ソウルボードの異変～群れを越え塔へ

■リプレイ

●現れた都市伝説
　ソウルボードの中。寒さも熱さも感じず、風一つ吹かない空間を、識守・理央（オズ・d04029）と空月・陽太（魔弾の悪魔の弟子・d25198）は、仲間とともに駆けていた。
　理央の口元には愉快そうな笑み。
「久しぶりのソウルボードだ、鬼が出るか蛇が出るかって感じだね。……うん。嫌いじゃないかな、こういうシュチュエーション」
「何がどれだけ湧いてきても、倒すだけだけど――と、出てきたね」
　陽太もフードの下で軽薄で陽気な顔を浮かべていたが、不意にフードを脱ぐ。
　一切の表情を消した陽太。陽太の視線の先で、空間が歪み出していた。そして三体の異形が現れる。
　恰幅のいい男性の銅像。
　宙に浮かぶ肖像画。描かれているのは西洋人と思しき男。
　そして赤いスカートを身に着けた、首無し少女。手には大振りの、鉈。
　この三体が、突破するべき都市伝説。
　陽太は表情をわずかも動かさず、跳躍。空中で足を一閃。『Hresvelgr』から噴出させた炎で、肖像画を襲う。
　理央も敵と距離を詰めた。片足をあげた。真っ黒なブーツ『Aldebaran』に火を宿し、銅像の脇腹を蹴りつける。
　銅像は二人の炎に燃え上がりつつ、拳を振り上げた。反撃しようとしているのか。
　陽乃下・鳳花（流れ者・d33801）は戦場を駆ける。理央と銅像との間に、身を割り込せる。
　間髪入れず、鳳花はクロスグレイブを担ぎあげる。銃口を開く。銅像へ黙示録砲！
　鳳花のウィングキャット『猫』も主にタイミングを合わせ、魔法を放った。
　砲撃と魔法は共に命中。それでも銅像は止まらない。拳を振り落としてくる。
　鳳花は、肩を強かに殴られてしまう。が、鳳花は唇で弧を描いた。軽くかつ不敵な声で、
「都市伝説、弱くはないか。周囲のソウルボードを都市伝説に変化させるって、厄介極まりないんだけどさあ、まあ踏ん張るしかないでしょ」
「ええ、踏みとどまろう」
　凛と響く声は、富士川・見桜（響き渡る声・d31550）のもの。見桜も鳳花に並んで最前線に立つ。
　見桜の前で、肖像画が目を光らせる。首無し少女が大鉈を振りかぶる。
　光線と鉈が、見桜に刺さった。しかし、見桜は痛みを顔に出さない。
　目にまっすぐな決意を浮かべ、見桜は『リトル・ブルー・スター』を振り上げた。青い燐光が飛び散る。そして、斬！　クルセイドスラッシュで肖像画を斬り抜いた。
　一方、首無し少女は再び鉈を構えていた。三蔵・渚緒（天つ凪風・d17115）は傍らのビハインド・カルラに、一瞬だけ顔を向け合図。カルラは、即座に少女へ霊障波を飛ばす。
　渚緒は一瞬出来た隙を逃さず、イカロスウイング。射出したベルトで、少女の腕を絡めとる。
　渚緒は敵の腕を締めつつ、仲間に、
「ここに来れたのが民間活動の成果なら、頑張ってきた人の分まで頑張らないと。――キョンちゃん、漣さん、回復をお願い」
「なぎお先輩、任せてなの！　回復手として皆を守るよっ！　一般人のみんなにあたしたちを知ってもらえて、それでここに来れたんだとしたら、それに絶対に応えたいしっ」
　声を張る、久成・杏子（いっぱいがんばるっ・d17363）。
　ウィングキャットのねこさんに敵に跳びかからせつつ、己は腕を上げる。星空の布地のネッカチーフ『Notation a jouer』を見桜に巻き、治療。
　漣・静佳（黒水晶・d10904）は鳳花に近づく。
「今、治療する、わ。待ってて」
　真摯な表情で、静佳は負傷箇所を確認。
　静佳は白く細い手を宛がう。指に光を点し、ジャッジメントレイを行使。鳳花を可能な限り治しきる。
　その後も、杏子と静佳は走り続ける。回復を行使し、戦線を維持し続けるために。
　鳥人姿のセレス・ホークウィンド（白楽天・d25000）は戦闘開始から、標識を掲げ仲間を支援していた。
　今、セレスは魔術文字が刻まれた木槍『ツグルンデ』を握りしめる。
　鎗の柄で銅像の腕を弾き、逆の手に持ったベルトで像の足を刺す。確かな手ごたえ。
　戦いの中、セレスは両の翼を広げ檄を飛ばす。
「ここで行われようとしているのは、どうせろくでもないこと。ならば、なんとしても阻止しよう。皆、引き続きいくぞ！」
　セレスの声に、おう、と数人が返事。

●耐え抜いたその先に
　やがて灼滅者は防御主体の戦闘に切り替える。他のチームと突破するタイミングを合わせるためだ。
　最前線で敵の攻撃を受け止めるのは、見桜と鳳花。
　見桜は敵のビームや鉈を受けつつも、「まだ立ってる！」と大剣を掲げて見せた。自らの声と姿勢で、仲間を勇気づけるために。
　鳳花は猫を連れて、軽快な動きで戦場を疾駆。「キミの相手はボクだよ！」と積極的に敵の攻撃を受け止める。
　二人を支えるのは、静佳と杏子。
　静佳は杏子と「そっちを、お願い」「わかったよっ！」と声を掛け合い役割を分担、静佳自身は光と標識を駆使、効率的に速やかに傷を癒す。
　杏子もねこさんとともに傷を癒しながら、元気いっぱいに『Notation a jouer』を振り、皆の防御も固める。
　その後なお、敵は攻めてくる。が、敵は万全の態勢ではない。
　防御に移る前に、陽太、渚緒とカルラ、理央が、そして他の皆が与えた傷が敵を弱らせているのだ。
「武器封じ、捕縛、炎――どれもしっかり効いているね。此方のダメージは、比較的軽微で抑えられそうだよ」
　淡々とした言葉で、仲間と情報を共有する陽太。赤の瞳の目は片時も敵から離れない。
　渚緒の顔にも油断はない。クロスグレイブを隙なく構えつづける。
「ディフェンダーとメディックも頑張ってくれてる。これならしばらくは耐えきれそうだね」
　理央はちらりと時計に視線を落としていた。
「後……3分16秒！」
　作戦を遂行するために、皆に耐えるべき時間を告げた。

　八人は敵の攻撃をしのぎ続けた。そして理央が告げた時が来る。
　セレスは、
「反転するぞ！　一気に潰す！」
　と、敵の真っ只中に飛び込んだ。あらかじめ敵の動きは鈍らせてある。故に敵はセレスの俊敏な動きについてこれていない。
　セレスは蹴る。輝く爪先を銅像の顎にめり込ます。
「まだだ！」
　セレスは止まらない。背後を振り返る。接近してきていた肖像画へ、セレスは『ツグルンデ』の穂先を向け――妖冷弾！
　凍てついた肖像画を、静佳は見つめていた。
　静佳は手を突き出す。静佳の漆黒の髪が揺れる。指輪を光らせ、呪いを解放。
　静佳の力が肖像画を覆う。肖像画の額縁をキャンバスを石へ変えていく。
「久成さん、ねこさん。とどめを、お願い」
　杏子は静佳に力強く頷いた。杏子は目を大きく開き、
「ねこさん。しっかり敵の動きを見て――今なのっ！」
　ねこさんと同時にジャンプ。
　ねこさんの肉球が命中。同時に、杏子の虹色と青のスニーカーから噴き出す火炎が、肖像画を直撃する！
　ギャアア。肖像画から大きな悲鳴が聞こえた。
　三人と一人の連携技が、そして杏子が起こした焔が、肖像画を消滅させる。

　そのそばでは、首無し少女が鉈を振り回していた。ブンッ。鋭い斬撃！
　鳳花は出血するが、構わない。傷の具合を確認すらしない。日本刀で敵の鉈を弾いた。金属音。飛び散る火花。鳳花は身を捻る。返す刀で、雲耀剣。渾身の力を敵に叩きつける。
「猫！　ボクの回復は後で良いから、攻撃して！」
　鳳花の言葉を聞いて、猫は魔法を行使する。首無し少女を撃つ。
　はたして首無し少女は膝をついた。
「動きが止まった？　ならこれでっ！」
　見桜は息を大きく吸いこむ。掌を握りしめる。
　指輪を輝かせ、弾丸を発射。弾丸で敵の胸を貫通！
　理央は姿勢を低くし、首無し少女へと接近する。
　理央の黒の瞳の先で、首無し少女は仰向けに倒れていた。
　理央は腕を振る。手に付けた糸を操る。首無し少女の肉体をその命ごと糸で、断っ！
「後は一体だよ！　いける？」
　理央は銅像と戦う仲間へ視線を動かした。

　理央の眼差しを、渚緒は糸目の奥の橙の瞳で受け止める。『大丈夫だよ、やってみせるよ』と渚緒は視線で答えた。
　そして渚緒はカルラとともに移動、左右から銅像を挟み込む位置に。
　カルラが霊撃を繰り出したのと同時、渚緒も鬼神変を実行。腕を巨大化させ、拳で銅像に殴り掛かる。
　渚緒の拳ははたして銅像の体を吹き飛ばす。地面に転がり落ちる銅像。全身は罅だらけになっていた。
　銅像はよれよれと立ち上がる。地面を殴りつけようとするが――それより早く、陽太が銅像の前に立つ。
　陽太は『Klinge zu Zerstreuen』の切っ先を天を向けていた。その刃を上から下へ。
　次の瞬間には刃で、像を縦に両断。
　崩れ落ちる像を見下ろし、
「予定通り、だね」
　無機質な声を陽太は出す。

●次なる戦場へ！
　灼滅者は反攻に転じてから一分たたず、敵の撃破に成功した。作戦通りそれまでに攻撃や炎で敵の体力を十二分に削っていたからこその、撃破。
　辺りは静まりかえる。
　鳳花は自分たちの体を見下ろす。怪我の具合をチェックし、
「皆、大きい怪我はないみたい。これなら、二人を送り出せるね」
　静佳と渚緒に視線を向けた。
　見桜も二人の目を見る。
「迎撃は私たちに任せて。確実におさえるから」
　迎撃に関してもしっかりした作戦を立てている。だから大丈夫だよと、見桜は胸に手を当てて保証する。
　杏子も二人に歩み寄った。
「なぎお先輩、カルラ、しずか先輩、決戦頑張ってね、でも、無事に帰ってきて」
「うん、頑張って成果を上げて、帰ってくるよ。負けられないからね」
　ずっと頑張ってきた彼女から託されたのだ、絶対に負けないと、渚緒は拳を握り締めた。
　静佳は杏子や渚緒を優しい目で見ていた。視線を前方に向け、告げる。
「……行きましょう、三蔵さん」
　そして静佳と渚緒は走り出す。防衛網を突破した先にある塔を目指して。
　セレスは彼らを見送りながら、軽く跳びはね、構えを整える。
「さあ、こちらは迎撃戦の準備を整えよう」
　陽太は都市伝説が発生するだろう方角に視線をやる。微かな声で、
「無限に戦えるのはお前たちだけじゃないと教えてやる」
　理央もまた、サイキックソードを掲げるように構えた。
「こっから先は根比べ。いくらでもかかってきな、魔法使いは不死身なのさ！」
　不敵に宣告。
　突破戦に余力を残して勝利した灼滅者たちは、二手に分かれ、次なる戦いに挑む。

作者：雪神あゆた	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2018年3月6日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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