漆黒の長いコートを翻し、黄昏の住宅街を女が走る。ピンヒールのブーツの足元へ群がるように戯れるように、眷族のタトゥーバットが集まっては散りを繰り返していた。
屋根から屋根、塀から工場の煙突上、と飛ぶように女は疾走する。目指すのは駅前通りに繋がる細く暗い路地裏だ、そこには闇堕ちしたばかりの少年がいる。乳ではなく血に飢える、生の喜びではなく強者としての力をもてあます、うまれたばかりの赤子のような。
そんな彼を灼滅者達に奪われてはならない。乳飲み子は正しく、あるべき場所で育てられてはじめてまっとうな存在になれる。
だから彼を迎えに行くことは誰がどう考えたって正義なのだ。ヴァンパイアはヴァンパイアとして生きるべき。尊ばれるべき血筋が他に従属することなど決して許されない。許されるはずもない。
西の地平近くには、どろりと半溶けの西日が見えていた。
ふとそのありさまが彼に残る人間の意識の具現のような気がして、ヴァンパイアはうすく笑う。太陽が沈むその瞬間に、もうひとり新たなヴァンパイアが産声を上げる――そんな確信があった。
●黄昏ラビュリントス
サイキック・リベレイターは使用せず民間活動を行うことになった結果、エクスブレインの予知でヴァンパイア勢力の活動が明るみになった。どうやら一般人を闇堕ちさせ配下とすることで、戦力の拡充を図っているようだ。
「しかもただ勧誘するだけじゃなく、専用の回収部隊まで組織していたらしいよ」
なるほどねえと成宮・樹(大学生エクスブレイン・dn0159)はどこか他人事のように言う。そういうわけで闇堕ち一般人への対処と、回収に来るヴァンパイアの迎撃を2チームで行うことになった旨を樹は続けた。
「皆には闇堕ち一般人を回収にくるヴァンパイアの迎撃を行ってほしい」
回収に向かっているヴァンパイアはエリナと名乗っており、ハスキーな声音と漆黒のトレンチコート、ピンヒールのブーツが特徴的だ。眷族のタトゥーバット6体を護衛として連れており、かなりの強敵と思っていい。
「もしエリナの迎撃に失敗した場合、もう一方のチームが闇堕ち一般人の対処を行っている所に乱入するかもしれない。もし灼滅できなかったとしても、乱入を諦めて撤退を選択させられるように戦うことが重要になると思う」
エリナに接触できれば、彼女はダンピールのものに酷似したサイキックと閃光百裂拳、および集気法に似たサイキックで自ら灼滅者を潰しにくるだろう。
護衛として連れているタトゥーバットはさほど特殊な能力を持たないものの、ジャマーで嫌がらせに来るはずなので、強敵と目されるエリナが自ら前に出てくる布陣を相手に長期戦を狙うのは禁物かもしれない。
「今から向かえば、住宅街のはずれにある廃工場付近で接触できると思う。時間帯から考えても近くに人がいる可能性は低いと思うけど、念のため人払いの手段はあったほうが安心かもしれない」
この作戦においてダークネスや灼滅者の存在を一般人に周知する必要はないだろう。闇堕ちして間もないなら話は別だが、エリナは曲がりなりにも『ダークネスを回収する』だけの実力があると考えていい。
そのエリナを相手に、背後に一般人を守りつつ戦うのはどうみても下策だ。
とは言え、今の灼滅者皆ならば充分灼滅を狙える相手でもあることには間違いない。
「灼滅するのが難しくなったとしても、闇堕ち一般人の対処をしている所には向かわせないようにしてほしい。もし突破されたとしたら――」
樹はその万が一が起こった時、に触れるつもりだったようだ。しかし結局、わざわざ言うまでもないことだと判断したらしく沈黙を守る。
そう、今更触れるまでもないだろう。夕方の買い物客や学校帰りの学生で賑わう駅前商店街にダークネスが現れれば何が起こるか、など。
参加者 | |
---|---|
万事・錠(オーディン・d01615) |
無道・律(タナトスの鋏・d01795) |
一・葉(デッドロック・d02409) |
紅月・瑠希(赤い月の使者・d08133) |
紅羽・流希(挑戦者・d10975) |
葦原・統弥(黒曜の刃・d21438) |
エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318) |
シャオ・フィルナート(ご注文はおとこのこですか・d36107) |
がつり、と錆びたトタン屋根を踏んでエリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)は立ち止まる。そろそろ回収部隊であるはずのヴァンパイアが付近に姿を現す頃だった。
「何と言うか、残ったダークネス最大組織の割にやることがせこいわね」
「さあ、せこいかどうかは……どうなんでしょう」
割とヴァンパイアはプライドの高いイメージがあったので葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)は言葉を濁す。
「闇堕ち者の回収とは律儀と言うか、何と言いましょうか。ヴァンパイアにしては割と堅実で現実的な手段、という気はしますね」
「まあ、尊ばれるべき血筋とやらを示すのが『支配』で、そのために力を奮うしかやる事がないのなら……可哀想ではあるかな」
紅羽・流希(挑戦者・d10975)に半分ほど同意する形で、やや顔にかかる髪を払いつつ無道・律(タナトスの鋏・d01795)は黄昏の空を見上げた。
西の空はあかるい黄金色。どこからどうみても少女としか思えないシャオ・フィルナート(ご注文はおとこのこですか・d36107)が西日の眩しさに目を細める。
「どのみちヴァンパイアは私の宿敵でもあるし、ここで倒さない手はないね。倒せば回収部隊とやらの数を削れるし、闇堕ち者チームに迷惑もかからない。一石二鳥だ」
「そう……ですね。思い通りには、させないの」
紅月・瑠希(赤い月の使者・d08133)に淡々と同意したシャオの声を聞きながら、一・葉(デッドロック・d02409)はエアシューズ【Warmonger】の感触を確かめる。視界のすぐ横に広がる廃工場、そして背後遠くに見える駅前とその商店街では今頃、別働隊が行動開始しているはずだ。
「さて、お出ましだ」
「遠慮なくやりあえる相手ってのがまた最高じゃねーの」
ばちんと左の手の平へ拳を叩きつけ、万事・錠(オーディン・d01615)は獰猛に笑う。折しも、ぶわりと蝙蝠型の影を足元に広げた漆黒のコート姿の女が、たった一足で民家を躍り越えてきたところだった。
「ほんとヴァンパイアがこんな地味な活動に勤しんでるとはなー。お貴族もお疲れさまです」
妙に平坦な葉の呟きがきこえたかどうかはわからないものの、民家を二件ほど挟んだ距離でヴァンパイアは灼滅者を見咎め立ち止まる。
「知らぬ顔だ」
短くそう一言、眷族のタトゥーバットを従えて彼女は呟いた。誰何されているのだと気付いて、律は眉をひそめる。
「今更こちらが何なのか、名乗るまでもないと思うけれど。わかっているだろうし」
「言われてみればその通りか」
我等がヴァンパイアの邪魔に現れるなどもはや灼滅者以外にありえんしな、とエリナはややハスキーな声で含み笑った。蝙蝠の羽音が一瞬大きくなる。
「そういうこと。ありきたりな台詞をあえて言わせてもらうけど、ここから先は行かせないわよ」
「なるほど。ならばやってみるがいい」
エリノアの台詞へ鷹揚に首肯してみせると、ヴァンパイアは素早く身を翻した。錠は突破を仕掛けにくるものと思い身構えたが、エレナのコートは横へと大きく翻る。
すかさず虚空ギロチンをタトゥーバットへ放った流希に続く形で、エリナの注意をこちらへ向けるため瑠希は縛霊撃で六体のうちの一体を狙い撃った。肩越しにヴァンパイアは灼滅者を見たものの、眷族など意に介していない、という表情を崩さない。それは律の爆裂手裏剣や統弥の除霊結界を浴びせられても変わらなかった。
それは貴族という支配階級の余裕なのか、それとも眷族など掃いて捨てる使い捨てとしか思っていないということなのか、瑠希にはわからない。わかっているのは、エリナは倒すべき宿敵という不変の現実だけ。
廃工場がエリナの目に入っているかどうかなど知らないが、すでに包囲陣型を敷いていた灼滅者達はそのまま彼女を追う形で廃工場の敷地に入った。
時間はすでに夕刻、うち捨てられて久しい工場跡ともなれば周辺をうろつく人間などそうそう考えられないが、それでも万全を期すためにシャオは殺界形成を発動する。エリナは錆びて朽ちたトタン屋根がぶら下がる建物脇をすりぬけ、産業廃棄物を混じらせた、うず高く積み上がるコンクリート片の山の前で流希を振り返った。
「美女の取り巻きはいい男と相場が決まっているものだが、バットどもは雄なのかね?」
「さあ? 気になるなら自分で捌けばよかろう」
ばちりと火花をとばす赤黒いオーラがエリナの両拳に凝って、流希を袈裟懸けにする。すかさず律がラビリンスアーマーでの回復にまわり、眷族へ集中砲火を浴びせる手筈になっていた統弥と流希の護りを固めた。
「ああそう。私は眷族なんかに興味はないから貴女の生命力を、奪ってあげるわよ!!」
【魔装紅籠手】を構え瑠希はエリナへ肉薄する。甲高い蝙蝠の叫び声を聞きながら渾身の力で振るわれた縛霊手を、黒衣のヴァンパイアは余裕をもって躱した。赤茶けた地面を盛大に削りつつ、瑠希は歯噛みする。
まだ本格的に数を削れていないこともあり敏捷に動き回るタトゥーバットが邪魔だが、エリノアはひとまず精度よりもヴァンパイアに逃走を選ばせないことを優先することにした。自ら前に出てくるタイプだけあって眷族を捨て石にされないとも限らず、灼滅者の戦力が充分に脅威である――逃走を計っても逃げきれない可能性のほうが高い力量を持つ相手、と思わせた方が得策だ。
凝ったアンティーク装飾を施された漆黒の杭打ち機を腰だめに構え、エリノアは細く息を吐く。
「ふん。同じ黒でもこちらが上ってこと、思い知らせてあげる!」
最愛の人から贈られた【Gottin des Schicksals】がジェット噴射の唸りを上げた。
シャオの神霊剣に一瞬動きを阻まれ、脚を止めたエリナの死角。バベルブレイカーもろともにエリノアは飛び込み、右やや後ろの脇腹へその凶悪とも言える破壊力で風穴を穿つ。
人であればそこは肝臓を抉る文字通りの急所だが、果たしてヴァンパイアには痛打を与えられたのかどうか。素早くコンクリート片が混じる土を蹴って間合いを計り直したエリノアの視界に、ぶわりと血色の霧が満ちる。
ここでエリナが回復を撃ってきたことに、統弥はふと唇の端を上げた。
眷族など捨て石と言わんばかりの態度だったが、さすがにこちらがタトゥーバットの数を積極的に減らしにきている意図に気付かなかったわけではないらしい。いざとなれば眷族を足止めに残して逃走する選択肢をためらう理由はなかったはずだが、エリナ自身を五人もの灼滅者が狙いにきている以上それも難しい。
「手下は援護に回し、自分は最初から最前線に出てくる――自分の戦闘力に自信が無いとできない戦法ですね。違いますか」
眷族めがけ乱れ飛ぶ、罪を灼きつくす光線。統弥の静かな問いにエリナは沈黙を守った。
「そして、ここからどうします。我々としてはあなたに回復を選ばせたという事自体が僥倖ですが」
逃走ではなく灼滅者を本気で相手取るため立て直しを図る。エリノアの先の一撃がそれを選ばせた、ということだ。それはそのまま、逃走を許すわけにはいかない統弥達の目的に合致する。
「……別に。どうもしない、と言っておこうか」
それでもエリナはヴァンパイアの誇りを失わぬまま艶然と笑ってみせた。
「言っておくが、勘違いするなよ灼滅者。本気のヴァンパイアを相手取ることの意味を教えてやろう」
ちょうどその瞬間、短く断末魔の叫びを上げてタトゥーバットが一体消滅した。傲然とした物言いに律が眉根を寄せる。
「支配と従属なんて、人間にも飽きるほど転がっているよ」
ダークネスと人間ほどの絶対的、かつ選択肢などない理不尽な支配と従属ほどではないが、奴隷貿易だの支配階級だの何だの、人類史にもそれはつきものだ。それこそ現代においても。
「でも君が主張する、尊ばれるべき血筋とやらを示すのが支配で、そのために君達が力を振るうしか手段がないのなら……それは、かわいそうだね」
「ヴァンパイアを哀れと言うか。面白い」
赤い瞳をなお凄絶に細め、エリナは灼滅者を手招く。そうこなくっちゃな、と叫んだ錠をはじめエリナ狙いのメンバーが一斉に攻勢に出た。
華奢な体躯でいかにも与しやすしと思われたのだろう、小柄なシャオへ向け続けざまにエリナが拳を繰り出してくる。ほとんど吹き飛ばされそうになりつつ辛くも閃光百裂拳の応酬を耐えきったシャオへ、間髪入れず律、そして瑠希の烈火が回復をまわした。
内臓にまで響くような鈍痛を堪え、シャオはそれでも顔を上げる。
「俺の、中にも、ヴァンパイアが……いる。だから貴女をはっきりと、否定はできない」
ばちばちと、統弥のクロスブレイブから放たれる光条がタトゥーバットを灼いていた。消耗の激しいものからティアーズリッパーで順に狙い撃っていく流希によって、禍々しい文様を刻んだ翼が赤茶けた地面に容赦なく叩き落とされる。
「でも俺は貴女達の理念や主張に、賛同することはできない。思い通りには、させないの……!!」
意趣返しとばかりに【断罪の剣】による渾身の紅蓮斬を見舞い、シャオはひとつ、大きく喘いだ。その意気や良しとエリノア、そして瑠希が続く。エリナの周囲を乱舞し、あるいは攪乱するように滑空していたタトゥーバットはいつのまにか、坂道を転がり落ちるように数を減らしている。
地道に、愚直なまでに除霊結界とオールレンジパニッシャーを重ね麻痺を積み上げた統弥の粘り勝ちといった所だ。まだ充分に余力を残しているものの、眷族をすべて失えばさらに二人分の戦力が投入されてくるとあって、流石にエリナは戦況が芳しくないことを認めざるを得ないだろう。
色々な意味で眷族の働きに期待することはやめたらしく、ヴァンパイアは灼滅者へより苛烈に打ち込んできた。やはり元々能力の高いダークネス、数で充分こちらが優位に立っているとは言っても、そう簡単に事を運ばせてはくれない。
むしろそうでなければ面白くない、と相棒は言い出しそうだと葉は短い溜息を吐く。何せ強敵と戦う、もとい遊べて楽しい、だなんて豪語するタイプなので。
「支配だの従属だのとよその主義主張になんか興味ないが、ネズミ算式に増えられてもホラーだしな。感染源はしっかり潰させてもらうぜ」
まっすぐに斬り下ろされた【赤銹】の軌跡が雷光の尾を引く。
上段からの振り下ろしをまともに食らったが、エリナはがつりとピンヒールの踵を鳴らして耐えきった。体勢を大きく崩したところに、心得たタイミングで錠がバベルブレイカーを鳴らす。
「俺に立派な志なんて無ェけど、今こうしてアンタと遊べてすっげー愉しんでるぜ」
……ほらやっぱりな、と葉が考えたかどうかはさておき、盛大な金属質の唸りをあげたバベルブレイカーを一瞥して、エリナはそれでも痛打を避けようと身を翻した。それこそ蝙蝠の翼に似た漆黒のコートの裾を引き裂き、死の中心点を穿つという凶悪な杭が撃ち込まれる。
今度こそ派手に砂塵を巻き上げて地に伏したヴァンパイアへ、錠はからりと笑った。
「だから、別に俺としちゃ嫌っちゃいないんだよなァ。気兼ねなくヤりあえる相手は」
「……」
耐えきれぬ苦痛に頬を歪めたものの、それでもエリナは毅然と顔をあげている。もうもうと砂埃をあげる乾いた地面を叩くように跳ね起き、そして返礼じみたギルティクロスを放った。その威力にはいまだ衰えが見られず、さすがに瑠希が驚きの声を上げる。
「奇遇だな。遠慮のいらぬ相手は、嫌いではないよ」
――少なくとも愚鈍な奴隷よりかはよほど好ましく興味深い、と。赤茶けた土汚れをつけてもなお漆黒のヴァンパイアは誇り高く、そしてうつくしかった。
「そりゃ光栄なことで。光栄ついでに、ヤらせてもらうぜ」
ばちん、と濡れた何かを叩きつけたような音。流希が最後のタトゥーバットを仕留めた音だった。
眷族はすべて討ち果たされ、八対一。いよいよ大詰めを迎えたことに気付かないはずはないが、それでもエリナの表情は小揺るぎもしない。
「さすがはヴァンパイアって所だけど……魔力の霧よ、仲間に纏い潜在能力を引き出させよ!」
「悪いけれど人間って生き物はね、存外しぶといのさ」
終局へ向けてあらためて瑠希がヴァンパイアミストを施し、律もまた清めの風を吹かせて盤石の布陣を整える。やや離れた位置にいた烈火を傍らへ呼び戻し、瑠希は縛霊手の感触を確かめた。大丈夫だ、まだいける。
「人間だけじゃない、生命もそう。どんな生命も栄華も、滅ぶ前がいっとう輝かしい」
たとえそれが徒花であっても。路傍の花であっても。
「なんであれそれは生きた証だからね。だからこそどんな血も尊いと僕は思うよ。種とか生まれとか、関係ない」
その瞬間は誰もが無言だった。
最初に仕掛けたのは瑠希。錠が打ち込んだ杭の傷痕をさらに深く抉るように縛霊手を振るい、そのままエリナを圧倒せんと踏みとどまる。反撃に出ようと身じろいだエリナの背を切り裂いたのは流希の黒死斬だった。
「もうすぐ投了だ、蝙蝠しか魅了できなかった残念美人」
ヴァンパイアはひとつ小さく喘ぎ、それでも血濡れたコートの裾をさばいて、右腕を大きく引く。立ちはだかる瑠希を力にあかせて排除しようとしたのだろう、大きく一歩を踏み出しながら赤黒いオーラを帯びる腕を一閃させた。
一瞬身体が両断されたような錯覚を覚えつつ、瑠希はたたらを踏む。決して後退などしないとばかりに空いた空間へ躍りこんだエリナを待っていたのは、統弥とシャオ。
「僕は、僕達は、未来を向いていくつもりです」
どこか哀れみすらにじませる声音で統弥は呟いた。
「だから支配階級の過去にすがりついている君などに、負ける気はしないんですよ」
もはやダークネスの一極支配は崩れている、その現実を端的に表現した台詞にエリナはほんの一瞬だけ瞠目した。
統弥の思いをそのまま乗せた、至近距離からの閃光百裂拳。そしてシャオの神霊剣が、取り返しのつかない域にまでヴァンパイアの体力を削る。乾いた咳に鮮血を混じらせ、とうとう両手を地についたエリナへ、エリノアの螺穿槍が迫った。
「やっぱりありきたりな台詞だけど、言わせてもらうわね」
妖の槍【Blaue Blitz】を下段に据え、エリノアは高らかに宣言した。もはや勝負は決したとばかりに錠はバベルブレイカーを放り出し、懐を探る。
「ここが貴女の終焉の地よ」
エリナはただ、眼前に迫る穂先を黙って見つめていた。決して最期まで、心まで屈しなかったことを誇るように。
避けえない一撃を浴びてくずおれていくヴァンパイアを横目に、錠はヴァンパイア灼滅成功の一報をいれるため黄昏の空を仰ぎ見る。早春の空は青く淡い金色で、よく晴れていた。
作者:佐伯都 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年2月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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