●
その学校には七不思議がある。
その七不思議の一つが、夜中に動き出す人体模型。
どこぞに保管されていた人体模型が、夜な夜な動き出すというものだ。
「本当に出るのかねえ、そんなものが」
「だから、それを確かめに行くんだろ?」
「夜中に学校に侵入なんて、先生たちに知れたら大目玉だろうけどね」
十人くらいの学生達が小声で話しながら、校舎の中に忍び込んでいく。
この男女の集団は、ちょっとした好奇心から夜の冒険を楽しむつもりだったのだ。極端な話何もなくても、こういうものは予定調和だ。
だが、彼らは知らない。
タタリガミが作る都市伝説の存在を――真夜中に徘徊する人影が形を作る。何も知らぬ少年少女達に、不気味な人体模型が迫っていた。
「サイキック・リベレイター投票により、民間活動を行う事になりました。また、サイキック・リベレイターを使用しなかった事で、エクスブレインの予知が行えるようになったのですが、これにより、タタリガミ勢力の活動が明るみに出ました」
五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が説明を始める。
タタリガミ達は、エクスブレインに予知されない事を利用して、学校の七不思議の都市伝説化を推し進めていたようだ。
「閉鎖社会である学校内でのみ語られる学校の七不思議は、予知以外の方法で察知する事が難しく、かなりの数の七不思議が生み出されてしまっているのです」
この七不思議については、可能な限り予知を行い、虱潰しに撃破していく事になる。
灼滅者達の協力が必要だ。
「今回の都市伝説は、とある学校に出て来る動く人体模型です」
夜になると人体模型が動いて、人を襲い始めるという。
これを倒すのが灼滅者達への依頼となる。
「この人体模型の都市伝説は、夜の学校を探索しにいった学生達を襲おうとしています。このままでは、一般人に被害でることでしょう」
今回の都市伝説は、タタリガミが生み出した普通の都市伝説である為、多くの激戦を繰り広げてきた精鋭の灼滅者にとっては、強敵ではない。
「なので、周囲に被害が出ない範囲で『より多くの生徒・学生に事件を目撃』させる作戦を行ってください。バベルの鎖によって、都市伝説やダークネス事件は『過剰に伝播しない』という特性があります。しかし、直接目にした人間には、バベルの鎖の効果はありません」
目撃者が他人に話しても信じてくれないが、直接事件を目にした関係者は、それを事実として認識してくれる。
「一般人の多くが、都市伝説やダークネス事件を直接目撃する事で、一般人の認識を変えていくのが『民間活動』の主軸となるので、可能な範囲で目撃者を増やしていきましょう」
敵は強敵とは言えないが、多くの一般人に目撃させた上で灼滅する為には、相応の準備と作戦が必要かもしれない。
「一般人にとって、灼滅者は『不思議な力で七不思議を倒した人達』という扱いになります。初めて会う一般人に信用されて話を聞いてもらうには、信用されやすい演技や演出が重要かもしれません。皆さん、よろしくお願いします」
参加者 | |
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赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959) |
柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232) |
リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305) |
木元・明莉(楽天日和・d14267) |
ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671) |
四刻・悠花(棒術師・d24781) |
比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049) |
松原・愛莉(高校生ダンピール・d37170) |
●
その日。
その学校には奇妙なチラシが撒かれていた。
「人体模型見学ツアー?」
いつの間にか、机の中に入っていたチラシを見つけた生徒が首を傾げる。
集合場所、時間を明記され。夜の学校に集合し秘密を暴こう、と目立つ煽り文句がつけられていた。
「安全は保障する、是非友達を連れて参加して欲しい」
「!」
突然の声に、生徒は左右を見回すが。
誰もいない。それもそのはず。
素早く旅人の外套をオンオフしているルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)の仕業だったのだ。生徒から離れた灼滅者は、大量に作ったチラシを見やりつつ密かに校内を回る。
全ては今回の主目的である民間活動のため。
比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)と柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)も、プラチナチケットで事前に問題の学校へ入り込んでいた。
「先生、夜間活動の書類はこれでいいのかな?」
「うん? そうだな、あとは――」
柩は学校の生徒に成りすまして教職員に事前に接触する。
正規の手続きを踏み、夜間に校舎へ出入りすることの許可を取り付け、 円滑に校舎へ侵入することができるように根回ししておく。
「今まで人知れずが当たり前だったから、こうして人々に真実を見て貰おうってのはなんだか新鮮だな……おっと」
「ねえねえ、知っている?」
「うん。動く人体模型の噂のことでしょう」
高明はOB教員研修装って現場を確認していた。
同時に七不思議の噂の広まり具合を調査。ちょうど生徒達の噂話の場に出くわせしたので、さっそく不審がられない程度に噂を助長するよう努める。
灼滅者達が前準備をしている間にも夜は近付く。
動く人体模型の七不思議と遭遇する瞬間も刻一刻と迫っていた。どこからかまた声が聞こえてくる。
「オニーサン、オネーサン。面白い事アルよ。今日の夜、学校来てみるよ」
●
「あれ、あんた達は?」
「七不思議の噂を聞いて来た」
「色々な七不思議を追っていて、噂の人体模型を確かめにきたんだ。良かったら、一緒に行かない?」
真夜中。
学生達より先んじて校舎に侵入していた一団は、もちろん灼滅者達である。木元・明莉(楽天日和・d14267)が肝試し仲間と認識するように誘導し、カジュアルな親しみやすい服装でリリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)は自己紹介する。
「ふーん、あんた達も好きなんだ。この手の話」
「ええ、興味あります」
「似たような話を小耳に挟んでてな。ちょいと専門家みてぇなコトしてる」
四刻・悠花(棒術師・d24781)らは学生達に混じってついていく。赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)は戦闘後に繋げやすく警戒されない話題選びをしていた。打ち解けておくのに越したことはない。
(「正直、学生さんを騙しているような気がして、申し訳ないけど」)
あくまでも気分的な問題だが。
松原・愛莉(高校生ダンピール・d37170)は、曖昧な笑みを浮かべて適当に話を合わせる。
「そう言えば、先生も来たんですね。どうしたんですか?」
「噂を確かめたくなったんだ……井戸から出て来る化け物より怖いのかとね」
日中に教員研修を装っていた高明に、女生徒が話しかけてくる。親しみを持って貰えるよう、ホラー映画の例を使った冗談で場を和ませてみる。ルフィアが作ったチラシをもっている者もいて、当の本人の服装は頭の角が隠れるように帽子を一応かぶっている。そして堂々とこうして闊歩していられるのは、柩の根回しのおかげであった。
「へー、こっちの学校ではあのアーティストの曲が流行っているのか」
「そうなんですよ。お兄さんの大学はどんな感じですか?」
「そうだな……」
明莉は同行の間に学生達とは積極的に会話していた。
七不思議話に限らず、学校の事とか趣味や好きな音楽。日常のありきたりな話をして、ふと思う。
(「俺も同じ普通の人間だと自分が安心したいのかもしれないな」)
月明かりを頼りに、階段を昇り通路を渡る。
動く人体模型が出ると言われているのは、理科室近く。そこはもう目と鼻の先であり……灼滅者達はまざまざとした視線を感じていた。悠花はそれとなく複数本のケミカルライトを理科室方向に投げる。浮かび上がったシルエット。
「ネエ、カケッコスル?」
それはかすれた人ならざる者の声だった。
身体の半分は内臓まで剥き出しになった人型が、全力疾走で風を切って迫る。
「なっ、あ、あれは!」
「きゃー!」
異様な事態に学生達はとり乱し。
リリアナが楽しそうに前へ出て。高明は己がサーヴァントを呼び出す。
「ちょっと離れて見ててよ、悪い七不思議を倒しちゃうからね」
「少し下がっててくれ、なに俺達が守るから大丈夫さ」
呼び出されたライドキャリバーに生徒達が息を呑む。
ガゼルは挨拶するように会釈するポーズをした。
「俺の相棒なんだ、カッコイイだろ?」
一般人を守るように立ち、不安や不信感を抱かせない態度を意識。
同時に危険が及ばない範囲で戦闘を確りと見る事の出来る最遠に避難させる。
「俺達が守るから少し離れて」
「あ、あなた達は何なの?」
「俺達はこの怪異と戦う為に来た」
明莉の説明を、柩が引き継ぐ。
「そう、ボク達があれを退治してキミ達を守る。落ち着いて行動し、人体模型に決して近付かないようにして」
「で、でも!」
「死にたくないのなら大人しくしていることだ」
パニックになりそうな者には、鋭い視線で混乱を鎮める。
少なくとも大きく反発するような者はおらず。生徒達は距離をとった場所でひと塊になった。
「実はわたしたちはゴーストバスターだったのです。VITALIZE!」
悠花を始め、灼滅者達はスレイヤーカードを開放。
それが皮切りとなって攻撃を開始する。
「ゴ、ゴ、ゴースト、バ、バスター?」
「ベッタベタな七不思議だな……まあ利用させて貰おう」
首を傾げる都市伝説に対し、ルフィアが先陣を切る。
縛霊撃で殴りつけ、同時に網状の霊力を何重にも放射。敵を固く縛りあげる。
(「元の噂はさほど危険とは思えないわね。人を襲うことにはなっていないし……それを危険なものにしてしまったのは……タタリガミの意思?」)
愛莉は学生達を守るように位置取り、校舎や備品を傷つけないように配慮。
クルセイドスラッシュを狙いすまして炸裂させる。サーヴァントのナノナノことなのちゃんは、メディックとして動き回る。
「イタイ、イタイ、イタイヨッツ!」
攻撃を受けた都市伝説は、不平を鳴らして手足ばたつかせる。
オーラのようなものをまとった拳は常人が受ければひとたまりもないものだ。
「なまじひっそりと噂が拡散されてるのが厄介だな。ラジオ放送の影でしっかり戦力強化してやがったってコトか」
布都乃はラビリンスアーマーとリバイブメロディで皆をサポートする。
回復を主に後ろから一般人に危害が出ない様に意識して挑む。
「お陰で学生達に伝えやすい敵に仕上がってんのはご愁傷サマだがな。んじゃまぁしっかり片付けて白日の下に曝してやるかね」
そう嘯く布都乃の姿が輝いている。
スタイリッシュモードを発動させているのだ。一般人の目を意識しているのだ。良いイメージが与えられる様にと準備は万端だった。
●
(「灼滅者の戦いを見た人々がどう思うのか。最初は恐れられるかもしれないけど、同じ心を持った者同士なんだ。少しずつで良いから分かり合っていけたら良いな」)
戦闘のなか高明の意識は後ろの観衆に向けられていた。
それは流れ弾から彼らを守る意味もあれば、己自身を投影している部分もある。
(「そうしたら、俺も家族へ真実を話す勇気が持てるだろうか……」)
心の水平線に小波がたちそうになるのを抑え。
高明はサーヴァントに牽制とカバーをさせ、自身は黒死斬を見舞う。鋭い切っ先に晒された相手の動きは目に見えて鈍くなる。
「おー! すげー!」
「良くわかんねーけど、やれやれ!」
「……」
その最大の懸念事項である学生達はと言うと、ノリの良い者は灼滅者達に早くも声援を送っており。事態についていけない者達は落ち着きなく沈黙を守っている。明確な悪感情は今のところ見られない。
(「学生達からは目を離すわけにはいかないな」)
明莉は常時状況を確認する。
都市伝説の一撃を避けて、抗雷撃をカウンターで入れる。人体模型がぶっ飛んだ光景に、また歓声があがった。
「民間活動、ヒーローぽく振る舞えるのは嬉しいね。ババンと格好良くやっちゃうよ」
リリアナは生徒たちに見せつけるように飛んで跳ねて華麗に舞う。
ギャラリーがいるとテンションが上がる性質なのだ。格闘技で鍛えたしなやかで強いスタイルから閃光百裂拳が飛び出す。
「動く人体模型を退治するのって、これで何件目でしょう。最初はおっかなびっくりだったけど、慣れってこわいなぁ、前は夜の学校ってだけで怖気づいていたのにね」
苦笑する悠花は棒に炎を纏わせた打撃と魔力を込めた突きを交互に繰り出す。
何度目になるか分からない似たような相手との対峙、炎が人体模型に移りそこに更に追撃をかけて削りにかかった。まさに慣れた動作だ。
(「一般人に超常の力が存在することを理解させる」)
柩のジャッジメントレイが派手に輝く。
一般人に被害を出さないことを優先し、相手の動きを抑止。皆の眼に焼き付けるように暴れた。
「チラシを配った身としては、参加者の安全は守らないとだな」
ルフィアが殲術執刀法で斬り裂く。
都市伝説の身体は灼滅者達の集中砲火によって、無数の傷や亀裂がはしっていた。人体模型の片腕が切り落とされ。それは生徒の一人の近くまで転がっていた。
「ひっ!」
危険はないが、今まで動いていたものの片腕が足元に来て動揺したのだろう。
女生徒は小さな悲鳴をあげた。
「あなたたちが今、目で見ているもの、耳で聞いていることは、この先も嘘をつかないわ。今は怖いかもしれないけど、私たち灼滅者が全力で守るから」
すかさず愛莉は怯えた一般人に近寄り、安心させるように励ました。そうする間に、人体模型の手首だったものは消滅していた。
「サヤ、外部に敵が出ていかない様に牽制を頼む」
布都乃はサーヴァントと連携して、都市伝説を挟撃する。
クール上品なお嬢さんといったウイングキャットが逃げ道を塞ぎ。悪ガキぶったお節介焼きな少年といった主人が、インファイトで懐に潜り零距離で畳掛る。
「コ、コノコノコノ!」
「苦しそうだな。だが、もっと苦しんでもらう」
都市伝説ががくがく呻く。
そこに高明は黙示録砲でダメ押しをスタイリッシュに掛けた。聖歌と共に十字架先端の銃口が開き、敵の業を凍結する光の砲弾。受けた相手は氷漬けの地獄を味わう。
「グ、グググ、ググ!」
「ほら、余所見しないでください」
悠花はシールドバッシュで敵の気を引き続ける。
万が一があってはならぬ。最大限、こちらだけに都市伝説の被害を集中させておく必要があった。
「もう一息だね」
「喰らってやるか」
柩が轟雷を撃ち、魔術によって引き起こされた雷が鳴り響く。ルフィアは影喰らいを発動させ、敵を影で飲み込みんだ。光と影が鮮烈なコントラストを彩った。その中心にいる者としてはたまったものではないだろう。
「チャンスは――」
「逃さないぜ!」
愛莉は斬影刃を最良のタイミングで狙い撃つ。
影の先端を鋭い刃に変え、敵を斬り裂き。刹那の間もおかず、飛び込んだ布都乃がスターゲイザーを直撃させる。都市伝説が歪に揺れた。
「ウウウ、ウガアアアアアアアァアアアア!!」
進退窮まった人体模型は、絶叫をあげる。
破れかぶれの特攻。最後の力を振り絞った一撃が、一直線に明莉へと向かう。
「っ」
「危ない!」
大きく明莉が後退する。
間近で見ていた学生達が、手に汗握った声を出す。このままでは……と思わせるのが灼滅者の策であった。
(「苦戦する素振りも楽じゃないな」)
明莉は巧みに身を退き、いつの間にかリングスラッシャーを射出していた。
気づかぬうちに、都市伝説は光の輪によって致命的ともいえるダメージを負う。
「ギャラリーがいるから、絶対負けられないねっ。ボクの全力、受けて見なよっ!」
リリアナがビシッと指を突きつける。
それはトドメの合図。仲間は巻き込まれないように、学生達を一段と遠ざけ。リリアナは駆け出す。一歩二歩と火の粉が燃え上がり、身に纏う炎が巨大な渦を巻く。体内から噴出させた熱気を、思いの丈ごとぶつけ。
――決着の時は来た。
●
(「必要なら血を吸うけど、今回の目的からは必要ないかな」)
戦闘の後始末をしつつ、悠花は学生達の方を見やる。
灼滅者達は事情の説明や、今後のアドバイスなどを積極的に行っていた。
「怪我はないか? 今回の様な事があるから肝試しはするな」
「は、はい。あ、ありがとうございました」
「見ての通り、物珍しい噂を流して獲物を待ってる悪霊がいるワケだ。ちょいと専門的な腕じゃねぇと自分の身も守れねぇ。同じような噂や事件を聞いたら、オレ達の元に連絡をくれねぇかね」
「わ、わかりました。でも、う、うーん。実物を見てもまだ半信半疑な話だなあ」
「これからもみんなを守ってみせるからね。応援してくれると嬉しいな」
「うん! ファンになっちゃった! 応援するね!」
「世の中には信じがたい事は沢山ある。見てみろこの角。角だぞ角、オニかよって感じだろう? アクセサリーじゃないんだぞ、これ。良いだろーカッコいいだろー。凄い邪魔だがな、寝返りうてないし」
「邪魔なんすんか! 格好良いけど、大変っすね!」
「あ、なのちゃんが気になる? 触ってみる?」
「か、噛み付きません? じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
戸惑う者もいれば、好奇心を剥き出しにする者もおり、礼を返す者もいる。
質問が飛び交い、物珍しそうな視線が絡み、手と手が触れ合う。
灼滅者と一般人達との交流はいつ終わるとも知れなかった。
作者:彩乃鳩 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年2月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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