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「灼滅者達の戦う様を娯楽として提供する、か……」
机の上に乗った企画書を一読しながら、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が考え込む表情をしている。
優希斗の様子が気になったか灼滅者達が集まって来た。
「やあ、皆。皆が今一般人向けにやっている民間活動について、新しい企画が和守さんから出てきてそれが採用されることになったよ」
和守というのは平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)と言う灼滅者の一人の事だ。
彼の出した提案が巡り巡って優希斗の所に回って来たらしい。
「確かに、ライブハウスで行われる灼滅者同士の戦いと言うのは見所があるよね。プロレスの観戦とか、そういったものに近しいものがあると俺は思う。その辺りの理由から民間人に灼滅者について知ってもらう良い機会だろう、という訳で今度のライブハウス第272回決勝戦が、この企画に使用されることになった。まあ、問題もあるけれどね」
先ず簡単な話ではあるが灼滅者にはバベルの鎖があり、灼滅者達の宣伝、広報活動は情報として伝播しないと言うこと。
この事実はラブリンスターがライブを開いても一般人を集客出来なかったことからも明白である。
「その問題を解消するためには、今君達自身がやっている様に、一般人を君達自身の手で勧誘し、一緒にライブハウスに来て貰う必要がある」
要するに客引きである。
「最もこの客引きの目的は、あくまでも一般人に皆の事を認知してもらい、且つその上でより広く一般人に君達の事を知って貰い、信じて貰えるようにすることだ。その上でライブハウスのファンになって貰って他の知人や友人、家族と一緒に来てもらえるようになれば上出来だろう」
この2つの目的を成立させるために重要な事として、先ず何処でどんな人にどの様に声掛けをする様にするか、と言うものがある。
その上で想定される客層に対するアピール方法や、勧誘に誘われて一緒に来てくれた一般人達に如何に楽しくライブハウスを観戦して貰えるかも重要になるだろう。
「と言うのは灼滅者同士の戦いは、皆にとっては凌ぎを削る戦いだろうけれど、一般人から見たら非常識だが結局の所『試合』に過ぎない。つまり何らかの演出効果によってそう言う派手な戦いに『見えている』と疑われてしまう可能性があるからだ」
更に仮に今目の前で起きていることが『事実』であると認識した場合、一般人が怖がって途中で帰ってしまう恐れもあるし、一方で楽しかったけど1度で十分だと思われてしまう恐れもあった。
「この作戦の最終目標は毎週開催されるライブハウスの利用による一般人への民間活動。つまり長期的かつ継続的に一般人に灼滅者について知ってもらう為の手段としてライブハウスに来てもらう必要がある訳だ。その為には、観戦を見る一般人の目線に立って観戦そのものを楽しむことが出来るような雰囲気を作り上げることが重要だろう」
その為にはどんな努力が必要になるか、それを灼滅者達に考えて欲しいと言う事だ。
「派手さはないけれど堅実なこの一大作戦。これを継続して成功させていく為にも、是非皆の知恵と力を貸して欲しい」
優希斗の言葉に灼滅者達は其々の表情で頷き、その場を後にするのだった。
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(「忘れられちゃ困るんだよね、一回うまくやるんじゃなくて定着して文化になっていかないと」)
ターゲット層を洗い出しながら【糸括】の石宮・勇司は思う。
「やっぱり若年層の方が集客が見込めそうだね」
「ふふ、石宮くんありがとうね」
「それじゃあ早速行動開始だな。琵咲、行くぜ」
「分かったよ、脇差」
勇司に微笑んだ三蔵・渚緒が公園に、鈍・脇差が琵咲・輝乃と共にゲームセンターへ。
「あたしもいっぱいがんばるよっ」
久成・杏子は今までに知り合った先生達の所に向かい、萩沢・和奏も行動を開始。
「さぁ、世にも不思議な似顔絵書きだよ!」
「えっ? どんな?」
公園でのゴーストスケッチによるパフォーミングに驚く観客達に「どう?」と笑顔で問いかける渚緒。
書いて欲しいと言ってくれた少年が絵に感激してお金を払おうとするのを穏やかに押し留める。
「お代は結構だよ。その代り今度の金曜日に吉祥寺で開かれるこれに来て欲しいんだ」
こうやってチラシを配布して宣伝活動を行い後の来場者を増やす渚緒。
一方、ゲームセンターでは脇差がゲーマーと仲良くなっていた。
「こんなゲームみたいな戦いをリアルに観戦できる場所があるの知っているか?」
「えっ? 何言ってんだよ、お前」
「実はな……俺もこんな感じの事、出来るんだよ」
「ボクもね」
隣の輝乃が何処からともなく宙に浮く男女の片翼の人形、familia pupaを呼び出してフワフワと自由に飛び回らせるのに仰天する人々。
脇差は勇司が予め交渉していた店長に断りスタイリッシュな戦闘衣装に瞬く間に衣替えしながら月光蛍火を出現させ、輝乃が人形を動かして宙に浮かばせた空き缶を一閃。
その早業に目を輝かせる彼等に、懐のチラシを配る。
「続きは会場で。迫力のある戦いが見られる事請け合いだぜ!」
和奏は将棋クラブで有志作成のパンフレットを配っていた。
「あたし、萩沢・和奏っていいます。武蔵坂学園に通う学生です」
配りながら兎型の影業を呼び出してアピール。
偶々やって来ていた外国人に本の妖精さんで訳したパンフレットを渡す。
驚きを隠せない人々へと呼びかける和奏は知的戦いに興味のある人達の心を確かに掴んでいた。
「ライブハウスは、武蔵坂学園主催の校外企画なの。この世界の仕組みと、あたし達がどういう活動をしてるか、楽しみながら、知ってもらいたいの」
実際に灼滅者達の活動を見た先生達へとライブハウスを紹介する杏子。
「それでね。先生達が見て、問題ないって思ったら、次回は生徒の皆にも、課外見学活動として、観に来て欲しいのっ!」
既に灼滅者である自分達の事を知っている人達だけでは、今回の観戦会の目的には貢献できない。
でも、後に先生達を通して新規顧客を開拓出来るのならばそれは成功だろう。
また、焔月・勇真は休日のマイナーなヒーローショーでプラチナチケットを使ってショーを見ている人々に溶け込み集客している。
「な、こういうの好きならこんなのもあるんだけど、良かったら見に来ないか?」
勇真のスマホの動画を興味深そうに見ている一般人達に仲間達が用意したパンフレットを配る。
「今度の金曜日にね、こういう戦いが行われるんだ。ぜひ、一度見に来てね!」
他は淳・周の例もある。
アルティメットモードに感動した、特に刺激を求める人々にビラを配ってから、裏路地に向かう周。
そして喧嘩を売って来た不良達の攻撃を躱し続け彼等を疲れ果てさせた。
「ち、畜生! まさか、こんな奴に俺達の攻撃が当たらないなんてよ!」
「おっと、あたしみたいな奴等が戦う催しがあるぜ? 今度の金曜日、見に来てくれよな!」
そうやって不良達やストレスを溜めた人々を呼び込んだ。
富士川・見桜は、じっくりと時間を掛けていつも行く喫茶店等に足を運び格闘技や戦いに興味がある人間を確実に捕まえ、チラシを配る。
本当にそんな場所があるのか? と疑いを持つ人たちには、剣舞等を実演し確実に集客人数を増やしていた。
これは、鷲堂院・どら子も同様だ。
特にこういった派手な戦い等を写真にとる写真好きを狙って観戦撮影ツアーと称して勧誘してそこそこの観客を確保してそれを本部で舞台設置をする者達へと連絡する。
また、駅でもちょっとした催しが開かれていた。
「ニャフフ! 着ぐるみパフォーマンス始まるよ~!」
それは、【文月探偵倶楽部】の文月・直哉。
直哉がスタイリッシュモードで着ぐるみを輝かせると、興味を持った子供達が集まってくる。
文月・咲哉が直哉の踊りに合わせて音楽を流し、志穂崎・藍が手元に持っていたチラシを配る。
風船を持った着ぐるみのお姉さんの藍におねだりをする子供達の親にも藍はチラシを配っていた。
「ニャフフっ! 今度の金曜日、俺達のパフォーマンスよりもっと派手な戦いがあるんだぜ! 会場はチラシの通り! 是非、見に来てくれよな!」
駅でのパフォーマンスの意味は大きく、ライブハウスの集客率を上昇させる事になる。
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――観戦会当日。
幼稚園が終わった頃【Fly・High】の平・和守が、アメリア・イアハッターと共に、その場を訪れた。
子供でも楽しんで読めるように工夫されたチラシを用意。
「ひらりん、行くよ♪」
制服に身を包み、空飛ぶ箒に跨るアメリアに頷いた和守は、<キャプテンOD>形態でクルクルと大道芸よろしく三回転位しながら華麗に箒から飛び降り子供達の人気を博す。
プリンセスモードで魔法少女っぽく変身したアメリアと共に子供達の関心を引くべく様々なパフォーマンスを行う。
「今日開催のライブハウスに来たらもっと凄いの見られるよ!」
アメリアの宣伝に子供達が行きたそうにする一方、親達もやって来た。
和守が慌てる事無く説明。
「今日俺達の学校で開かれるライブハウスの無料観戦会ご招待のパフォーマンスをしています」
そして持参したチラシを読んで貰う。
「こんな風に子供達が喜ぶ格好いいパフォーマンスが沢山無料で見られます。一緒に行きませんか?」
そうやって複数の家族連れを和守達は誘導出来た。
他には、ニアラ・ラヴクラフトの場合……。
(「集客方法。英雄譚。怪奇小説。未知に対する興味。其処を擽るべきだ。我こそは未知に魅了された『矛盾』故に。似た思考の存在は複数個あろう」)
俗に厨二病の多い中学へと向かい、授業が終わり帰宅する時間を狙って彼は勧誘活動を掛ける。
白衣を纏った珍客に彼等が食いつかぬ筈が無い。
そのまま彼等を望む深淵へと誘い込むニアラ。
「好いか。我等『超越性』が集い、模擬戦闘=催しが成立した。故。我は選ばれた貴様等『一般人』を導くと決めたのだ。往くぞ」
と、沢山の中高生を誘導することに成功していた。
また【糸括】の一人咬山・千尋は会場周辺でチラシを配りながらラブフェロモン。
千尋に誘われた若者達を【撫桐組】撫桐・娑婆蔵や識守・理央達が巧みに誘う。
「あっしらの興行に来てくれて感謝するでございますよ! さあさあ此方へ、此方へ!」
「ふふ、お姉さん足元気を付けて。折角だし、エスコートでもしようか?」
この効果も手伝って宣伝を見て近くまで来た特に彼等と同い年位の若年層が集まる。
こうした多くの努力によりそれなりの観客がライブハウスを訪れた。
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「ああ、大体この位だね」
「……では、俺達も最善を尽くそう……」
杏子達の連絡を基に【糸括】部長、木元・明莉が練った構想に神無日・隅也が言葉少なに頷き設営開始。
「清掃と修繕はしておいたから、そっちはよろしく頼むよ」
「やっぱり、綺麗な所で楽しく観戦したいものね、皆」
神凰・勇弥がそう告げて、【Fly High】のアトシュ・スカーレットや、【星空芸能館】の紅羽・流希、試合後の催しを企画していた【武蔵坂軽音部】の万事・錠達とスケジュールの調整をしていた彩瑠・さくらえが微笑を零すと、明莉がサンキュ、とさくらえに軽く手を振り【糸括】の面々と共に会場の為の席を設置し更に整理券を作成。
咲哉達は軽食を用意し、他にも紙芝居で客を集めた【古ノルド語研究会】の山田・透流や、沢渡・千歌達がライブハウスの片隅に部活の研究発表物を並べている。
これには、ライブハウスの観戦が面白くなくても楽しめる様にと言う配慮があった。
着々と設営が進む中、星野・えりなは笑顔だった。
ラブリンスターが駆けつけてくれたから。
「学園で漸くラブリンスターさんと一緒に歌えるチャンスが来てとっても嬉しいです!」
「私も久しぶりのライブ、頑張りますよ~!」
えりな達が気合を入れる間に、千尋や【桐撫組】、【Fly High】の月影・木乃葉や土師・柊悟達に案内された人々が隅也達の作った整理券を基に順序良く着席する。
体調が悪くなる可能性も鑑みた高沢・麦が丁寧にお客を捌き、戒道・蔵乃祐や周は警備に目を光らせる。
蔵乃祐の想像は、例え来ていたとしてもそれが誰かは分からない為杞憂に終わるが。
「やっぱり、俺達と同じ位の人達が多いんだねぇ」
麦が観客達を見ながら呟いた。
明莉達が用意した席を埋めた人々は。
「観戦のおともにー、軽食やドリンクはいかがですかー?」
娑婆蔵と理央等売り子からそれらを購入して寛いだり、【文月探偵倶楽部】が学園祭でいつも催す着ぐるみカフェの名物温かいうどんの他に、おでんや空揚げなどを無償で提供され、人心地ついてライブハウスの開始を待っていた。
その一方で……。
「えっ? 兄ちゃん、参加者のマネージャーなの?」
「うむ、その通りだ。此度は我が友が是非とも、皆に意気込みを告げたいと申していてだな」
問いかけに然、とニコ・ベルクシュタインが首肯すると、少年は目を輝かせ、是非とも選手とも話がしてみたい旨を告げた。
スケジュール帳を確認したニコが首肯し選手の控室へと彼等を案内。
そこで待っていたのは、ポンパドール・ガレット。
ポンパドールと交流を深める様子をニコは満足げに眺め、こうした企画もライブハウスをより身近に感じてもらう為に必要なのだな、と強く感じるのだった。
「そろそろだな」
色々と準備がすんだ所で、アトシュが蔵座・国臣に合図を出すと、国臣が頷き、割り込みヴォイスでライブハウスの前座ライブをアナウンスした。
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「皆さん、行きますよ~!」
えりなの音頭と共に武蔵坂学園の制服姿で入って来た【星空芸能館】の天ノ川聖歌隊。
椎那・紗里亜がスレイヤーカードを掲げるのを合図に、ファルケ・リフライヤがギターをかき鳴らし始める。
「よーし、行くよ!」
師走崎・徒がスレイヤーカードを翻して天ノ川聖歌隊の制服へと変身して風になってその場を走り回って翻してダンス。
「折角だし手伝わせて貰うっすよ、徒っち」
ロック調の音楽に合わせてバックダンサーとしてダイナミックにステージに躍り出た獅子凰・天摩に徒が微笑する。
突然の乱入者に沸く観客達の声援を受けながら紗里亜作詞の歌が始まった。
『キミの目の前で』
真ん中に立つえりなと、右翼で歌う紗里亜。
左翼のラブリンスターの歌はえりなや紗里亜の歌声を際立たせる。
『繰り広げられる』
『人智を越えた闘い』
『磨き競い合い』
『高め合う力』
こっそり合流してベースギターをかき鳴らす流希とファルケの曲調に合わせる様に徒が上空へと飛び、天摩がOath of Thornsによる鋭い蹴りで星々の煌めきを演出。
『闇から人を護るため』
えりなの声に強い想いが重なりそれが益々勢いを強くすれば。
『恐れずに目を凝らして』
紗里亜が重ね合わせる様にそう歌い、ラブリンスターがそれを支援。
テンションが上がって来たかファルケが一緒に歌おうとするが、彼の歌声を知る流希に塞がれた。
『誰も信じなくても』
『真実はそこにある』
美しく清らかな3つの声が重なり合い。
『Fight on Fight on Slayers!』
ジャラン! と流希とファルケが最後の一音を鳴らすと同時に徒と天摩が交差し、更に紗里亜達3人の美少女が手を重ね合わせて天に掲げる。
若年層への受けがよいそれはこれから始まる戦いへの期待をグンと高めた。
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「皆さん、ライブハウスによく来てくれました! さあ、いよいよ選手入場……っと、その前に!」
リングの脇のDJ席。
2人のDJの内の一人、加持・陽司が声を張り上げる。
「これから始まる血沸き肉躍る戦いは、全て本物真剣勝負。でも、皆さんには被害無く安全です! 心行くまで楽しんでいって欲しいと思っております」
「だが、いきなりそんなことをいわれても初めて俺達にあった奴は困るよな? そこでこれからオレ達がどんなことが出来るのか、デモンストレーションするぜ!」
天方・矜人の台詞に合わせて陽司が目配せ。
現れたのは、【Fly High】のオリヴィア・ローゼンタールと、荒谷・耀。
オリヴィアと耀の姿に観客達が騒ぐ。
オリヴィアがコンクリートの塊を沢山持って現れたから。
「行きますよ、耀さん!」
オリヴィアがコンクリート塊を耀に投擲。
巨大な鬼の腕へと変貌させ涼しい顔で其れを粉砕する耀。
驚く観客達の目前で、オリヴィアもまた、雷を帯びた回し蹴りでコンクリートを砕き、更に巨大な白銀の大剣を片手で構え軽々と振るった。
「タネも仕掛けも……ございます。パンフレットにもありますが、これは超常なる力、サイキックです」
「これから行われる戦いは、このサイキックを使用した超常の戦い。怖い、と思う人もいるでしょうけれど其れは正常な事。でも、現実にこれは存在している。だから対処法を知らなければ、家族や友人等の大事な人を守れないわ」
耀の言葉を引き取って陽司が続けた。
「ですが、今回の戦いは正しくこの真実を知るのに一番良い機会です! どうか皆さん、この機会を目一杯楽しんでください!」
「さ~て、それじゃあ、選手の紹介と行こうか! 青コーナー生栗大福!」
矜人の生栗大福の選手達の紹介、そして陽司による赤コーナーフィギュアスケートの人々の紹介の後戦いの火蓋が切って落とされた。
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「解説の国臣さん、今回の戦いどう思いますか?」
「そうだな。サーヴァントが多い事も手伝っているのだろう。守り手達が壁となり後方から狙い手達が攻撃を仕掛けていく。……どちらの防御が先に崩れるかが一番のポイントだろう」
陽司の問いに国臣が返し、矜人が実況。
「おおっと、いきなり旋風の刃が決まったぜ!」
参加者の攻撃が致命の一打を与えた所をすかさず矜人が盛り上げる。
強烈な一撃を受けた対戦者達もまた互いに庇い合い戦う様を、後ろから見ていたメルヴィ・エンクィストが後押しした。
「キャー! ステキー! そこよ! そこ!」
メルヴィの声に押される様に他の一般客たちも声を張り上げ、試合を盛り上げた。
生栗大福の攻撃を受けながら、ポンパドールが笑う。
「ほいっ、次行ってみよ~う!」
チャルダッシュに続けてセイクリッドソードを掲げて起こした癒しの風に押される様に、フィギュアスケートの一人が連携して蛇を召喚して暴風を放つ。
「おおっと、フィギュアスケート、最強のコンビネーション発動だぁ!」
陽司がその様子をすかさず実況し人々が飲まれる様に歓声を上げた。
「がんばってくださいませー!」
小向・残暑の応援が追い風となり周囲の観客達の興奮が高まっていく。
血沸き肉躍ったかその場で立ち上がる人々を蔵乃祐や勇弥、周が宥め、麦が空気に当てられて体調を崩す人がいないかを確認。
中には疲れてその場から離れる人もいたが、そんな人達には、透流達【古ノルド語研究会】の用意した発表が癒しになっている。
「おおっと! 遂に一匹倒れた! これは生栗大福に不利か?!」
8分目にフィギュアスケートが、生栗大福の猫をKOした所を見逃さず矜人が叫ぶ。
「フレ~、フレ~! フィギュアスケート!」
ここぞとばかりに【糸括】ミカエラ・アプリコットがヒマワリ着ぐるみで応援の声を元気よく張り上げた。
「ねーちゃんは、この戦いに参加したことあるの?」
ヒマワリ着ぐるみが面白かったのか隣に座っていた青年に問いかけられ頷くミカエラ。
「うん。あたいも時々参加してる~♪ 灼滅者は、みんなを守るのがお仕事なんだ~。そのトレーニングの一環でね~♪」
ミカエラが笑顔で再び手(葉?)を振るのに合わせフィギュアスケートに声援が集中。
それに刺激されたかフィギュアスケートが一気に畳みかける。
生栗大福が徐々に前衛を剥がされながらも、尚果敢に反撃するその雄姿に感動する者もいれば、そこだ、一気に畳み込め! 等と言う者もいた。
「おおっと、生栗大福、これは決して諦めぬ不屈の闘志のなせる業だぁ!」
不利になった生栗大福の人物が二度KOされても尚立ち上がる姿に弾ける様に叫ぶ矜人に釣られ、戦場を注視する観客達。
そこに……。
「もう少しですわ! どちらも頑張ってくださいませー!」
「フレー、フレー、フィギュアスケート!」
残暑とミカエラの応援が生栗大福にのみ集中しかけた観客の視線が両方へと引き戻され、目前の戦いの一部始終を目に焼き付けんばかりに凝視させる。
そして……。
「勝者、フィギュアスケート!」
陽司の締めくくりと共にメルヴィと残暑の歓喜の声が混ざり、人々が熱狂的に声を張り上げた。
●
お互いの健闘を称え合う彼等に感銘を受けなかった者は少ないだろう。
そんな中、フィギュアスケートのポンパドールがヒーローインタビューの為に近づいてきた矜人にニコを通してマイクを貸して欲しいと告げた。
「なんで、おれたちがこんな風にライブハウスで戦いあっているのか。それは『いざという時みんなを守れるチカラがほしいから』なんだ。もうみんなから説明をうけてるかもしれないケド、ダークネスっていうみんなに悪さするヤツらとマトモに戦えるのはおれたち灼滅者だけだから、『そなえよつねに』ってヤツだからね!」
「このまま何も知らないでいると子供を守れないしね」
ポンパドールの言葉に誰にともなくそう呟くのは木乃葉。
それに感銘を受けたか、しん、とする一般人達がいる。
暖かな空気の中で満を持して登場したのは、錠達【武蔵坂軽音部】。
何時か一緒に対バンやろうぜと約束していた一般人のバンドチームと共に舞台に立つ。
「よし、行くぜお前等!」
――パーン!
軽快にドラムを叩き、この熱い戦いを締めくくるに相応しいビートを刻む錠や東郷・時生の奏でる音楽を聴き、少しだけ神妙になった人々の中に熱と安堵を与える。
それは時生の目論見通り灼滅者もまた『人』である事を示す決め手となり、こういった人達が自分達を影ながら守ってくれているのだと感じさせるには十分だった。
感銘を受けた人々の多くがライブハウスの端にクレンド・シュヴァリエや【文月探偵倶楽部】の咲哉や、【Fly High】が用意していた灼滅者について知る為のコーナーへと試合後に足を運んでいた。
特にクレンドの戦いだけではなく、災害などがあった時にも自分達の力が役に立つと言う広報は人々の心に強く届いた様である。
また、灼滅者達の持つバベルの鎖の真実を知った者達の中には、ただ宣伝するだけでは効果が無い事を知り、今度はこの世界の真実について知ってもらう為に一緒に来ると約束してくれる者もいた。
尚、理央や麦達が用意したアンケートの答えを確認すると、やはり、若年層には格好よさと言う単純な点で受けがよく一方で大人や知識人達はこの世界の真実についてきちんと理解しそれを知らせる為に又ライブハウスに来たいと言う人が多いことが判明し、これは、ライブハウス観戦会が灼滅者について一般人に知って貰う為の一つの手段として効果的であることを証明したのだった。
作者:長野聖夜 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年3月2日
難度:簡単
参加:49人
結果:成功!
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