ソウルボードの異変～電波塔破壊の任

■リプレイ

●ラジオウェーブの電波塔
　突入に備え時計を確認し、灼滅者たちは決戦の地へ赴いた。
　ソウルボード内で存在を維持できるラジオウェーブの電波塔。ソウルボードと人々の意志の有り様。興味や気になる事は山ほどある。
「けど、今は都市伝説を生むラジオウェーブの放送、止めないと、だね！」
　守安・結衣奈（叡智を求導せし紅巫・d01289）はそう言って一緒に突入してきた仲間たちを見た。
　天宮・黒斗（黒の残滓・d10986）が頷く。
「ここまで導いてくれた思いの為にも、此処でしっかり片付けないとな」
　ソウルボードがこんな風に変わるとは思っていなかった。ラジオウェーブがソウルボードへの干渉能力を持ってる理由も気になる。けれども、それは後だと黒斗も考えていた。
「ここは頑張りどころですね」
　志穂崎・藍（蒼天の瞳・d22880）は言う。
　あの電波塔に藍の想像通りの理由があるのだとしたら、自分たちの望む明るい未来が開けるかもしれないという思いを胸に抱いていた。
　九形・皆無（黒炎夜叉・d25213）は奇怪で歪な形状をした塔を視界に捉え、考える。
（「まさかソウルアクセス時の影響を調べに来てあんなものを見つけるとは」）
　ラジオウェーブの存在を今まで軽視していたが、これからはそうもいかないだろう。
　灼滅者たちは、塔を目に捉え戦いの準備を始めた。
　塔を見上げた新城・七波（藍弦の討ち手・d01815）がポツリと呟く。
「どこかの塔みたいですが、爆発しませんかね」
　左右に触腕のような突起、塔の上部に直径２０ｍ近くの頭部。そして、その頭部がアンテナのような形という、見るからに奇妙な形状の塔だ。
　その言葉に、結衣奈も苦笑いを浮かべる。
　ともあれ、目の前の風景こそが現状のソウルボードと言う事だ。
　レイ・アステネス（大学生シャドウハンター・d03162）は武器を構え仲間たちに声をかけた。
「そろそろ出てきそうだ」
　塔に近づこうとすると、塔から発せられるラジオ放送によって、周囲のソウルボードが都市伝説に変化して塔を防衛しようとする事は聞いていた。
　その通り、皆を取り囲むように都市伝説が現れる。
「ええ、出てきたようです。『動くデッサン人形』『作曲家の肖像画は嘆く』『家庭科室の包丁』が相手です」
　オリヴィア・ローゼンタール（蹴撃のクルースニク・d37448）が確認するように、３体の敵を順に見た。
　幼児ほどの大きさのデッサン人形が構えを取る。有名な作曲家の肖像画は宙に浮いていた。そして、数本の包丁が固まってこちらを狙っている。
「敵集団にRB都市伝説がいないとは……少々残念ですね～」
　月影・木乃葉（レッドフード・d34599）が錫杖を構え、動き出した。
「作戦通りに、みんな、行こう！」
　結衣奈の言葉と共に、灼滅者は戦いを始めた。

●人形、肖像画、そして包丁
　デッサン人形がファイティングポーズを取り、しゅっしゅと拳を繰り出してけん制している。
　結衣奈は敵の動きを見ながら魔法の矢を練り上げ、間髪入れずに飛ばした。
「行くよ！　みんな、攻撃の相手には気をつけてね」
　魔法の矢がデッサン人形の腕を貫く。
『ギ……ギ…………ヒ、ヒヒヒ』
　人形は一瞬バランスを崩したが、奇妙な音を立てて足を上げ、元の体制に戻ってきた。
　その動きは隙だらけだったが、あえて灼滅者たちは追撃を行わない。
　次の攻撃手、七波が向かったのは肖像画だ。
『ボェ、ボェエエ～、ボエ～』
　不快な歌を披露している肖像画に鋭い銀爪を食い込ませ、引き裂く。
「切り裂け」
　爪を引き抜くと、肖像画は空中でふるふると振るえた。
　引き裂いた肖像画の一部が宙に舞い消えていく。
　２体の敵にダメージが入ったことを確認し、レイは包丁を見た。できるだけダメージを分散し、時間が来るまで敵を倒してしまわないよう戦い続けるのが作戦だ。
「私は『家庭科室の包丁』に仕掛けよう」
　殺人注射器を構えている黒斗に声をかけ、レイは漆黒の弾丸を形成する。
「なら、私は人形だな」
　サイキックを凝縮して毒薬に変えた黒斗は、そう言って一気に人形との距離を詰めた。
　レイのデッドブラスターが一本の包丁を撃ち抜く。
　黒斗はカタカタと揺れる人形に注射器を突き刺した。
　毒が２体の敵を蝕んでいくのが分かる。
　苦しむ２体の前に肖像画が飛び出してきた。
『ボボェエエエ～、ボエ～』
　不気味な音色が戦場に響く。
　混乱を招くようなその歌声が、後衛の仲間に迫った。
　その間に木乃葉が身体を滑り込ませる。怪音波から仲間を庇いダメージを引き受けたのだ。たしかに、これは混乱するような不愉快な歌だ。
　しかし。
「RBの情熱のない都市伝説になぞ、劣りはしません！」
　木乃葉はそう言って不敵な笑みを浮かべ交通標識を青色標識にスタイルチェンジさせた。
　そして、注意を引き付けるように前衛の位置に居る包丁と人形に光線をばら撒く。
　皆無は敵の動きを見ながらシールドを手に取った。
「攻撃もしっかりしてくるようですね。さあ、守りを固めます」
　そう言って、近くの仲間に届くようシールドを広げる。
　同意するように藍が首を縦に振った。
「ええ、それに混乱やトラウマは厄介かも」
　藍は走りながら闘気を雷に変換し、拳に集める。
「同感です。特に混乱には気をつけましょう」
　オリヴィアも雷を纏い、シスター服の裾を翻し走った。
　ちょうど、飛び回る包丁の真下のポジションから、藍が地面を蹴って飛び上がる。
　雷を纏ったアッパーカットがきまり、一本の包丁が吹き飛ぶ。
　オリヴィアはその近くの人形を狙い跳んだ。
　ファイティングポーズを取る人形の懐に飛び込んで抗雷撃を叩き込む。
　閃光煌き、雷音が轟いた。
　２人は攻撃を繰り出した後、素早く敵から飛び退き距離を取る。
　戦いは始まったばかり。
　敵を一気に消し去ってしまわないよう、灼滅者たちは細心の注意を払いながら戦場を駆けた。

●調整重ねて
　３分、４分と時間が過ぎた。
　人形が踊りながらパンチを繰り出してくる。狙われた黒斗が一歩下がるが、人形の腕は思った以上にしなやかに伸びてくる。
　その間に皆無が飛び込んできた。
「思った以上に伸びますね。ですが、自由にはさせません」
　黒斗を背に庇い、攻撃を受ける。
『ギ、ヒ、ヒヒヒヒヒ』
　人形がケタケタと嗤った。
　黒斗はすぐに身体を反転させ、エアシューズに炎を纏わせる。皆無の隣をすり抜け、人形を蹴りつけた。
「大丈夫か？」
「ええ、もうそろそろこちらを向いてくれると良いのですがね」
　続けて皆無はシールドで人形を殴りつける。
　注意を引きつけ、できる限り藍と黒斗から敵の注意を引き剥がすためだ。
　すぐに結衣奈も駆けつけた。
「傷はわたしが回復させるよ」
　宣言して、ダイダロスベルトを伸ばす。
「今回は粘る事が大事、だからね！」
　傷を負った皆無の全身を覆い、傷を癒した。
　仲間たちの様子を確認する。回復の手は十分足りているようだ。
　七波は仲間に叩かれて転がる人形の姿を見て、攻撃の手を引っ込めた。
「おっと、あまり攻撃を続けてはいけませんね」
　そう言って、攻撃の矛先を肖像画に向ける。
「こちらですよ」
　黒死斬を放ち、注意を引いた。
　レイも同様に戦場を見ている。
　ダメージを分散させ、できる限り想定の時間に敵を撃破しなければならない。
「肖像画には、これだな」
　交通標識を赤色標識にスタイルチェンジさせ、肖像画を殴り倒した。
　肖像画がくるくると宙を舞い、地面に激突する。
　それと入れ替えに、包丁が木乃葉にめがけて空から降り注いできた。
「ッ、良く斬れる包丁ですね」
　チラリと３体の敵を見る。
　およそ半分の時間が過ぎたが、敵の体力の消耗が少し激しい気がした。
　木乃葉はラビリンスアーマーを使い、自らの傷を癒して一手を終える。
　藍も敵の体力の消耗については気にかけていた。
「そうね。それに、まだ少し元気そうですね」
　槍を手に取り、捻りを加え包丁に突き立てる。
　現状、人形が最も傷を負っている。包丁と肖像画は今の攻撃でほぼ並んだだろう。
　敵の傷の具合を慎重に考えながら、攻撃方法を選ぶ。
　オリヴィアは炎を纏い、グラインドファイアを放った。
「包丁には、まだ炎が足りないようです」
　そう言って飛び上がり、思い切り蹴り上げる。
　炎が包丁に飛び移り燃え上がっていった。
　戦場の中で、敵味方入り乱れて動いている。
　結衣奈は全体を見渡すようにして敵の姿を見据えた。
「うまくダメージを与えているよね」
　仲間たちが頷く。
　レイも同意見だった。
　これまでは、ほぼ等しく敵にダメージを与えている。
　これからは、敵を時間前に殺さないよう工夫が要るだろう。
　余った手数を回復に使用したり、同じ攻撃を連続して使用しわざと見切らせたり、灼滅者たちはさまざまな手を使って調整を重ねた。

●突破の時
　時間は刻々と過ぎていった。
　８分、９分、攻撃の手を緩め、体力が減った敵を列攻撃に巻き込まぬよう配慮し、灼滅者たちは敵３体の体力をじりじりと削りながら戦い続けた。
　オリヴィアが時間を確認する。
　仲間たちと目が合った。
「１０分経過！」
　オリヴィアの声が戦場に響く。
「これより突破を開始します！」
　灼滅者たちが、総攻撃に転じた瞬間だった。
　回復に専念していた結衣奈も、この時間は攻撃の手を繰り出した。
「わたしも攻撃に参加するよ！」
　言って、高純度の魔法の矢を包丁に飛ばす。
　貫かれた包丁がぱたりと地面に落ちた。
　レイはその様子を見ながら人形に攻撃を向ける。
「ここで、一気に仕留めよう」
　形成した漆黒の弾丸を解き放ち、敵の身体を撃ち抜いた。
　続けてオリヴィアが傷口を抉るように虚空ギロチンを放つ。
「すでに敵は虫の息です」
　言葉通り、人形が膝から崩れ落ちる。
　包丁もぴくぴくと小刻みに震えているが、もはや飛べはしないようだった。
　猛攻を感じたのか、肖像画が戸惑うように後ろに飛んだ。
　だが、それを追う様に黒斗が地面を蹴る。
「こちらは任せろ」
　飛び逃げる肖像画を捕らえ、殺人注射器を肖像画に突き立てた。
　サイキックを凝縮した毒が敵の体を蝕み、肖像画が地面に落ちる。
「続きます」
　木乃葉が黒斗に続き、攻撃を仕掛けた。
　もはや、肖像画も飛ぶ力さえ残っていないようだ。
　皆無は武器を振り上げ、確認を取った。
「仕上げですね」
　そう言って、シールドで思い切り殴りつけると、肖像画が崩れ去り消滅した。
　敵の消滅を見て、残った灼滅者が次々に止めを刺しに行く。
「確実に仕留めます。切り裂け」
　ほぼ体力を失った包丁へ、七波が追い討ちをかける。
　鋭い銀爪で力任せに引き裂けば、たちまち包丁が消え去った。
　同時に、全ての敵を片付けなければならない。
　七波は仲間たちを見た。
　藍が最後に残った人形へ鬼神変を叩き込む。
　人形も、力なく崩れ落ち、消え去った。
「やりました、今です」
　七波が藍と黒斗を見る。
　戦場に敵の姿が消えた。それも、わずかの時間の事だろうけれど、塔への道筋が開いたのを、誰もが感じ取った。
　この一瞬で、仲間を塔へ送り込むのだ。
「さあ、行ってください！」
　その言葉に促されるように、藍が走り出す。
「皆さん、後はお任せしますよ」
「藍ちゃん、黒斗先輩、電波塔の方はよろしくお願いするよ！」
　結衣奈が黒斗にも先を促した。
　後半回復の手を豊富にしていたことで、まだ余裕がある。２人送り出しても耐えられるはずだ。
　残る仲間が頷きあう。
「こちらは大丈夫だ。電波塔を破壊するまで、可能な限り耐えてみせる」
　レイが言うと、黒斗はすぐに決断して藍の後を追った。
「よろしくお願いします」
　木乃葉が２人の背に声をかける。
「ここからは我慢比べですよ」
　七波が声をかけると、仲間たちは再び武器を構え、戦うべく走り出した。
　送り出した仲間を信じ、この戦場を戦いきるのだと。

作者：陵かなめ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2018年3月6日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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