民間活動~人間将棋的な何か

    作者:泰月

    ●山形県、天童市某所
    「王!」
    「ペナ!」
    「金!」
    「ペナ!」
    「銀!」
    「ペナ!」
    「桂馬!」
    「ペナ!」
    「香車!」
    「ペナ!」
    「飛車角!」
    「ペナ!!」
     ご当地怪人の点呼の声に、ペナント怪人たちがいい返事を返す。
     彼らの三角形なペナント頭の中には、日本人なら触れずとも目にしたことくらいならあるであろう、特徴的な五角形が描かれていた。
     その様子に満足げに頷くご当地怪人の頭も、同じ五角形――将棋の駒、だった。
    「あとはこの俺、天童将棋怪人が全ての歩として動けば、将棋の体をなす――これで出来るぞ。将棋ブームを巻き起こし世界征服する為の、人間将棋ゲームがな! さあ、対戦相手を探してくるのだ。なんなら、ちょっと強引に連れて来ても構わないぞ! グローバルジャスティス様のためだからな!」

    ●ご当地怪人流将棋
     サイキック・リベレイターを撃たず、民間活動を行う。
     それが、今しばらくの武蔵坂学園の方針となった。
    「当面は、多くの一般人に事件を目撃して貰って、ダークネスという存在がいる事、灼滅者がそのダークネスと戦い世界を護っている事を知って貰う事になるわ」
     都市伝説やダークネス事件はバベルの鎖によって『過剰に伝播しない』。
     だが、直接目にした事実が、消えるわけではないのだ。
     より多くの人々に、ダークネス事件を見て貰う事で、世間の認識を変えていくのが、民間活動の主軸である。
    「というわけで、民間活動に丁度良さそうなご当地怪人が見つかったわ」
     夏月・柊子(大学生エクスブレイン・dn0090)は教室に集まった灼滅者達に、そう話を切り出した。
     サイキック・リベレイターを撃たない事で、エクスブレイン達も以前のように特定のダークネスによらない予知ができるようになったのだ。
    「相手は、天童将棋怪人。と、それに従う将棋ペナント怪人6体よ。どうやら、一般人を巻き込んだ人間将棋ゲームで世界征服を企んでるみたい」
     文字通り、人間が将棋の駒になりきる類のものだが、ご当地怪人の手にかかると何かがおかしくなるわけで。
    「あれ。でも将棋の駒って――」
    「20枚ずつね。数が足りない、でしょう? でもね――」
     上がった疑問の声を途中で制して、柊子は沈痛な様子で話を続けた。
    「ペナント怪人達は、それぞれ特定の駒の役割を担当させられているわ。王将と金将と銀将、桂馬と香車――飛車角」
     王将と飛車角は1枚だが、金銀桂馬香車は2枚ずつある。
     つまり、駒の数で考えれば王将役以外、1人2役!
    「で、残りの歩だけど、なんと将棋怪人が全部ひとりで担当する所存」
     同じく駒の数で計算すると、なんと1人9役である!
    「しかも、王手がないわ。相手チームを盤上から押し出して、全滅させれば勝ち」
     ダークネスと一般人がまともにぶつかれば、一般人に勝ち目はないどころか、割と凄惨な現場が生まれてしまう。
     ご当地怪人には、そういう事は望まない者も珍しくない。世界征服のために、という言葉がつくが、それはそれ。
     今回も、手加減可能なルールにした、という面もあるのだろう。
    「灼滅者相手となれば、本気で来るわよ。敵の戦法は、完全な将棋怪人ワントップ。具体的には、ペナント怪人たちが将棋怪人を強化する方向」
     6体がそれぞれ、違う方向で強化を付与する。6体とも、攻撃はご当地ビームくらいしか使わない支援に徹底する方針だ。
    「あとは、状況ね。民間活動も行うなら、一般人が多い状況下での戦闘になる筈よ」
     今の灼滅者達の力なら、一般人の安全を確保しつつダークネスと戦う事も可能。
     そう判断された事が、民間活動に踏み切った理由の一つでもある。
    「人間将棋に乗るか乗らないかは任せるけど――民間活動の観点から言えば、灼滅者が一般人の味方であるのが判るようにした方が良いと思うわ」
     参考になるか判らないけれど、と将棋の案内本を灼滅者達に配りながら、柊子はそう話を締めくくったのだった。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    田中・良信(宇都宮餃子の伝道師・d32002)
    茶倉・紫月(影縫い・d35017)

    ■リプレイ

    ●開幕
     天童市のとある広場。
     普段は何でもないそこに、今は巨大な将棋盤が鎮座していた。
    「人間将棋をするペナ!」
    「何でも好きな駒の役になっていいペナよ」
     その盤上にいるのは、将棋の駒が書かれたペナント頭達と一般人数名の姿があった。
    「え? 何で? こんな場所で人間将棋やってんの?」
    「無理矢理連れて来てそんなこと言われても……」
    「将棋のルール、よく知らないし」
     半ば無理矢理連れて来られて困惑気味の一般人達は、10代から30代くらいか。所謂、健康的な若者という感じだ。
    「将棋のルールなんぞ、気にせんでいいぞ。押し出せば勝ちだからな」
     ペナント怪人達の後ろにいた将棋頭の怪人に、無駄に重苦しい声で告げられて一般人達が押し黙った時だった。
    「その勝負待った! 僕達で預かります!」
     戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)の声が「勝負するペナ」と囃し立てるペナント怪人達の声に割り込んで響き渡る。
    「一手対局申し込むっす」
     鉢巻巻いて『銀』と書かれたゼッケンをつけたギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)を先頭に、灼滅者達が巨大将棋盤の上に上がってきた。
    「す、既に将棋ゼッケンを着てるペナ!」
    「やる気ペナ。どうするペナ?」
     全員がそれぞれ思い思いの駒の将棋ゼッケンという灼滅者達の様子に、驚きを隠せないペナント怪人達。
    「将棋怪人! 将棋の未来を憂う気持ちに嘘偽りがないのなら、その誇りと信念を賭けて全ての力を存分に震える相手と戦え!」
    「別に将棋の未来を憂いてはいないが……誇りと信念を賭けろと言われては、引き下がれんな!」
     蔵乃祐が言い放った言葉に、頷き答える天童将棋怪人。
    「代わりにやってくれるのか!」
    「やりたくないから、困ってたんだ」
    「君達、観光で来てるの?」
    「季節外れな上に変な人間将棋っぽいけど、楽しんでね。私達はこれで」
     これ幸いにどうぞどうぞと、将棋盤を降りて帰ろうとする一般人達。
    「ちょ、ちょっと待つペナ!」
    「折角連れてきたのに、帰るなペナ!」
     ペナント怪人達が引き留めようとする。
    「暇があるなら、残ってみてかない? きっと面白いものが見られるよ」
     その声を他所に月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)が魅了の力を振りまきながらのお願い、で彼らを引き留めた。
    「あいつらは悪い将棋だ。悪い将棋を倒すには、正しい将棋の知識が必要! だから、ここで応援して貰えないかな」
     田中・良信(宇都宮餃子の伝道師・d32002)も、一般人達に帰らないよう頼みこむ。
    「ギャラリーになって貰えば、将棋知名度や興味とか諸々上がるかもしれないぞ? それなら文句はないだろ?」
     茶倉・紫月(影縫い・d35017)のこの一言に、確かに、と頷きあっさりと丸め込まれる三角と五角形頭。
    「観客の皆様を巻き込まぬよう、周りにロープを張らせて貰いますね」
    「構わんぞ。どうせなら、将棋盤との間隔を1mくらい取れ。その方が押し出しスペースが……いや、待てよ?」
     黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)の提案に頷き指示を加えようとした将棋怪人が、途中で首を傾げて考え込む。
     何事かと気にしつつ、空凛は将棋怪人が言った通りの間隔でロープを張っていった。怪人の言に従う必要性は一切ないのだが、問答するような部分でもない。
    「よし、決めたぞ! お前、全力で戦えとか言ってたな」
     ロープが張り終わる頃、将棋怪人が蔵乃祐を指さして何やら言い出した。
    「ならば押し出しルールは生温い! よって、ルール変更だ!」
    「一応聞くけど、はさみ将棋とか……?」
    「なんだそれは。どちらかが倒れるまで、存分に盤上で戦うでいいだろう!」
    「うあ……ますます将棋から遠ざかったし……」
     問いかけた水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)は、将棋怪人の無駄に自信に満ちた答えに、溜息をついて内心で頭を抱えたくなった。
    「マトモな将棋にゃならなさそうだけど、話はシンプルになるわねぇ。まぁ、いいんじゃない?」
     どこかどうでも良さそうに明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)が頷く。
     何はともあれ。
     それから間もなく、人間将棋的な何かの火蓋が切って落とされた。

    ●銀がやられたか。だが奴は(略)
    「くらえ、将棋駒びっしりの靴底キーック!」
     将棋駒がスパイクの様に生えた靴底が、ギィを蹴り飛ばす。
    「思ってたよりやるっすね! けど、後ろも気にした方がいいんじゃないっすか? ペナがまた1人燃え尽きそうっすよ」
     『剥守割砕』の長い刃をガキッと将棋盤に突き立てて、踏みとどまったギィが将棋怪人の背後を指さす。
    「ほいっと。かいどー先輩、今だよ」
     ウイングキャット・ネコサシミの魔法を避けて跳び上がった香車ペナント怪人を、摩擦の炎を足に纏った玲が盤上へと蹴り落とす。
     そこに、蔵乃祐の禁呪が放たれ、爆音が鳴り響いた。
    「歩っ……灼滅者相手に、ペナント怪人達がやられるのは想定の内だ!」
     意気込む将棋怪人の横を、黒い鎖が突き抜ける。瑞樹の影の鎖が巻き付き飲み込まれた香車ペナント怪人が、「ペナーッ!」と力ない断末魔を上げた。
     影の鎖が戻った後には、香車ペナント怪人は影も形もない。
    「おい、またあの変な頭のヤツ消えたぞ……」
    「マジックでしょ? テレビで見たことあるわよ」
     目の前で繰り広げられるサイキックの応酬に、ざわつく一般人。
    「マジックじゃないわよ、アレ」
     そんな一般人達に、盤上の端でどこから持ってきたパイプ椅子にどっかりと座り込んだ瑞穂が小声で告げる。
    「あの頭が変な連中は、目的の為なら犠牲も厭わない連中よ。無理矢理連れて来られた人もいるでしょ? で、アタシらは連中を阻止してる側」
     見物している人達に、状況と立場を説明する瑞穂。
    「あんたは、何もしなくていいのかい?」
    「アタシは王将役だからねぇ。王将ってのは後ろで腰据えて動かないモンでしょう」
     観客からの問いに笑って返しながら、瑞穂は治癒の力を持つ光を放つ。
    「みんな! こっから勝つには、どうしたらいいと思う?」
    「王手じゃ。王手をかけちまえば、単騎は下がらざるを得んわい」
     観客も守るように光の盾を広げた良信に、応えてくれたのはどこかの爺ちゃん。
     戦闘の音を断っていないからだろう。観客が、数人だが増えてた。
     道中で玲が魅了する能力を使いながらしていた宣伝の効果もあるかもしれない。
    「その策、使わせて頂きます!」
     煌びやかな出で立ちの空凛が、盤を蹴って飛び出す。
     もとより、香車の次は王のペナントを狙う予定だった。
    「おねえちゃん、がんばれー!」
     変化させた衣装のおかげか。
     少女からの声援に小さな笑みを浮かべた空凛は、破邪の光を纏わせた白雪の如き刃で王将ペナント怪人に斬りつける。
    「歩っ! 甘いぞ! この将棋に王手なし! 王を獲られたくらいで戦いをやめるような俺ではないわ!」
    「流石にそのハイパー俺ルールはどーかと思うんだけど……」
     ギィの剣と将棋駒をぶつけ合いながら、堂々とルール無用宣言をのたまう怪人に玲が半眼で呟く。
    「そうだ、そうだー!」
    「王手がない将棋なんて、聞いたことないわよ!」
     観客からも、流石に上がる不満の声。
    「この人々の声こそ、そのルールが間違っている証。自分で勝手に作ったルールを、他に強要しないでください!」
    「将棋を広めるためだからって、道理を捻じ曲げるのはおかしいよ! 駒の数を減らした将棋だってあるのに」
     それを聞いて、空凛と瑞樹が畳みかける。
    「歩んっ! お前達の言う将棋のルールは、人間が定めたもの。人間と違うこの俺が従う道理がどこにある! 俺からすれば、その言葉こそ、ルールの押し付け!」
     だが、将棋怪人は全く怯まない。
    「将棋のルールというなら、飛車が2人っておかしいだろ」
    「そっちが最初っから駒の配役崩壊してるだろ」
     将棋怪人の反論を向けられた紫月だが、顔色を変えずに言い放つ。
    「今更駒のルール云々言うな」
     紫月の放った意志持つ帯が、王将ペナント怪人の三角頭を撃ち抜く。ぐらりと倒れたペナント怪人は爆散して、消滅していった。
    「え、人間と違うって……マジ?」
    「いやいや、冗談……だよな?」
     3度目となるその光景に、ざわつく一般人の声がどこからか聞こえた。

    ●金と飛車角もやられたか。だが(略)
     盤上に黒炎が迸る。
    「食らえ、将棋駒クラッシュ!」
     黒炎に腕を焼かれながら、将棋怪人は駒を握った腕を伸ばしギィの頭に駒の角を叩きつけて殴り飛ばす。
     パリィン――ッ!
     と同時に、氷が砕ける乾いた音が響いた。
     紫月の氷柱に貫かれ、凍り付いた桂馬ペナント怪人の三角頭の端っこが砕けていた。
    「ペナント怪人達は全滅か……だが、問題ない! 将棋パワーは十分残っている。今の俺は、ただの歩ではない!」
     最後のペナント怪人の消滅にも、将棋駒怪人は動揺をみせない。
    「確かに。あの位置だと、歩は――」
    「そう。パワーアップした今の俺はと金だ!」
    (「まだ動けなくはないけど――1人くらい負けてた方が、こっちが悪人になりにくそうっすね」)
     観客の声に湧く将棋怪人の姿を眺めて、ギィは盤の外で剣を手放した。
    「将棋駒には裏返るとパワーアップ……だが俺にも切り札があるぜ!」
     将棋怪人に言い放ち、良信はライドキャリバー・餃子武者に飛び乗った。
    「俺は香車レッド! そして香車餃子武者! これでダブル香車だ!」
    「な、なんだと!?」
     冷静に考えると騎乗は特にパワーアップとは言えないのだが、そこはそれ。怪人も雰囲気に飲まれてるし。
    「くらえ! 炎の! 直進一番星! 猪突猛進直線ダッシュ!」
     突撃からのガイアチャージで将棋駒パワーを得たご当地キックをくらい、吹っ飛ばされる将棋怪人。
    「さーて、いい加減ケリつけとくかぁ」
     パイプ椅子に座ったまま、瑞穂がライフルのグリップをガションと引く。向けた銃口から放たれた光が、上空の将棋怪人を撃ち抜いた。
    「そのご自慢の強化、引っぺがしてやる」
     紫月が構えた弓から放たれた矢が、彗星の様に怪人を撃ち抜いた。
    「くっ、これしき!」
     纏う光は薄くなった怪人が、良信に将棋駒を叩き込む。
    「将棋の駒は凶器じゃない!」
     その背中に、瑞樹が剣を振り下ろした。細身の銀の刃が非物質に代わり、将棋怪人の纏う光を切り散らす。
    「ルールは尊守すべきです!」
     空凛も、白雪の如き剣の刃を非物質に変えて。霊犬・絆が咥えた斬魔の刃と共に、怪人の精神と纏う光を切り散らす。
    「ぐっ……まだだ。歩は最も多い駒。そう簡単に……」
    「歩だけで勝てるほど、この世界は甘いものか」
     吐き捨てるように告げて、巨大な十字架を将棋怪人に叩きつけた蔵乃祐の背で、歩のゼッケンが翻る。
     彼が歩を選んだのは、己の分と知るからこそ。その他大勢の中の一人に過ぎないと受け入れ、それでも一歩ずつ進める自身の可能性を信じたいが故。
     同じ歩を背負っても、その意志はまるで違う。
     あるいはそれが、ダークネスと灼滅者の違いか。
    「かいどー先輩の言う通り。歩だけ残ったって、勝てるわけないだろ!」
     煌めきと重力を纏った玲の蹴りが、纏う光をほとんど散らされた将棋怪人の将棋頭に叩き込まれる。
    「グローバルジャスティス様に栄光あれぇぇぇぇ!」
     将棋盤の上に倒れこんだ怪人は、その叫びを最後に爆散し消えていった。

    ●戦い終わって
    「怪我とかない? あったら治療するから言ってね」
     まばらな拍手の音の中、観客に玲が声をかける。
     流れ弾もなく、怪我を負った人はいなかった。
    「治療も出来るのか? 君らは医者なのか?」
    「ま、アタシは医者を目指しちゃいるけど。こういう治療なのよね」
     瑞穂が治癒の力を持つ光を放ち、一般人に見えるように良信の傷を癒してみせる。
    「もう何が何なのか判らないわ……」
    「何でも聞いてください。お答えしますよ。それと、この子は絆です。普通の犬ではないんですよ」
     困惑する人達に空凛がそう呼びかけるが、質問の声は上がらなかった。まだ、質問ができるほど理解出来ていないのだろう。
     声援をくれた少女だけは、物怖じせず絆をモフりはしたけれど。
    「そうだな……俺達は、灼滅者って存在。さっきの三角頭と将棋頭はダークネス」
    「ダークネスは俺たちの、みんなの敵でもある!」
     紫月と良信が、沈黙を破って人々に告げる。
    「連中は目的の為には手段を選ばないんだ。天童の将棋駒を広めるためだからって、変なルールが通るのって嫌じゃない?」
    「ま、嫌だな」
    「……うーん……嫌かな?」
     瑞樹にとって、天童は過去に暮らしていた地であり、亡き母の出身。故に、今回の怪人達の手段は許しがたいものだった。
     だが、同意を示す人もいれば、曖昧な答えも返ってくる。
     知ったばかりの事なのだ。好き嫌いの判断がつかないのも、無理はない。
    「あんな連中が、世界の影から人を支配してきたんすよ。でも、それももう終わり。自分達のような『正義の味方』、灼滅者が人類解放の為に戦ってるっす!」
     ギィが自分達が正義と語るが、反応は薄かった。
     彼等には、支配されている自覚がないのだ。反発がなかっただけでも、今は十分と言えるかもしれない。
    「まーつまり、あんな風に頭のおかしいような怪人が結構世の中にはいる訳よ。私たちはそれを退治して回ってるわけ。皆には覚えておいて欲しいだけ。私たちの事をさ。もしあんな風な奴らにあったら、相談のるからさ」
     魅了の力はもう使わずに伝えて、玲は隣を漂うネコサシミから連絡先を書いたチラシを受け取り人々に渡していく。
    「普通の方法じゃ、倒せない相手なんだ。だから、頭のおかしい奴らを見たら、逃げて欲しい。そして俺たちを頼ってくれ!」
     良信が。
    「すぐには信じられないと思う。でも、今日起こったことは本当の事だよ」
     瑞樹が。
    「自分が見たことを、間違いと思わないでくださいな」
     ギィが。
    「僕達は、闇の支配者から抗う為に生まれた集団です。何時かまた、あなた方に僕達の助けが必要となる時まで、僕達の事を忘れないでいて下さいね」
     蔵乃祐が。
     それぞれが伝えている人々の様子を見て、紫月は言葉を飲み込むか迷っていた。
     ダークネスを灼滅し続ける必要がある、灼滅者の不安さを。
     事実を全て伝えるなら、それも言うべきだろう。だが、果たして自分達は人々の味方とはっきり言いきれるのか。立場と見方次第では、英雄にも仇にも――。
     紫月のそんな思考を遮ったのは、一般人の声だった。
    「そう言う事なら……1つ頼みというか、相談いいかな?」
     もちろんと頷く灼滅者達。
    「アレ、どうしたらいいのかな?」
     一般人が指さしたのは、さっきまで灼滅者達も乗っていた巨大将棋盤。
    (「メンドくさい……とは言えない空気よねぇ、コレ」)
     瑞穂の胸中に、呟きと溜息が零れた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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