民間活動~闇の中から響く水音

    作者:六堂ぱるな

    ●孤独の嘆き
     陽が落ちたら、そこには誰も近付いてはいけない。
     水音が聞こえても、聞こえた素振りを見せてはいけない。

    「ねえ、あの扉どこに続いてるの?」
    「え? そっか、転校してきたんだっけ。あの先は古いプールなの」
    「プールあるんだ。水泳部とかあるの?」
     彼女の問いに、先輩二人が強張った顔で首を横に振る。
    「絶対開けたらだめだからね。中から何が聞こえてもだよ」
    「まあ大丈夫だと思うけど。ほら、鍵がかかってるでしょ?」
     よく見るとドアノブは鎖で括られ、壁に突き出た金具を通して南京錠をかけられていた。
     あの南京錠を外さない限り中へは入れっこない。
    「ねえ、何が聞こえてもってどういう意味?」
     先輩たちが顔を見合わせた。帰り仕度をしている他の部員たちに聞こえないように、声を潜めて彼女に囁く。
    「……昔ね、あの先のプールで死んじゃった子がいるんだって。それ以来、プールで水音が聞こえるって子が出るようになって」
    「音の原因を確かめた子は、怪我したり寝込んだり……何人か死んじゃったりしたの」
    「助かった人も何を見たのか覚えてなくて、だからプールは封鎖されちゃったんだよ」
    「……水音」

     ぱしゃり。

     扉のすぐ向こうで小さな音がする。水の滴る音、濡れた足音。
     あの音の主が何か、確かめなくちゃいけない――気がする。放っておいちゃいけない。

     ひとり は さびしい の。

     そう聞こえたのだったか、呟いたのだったか。
     ふらり、扉へ歩みよる彼女には、もうどちらかわからなくなっていた。

    ●虚構の悲劇
     既に幾つも発見されている学校の七不思議事件は、未だ収束を見せない。埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)は眼鏡のブリッジを押し上げて口を開いた。
    「学校の七不思議事件がまた発見された。これもタタリガミの暗躍の一環らしいので、諸兄らに介入と民間活動を依頼したい」
     学校内でのみ語られるため、予知以外での察知が難しいことを利して既に相当数の七不思議が発生している。一つ一つ潰していくことが大切なのだ。

     事件が起きるのは宮城県のごく一般的な中学校で、死亡事故など起きたことはない。 プールも老朽化で封鎖されているだけだが、根も葉もない噂が流れ、それが七不思議によって都市伝説と化したのだ。
     バスケットボール部に入ったばかりの一條・彩佳は『プールの少女』に魅入られ、放っておけば南京錠の鍵を職員室から無理やり持ってきてプールへ立ち入る。
    「威圧系のESPを使えば彼女の魅入られた状態は解除できるが、でなければ何としても『プールの少女』に会おうとする。この状態を都市伝説の能力の説明に使えなくもない」
     既に発動条件は満たしているので、彼女の魅了状態を解除しても問題はない。また交戦状態に入った後もプールの入口から覗けば生徒たちに『プールの少女』を目撃させることは可能だ。
     南京錠は灼滅者の攻撃で簡単に壊せるので、魅了状態を解除した場合は鍵を取りに行く必要はない。老朽化しているが、スイッチを押せば照明は点くので灯りもいらない。
     『プールの少女』の本体は、プールいっぱいの蠢く影の中をスクール水着を着て泳ぐ少女だ。影を水のように操る攻撃は灼滅者にとっては影業に似ている。
     都市伝説そのものは強力ではないし、魅入られている彩佳が都市伝説を倒すことで正気に返るという点は灼滅者に有利だ。しかし今回は相手が中学生という点もそこそこ問題となる。小学生ほど素直に灼滅者を受け入れてくれるかという点は大いに疑問だ。
     そこまで説明し、玄乃は渋面でファイルを閉じた。
    「今回は中学生が付近に二人、騒ぎを聞けば残っていた運動部員の十数名が集まってくるだろう。教師を呼べば更に増える。彼らに事態をどう説明するのかが鍵だ」
     目撃した一般人にどのように指示や説明をするか。対応の仕方が今後の灼滅者と社会の関わりに影響を与えることになる。
    「どうするかを決めるのは諸兄らだ。よく話し合い決定して貰いたい」
     説明を終えた玄乃は深く一礼し、相談を始めた一行を残して教室を出ていった。


    参加者
    古海・真琴(占術魔少女・d00740)
    奇白・烏芥(ガラクタ・d01148)
    蒼月・碧(碧星の残光・d01734)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)
    石宮・勇司(果てなき空の下・d38358)

    ■リプレイ

    ●非日常への扉
     職員室からプールの鍵を手に出てきた一條・彩佳は、熱に浮かされたようだ。教師の制止の声も耳に入っていない彼女の異常は、周囲の耳目を集めている。
     その騒ぎもあって、学校関係者の体で入ってきた神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)と仲間は難なく体育館へ続く廊下までついていけた。
    「舟幽霊のプール版みたいな都市伝説さんやねぇ。この場合持っていくんは玩具の鍵?」
     首を傾げる雲・丹(きらきらこめっとそらをゆく・d27195)に、古海・真琴(占術魔少女・d00740)が困った顔で応じる。
    「渡しても帰ってくれそうにないですね」
     都市伝説など灼滅者にとっては造作もない現象だが、一般人には未だ脅威であり、見えない悪意なのだろう。だから紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)は訥々と、でも真剣に呟いた。
    「何てことはない狩りだけれど、世界にとっては意味のある事件となろう。気を引き締めて、成すべきことを成すとしようか」
    「ええ。じゃあ始めましょう」
     あえてペンタクルスを傍で羽ばたかせ、真琴が魅入られた彩佳へ歩みよる。彩佳を制止しようと必死の女生徒たちとの間に割り込むようにして、勇弥が声をかけた。
    「止むを得ないですね、すみません」
     真琴が王者の風を発動させた途端、彩佳の膝ががくんと崩れた。悲鳴があがる中、謡が扉から離れた場所へ運んでそっと下ろす。
    「ここから先には危険な存在がいる。入ったら命が危ない。その子が魅入られているのを見たらわかってくれるかな」
     石宮・勇司(果てなき空の下・d38358)の端的な言葉は辺りに沈黙を招き寄せた。割り込みヴォイスを用いたことで、ここにいた全員の耳に届いたせいもある。
    「自分達は異常事態の対処のボランティアです。奥に原因があると思うので、立入許可が欲しいんです。先生達を呼んでもらえますか?」
     勇弥が話していると教師が一人やってきた。灼滅者たちを見て驚いた顔になる。
    「なんだ、君たちは。入校許可はあるのかな?」
    「ボク達はプールの噂に心当たりがあって調査していた者でね。ちょうどいい、先生にも立ち会って貰いたいな」
    「それは根も葉もない噂だ。生徒を混乱させるようなことは……」
    「……もうただの噂ではないのです。どうか、生徒達を護る為に、此れから起こる出来事を見守っては頂けませんか」
     謡に反論する教師の言葉を奇白・烏芥(ガラクタ・d01148)が遮った。やりとりを聞きながら蒼月・碧(碧星の残光・d01734)が無意識に手を握りしめる。
     目撃者をわざと増やしてダークネスを知ってもらう。今までにない試みだが――。
    (「危険な目に合わせられないですけど、精一杯頑張りますっ!」)
     人々への対処は仲間に任せ、赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)は月代と共に、生徒が早まってプールへ立ち入らないよう扉の前に立ちはだかった。その背に、都市伝説の明らかな反応を感じながら。

    ●ひそかに生まれ落ち
     最終的に烏芥が兎に変じてみせたことで、教師はプールの扉を開けることに同意した。騒ぎで残っていた生徒たちがほとんど集まっている。
    「プールの照明はどこにあるんだい?」
    「入って右手の壁沿いだよ」
    「それじゃボクが上から偵察しますね」
     謡の問いに応えた教師が蒼月に上空? と聞き返したが、応えていられない。
    「これから起きる事をよぉ見て、でも危ないからうっかり近寄らんよぉに気をつけてやぁ」
     人を魅了する力を十全に揮いながら丹が生徒たちに言い聞かせ、照明を点ける。真っ暗だったプールに灯りがつくと、蒼月は空飛ぶ箒で宙へ舞った。
    「えっ?!」
     生徒たちが我も我もと扉から顔を出す。ガラス天井ぎりぎりに旋回すれば、プールいっぱいに蠢く影と中心の少女が見えた。
    「もう姿を現してますよっ!」
    「見物してもいいけど入らないでくれ。危険だから」
     言い聞かせるような口調で勇司が告げ、箒で下りてきた蒼月も封印を解除する。
    「Stand by Ready!」
     スレイヤーカードを手にした声は凛と響き、解放はいつもの三割増しぐらいにきらきらと輝いて人目を惹いた。わあっと声があがったのも無理はない。
    「いいところ見せないとですねっ!」
     助走なしの鮮やかな身ごなしで宙を舞うと、渾身の力をこめてプールの底にいる少女へ蹴りかかった。顔のない少女がプールの底から浮かび上がりながら縦横無尽に影を放ち、生徒たちから甲高い悲鳴があがった。
     うねる影の前に揺籃が飛び込んで攻撃を引き受ける。

     ひとり は さびしい の。

     顔のない少女の意思を感じながらも勇司は揺らがなかった。
    (「ひとりはさびしいのか、実のところ俺にはわからない」)
     いつでも一人だったような気がする。何かを目指していたら自然と一人になっていた。だから彼女の気持ちはよくわからないけれど。やらなくちゃいけないときはこの手でやらなくちゃいけない。あんまり出来た試しはないけどそう思う。
     圧縮した呪文は歌のように響き、魔力の矢が宙に浮いた少女に突き刺さった。
     学生たちに都市伝説の注意が向かぬよう、真琴はシールドを展開すると気を引くように殴りかかり、ペンタクルスが前衛たちに回復がてら加護をかける。
    「皆に加護をかけておくよ」
     謡に声をかけた勇弥は銅の札――Licht der Kerzで蒼月に符を走らせた。先ほどまでとは一転、凛とした加具土が浄化の力で揺籃の傷を塞ぐ。十字架の墓碑を手に、謡が生徒たちのいる扉から離れつつ声をかけた。
    「これが都市伝説。ボク達灼滅者のみ対処不能な敵だ。陰ながら戦っている者が居ることを、どうか知ってほしい」
     紫苑十字の砲撃で少女の体が軽く吹き飛び、氷が音をたてて蝕む。
     赤城の腕で寄生体が蠢いて砲台のように変化すると、生徒たちから悲鳴のような声が上がった。構わず毒性の高い光線を都市伝説に撃ち込み、追って月代が霊力のこもった一撃を加えた。
    (「普通と明らかに違う俺たちを受け入れるかは、個々の一般人次第だし」)
     『プールの少女』がギャラリーへ興味がないことに丹は安堵していた。それでも年の為、交通標識を構えてスタイルチェンジ。攻撃慣性を引きつける。
     揺籃に追われて霊撃を撃ち込まれ、バランスを崩した少女に烏芥の影が絡みついた。四肢を締めあげ動きを縛める。
     身をよじる顔のない少女から渦をまくように影が疾り、真琴をばくんと呑みこんだ。苦痛とトラウマを必死に堪えてまろび出て、真琴が荒い息をつく。すぐさま謡が紫鬼布で包みこんで盾の加護と同時に傷を癒した。
     寄生体に呑ませた妖刀・黒百合斬りつけながら赤城はふと苦笑する。傍目から見たら少女をフルボッコにしてる危険な連中に見えかねない。少女に顔が無いのは、もう誰もが見ているから大丈夫だろうけど。

    ●何も無かったように
     戦いが始まってものの数分、『プールの少女』の影は敵を捉えられなくなりつつある。
    「そろそろ仕留めにかかろうか」
    「うん、早いに越したことはないからね」
     謡と勇弥の会話の合間。壁を駆けあがった蒼月は、ガラスの天井を蹴って星が落ちるような跳び蹴りを怪異に見舞った。たたらを踏む怪異の少女を間合いに捉え、勇司の手でマテリアルロッドが回る。こん、と軽く触れたかに見えた一撃は、怪異の少女を芯まで揺るがし魔力が内側から暴発した。
    「……!」
     顔はないが確かに苦悶している。
     回りこんだ真琴は殲術鋏で少女の肌を裂いた。傷口から沁み入る狂気に怒りを煽られ、彼女を追う少女へペンタクルスが肉球パンチを食らわせる。
     軽い足音を立てて駆ける加具土の斬魔刀が少女の腹を薙ぎ、懐へ踏み込んだ勇弥は拳を固めた。短い呼気の後、骨が潰れるような連撃は怪異の体を嵐のように打つ。
     肉食獣が獲物を追うように駆けた謡が、紫苑の彩も艶やかな十字架の墓碑を少女に叩きつけた。顎を打ちあげ胴を突き、真上から十字架を打ち下ろす。同時に赤城の死の砲撃が挟撃で少女を撃ち、吹き飛んだ少女に追いついた月代の攻撃がしたたか背に入る。
    「鬼さんこっちなんよぉ」
     妖の槍を演武のように回転させて丹が挑発。誘われるままに丹を追う怪異の脚を烏芥の影が捕らえ、揺籃が霊撃を食らわせる。
     苦悶する顔のない少女がまとう闇を丹めがけて迸らせた。が、癒し手二人の見立てのとおり、少女の攻撃は灼滅者を捉えることができない。

     軽やかに跳び退る丹とすれ違い、前へ出た加具土の六文銭が撃ち込まれた。少女がのけぞった一瞬、破邪の光を放つFlammeを手に勇弥が挑みかかる。床に損傷を与えないよう焦点を絞った一撃で、『プールの少女』が声のない苦痛の叫びを放った。
     空気がびりびりと震え、観戦していた生徒たちが悲鳴をあげる。
     すかさず揺籃が毒を含んだ衝撃波を放ち、よろけた少女を揺籃と完璧に呼吸を合わせた烏芥の闇を宿した拳が打ちぬく。動きの止まった顔のない少女の前に、軽やかな跳躍で蒼月が跳んだ。
    「光よ、全てを斬り裂けっ!!」
     彼女自身が闇の中で光を見出したように。
     刃のない降魔の光刃は、名のとおりまばゆい光を放ってプールの少女を断ち切った。うねる影をまとった姿が光に呑みこまれる。
     顔の無い少女は、衆人環視の中で儚く消えていった。

    ●手を取り合う未来へ
     なんとも言えない沈黙が広がった中、変身を解いた蒼月が笑顔で振り返る。
    「大丈夫でしたか?」
     人懐っこい笑顔を見て、顔を強張らせていた中学生たちが顔を見合わせた。パニックが起きないうちに勇弥も声をあげる。
    「訊きたい事は沢山ですよね。できる限りお答えします」
     武装を解いた烏芥が要点をまとめた冊子を配り始める傍ら、勇司が自己紹介を始めた。
    「俺達は武蔵坂学園の灼滅者だ。人が知らない異形の存在から君たちを守ろうとしている」
     ダークネスという非日常と、それに次ぐ異常たる灼滅者についてを語る。
    「待ちなさい。当校でそういう……活動とかされたら困るよ」
    「……見て頂ければわかります。どうか読んで下さい」
    「ダークネスにはバベルの鎖いうもんがあってやねぇ」
     声をあげる教師に烏芥がそっと冊子を手渡し、丹が冊子を開いて説明を始める。
    「……此の様な不可思議は視た者しか認識出来ず、警察も動けません。故に私達が一つずつ対処して回っております」
    「ラジオを介して『噂』が流れることがある。そういった情報を知ったら教えてくれると助かる」
     自分たちが受け入れられるかは別として。人々の危険を避けるために赤城も口を添えた。「最近の噂は大体ダークネスさんが絡んでるから。迂闊に近寄ると死ぬ目に遭うんよぉ」
     丹の言い方は柔らかかったが、再び中学生たちの間に怯えが行き渡る。
    「……信じ難いと、驚かれてしまいますよね。ですが確かな事実です」
    「この女の子が、サーヴァントっていうのですか?」
     烏芥の穏やかな口調に勇を鼓してか、女生徒が揺籃を見ながら問いかけてきた。
    「……大丈夫、此の娘も仲間ですよ。御人好しで、可愛い物の蒐集が趣味で。皆さんと同じ、普通のひとりの女の子です」
     揺籃の口元は皆が無事だった安堵で綻んでいて、別の生徒が期待をこめた声をあげた。
    「ねこさんやわんちゃん、触っても平気ですか?」
    「大丈夫です。こいつは人が好きだし、普段は普通の犬と変わらない」
    「猫が苦手でなければ、ペンタクルスにもどうぞ」
     人懐っこい顔をした加具土の頭を撫でて勇弥が笑い、真琴も三毛の相棒を女生徒たちの輪へ送り出すと歓声があがった。
     ラブフェロモンのオンオフで丹と謡が異能を実感してもらっている傍ら、蒼月が空飛ぶ箒に女の子を乗せて低空を飛んでいた。
    「落ちないように掴まってて下さいねっ」
    「浮いてる、空飛んでる!!」
    「ところでぇ、ウニ姿になるダークネスさんおったらどぉ思う?」
     それとなく聞いてみるウニを芸風にする系大阪人、丹。顔を見合わせた生徒たちがそれぞれの感想を言い合い始めた。
    「怖いかな……針とか痛そうだし」
    「つか、めちゃくちゃ強そうじゃない?」
    「ウニってもじもじ動いて可愛いよね」
    「え、ほんまぁ? ほんまにそう思うー?」
     凹みかけてめっちゃ食いつくマスコット兼用魔法少女である。
    「世界は広いんだよ。俺や君たちが思うよりは確実に。出来れば知って欲しいし、考えて欲しい」
     諭すような勇司の言葉の真意は生徒たちにまだ伝わっていない。自分の感覚にないものは体感できないだろう。
    (「バベルの鎖で隠されてるって言うけど……実は灼滅者になると新たな感覚が手に入るのかもね」)
     だからこそ考えてみてほしい。人には想像力があって、思いやる心があるのだから。

     目の前の現実を受け入れるのに時間がかかっている教師へ、烏芥が言葉を重ねた。
    「……今後被害を少しでも無くせますよう。皆様も注意を呼掛け合って頂きたい」
    「この種の事件は他の人に相談できません。もし異常な事件を耳にしたら我々に連絡を貰えませんか」
    「お互いに協力し助け合ってゆきたいのです」
    「何かあれば頼って貰えないかな」
     烏芥と謡の真摯な顔をまじまじと見た教師は、勇弥が渡した個人と学園、両方の連絡先を記した名刺を遂に受け取った。既に目の前に否定しきれない非日常がある。
    「何が起きているのか、まだ頭が追いつかない。でも……生徒たちに何かあっては困る。君たちが対処できると言うのなら連絡しよう」
     それは今現実に一つの事件を片づけたからで、まだ信を得たと言い難いのも現実だ。
    「ま、いきなり簡単には行かないだろうけどな」
    「学校は閉鎖社会だ。異物と判じた物への排斥は激しいだろう。……程度の差こそあれ、『世界』はそういうもので」
     赤城の呟きに応じながら、勇弥は想う。
    (「……だから逃げてたまるか。俺は一番大切な友に『誓った』。そんな世界を変えると」)
     簡単でないことは知っている。そのぐらいで決意は揺るがない。
     撫でられて嬉しそうな加具土や、満足げに尻尾を揺らすペンタクルス。生徒たちと和やかにしている月代や揺籃は灼滅者の一部だ。際立った異能や力は、時に拒絶されることがあるかもしれない。
    (「それでも真っ直ぐ立ち向かうさ。俺達が受け入れられる素地を作る、その先につなげてみせる……!)

     学校を舞台に生まれ落ちる怪異を鎮め、灼滅者たちの活動は静かに世界へ広がっていく。新しい時代へと繋がる道の半ば。大切な一歩を彼らは踏み出している。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年2月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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