納豆怪人ミトナッツォ!

    作者:池田コント

     小学校教員ハルオは驚愕した。
     見回りを終えて宿直室に戻ってきたところである。エネルギーのありあまったおガキさま達のバカ騒ぎにつきあって今日も大変疲れたので、その疲労を癒そうと隠しておいたアニメキャラの抱き枕をひっぱりだしてきたところ、その枕があろうことか納豆まみれになっていたのだった。
    「な、なんてことだ! 俺のめんまちゃんが! いや、しかし、これはこれで……いや、誰だこんなことをやったのは!」
    「私だ!」
    「お、お前は……!?」
     ハルオは振り返り、さらなる驚愕に襲われた。 
     そこにいたのは、等身大ワラ人形。いや、全身をワラで包んだ人間だった。
    「納豆を愛し、納豆を食す! 納豆人間ミトナッツォがやってきたぞ! 水郡線でやってきたぞ!」
    「い、いや、交通手段は聞いていないが」
     その尋常ではない外見に目を奪われて、うっかり忘れかけたが、こいつが愛しのめんまちゃんに納豆をぶっかけた事実は見過ごすわけにはいかない。
     身長的には大人ではなさそうだ。声も少し高い。高学年の児童のイタズラだろうか。
    「なんてことをするんだ。こんなに汚して、いや、けがして!」
    「なぜに言いなおした」
    「納豆だってもったいないだろう!」
    「もったいない、だと……?」
     どうやら、そのワードは禁句だったようで、ワラ人間は怒りを滲ませながらハルオのほっぺたを両側にひっぱった。
    「もったいないと、一体どの口がそれを言うんだこの口かァー!」
    「くぅわー! いひゃいいひゃい」
    「その納豆をよく見ろ! 気づかないのか?」
     ワラ人間の手から逃れ、ハルオは納豆をまじまじと見つめた。
    「普通の納豆に見えるが……」
    「違う! それは消費期限のきれた小粒納豆だ! もう食べられないやつだ!」
    「そんなのわかるか!」
    「わかるはずだ! お前は過去その納豆とすでに出会っている」
     ワラ人間の言葉に、ハルオは顔色を青くした。
    「ま、まさか……」
    「そう! お前がこれまでに捨ててきた納豆様だァー!」
     ワラ人間の怒りの源が見えた。納豆を愛するあまり、無残に打ち捨てられる納豆が我慢ならなかったのだ。
     このやるせなさは以前大好きだった納豆メーカーが倒産して以来だ。今では紆余曲折を経てブランド名として復活しているが。
    (「いや、しかし、納豆を苦手とする人間は自分以外にもいるはずだ……なのに、なぜ俺が?」)
     ハルオの疑念はすぐに晴れた。
    「今日みたいな日には大豆が泣くのさ……捨てないで! 僕を食べて! ヘイユー! 俺を食べちゃいなよ! ユー! ってな具合になァー!」
    「お前、ナツコだろ」
     ハルオはワラをかきわけて正体を見た。
    「はうあっ! お兄ちゃん! んなことしたら、ダメだっぱい!」
     急に中途半端に方言が出た。見破られて観念し現した正体は、髪をたばねた生意気そうな少女。ハルオの中学生の妹だった。
    「あんなぁ、なんでおめーはこんなことしたんだっつうの」
    「だってぇ、お兄ちゃんたら納豆捨てっちまうしぃ、だいたいそんなグッズ学校さ持ってくんなって話だしぃ」
    「く……! そればかりは正論すぎてなにもいえない!」
     ハルオはしかし反撃する。話題をすり替えて。
    「おめえだって俺の血が流れてんだから、はかなげな美少女から黒髪ロングの巨乳お姉さんまで幅広く大好きなはずだっぺ?」
    「ごじゃっぺいうな! そんなん……好きに決まってっだろ!」
    「俺から振っといてなんだが好きに決まってるんか!」
    「オフコース! もちろんだ! 一見不良で不器用だが優しい男や性格の悪いクールメガネも好きだ! 乙女だからな!」
    「いや、俺にはその属性はないし、乙女の必須条件でもないと思うのだが!」
    「ともかく、今からお兄ちゃん殴っから! 納豆好きになるまで、殴んのやめねーから!」
     ナツコは再びワラ人間と化した。


    「一般人が闇堕ちしてダークネスになるという事件が起きようとしています」
     通常、闇堕ちすると人格が入れ替わりダークネスとなる。ダークネスは灼滅するほかなく、人格交代以前の人間を取り戻すことはできない。
     だが、現在の彼女は人間としての人格を残しており、闇堕ちは完了していない。
     今ならばまだ救うことが可能なのだ。
    「彼女、クメナツコさんの闇堕ちを防ぎ、可能なら学園に連れてくる。それが今回の依頼です」

     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は落ち着いた様子で事件の説明を始めた。
     場所は茨城県にある某小学校。時刻は陽が落ちてすぐくらい。
     当事者たちの様子を見ると、一見仲良くケンカしてるようにみえるが、この二人のうち、妹の方は闇堕ちしかかっている。
     納豆に対する愛が高じすぎて、納豆をないがしろにする兄が許せなくなってしまったらしい。
     すでに抱き枕が一つ、犠牲になってしまっている。
     姫子的にはまだほほえましい範囲に思えるが、計算ではこれを機に彼女の好意はエスカレートしていく可能性が算出されている。
     人通りの少ない道ですれ違いざまに納豆を食わされる辻納豆事件、給食センターに忍び込み納豆を仕込む異物混入事件などだ。
     まだ被害が少ないうちに……いや、彼女が完全に闇堕ちしてしまう前に、この凶行をとめねばなるまい。

     現場には、まだ二人が言い争いしている最中に到着できる。
     校舎には鍵がかかっているが、うまくすれば不意をうてるだろう。もしくは外から堂々と声をかけてもいい。
     ただ、現場には一般人である彼女の兄がいるので、彼の保護も考えに入れて欲しい。
     校舎内よりは校庭で戦った方がよいかもしれない。

     彼女の闇堕ちを止めて学園に連れ帰るのが目的だが、彼女が完全にダークネスになってしまうようなら、最悪灼滅するしかない。
     それは望まない結果ではあるが、ダークネスを世に放つわけにはいかないのだ。
     闇堕ちしかけというだけで、灼滅者一人では敵わない実力を持つ。
     ご当地怪人に属し、糸ひきビームやネバネバダイナミックなどいかにもネバつきそうなネーミングの攻撃をしてくるが、実力は決して侮れないのだ。
     完全に闇堕ちしてしまう前に、彼女の心に訴えかけることができれば彼女のパワーを削ぐことをできるかも知れない。
     ただ、単純な言葉より行動も伴った方が効果的だろう。
    「キロ単位で納豆を食べるとかどうでしょう?」
     姫子は涼しげな顔でおそろしいことをいう。
     それはともかくとして、彼女の納豆愛を肯定するもしくは彼女の納豆愛に負けないくらいの愛をぶつけるというのも、手かもしれない。
    「彼女の気持ちは暴走していると言えるでしょう。それを正せるのは皆さんたちだけ……どうか、よろしくお願いします」


    参加者
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    天鳥・ティナーシャ(夜啼鶯番長・d01553)
    有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)
    野崎・唯(世界・d03971)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダー・d07392)
    ホイップ・ショコラ(中学生ご当地ヒーロー・d08888)
    赤秀・空(がらんどうの・d09729)

    ■リプレイ


     とある宿直室にて、ナツコとハルオが言い争いを続けている。
    「殴らないで殴らないで殴らないで、お兄ちゃんやだな! そういうのやだな!」
    「ええい、往生際の悪い! うぶなねんねじゃあるめーし!」
     ナツコは拳を振り上げた。その手には納豆のパック。納豆を食わせるのか、納豆で殴るのか。
    「わーん、嘘だよ! こんなのってないよ! やめさせてよ! 母さん! ばあちゃん! じいちゃーん! キチサブロウさーん!」
    「誰だよ、キチサブロウ」
    「やめてよ! こんなのおかしいよ! 俺が山Pだったらこんな目にあわないのにー!」
    「私ゃジャニーズにだって容赦しないよ!」
    「俺の妹がこんなに怖いはずがない!」
    「第二期製作おめでとう! だけど本命はファンタジアだよ! 私は富士見ファンタジア文庫が大好きだよ!」
    「だから、俺は納豆が食えない!」
    「うるさい、観念して納豆食いな!」
     そんなやりとりを続けているうちに、にわかに外が賑やかになったかと思うと、歌声らしきものが聞こえてきた。
    「……こ、このソングは……?」


    「納豆パーティいえーい!」
     はしゃごうにもいささかはしゃぎきれない名前のパーティが、陽が落ちるとめっきり冷え込む今日この頃、小学校の校庭で開かれた。
     アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダー・d07392)が大きな図体にも関わらずぱっぱと動き、大きめのブルーシートを敷いて、腰冷え防止にクッション九枚を置いていく。
     オーソドックスな納豆ご飯や納豆そばから納豆の春巻きや野崎・唯(世界・d03971)特製大葉入り納豆オムレツ、ホイップ・ショコラ(中学生ご当地ヒーロー・d08888)の揚げ納豆や納豆汁などなど。
     ネギ、ショウガなど薬味もたっぷり。
     準備を整えたところで、オープニングセレモニー。
     天鳥・ティナーシャ(夜啼鶯番長・d01553)は、アレクサンダーから拡声器を受け取って、納豆の歌を歌い始めた。
     ちなみに、納豆にまつわる歌はいくつかあるが、題名はともかく歌詞となるとあれやこれやが怪しくなるのでティナーシャオリジナルでお送りします。
    「なっとなとなとなっと♪」
    「へいへーい!」
     合いの手。
    「なっとなとなとなっと♪」
    「へいへーい!」
    「あ、そーれ♪」
     愛の手。ギターの音がした気がしたが、見ればアレクサンダーがギターを弾かずに叩いている。
    「納豆ーはな~んででーきてるのー? 大豆がねーばねばなーっとう菌~♪」
    「納豆ーをど~おして食ーべるのー? 納豆はしーあわせつーくるのよ~♪」
    「おいしー納豆を食ーべれば~♪ みーんな笑顔でだーい好き♪」
    「納豆の力を信じましょ~♪ 苦手~なあの子もにっこにこ~♪」
    「なっとなとなとなっと♪」
    「へいへーい!」
    「なっとなとなとなっと♪」
     ガラララッ!
    「へいへーい!」
     宿直室の窓を勢いよく開けて、いてもたってもいられなくなったナツコが顔を出した。
    (「釣れた!?」)
    「む! このむせ返る様な匂いは! さてはそこで納豆パーティをしているな!」
    (「わかるんだ!? 野外なのに!」)
     動揺するみんなの中で、しかし、有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)はすべて承知した顔で鍋を振るう。
     シャンシャン!
    (「そうだろうそうだろう、真の納豆好きならば一キロ先の納豆が大粒か小粒かもかぎわけるという……ナツコがこの程度の距離の納豆の芳香を察知しても驚くべきことじゃない」)
     へるは訳知り顔で鍋を振るう。
     シャンシャン!
     ナツコは窓から校庭へ降りてきた。ハルオを引き連れて。さすが闇堕ちしかけらしく、ハルオの体は軽々と持ち運ばれている。
    「はいはーい。こんなことやってまーす」
     アリスエンド・グラスパール(求血鬼・d03503)が手渡したチラシには、手書きで納豆パーティー開催のお知らせ。
    (「兄が邪魔だなぁ」)
     アリスエンドは機転を利かせて、ハルオをつかんでいる、ナツコのもう一方の手をとり握手。
    「これはこれはご立派なワラ人形だねー、あ、こちらの方もどーぞ」
     ナツコの手から逃れることのできたハルオが、ゴスロリ少女からチラシを受け取って、おのぼりさんが秋葉原でメイドさんにメイド喫茶の勧誘を受けたときみたいな、ちょっと照れた態度をしたところで。
     殺、界、形、成!
     ギラリ!
     目の前の少女から放たれる強烈な殺気に、ハルオはみっともないくらい怯えて逃げ出した。
     その無様逃げっぷりを見届けたホイップは、納豆料理に目を奪われているナツコに、わざとらしく言ってみた。
    「納豆料理一杯作ったから誰か一緒に食べる人はいないですのー?」
     唯は既に食事中。
    「あ、はいはいはーい! 食べるー! ちょーどお兄ちゃんも……あれ? お兄、どこ?」
    「めんまちゃん洗ってから来るとか言ってたよー」
     アリスエンドがしれっとごまかすと、ナツコはあっさり信じた様子。
    「ご飯だけではなくパンにも合う納豆万歳なのです」
     ティナーシャの家の朝の定番メニュー、納豆サンド。
    「私もお母さんの作った納豆サンドで、納豆が大好きになったのです」
     もしゃもしゃ。納豆愛を熱っぽく語るティナーシャ。
    「私とお母さんは週に三日は食べていますよ?」
    「え、そんなに?」
     花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)は驚いたが、ティナーシャはどうやら嘘を言ってなさそうだ。
    「他に週に二日は納豆ごはん。一日は納豆パスタ。最後の一日は別メニューなのです」
    (「ここにも納豆ジャンキーが……!」)
    (「第二の納豆怪人誕生の予感? ですの?」)
    「納豆美味しいよねー朝に食べると力が湧くー」
    「ナツコちゃんの納豆愛はわかるよ! 私も納豆よく買うもん」
     唯たちの言葉にナツコはワラの奥の瞳を輝かせる。
    「本当? 優しい嘘で傷つけたりしない?」
    「大丈夫、本当。なにせ安くて栄養満点。レシピも多いし、何より美味しいしね」
    「だよねだよね! あーもー、なのになんでお兄ちゃんは食べてくんないんだろー? 飴と鞭か? 鞭で打たねばならんか?」
     ナツコのぼやきを聞いて、赤秀・空(がらんどうの・d09729)は一考する。唯は食べ続ける。
    (「闇堕ちしかけているだけあって、愛が行き過ぎて病んでる感じだね。正気に戻してあげられれば良いんだけど……」)
     彼も納豆は苦手だが、大葉で臭いを緩和すれば食べられる。
     納豆が嫌われる理由は大きく分けて、臭いとネバネバ。
     自分が納豆を苦手なことを明かし、でも調理の仕方によっては食べられることを披露して見せれば、彼女に道を拓くことになるのではないか。
     空はそう思って、持ってきていた納豆巻きを取り出そうとした。刻んだ大葉を入れたものだ。
     アレクサンダーも説得の為に作っておいた塩納豆を取り出そうとし……。
    「納豆を好きになってくれるなら、私の脱ぎたてほやほやのパンツを握らせることもやぶさかではないよ!」
    「え」
    「ちょ!」
     ……一旦、様子を見ることにした。なにかとんでもない事態に巻き込まれそうな気がしたからだ。
    「いや、でもお兄さんはいらないと思うよ? パンツ」
    (「そこに踏み込むのか」)
     アレクサンダーは驚いた。そこにリアクションしたらどうなってもパンツの話になってしまうじゃないか。
     しかし、空は浮草のようにナツコの妄言の流れに乗った。
    「い、いらない、だと! ショック! 健康的な男子だったら同世代の女子のパンツを欲しがるに違いないのに! さてはお前ホモだな! ウホッ! 詳しい話を聞かせてもらおうか!」
     ナツコの視線を感じてアレクサンダーは目をそらす。こっちみんな。
    「ホモではないし、いつのまにか俺の話にな……」
    「はい、あーん」
     空の言葉を遮って、へるは口を開けろと指で合図。
     空の口の中に、プレーンの納豆をつっこむ。
    「むぐぅ!?」
     たれもなにもない大量の納豆に、空は目を白黒。
    「見てくださいですの! これ! これではダメですの! 嫌いな人には無理やりではなく納豆の良さを味合わせ好きになって貰わなければ納豆のためにならないですの!」
    「ごほ、か、は……むぅう!?」
    「ほら、もっと! プレーンだよ! アリスのプレーンだよ!」
    「納豆うま~♪」
     へるによって、むりやりに納豆を食べさせ続ける空と、その傍らでプレーンを美味しそうに食べる唯。
    (「……なにこの地獄」)
     アレクサンダーは一瞬気が遠くなった。
     空の納豆苦手を立証した後は特製の納豆チャーハンを食べさせた。
     これを食べた空を指で示し、
    「手間と愛情を惜しまなければ、納豆が苦手な人にも食べてもらえる。キミは心のどこかで納豆の無限の可能性を信じ切れていない!」
     どばーん!
     ショックを受けたように、よよよと地面に倒れるワラ人間。
    「でも、だって、臭いもネバネバも、私は私が好きだと思う納豆そのものの味を好きになって欲しくて……だからぁそうじゃなきゃダメだっぺぇー!」
     ナツコは頭を振って素直に受け入れられない。
     頭ではわかっているのだろうが、納得はできないのだ。納豆は食えても。
     いよいよ暴走の色濃い闇の気配が噴出した。
    「やれやれ、やっとだねー」
     アリスエンドはノコギリを取り出して戦闘準備。
    「物騒な武器ですの!」
    「大丈夫! そんなにたくさん切らないから! ちょこっとだけだから!」
     少しだけやつれたように見える空が、
    「力を貸してね」
     と、つぶやいた途端、彼の足元から闇が湧きだすように影が伸びた。
     戦闘開始。
     アリスエンドはすっと音もなく近づいて斬りつける。瞬間、ナツコは後方に跳んでかわした。
     が。
    「!?」
     間合いを広げたはずなのに、アリスエンドはなぜか後方に先回りしていた。
     ナツコはわけもわからず足の腱を断ち切られた。
     わけがわからないと言えば。
     カツオっぽい一輪バイクが校庭を疾走していた。
     それに乗り、学ランをはためかせるアレクサンダーは、片手でハンドルを操りながら光の刃を放つ。
     刹那、ワラが爆ぜてナツコの素顔が露わになった。
    「自分が正しい事をしていると思うなら素顔を晒せ!」
     ズバーン!
    「力づくで納豆好きにさせようとするなんて、納豆を侮辱しているのです」
    「ぶ、侮辱……じゃあ、一体どうすれば」
     斬!
     鮮血を想起させる紅のオーラがナツコの力を奪い、ティナーシャは風もないのにぶかぶかの学ランを風にはためかせた。
     ちょっとだけアレクサンダーを意識して、かっこよく腕を組む。
    「納豆の力を信じるのですよ!」
     へるは自分たちの言葉でナツコの心が激しく揺れているのを感じていた。
     闇堕ちしかけにしては精彩を欠く動き。迷い、惑い、間合いがぶれる。
     まぁ、それはそれとしてへるはナツコの足の腱を射抜いた。
    「貴方の納豆愛は受け取った! 絶対、助けてあげる!」
     唯は揚げ納豆をほおばりながらマジックミサイルを放った。
    「食べながら戦っている、だと!?」
    「だって美味しいんだもん」
     納豆ごはんをもりもり。
    「確かにあなたの愛は本物です。でもその愛し方では納豆がかわいそうです!」
    「か……かわうそうだって!?」
    「言ってません!」
     焔は真上からイクス・アーヴェントを振り下ろした。
    「斬り潰す!」
     ナツコは硬質化させた影で自らの体を覆い、攻撃に備える。
     その姿は、まるで黒い発泡スチロール製、納豆のパック。
     ガッゴォオオン!
     衝撃で砂埃が巻き上がった。
    「今していることは可愛いものですが、このままにはしておけませんね!」
    「なにかわいいとな! 今、は確かにかわいいと言った」
     その単語だけ聞きつけて、はしゃぐナツコ。はしゃげナツコ。
    「え、いえ、つい口に出してしまいましたが今のは」
    「ありがちゅー……はっ!?」
     ホイップのロケットスマッシュを察知し、慌ててガード。
     ボガアアァン!
     耐え切れず、影から出てきたところを、さっと影が覆った。
    「違う! これ、私の影じゃない!」
     空の影がナツコを喰らう。
    「影に飲まれ、今の自らの姿と対峙するがいい……なんてね」
     数分間、戦いは続いた。
    「みと! くめ! おかめ! てんぐ! あさひ! ナットゥル!」
     ナツコが突き出した拳から糸ひきビームが放たれる。
    「納豆臭くなっても、乙女は負けないっ!」
     と言いつつ、唯は、頭を守って避けながらシャウト。
    「お前の怒りはもっとも! わしもご当地の名物を足蹴にされれば同じように怒る」
     アレクサンダーは愛機と共に、ナツコ目がけて一直線に駆ける。
    「だが無理やり納豆を食べらせるのは捨てるのと同等! 人はおいしいと思って食べないとその栄養を十分に吸収しない!」
     塩納豆を口に放り込む。
    「うまい!」
     風となったアレクサンダーは減速せずに頭突きをかましたのだった。


     ごく普通の女子中学絵の姿に戻り、おでこをぷっくらとして倒れているナツコを助け起こし、
    「お兄さんが美味しく納豆を食べられる方法を探そう。必要なら手伝うから、ね?」
     空はヤサシク笑いかけた。
     ナツコは尋ねた。
    「それはプロポーズの言葉ととってよろしいか?」
     空は答えた。
    「ダメだよ?」
     介抱した後、アレクサンダーたちは落ち着いたナツコに詳しい事情を説明した。
    「学園にはご当地の食べ物に愛をもっている人が多くいます。そういう人たちと語りあえる場所ですよ」
    「語りあえる……」
     ぼんやりつぶやくナツコに焔は微笑みを浮かべてうなずく。
    「拳で?」
    「口で、です」
     なぜそういうことになるのか。この子と付き合っていくには、根気が必要そうだ。
     アリスエンドが殺界形成をとくと、しばらくしてハルオもやってきた。
     妹のことが心配で帰れずにいたのだ。けれど殺界形成の効果によって近づくこともできなかった。
     ナツコの口から簡単に説明を受けたハルオは、一回りも年下の焔たちに向かって深々と頭を下げた。
    「ナツコのことよろしくお願いします」
    「え、いや、その」
    「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」
    「こいつ、すぐ勘違いして暴走するし、口は悪いし、甘えん坊の構ってちゃんで、イタズラばっかりしてるんですが……」
    「……お兄さん」
    「……根は、本当に腐ってるんです。心底救いようがないんです」
    「ちょっと! お兄ちゃん!」
     ハルオはしかしとまらない。続けて言う。
    「でも、君たちはそんな妹を救ってくれた。そして君たちの仲間に加えてくれるという……いたらない妹ですが、どうかよろしくお願いします」
     ホイップは二人を仲直りさせたいと思っていたが、いらぬ気遣いだったようだ。
     ケンカして争ったりしても、結局兄妹ということか。
    (「あとはショウガ入り納豆を食べてもらうだけですの」)
     ハルオの姿を見て、ナツコも何か思うことがあったのか、ハルオと同じように深々と頭を下げた。
    「ふつつかものですが、どうかよろしくお願いします!」
     ティナーシャは納豆サンドをナツコに手渡した。
    「一緒に納豆パーティの続きをするのですよ」

     こうして、学園にまた一人新しい仲間が加わったのだった。

    作者:池田コント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 15
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