民間活動~どうせ、僕なんか

    作者:草薙戒音

     とある街のとある高校。その廊下を部活終わりの少女二人、歩いていた。
    「あーあ、もう外暗くなってるし」
    「夏ならまだまだ明るいのにねー」
     学校のグラウンドは夜間照明がつき、運動部の生徒たちが帰り支度を始めている。
    「そういえばさ、こんな話知ってる?」
    「話って?」
    「この廊下の端に、空き教室あるじゃない?」
     声の主の視線の先には、『3-G』と書かれた室名札が下がっていた。そこは生徒が多かった頃には文字通り三年生の教室として使われていたらしいが、少子化等々の理由により生徒数が減り随分前に空き教室になったまま実質放置されている教室だった。
    「夕暮れ……っていうか、夕闇? こう、夕方とも夜ともいえないような時間にあそこの教室に入ると青白い顔した幽霊が出るんだって」
    「え……」
    「私たちと同じくらいの年に見えて、学ラン着てて……ブツブツ何か呟いてるんだけど、ソレを聞くと生きてるのが嫌になって死んじゃうとかなんとか」
     話を聞いていたもう一人の少女の顔が思わず引きつる。
    「え、それって丁度今ぐらいの時間ってことじゃん」
     それを聞いた少女がにぱ、と悪戯めいた笑みを浮かべる。
    「そうだねー。ちょっと覗いてみようか」
     すたすたと件の教室目指して歩き始める少女を、もう一人が追いかける。
    「ちょ、ま、やばいって!!」
    「大丈夫だよ、どうせただの噂だもん――」

    「今回はサイキック・リベレイターを使わず民間活動を行うことになった」
     集まった灼滅者を前に一之瀬・巽(大学生エクスブレイン・dn0038)が話し始めた。
     サイキック・リベレイターを使用しなかったことでエクスブレインによる予知が可能になり、その結果いくつかの敵勢力の活動が明るみに出た。
     巽が予知したのはタタリガミ達が推し進めていた「学校の七不思議の都市伝説化」の活動の一つ。エクスブレインに予知されないことを利用して、彼らはかなりの数の七不思議を生み出していたらしい。
    「学校というのはある種の閉鎖社会だ。そこで語られる七不思議は予知以外の方法で察知するのが難しい……だから、可能な限りの予知をして虱潰しに片付けていくことになる。どうか皆もそれに協力して欲しい」
     灼滅者達を一度見回すと、巽は具体的な事件の説明に入った。
    「とある高校に『夕方、太陽が沈んであたりが暗くなった頃に3-Gの教室に行くと青白い顔の学ランを着た幽霊が出る』という七不思議がある」
     陰気な雰囲気を放つ青年はブツブツと非常にネガティブな言葉をひたすら呟いており、それを聞くとひどく気分が滅入り自ら命を絶とうとするようになる……。
    「皆にはこの七不思議の灼滅に向かってもらいたい。できれば、多くの目撃者がいる状態で」
     七不思議と灼滅者の戦いを一般人にあえて見せる。そうすることで、少しでも多くの一般人に灼滅者達の活動やその意味をわかってもらう。
    「勿論、一般人の安全が最優先だけれど……皆も強くなった、周りに一般人がいても彼らを守って七不思議を灼滅することは十分可能だ」
     七不思議である『学ランの生徒』は今は空き教室となった『3-G』の教室の片隅に立っている。
    「暗い影のようになった手で相手に触れたり、自ら生み出した影で相手を覆ったりするのが攻撃方法らしい」
     どちらも相手のトラウマを呼び起こすものであるようだ。
    「正直、あまり強くないから灼滅するだけなら簡単だと思う」
     だからこそ、一般人に事件を目撃させるチャンスでもある。
    「できるだけ多くの一般人の前で、犠牲や被害を出すことなく七不思議を灼滅するのがベストだ」
     幸か不幸か今の時期は日の入りも早く、七不思議が現れる時間になっても部活動を行っている生徒がそれなりに残っている。やりようによっては多くの生徒を集められるだろう。
    「一般人の前で戦う場合の一番の注意事項としては、『七不思議の呟きを聞くと気分が滅入って死にたくなる』ってところかな。物理的な方法で聞こえなくするのは無理だし、灼滅者なら無視できても一般人はそうもいかないだろうし」
     いきなり飛び降りを計ったりする生徒がいるかもしれない。
     一般人に被害が及んでも『事件を目撃させる』という目的は達成できるだろうが、やはりそれでは後味が悪い。
     対抗する手段はある。
    「『自分は使えない、もうダメだ』とか『どうせ自分なんていなくてもいいんだ』とかそういう滅入り方だから、それを慰めるなり励ますなりし続ければいい」
     ちなみに七不思議のネガティブさを寄せ付けない勢いの暑苦しいくらいの励ましとかだと、なお効果的……らしい。
    「万が一生徒が行動を起こしても止められるように、彼らを守ることに専念する人がいてもいいかもしれないね」
     おそらくそれでも灼滅は可能だろう、と巽は続けた。
    「一般人に事件を目撃させるのだから、今までとは違う意味で大変だと思う」
     どうやって人を集めるか、どうやって守るか。考えなければならないことは少なくない。
     事件を目撃した人達にどんな指示をしてどんな説明をするのか。
     あるいは今後どんな行動を取ってほしいのか。
     彼らに何をどう語るのかも、重要になってくる。
    「当然だけど、皆と学校の生徒は初対面だから……信用されやすい演技や演出は必要かもな」
     異能を操り七不思議を倒した謎の人物――高校生の彼らが無条件に信じるかと言われれば、少し難しいかもしれない。
    「ともあれ、第一の目的は七不思議の灼滅だ。それを踏まえたうえでどう行動するかよく考えて欲しい」


    参加者
    穂照・海(暗黒幻想文学大全・d03981)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    異叢・流人(白烏・d13451)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    神原・燐(冥天・d18065)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    楯無・聖羅(冷厳たる魔刃・d33961)
    四軒家・綴(二十四時間ヘルメット系一般人・d37571)

    ■リプレイ


    「急げ急げ急げ……!」
     とある高校の敷地内を、四軒家・綴(二十四時間ヘルメット系一般人・d37571)を乗せたライドキャリバー『マシンコスリー』が爆走する。
     校内に突入した綴は職員室と書かれた部屋を見つけると、その扉を勢いよく開け放った。
    「3-G教室がヤバいんです! すぐに言って下さい!」
     一瞬の間の後、女性教員が声を上げる。
    「なんですか貴方は!」
    「せ、説明は後で! とにかく3-Gですよ! 俺は他の先生を呼びますから!」
    「不審者だ、追いかけろ!」
     慌てる教員の声――どうやら3-G云々よりも綴自身が問題になってしまったらしい。
    (「このまま3-G近くまで行って隠れていよう」)
     方針を変更し、綴はマシンコスリーを走らせる。
     綴とは対照的に、穂照・海(暗黒幻想文学大全・d03981)は旅人の外套の使い校内にこっそりと侵入した。
     あちこち歩き回り今回の七不思議の内容を書いたカードをそこかしこに置き、時には旅人の外套を外してわざと姿を晒してみる。
    「あれ? 今そこに誰かいなかった?」
    「誰もいないよー?」
    「ちょっと待って、こんなとこにこんなのあったっけ?」
     再び旅人の外套を使った海が視線を移せば、そこにはカードを手にする男子生徒の姿が。
    「なんだこれ、『3-Gの教室』?」
    「そういえば、変な人が『3-Gの教室がヤバい』って騒いでたね」
     不意に聞こえてきた声に、その場にいた生徒達が振り返る。
     そこにはプラチナチケットを使った志賀野・友衛と石宮・勇司が立っていた。
    「なんか気になるんだよな……ちょっと行ってみないか?」

     校内で『バイクの暴走騒ぎ』が起こる少し前には、下校途中の生徒に声をかける不振な人影が確認されていた。
    「ねえ、これあげる」
     差し出されるのは千円札二枚。
    「後で指示する教室に行ったら、もう二万円あげる」
     言葉の主は、変装をした山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)。しかし、声をかけられた生徒の反応は芳しくなかった。
    「え……いいよ、いらない」
     などと反応してくれるのはいいほうで。
    「ねえ、あっちから行こうよ」
     と、あからさまに避けられることも。
     お金に目が眩んだ生徒を集めることができればと思ったのだが、そうそう簡単には釣られてくれないらしい。
     まあ、他の仲間も目撃者集めに奔走している。それに、お金を受け取らなくとも興味を持ってくれる生徒はいるかもしれない。
     気を取り直すように小さく頭を振り、透流は生徒への声掛けを続けた。

     同じ高校の裏門――閉じた門扉を軽々と乗り越えて、異叢・流人(白烏・d13451)は校舎へと歩を進める。
    「3-Gの教室は何処だろうか?」
     途中、生徒とすれ違うたびにそう問いかけながら。
    「危険な存在がいると聞いたのでソレを退治するために向かいたいのだが」
     不審そうな顔や怪訝そうな顔をする生徒、中には可哀想なものを見るような目をする者も。
     一般常識で考えれば「それなんて中二病」と言われるような発言ではあるので、ある意味仕方がない。
     行く先々で同じ問いを重ねれば、遠巻きに様子を窺う生徒の数も増えくる。頃合を見計らい、流人は突然駆け出した。
     呆気にとられる生徒たちを尻目に、あっという間にその場から姿を消す。
    「なんだったんだ、あれ」
    「ちょっと、危ない人?」
     ざわめく生徒達の前に、今度は幼い少女が現れた。
    「3-Gの教室に行きたいのですが、どちらに行けば良いでしょう?」
     礼儀正しく尋ねる少女の名は、神原・燐(冥天・d18065)。七不思議の噂を確かめると言って出て行った兄を追いかけてきたのだという彼女に、一部の生徒が同情的な視線を送る。
    「お兄ちゃん探しにきたんだ、偉いねー。いいよ、連れて行ってあげる」
     年齢以上に幼く見える燐の容姿もあってか、数人の女子生徒が名乗りを上げた。可愛いは正義である。

     一方、正門側でもちょっとした騒ぎが起こっていた。
     学校の関係者、というわけでもないのに堂々と正門をくぐる二人の男女――居木・久良(ロケットハート・d18214)と楯無・聖羅(冷厳たる魔刃・d33961)。
     二人もまた校内を歩きながら出会った生徒に「3-Gの教室はどこか」と尋ねていく。
    「あそこには危険なものが出るから倒しに行くんだ」
     警戒心を抱く生徒にラブフェロモンを発動した久良がにっこりと微笑みかける。
    「君たちも危険だから気を付けて」
    「はい、えっと……貴方も気をつけてください」
     ほわんとした表情で答える生徒に、久良が笑顔を返す。
     黒猫の着ぐるみが姿を現したのは、二人が正門を後にした数分後のことだった。
    「なんだあれ」
    「え、なんかのゆるキャラ?」
     生徒の反応は様々だったが、その着ぐるみが校内へ侵入してくるとプチパニックが発生。
    「こっちきた!」
    「変な人がいるー!」
     駆けつけてくる大人の影――それに気付いた着ぐるみ、文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が逃走を開始する。
    「違うんだ! 怪しいものじゃない!! 都市伝説の調査に来たんだー!!!」
     大声で叫ぶ直哉が追跡者を引き連れながら向かうは、やはり3-Gの教室。
    「なあ、なんかそこら中で騒ぎになってるが3-Gの教室で何かあるらしいぜ」
     一般生徒の中に紛れ込んだ鈍・脇差が、やはり一般生徒に紛れ込んでいたミリヤ・カルフ(高校生ダンピール・dn0152)に声を掛ける。
    「……何があるんでしょう? ちょっと怖いけど、行ってみたい気もします」
     彼女の言葉に頷いて、脇差が周囲の生徒にも誘いをかける。
    「百聞は一見に如かずって言うしな、俺達も行ってみようぜ」

     校内で騒ぎを起こした不審者や謎の人物は、ほぼ同じ時間に『3-G』の教室へと集った。
     まず最初に教室に入ったのは海。続いて久良と聖羅の二人が、さらには流人が。少し遅れて騒ぎを聞きつけた生徒たちと、燐を連れた女子高生が。
     その直後、黒猫の着ぐるみと銀髪の少女が飛び込んでくる。彼らはそれぞれ追跡者……教員数名と、怖いもの見たさの生徒達を引き連れていた。
     当然、生徒達の中には脇差や勇司、友衛らも紛れ込んでいる。
     最後にバァン! と派手な音を立てて現れたのは、フルフェイスのヘルメットを被った男――白い戦闘スーツに身を包んだ綴。
    「遅れて参上! 大丈夫かッ!?」
    「また不審者が!」
    「危ないから早く……」
     集まった生徒に避難を促そうとした男性教員の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
    『ドウセ僕ナンカ……』
     ボソボソとした呟き。何故かはっきりと聞こえてくる自虐の言葉。その声の主に視線を向けた教員の目が驚きに見開かれる。
    「ひっ」
     誰かが小さな悲鳴を上げた。
     噂でしかないはずの『学ランの生徒』がそこにいた。


    「どうして、生徒さんたちが……! まさか、ダークネスさんが犠牲者を増やすためになんらかの方法でこの教室に人を集めたの……!?」
     透流が自分を追いかけていた生徒以外が存在していた事実に殊更驚いたような素振りを見せる。
    「危ないから下がって」
     スタイリッシュモードを決めた流人が素早く学ランの生徒の死角に回り込み、振るった刃で足の腱を切りつける。
    「皆には手出しさせない!」
     やはりスタイリッシュモードのまま駆け出す直哉。
    「着ぐるみダイナミック!」
     いきなり学ランの体を抱え上げ、豪快に床に叩きつける。盛大に起こる爆発に、生徒たちの悲鳴とも歓声ともつかない声が上がった。
    『僕ナンテ、イナイホウガイインダ』
    「なんだよ、アレ」
    「っていうか、俺らいないほうがいいんじゃね?」
    「そうよね、私なんかいないほうが……」
     生徒の間でヒソヒソと交わされる会話。「戦いの邪魔だから他所に」という意味だけならいいのだが、彼らの声は異常に暗く、重い。
    (「民間人に敵の姿を晒せ、だが民間人を危険に晒すな……案の定厄介な問題に突き当たってしまったな」)
     七不思議の影響を受け始めた生徒たちに、聖羅は僅かに眉を顰めた。
    「自分を否定していても何も変わらんぞ?」
     『天上天下唯我独尊』と刻印され刃を振るいながら、彼女は声を張り上げる。
    「前を向くのが怖いから逃げているだけなんだろう?」
     七不思議に向けてとも、生徒に向けてとも取れる言葉を並べる聖羅の脇をすり抜けて、久良が学ランの生徒に迫る。真っ直ぐな目で、決して絶望する必要はないのだと笑みを浮かべて。
    (「いつでも前を向いて生きていく。誰かの笑顔を守るために、笑顔で命を懸けて人を救う」)
     ――そう、決めたから。
     炎を纏った彼の鋭い蹴りが、学ランの生徒の脇に食い込む。
    『ソウダ、イナクテモイインダ』
    「太宰治に百回謝れ」
     有名な文豪の名を挙げ、七不思議を非難する海。暗い目をする生徒に、彼は強い口調でいい切った。
    「あいつの言う事は間違っている」
     価値があるから生きるのではない、生きることにこそ価値がある。
    「自殺ってのはそんなに簡単にするものじゃないよ……」
     ぼそっと呟いた言葉は心からの本心だった。
    「私なんて何やってもダメだし、使えないし」
    「そんな悲しいこと言わないでください」
     今にも自傷しそうな女子生徒に、燐が懸命に訴える。
    「あなたが生きてきた時間がある以上、使えないなんて事はありません」
    「確かに世間というのはどうにもならないな」
     言いながら、綴は大きな機械鋏で七不思議の腕を斬り裂く。傷口から鉄錆が広がり、青白い顔が一層狂気に歪む。
    「だがそれでも、暗い夜に惑いながら、怯えながら、俺達は明日を目指すッ!」
    『明日ナンテ』
     学ランの生徒が暗い影を伸ばす。
    「させない!」
     自身の身長ほどもある得物をぐるりと回転し、トラウマを刺激する影を粉砕する透流。その拳に雷に変換した闘気を宿すと、お返しとばかりに学ランの生徒の顎に思い切りアッパーカットをお見舞いする。
    『ヤッパリイラナ……』
    「着ぐるみキック!」
     着ぐるみの大きな足の裏が七不思議の顔面を直撃した。
    「無くしていい命なんて一つもない。辛さも悲しさも、積み上げてきたことは決して無駄になんかならない」
     直哉が吼える。
    「君が君であるという誇りを胸にその手で未来を切り開け!」
     続けざまに流人も七不思議へと肉薄、死角に回り込むようにしてその身に刃をつきたてる。
    「奴の戯言を真に受けるな。要らない存在等最初から存在しない。現に、君達は今生きている。必要とする存在が居るからだ」
    「順風満帆の人生を余裕で生きるよりも、悩みながら生きる方が尊い。悩んだっていい! 苦しんでいい!」
     海が声を張り上げた直後、赤い逆十字が七不思議の体を切り裂いた。
    「絶望が深いほど希望は見つかる。俺にとっては君達も希望の一つだ」
     赤い文様が刻まれたロケットハンマーを、久良が渾身の力をこめて振り抜く。ロケット噴射の勢いもあってか、学ランの生徒の体がくの字に曲がった。
     走りこんできた透流が学ランの生徒を掴み上げ思い切り投げ飛ばす。
     危ない角度で床に落ちた学ランの生徒に綴のオーラキャノンが炸裂。さらに聖羅の居合斬りが胴を真っ二つにすると、学ランの生徒の呟きがピタリと止まった。
     そのまま溶けるように色を薄くし、消えていく七不思議。
    「絶望を希望に変える、それが俺達灼滅者だ!」


     3-Gの教室に静寂が戻る。目の前で起こった事態についていけないのか、あるいは七不思議の毒気が抜け切っていないのか、生徒も教員も口を開こうとしなかった。
     その様子に、燐は少々不安げに流人を見上げる。燐の緊張を感じ取ってか、ナノナノの『惨禍』も主の腕の中でそわそわと落ち着かない。
     流人は燐を安心させるように笑いかけると、その場にいる一般人に向けて語りかける。
    「君達は要らない存在なんかではない。少なくとも戦いの中で生きる俺とは違い、日常の中を過ごしてくれる君達の存在は俺にとって支えとなっている。だから、もっと自信もって日常を謳歌し、生きて欲しい」
     改めてそう言うと、漸く教員の一人が反応した。
    「……戦い? 君達はこんなことをいつもしているのか」
     その問いに、海は首を縦に振ってみせる。
    「あいつは世界の裏側から人類を支配する者、ダークネスの尖兵だ。そして僕達はそれを狩るもの……武蔵坂学園の灼滅者」
     海の言葉を補足するように、流人が続ける。
    「人知れず人に危害を加える人外、それがダークネスだ」
    「そしてダークネスやさっきみたいなダークネスの尖兵から人々を守るために戦うのが、俺達灼滅者」
     ちょっと格好をつけながら直哉が言い、燐がぺこりと頭を下げる。
    「初めまして。わたしは神原燐と言います。この子はナノナノと言う愛を信じる心が具現化した存在で、名は惨禍と言います」
     燐の胸元で惨禍がぱたぱたと羽を動かす。一部の女子生徒から「かわいい」と声が上がった。
    「オレ達は密かに普通の人を守ってきた」
     生徒と教員を見回し、久良が告げる。
    「でもこれからは協力していきたい。だから姿を現したんだ」
     真摯な目でそう訴えれらえて、戸惑いながらもその言葉に耳を傾ける教員と生徒達。
     灼滅者達は語る――ダークネスの脅威、それらとの戦い。そしてそれが情報として伝わらない理由。
    「あなたたちが見たのは、一部のダークネスが生み出した『学校の七不思議』という都市伝説」
     透流が簡単に説明する。
    「俺達はこの脅威に対して迅速に対応したいのだが、情報に限りがある」
     ――だから、協力して欲しい。
     流人の言葉に、他の灼滅者が頷く。
    「あんなのが他にもいるのかよ……」
     幾人かの生徒の顔色が悪くなり、それに気付いた燐があわあわと視線を彷徨わせる。そこに、ビシィ! と謎のポーズを決めた綴がスライドイン。
    「心配無用ッ! 俺達がいるッ!」
    「うん、そうだね。……本当に、居てくれてありがとう」
     前半は綴に、後半は生徒達に向けて――人好きのする笑顔で言う久良。
     毒気を抜かれたようにポカンとする生徒をよそに、海は教員の一人に武蔵坂学園の連絡先を渡した。
    「何かあったら連絡を」
    「事件の兆候があれば知らせて欲しい」
     海に続き礼儀正しく頭を下げる着ぐるみに、教員がなんともいえない顔をする。
    「そうそうキミ達、死にたくなったら文学を読め!」
     文学青年らしい海の励ましは、果たして生徒達に伝わったのかどうか。

    「……とりあえず、お話はわかりました」
     暫くの間の後、口を開いたのは初老の女性教員だった。
    「今日もその、『人を救う活動』の一環だったと」
     そこまで言うと、女性教員ははあ、と大きなため息をつく。
    「助けていただいたことは感謝します。ですが、だからといって」
     校内を闊歩する明らかな不審人物が複数。いくらバベルの鎖があると言っても今現在、学校中は大騒ぎの真っ最中だ。
    「こういう騒ぎは困ります」

    「「――ごめんなさい」」

     女性教員の言葉に、灼滅者が謝ったとか謝らなかったとか――。

    作者:草薙戒音 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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