民間活動~冬だ、秋田だ、チームきりたんぽ怪人だ!

     雪降り積もる秋田県。
     その駅では、3体のご当地怪人が暴れ回っていた。
    「おいでませ秋田!」
    「えっ何!?」
     怪人のうち1体が、改札から出てくる観光客を、後ろから羽交い絞めにした。
    「さあ、秋田名物をごちそうしよう……」
     待機していたもう1体が、穴の開いた筒状の焼き物……きりたんぽを取り出す。
     そして、それを受け取った最後の1体が、観光客の口にねじこんだ。華麗なる連携。
    「どうよ美味いだろ!?」
    「むぐぐ……」
     ばたり。
     顔を真っ赤にして、倒れる観光客。無理もない。
     しかし怪人たちは、いずれも一仕事終えた、といわんばかりに満足げな顔をしていた。
     そして3体は円陣を組む。
    「ここのところ、何やかんやで世界征服が滞っていた気がする! ここは原点に返って、きりたんぽを広めるぞ!」
    「ふッ、その話、乗らない手はないな」
    「やってやんぜ!」
     そして、きりたんぽを天に掲げるきりたんぽ怪人たち。
     ……迷惑な話である。

     投票の結果、サイキック・リベレイターを使用せず、民間活動を行うと決まった事が、初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)から改めて説明された。
    「サイキック・リベレイターを使用しなかったため、私たちエクスブレインも、ご当地怪人の事件を予知する事ができるようになったのだ」
     今回、秋田駅での出現が予知されたのは、秋田きりたんぽ怪人。
    「冬と言えば鍋の季節だものな」
     うんうん、とうなずく杏。
     きりたんぽ怪人たちは、混迷極める情勢が続いていたせいで忘れていた本来の目的……世界征服を思い出したらしい。意気投合した3体でチームを組み、作戦を開始したようだ。
    「スキーなどを目的に秋田を訪れる観光客をターゲットに、きりたんぽを無理矢理口にねじこんで回っている。無論、こんな雑なやり方では、きりたんぽのイメージが悪化するだけなのは明白。怪人の愚行を、ぜひ止めて欲しい」
     相手は3体。ペナント怪人ではないため手ごわいと感じるかもしれないが、数々の戦いを経てきた今の灼滅者なら、決して強敵ではないだろう、と杏は言った。
    「民間活動の目的は、多くの一般人に事件を目撃してもらう事だ。ダークネスという存在がいる事、灼滅者がそれと戦い、世界を護っている事を知ってもらうんだ」
     そのため、周囲の安全を確保した上で、できるだけ多くの関係者やギャラリーに事件を目撃してもらうことが重要となる。
     バベルの鎖の効果は、ダークネスによる事件を過剰に伝播させない、というものだ。だが、直接目にした人間には、バベルの鎖の効果は及ばない。
    「つまり、より多くの一般人に、ダークネス事件を直接目撃させれば、認識を変えていく事ができるということだな」
     加えて、今後同様の事件に巻き込まれた場合、一般人がどのように対処すればいいのかなども指導できるとよりよいだろう。
    「ご当地怪人には、間の抜けた奴らも少なくない。だが、灼滅者が悪者、と一般人に誤解されるのはまずい。相手が悪者であるとはっきりさせた上で、灼滅者が人々の味方である事をしらしめて欲しい」


    参加者
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)
    虚中・真名(蒼翠・d08325)
    神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)
    ロジオン・ジュラフスキー(獅子面の魔術師・d24010)
    雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)

    ■リプレイ

    ●戦いの目撃者
     秋田駅。
     構内の偵察を続けていた灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)の望遠カメラが、敵の接近をとらえた。
     即座に仲間へ連絡を飛ばすと、フォルケ自身も行動を開始する。
    「おいでませ秋田!」
    「秋田を堪能しに来たのだろう?」
    「なら、きりたんぽ喰えよ!」
     出現したチームきりたんぽ怪人は、適当な観光客を捕まえると、きりたんぽをねじこみにかかった。
     その拍子に、観光客の持つ紙袋からお土産が床に散らばった。きりたんぽでないと知ると、それを踏みにじる怪人。このままでは、きりたんぽが、ひいては秋田がトラウマになりかねない。
     だが、その時。霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)やロジオン・ジュラフスキー(獅子面の魔術師・d24010)が、怪人たちの腕をつかんだ。
    「な、何ものだ!」
    「ふははははー、久しぶりに出たねご当地怪人トリオ! 小江戸の緋色が灼滅してあげる」
     ヒーローっぽいポーズで登場したのは、赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)だった。
    「出たな灼滅者! だが、こちらも3人! 引けはとらないぞ」
    「にしても、なんだか今日は人が多いな」
     怪人たちが周囲を見回すと、確かに妙に賑わっている。
     よく見れば、人々の手には、白いカップ。比良坂・柩らが用意した出店で配っている、きりたんぽ鍋だ。
     援護に駆け付けた山田・透流たちが、学生サークルの活動と称してビラを配り、宣伝したお陰で、一般人が集まってきていたのである。
     怪人の魔手から救い出された男性を、虚中・真名(蒼翠・d08325)が引き受ける。
    「怖かったですね、これを食べて身も心も温まってください」
     手早く鍋をよそいながら落ち着かせると、後ろに下がっているよう促した。
    「今ちょっと変な人が暴れとるからこっから近づいたらあかんよぉ」
     何事かとざわつくギャラリーを遮り、雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)が立ち入り禁止テープを張り巡らせる。スマホ片手に、興味津々で近寄ろうとする野次馬もいたが、丹がそれを押し返した。少女に見えても、『怪力無双』の膂力にはかなわない。
     諫早・伊織も安全な場所への移動を呼びかける。集まってきたギャラリーの中には、地元の人も混じっているはず。なじみ深いきりたんぽのイメージにも配慮しなくては。
    「なんだ、人間どもを避難させないのか?」
    「構わん、灼滅者を始末するのが先だ」
     灼滅者の行動に違和感を覚えながらも、怪人たちは、それぞれきりたんぽ風の刀や棍棒、槍を振りかざした。
     敵の矢面に躍り出たのは、スタイリッシュに出店で呼び込みをしていた神無月・佐祐理(硝子の森・d23696)。
    「Das Adlerauge!!」
     人造灼滅者としての真価を発揮、戦闘モードへと変化した。ただし、今回はイメージにも配慮し、翼を出すにとどめておく。これまでは一般人の介入を防ぐため、ESPで人払いをするのが常だったので、慣れない部分もある。
    「よっしゃ、行くぜぇぇ!」
     先制したのは、槍を構えたスナイパーだった。だが、突進の途中、ギャラリーと反対側に弾き飛ばされた。一般人の目には、影道・惡人(シャドウアクト・d00898)が突然現れたように映ったに違いない。
    「闇に生まれ、闇に生き、闇を切り裂く……てな。ま、こーゆーヒーローも居んのさ」
     驚くギャラリーに向けそうつぶやくと、惡人は仲間たちに、よろめくスナイパーを示す。
     灼滅者たちの迎撃が始まった。

    ●これがご当地怪人の脅威!
    「きりたんぽ……ビィィィィム!」
     かっ!
     クラッシャーとジャマーから放たれた筒状の白光が、佐祐理たち灼滅者を焼き払う。
     その余波で、観光宣伝用の旗や、ご当地キャラクターのパネルが破損する。何たる暴虐。
     攻撃の手が緩んだタイミングを見計らい、物陰に隠れていたフォルケが、反撃の想念弾 を撃ち出す。ご当地怪人が破壊者、人々の脅威である事を印象づけるように、立ち回る。
     吠声のような音を伴い、駅構内を駆ける銀竜。それがライドキャリバーと呼ばれるものだと、人々は知るまい。
    「レインボービーム!」
     ドラグシルバーに騎乗した竜姫が両腕をクロスさせた。
     ほとばしる七色のビームの直撃を受けたスナイパーだったが、仲間のアシストを受け、跳び上がる。
    「きりたんぽキィィィィック!」
     きりたんぽの幻影をまとった一撃が、真名の体を吹き飛ばす。だが受け身を取り、即座に立ち上がる。
     その時、ギャラリーの耳に、緋色の歌声が届いた。そして人々は知る。その歌がただ美しいだけでなく、灼滅者の傷を実際に癒していくことを。
     成り行きを見守るギャラリーの存在を念頭に置きつつ、佐祐理が影を操った。音もない黒の脅威が、スナイパーを飲み込み、心に傷を刻む。
     トラウマに囚われたスナイパーへと、丹の槍が繰り出される。いきなりのウニモードは、どちらが悪者かわからなくなるおそれがある。大人しく、人モードで敵を突く。
    (「人間姿のダークネスさんもいっぱい居るから、見た目はアテになれへんのやけどねぇ」)
     灼滅者から集中攻撃を受けるスナイパーの援護に、クラッシャーとジャマーが入る。
     しかし、それを押しのけ、ロジオンが魔術を放つ。
    「日輪に住まうは光弾、踊れや踊れ!」
     預言者の瞳により、その狙いは研ぎ澄まされている。射出された魔力の矢は、かわそうと身を翻すターゲットへと確実に着弾し、光の爆煙をまいた。
    「くっ、この程度で! きりたんぽを喰え」
    「喰え」
    「喰えーッ!」
     攻撃の合間にも、灼滅者の口に、きりたんぽを突っ込もうとする怪人たち。
     だが惡人が、そんな余計な行動を見逃すはずもなく。ダイダロスベルトで、無慈悲に敵を切り裂く。
     衆人環視の元だろうと、惡人の戦闘スタイルは不変。敵は敵、障害物。一般人には、どちらが味方か、行動で示せばいい。
    「きりたんぽ以外の鍋、そして食材に存在価値などない!」
    「他の食材の良さを知ろうとしない者に、きりたんぽの本当の美味しさは判りません」
     怪人の主張を真っ向から否定する真名。その髪がひとりでになびき始めた。優しさすら伴って溢れた風が、仲間たちの傷、そして不要な怒りを沈めていく。
     一方、吠太と共に、流れ弾や流れきりたんぽから、ギャラリーをかばう志賀野・友衛。これも灼滅者の仕事だ、とギャラリーに告げる。ただ敵を倒すだけのヒーローではない、と。
     人々に鍋のお代わりを配りながら、久成・杏子も語る。自分たちが、きりたんぽ、ひいてはあらゆる食べ物が美味しく食べていられるよう、日々戦っている事を。
     ことさらに危険をあおらなかったことも一因であろう。離れていった一般人もいたが、多くのギャラリーが戦いを見守ってくれている。
     怪人と灼滅者、どちらが迷惑の根源か、そしてどちらを応援すべきか……人々もそれを見定め始めていた。

    ●これが灼滅者の力!
    (「他所に気を遣えるくらい強くなったんやねえ」)
     周囲の被害を抑えつつ、終始、敵を圧倒する自分たちに、丹は感慨深い。ガンガンと、標識で敵を殴り倒しながら。
     槍を杖に立ち上がるスナイパーの死角から、惡人の影業が忍び寄る。漆黒のアギトに食いちぎられ、倒れゆく。看取る暇も惜しんで次の敵へ。
    「なっ、やられただと!?」
     仲間に気を取られたのが命とり。クラッシャーを壁際まで追い詰めたフォルケが、全力の斬撃を繰り出した。きりたんぽ棍棒のガードを押しのけ、圧倒する。
    「我らがきりたんぽ布教法を議論している間に、灼滅者はここまで強くなっていたというのか!」
    「落ち着け、我々のきりたんぽ愛が灼滅者に負けるものか」
     互いを鼓舞し合った2体が、灼滅者を床にたたきつけ、あるいはキックを炸裂させる。
     名物きりたんぽの名をかさに着た怪人の所業に、灼滅者へと応援の声がかけられる。
     それを聞いた竜姫の瞳に、力ある意志の輝きが宿る。
    「私たちは皆さんの応援があると力が湧いてくるんです!」
     疾走するドラグシルバーのシート上に立つと、加速力を味方につけ、竜姫が飛び蹴りを放つ。
    「ライディング・レインボーキィィーック!」
     虹の輝きが、きりたんぽクラッシャーを打ち砕く。
     残るは一体。身軽に戦場を駆け回っていた緋色も、跳躍する。足を炎でコーティングすると、残ったジャマーを蹴り飛ばした。鮮やかに決まったキックが、体表を黒く焦がす。いい感じの焼きが入ったと思われる。
     床に体を打ち付けるジャマー目がけ、佐祐理が気弾を撃つ。
    「どこを狙って……いや今のなし!」
     怪人が、とっさに口を閉ざした。佐祐理の狙いに気づいたのだ。
     肩をかすめていった気弾が軌道を変え、振り返った怪人を穿った。
     煙の中から転び出る怪人に対し、真名が、まとっていた風を手元に収束させた。優しさが厳しさに。風は刃となり、敵を切り裂く。
     そしてロジオンの手元に、魔法陣が展開。濃度を高める魔力が、ジャマーを狙う。
    「き、きりたんぽの未来を背負った自分が負けるわけには……!」
    「大丈夫! 持ってるきりたんぽは、私たちが後でちゃんとした布教に使ってあげるから」
     きりたんぽ槍を取り落とす怪人に、緋色が言った。
     そしてロジオンが、詠唱を完成させる。
    「魔を制するは魔、破れや破れ!」
     魔術光線が、怪人を直撃した。生半可な抵抗など貫通するその一撃が、その身を穿つ。
    「おのれ……きりたんぽ喰えよ!」
     それが最期の言葉になった。
     人々の見守る中、チームきりたんぽ怪人は、見事に撃破されたのである。

    ●使命を伝えるために
     怪我人はいないだろうかと、ギャラリーを見回す丹。
     が、援護に駆け付けた灼滅者たちの力もあり、人的被害はゼロにとどめられていた。
    「駅前をお騒がせしまして申し訳ありませんでした」
     自分たちへ視線を向けてくる人々へと、ロジオンが頭を下げる。
     人々からの問い掛けに先んじて、ダークネスの脅威、そして灼滅者・武蔵坂学園という対抗組織が、治安維持に動いている事を、わかりやすく、丁寧に説明するフォルケ。
     テレパスで佐祐理が探ったギャラリーの反応は、悪くないようだ。それなら、と出したままの翼を動かしてみせる。
    「こんなナリはしてはいますし、超常の力は使えますけど、中には私達のように人の心を持った、人類の味方もおりますよ~」
     そして木元・明莉も伝える。ご当地怪人も元は人間であったこと、そして灼滅者はそういう存在を増やさないよう、活動していることを。
    「ダークネスの中でもご当地怪人は、見た目こそコミカルですが、彼等なりに信念を持って活動しているので、茶化したり邪険に扱ったりすると危険です」
     これまでの経験を踏まえ、竜姫もレクチャーする。
    「あと、今日のような声援は嬉しいですが、中にはガチで危険な者もいるので、避難指示には従ってくださいね」
    「そうそう、作り物とかじゃなくて、本当に世界は敵に狙われてるんだよ。特に、ご当地名産を頭にかぶったような格好のやつら見たら連絡してね。本当に危険だから」
     竜姫とともに、念を押す緋色。
    「あ、こぉゆーん動画でSNSあげても反応あれへんから避難重視するんよぉ」
     丹が釘を差すと、まさに実行しようとしていた女性がびくっとなった。もっとも、実際に試してもらった方がわかりやすいかもしれないが。
     興味のないもの、信じていない者は既に去っている。話に耳を傾けてくれた人達と、きりたんぽ鍋で暖まりながら、話す真名。灼滅者は能力こそ常人とは違えど、悩み、笑い、鍋が美味しいと思う普通の『人』であると知ってもらうために、わかりやすく、嘘はつかずに。
     力の有無を除けば、一般人と灼滅者がさほど違いのない存在だと、親近感を抱いてもらえたらいいな、と真名は思うのだ。
     ひとしきり説明を終えると、人々に何かを手渡す惡人。それは、自身、そしてクラブへの連絡アドレスと拠点の電話番号。
    「ウチはな、元々こーゆー問題を積極的に拾って向かう集団なのさ。じゃーな」
     そう言い残し、颯爽と去る惡人。その口に、きりたんぽをくわえて。
    「そういうわけですから、もし今回のように暴れている者を見かけても、軽々しく近寄ったりしないようにお願い致しますね……あ、私からも名刺どうぞ、私の店です」
     ロジオンも、自らの運営する喫茶店の名刺を配る。
     みなの訴えの甲斐あって、少なくない人々が連絡先を受け取ってくれたようだ。
    「民事作戦が難しいのは世の常ですが、しっかり協力者を増やして行きたいところですね」
     連絡先を載せたカードの配布を済ませたフォルケは思う。
     こうした積み重ねが、灼滅者の、ひいては人々の未来を変える事になると信じて。
     灼滅者達は、秋田の地を後にするのだった。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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