バレンタインデーにチョコレートを挟んで見つめ合ったカップルを爆破する都市伝説がいる。
この学校にもそんな噂はあるが、そんなものが現実にいるわけがない。
いたとしても青春を、この高鳴る胸の痛みを、誰が止められようものか。
早朝の校舎内、まばらに登校してくる学生たちを横目で見ながら、キヨハルは待ち合わせ場所に指定された体育館倉庫へ向かっていた。
「キヨハル、そんなに急いでどこ行くんだー!」
聞きなれた声に呼び止められて踵を返した。友達だ。
「……ちょっと、な」
などと澄まして答えるも、浮足立っているのはばれていた。友達はニヤニヤと笑みを浮かべたが、ふと神妙になり。
「まぁ、気持ちはわからんでもないけど、七不思議には注意しとけよ」
「あの『バレンタインデーにチョコレートを挟んで見つめ合ったカップルを爆破する都市伝説』だろ? そんなのいるわけないだろ」
キヨハルは、ははっと笑って見せるが、再び体育館裏に向かう足は思いのほか重い。
七不思議とか都市伝説とか、そういう類のものは、いるはずがない。
だけど、この体が拒否している。
でも、カナが待ってるし……。
チョコレートを挟まなければ、大丈夫だよな……。
恋心と恐怖心のはざまで思春期の男心は、揺れていた。
「まさか、リア充爆破系の都市伝説が学校の七不思議のひとつとしで出てくるとは……」
額に手を当てため息をついたのはニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)。
「キミが教えてくれたからピンポイントで探し当てられたんだ。調査に尽力いただいて感謝しているぞ、ニコ・ベルクシュタイン」
浅間・千星(星詠みエクスブレイン・dn0233)は彼に礼を告げ、向かい直った先の灼滅者にも小さく頭を下げた。
「サイキック・リベレイター投票により、民間活動を行っていることはもう皆も知っていると思う」
そして、サイキック・リベレイターを使用しなかった事によりエクスブレインの予知が行えるようになった。これによりタタリガミ勢力の活動が明るみに出た格好だ。
「タタリガミ達は、わたしたちエクスブレインに予知されない事を利用して学校の七不思議の都市伝説化を推し進めていたようだ」
閉鎖社会である学校内でのみ語られる学校の七不思議を予知以外の方法で察知する事が難しい。そのためかなりの数の七不思議が生み出されてしまっている状態であるという。
「この七不思議については可能な限り予知を行い、虱潰しに撃破していく事になる。なので灼滅者の皆の力を貸してほしい」
よろしく頼むと千星は小さく頭を下げた。
今回の相手は『バレンタインデーにチョコレートを真ん中にして見つめ合ったリア充を爆破しちゃう非モテ男子型七不思議系都市伝説』。
「誘き出し方法は名前の通りそのまんま。焼き菓子に見立てた炎のグーパンを食らわせたり、高温度に湯煎されたチョコレートっぽいものをぶっかけてきたり、熱々の焼きマシュマロのようなものを大量発射してくる。いずれもすごい炎らしい」
千星の言うすごい炎は威力ではなく、たぶん怨念めいた何か。
しっとの炎というやつだ。
「標的の能力は了解した。だが問題は戦闘前だろうか。リア充爆破系の都市伝説は今までは事前に人払いをした後に誘き出して撃破が定石ではあったが……」
むむっと眉間に皺をよせたニコ。
「今回は義務ではないが、皆の活躍を学生や通りがかりの人に見てもらうという目的もあるからな。そこも少し考えてもらわねばなるまいな」
と千星も腕を組み難しい顔。
「まぁ、そこは皆に任せよう。キヨハルがカナとチョコレート越しに見つめ合って『ホシ』が出てきたところをやってもいいし、彼らより前に皆がチョコレートを挟んで見つめ合ってもいい」
もちろん、ほかに皆が選び取った案があるなら、その案をもとに最良に向かうための作戦を練るのもいいだろう。
「敵は強敵とは言えないが、一般人にとって皆は『不思議な力で七不思議を倒した人達』という扱いになる。初めて会う一般人に信用されて話を聞いてもらうには、信用されやすい演技や演出が重要かもしれないな」
そう告げる千星、いつものように胸にとんと拳を当てて自信に満ちた笑みを見せた。
「皆の胸に輝く星の元、皆の考える最善を尽くしてほしい。よろしく頼むぞ」
参加者 | |
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影道・惡人(シャドウアクト・d00898) |
アンカー・バールフリット(シュテルンリープハーバー・d01153) |
神凪・陽和(天照・d02848) |
神凪・朔夜(月読・d02935) |
ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078) |
ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125) |
秋山・梨乃(理系女子・d33017) |
水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910) |
●
体育館裏に体育館倉庫はあった。
体育館内で行われている運動部の朝練の音や、倉庫裏の道を行く人々の声が響く。
両の扉は閉ざされ倉庫裏の道路からも見えない位置のため、ここに少女がいることは呼び出された少年と、旅人の外套や闇纏いで一般人から姿を隠す灼滅者たちのみぞ知る。
小さな紙袋を手にした少女――カナは落ち着かない様子で、コンクリート敷きの地面を小さく蹴りながら、行ったり来たり。
今か今かと待ちわびて染まる頬。はぁ、と吐いた息が白くけぶる。
この時点ではまだリア充ビッグバンではないとは、水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)の弁。
そんなカナを自分の彼女と重ねてぐぬぬと軽く歯を軋ませたのは、アンカー・バールフリット(シュテルンリープハーバー・d01153)。
初詣や温泉などの正月の催しはガイオウガの尾に付き合い、バレンタインデーは七不思議討伐。年末年始から、彼女とのイベントをことごとくぶっ潰されていた。
(「どこまでも私たちの邪魔をするつもりか。おのれダークネス!」)
そんなアンカーの隣では影道・惡人(シャドウアクト・d00898)が、隣の奴も目も前の彼女もお熱いねぇなどとひっそりと思いながら主役のご登場を待つ。
「……ごめん、待った?」
跳ねる息を抑えながら現れたキヨハル。真っ直ぐ彼女を見ることができず、目線は低く彼女の上履きと紺のハイソックスの足元あたり。
彼女と七不思議の狭間を彷徨っていた男は、彼女を選び取ったのだ。
あぁ、彼は来たのかと内心ほっとしつつ、ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)には思うところがあった。
「ああ俺も遂に爆破される人間になったのだな……」
小さなつぶやきは隣のミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)にしか聞こえていない。
「ミカエラよ、仮初とはいえ今回はよろしく頼む」
と、小さく礼を。
返事の代わりに笑んだツインテールのミカエラ。雰囲気作りにと彼女の微かな鼻歌は、体育館から響く音で掻き消されてしまっているけど、これはこれで。
男がもじくさもじくさすればするほど、こういう時の女の子は大胆だ。
「ううん、待ってないよ」
カナはキヨハルの元まで駆けていくと、後ろ手に紙袋をスタンバイさせた。
「呼び出しちゃってごめんね。キヨハル、これ受け取ってくれる?」
とキヨハルの前に差し出された紙袋は、レースが白抜きにプリントされたピンク色。これは明らかに、本命チョコなのであろう。
キヨハルはその紙袋を見、そしてカナの目を見た。
黒目がちの瞳は、期待と不安に潤んでいる。
この時点でキヨハルの頭の中からは、あの都市伝説の話は消え失せていた。
もう、七不思議とかいないし、俺もカナのこと好きだし。
無意識のうちに上がった指先は、彼女の冷たい指先にツンと当たった。
――アオハルかよ。
見守っている灼滅者は誰もがそう思った、その時――。
ゆらりと揺らめく紫色の炎。
「……見つめたな? そこのお前ら、チョコレートを挟んで見つめ合ったな?」
炎はやがて人の姿へと変わる。
バレンタインデーにチョコレートを挟んで見つめ合ったカップルを爆破する都市伝説――非モテ男子だ。
都市伝説の登場に息を呑んだキヨハルとカナ。
「……! キヨハル……」
「……カナ、下がって……!」
カナを自分の後ろに隠し、非モテ男子と対峙し始めたキヨハル。都市伝説に対抗する武器もなければ力もない。だけど、一瞬でも心を通わせ合った彼女だけは護るんだ。
どこからともなく翼をもった猫が現れ、二人と非モテ男子との間に割って入ると、草むらの影から颯爽と誰かが飛び出してきた。
男子制服に身を包んだ秋山・梨乃(理系女子・d33017)だ。服装とポニーテールが相まって中性的な雰囲気を醸し出している。
彼女の片手にはシンプルな小さめの紙袋。もう片方の手は、あきらかでかい女子生徒の手が握られていた。
梨乃は非モテ男子の目が自分に向いていることを確認すると、立ち止まり踵を返す。そして、連れ立っていた女子生徒――千曲・花近(信濃の花唄い・dn0217)を見上げた。
「千曲先輩、逆チョコだ。受け取って欲しい」
ずいっと差し出される紙袋。ロングヘアを初春の風に揺らした花近は、
「ありがとう、秋山くん」
裏声を駆使しつつ、ふわりと笑んで紙袋に手を掛けた。
「え、見つめあっちゃうの!? ……俺が出てきてるのわかっててそういうことするの!?」
ツッコむところそこか? と誰もが思わず突っ込みたくなったが、それは後だ。
思いもよらないタイミングで思いもよらないシーンに鉢合わせ、呆気に取られていたキヨハルとカナ。突然現れたカップルと非モテ男子を交互に見て戸惑っていたが。
「お取り込み中失礼。あれは件の都市伝説だ。私たちが相手をするので彼女を連れて走れ、少年」
アンカーが指差す先は、体育館のでは入り口。丁度、清美が扉を開けて二人を手招きしている。
「こういう時は流れに任せたまえよ。ビッグバンされてしまう前に、早く」
紗夜が二人の背に手をそえて、そっと押し出した。
押し出され転がるように入ってきた二人を受け止めたのは、ポンパドール。
「アイツ、マジでやべーから。そっちの女の子のコト、しっかりまもったげて!」
と、キヨハルに告げ、
「出たよ都市伝説! チョコのやべーヤツ! とりあえずこのふたりかくまったげて!」
体育館内の生徒の好奇心を掻き立てつつ、二人を体育館の奥に進ませた。
そして、流れ弾対策にと清美と隅也とともに武装を整える。
一方。
旅人の外套を外した神凪・陽和(天照・d02848)と神凪・朔夜(月読・d02935)は息を合わせて非モテ男子の前に躍り出ると、いつもどうりの仲の良い様子を見せる。
「朔夜、これ、もちろん受け取ってくれるよね」
と差し出したチョコは、姉チョコ。だが、そんなことは露とも知らない非モテ男子にとって、それは本命チョコだ。
「おおお、俺の目の前で何してるんだ!!」
叫ぶ非モテ男子。だが、この二人を止められるものなどいないの等しい。
「ありがとう、陽和」
陽和の差し出した箱に手をかけて彼女の頬にキスを落とした朔夜。
「ギャーー!!」
刺激手になシーンを見せつけられて思わず顔を抑えてしまうウブな非モテ男子。おい、爆破作業はどうした。
「なにあの人。さっきから挙動が不審なんだけど……」
もうすでにニコにチョコの箱を手渡した後。何か危ないものでも見るかのようなミカエラの視線は非モテ男子を貫いていた。
「あぁいう輩は放っておけば良い。で、勿論このチョコは、今食べさせてくれるのだろうな」
あ、今さらりと非モテ男子を捨て置いた。
そして何食わぬ顔をしてチョコの箱を開け放とうとした。
「ギャーーーーーー!!」
顔を覆って叫んだ非モテ男子。その叫びと共にドッカンドッカンと爆破が起き、リア充を装った6人が爆発に巻き込まれた。
●
体育館倉庫裏の生活道路では、女子生徒姿の未知が爆破に驚く一般人に混じっていた。
「あの噂のバレンタインの都市伝説がガチで出たって! 見に行かない?」
行き交う学生を中心に声を掛けて回るその上空から落ちてくるのは、キラキラ流れ星ならぬ、キラキラ流れウニの丹。
そのままの速度で落ちてきたらこの近辺にクレーターを作りかねないところだったが、そこはしっかり考えている。着地時の衝撃は砂埃が舞い上がる程度に抑え着地。
なんだなんだと集まった一般人の注目をウニウニっとした動作で非モテ男子に集めつつ、武装して護衛についた。
体育館裏が辛うじて見える4階の教室では、爆発のその瞬間に良太が現場を指差す。
「外で騒ぎが起きてますね」
その下の階では登が窓から身を乗り出して、
「みんな、大変なことが起きてるよ!!」
と登が学生たちを窓際に集めた。
「見てください、体育館の裏ですね」
2階からは爆発のみが見えたが、ジェフが外を見るように促す。
行ってみようかと教室を飛び出した学生の身の安全は現地の仲間が何とかするであろう。3人は流れ弾が来ないように警戒を開始する。
●
続々と集まってくるギャラリー。
「危ないから近くには寄らないでくれよ」
と、紗夜。
「な、なんでお前ら、爆破されても死なねぇんだよ!!」
ゼェゼェと荒い息遣いで、非モテ男子は爆破してやった6人を見回し叫ぶ。今までのバレンタインデーでは、気に入らないカップルは片っ端から全員空の彼方にすっ飛ばして亡き者にしてくれていたのに……!
だが、目の前の人間は爆破の影響で空を飛んだとしても、綺麗に着地し、あまつさえ武装して見せている。
「闇に生まれ、闇に生き、闇を切り裂く……てな。ま、そんなヒーロー参上さ」
粋な口上を引っ提げて惡人が啖呵を斬れば、爆破された灼滅者たちも炎を払い。
「おぅヤローども、殺っちまえ」
「ヒーロー? ざけんな! 高校生にそんな子供だましが効くかよバーカ!!」
と、非モテ男子が取り出したのは何の変哲もない筒。しかしその筒から飛び出してきたのは、紫色の炎を纏った無数のマシュマロ。
ふわふわでも当たれば地味に痛い。狙撃手と癒し手がマシュマロ弾の餌食となる。
「朔夜、大丈夫? 頑張ろうね」
マシュマロ攻撃の的になった朔夜のちょっと赤い頬にチュッとキスをして。陽和がコンクリート敷きの地面を蹴れば、
「大丈夫だよ、頑張ろう。陽和」
双蛇が咥える宝珠を黄色く輝かせて狙撃手と癒し手の傷を癒す朔夜。
その光を背に、陽和の銀の爪が非モテ男子を引っ掻く。
「ギャーー!! またキスしたー!!」
これが攻撃を受けた時の叫びだと思うとなんかとてもアレだが、事実コレなのだ。
「キスしたっていいじゃん! あんたなんか馬に蹴られちゃえ~っ!」
ニコの後ろに隠れて文句を垂れたミカエラ。くるりと周りを見渡して、
「みなさん、下がってて、私たちなら大丈夫だから」
と集まってきたギャラリーにアピール。
ニコは体育館の中から心配そうにこちらを伺うキヨハルと目を合わせ。
「俺たちも善処すが、彼女の事を確り守るのだぞ」
彼が頷いたことを確認すると広がった袖と共に構えた白剣を振り捌き、非モテ男子に斬りかかる。
続いたミカエラも手の甲に広がったシールドを、そのモテそうもない頭目がけて振り下ろした。
「ギャーー!! リア充攻撃喰らったー!!」
「ったく、いちいち騒ぎなさんな」
呟きながらも腰の帯を射出し、非モテ男子を貫く惡人。
「昔からリア爆とか言ってる奴みると、情けねーなって思うんよ」
と、本音が零れる。それは微かな呟きだったが、非モテ男子は地獄耳。
「情けないのなんか重々承知だーー!」
「ならやめればいい。やめて彼方側に行けばいい。簡単な事さ」
と言いつつ、都市伝説には難しいことだろうけどと心の中でつぶやく紗夜。氷のように冷たく透き通る槍を振るえば、生まれ来る氷の刃は非モテ男子を穿ってゆく。
「いや、やめたらRBの存在意義がなくなるのだ」
二月はバレンタインデーで爆破できるぞ。三月はホワイトデーで以下略と歌いながらギターを鳴らせば、狙撃手と癒し手の傷が癒え、しっとのほのおも消えていく。
こう、情けないのはいやだいやだと言いつつも、爆破してしまうのがRBの嵯峨。とは梨乃の談。
ミケが猫魔法を飛ばすと花近も追随して、骸骨マイクとスタンドのロッドで非モテ男子を殴りつけると。
「喰らえ! 人の恋路を邪魔する奴は馬に代わってお仕置きスマッシュ!」
やけに重いアンカーのハンマー殴りつけが炸裂した。
リア充演技に参加していないのに、何が彼をここまで突き動かすのだろうか……。
非モテ男子がすっ飛ばされた先は低木の植栽。パキパキと枝の折れる音とともに起き上がる非モテ男子は、歯をギリギリ軋ませて。
「人の恋路なんてどうでもいい! 情けなくとも、これが俺の生きざまだ!!」
ドーンという効果音と共に爆発したのは、ドロリ濃厚湯銭ほやほやチョコだった。
●
ギャラリーはどんどん多くなる。
生活道路では未知が集めた一般人が戦場を覗き見る。
通勤途中のサラリーマンや朝の散歩の親子、少し先の小学校に通う小学生が集まり、彼らをウニ姿の丹が護衛している。
体育館を通らずに現場に通じる通路には、生徒の他に教師も続々集まってきていた。
不純異性交遊を謳った透流が集めた教師たちだ。
彼らの護衛は柩と、
「危ないから私たちより前に出ないで欲しい、先生も」
友衛の役目。
その後ろの方では流希が教員たちに、都市伝説や灼滅者の説明を行っている。
反対側の通路にも学生が集まっていて、
「オレらはあぁいう都市伝説の対処を専門としているんよ」
と、伊織が護衛をしながら今の状況を説明していた。
集まってきた学生は体育館の中にもいた。
「アレが非モテ男子。アレを生み出したのはみんなの噂が凝り固まったものなんだ」
霊犬のわんこすけも伴った鎗輔が、護衛がてら都市伝説が生まれる理屈を説明する。
サポートが人集めを担ってくれたおかげで、学生、教師、はたまた学校外のたくさんの一般人がこの戦いを見届けることとなった。
●
「喰らえ! 先取りお返し!」
駆けてきた非モテ男子、一番手前にいた陽和の頬を殴りつけた。
「陽和っ!」
いち早く動いた朔夜が祭壇の指先から蒼い光を打ち出せば、陽和の傷が癒える。その蒼い光を纏いながら走り出した陽和の足元には、星の如く煌く光。
「女の子に手を上げるなんて、最低ですよ!!」
星の如き重厚な蹴りは、非モテ男子の腹に。
「リア充爆破ってのは返り討ちに遭うまでがセットなのだ!」
アンカーが突き出した手の先に描かれるのは魔法陣。その中心から放たれた魔法の矢は、追い打ちのように鳩尾に入る。
梨乃が帯を飛ばして陽和に回復を重ね付け。肉球パンチを繰り出したミケの援護をしたのは、花近が振るったマイクから生まれた雷だった。
「……っ!」
雷を受け怯んだ非モテ男子を括るのは、紗夜が操る赤い糸。巻きつけて引けば、付いた傷はさらに広がる。
「勝ちゃなんでもいいんだよ」
惡人にとって非モテ男子は、敵として現れた次点で情を掛ける必要もない『的』。
感情は戦闘の前と後にあればいい。
無慈悲に構えられたガトリングガンからは、非モテ男子を蜂の巣にするべく弾丸が連射される。
煙の向こうに立つ非モテ男子は、そこにいること自体がやっとであるかのよう。
「ニコさん、今よっ」
いつもよりオクターブ高い声を上げたミカエラ。
頷いたニコが赤いニーハイブーツの踵を高らかにならしてはしって行けば、足元から生まれ来るのは炎の花。それに追随して、ミカエラも光の剣を構えて走る。
「守ってくれる人がいるんだもん……私は負けないわ!」
飛び上がり非モテ男子を斬り割くミカエラ。
「これが、共同作業、ですっ!」
ニコは無言のまま、炎を纏った蹴りを繰り出した。
「……み、み、見せ付けやがってぇぇぇぇ!!」
それが非モテ男子の最期の叫び。
リア充どもを爆破してやった時と同じくらい、アツく激しく爆発して消えていった。
●
「お疲れ様」
と抱き着いてくる陽和の頭を朔夜が撫で。
「みんな、お疲れさまっ!」
ミカエラの明るい声で、都市伝説との戦いが終わったと悟りだす一般人たち。
「お騒がせして失礼してますー」
ウニがしゃべった! とか言われても気にしない。丹が事の起こりを説明すると、
「あんな感じで七不思議っていうのはネ、本当にいるんだよ。だから気ィつけてネ!」
ポンパドールも注意を促す。
「脅威を倒すだけではなく、助けられるものを助けるのも大切な活動なのだ」
「力に憧憬を持つ方もいると思うのですが、この力には責任が伴うのです」
友衛と流希が説明する。
「だけど、忘れないで欲しい。今まで戦ってた彼等の僕達も、皆と同じ人間なんだ。平和に生きていたい、人なんだ……」
だから今は怖くても受け入れてほしい。
鎗輔は願うように集まった人々に告げた。
「まぁ、他に何か噂をきぃたら、ここの連絡したって」
と、学園の連絡先が書かれた紙を配布する伊織。
ニコ、梨乃、紗夜もそれぞれ、灼滅者のことや都市伝説のことなどを説明して回り、アンカーも説明がてらESPの実演もしてみせる。
「ウチはなもともとこういう問題を専門的に拾って向かう集団なのさ」
と、惡人は自分の名刺を手渡していく。
花近も仲間に倣って一般人対応をするが。
「花近かわい~っ、妬ける~♪」
ミカエラに言われるまで自分が女装中であることを忘れていたらしく。
「か、可愛いわけないよー」
と顔を染めながらどこかに逃げてしまう花近。
「ん、嫁に連絡しとくか……今日の予定もあっしな」
と、スマートフォンを操作する惡人の目には、愛しい人の名が映る。
今見たことや自分たちの言うこと納得して、それぞれの生活に戻ってゆく一般人たちを見、紗夜は思う。
バベルの鎖の効果は、広がらないが事実は在る。水と油のようなもの。
そしていつかは告白をせねばなるまい。
自分たちは戦い続けなければならない理由を。
この活動が作る末路を、眺めたいとも思う。
「未知……」
女装をしている恋人の姿を、ニコはすぐ見つけ出すことができた。
その手を取ればくるりと振り返る美少女のような彼。こんな姿で自分をサポートしてくれたのだと思うと、ニコの心はさらに締め付けられた。
「……作戦とはいえ、他の子とカップル役を演じてしまったことを詫びようと思って。すまなかった」
「俺は別にやましいものは見てないもーん」
ぷいっとそっぽを向きつつも、横目で見る恋人は相当反省している様子。
「……ところで、この近くに美味しいメンチカツのお店があるんだって。今から行かない? ニコさんの奢りで」
それでチャラ。と未知のいつもの笑顔を見、ニコはやっと安心し柔らかく笑んだのだった。
この後、キヨハルとカナがしっかりと心を通わせたかどうかは、当人たちの心と、彼女から彼へと渡ったチョコレートのみが知っていた。
作者:朝比奈万理 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年2月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 3
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