し人々を守るのが俺達、武蔵坂学園という」
生徒に対して毅然と返すニコの隣で、未知は口を開いた。
「さっきみたいな不思議で恐ろしい奴は、この世にはいる。それが現実だよ。奴らは、不思議な力で、直接見ない限り皆はそれを知ることが出来ないんだ」
「嘘だ! 俺が今からSNSで……」
「私たちの存在を、うかつに口にしないほうがいい。情報はどうせ消されるし、あなたたちが下手をしたら狙われることになる」
低い声で語る透流の凄みの効いた声に、生徒は押し黙った。
透流の言葉を継ぎ、武蔵坂学園のことや灼滅者のことを、蒼はゆっくり分かりやすい声で語り掛けた。
「……いきなり、こんなこと、信じられないと、思います。ですが、誓って、嘘は、言いません」
バベルの鎖という不思議な力で守られた、ダークネスという邪悪な存在。
目の前でピアノの暴走を見た生徒たちは、説明に引き込まれたように耳を傾けた。
「……お前達、結局何者なんだよ?」
絞り出すように言った生徒の声に、見桜は静かに答えた。
「私達は、武蔵坂学園。武蔵坂学園は、灼滅者達が集まるところ。君たちの言う、お化けみたいなもの達と戦ってきたんだ」
真っ直ぐ、真摯に語り掛ける見桜の言葉を、澪は継いだ。
「お化けは警察にも取り締まれないし、僕達能力者にしか太刀打ちできないんだ。だからどんな噂を聞いても、絶対に自分で確かめようとしちゃダメだよ。必ず僕達を頼って。ね?」
にっこり微笑む澪の言葉に、木乃葉は苦笑いを浮かべた。
「お化けというより、まぁ人を家畜のように裏で支配する、人とは全く違う存在といいますか……。とにかく。奇妙な噂なら、そういった存在が関わってる可能性が高いです。ほのぼのとした噂でも、結果として関われば死ぬと思ってください」
「……じゃあ、なんでこんな派手なことしたんだよ? 化け物退治ってもっと内緒でやるんじゃねぇのかよ?」
「知っていて欲しいんだ。これから似たことがあった時に、真実を知っている人は多ければ多いほど良いはずだから」
生徒の声を受け取った陽司は、全員の視線を受けながら生徒達を見渡した。
「行動でしか示せないけど、俺ら灼滅者が味方だってこと、どうか忘れないで欲しい」
「……分かった」
生徒が頷いた時、場の空気が一気にほどけた。
生徒達と灼滅者達の間にあった隙間が一気に埋まり、好奇心旺盛な生徒達が灼滅者達をもみくちゃにする。
連絡先を交換したり、音楽の感想を口々に言い合ったり。
打ち解けた空気が広がる中、一人の角刈りの生徒が澪の前に立った。
「あの!」
意を決した生徒の声に振り返った澪に、生徒は顔を真っ赤にしながら手を差し出した。
「お、お姉さん! 俺と、あ握手してください!」
「喜んで。――でも僕、お姉さんじゃないんだけどなぁ」
苦笑いを零す澪に、生徒は目を白黒させた。
「そんな! まさかお姉さんもあの危険な……」
「僕の性別は、都市伝説じゃないからね!」
口元を膨らませる澪に、笑い声が響いた。
作者:三ノ木咲紀 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年2月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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