バレンタインデー2018~透明な感情

    作者:西宮チヒロ

     伝えたい心を託すなら、ほろ苦く甘やかに蕩けるチョコレートへ。
     それでも、とめどなく溢れる言葉があるのなら。
     永く永く色褪せぬ、ちいさなちいさな硝子箱の花へ。

    ●a peine
    「……綺麗だな、それ」
    「はわっ!?」
     放課後の音楽室に、素っ頓狂な声が響いた。すぐ頭上から掛けられた言葉に、小桜・エマ(大学生エクスブレイン・dn0080)は瞠目しながら振り向き、声のした方を仰ぎ見る。
    「カナくん……いつの間に」
    「さっきから。何度か呼んだけど、全然気づいてねーみたいだったから」
    「す、すみません……。つい、読みふけっちゃって」
     エマの座るトムソン椅子の背にもたれかかりながら半ば呆れ顔の多智花・叶(風の翼・dn0150)へと詫びた娘は、膝の上の雑誌へと視線を戻して微笑んだ。
    「これ、『ハーバリウム』って言うんだそうですよ」

     ブリザードフラワーやドライフラワー、ドライフルーツ、木の実などを、長いピンセットで硝子の器の中に配置し、専用の透明なオイルに浸して封をする。
     それが、植物標本――ハーバリウムだ。
     まるで水中花を思わせるそれは、枯れることなく、色あせることなく、約1年ほど愛でることができると言う。
    「そのハーバリウムのアクセサリーを手軽に作れるお店が、青山にできたみたいです」
     冬でも鮮やかな緑を茂らせる木々と、華やかに咲き誇る花たちに囲まれた店舗は、まるで草花で美しくラッピングしたガラスキューブ。
     その硝子の扉を開ければ、フラワーショップとフラワーデザインスペースを兼ねた広い店内には、それ以上の植物が溢れている。さながら、店そのものが巨大なハーバリウムのようだ。
     フラワーショップで植物を選んだら、店奥にあるデザインスペースで容器と装飾品を選びながら仕上げる。
     ちいさな硝子容器は、ベーシックな球体をはじめ、ドーム(半球)型、キューブ型、雫型、珍しいものだと電球型やハート形、ダイヤモンド型など多種多様。
     その中からひとつ気に入りを選んだら、好みに応じて装飾品――小ぶりのパワーストーンや硝子石、和・洋風のリボンや飾り細工、はては白砂、珊瑚、貝殻など――を加えながら、ひとつひとつ、草花を配置してゆく。
     欺くことのできやしない透明な器に、ほんとうに伝えたい心を、言葉を、込めてゆく。

     そうして出来上がった掌サイズのハーバリウムは、最後にアクセサリーへと仕立てよう。
     腕に、耳に、首許に。
     硝子の触れた場所からきっと、溢れ紡いだ言の葉がじんと染みてゆくだろう。

     永く永く色褪せぬ、ちいさなちいさな硝子箱の花。
     それは、永久に寄り添う、貴方への祝福。


    ■リプレイ


     草花の詰まった、おおきな硝子箱を彷彿とさせる店。
     その店内は、まるで植物園だった。
     手前にあるフラワーショップは花の彩と香りで満ち溢れ、その中央にある中庭には、冬の柔らかな陽を浴びる桐の木が、吹き抜けの天井ほどの高さまで伸びていた。
     今日の誘いに感謝する勇弥へ、叶も愉しい時間となるように祈る。
    「手伝い必要なら言ってくれよ?」
    「なんとか大丈夫」
     汗を拭いながら、天音が勇弥へ笑顔を返す。
     雪結晶型の青硝子石と、水晶とゼオライト。震える指先で、ピンクのかすみ草と紫苑を最後に。切なる願い、追憶。姉への言葉をボトルストラップに詰めて、浅葱色のリボンをかける。
     ハートの内に咲くピンクのガーベラ。周りを彩るシロツメクサの花。希望と、常に前進。さくらえの案で一層燦めく凜の想いは、ストラップにして鞄へ。
     硝子箱には一粒のピーベリーと楓の葉を。約束と自戒。親友との誓いを果たす、それは勇弥の意志だ。
    「さくらは……中々お洒落だな」
     球体にブルーローズの花びらと白の霞草をひとつ。飾る彩石たち。贈り先を察して微笑む勇弥に、さくらえも口許を綻ばせる。
    「とりさんもらしいねぇ。……て、オイル入れはフォローもらえると幸い」
    「おぅ、任せろ」
     双調と空凛の間に座る陽和が造るのは、この先の大戦に向けた御守り。
     月桂樹の花と葉は勝利を、柊の葉は守護を、そして家族共通で入れる南天の実は愛をダイヤモンドへ詰めて、姉と弟用はそのままに、自分用はブレスレットへ。
    「私も陽和とお揃いです」
     そう微笑む空凛は、持参した桜の花を南天の実と共にハートの器へ。加護を与える、神様に縁深い花。シンプルかもしれないが、自分にはこのくらいが丁度良い。
     ふたりの手助けをしながら、双調が選んだのは菫とパンジーの花びら。想いを込めながら雫型の器へ入れた愛の花は、胸元で咲くペンダントに。
     そうして願う。どうか家族を護り、幸せをもたらしますように。
    「結構小さめなのよね……」
    「大丈夫。まだ入れ直せるからね」
     双調たちへそっと笑みを送りながら、勇弥が声をかける。その言葉に少し緊張を解いた涼子は、ドームに咲く赤ゼラニウムの上へ、震える手つきで青い羽を載せた。
     安堵しながら顔を上げれば、仲間たちの個性溢れる華やかな彩。
    「皆、綺麗ね」
    「うん。それぞれの彩りが、ガラスの器の中で揺れて」
     頷く凜の横顔を見ながら、愉しさに思わず笑みが毀れる。
     君ありて幸福――赤いガーベラの花言葉。まさにこの時間だ。
     手許に視線を落とし、最後に天道虫のチャームを入れる。ちいさな愛らしいこの子が、幸運を運んでくれますように。
     暖かな冬の午後。仲間たちの集う風景に、想い出す。
     ――大切な思い出。楓のもうひとつの花言葉に、勇弥は想いの花を掌で包みながら、ふわり笑った。

     えりながドーム型の器に入れるのは菜の花。幸せを運ぶ、春告げの小花。
     そんなお疲れ気味の親友へ紗里亜が贈るのは、スノードロップドームのイヤリング。彼女へ届ける応援歌だ。
     えりなからのお礼はペンダント。共に春を迎えられるよう。皆の希望が幸せとなって皆を包むように願う。
    「ハートの中に2枚の四つ葉のクローバー……うん、いい感じ♪」
     大切な人の誕生花。私を思って。幸運。約束。ずっと一緒と願う想い。
    「くるみは完成か」
    「気に入ってもらえたらうれしいな……えへへっ♪」
     ネックレスを手に口許綻ぶ娘に、徒も微笑する。
     とても幸せの心を込めて、徒が電球型の世界に降らせた姫梔子の白。愛しい娘への贈り物。こればかりは人の手を借りるわけにはいかない。
     恋人への捧げるのはピンクのガーベラ。硝子の試験管をチェーンに通す英明の傍ら、当の本人が高らかに叫ぶ。
    「燃え上がれ! わたしの妄想力(コスモ)!」
     囚人服風全身タイツの人形を荒ぶる鷹のポーズに変形! 山茶花を咥えさせ、電球型の器へイン!
     仕上げに『電導魔人に~こん(以下略)』プレートを添え、ヴェルディの名曲『怒りの日』を流して――フィニッシュ!!
    「……エミーリア。それは何なの?」
    「わたしも、なにがなんだかわかりませんっ!」
     あれが確実に贈られるであろうこの後の展開に、英明は色々な意味ですごい恋人とその作品を眺めてひとつ苦笑した。
    「みんなはどんなのを作っているのかな?」
    「私はアヤメの花にしてみたわ」
    「ふふ、いいですねえ♪」
     ジヴェアと紗里亜へ、結衣菜が硝子の器を揺らしてみせる。
     よりよい未来を紡いで欲しい。この世界は悪い物じゃ無い。そう信じる希望を、良いメッセージを、精一杯込めた花。
    「そうだね。これからもみんなが幸せであってくれたらいいな」
    「絆は、永遠よ。希望を信じて進みましょう」
     そう言って微笑む結衣菜に、ジヴェアもまた微笑んだ。
     娘の手にした硝子の髪飾りを彩るのは、苺の花と莢蒾の実。沢山の想いを込めた硝子の光が、きらり揺れる。
     硝子底の砂に散るラピスラズリの青と、揺蕩う錨草。旅路を思わせる一風景を閉じ込めた試験管の口に、髪結ぶ黄緑のリボンを切って結ぶ。
    「いいセンスしているな」
    「ファルケさん……、この葉っぱ使いませんか?」
     柚澄が差し出したのは、ヤドリギの葉。手許の硝子箱で咲く、赤いゼラニウムの花言葉を調べるそぶりで、ヤドリギの頁を繰る。
    「……いや、それは使う必要はないぜ」
     代わりに、そっと頬へ口づける。『私にキスして』――そう望んでくれるから。俺は、『君がいて幸福』だ。


     お久し振りね、と懐かしい声。変わらぬアリスの笑顔に、エマも再会を嬉しく思う。
     硝子球にそっと入れた昼顔の花。あの子を通してあの人まで繋がる切れない絆を、光で包む。
     白砂を添えて、リボンで飾って。術式を込めたアメシストの破片を入れたら、完成だ。
    「エマさんも作り終わったら、一緒にお茶なんてどうかしら?」
    「あっ、それは妙案ですね! よーし、頑張っちゃいます!」
    「エマは何を造るんだ?」
    「そういう周さんは? 誰かにあげるんですか?」
    「あたしは誰宛ってわけじゃなくて、願掛けってか集大成っていうか……一区切り?」
     春来れば社会人。ならば、これまでの素晴らしき日々を忘れぬように。学名に掛けて願った紫苑の花。雫型の耳飾りに、ふと笑みを零す。
    「学園に来たばっかだったら『やってられっか!』とか言い出してたかもだけどなー」
    「ふふ、そうかも」
     ついつい毀れた笑顔に、周もつられて笑み声を立てた。
     円筒型の器に、淡いピンクのライラック。『愛の芽生え』を冠する愛らしい花は、恋をしたてのエステルの頬のよう。
     片やエステルが選んだのはサイネリア。雛と一緒にいるときに感じる『喜び』は、雛もまた同じだ。
    「素敵な贈り物をメルスィ、エステル」
     優しく頭を撫でるぬくもりに幸せ一杯微笑むと、
    「うにゅ、ひなちゃんと一緒にこれからもいたいのです♪」
     エステルは愛らしいキスに、感謝をのせた。
     恋人への贈り物なら身近に置いて貰いたいから。響はピンクのアンスリウムと真紅の薔薇を封じた雫型のペンダントへ、目一杯の大好きを込める。
     当日までも、そしてこれからも。沢山の大好きを、あなたへ。
     静佳が選んだのは、硝子ドーム。紫を中心に選んだ花と装飾へ、丁寧に想いを込める。
     恋心かどうか解らない。渡せるかどうか解らない。
     けれど大切な、少しだけ特別なひとへの贈り物。
     底へ霞草の花弁を散らし、細く紡いだ白の霞草。これが最後と、紅緋は硝子の雫へ想いのすべてを託す。
    「『冥の一涙』……受け取ってください」
    「……ったく……お前はいつも仰々しいんだよ」
     けれど、それがけじめならば。静かに受け取る叶へ、娘もまた穏やかに笑んだ。背を向け席を立ち、離れた場所で待つ聖也の傍らに座る。
    「お待たせしました。さあ、作りましょうか」
     ハート型の容器にしようかな? お花はどんなのが好みです? 問いかけに導かれて出来上がったのは、華やかなピンクを基調としたハート型のアンクレット。
     これからも、願うならばずっと一緒に。
     まるで言葉のない手紙だと、依子は思う。
     溢れる想い出から見つけられぬ言葉を、一番は感謝の心を託すのは、春霞に似たピンクと白の霞草。
     あの人でないと、生きたいとこんなにも願わなかった。変わらぬ想いを星の砂燦めく雫に込めて、リボンを通す。
     さあ。どう、届けようか。
     炎を模すなら、と華月は硝子の雫を幾つか手に取った。赤銅色の硝子細工は標の燈火。添えるのは守護を願う淡青紫のブローディア。勝利の願いは月桂樹に託し、仕上げに金砂を散らす。
     この想いが力となりますように。金鎖で繋げた願いの炎を、大事な人へ捧ぐ。
     星団の名を冠するペンタスの花は、多くの人の願い叶えるための、星の魔女らしいおまじない。
    「将来に悩む少年へのちょっとした贈り物……ですから多智花様、どうぞ受け取ってください」
    「なんか、ステラがそー言うと本当に叶いそうだよな! じゃあ……お言葉に甘えて」
     おれのは釣鐘草にしてみた。ステラの瞳の色に似てるだろ? 魔法使いの道具っぽい球体に入れてみたんだ。
     そう声を弾ませる少年と交換したのは、薄紫の花咲く、硝子球のストラップ。ふわりと掌に乗せられた瞬間、こっそりと掛けた魔女の掛詞。
     ――亡き母上の『希望が叶(かなふ)』。
     いずれ咲く梔の花を愉しみに。少年の感謝の笑顔へ、魔女もまた瞳を細める。
     互いへ贈る花を選ぶ、穂純と叶。
     希望、そしてその実現。レンギョウの花言葉に声弾ませながら、霞草とイエローメノウと共に、硝子の雫へ。造るのは、陽の輝きに満ちたどこまでも綺麗な世界だ。
    「叶君のも見せて見せて」
    「……センスは保証しねーぞ?」
     硝子の電球に映したのは、どこか懐かしい野山の風景。一面の緑に、黄色く愛らしい雉莚が優しく揺れる。
    「この花、穂純の故郷にもあったらいーなって思ってさ」
     辛く悲しいときに、元気が出るように。白のオパールも添えて、願うは『明るい輝き』。
     ありがとうと笑み重ね、互いのストラップを――心を、贈り合う。
    「……なんだ、お前も『花』を選ばなかったのか」
     錠の言葉に微妙に腹立ちながらも、葉は静かに硝子を陽に翳した。光を透いた名も無き葉の葉脈はどこか血管をも思わせ、鎖された硝子の檻で静かに脈打つひとひらに己を重ねて、自嘲気味に嗤う。
    「なァ葉、紐の色何にするよ?」
     円筒形の硝子管に揺れる、蒲公英の綿毛ふたつ。絶対に別れが訪れないよう封をした、『別離』の言葉。
    「……つかまた紐の色被ってんじゃん!」
    「もうなんでもいいわ」
     似てないはずなのに続くシンクロなら、これが自分たちというモノなのだろう。
     ならば、唯ありのまま。其処に、息衝いていればいい。
     最初に、空色のちいさな小さなブリオン。次いで勿忘草を入れ、銀の栓で封を。ストラップをつければ、いつでも眺められる紗夜だけの標本の完成だ。
     好きな青で満たした試験管。私を忘れないで――それは、記憶を褪せさせないための言葉。
     烏子の渡した深紅へ雪白が寄り添い、透明な涕の底へ相想華が沈む。降注ぐ玻璃の六葩の加護。毀れそうになった言葉に、烏芥は封をする。
     今はまだ、赦されない。けれど、重ね続けた想いだけは此処に。
     君は気づくだろうか。
     掌の涙を包み、澄んだ空へ融けゆくように永遠を想う。
    「う、ん、私の好きな花って大きなものばかりだったな……。叶君はどうする?」
    「諦めた」
     年下の思いも寄らぬ即決に驚きながら、程なく熟考に入った都璃に、エマは思わず笑みを洩らす。
    「都璃ちゃん。とりあえずお店見てくるのはどう?」
    「そうだな……行ってくる」
     ――そうして数分後。
    「おかえり。勿忘草にしたんだね」
    「ああ。この花の淡い青色が好きなんだ。そうだ、形は丸にしよう。花の色が好きだから、他の装飾は硝子を少し入れるくらいで……」
    「ふふ、良かった。冬舞くんはどうですか?」
    「俺のは、ほら、見たら分かるだろうけど」
     それはまるで雪のような硝子球だった。
     白砂、ダイヤモンドリリー、ネリネのライトピンク。想いを込めて選んだ、淡い白花と花言葉。紫色の装飾で飾られたそれは、屹度どこかで生きているであろう彼女へ。
    「……また、会いたいなと思う」
    「……私も」
     ずっとずっと先で良い。戦場じゃない、別の場所で。
     ――ハッピーバレンタイン。貴女の見る夢が、幸せでありますように。
    「さてと、私は完成です」
    「おれも。エマは?」
    「……分相応という言葉に倣いました」
     不器用なりに造ったのは、円筒型のストラップ。白砂に鮮やかなポトスの葉に『長い幸せ』を祈り託す。
     叶は硝子の蕾に咲くトルコキキョウ。良い語らい、深い思いやりへの感謝を込めて。
    「私からはこちらです」
     ハナミズキの周りに散らした桜の花びら。来年も造りに来られるようにと願いを込めて、3種の桜をブレスレットに。
    「叶君には山桜、エマには染井吉野、叶君のお父さんに八重桜を」
    「種類が違うのは理由があるのか?」
    「……私なら枝垂桜かしら?」
     不思議そうな視線へと返す笑顔に、恵理は本心と、ほんの少しの誤魔化しを混ぜた。


     硝子の蕾の内側に咲かせた桜と雪結晶。これは結び目だと、小太郎が顔近くで囁く。
     これまでの春がこれからの春を支えてくれるように。
    「へへ……きさのも似てるかも」
     希沙の雫の世界に降る、スイートピーの青い花弁。白いパールと赤リボンのハート。
     門出への祝福。沢山の想い出。愛を結んでこれからも共に。ふたりそれを想えることが、唯々嬉しい。
     ふたつ合わせて出来たハートに照れ笑い。今日もまた、殊更愛おしい新たな結び目。
     ふと見た横顔に、互いに見惚れたことは知らぬまま。込めた想いも秘密のままに、広樹と澪音は掌の硝子を差し出した。
     ダイヤモンドに眠るのは、ゼラニウムの赤い花。伝えたい想いは尽きぬけれど、君がいて幸せ――これだけは屹度ずっと変わらない。
     いつもふたりで前へと。澪音の想いは蒲公英とガーベラに託して、雫へ。互いの心を受け取って、微笑んで。これからも共に。そう誓う。
     タタリカとストロベリーフィールド。思い当たる花言葉に忽ち赤面した颯音を覗き見て、朔夜も笑う。
     恋愛の趣味だけが変わっている。そう呟く首許へ、ふわりと硝子の雫が毀れた。燦めきへと口付けて、眸を見て。
    「変わらぬ心と親愛を、キミに……なんて、ちょっとキザだった?」
    「ふふ、君がやると違和感がないなぁ」
     なら、俺からはこれしかない。首へとかけた硝子箱の内には、リナリアに白ツツジ。
     本当、素直じゃないのはどっちだろうね?
     肩車して見つけた、一等綺麗な桐の花。花を螺旋に絡めて葉を散らし、王冠を戴いた硝子管と虎目石を、銀鎖で繋ぐ。好きな読書に安らぎを与える、それは栞だった。
     請われて貸した腕に巻かれた、紅い革紐。想いを込めた蕾の硝子に揺れるのは、ふたりの誕生花たる芝桜と四つ葉のクローバー。
    「君と俺を繋ぐ赤い糸を伝って、幸運が花開きます様に……なんて」
    「おー…運命やな! 俺今すぐ花開きそうやー」
     ぱっかーん! そう両手を広げる悟に、想希も柔くはにかんだ。
     透いたダイヤの内側。水色のラベンダーに壱が添えたのは、手紙の中にあった深い青の百日紅。
     みをきからは、硝子球に一輪のマーガレットが咲くネックレス。
     御守りに。そして、忘れないでと叫ぶのではなく、これからは信頼を胸に。
     囁く声に、瞬いて、はにかんで。ねえ、と愛しいその名を呼ぶ。
     また色んな処に出かけよう。覚えきれぬ程の想い出なら、繋いだ手の温もりを刻んでいこう。
     そうして想い出に笑顔重ねて、明日も、その先も――ずっとふたり、笑顔で。
     己は優しさを、愉しさを、与えられているだろうか。その不安を払い、久良は笑顔を向けた。大好きだから。幸せだから。――幸せに、したいから。
     その想いは和弥も同じ。言葉で伝えきれない想いを一輪の雛草に託して、硝子球に込める。
     雫のペンダントヘッドに込めた桔梗の花。永遠の愛と誠実。愛しさのまま、ずっと、そっと、優しく寄り添いたい。
    「私のは……シンプルなのは、技量の問題ではないぞ」
     秘めた言葉は『会える幸せ』。後で調べて、ひとり悶えるが良い。
     千日紅と胡椒木が描く薄暮の空。どうか彼の内に吹く晨風と共にお護りくださるよう。愛しいひとに重ね見るその彩に、散耶は変わらぬ愛を託す。
    「有難う、散耶。大切にする」
     永久に、共に。願い乗せた淡いピンクの霞草に添えた、紫珊瑚。娘色を詰めた硝子の蕾を首に掛け、乙彦は常に傍で君を護りたいと心から想う。
    「……有難うございます、五十鈴さま」
     額への口付けに赤染めながら、背伸びして。大切にします、と囁いた散耶の唇がそっと、頬へと触れた。
     夜霧の手には硝子球の首飾り。愛らしい、賢明、殊勝。珊瑚に寄り添う雪柳の花言葉は、サーニャに良く似合う。
    「夜霧殿ー、手首ちょっと貸して!」
     そう言って巻かれた燕の留め具のブレスレット。揺れる硝子箱には、ジャスミンを敷き詰めた上に千日紅が浮かぶ。ハートを思わせる、一輪の真紅。
     ずっとずっと大好き。伝えたい言葉は、それ以外はきっとない。
    「……どうか、来年も変わらずに居てくれ」
    「それなら夜霧殿も。いつでも触れられる場所にいてね」

     花に託して。硝子に籠めて。
     どれだけ刻を重ねても、ずっとずっと変わらない思いを――君へ。

    作者:西宮チヒロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月13日
    難度:簡単
    参加:53人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 3
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