石川県金沢市にあるスーパー。
主婦たちが食事の準備を始める時間帯ということもあって、客は多い。
一人の客が、スナック菓子コーナーで、菓子の袋に手を伸ばしていた。その時、
「お待ちになって!」
「金沢なのに、スナック菓子に手を伸ばすとは、言語道断なりぃぃ!」
「金沢なら伝統的な菓子を食べ給えよ」
と、絶叫じみた声。声の主は、三人のご当地怪人。
一人は婦人。纏ったドレスのあちこちに五種類の生菓子――金沢では婚礼の際に配られることが多い、五色生菓子を付けている。
残り二体は、それぞれ首から上が人間の頭ではなく、お菓子。長方形の落雁――和三盆と北陸のもち米が使われた、長生殿。そして、舟に似せた煎餅に生姜と砂糖を塗った、芝舟。
彼らは、五色生菓子怪人、長生殿怪人、浮舟怪人。いずれも金沢市に古くからある和菓子の怪人だ。
驚く客や店員の前で、
「金沢は古くから菓子作りが盛んですのよ。伝統的かつ有名な和菓子が沢山ありますわ」
「故にスナック菓子は駆逐すべきなりぃ!」
「つまり。スナック菓子の代わりに伝統的な和菓子を陳列させて頂くよ」
五色生菓子怪人が、陳列されていたスナック菓子を掴んで投げ捨てる。長正殿怪人と浮舟怪人が、空いた棚に金沢伝統の菓子を詰めていく。
スーパーの菓子コーナーを金沢の伝統的菓子コーナーに変えた三人組は、高笑いし出口に向かうのだった。
学園の教室で。姫子は説明を開始する。
「サイキック・リベレイター投票の結果、民間活動を行う事になりました。
また、サイキック・リベレイターを使用しない為、エクスブレインの予知が行えるようになり、世界征服を狙うご当地怪人の事件を予知できるようになったのです。
今回、予知した事件は、金沢の大通り沿いのスーパーで起きます。
金沢の和菓子の怪人三体がスーパーに現れ、スナック菓子コーナーからスナック菓子を排除し和菓子を陳列するという、暴挙に出るのです。
怪人の行動は見過ごせませんし、民間活動をするいい機会。現場に行き、怪人を打倒、民間活動をしてください」
姫子が予知した所、灼滅者達が怪人に接触できる場所は、スーパー前の大通り。
怪人達はスーパーでスナック菓子を和菓子に入れ替えた後、大通りに出てくる。そのタイミングで、接触せねばならない。
敵は、五色生菓子怪人、長生殿怪人、浮舟怪人の三体。
五色生菓子怪人は衣服に五色生菓子を付けた姿。長生殿怪人、浮舟怪人は、頭部が名前の由来となる菓子だ。
怪人達は、全員がご当地ヒーローのサイキックを使える。
他に、五色生菓子怪人は目出たい光を放つ「祭霊光」を、長生殿怪人は、巨大落雁で敵を打つ「ロケットスマッシュ」を、浮舟怪人は生姜味の霧を出す「ヴェノムゲイル」を、使う。
「彼らは強くありません。倒すのは容易。
なので勝つだけでなく、周囲に被害が出ない範囲で『より多くの関係者やギャラリーに事件を目撃させる』のを目標にしてください」
バベルの鎖には、ダークネス事件は『過剰に伝播しない』という特性がある。が、直接事件を見た人間には、バベルの鎖の効果はない。
目撃者が他人に話しても信じてくれないが、目撃者自身は、それを事実として認識してくれる。
「一般人の多くに、ダークネス事件を直接目撃してもらい、一般人の認識を変えるのが『民間活動』の主軸。可能な範囲で目撃者を増やしてください。
そしてダークネスがいる事、灼滅者がそのダークネスから世界を護っている事を知って貰いましょう」
現場はスーパー前の大通り、灼滅者が適切に工夫やアピールをすれば、たくさんの人が集まり、足を止め、見てくれるだろう。
どういう工夫で目撃者を増やすか。知恵の使いどころだ。
「ただ、今回の怪人は、金沢市民には馴染みの深いお菓子の怪人。
なので目撃した一般人が、『怪人は善良な存在で、灼滅者は怪人を倒す悪人』という印象を持つ可能性があります。
なので灼滅者が悪人と思われない、説明や演出が必要でしょう。例えば、相手から先に手を出させるといった工夫があるといいかもしれません。
皆さんの努力が、たくさんの人に正しく評価されるよう、頑張ってくださいね!」
参加者 | |
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色射・緋頼(色即是緋・d01617) |
李白・御理(白鬼・d02346) |
神凪・朔夜(月読・d02935) |
羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908) |
七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504) |
大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988) |
雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195) |
アリス・ドール(絶刀・d32721) |
●食べ物は大切に!
金沢市、スーパーマーケット前の大通り。北風がびゅうと音を立てる。
雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)は白息を吐きつつ、カラーコーンやテープを設置していた。
仲間と協力しつつスーパーの入り口付近を封鎖。
「ここからちょっと危ないからご協力お願いしますー」
近づいてきた一般人に気づき、丹はテープの前で両手を広げ、通せんぼ。丹の姿が微笑まし気に見えたか、通行人が足を止め、くすっと笑う。
その背後、スーパーの入り口から、
「あら?」「これはいったい」「何の騒ぎなのかな?」
と三人の声。スーパーで悪事を働いてきた怪人達が入り口から出てきたのだ。
李白・御理(白鬼・d02346)は怪人達に歩み寄る。
ボリ。ボリボリ。ボリ。
御理の手にはスナック菓子の袋。怪人達に近づきながら、これ見よがしにスナックを食べて見せる。
「わたくしたちの前で!」「スナック菓子を食べるなど許せん」
三怪人は激昂。御理に掴みかかり、スナック菓子を取り上げようとする。御理は言う。
「本性を現しましたね。世界支配を企む悪の組織ご当地怪人。あなた達が本当にご当地を思っているならコレが何だかわかる筈です」
「こ、これは、金沢の……っ」
そう。そのスナック菓子は、金沢市で生産されているもの。硬直する怪人達。
そのとき、
「すべて見せて貰ったぜ!!」
大音声。漂う圧倒的迫力。声の主、神凪・朔夜(月読・d02935)は跳躍し、敵の目前に着地。朔夜は堂々と胸を張り、
「菓子を取り上げてどうするつもりだ? 食べ物を粗末にする奴は悪い奴だって、聞いたことが無いのか?」
色射・緋頼(色即是緋・d01617)はスーパーの出口から現れた。緋頼の手に写真。怪人達がスナック菓子を投げ捨てた惨状が写っている。
緋頼は写真を周囲に見せ、
「これをごらんなさい。これが貴方達のしたことの証拠。このように食べ物を粗略に扱う事が、ご当地の為になるはずがない!」
何かを言おうとする三怪人。
その隙に、灼滅者八人は怪人を包囲。
羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)は戦装束の裾を華々しく翻し、
「そこまでよ、悪しき者達よ! あなたたちのやったことは、私もしかと見せて貰ったわ。スーパーに陳列されたお菓子を強引に入れ替える所行……どれだけの損害が出たか!」
大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)は勇ましく構え、啖呵を切る。
「お菓子を粗末に扱ったり、そういうことをするお前たちはお仕置きだよ! わたし達灼滅者が成敗してあげる!」
灼滅者の声とESPが功を奏し、少なくない数の一般人が足を止めていた。彼らは何が起きるのかと灼滅者と怪人を注視している。
一方、怪人の一人、五色生菓子怪人は声を荒げた。
「損害? 成敗? わたくし達は、金沢の和菓子の為に――」
怪人達に、アリス・ドール(絶刀・d32721)が言葉を発する。
「……金沢の和菓子……広めるなら……正々堂々勝負したらいいの……姑息な手段で……金沢の名を広めようだなんて……あなたたちこそ……金沢を貶める……悪者だよ……」
無表情で淡々と、けれど鋭く語るアリスに、怪人達は黙る。反論の言葉が見つからないからか。代わりに目に怒りを浮かべ、今にも跳びかからんばかりの姿勢。
七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)は一般人たちへ、
「皆さんは、テープの中に入らず、距離をとり、しっかり見ていてください」
警戒を促し、怪人達を見る。
「雪風が、敵だと言っている」
台詞と同時、大太刀『雪風・零』を抜刀。ふわり、立ち上る甘い香り。
●戦いは勇ましく
「やっておしまいなさい!」
五色生菓子怪人の命令に応じ、長生殿怪人が、巨大な落雁を振り回す。ブンッ。
その落雁が、御理に命中。巨大落雁の重みで、体が揺れる。が、御理は動じない。黒く滑らかな蛇皮の尾飾りを体に巻き付け、自らを治療。御理は、
「彼らはご当地怪人。元はご当地を愛する人間だったのに、その愛を利用しようとする悪に改造され、こんな風に人を傷つける悪の先兵になってしまったのです!」
と観客に説明。真剣に、かつ礼儀正しく。
怪人の一人、芝舟怪人は仲間の攻撃が止められたことに苛立ったようだ。顔を突き出し、霧を噴出した。生姜風味の目に染みる気体が、前衛を襲う。
が、結衣菜が剣を掲げ、セイクリッドウィンド。風で仲間たちの傷を治療、生姜の匂いをかき消した。
「私たちは負けないわ。あなた達に投げられた商品の為にも、信用を損なわれたスーパーの為にも、あなた達は許せるものではないわ! 成敗してくれる!」
結衣菜の声に、そうです、と緋頼が同意する。
「スナック菓子も和菓子も、子供たちが好きなもの。片方を貶めてはいけません。両方とも大事にすることが、ご当地を真に愛することではないでしょうか?」
丹もアンニュイかつふわりとした笑みを浮かべ、
「そぉやよぉ。食べ物粗末にしてたら、和菓子の大切さは伝わらへんのやない?」
朔夜は普段より荒い口調で、
「食べ物を粗末にする奴に、お菓子を宣伝する資格はねぇ!!」
と、一喝。
御理、結衣菜、緋頼、丹、朔夜の言葉が、観客たちの心を動かしたようだ、観客の一般人から、
「そうよ! 食べ物を粗末にするなんて、だら、のすることじゃない!」
「ご当地怪人に負けるなー!」
声援。声を受け、緋頼は直進。『白縫銀手』を嵌めた手を一閃。長生殿怪人を打ち、糸で縛る。
丹は敵を見据えていた。怪人は糸を解こうともがいている。丹はすかさずベルトを握り――レイザースラストを発動。敵の胸を貫いた。
さらに、朔夜が姿勢を低く、長生殿怪人の懐に潜り込む。白銀色のオーラを滾らせ、アッパーカットを顎へ!
鞠音とアリスも、赤と青の瞳で敵を観察。五色生菓子怪人は慌てたように、長生殿怪人を治療しているが、全快させるには程遠い。
「アリス、いつも通り、決めましょう」「……鞠音……いつでも……いけるよ……」
鞠音とアリスは背を合わせ会話。そして踏み込み、斬!
「妖刀――」「――鞠娃」
二刀の刃が長生殿怪人の肩を裂いていた。鞠音とアリスは剣を構え、決めポーズ。
弱った長生殿怪人は、なお暴れ回る。その正面に立つは、彩と霊犬シロ。
長生殿怪人の蹴りを受け、彩は一歩も引かない。その雄姿に、子供が手でメガホンを作り、
「おねーちゃん、がんばれー!」
「有難う! みんなのためにも、頑張るよ!」
子供に応える彩をシロが瞳の力で癒してくれた。彩は跳躍。敵の首の後ろを、蹴る。グラインドファイアで敵の身を焼く!
砂糖の焦げる甘い香りをだしながら、長生殿怪人を灼滅。
灼滅者はそうそうに敵一体を倒した。が、敵の反撃も苛烈。
彩の腹に芝舟怪人の蹴りが刺さり、さらに、彩の顔面に五色生菓子怪人のビームがぶつかる。
吹き飛ばされる彩。が、彩は空中で姿勢を整える。着地と同時、再び敵へジャンプ。漆黒のギター『白焔鏖琴・沙羅曼蛇』に炎を宿し敵へ叩きつける! シロも咥えた刀で主に加勢。
「ば、莫迦な。金沢の和菓子パワーを受けて、わずかも意志が揺らがないなんて……」
目をむく芝舟怪人。
だが、彩の消耗もまた大きい。そんな彼女へ軽やかな歌声。蝶を思わせるその声は、結衣菜のエンジェリックボイス。
結衣菜は時に声を張り、時に清らかな風を吹かせ、戦線を支え続けた。
鞠音はギターを振りかぶる。結衣菜の声を聴きながら、指を動かす鞠音。弦を激しく弾く。鞠音が紡ぐソニックビートが、芝舟怪人を吹き飛ばす!
丹は好機を逃さずに敵へ駆ける。芝舟怪人はふらつきつつも立ち上がっていた。丹は標識を掲げ、頭部へレッドストライク!
「がっ……なんて一撃なんだっ?!」
丹の技に驚愕の声をあげつつも、芝舟怪人は霧を吹く。生姜風味の毒霧が灼滅者に襲い掛かる。
その霧の中に、朔夜が躊躇なく突っ込んだ。『玉兎』を両手に持ってフルスイング。芝舟怪人の胴に直撃! 朔夜の力が、怪人の体をくの字に折り曲げる。
緋頼は漆黒のウェーブヘアをなびかせ、芝舟怪人の側面をとった。緋頼が操るのは、『Thousand-Raywing』。敵の首を傷つけ、芝舟怪人を終わらせる。
続く戦闘の中、アリスは電柱を蹴り跳びあがる。アリスや皆の華麗な動きが、観客を魅了したようだ、
「灼滅者ってカッコいい!」
と、感嘆する声。
壁を蹴り、街灯に跳び移り、変幻自在に動くアリス。残った一人の敵、五色生菓子怪人の背後に降り立った。小太刀を模した『煌刀「Fang of conviction」』を振る。敵の腱を、斬り裂く。
「ゆ、ゆるせませんわああ」
五色生菓子怪人がアリスの顔を見る。アリスへ至近距離からの光線を放とうとする。が、御理がアリスを突き飛ばした。彼女を狙った光を己で受け止める御理。
御理を心配してどよめく観客たち。が、御理は倒れない。回復を仲間に任せると、自身は腕を変化させ――渾身のストレートを敵に叩き込む。
どたり。五色生菓子怪人が音を立て倒れた。
●感謝の言葉は、ありがとう
「……おわった……」
アリスは怪人たちが動きを完全に停止したのを確認。武器を鞘に納め、もくもくと事後処理を開始。
今まで成り行きを見守っていた一般人達から、「大丈夫? けがはない?」「ありがとー」と、感謝や灼滅者を案じる声が飛んだ。
一方で、「あれは何だったんだ?」と不思議がる声も。
朔夜は真面目な顔で疑問に答える。
「あれはご当地怪人。ご当地への愛が、悪い奴らに付け込まれて暴走した姿だ。貴方達に危害を加える可能性があるので、成敗せざるを得なかったんだ」
御理は溜息をつき悲し気に、
「彼らは、グローバルジャスティスの改造が進み、もう手遅れでした。僕たちはこの悲劇の連鎖を防ぐ為、活動しているのです」
名産を愛する人達がいたこと、彼らの中に元々は愛があったことを忘れないでほしいと、朔夜と御理は訴える。
丹は空飛ぶ箒を発動。皆の頭上から告げる。
「ダークネスさんにも、ウチら灼滅者にもこんな力があるんよぉ。でもダークネスさんはこの力を好き勝手に使うんよぉ」
それは危険なことだから、自分たち灼滅者がダークネスを止めるのだと、説明する丹。
一般人たちは、灼滅者の言葉と力に驚き、聞き入っている。
彩と緋頼は彼らに紙を配る。紙には、ダークネスや灼滅者等の分かりやすい説明、また自分たちの連絡先を、書いてある。
「灼滅者はね? サイキックっていう超能力を使って、ダークネスを懲らしめる人達のことなんだ! もしまた同じような事件を目撃したら、連絡してほしいな!」
「ええ。他にも不審な怪人や不思議なことを見つけたら、是非連絡してください。どんな非現実的な事でも、小さいことでも、私達は駆け付けます」
彩は皆を安心させる力強い笑みで、緋頼は一人一人の目を見て丁寧に。
一方、鞠音は、
「戦闘中は、応援、ありがとうございました。これからも、頑張りますね」
戦いの間、声援を飛ばしてくれた子供と握手。握手をする子供の顔には尊敬の色。
結衣菜はそんな子供を見ながら顔を綻ばせた。口の中で呟く。
「こういうのも、いままでやったことがないから新鮮よね」
微笑む結衣菜たちを、赤く眩い夕日が照らしてくれていた。
作者:雪神あゆた |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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