ニノキン像を知っているか。
小学校で古くから語られる定番七不思議の一つに存在する、『夜の学校で走り回るニノキン像』の噂。
しかし本を読みながら歩くとかあぶねーだろというヘンな理由で軒並み撤去され、今の小学生たちには噂だけが伝わっていた。
「そう、この学校にも、その噂は受け継がれているのさ……。この台に、夜な夜な石像が現われるっていう噂がね」
「おもしろそうじゃん。今夜肝試しがてらみんなで見に来ようぜ」
恐怖に震える小学生たちは、石像だけが抜き取られた空っぽの台を見上げていた。
●
サイキックリベレイター投票の結果、武蔵坂学園は装置を使わず民間活動を行なうことになった。
このことでエクスブレインの予知も機能するようになったのだが……。
「タタリガミ勢力の活動が明らかになりました。どうやら彼らは学校の七不思議的都市伝説を実体化しまくっているようです」
「ああ……それでニノキンさんの像の話なんてしたんですね……」
もうないんですねあれ、という顔をする水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774)。
今回は彼女の調査によって判明したところもある事件である。
「学校というのは閉鎖社会ですから、外から察するのは難しかったのです。今回は偶然にもその一体を見つけることができましたので、この都市伝説を灼滅してしまいましょう!」
小学校に夜な夜な現われるニノキン像。
それは皆が想像するとおりの石像だが、それこそあちこちの学校で語り継がれたように『ものすごい速さで走る』だとか『アクロバティックにジャンプする』だとか『石像のタックルで殺される』といったような定番かつ安定した強さをもっている。
「おっと、そうそう……今回の敵はタタリガミが生み出したふつうの都市伝説です。そう強くはありませんので、目撃者を沢山作るのもいいでしょう」
「目撃者……一般の生徒たちに見せるんですか?」
「バベルの鎖によってこの手の話は過剰に伝播しませんが、しかし直接見ればその効果はありません。できるだけ多くの人が都市伝説やダークネス事件を目撃することで、今後行なう民間活動の主軸にすることができるのです」
そこまで説明すると、エクスブレインは内容をまとめたメモを手渡した。
「一般の生徒たちに目撃させると仮定して、戦いぶりをどんな風に見せるか……そしてどんな風に説明するかはきっと重要になるでしょう。目撃者たちにとって、灼滅者は『恐ろしいバケモノを倒す人々』としてうつるでしょうからね」
参加者 | |
---|---|
天方・矜人(疾走する魂・d01499) |
椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137) |
水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774) |
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200) |
癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265) |
貴夏・葉月(勝利の盾携えし希望の華槍イヴ・d34472) |
立花・環(グリーンティアーズ・d34526) |
御鏡・七ノ香(小学生エクソシスト・d38404) |
●日常の守護者たち
闇に沈む町並み。
ぽつぽつと灯る街灯の、電柱の下に立ち止まる。
天方・矜人(疾走する魂・d01499)はいつもの個性的なヘルメットを深く被り直し、アイシールドの奥を淡くオレンジ色に光らせた。
自分の中での準備を終えたのか、再び歩き出す。
また別の電柱の下、貴夏・葉月(勝利の盾携えし希望の華槍イヴ・d34472)がはたと立ち止まった。
何も見えていないような、しかし何でも見えているような有様で、不意に夜空に顔を上げた。
そしてなんでも無かったかのように、再び歩き始める。
続く街灯は小学校へと連なり、世間に知れること無く彼らの足並みは自然とそろっていった。
戦いを好む者、平和を愛する者、狂乱に浸る者、欲望を満たす者。始点も終点もきっと違う彼らが、ただ一時だけ、同じ道をゆく。
灼滅という、道をゆく。
後に知る者はそれをさして、『灼滅者』と呼んだ。
今宵灼滅するは学校怪談。それを実体化させたものだという。
きわめて一般的、オーソドックスでポピュラーだが、噂というものはそうなるほどに力を持ちやすい。
ニノキン像の怪談。一時期あらゆる学校に設置され、その後あらゆる学校から取り払われるなどという注目を浴びたのも、無理からぬことやもしれない。
「確かに転んだりぶつかったりしてしまいそうな見た目ですけれど、時を惜しんで勉学に励むお姿は素晴らしいと思うのです」
「子供たちのお手本だったんですよね」
「だからこそ――」
「はい――」
ぎゅっと握った拳を翳す水瀬・ゆま(蒼空の鎮魂歌・d09774)。
まねして同じように翳してみる御鏡・七ノ香(小学生エクソシスト・d38404)。
「子供たちを傷付けてはいけないのです!」
「そう、ニノキンは本来平和の使者」
立花・環(グリーンティアーズ・d34526)も同じく拳を掲げた。
「この桜吹雪、見忘れたとはいわせねえ……って」
「それは別のキンさんでは」
「なんと」
こんな時でも自分のペースを忘れない。
灼滅者は、というか武蔵坂学園の生徒たちはそんなやつらだった。
「へー、小学生の前で戦ってる姿を見せるってわけ。また新しい手を考えたもんだな」
戦いとみるや一般人の安全確保にと殺界を形成したりサウンドをシャッターしていた彼らにとって、積極的に知らせていくのはなかなか新しい試みだ。
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200)は冷えた両手をポケットに入れつつ肩をすくめて見せた。
一方で肩をほそく狭めるようにする癒月・空煌(医者を志す幼き子供・d33265)。
「いつもは人の見てないところで戦っていたので……緊張しますですね」
しっかり子供たちを守れるように頑張らないとですね、といって小さくファイティングポーズをとった。
そんな二人の後ろで、椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)は両手を頭の後ろに組んでニッと笑った。
「今までの戦いって、こっそり日常を守るためだっただろ? けど俺には、人前に出て堂々と守るほうが性に合ってる感じがするんだよな」
かくして八人は一本の道へと合流し、小学校の校門前で立ち止まった。
台座だけが残され像が撤去されたニノキン像跡と――そこから誰かが走り去ったと思しき痕跡。
八人は頷きあい、校舎の中へと入っていった。
●人知れなく無い戦い
夜の校舎は薄暗く、廊下の先に闇しかないような錯覚を見せる。
本来なら歩くことすら恐れる場所を、小学生のグループは全力疾走していた。
「なんなんだあいつ!」
「わかんねえ! でもやべえぞ!」
彼らのずっと後ろからは、猛スピードで走る石像がひとつ。
本を開き目を伏せているにもかかわらずまるで乱れないその動きに恐怖し、その上で石像が走って追いかけてくるという状況に恐怖していた。
よもやこんなことで人生が終わってしまうのか。
彼らが少しだけ絶望しかけた、その時である。
「……」
廊下の突き当たりに、髪の長い小学生が現われた。隅々までが美しく整った少女である。
彼女は――七ノ香は角の先を指さして言った。
「こっちへ!」
言われるまま角を曲がる小学生たち。少女を取り残すべきで無いという義務感から手を引こうとした誰かを、七ノ香はサッと払った。
「あの像は、私たちが倒します」
振り向く一瞬。七ノ香の服装が華々しく変化した。
舞踏会に出るようなドレスが、ふわりと沢山のフリルを広げる。
彼女を警戒したニノキン像が石できた薪を無数に浮かべ、発射してくる。
狙いもつけずに打ち出された薪は七ノ香のみならず顔を出した子供たちにまで届かんとしていたが――どこからともなく現われたビハインドの幸四郎が霊力の衝撃で薪を破壊。子供たちを守るように立ち塞がった。
同じく七ノ香は両手を胸の上で組むようにすると、力の壁が生まれて薪を打ち払っていく。
石像が突然現われたことよりも、走り出し自分たちを追いかけてきたことよりも、小学生たちは、七ノ香の堂々とした立ち姿にこそ驚いた。
「掴みはバッチリかな。行くぜ、ローランダー!」
窓枠を飛び越えて廊下へ現われるマサムネ。
胸ポケットからカードを取り出すと『Vivere est militare!』と唱えた。
どこからともなく現われた霊犬ローダンダーが威嚇の姿勢で着地。威嚇の六文銭射撃を開始した。
小学生たちが物陰から七ノ香に呼びかける。
「あの人も仲間なのか!?」
「はい、とても信頼できる先輩で――」
マサムネは十字を作るように両腕を広げ、防具を最大フォームで装着した。
「プリンセス・フォーム!」
『アァン!』というなんかグっとくる効果音と共に服が破れ去り(演出)、虹色の光がマサムネを包み(演出)、ぐるりとカメラがまわったところで(演出)、フリルいっぱいのキュアコスチュームを纏ったマサムネが現われた(現実)。
「……仲間だな」
「……どう見ても仲間だ」
「は、はい……」
マサムネは小学生たち(七ノ香含む)の視線を背中に浴び、両手で顔を覆った。
「そんな目でみるな。いま丁度いい防具これしかなかったんだよぅ……」
「恥ずかしがってる場合じゃないですよ!」
教室の扉をガラッと開けて出てきた空煌が、同じようにカードを翳す。
「力を貸して――天使の少女『ティア』!」
カードに描かれたコスチューム通り、戦う天使のような服装と杖が現われ空煌に装着されていく。
それだけに留まらず、スタイリッシュにモードチェンジした衣装で大きく義翼を広げて見せた。
「ニノキン像さん、あなたの相手は私たちです!」
「そ、そうだ!」
すぐさま乗じるマサムネ。
空煌は杖を槍のように構えると、光のドリルを先端に発生させた。
光のジェットを噴射して突撃する空煌。
と同時に流星キックを繰り出すプリンセスマサムネ。
二人の攻撃を、ニノキン像は広げた本を盾にしてガードした。
力があふれ、ばちばちと火花を散らした。
競り負けたのはニノキン像のほうだ。大きく後方に吹き飛ばされ、両足でブレーキをかけるようにして廊下のタイルを削っていく。
半歩下がるニノキン像。
その退路を阻むように、矜人とゆまが現われた。
「え、えと、総じて武道の極意と申すは、弱きを助けその強きを挫き、今目前の利を得ずとも!」
なんか格好つけてみたかったゆまである。
小学生には分からないかなあと思い直して、ガラス細工のような剣をカードから取り出した。
「とにかく、正義の味方参上です!」
ぴっと剣で一文字を斬ると、ゆまの衣装が途端にゴージャスなフリルドレスに変化した。
「まあそういうわけだ、ボウズ共は下がってな、ここから先はヒーロータイムだ!」
金色の剣を取り出した矜人は、ゆまと共にニノキン像へと突撃した。
意を決してか反転し、タックルの姿勢をとるニノキン像。
「いきます!」
ゆまは剣を握り、飛びかからんと踏み込――もうとしたら足下の薪に躓き『みゃん!』と言いながら転倒した。
手からすっぽ抜けた剣がニノキン像めがけて飛んでいく。
慌てて突撃をキャンセルするニノキン像。
「ナイスフェイント!」
それをチャンスと見た矜人は、素早く距離を詰めて豪快な斬撃を叩き込んだ。
石像のボディで攻撃を受け止めようとするニノキン像だが、あまりの衝撃に吹き飛び、窓ガラスを割って裏庭へと飛び出していった。
それを追って外に出てくる小学生たち。彼らが見たのは、ニノキン像との間に立ちはだかりカードを翳す武流の後ろ姿だった。
「大丈夫、みんなは俺たちが守るからな! ――マキシマイズ!」
戦闘用のフォームへチェンジした武流は炎の足跡を刻みながら助走をつけて跳躍。
空中で回転をかけると、凄まじいパワーを伴ってニノキン像にキックを繰り出した。
裏庭の土を盛大にえぐりながらニノキン像を押し込んでいく武流。
彼を振り払うように薪を大量に打ち出すニノキン像だが、それはどこからともなく流れてきたラビリンスアーマーによって阻まれた。
いつのまにか戦線に加わり、ビハインドの菫にも同様の保護を施し終えていた葉月によるものである。
葉月が手を翳すと、連なるように手を翳した菫が霊障波を連射。
連続する衝撃がニノキン像へ浸透し、ボディを軋ませていく。
深入りはすまいと距離を保つ葉月の一方で、環が出遅れたーとばかりにダッシュでかけつけた。
「おおっと、もう場ができあがってるようで! それじゃあいつものいってみよう! 画面の前の子供たちもご一緒に――ハイパーマグロランチャー!」
どこからともなく取り出したマグロを担ぐと、口からぼひゃーと溶解液をスプラッシュさせた。イカれたマーライオンみたいな発射力である。
「かーらーのー、ハモボロスブレイド!」
スカートの中(宇宙)から取り出したハモをシャッて放つ環。
暴れるハモがニノキン像をばしばしと攻撃し始める。
「フウ……春にはオモチャが売れそうだぜ」
新アイテムを出した幼女向け番組みたいなことを言いつつ、やり遂げた顔をする環であった。
一方的にばしばしとやられていたニノキン像。
しかしこれでも都市伝説。偉人怪談は伊達じゃあないぜとばかりにアクロバティックに跳び跳ね始めた。
壁を蹴った三角飛びやローリングキック。
本を地につけてのブレイクダンスのようなスピンキック。
あまりの自由さにマサムネたちは早くもピンチが訪れた。
「さすがは薪を運び続けた足腰ですね、石のように頑丈で……」
「うん、石なんだけどね」
「けどこいつを倒してこその灼滅者だぜ!」
攻撃をなんとかしのいでいた七ノ香やマサムネ、武流たち。
「けど、あんなに動き回るニノキンさんに攻撃をどうやって当てれば……」
高速反復横跳びで残像を見せるニノキン像に軽く引く一同。
七ノ香が何かないかと思案していると……。
ゆまがぐっと握り拳を翳して前へ出た。
「こういうのは、やってみなくちゃ始まりません!」
「水瀬さん!」
「正面から突撃すれば、きっと道は開けます!」
てやーとばかりに剣を握って突撃するゆま。
途中にあった木の根っこにつまづくゆま。
『ぴゃん』と言って転倒するゆま。
放物線を描いて飛ぶ剣。
偶然にもニノキン像の荷にざっくりと刺さり、ほどけた荷が地面にばらばらと落っこちた。
「アアッ! 大事に運んでいた薪が! 拾わねば!」
「あからさまに隙が!」
「ていうかあいつ、今初めて喋ったぞ」
七ノ香は幸四郎と共に両手を翳し、霊力の光を放出した。
光は巨大な輪となり、回転しながらニノキン像へと叩き付けられる。
ぎゃあといって吹き飛ばされるニノキン像。咄嗟に拾った薪を投擲するが、マサムネとローランダーが清らかな風を巻き起こして飛来する薪のダメージをほとんど無くしてしまった。
「今だ!」
「天使の光を……!」
「……」
葉月と菫が素早く距離を詰め、同時に鬼神変と霊撃を叩き込む。
そうして打ち上げられたニノキン像に、空煌は豪快な杖スイングを叩き込んだ。
回転して飛び、校舎の壁に叩き付けられるニノキン像。
「必殺技シーンもらった! プリンセスモーッド!」
おりゃーといって気を漲らせた環が気合いでメイド服のフリルを当社比三倍増しにすると、両手でハートをつくって胸の前で構えた。
「必殺、九州のあれやこれやビーム!」
「俺たちも行くぞ!」
「おう!」
勢いよく校舎の壁を駆け上がる武流。
剣の鞘を分解してゴールドクロスへとチェンジする矜人。
「エンディングの時間だ! ダイナマイト・ブランディング!」
「真向貫通、ストレートフラッシュ!」
炎の鎧を纏い、壁を蹴って飛ぶ武流。
黄金に包まれた武具で飛ぶ矜人。
二人のアタックが両サイドからぶつかり、ニノキン像を激しく爆発四散させた。
●かくして平和は守られて
今はなきニノキン像に祈りを捧げる七ノ香。
『お家に帰ったら二宮尊徳で検索だよ!』と言って去るゆま。
同じくクールに立ち去る武流と葉月。
「怪我してる人は……? いませんですね、よし!」
空煌は小学生たちに怪我が無いことを確認すると、環たちへ振り返った。
「よいこたち、質問はあるかい。おねーさんに恋人がいるかは秘密。スリーサイズも秘密だ!」
「そしてオレらは武蔵坂学園にかよう灼滅者だ」
自分たちを親指で示すマサムネと矜人。
「サイキックの力でダークネスと戦ってる」
彼らは一通り闇の世界と力のことを小学生たちに伝えると、『それじゃあ!』と言って夜の闇へと消えていった。
これは幻なんかじゃない。
ほんとうにあった、灼滅者たちのはなし。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年2月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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