民間活動~トイレの花子さん

    作者:四季乃

    ●Accident
     ――旧校舎の二階にある女子トイレには花子さんが居る。
     この学校に通う生徒ならば誰もが知っている七不思議だった。特に部活動で旧校舎の教室を利用している生徒たちならば、知らぬ者の方が少ないのではないだろうか。それほど当たり前ともされる噂話に、先日進展があったのだ。
    「花子さんが、出た」
     木造の古い板張りの廊下で蹲り、息を切らしながらまろび出た言葉を信じる者は少なかった。
     曰く、夕方四時四十四分ぴったりに旧校舎二階の女子トイレで、三番目の扉をノックして呼びかけると花子さんから応答があると云う。だが流石に中学生ともなれば信じがたいことで、実際に事の真相を確かめようとした者が続出したが、どれも不発に終わっている。七不思議なんてそんなものだ。
    「違う、違ったのよ……手前からじゃないの」
    「え?」
     息を切らしながら、それでもしきりに後方を顧みて、何かに怯えるようにセーラー服に縋り付く彼女は言った。
    「手前から三番目じゃなくて、奥から三番目だったの! 花子さんは、奥から三番目の扉をノックして呼び出すのっ」
     ―ふふふ。
     金切り声のような叫びに、小さな少女の笑い声が被った。気がした。
     ハッ、と小さく息を呑んだ彼女の視線がある一点で静止する。縫い止められたように微動だにしない横顔は青を通り越して真っ白だ。その眸が捉える先を辿るように視線を持ち上げると、廊下の突き当たりにあるトイレの入り口から、頸だけ伸ばした白い顔がこちらを覗き込んでいた。

    ●Caution
    「サイキック・リベレイター投票の結果はご存知でしょうか?」
     集まった灼滅者たちが雪が降りしきる窓の外を眺めていると、五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)がそんな風に切り出した。
     彼女が言うには民間活動を行うことが決まったのだそうだ。と云うのも、サイキック・リベレイターを使用しなかった事で、エクスブレインの予知が行えるようになったのだが、その結果タタリガミ勢力の活動が明るみになったという。
    「それが学校の七不思議の都市伝説化なのです」
     タタリガミ達は、エクスブレインに予知されない事を利用して七不思議の都市伝説を量産しているらしい。学校と云うのは思っている以上に閉鎖的であり、その狭き空間でのみ語られる七不思議は、予知以外の方法で察知する事が中々難しい。
    「そのためかなりの数の七不思議が生み出されてしまっています。これら七不思議の都市伝説は可能な限りの予知を行いますので、皆さんには虱潰しで撃破していってほしいのです」
     今回予知したのは旧校舎に出るトイレの花子さんだそうだ。夕方四時四十四分、三番目の扉をノックしたあとに呼びかけると花子さんから返事がかえってくるという。どうやらその旧校舎は部活動に励む生徒たちのために、教室を各所解放して利用しているらしく、生徒の出入りもそれなりにあるらしい。
    「既に七不思議に襲われかけ生徒さんがいらっしゃるようなのです」
     トイレの花子さんから返事があって、扉を開いてしまうとトイレに引きずり込まれるとされている。その被害者は扉を開けずに脱出したため大事にはならなかったそうだ。

     七不思議の都市伝説は、赤いスカートを履いた小さな子供らしい。おかっぱ頭で吊り目の女の子。配下は居ないが、暗闇をぎゅっと集めたような黒くて丸い靄のようなものをけしかけてくるらしい。トイレから出ることは可能なようだが、階を跨ぐなどは無理で一定の範囲内でしか行動出来ないようだ。
    「二階に上がって右手の突き当たりがトイレ、左手が教室といった作りなのだそうですが、手前の教室までは移動出来たようです」
     作戦にもよるだろうがトイレや廊下がやり辛いのであれば、その教室に誘導すると良いだろう。それに相手は短期間で量産された都市伝説だ。灼滅者が苦戦するような相手ではない。
     それに。
    「周囲に被害が出ない範囲内で『より多くの生徒に事件を目撃』させてほしいのです。この民間活動の主軸は、都市伝説やダークネスの事件を直接目撃することで一般人の認識を変えていくことにあるのですから」
     たった一人の生徒が『花子さんを見た』と言っても、よほど近しい者にしか信じてもらえないだろう。いや、近しいものすら信じてくれないかもしれない。けれど多数の者が目撃したならばどうだろうか。一人は駄目でも、二人、三人いや、五人、十人といった風に沢山の一般人の目に触れればそれは確かな現実となる。
    「もちろん危険が及ばない範囲内でお願いしますね」
     両手を重ねてにこりと微笑む姫子の表情を見ていた灼滅者たちは顔を見合わせあった。
     一般人にとって我々灼滅者とは『不思議な力を使う者』という扱いになるだろう。その力を振るって七不思議を倒したら、一体どのように捉えられるだろうか。
     多くの一般人に目撃させるためにはどのような作戦が必要だろう。それにどんな風に行動すれば生徒たちが自分たちを信じてくれるだろう。耳を、傾けてくれるだろう。
     思案する灼滅者たちを見て瞳を細めた姫子は「大丈夫」と呟いた。
    「皆さんなら、きっと出来ます。相手は中学生、恥ずかしがらず思い切って演技や演出を行ってみましょう」


    参加者
    風宮・壱(ブザービーター・d00909)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)
    蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536)

    ■リプレイ

    ●七不思議調査団1
    「俺、ここに怖い噂話があるのを聞いて来たんだけど、何か知ってる?」
     風宮・壱(ブザービーター・d00909)は榛色のふわふわとした髪を揺らして、ほとりと頸を傾げていた。「良かったら案内してもらえないかな?」と言うのが彼の言だ。不安そうに顔を見合わせる女子生徒に向かい「心配ならみんなで俺のこと見張ってて? ね?」なんて人好きのする笑みを浮かべて請えば、ころりといってしまうのも無理はないのだろう。加えてラブフェロモン付きなのだから。
     グラウンドで声掛けをし終えた片倉・純也(ソウク・d16862)は、旧校舎に上がってきて真っ先に目にした友人の姿に、感嘆にも似た呼気を小さく漏らした。
    「今は大学で超常現象の研究してるの! 花子さん確認してみたいんだけど、一緒に行ってみない?」
     奥の教室からはミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)の明るい声が、聞こえてくる。確か彼女に同伴しているのは九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536)だったろうか。研究者として振る舞うと言っていたが、存外、興奮にも似た声が湧いたのはあの教室を利用しているのが漫研だからかもしれない。各自ESPの効果も相まって上手く誘導できると良いのだが――。

    ●七不思議調査団2
    「お友達も誘って来てくださいね」
     夕陽にとろけるような橙の瞳を柔和に細めて微笑んだ蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)は、生物部の教室から出ると後ろ手で扉を閉めながら、ふとどこからか聞こえてくる話し声に視線をもちあげる。
    「僕は実は、あの魔弾の射手に出てくる悪魔の弟子なんだぜ? あ、信じてないなぁ!?」
     ちょうど校舎前に造られた花壇の傍だった。
     女子生徒たちに呼びかけをしているらしい空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)のフード姿が見える。あれは恐らくスケッチに出た美術部員だろう。そういえばグラウンドの人気がすっかり失せていることを察し、敬厳が二階への階段に向かおうとしたのと、理科部の教室が開かれたのはほぼ同時のことである。
     現れたのは比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)と卜部・泰孝(大正浪漫・d03626)の二人だ。連れ立って廊下に出た二人であったが、柩のあとに続く泰孝にきらきらした目を向ける生徒たちがまとわりついている。顔面に包帯を巻いている上に彼の言葉使いは独特なものなので、さぞ興味をそそられたことだろう。
    「おにーさん何言ってるか分からないから分かりやすく言ってみてー!」
    「う……お化けの生態、調べに参上」
     どこか冷や汗まじりにたじたじな様子の泰孝を前にした柩は、敬厳と目を合わせると小さく肩を竦めるような仕草をしてみせた。

    ●花子さん召喚
     携帯電話に表示されたデジタル時計が、静かに時を刻むのを柩はじっと見つめている。43分40秒、41秒、42秒……刻々と迫るその瞬間を前に、伏しがちな睫毛を持ち上げた柩は携帯電話をしまうと、その右手を軽く丸めて扉に近付けた。頭の中で秒数を数える。
    (「さて、ね。民間活動がどう転ぶかはわからないけど。せいぜい上手くやるとしよう」)
     スゥ、と藍の瞳が三番目の扉を正視する。
     その白い拳がゆっくりと振るわれる。コンコン、とそれは思いのほかよく響いた。
    「花子さん――」
     遊んであげるよ、花子さん。
    (「ボクが癒しを得るための糧となってくれ」)

     一方その頃。
    「危ないかもしれないから、下がっててね……」
     廊下では押し合いへし合いしている生徒たちを必死に下がらせているミカエラたち灼滅者が居た。ある程度トイレから距離は取ったものの、予想以上に生徒が集まったのだ。廊下に入りきれなかった生徒は、グラウンドの木に登ったりしているほどの集まりぶり。
     壱はいつでもウィングキャットのきなこを呼び出せる状態を保ちながらも、後方の騒がしさに目を丸くしている。興奮して前に出てきてくれないと良いのだけれど。
    「見て!」
     そうと願った矢先のことだ。
     視界の端で女子トイレから何か飛び出したのが分かった。前へ向き合うと柩が床に手を突くような低い体勢から、こちらへ向かって駆け出してきたところだった。しかも数歩前へ進んだ辺りで、トイレからぬるりと姿を現した小さな影の大本命つき。
    「下がって!」
    「出た! 下がって!!」
     壱とミカエラの声が被ると生徒たちから悲鳴があがる。
     瞬間、壱はSCからきなこを呼び出し、グラウンド側の窓を一つ開放すると即座にエネルギー障壁を広げて防御を展開。
     たちまち吹き込んでくる真冬の風に凍える暇もなく視界に飛び込んできたのは、箒に跨る青年の姿。彼――陽太は窓を潜り、ストンと軽やかな身のこなしで箒から降りると被っていたフードを手で払い、生徒を一瞥することもなくどす黒い殺気を無尽蔵に放出。
     随分と感情の見えぬ表情に、片眉を持ち上げるような表情を見せたきなこだったが、空中でくるりと一回転すると、赤い吊りスカートのお化けを見つけて「にゃあ」と鳴いた。
     箒で飛んできた陽太や、羽根の生えた猫が空中で浮遊する姿を見た生徒たちは、ぽかんとしていており、その様子に小さく口元に笑みを刷いた敬厳は、不気味な三日月を描いて笑う少女――花子さんを見据えて一歩その歩を進めてみせた。
    「では、とくとご覧あれ。――蒼穹を舞え、『十八翅軍蜂帝』」
     それまでは凛とした明朗な女性であった。しかし綴られたその言は戦場を駆ける武将の如く。
     解放の言葉と共にヴァンパイアの魔力を宿した霧が展開されると、血赤色のそれに短く息を呑む音が耳朶をつくが、こちらに向かってくる柩をフォローするように、着物の裾をふわりと舞わせた泰孝の手に実体のない光の剣が握られていることに気付いた者からは感嘆の声が上がる。
     腕を後方へ引き、鏖殺領域を浴びて身をよろけさせた花子さんに向かい、空中を斬り裂くような一撃を叩き込む。大気すらも斬り付ける勢いで寄越されたその光の刃は、身を低くした柩越しに花子さんを大きく斬り付けた。
    「ギャッ!」
     短い悲鳴ののち廊下の上に転がりこむ花子さんは、しかし傷を負った肩口を押さえて起き上がると、こちらに背を向ける柩に向かって手を振り上げた。刹那、彼女が落とす影から黒いケセランパサランが大量発生し、襲い掛かったのだ。
     寸でのところで仲間と合流した柩は、くるりとその場で後方へ向き合い己の片腕を異形巨大化させると、空間が圧迫してしまうほど巨大な拳を持ち上げ、身にまとわりつく黒ケセランごと花子さんを叩き付けてみせた。
     校舎全体が軋んでいるのではないかと錯覚するほどの衝撃に、一人の女生徒が前方へ転倒しかけた。慌ててそれを受け止めた九十九は、花子さんの方をちらりと見やると、
    「姿を変える。怖がってもいいが……その、なんだ。できれば動くな。守り辛くなる」
     女生徒を立ち上がらせながら、そう言った。けれどその言葉の意味を彼女が解するより先にその事実は訪れた。生徒の目の前で、九十九の肉体がずるりと異形に変質していくのだ。
    「いま回復する」
     そうして振るわれたイエローサインは、黒ケセランに全身をガジガジされた前衛たちの傷口を癒していった。見る間に癒えていく傷ににこりと笑みを浮かべたミカエラは、その拳をぎゅうっと強く握りしめると、廊下の中央で歯を食いしばる花子さんを見据えて拳にオーラを集束させ始める。
    「七不思議とか都市伝説とか言うじゃない? まさか、ホントにいるとは思ってなかったでしょ~」
     頸だけで振り返り、ミカエラはそんな風ににこりと笑う。
     彼女は前に向き合うと、自分の周囲に浮遊させているデッキブラシを至近に居る敬厳目掛けて突き出そうと企む七不思議に突っ込んで行った。床を蹴って最速で花子さんの斜線に割り込んだ彼女の拳が、細い少女の胸部にのめり込む。
     骨が軋むような悲鳴を聞いた。
     きなこは黒ケセランの残滓に向かってペッペッと舌を出していたが、柩の傷がまだ深いことに気付くと、ちかりとそのリングを光らせて回復。したかと思えば何故か「すごいでしょ?」とばかりに生徒たちを横目にドヤ顔だ。その傍らで、喉の奥からしぼり出たような呻き声に目の色を変えた純也は回復過多と見て、滞空するサイキックエナジーの光輪を花子さんに向けて射出。
     と、その時。
     ピュン、ときなこの背後を何かが駆け抜けた。首の裏側の毛を逆なでされるような感覚に、ぱちくりと目を丸くするきなこがそろりと後方を向くと、生徒に覆い被さっているミカエラが居るではないか。
    「でもね、ホラ。殴られると、すっごく痛い~!」
     起き上がる彼女の背が濡れている。前方を振り返れば、血まみれの左手をこちらに突き出した格好の花子さんが居て、彼女の一撃がこちらにまで飛来したことを知る。
     ディフェンダーたちは生徒の前に立ちふさがり、追撃するように撃ち出されたその鉄砲水から身を挺して庇いに入っている。ならばと陽太がフリージングデスの魔法で攻撃を仕掛ければ、そこに泰孝の縛霊撃も加わって派手な『演出』が生徒たちを圧倒する。
     既に花子さんはぜいぜいと肩で息をしており、身が屈んでいる状態だ。けれどその黒々とした瞳にはまだ闘志がある。
    「そうら、よそ見してて良いのか?」
     ちかり、と瞬いたその光は等しく届いた。
     目が眩むようなオーラは廊下を一直線。花子さんに向かって飛来すると、薄い肉体に着弾。軽々と吹っ飛ばしてしまった。
    「これでも、ちと加減したんだがのう」
     解いた両手を振って、敬厳は小さく笑う。床に手を突いて起き上がろうとする花子さんはその姿を見て悔しそうに唇を噛んだ。
     再度黒ケセランを放出して無尽蔵に喰らい付くさんとするその攻撃に、ディフェンダーたちが真っ先に動いた。
     まず壱が赤い飾緒の軍刀を斜めに構え、黒ケセランを断ちながら生徒を背に庇い立てると、隙を突いたミカエラが縛霊撃で接近戦に持ち込んだので、レーヴァテインの炎の一撃で援護。破邪の聖剣に刻まれた祝福の言葉を風に変えて、傷付いた前衛たちに向けて解き放った純也の施しを受けた九十九は、それまで大きな体躯を壁として立ちふさがっていたが敵がのそりと起き上がり、こちらを酷く恐ろしい目付きで睨み付けるのを見て、その仕草が生徒に向けられていると知るや否やDCPキャノンにて死の光線を解き放った。
     その息つく暇もない連携プレーに、生徒たちは口が開いていることにも気付かず見入っている。この様子ならば、決着をつけても良いだろうか。柩と敬厳は目配せしあう。その背中を見たきなこは「ほぉら見て」と言わんばかりにくるんっと空中回転すると、きらきらと輝く猫魔法を撃ちだした。
     瞬間。柩と敬厳は、立ち上がった瞬間を狙ったかのように顔面で猫魔法を受け止めてしまった憐れな少女に飛びかかる。
     パンッと乾いた音が立った。それは陽太のガンナイフ『McMillan CMS5』が発した音だった。銃口から撃ち出された弾丸は、かろうじて膝を突いていた七不思議の脚を撃ち抜き、もう片方の足を影の刃が貫いている。それは敬厳の合図によってするりと夕闇に溶けると消えていく。
    「ひえっ……」
     身体を支えているはずの脚が感覚を失い、崩れていく。慌てて両手を突いて顔を上げる花子さんの視界いっぱいに飛び込んできたのは、死者の杖を思い切り振り被る柩の姿。彼女が振り上げた杖はパリパリと小気味よい音を立てる雷を引き起こしている。死を直感し、逃げようともがくが、足が言うことをきかず、ただ気持ちばかりが焦るだけ。
     ひゅるっ、と喉の奥から歪な音が漏れた――そうと分かっても、耳が裂けるような轟音を立ててそれは細い躯体を撃ち抜いた。

    ●調査終了
    「驚かせちゃってゴメンね。全部が全部、すぐ襲ってくるようなのでもないから、あまり怖がらないでいてくれると嬉しいな。今は、この世にこういうのがあるって知ってくれるだけで十分」
    「超常とそれを倒す者がいる、現状専門家しか撃退不可だ」
    「不可思議な事件を目撃したら、学園に連絡を」
     床に倒れ込んだ花子さんが闇に溶けるように塵と化したのを見た生徒たちの騒ぎようといったら、それはもうすごいものだった。どうどう、と両手で静止するポーズをしながら壱と柩がなだめ、クールに装いながらも一人一人丁寧に、知りたがる生徒に連絡先を渡している純也。その傍らでは、ちゃっかり女子生徒にたらいまわしで抱っこされているきなこが多いに気を良くして「にゃふふん」と笑んでいる。
    「さて、これで信じてもらえたかな?」
     どこか得意げに胸を張る陽太の周囲に集まるのは、美術部の生徒だった。恐らく彼が声を掛けた子たちなのだろう。そこに加わるのは、廊下をダッシュで駆け抜けてきた男子生徒たち。彼らはグラウンドの木から内部を見ており、何より彼が箒に乗って飛んでいくのを間近に見ていたのだ。
     灼滅者たちの周りには、それぞれが勧誘した生徒たちが寄り添っている様子。
    「あたいたち、超常現象と戦う異能者軍団なんだ~! 今は、武蔵坂学園ってトコに集ってるよ。サポーターになって応援してくれると助かるなぁ」
     赤茶色のポニーテールを揺らしてそんな風にアピールするミカエラの元に一人の生徒が駆け寄った。不安げな表情を浮かべている男子生徒は、戦闘中彼女が庇った生徒だ。
    「ん、だいじょぶ。安心して。あたいたち、プロフェッショナルだからね! あのくらいの、相手になら、楽勝だよっ!!」
     ぐ、と親指を立てて「何かあったら連絡してね」とメアドを持たされ、そこで初めて彼は安堵したようだった。
    「その、なんだ。基本的には俺の姿のような化物を見たら、逃げる事を推奨する。大体は、脅威だ」
    「でもお兄さんみたいに助けてくれる人もいるんだよね?」
     そう問うたのは、九十九が庇った女生徒だった。至近で彼の勇士を見たからだろうか、彼女は決して九十九を「化け物」だとは言わなかった。もし、もしここで石でも投げつけられていたとしても彼はきっと特に思うことは無かっただろう。その表情が変わることすらなかっただろう。
    「そう……だな」
     九十九は小さく、そう答えた。
    「先の怪異は極一部。防ぎ守りし手を持つも限られた者のみ。されど知る事により親しき者を危機より遠ざけ、身を守る事も叶おうぞ」
    「おにーさん、もっと分かりやすくーー!」
    「うぐっ……」
    「あっれー、おにいさん包帯の下めっちゃイケメンじゃん!」
     女子生徒に妙にいじられている泰孝を見て敬厳はくすりと笑みを零した。この超常の力――サイキックが彼らの目にどのように映ったのか。今後どういった影響が出るのか。それは少しばかり不安もあったけれど、この藹々とした姿に期待を持ってもよいのではないだろうか。彼女は小さく、優しげに吐息を漏らした。

    作者:四季乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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