「えいっ! やったずら!! またおらの勝ちなんだべ!!」
正月に新調した桃色の振袖を着た叢雲・ねね子(中学生人狼・dn0200)が、羽子板を振り上げてガッツポーズを決める。
これで、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)との羽根突き勝負で10連勝を決めたことになる。対戦相手の妖はすっかり疲れ切った様子で、
「……やっぱり無理。……そもそも、人狼とエクスブレインじゃ、基礎能力が違いすぎる」
そう言って校庭の隅に置いてあったベンチにへたり込んでしまった。
「もう終わりだべか? つまんないずら」
まだまだ力の有り余っているねね子はその場でブンブンと羽子板の素振りをしていたが、
「そうだべ! もっと人を集めて羽根突き大会をやればいいんだべ!!」
そう言って満面の笑みを浮かべると、遠巻きに羽根突き勝負を見守っていた灼滅者達に目を向けたのだった。
「……そんなわけで、急遽羽根突き大会が開催されることになった」
集まってきた灼滅者達に、妖は疲れ切った声でそう告げた。
「……勝負はトーナメント形式。分かり易く、最後まで勝ち残った人が優勝。……別に、賞品はないけど」
いつになく投げやりな感じで、妖はそう説明する。
「……もっとも、無理にねね子に付き合う必要はないから。……自分達で好きなように羽根突きで遊ぶのもありだと思う」
要は、皆で羽子板を持ち寄ってわいわい楽しめればそれでいいのだ。
「……まあ、今日はねね子の誕生日だし、思いっきり楽しませてあげるのも悪くないかも」
最後に妖はそう付け加えると、独りで羽根を落とさないように羽根突きをしているねね子に、温かい視線を向けたのだった。
●真剣勝負トーナメント1回戦
叢雲・ねね子(中学生人狼・dn0200)が提案した羽根突きトーナメントに参加を決めたのは、ねね子を含めて総勢10名。そして厳正な抽選の末、トーナメント表が発表された。
なお、人数の関係で1回戦の第1試合と第2試合の選手のみ、勝ち残った場合2回戦を経て準決勝に進むことになる。それ以外の組の選手は、1回戦を勝ち抜けば準決勝進出だ。
「皆さん、頑張って下さいね。終わったらお汁粉ですよー」
御鏡・七ノ香(小学生エクソシスト・d38404)は、着てきた振袖が汚れないように割烹着をしっかり着込むと、ビハインドの幸四郎と共に鍋とコンロの準備を始めていた。
その顔に墨でハートマークが書かれているのは、先程ねね子に羽根突き勝負を挑み、あっという間に負けてしまったからだ。
クツクツと鍋が温まっていく中、グラウンドでは1回戦が始まろうとしていた。
『1回戦第1試合~押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)VS王庭・桜(我等は神の剣成りて・d38540)』
「これまではスポーツをやる機会が無かったのですが、お相手お願いします。……着物ですか。本格的ですね」
「正月でなくとも形を合わせた方が雰囲気出るかなって思ったっす」
礼儀正しく一礼する桜に、ハリマが礼を返す。求道者同士、通じ合うものがあるのだろう。
そして始まったのは、羽根突き史上に残りそうな長期戦だった。
後ろに大きく打ちながらフェイントで手前に落とし、ハリマのペースを崩してミスを狙う戦法を取る桜だったが、ハリマは視線や板の向きから羽根の軌道を予想し、相撲で鍛えた粘り腰で羽根を返し続ける。
そして試合時間が5分を過ぎ、流石に桜の体力と集中力が限界に達しかけた時。
「あっ」
ハリマの方が、先に羽根を追いきれなくなっていた。わずかに反応が追い付かず、羽根は非情にも地面に落ちたのだった。
『1回戦第2試合~ねね子VS驚堂院・どら子(コンビニ大学卒っ・d38620)』
2試合目の開始は、数分遅れた。どら子が、なかなかやって来なかったからだ。
「う~、遅いずら!」
あまり気の長い方ではないねね子がイライラし始めた頃、どら子は悠然と、白い禿頭の宇宙人ドラコのぬいぐるみを抱いて現れた。
「ねね子さん、あなたをたおして、名をあげて見せましょう。このドラコのハゲにかけて負けないわ」
悠然と宣戦布告するどら子。実は遅れてきたのも、宮本武蔵の巌流島の故事に倣った彼女の作戦だったのだ。
「なんでもいいから早く始めるんだべ」
さっと羽子板を構えたねね子だったが、どら子はそこでさらに驚くべき行動に出る。なんと、羽子板を両手に一枚ずつ持って構えたのだ。(ドラコさんはその辺に無造作に放り投げられた)
「遅れてすまないポジションはクラッシュ!」
そして、まさかの羽子板二刀流で、ガンガン羽根を打ち付ける。
「それ、なんかヤバいやつっぽいべ!!」
対するねね子も、人狼の力を見せつけるように激しく打ち返す。
「動揺戦法『ケツァールマスク』と『血圧上がります』って似てるよね?」
「意味が分からないずら!」
相手の動揺を誘うべく放たれたどら子の発言も、そもそも意味を理解しようとしていないねね子には通じない。
「進化の果てに体毛への執着を捨てたズラとハゲ……避け得ぬ宿命に決着をつけましょう!」
「オオカミはいつだってモフモフなんだべっ!」
そして、決着の時は来た。ねね子の強烈な一撃が、二枚の羽子板の間をすり抜け、羽根を地面に叩きつける。
「……遠い目してよろしゅうございますか」
審判役の神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は、燃え尽きたどら子の肩をポンと叩き、拾ったドラコさんを手渡したのだった。
『1回戦第3試合~志賀野・友衛(大学生人狼・d03990)VSノルディア・ヴィヨン(人を愛するダンピール・d37562)』
「羽子板をやるのは初めてですが、テニスの要領でしょうか♪」
初めての羽根突きに心躍らせている様子のノルディアに、
「相手は初心者か……。ならばそちらの全力を引き出せるようにお相手しよう。そうしてこそ、楽しめる事もあるはずだしな」
友衛は真剣な表情で向かい合った。
堅実に友衛の手前に羽根を落とすことを狙うノルディアと、相手の技を全て受けきる心意気ではね返し続ける友衛。
二人の勝負は、経験の差が物を言ったのか、最後には友衛の勝利に終わった。
「いい勝負だった。羽根突きの楽しさを分かってもらえたら嬉しい」
「はい。この後、仲間たちと羽根突きを楽しむ予定なんです。良い勉強になりました」
二人は健闘を称え合い、固く握手を交わしたのだった。
『1回戦第4試合~羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)VS九凰院・紅(揉め事処理屋・d02718)』
「羽根突きって、バドミントンとちょっと要領が似てるのかなって思うのです」
陽桜は、バドミントン流のサーブを羽子板と羽根でできるように練習してこの試合に臨んでいた。
さらに、バドミントンのクリア・ドロップ・スマッシュの3つの基本ショットを使い分けて、紅を翻弄する。
「やるな。だが、真剣勝負、やるからには遠慮しないぞ」
対する紅は、隙を見てはスマッシュを撃ち込む攻撃的な構えだ。紅の全力のスマッシュが、陽桜の隙をつくように放たれる。
「後は勢いあるのみです! 頑張りますよー!」
その強烈な一撃を、気合と反射神経で弾いた陽桜だったが、
「今のスマッシュはただの布石――。本命は、こっちだ!!」
さらにもう一度放たれた、全力のスマッシュまでを受け止めることはできなかった。
『1回戦第5試合~十束・唯織(獅子の末那識・d37107)VS四軒家・綴(二十四時間ヘルメット系一般人・d37571)』
「いきなり顔馴染みと対決かよ。けど、やる以上は手加減しねえぜ」
唯織は、同じ日だまりのある家の住人である綴に、羽子板の先端を向けて宣言する。
「それはこちらの台詞ッ! ライドキャリバー騎乗と羽根突きを組み合わせたライドキャリバー羽根突きでお相手しようッ!!」
対する綴は、既にライドキャリバー 『マシンコスリー』にまたがりアクセルを握っている。
「って、ちょっと待て! ライドキャリバーに乗ったまま羽根突きするのありなのか!?」
思わず審判役の妖に詰め寄る唯織だったが、
「……ええと、サイキックやESPの使用は禁止ってルールだけど、ライドキャリバー使っちゃダメとは言ってなかった」
妖は申し訳なさそうに手を合わせた。
「と、いうことだッ! いざ尋常に勝負ッ!」
「絶対尋常じゃねえだろっ!?」
文句を言いつつも、サーブを放つ唯織。
「フハハ、その程度のサーブなどッ! って、おおッ!?」
綴の利き手である右手は、ライドキャリバーのアクセルを握っている。必然的に羽子板は利き腕ではない左手で持つしかないわけで。
あっさりと地面に落ちる羽根。1回戦中、最短時間で勝負は決したのだった。
●真剣勝負トーナメント第2回戦、そして準決勝
『2回戦~桜VSねね子』
「絶対に落とさないずら!」
ねね子が、バックジャンプで頭上を飛び越えていこうとした羽根に追いつき、なんとか打ち返す。
フェイントを駆使する桜と、野生の勘でことごとく羽根を受け止めるねね子の勝負は、意外な長期戦となった。
そうなると、既に1回戦でも長時間戦い、体力を消耗していた桜の方が分が悪い。
「桜先輩、ボクの分も頑張るっす!」
1回戦の対戦相手のハリマの応援も虚しく、ついに桜の羽子板が、空振りした。
「こういった時に神の天啓があると良いのですか、無理な話でしたね」
そう言って桜は、十字を切ったのだった。
『準決勝第1試合~ねね子VS友衛』
「叢雲、誕生日おめでとう。今日は皆で最後まで楽しみたいな」
友衛の言葉に、ねね子は屈託のない笑みを浮かべて、
「ありがとうずら! でも、勝負は勝負、全力で行くんだべ」
闘志を全開にして羽子板を構える。
「真剣勝負なら、手加減するのは良くない……だったな。ならばこちらも力を出し切ろう」
そうして始まった試合は、とにかく攻めまくるねね子と、全てを受け止めようとする友衛との、息つく暇もない攻防となった。だが、次第にねね子の気迫に押されたように、友衛が追い込まれていく。
「頑張れ友衛! 人狼同士、能力はねね子にだって負けていないはずだ」
そこに、恋人の紅の声援が飛んだ。
「叢雲の全力は引き出した。なら、今度は攻めに転じる!」
それまで守りに徹していた友衛が、渾身のスマッシュを放つ。それまでのリズムを崩されたことで、ねね子の反応がほんの少しだけ遅れた。
「しまったずら!」
わずか数ミリの差で羽子板は空を切り、ねね子の敗北が決定したのだった。
『準決勝第2試合~紅VS唯織』
「今度の相手はシケと違って、やりがいがありそうだな」
唯織が、ニヤリと笑みを浮かべる。1回戦はあっという間に決着がついてしまったので、体力は有り余っていた。
「相手が誰であれ、やることは一緒だ」
対する紅は、沈着冷静に羽子板を構える。
そして始まった試合は、これまでにない攻撃的な一戦になった。お互い、チャンスと見ればすかさず全力で打ち返す。駆け引きもフェイントもない、真っ向勝負だ。
好勝負に、応援合戦も白熱する。日だまりのある家の仲間達の歓声が唯織を奮い立たせ、
「紅、決勝で待っているぞ!」
恋人である友衛の応援が、紅に活力を与える。
そして、激しいラリーの末、
「しまったっ!」
紅の強烈な後方へのスマッシュに、前に出すぎていた唯織が、反応しきれなかった。熱中しすぎて相手との距離を、詰め過ぎてしまったのが敗因だったろうか。
「くっそー!」
悔しがる唯織を迎えたのは、日だまりのある家の仲間達の、温かいねぎらいだった。
●トーナメント決勝
『決勝戦~友衛VS紅』
「まさか、決勝で友衛と戦うことになるとはな」
「こっちだって、想像もしていなかったぞ」
紅と友衛。恋人同士が、決勝の舞台で向かい合っていた。
「真剣勝負だ、手加減はしないでくれ」
友衛の言葉に、紅がフッと微笑む。
「当然だ。決勝戦、全力で勝ちに行く」
そして、二人の試合が始まった。見事に息のあった戦いは、まるで優雅なダンスのようにも見える。だが、当の2人は真剣そのもの。ひたすら攻め続ける紅と、守りを固めて相手のミスを待つ友衛。
「ふたりとも、ファイトですよー!」
陽桜を始め、トーナメントに参加していた選手達も、ある者は応援の声を上げ、ある者はかたずを飲んで勝負の行方を見守っている。
「そろそろ、これで決着をつける!」
戻ってきた羽根を、紅がこれまでにない強さで打ち返した。
「その全力を、受け止めて見せる!」
だが、必勝のその一撃を、友衛はなんとか弾き返す。しかし、
「それを待っていた!!」
飛んできた羽根を、紅が渾身の力で再度打ち返した。一回戦でも見せた二連続スマッシュが、友衛の鉄壁の守りを打ち崩す。
「……勝負あり。優勝は、九凰院・紅!」
審判を務めていた妖がそう告げると、割れるような歓声が周囲に響き渡ったのだった。
●決着の後はのんびりと
「みなさん、おつかれさまでした。身体を動かしている間は良くても、じっとしている間に冷えちゃいますからね。お汁粉召し上がってください」
勝負を終えた参加者達に、七ノ香と幸四郎が準備していたお汁粉を配っていった。
「季節外れだから終わるのものんびりでいいっすよね。楽しめればそれでよしっと」
ハリマは、お汁粉を食べ終えると、ずっと審判を務めていた妖を誘って、のんびりと羽根突きを楽しみ始める。
同じように、日だまりのある家の4人も、2対2に分かれてのんびり羽根突きを楽しんでいた。
「ライドキャリバーと人騎一体ッ! これぞ無敵ッ! これぞ最強ッ! フハハハハッ!」
マシンコスリーに跨り高笑いする綴に、
「ほんとにまたそれするのか!? 大丈夫かよ!?」
心配を隠し切れないのはチームを組んだ唯織だ。先ほどの敵は今の味方である。
「安心しろッ! 先程の敗戦後、ちょっとだけ左手で羽根突きの練習をしたッ! だから後ろは任せろとっつんッ!」
「あぁ、どうとでもなれ! シケ、背中は任せた! 見てろよノル! 王庭!」
騒がしい二人と違って、対戦相手のノルディアと桜は和やかだ。
「お手柔らかにお願いしますね♪ 王庭さん、よろしくなのです♪」
「ノルさん、チームワークで頑張りましょう」
そして二人は唯織と綴の方へ向き直り、
「十束さん、四軒家さん覚悟してください、いつぞやの説法のお時間です」
「ねぇ今物騒なこと言わなかった!?」
思わず聞き返した綴を無視して、2対2の羽根突きは開始された。
「やっぱ真剣勝負と違って、横に仲間がいると落ち着いてプレーできるな」
真剣勝負の時と変わらぬ猪突猛進振りで攻め立てる唯織と、
「ノルさん、そちらに行きましたよ」
「任せてください、王庭さん」
チームワークで迎え撃つ桜とノルディア。
綴はというと、
「なっしまっ……グエ-ッ!!?」
勢いあまって羽根の直撃を受け、早々にマシンコスリーから転げ落ちたりしていたという。
●今日はねね子の誕生日
「ねね子おねえさん、お誕生日おめでとうございます」
敗北を明日の糧にすべく、素振りに励んでいたねね子の元に、七ノ香が大盛りのお汁粉を持ってやってきた。
「ありがとうずら! 丁度腹減ってきたところだったんだべ」
素振りを止めて、お汁粉を受け取るねね子。
「だったら、みなさんでお茶会にしませんか? 紅茶とスコーンを用意してきたんですよ」
そこへ、ティーポットとスコーンの詰まったバスケットを持った陽桜もやってきた。
さっそくグラウンドの一角にビニールシートを敷いて、お茶会の準備を始めていると、
「よかったらこれも食べてくれ」
唯織が、日だまりのある家からの差し入れだと言って、ねね子へ誕生日ケーキを手渡すと、慌ただしく仲間達との羽根突きに戻っていった。
「叢雲、私からもプレゼントだ。香水なんだが、好みに合うだろうか?」
ビニールシートに腰を下ろしたねね子に、友衛がラッピングされた桜色のボトルを差し出す。ねね子はさっそくボトルの蓋を開けて匂いを嗅ぐと、
「春の匂いがするんだべ」
そう言ってうっとりとした表情を浮かべた。そんなねね子の様子に、友衛の耳が安堵したようにぴくぴくと動く。
「こうして祝うのももう4回目か」
続いて紅が、桜色のミニバッグを差し出した。
「ねね子も春には高校生になる訳だし、可愛くてお洒落な物をと思ってな。気に入ってくれるといいが」
「ありがとうずら! おらもつがいを見つけるために、これからは女子力も磨いていくべ。そうだ、紅こそ、優勝おめでとさんなんだべ!!」
逆にねね子に祝われ、照れたような困ったような表情を浮かべる紅。
そんな二人の会話を、妖は愕然とした様子で聞いていた。
「……え? 4月から高校生? ……ねね子が?」
そう呟くと、ねね子の狼耳の先から爪先までを、しげしげと見つめる。
「……まるで成長していない」
「妖は失礼ずら! おらだって色々成長してるんだべ! 尻尾とか!!」
怒り出すねね子の様子に、周りから思わず笑い声が上がる。
ねね子は今年も、ねね子のままのようだ。
作者:J九郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年2月16日
難度:簡単
参加:10人
結果:成功!
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