ソウルボードの異変～群れの先に待つものは

■リプレイ

●
（「彼らの想いがここまで俺達を導いてくれたんだな」）
　現在は武蔵坂学園へとやって来ていると聞いている美雪と言う少女を救出する時に笑顔で応援をしてくれた少年の事を思い出しながら、文月・咲哉（ある雨の日の殺人鬼・d05076）はふと、思う。
　あの時の事だけじゃない。多くの民間活動によって人々と育まれた絆や、信頼……それは決して捨ててはいけないものだ、と再度内心で確認する咲哉。
（「……七不思議の都市伝説といい、意外と統率取れてやがる」）
　目の前に現れた3体の人体標本型の都市伝説達を見ながら、黒鐘・蓮司（グリムリーパー・d02213）が内心で思いつつ、何処か気怠げな表情で敵を見ていた。
「さて、やりますか……」
　アトシュ・スカーレット（黒兎の死神・d20193）が誰にともなく呟いて身構える。
　折角殺しあえる機会なので、どうせなら最前線で一暴れしたいところだったが、今回はそう言う訳にもいかないので、自らの身の内にある殺人衝動を堪えていた。
「皆、行くよ！」
「そうだな」
　胸元のガーネットのブローチに作戦が成功します様に、という祈りを込めながら触れる氷上・天音（拳が打ち砕くのは悲しみの氷壁・d37381）の気合に、御神・白焔（死ヲ語ル双ツ月・d03806）が頷いた。
「……こんな時に、何ですけれど。皆さん、一つだけ聞いてもいいですか？」
「何だよ、有城。今更聞きたいことがあるってのか？」
「有城先輩がそんな事を言うのも珍しいわね。まあ、聞くだけは聞くわ」
　有城・雄哉（大学生ストリートファイター・d31751）の問いかけに怪訝そうな白石・明日香（教団広報室長補佐・d31470）と殺意に彩られし漆黒の翼、塵殺の黒翼を背に展開しながら荒谷・耀（一耀・d31795）が目を細めている。
　雄哉は自らの心の象徴、薄い青色のバトルオーラを周囲に展開しながら小さく息を一つついた。
「皆さんは誰のために、何のために戦っているんですか？　……今、答えなくてもいいですけれど」
「……まあどうしてそんなことを聞きたくなったのか、理由は聞かないけれど。私は簡単ね。私は私の最愛の人と、今を生きる為、そして私に居場所をくれている人達と共に在るのに必要な癒しを得るために戦っているわ」
　迷い無く告げられた耀のそれに複雑な表情を浮かべる天音。
　展開されている翼からも何処か歪な悲しみを、苦しみを感じられてしまうから。
「なるほど。そういうことを考える人もいる訳ですね。まあ、今は目の前の敵に集中しましょうや」
　蓮司が気怠そうにそう返す。
「折角聞いてくれたんだ、ゆっくりと話をしたいが……まあ、目前の敵と戦いながら、だな」
　咲哉が【十六夜】を構えながら静かに告げた。
「まっ……始めますか」
　アトシュが戦いを促す様にそれに頷き臨戦態勢を整える。
　その様子をチラリと横目をやって確認しながら、音もなく白焔が走り出し、戦いは始まりの合図を告げた。

●
「元より形のないもの。疾く雑音に帰るが良い」
　何かを構えた様子も無く自然体でいた白焔が陽炎の様に姿を消し、鋸持ちの背後を一瞬で取る。
　一瞬で放たれた漆黒の弾丸が彼を打ちのめし反撃とばかりに白焔に襲い掛かろうとしたその時には既に咲哉が飛び出し、その攻撃を【十六夜】で受け流していた。
「雄哉、援護を頼むぜ！」
　そのまま鋸持ちの脇を駆け抜け深紅の光条を【十六夜】へと絡みつかせてメス男に振るいながら叫ぶ咲哉に雄哉が頷き、自らの取り戻した “絆”と想い、先の自らの問いへの自身の解が具現化したともいえるClear blue-sky Shieldを天空へと掲げる。
　蒼穹の球体が天音達前衛を包み込んだ。
「氷上さん、お願いします」
「分かったよ、雄哉さん！」
　雄哉からの指示に頷き、天音がソウルボード内を疾駆し生み出した炎を持って、メス持ちを焼き払おうとする。
　フルート持ちがそれにほぼ応じる様に鋭い音色を奏で始める。
　生み出された音はそのまま波紋となって広がっていき、高速移動している白焔を狙うが雄哉が前に立ちはだかりその攻撃を受け止めていた。
「オレが行く為にも、この位でへばるなよ有城！」
　叫びながら明日香が縛鎖グレイプニルを解き放ち、後衛のフルートを奏でた敵を締め上げる。
「さて、なるべく同時撃破……ね、なんともまぁそこそこ厳しい条件……。まっ、やってみせますか」
　軽口を叩きながら、アトシュがその目を鋭く細めると、爆発的な殺気が周囲を包む。
　メス持ちに向けられて矢の様に放たれた殺気の前に鋸持ちが飛び出し鋸で殺気の矢を受けとめていた。
「まあ、さっさと殺りゃ……いいってワケじゃねぇのが面倒っすよね」
　アトシュに同感とばかりに返しながら気怠げな表情のままにガトリングガンをゆっくりと構えた蓮司が引金を引く。
　蓮司のガトリングガンから放たれた無数の爆炎の込められた銃弾が、明日香によって締め上げられていたフルート持ちを撃ち抜いた。
「この程度で倒せると思わない事ね」
　耀が告げながら暗闇に浮かび上がる彼岸花を怪しげな色のままに解き放つ。
　おどろおどろしい血色の炎がフルート持ちを焼き払おうとするのを、咄嗟に鋸持ちが立ちはだかって受け止める。
　メス持ちが炎で体を焼かれながらも漆黒の霧を作り出し周囲を覆い、自らの傷を癒すと同時に自らの力を蓄えていく。
「厄介ですね」
「ああ、そうだな。でも、俺達は負けられないんだ。……俺達の護りたい人の為にも、な」
　冷静に状況を観察する雄哉に、咲哉がさりげなく呟いている。
「……文月先輩は僕が何のために戦っているのか、知っているんですか？」
　軽く目を瞬く雄哉に、咲哉が軽く肩を竦めた。
「まあ、何となくそんな気がしただけだ。最近のお前は、俺と似ている所があるからな。……大切な者を護りたい。俺達が歩む中で育んできた“絆”を何時までも大事にしたい。……俺はあいつと契約してからそう思う様になったから、な」
「そうですか。そう言われれば守りたい人を、場所を守るために戦う今の僕と文月先輩は似ているのかも知れませんね」
　照れくさくなったか僅かに目を逸らす咲哉に雄哉は思わず微苦笑を零した。

●
（「……何時から、だったかしらね」）
　山吹色の勾玉を煌めかせ蒼穹の結界を強化しながら、耀は何となくそう思う。
　今の自分を卑下する気も、先の問いに対する解にも躊躇は無いのだが、それでも何かが脳裏に僅かに引っ掛かり、ふと、今の自分になった時の記憶の糸を手繰り寄せようとする。
「遅い」
　耀の援護を受けた白焔が音もなくメス持ちへと忍び寄りその首元に手刀を一撃。
　そのまま残像を引きながら後退する白焔に連携して、蓮司がメス持ちの足元を斬り払った。
「流石にこの位じゃ殺れないっすよね」
　毒風を吸い込み、僅かに咽込みながら蓮司はぽつり、と呟く。
　殺し過ぎず、生かし過ぎず。
　この毒風による猛攻を捌きながらのその戦いは、たとえそれ程でもない敵と言っても、割と厄介だった。
「そこだぜ！」
　アトシュが蓮司の横を駆け抜けて、ジグザグスラッシュでメス持ちの体を斬り刻む。
　じわじわと殺そうとしている、という感覚、嬲り殺しに近い状態に苦悶の表情を浮かべている様にも見える敵の姿が何となく心地よくて、僅かに口元を綻ばせた。
　このまま最前線に立って暴れたい所ではあるが、そうすると作戦に狂いが生じると、アトシュは自らに言い聞かせ、血気に逸る自らを押し留める。
　仲間を救うべく後衛のフルート持ちがフルートを奏で、そこから不可思議な自分達よりも小さな怪談を生み出し、天音達を狙い撃った。
　咲哉が天音の前に立ちはだかってその攻撃を【十六夜】で斬り裂く一方、明日香は一瞬で雄哉の背後に回り、彼を盾にしながら鱶の様な笑みを浮かべた。
「教えてやるよ。オレが戦うのは、オレ達灼滅者が進化したダークネスであることを証明する為だ！」
　高揚した様に笑いながら、明日香が不死者殺しクルースニクに深紅のオーラを這わせてメス持ちを斬り刻もうとするのを、鋸男が割って入って妨害してくる。
「……」
　明日香の言葉に、天音が何処か気がかりそうな表情を浮かべてちらりとそちらを見ながら契約の指輪を翳して漆黒の弾丸を解き放ってその身を射抜き、咲哉が黄色の光条を纏わせた【十六夜】を天空へと掲げる。
　剣先から放たれた黄色い光が耀と蓮司の傷を癒しながらその身を護る結界を作り上げた。
「まっ、戦う理由なんてのは人それぞれだよな」
　アトシュが誰にともなくそう呟くと同時に、天音のセットしていたアラームが鳴った。
「皆、後5分だよ！」
「了解」
　鋸持ちの攻撃をトン、とバックステップで躱した白焔が言葉少なに頷きブレイジングバースト。
　無数の爆発の華が炸裂し、メス持ちが覚束ない足取りで立っている。
「っとと、殺しちゃいけないんだっけか。仕方ないな」
　これ以上攻撃を続ければメス持ちが倒れると判断し、アトシュが緋牡丹灯籠をフルート使いに向けて撃ち出し、その全身を焼く。
「私達が進化したダークネスね……」
　ダークネスである養父に育てられている故か、その言葉に違和感を感じつつ耀が清めの風を吹き荒れさせ、咲哉達の傷と毒を癒す。
　自分達はいずれダークネスに堕ちる運命だと言うのに、其れを進化とは到底言えまいという諦めとも悟りとも取れる想いが脳裏を過った。
　炎に焼かれ傷を負いながら、メス持ちが自らを暗闇の霧で隠して傷を癒すが、それでは一撃で倒せると言う状況は変わらない。
　その時フルート男が掻き鳴らすメロディを変えた。
　変えられたメロディがメス持ちの傷を癒したその隙をついて、雄哉がその腕を鋼鉄化させて正拳突きを見舞う。
　体をくの字に曲げて吹き飛び、地面に叩きつけられるメス持ちを飛び越え、天音がアイスブルーの光線をフルート使いに向かって撃ち出しその身を射抜いている。
　その一撃に覚束ない足取りをしているフルート使いの様子から、既に瀕死に近い状態に来ているのだ、と言う事を咲哉が看破。
　漆黒の闘気を【十六夜】から放ち、明日香の傷を癒しながら告げる。
「大分弱ってきているみたいだな。皆、作戦通りに行くぜ！」
「了解っす」
　蓮司が気怠げに頷き、周囲に纏うオーラを漆黒の光線にして、目前の鋸持ちを射抜き。
「退け」
　白焔が一瞬で宙を舞い、鋸男の脳を刺し貫く。
　その様は、正しく人型の悪夢だった。

●
「9分！」
　天音が時計の針を確認して頷きながらアイスブルーのオーラを癒しの力に変換させ、これまで明日香が盾にしてきた雄哉の傷を癒す。
　アトシュが怪奇煙で自らが受けている傷を回復しながら自身を強化し、雄哉が蒼穹の結界を張り直して持久戦の構えを取る。
　8分目には集中砲火によって鋸持ちも深手を負っていたのでこれ以上の攻撃は無意味と判断した蓮司が自身や耀の回復に回り、明日香と白焔は攻撃を止めて回避に集中していた為、余力は十分に残っている。
　また、状況に応じた耀の的確な回復が、アトシュ達の継戦能力をしっかりと支えてくれていたこともプラスに働いていた。
　攻撃をしてこないことを幸運と思ったか、メス持ちが毒霧を噴射し、天音達を襲うが、明日香は雄哉を盾にし、咲哉が白焔を庇う為被害は最小限に押し留める。
　鋸持ちが続けてアトシュに向かって斬りかかるが、これは咄嗟に耀が放った漆黒の翼が絡め取って相殺。
「残存戦力を失うわけには行かないわね」
　耀がそう呟きながら再び塵殺の黒翼を解き放って天音を覆いその傷を一瞬で塞ぐ。
　フルート持ちもまた、激しく笛を掻き鳴らし天音を狙うが、その前には咲哉が立ちはだかり【十六夜】で音を斬り裂いていた。
　――そして……。
「十分だよ！」
　最後のアラームの音を聞いた天音の叫びに、其れまで回避に力を注いでいた明日香と白焔が一気に攻勢へと転じた。
「遅いんだよっ！」
　明日香が縛鎖グレイプニルで後衛のフルート持ちを締め上げると同時に、蓮司がブレイジングバーストを放ち、その身を焼き尽くし。
「散れ」
　白焔が一足飛びに間合いを詰めて、メス持ちの首をバベルブレイカーで貫けば、天音が接近し、空に瞬く星々を連想させる蹴りを放ち、止めを刺す。
　一瞬で仲間達を倒された鋸持ちが最後の抵抗とばかりにその鋸を大上段から振り下ろすが、耀が赤い勾玉を翳して緋色の光条を解き放ってその身を射抜くと同時に、アトシュのジグザグスラッシュがその身を八つ裂きにし。
　更に咲哉が合わせる様に【十六夜】に指先を当てて狙いをつけて漆黒の球弾を撃ち出しその身を射抜いていた。
「……其々に想いと迷いがあるんですね」
　大きく仰け反る鋸持ちを見つめながら自らの問いかけに答えてくれた者達の解を反芻しつつ雄哉がその拳に雷を帯びさせて痛打を放ち、鋸持ちの鋸を砕いてその身を打ち抜き、止めを刺すのだった。

●
　――3体が同時に倒れた直後。
「今です、此処は全力で守り抜きますから、塔に行ってください、御神先輩、白石先輩！」
　僅かに開かれた突破口を確認した雄哉の声掛けに白焔と明日香が頷き、そのまま電波塔に向かって駆けぬけていく。
「こっちのことは気にすんな！　そっちはそっちでやれることをしてこい！」
「後はあたし達に任せて！　白焔君、明日香さん、応援していますから！」
　アトシュが大丈夫、と言う様に笑みを浮かべ、天音がエールを送る。
「こっちは任せて下さい。まぁ、飽きる前にケリつけてくれりゃ嬉しいですけど」
　蓮司が気怠げな表情のままに軽い口調で告げる。
「大丈夫、抑えは任せとけ。必ずこの場を守って見せる。だから白焔も明日香も、塔の方をよろしくな。武運を祈る」
　咲哉のその言葉を背に、白焔と明日香が去っていった。
　それから程なくして再び現れる、都市伝説達。
「都市伝説食べ放題なんて、まるで夢みたい……って、実質夢か。此処夢の中みたいなものだしね」
　姿を現し始めた都市伝説達を見ながら耀が軽く肩を竦めるのに小さく首肯する蓮司。
「まっ、心置きなく殺れるのは事実ですね。……んじゃ、モグラたたき始めますか」
「ええ、そうですね。……行きましょう、皆さん」
「ああ、援護もサポートもしてやる、全力で殴って来い！」
　冷静に呟く雄哉とアトシュの激励。
「んで、誰から来てくれんですか？」
　蓮司の呟きに都市伝説達が動き始める。
「後は任せたぜ、白焔、明日香」
　彼等の進路を塞ぐ様に立ちはだかった咲哉の祈りと共に迎撃戦が始まった。

作者：長野聖夜	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2018年3月6日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 7
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。