民間活動~旧校舎の亡霊教室

    作者:飛翔優

    ●誰も知らない扉の向こう
     とある小学校の外れにある、木造の古びた旧校舎。立入禁止のテープなど知らぬとばかりに中へと入りくつろいでいた少年が、仲間たちに語りかけていた。
    「そういや知ってるか? あの教室の話」
     階段に腰掛けていた少女が顔を上げていく。
    「何よ、藪から棒に」
    「いや、俺も上級生から聞かされたんだがな……」
     ――旧校舎の亡霊教室。
     戦前から続いているこの小学校。かつては非常に厳しい教育がなされていたと言われている場所で、中にはそのあまりの激しさに耐えられず命を落としてしまった者もいるらしい。
     時代の流れとともに常識外の厳しさはなくなっていき、鉄筋コンクリート造の新校舎へ移る頃にはもう完全になくなっていたとか。
     しかし、教師たちによって殺された者たちの恨みが晴れるはずがない。彼らは今も旧校舎の1教室に集まって、終わらない時間を過ごしている。
     自らが命を失う原因となった教師を殺すため。あるいは、新校舎で学んでいる者を新たな仲間として引き入れるため。
     だから、決してその教室に足を踏み入れてはならない。大人だろうが、子供だろうが、亡霊たちに殺されてしまうから……。
    「ってな話らしい」
    「ふーん。で、その教室ってどこにあるの?」
    「……まさか行く気か?」
    「あら、怖いの?」
    「いや、そういうわけじゃないんだが……ほら、こう、色々とさ。責任ってものが」
     色々と理由を述べる少年の手は震えていた。
     そんな様を見抜いている少女はにやにやと笑いながら、仲間たちに意見を募り始め……。

    ●教室にて
     灼滅者たちを出迎えていく倉科・葉月(大学生エクスブレイン・dn0020)。メンバーが揃った事を確認し、説明を開始した。
    「サイキック・リベレイター投票によって、民間活動を行うことになりました」
     サイキック・リベレイターを使用しなかった事でエクスブレインの予知が行えるようになり、タタリガミ勢力の活動が明るみに出たのだ。
    「タタリガミたちはエクスブレインに予知されないことを利用して、学校七不思議の都市伝説化を推し進めていたようです」
     閉鎖社会である学校内でのみ語られる七不思議は、予知以外の方法で察知することが難しい。そのため、かなりの数の七不思議が生み出されてしまっている。
    「この七不思議については可能な限り予知を行い、虱潰しに撃破していく事になります。どうか、協力をお願いします」
     頭を下げた後、葉月は地図を取り出した。
    「今回赴いてもらうのはこの、埼玉県の小学校。敷地の外れにある旧校舎の1教室になりますね」
     七不思議の名は、旧校舎の亡霊教室。
     厳しい教育によって命を落とした児童の亡霊が集まっている教室で、足を踏み入れたものを殺す。大人なら教師とみなして恨みをぶつけるため、子供なら仲間に引き入れるため。
    「ですので……そうですね。亡霊たちの恨みを薄れさせるような正しく優しく正しく厳しい教育を行ったり、楽しく触れ合ったりすることができれば、あるいは素直に話を効いてくれるようになるかもしれませんね」
     続いて、戦闘能力について。
     姿は性別も年齢も様々な児童たち。総数15体で、とにかく強い力で相手を殺そうとしてくる。
     使ってくる攻撃は3種。
     驚かし威圧する、徐々に体を蝕む呪いをかける、取り付くことにより相手を意のままに操ろうとする。
    「また、今回は民間活動も行っていただくことになります」
     今回はタタリガミが生み出した普通の都市伝説であるため、多くの激戦を繰り広げてきた精鋭の灼滅者にとっては強敵ではない。そのため、周囲に被害が出ない範囲でより多くの児童に事件を目撃させる作戦を行うことができるのだ。
     バベルの鎖によって、都市伝説やダークネス事件は過剰に伝播しないという性質はある。
     しかし、直接目にした人間にはバベルの鎖の効果はない。目撃者が他人に話しても信じてくれないだろうが、直接目にした関係者はそれを事実として認識してくれるのだ。
    「一般人の多くが都市伝説やダークネス事件を直接目撃することで、一般人の認識を変えていく。これが、民間活動の主軸となります」
     幸い、その旧校舎は立入禁止とされながらも、お昼休みや放課後には少し素行の悪い児童たちのたまり場となっている。そのため、その児童たちの興味を引くように行動すれば、亡霊教室内を覗き込んでくるだろう。
    「以上で説明は終了となります」
     葉月は地図など必要なものを手渡した。。
    「事件を目撃した方々に、今後、どのように行動して欲しいか考えて、呼びかけなどを行うのも良いと思います」
     しかし、と言葉を続けていく。
    「一般の方々にとって、灼滅者は不思議な力で七不思議を倒した人たちという扱いになります。初めて合う児童たちに信用されて話を聞いてもらうには、信用されやすい演技や演出が必要かもしれません。ですのでどうか、よろしくお願いします」


    参加者
    古海・真琴(占術魔少女・d00740)
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    黒絶・望(愛に生きる幼き果実・d25986)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)
    栗花落・澪(泡沫の花・d37882)

    ■リプレイ

    ●人々の命を守るため
     空風荒ぶ冬の日に、陽射しも届かぬ小学校の旧校舎。ジャンパーやコートなどの防寒具を着込んだ児童たちがたむろしている階段に、1匹の猫が迷い込んだ。
    「ん、なんだこいつ?」
     階段に腰掛けていた少年が身をかがめ、人差し指で招く仕草を始めていく。
     猫はしばし周囲を見回した後、慣れた足取りで人差し指へと近づき始めた。
    「ずいぶんと人に慣れてる猫みたいねー」
     少女が表情を和らげる中、猫は人差し指の匂いをかぎ始めた。かと思えば前足を伸ばし、くるくると回り始めた人差し指と戯れ始めていく。
    「はは、じゃあこいつは……」
     誰もが表情を和らげて猫を眺め続けている。
     猫に興味を移している。
     けれど、知っている。
     猫は、猫に変身している古海・真琴(占術魔少女・d00740)は。彼らが先程までこの旧校舎に潜む都市伝説、旧校舎の亡霊教室に惹かれていたことを。
     だから……。
    「あ、そこにいたんだね」
     入り口の方角で栗花落・澪(泡沫の花・d37882)が声を上げた。
     児童たちが肩をビクつかせて固まる中、入り口に集まった灼滅者たちの中から澪が歩み出て、真琴のもとへと向かっていく。
    「この子、僕たちの仲間なんだ。ありがとう」
     微笑みを湛えたまま真琴を見つめ、ただ小さく頷き合った。
     その上で、若干警戒する様子を見せている児童たちへと視線を移す。
    「ごめん、びっくりさせちゃったみたいだね。でも……」
     視線を亡霊教室の舞台へと向けた。
    「君たちがしようとしてる事は、危ない事だから」
    「え……」
     少女が息を飲む。
     構わず澪は続けていく。
    「僕たちには戦う力がある。だから、任せてくれないかな。見ててもいいから」
    「大丈夫、貴方達は私が守ります。魔法少女、ですからね」
     黒絶・望(愛に生きる幼き果実・d25986)が隣に並び、視線を交わして頷き合う。
     定められたワードを声を揃えて唱えたなら……。
     澪はゴシックアイドル衣装を身に包む、長柄の大鎌を携えている魔法少女に。
     望は目隠しが外れ、白いロリータドレスの上から赤い花を模したコートを羽織り黄金の林檎が先端に取り付けられている王笏を握る魔法少女へと変身した。
    「……ふふっ」
     ぽかんと口を開けて固まっている児童たちに微笑みかけた望が、一輪の花を取り出していく。
     児童たちの視線が集中する中、力を用いてその一輪の花を凍らせた。
    「わっ」
     驚きと戸惑いの声が上がっていく。
     受け取った上で、望も亡霊教室の舞台へと向き直った。
    「それでは、行きましょう。大丈夫、貴方達は私達が守ります。この事件も無事、解決してみせますよ」

    ●亡霊が辿り着いた場所
     迷う素振りを見せながらも、旧校舎にたむろっていた5名ほどの児童はついてきてくれた。
     その他に、陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)の行動によって多数の児童や先生が集まっている。
     灼滅者たちは不安などない足取りで亡霊教室の舞台へと到達し、勢い良く引き戸を開けていく。
     素早く中へと侵入すれば、教卓があるだろう場所の近くに15名ほどの少年少女が集まっているさまが見える。
     その体はやせ細り、衣も粗末。
     男女問わず目に見えるほどの傷があった。
     体は少しだけ透けていて、うつつの存在でない事を示していた。
    「んじゃ、始めるぜ!」
     赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)がスタイリッシュな雰囲気を纏い、引き戸の方角へと視線を向けていく。
     恐る恐る教室の中を覗き込んできた児童たちが、瞳を輝かせながら自分たちの事を見つめていた。
     その心に印象づけるため、望は杖を掲げていく。
    「マジピュア・ステップアップ! 愛の戦士、ピュア・コキノ!参上、なのですよ!」
     魔力の矢を少年少女の中心めがけて発射した。
     さなかには真琴が児童たちの目の前で変身を解き、武装する。
    「見ててくださいね、私達の戦いを」
     ウイングキャットのペンタクルスの魔法が先頭に立つ少年を押さえつけた瞬間に踏み込み斧を振り下ろした。
     灼滅者たちの攻撃を前にしても、少年少女たちはひるまず歩み寄ってくる。
     その小さな体を、前触れもなく発生した竜巻が打ち上げた。
    「……今のところ、子どもたちを狙う気配は無いみたいだね」
     担い手たる比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)は杖を握り、竜巻に力を注いでいく。
     響く轟音を打ち消すは、澪の高らかなる歌声だ。
    「ごめんね……ほんとは、遊んであげたいんだけど」
     悲しげに少年少女たちを見つめながら、切なる歌声を教室中に響かせる。
     1人の少女が足を止める中、竜巻を耐えた者たちは再び進軍を始めていた。
     その狭間を、布都乃は巧みにくぐり抜ける。
     背中から落ちてきた少年のもとへと歩み寄り、巨大な十字架を突きつけた。
    「悪いな。安らかに眠ってくれ」
     トリガーを引き、凍てつく光弾を乱射する。
     地面に縫い止められた少年は光に代わり、跡形もなく消滅した。
     殺気に満ちる。
     少年少女たちの放つ殺気が灼滅者たちへと向けられていく。
     その腕が放つ呪いが、脅かすような大声が、取り憑かんとする抱きつきが前衛陣を蝕み始めた。
     すかさず鳳花が炎を揺蕩わせ、前衛陣の治療を行っていく。
    「治療のサポートを、お願い」
     頷き、ウイングキャットの猫がリングを輝かせる。
     前衛陣が万全の状態を取り戻せば、入り口の方角から安堵の声が聞こえてきた。
    「……大丈夫」
     鳳花は児童たちへと向き直り、明るい笑顔を見せていく。
    「ボクたちは負けないよ。ここを安全にするために、彼らを眠らせてあげるために全力を尽くすから……ね」
     別の場所に立つ教師にも微笑みかけ、改めて戦場へと向き直る。
     再び少年少女たちが力を放つ気配を感じ、治療のための炎を生み出して……。

     数こそ多いけれど、ひとりひとりの力は弱い少年少女たち。灼滅者たちの攻撃を前に、次々とボロボロになって倒れていった。
     それでもなお、亡霊たちは立ち向かってくる。
     ふらつきながらも抱きついてきた幼い少女を、真琴が正面から受け止めた。
     温もりも鼓動もない体を感じながら、真琴は声高らかに語っていく。
    「次代に役立つ人を育てるのが、教師! その結果死者を出すのは、最早教育じゃありません!」
     だから……と、真琴は少女を引き剥がした。
    「だから、せめて貴方達の手が汚れないうちに……眠らせます。安らかに、穏やかに……」
     よろめく少女を見つめながら腕を振るい、静かに少女の存在を刈り取った。
     その上で入り口へと視線を向ければ、児童も先生も一様に神妙な面持ちをしている。
     けれど、恐怖している様子はない。
     灼滅者たちを畏れている様子はない。
     小さな息を吐き出して、真琴は次の少年少女へと向き直る。
     さなかには新たな炎が生まれ、蜃気楼がたゆたい前衛陣に重なった。
    「大丈夫、数が減った分、治療は楽になってるよ」
     治療を担う鳳花はペンタクルスや猫へと視線を送り、呪いなどの浄化を要請した。
     2匹のウイングキャットが呼吸を重ねてリングを輝かせる中、布都乃の振り下ろした十字架が背の高い少年を打ち倒す。
    「……次は」
    「彼女、なのですよ」
     さなかには望の放つオーラが小さな少年を打ち倒す。
     望は中心にいた少女へと向き直っていた。
     すかさず柩が輝く十字架を降臨させれば、その少女もまた光の中へと消えていった。
     残る少年少女は6体。
     数が減った分だけ、脅威が減った分だけ活発に、灼滅者たちは攻撃を重ねていく。
     やがて、柩の放つ竜巻が2体の少年を天へと送った。
     冷静に的確に少年少女を倒していく姿は、児童たちに安心を与えていたのだろう。
     反撃に備え距離を取った柩が視線を送れば、もっとよく見たいと乗り出している児童たち。安堵の表情を浮かべている先生たち。
    「この調子で、最後まで駆け抜けよう」
     万事うまく進んでいると柩は告げる。
     頷き、仲間たちは少年少女を……。
    「辛かったよね、苦しかったよね……でももう、大丈夫だよ」
     最後まで残っていた小さな小さな少女を、澪が優しく抱きしめた。
    「力になってあげられなくてごめんね。今……解放してあげるから」
     腕の中で暴れる少女をなだめるように、背中を軽くさすっていく。
     光が導かれ、少女の体を包み込んだ。
     少女はやがて動きを止め、ぬくもりを求めるかのようにぎゅっと澪を抱きしめ……まるで光と同化するかのように、消滅した。

    ●戦いの後に
     あるべき静寂を取り戻した旧校舎の、都市伝説の舞台となっていた小さな教室。
     安堵の息を吐いた鳳花は、笑顔を浮かべて児童たちへと向き直った。
    「こういう風に、普通じゃあ対処できないような事ってまだまだ多いんだ。もしさ今回みたいな事があったらきっと他の人は信じないと思うから、その時はボク達に連絡してよ。信じるからさ」
     猫に武蔵坂学園の資料などを持たせ、先生たちのもとへと向かわせていく。
     先生たちが資料を受け取る中、布都乃は小学生たちに説明を行っていた。
    「オレたちは不思議なチカラでバケモンとか幽霊の事件を解決して回ってる。ヤツらは放置してるとと友達や家族、先生にも迷惑かけるからな」
    「もし同じような存在を見かけた場合は決して近づかず、ボクたちに連絡して欲しい」
     柩もまた連絡先などを手渡していく。
     武蔵坂学園。それがダークネスに……超常の存在に対抗する組織であると印象づけるために。もしも彼らのもとで事件が起きた時、すぐにでも駆けつける事ができるように。
     より良い未来へとたどり着くために……!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月11日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
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