●
午後4時40分。
放課後。校舎の屋上は、校庭で部活動に励む生徒たちの甲高い声が微かに聞こえてくる。
休み時間や掃除の時間帯にしか入ることのできない屋上は、帰りのホームルームが終わるころには既に閉められている。
そこへ、一人の女生徒がやってきた。
先生から預かった鍵を使い、屋上の扉を開ける。
「まこから貰ったキーホルダー、どこにいったんだろう?」
ひと気のない屋上は、少しだけ怖い。その感情を払うように、長坂・萌愛は小さな声で呟いた。
微かに聞こえてくる部活動の音も、隔離された世界を表すものでしかない。
掃除の担当箇所は、1週間で変わる。
今週の屋上担当の一人である萌愛は、誕生日に友人のまこから貰ったキーホルダーを落としてしまった。
職員室にある落とし物箱、教室、廊下、更衣室、それらを丁寧に見ていって、最終的に屋上へと辿り着いた。
探しながら、早く出なければ、と、萌愛は腕時計へ視線を落とした。
萌愛の腕時計の秒針が規則正しく動く。
中学校に入学した日、両親から贈られた時計は壊れることなく、正確な時を刻んでいた。
午後4時44分。
その時、しくしく、しくしく――と、静かに泣く誰かの声が少女の耳に届いた。
「……?」
周囲を見回し――ソレに気付いた時、少女は身を強張らせた。
古めかしい制服を着た女生徒がいる。
『サミシイ……サミシイ、ノ。ネエ、私ト一緒ニ、イテ』
その声に、少女は怖気だち、悲鳴をあげようとした瞬間――強風だろうか、空気の圧だろうか――衝撃が萌愛の身体を叩く。
「……ッ」
ぶわりと浮く感覚、冬晴れの空が視界いっぱいに。
そして首に纏わる冷ややかな何か。
それらを認識する前に、萌愛の世界は閉ざされる。
のちに遺品となった腕時計の針は、4時44分44秒で止まっていた。
人間関係に問題があったのではないか。
学校の態勢に問題が――様々なことが話にあがった。
けれど、長坂・萌愛は穏やかな女生徒で素行に問題があるわけではない。
その日の状況として、転落したのだろう、と。
体育館で行われた朝礼で、屋上は立ち入り禁止となったことを知らされ、黙祷を捧げる生徒と教師。
だが屋上のフェンスは2メートルもある。落とし物がフェンス向こうにあったとしても、校舎の端まで手は届く。
不自然な転落に、生徒たちは「噂」の確信を持ってしまう。
『4時44分44秒の屋上にいると、昔に転落した女生徒が、淋しさのあまり友達を作りにくる』
――七不思議の一つ。
●
灼滅者を待つ遥神・鳴歌(高校生エクスブレイン・dn0221)は、少し悲しそうな顔で手元の資料を見ていた。
だが教室内に入ってくる灼滅者たちに気付くと、ぱっと顔をあげ、「待っていたわ」と告げた。
微笑んでいるが、上手く隠せていない。そんな表情。
「サイキック・リベレイターに関する投票で、今度は民間活動を行うことになったわね。
サイキック・リベレイターを使用しない、それによって、わたしたちエクスブレインも予知が行えるようになったの。そうしたら、タタリガミ勢力の活動が明るみに出たの」
タタリガミ達は、エクスブレインに予知されないことを利用し、学校の七不思議の都市伝説化を推し進めているようだ。
「閉鎖社会である学校内でのみ語られる学校の七不思議は、予知以外の方法で察知することが難しくて、かなりの数の七不思議が生み出されてしまっているみたい」
だからね、と鳴歌は言う。
「この七不思議については、可能な限り予知を行なって、虱潰しに撃破していくことになるから、灼滅者の皆さんも協力をお願いします。
今回、皆さんには北九州にある中学校の七不思議を撃破してきてほしいの」
そう言って鳴歌は灼滅者に資料を渡した。
「この中学校の七不思議の一つに、『4時44分44秒の屋上にいると、昔に転落した女生徒が、淋しさのあまり友達を作りにくる』というものがあって……既に被害者が出ているの」
「それは……」
「ええ、引きずり落としたみたい――ううん、正確には生徒の身体を持ち上げ、フェンス向こうへと落とす。
そんな手口ね」
都市伝説の女生徒のポジションはスナイパー。霊ならではの攻撃をしてくる。
「都市伝説は、タタリガミが生み出した都市伝説だけれど、皆さんの脅威でないわ。
だから、周囲に被害が出ない範囲で『より多くの生徒・学生に事件を目撃』させる作戦を行ってほしいの」
それが、民間活動だ。
バベルの鎖によって、都市伝説やダークネス事件は『過剰に伝播しない』という特性がある。
しかし、直接目にした人間には、バベルの鎖の効果はないのだ。
目撃者が他人に話しても信じてくれないということはあるが、直接事件を目にした関係者は、それを事実として認識してくれる。
一般人の多くが、都市伝説やダークネス事件を直接目撃することで、一般人の認識を変えていくのが『民間活動』の主軸となる。
「可能な範囲で目撃者を増やして貰えば……と思っているわ。
簡単な作戦としては、都市伝説と一緒に一人か二人、屋上から落ちて着地した場で待機していた皆さんも迎え撃ち、戦闘を行う――ちょうど放課後の時間帯だし、それなりに人はいると思うの。
まあ、これは例の一つだから、実際の作戦については皆さんにお任せするわね」
敵は強敵ではないが、多くの一般人に目撃させた上で灼滅するためには、相応の準備と作戦が必要かもしれない。
「事件を目撃した生徒や教師に、どのような指示や説明を行うかも必要だと思うし、今後、どのような行動をして欲しいかを考えて呼びかけを行うのも良いと思うわ。
けれど、彼らにとって、灼滅者の皆さんは『不思議な力で七不思議を倒した人たち』という認識になるでしょうね。
初めて会う彼らに信用されて話を聞いてもらうには、信用されやすい演技や演出が重要になってくるかも」
鳴歌の言葉に、灼滅者はテストの難しい問題に向き合うような顔を浮かべ、頷くのだった。
参加者 | |
---|---|
ポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268) |
鹿野・小太郎(雪冤・d00795) |
紫乃崎・謡(紫鬼・d02208) |
黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213) |
篠村・希沙(暁降・d03465) |
野乃・御伽(アクロファイア・d15646) |
琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803) |
ラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877) |
●
授業が行われている。
琶咲・輝乃(紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803)は静かな廊下を歩く。
職員室へと入る時に自然な流れで軽く一礼。闇を纏っているため、職員は輝乃には気付かない。
壁にかかる校内図を描き写し、輝乃は鍵掛から屋上の扉を開ける鍵をそっと手にする。
そして教師陣のデスクへと静かに寄った。クラスを受け持つ教師は、デスクマットにクラス名簿を挟んでいるようだ。それを輝乃は丁寧に見ていく。
(「……いた」)
やがて見つけた名を指先でなぞった。
長坂・萌愛(ながさか・もえ)。
里井・真心(さとい・まこ)。
終礼ののち下校の時間となる。
これから部活動をする生徒らが我先にと飛び出してきて、黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)は廊下端へと避けた。
目を向ける生徒たちだが、プラチナチケットを発動している蓮司に何らかを思ったのか一礼し、足早に去った。
彼は輝乃から聞いた教室に着き、真心を呼んでもらった。
「まこー、なんか卒業生が訪ねてきてるよ」
「……え」
座っていたショートボブの女生徒が動いた。献花のある後ろの席に肩肘を突き、考えごとをしていたらしい『まこ』は怪訝な顔のまま、こちらへやってくる。どこか虚ろな目をして。
クラスメイト数人が心配そうな顔で二人を見ている。
まずは挨拶。怪事件を調査する組織の者として蓮司は話す。
「その後、調査して分かったんですが、萌愛さんの死は陰謀によるものでして」
『まこ』の顔色が更に悪くなる。だが、彼女は蓮司をしっかりと見た。
「その元凶を炙り出します。
見届けるなら、4時44分に校庭で待ってて下さい」
そう告げて蓮司が教室を離れると、ガタンと中で物音が立った。
「ま、まこ。大丈夫? ……今のって」
友人の死を抱える少女たちは、小さな声で話し続ける――。
「うわ、おっきな犬だなあ! な、撫でていい? 噛まないでね?」
犬が吠え、尻尾をぶんぶんと振りながら頭を生徒の手へと向けた。
「いけた!」
「おい、撫でていいってよ!」
頭どころか胴も、野球部男子生徒の力で撫でられまさぐられた犬の毛並みはぼさぼさだ。
ぶるりと体を震わせて走り出した大きな犬は、歩いてくる青年を中心に一周し、気ままそうに別の集団へと突っこんでいった。――ニホンオオカミの姿に戻っているラススヴィ・ビェールィ(皓い暁・d25877)に歓声をあげるサッカー部。
大きく吠える犬の声が響き渡る。
校内に迷い込んできた犬に、校庭の生徒は釘づけだ。
紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)が見ていると、わざわざ友達を呼びに行く生徒までいた。
陽気に騒がしくなった校庭を、篠村・希沙(暁降・d03465)は微笑ましく眺める。
時折すれ違う生徒と笑顔で挨拶を交わしながらも、屋上へと意識はむけたまま。
先程犬が駆け寄った者、青年に野球部は目を向けた。
「よっ、ちょっといいか?」
彼らに声を掛けたのは、野乃・御伽(アクロファイア・d15646)だ。
「?」
「コンチワー」
「ちわー」
部外者だ、という興味津々な顔を隠しもせず、しかしかしこまった声色の生徒たちに、御伽は挨拶を返す。
「どうかしたんですか?」
そう聞く生徒に、頷く御伽。
「久しぶりに母校へ来てみたら、不穏な噂を聞いたんだが知ってるか?」
「あれだろ……屋上の」
「ばっか、言ったら呪われるぞ!」
ひそひそとやり取りをする数人を見て、御伽は言葉を重ねる。
「最近もその噂と同じような事件があったんだろ?」
「うー……うん」
こくりと頷く生徒。知っているのなら、卒業生なら、という生徒間の共有する空気が流れた。
「俺の時も色々と七不思議はあったが、本当にいたりしてな」
「いるんだよ。じゃないと、おかしいよ」
そう言った生徒の言葉をきっかけに、話は深まっていく。
「おっきな犬が迷い込んでるらしいぜ!」
「まじか! あっ、すんません……?」
廊下の両端へ避けた他校生二人に向けて、謝りながらも生徒数人が廊下を駆けて行く。
「こら! 廊下は走らない!」
教員が注意を飛ばした後、鹿野・小太郎(雪冤・d00795)とポンパドール・ガレット(火翼の王・d00268)に気付き、やや怪訝な目を向けた。
二人が一礼し、小太郎が言う。
「卒業生の佐藤です。大学合格の報告をしたくて。
訪問許可は事務の方にいただきましたが……ご確認いただけますか?」
「まあ、合格おめでとう。
入構許可証を貰わなかったのね。確認がてら、持ってくるから待っていて頂戴」
去る教員を見送り、足早となった二人は鍵を使い無事に屋上へ到着。
4時44分44秒を待った。
小太郎は黒革のバングルに目を落とす。萩咲く文字盤――時は、後、少し。
「間にあわなかったの、つらいな」
ここで起こったことに思いを馳せて、ポンパドールが呟いたその時、静かに泣く誰かの声。
『サミシイ……サミシイ、ノ。ネエ、私ト一緒ニ、イテ』
現れた三つ編みの女生徒の眼は穴が空いたように暗く、されど頬は濡れている。
小太郎が目を逸らさず、ゆっくりとフェンスまで後退する。
「もっと友達が欲しいなら、一緒に下までおいで」
しくしくと泣きながら、都市伝説が手を掲げるのと、ポンパドールがその手を掴むべく動いたのは同時。
●
「わあ、ハーフさんなんですか! さっきから綺麗だなぁって見てたんですよ」
「ちょっと照れるんやけど、ありがとう」
家庭科室の窓越しに、手芸部の子たちに話しかけられていた希沙はにっこりと微笑んだ。
三棟と体育館はそれぞれ校庭に面していて、件の屋上はここからだとよく見える――瞬間、小太郎の背を視認した希沙は、駆けだした。
「屋上を見て!」
割り込みヴォイスは、ざわめきのなか彼女の声を綺麗に通す。
「なんだありゃ?」
ゴージャスモードを発動させ、御伽もまた指差す。
生徒の目が逸れ、その隙にラススヴィは人間の姿へと戻った。
「うわ、落ちた!」
生徒たちの悲鳴が状況を捉えている。駆ける御伽とラススヴィの後を、少し逡巡し追いかける生徒。
ダブルジャンプした小太郎は宙返りをして着地し、二拍遅れて都市伝説と一緒に落ちるポンパドールは敵の腕を払い、華麗に着地した。
「くそっ、ホントに出やがった! 屋上の七不思議、おさげの女の子!」
ふわり、と緩やかに着地する都市伝説は、首を傾げた。
『一緒ニ、イテクレナイ、ノ?』
腹をぞろりと撫でられるような怖気だつ声に、近くの女生徒が悲鳴をあげる。
刹那、ゆるゆると声の方を向く都市伝説と女生徒を遮るように奇矯遊戯が現れる。謡だ。
その隙に希沙が女生徒の手を引き、下がってと周囲を後退させる。
「相手を間違えているよ。あなたの相手はボクたちだ」
ゴージャスモードを発動し、告げる謡。ほぅ、と感嘆の吐息を洩らすのは近くにいた生徒だ。
謡の体の包帯のように都市伝説へと巻き付く影は、突如発現した影刃に裂かれた。
そのままうねり、ポンパドールに絡み付く。
「うわわ!」
ポンパドールは慌てながらも敢えて払わない。
「ヴェスティブルーム・ノーラム」
スレイヤーカードの封印を解除した輝乃は、制服の上に勿忘草色と白を織り交ぜた着流しを羽織る姿となった。
同時に出した影獅子を輝乃は撫でる。
(「これ以上犠牲は出させない」)
「皆を守ろう」
影獅子を背に、輝乃は都市伝説に対峙した。囲い込み、皆が油断ない目を敵に向けている。
灼滅者も、生徒も、だ。
息をつめた場に教員の駆けつけてる声が聞こえたが、すぐに静かになる。
一種の膠着状態のなか、蓮司が都市伝説へと語り掛けた。
「余程の事がなけりゃあんな場所から落ちねぇし、人間をフェンス外に放り投げるなんざ不可能だ。
アンタが噂の正体。
……で、萌愛さんを殺った張本人か」
波紋のように広がる、ざわめき。怯えた声。
「皆さん、目を逸らさずに見てください。
これは夢でもCGでもないんです」
淡々とした小太郎の声が、現実なのだと悟らせる。
底知れぬ眼窩から流れる涙そのままに、三つ編みの女生徒はクスクスと嗤った。
それに同調し、敵の影刃がくるりと回る。
「気を付けろ、来るぞ」
仲間だけでなく、背後の生徒たちにも届くようにラススヴィが言った。
●
絶え間なく動く敵の影を常に捉える位置で、謡が紫苑十字から光の砲弾を放った。
一般人にその刃を向けないよう、敵側へ押し込むように攻撃する。
光によって業を凍結され、わずかにぶれた敵の体の方へ、影は大きく円を描いた。
敵自体の動作は最小。だが、操る影はすぐに伸びてくる。
(「これまでの戦いと、同じだけれど違うのだね。
守り抜くものから、守りながら挑むものに。
世の真実と戦う為には、これからの姿勢が大切になる……という事か」)
しなやかな動きで駆けた謡が接敵していく。
「な、何なんだこれは」
五十代半ばの男教師が呆然と呟いた。
「すごい!」
興奮したように声を上げるのは生徒。
「あっ、また! 危ない!」
女生徒の声と同時、敵の影が質量を増し、希沙を喰らう。
「だ、大丈夫」
希沙は女生徒に応じた。やや集中攻撃を受けていたが、防御力を強化されている。
「回復するよ」
輝乃から白き炎が放出され、前衛の傷を辿り癒していく。
影獅子とともに守るように立っている輝乃の言葉に、ほっとしたのは周囲の生徒だった。
灼滅者たちは敵と拮抗するように、じわりじわりと攻撃を重ねていく。
「これ以上の怪異は食い止めさせてもらうぞ!」
巨大な刀――無敵斬艦刀を軽々と振り、畏れを纏ったラススヴィが鬼気迫る斬撃を放った。
『……ッ』
都市伝説が一旦手を引き、振り上げるように翳せば、空気の弾が放たれた。射線に割り込んだポンパドールを撃つ。
「うわっ」
ざざっと滑るように倒れたポンパドールだったが、生徒の声を受け跳ねるように立ち上がる。
白金色の巨大なガントレットから癒しの霊力が発現していた。
「おどろかせちゃったネ! ヘーキ!」
頬を擦りながらにこっと笑ったポンパドールは、次に都市伝説をキッと見た。
「おまえのせいで人が死んだんだぞ、絶対ゆるさないからな!」
彼に同調するように、ウイングキャットのチャルダッシュが猫魔法を放ち敵を攻撃した。
蓮司の槍の妖気が変換されていく。
(「……今までならこんな事、動き出す前に封殺されてた」)
それだけ、情勢は変わったということなのだろう。
(「だったら、とことんやらせて貰いましょう」)
冷気のつららは都市伝説を穿ち、二歩三歩とよろめかせる。
その隙に乗じて大振りに動く敵の影刃を踏み、跳躍接敵する小太郎の風奏が敵を捉える。
敵の眼窩も小太郎を捉えたようだ。
友達と呼べる人を亡くした経験はない。
けれど、もしも、と想像しただけで彼の胸は潰れそうになる。
(「淋しさを癒す為に奪っていいものなんてない。
……呪いは、ここで断ち切る」)
小太郎の重力を宿した蹴りが煌きをのこす。
「やるなぁ、鹿野!」
ニヤリと口角を上げた御伽は既に駆け出している。友人との戦闘は特に心が躍る、と、軽やかな足捌きが語る。
「んじゃ、次は俺の番」
炎纏のオーラ鮮やかな御伽が敵懐に踏みこみ、半身を捻り下方に引いた拳に雷気を宿す。
突き上げられた一打と昇雷、そして発動されているESPの力に「おぉ」と生徒たちが感動の声を上げた。
「七不思議事件も今日で終いだ」
『一緒ニ……』
都市伝説が伸ばす手が大樹を掴んだ。
「萌愛さんの無念を晴らしたいんよ。
贖いや」
希沙の森の手から蔦の如く霊力の網が敵を縛り上げた刹那、ふっと都市伝説は掻き消え灼滅された。
「えっ」
「き、消えた!」
戸惑いの声は一瞬だった。
灼滅者たちを歓声が包みこむ。
●
「怖がらせてごめんなさい」
怪我の有無を確かめながら希沙が言った。
謡も言葉を重ねる。
「落ち着いて聞いて欲しい。
そしてこれから伝える事の受け取り方は託す」
まずは武蔵坂学園の存在を明かす。八人とも制服を着ていたので、そこはすんなりと信じてもらえたようだ。
「怪異が他にも起きていて、今回のように対応しているんだ」
御伽の言葉に、彼らは考えるような仕種。
「他者へ話しても信じてもらえないんだが、現実だ」
「学校に怪談は付き物やけど、悪霊のよなものは確かに存在してて、わたし達は、それと戦ってます」
希沙に続き、小太郎。
「オレ達の力は、皆さんを護るためにあります」
どうか信じて、と重ねる灼滅者の声に「やべぇ!」と生徒の声があがった。
「いや、これ、信じるだろ」
「うん、すごかった!」
生徒の反応に、灼滅者たちは安堵する。
一人の教師が寄ってきて小声で尋ねた。
「長坂の死は……」
蓮司は頷きで応えた。彼女の担任だろう。
そうですか、と教師は呟いた。
「似た様な事件を幾つも追っています。
さっきの奴より危険なのも大勢いましてね」
被害者も大勢いた。
――真心に希沙が話しかけている。
耐えきれず泣く彼女の手を握り、首を振っている。
「不思議な力で戦うんだなー」
「ねこちゃん可愛いー」
「だってさ、チャル」
ふよふよと浮かぶチャルダッシュを撫でてもいい? とポンパドールに聞く生徒たち。
チャルのことを説明し、輝乃もまたfamilia pupaを用いて説明をしている。
顔の右側をお面で隠しているが、紫色の左目は年相応に柔らかだ。
「可愛いお人形さんだねぇ。宙に浮いてるの、不思議……」
片翼の二体の人形を動かす輝乃に、マジックみたい! と女生徒がはしゃぐ。
「まだ小さいのに、あんなのと戦うなんて、すごいねぇ」
「強くなる、って決めたから」
「萌愛さんのことを忘れないで」
彼女のための送り火を――希沙は指先に炎を灯した。
「……っ、あ、あり、がとう……っ」
しゃくりあげながら真心が言う。
知っていた。
屋上に行った理由。
何も知らない先生が届け、それで悟って、キーホルダーを捨てようとして捨てられなくて。
誰にも言えてない。動けない。
「失った悲しみが今は癒えなくても、いつかは笑えるように。
俺達はそう願ってる」
御伽の言葉に、一度だけ、頷きが返ってくる。
「少なくとも、今回の悪いものはきちんと退治した。
どうかそれを以て弔いにして貰えると嬉しい」
謡が静かに告げた。
「二度と同じ事を繰り返さぬ為に、噂を齧れば連絡を」
そう言い連絡先を渡す。
より強く頷いたのは真心たち数名の女生徒だ。
一礼して歩き出すと、思い出したように一部の生徒が犬を探し始める声に、ふと遠くに目をやるラススヴィ。
やれやれ、と息を吐いた。
「これでどれぐらい伝播するのだろうな」
生徒たちのSNSなども活発に動くだろう。
民間活動を終え、灼滅者たちは学園への帰途につくのだった。
作者:ねこあじ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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