ソウルボードの異変～民間活動の恩寵

■リプレイ

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「……あれが、ここしばらくの、都市伝説の原因か……」
　遠目ながら奇怪で歪な形状の電波塔が存在感を放つ。
　神無日・隅也（鉄仮面の技巧派・d37654）は、基本的に無表情かつ感情表現に乏しい言動をとるものの。表面に出さない部分では、異様な力をひしひしと感じていた。
「あ、さっそく来たよおっ。都市伝説！」
「早速だな」
　マリナ・ガーラント（兵器少女・d11401）と森田・供助（月桂杖・d03292）の視線の先、三体の都市伝説が現れる。電波塔に近付く者を排除せんとする敵だ。
「今回は他チームとのタイミング重要ですね」
　富山・良太（復興型ご当地ヒーロー・d18057）をはじめ、灼滅者達は時間を確認した。今回の目的は電波塔に辿り着くことだ。そのためにも予めの打ち合わせ通り他のチームとタイミングを合わせて、できるだけ同時に止めを刺す必要がある。
「……ソウルボードが教えてくれた……奇怪な電波塔……電波塔がラジオウェーブと……どんな繋がりがあるか……わからないけど……ここに必要ないのは……確かなの……歪んだ電波塔は……七不思議ごと……斬り裂く……」
　先陣を切ったのはアリス・ドール（絶刀・d32721）だ。
　彼女はこの壁を突破し、連戦する役割も担っている。鎧に身を包んだ身体は猫の如くしなやかに、蛙の霊の都市伝説に肉薄。狼の如く鋭い一刀で先制を加えた。
「この敵を倒せば七不思議に襲われる人がいなくなるかもしれませんし、なんとしてもアリスさん達を電波塔に届けてみせます」
　続いて四刻・悠花（棒術師・d24781）が緋色のオーラを纏わせた打撃を繰り出す。
　アリスを電波塔に届けるためにも尽力するつもりだった。まずは集中攻撃で一体ずつ確実に敵を削いでいく。
「謎に包まれて殆ど進展のなかったラジオウェーブ関係がこれで進めばいいわね」
　エリノア・テルメッツ（串刺し嬢・d26318）のように今後の展望に希望を持つ者も多い。少しでも何かつかめないかと持ち込んだラジオが揺れ、螺穿槍が唸りをあげて攻撃力を高める。
「さて、攻略といこう。手順は面倒だがな」
　白衣に眼鏡姿の蔵座・国臣（殲術病院出身純灼滅者・d31009）は、サーヴァントと息を合わせてサイキックを見舞う。クラッシャーの火力を生かして、リングスラッシャー……謎の円盤が切れ味よくホーミングする。
「ゲコゲコ！」
「……ようやく、尻尾を掴めたんだ。邪魔をするな………」
「うんうん、その通りだね！」
　攻撃を受けた蛙の都市伝説が、喉を鳴らして毒液を吐く。
　それをさらりと躱して、隅也とマリナは鏖殺領域を使ってジャマ―として有利な状況を作ろうとする。切り詰めた殺気が空気を濃く彩った。
「民間活動で、前進したならこの結果で更にプラスにしねえとな」
　供助は神薙刃で攻め立てる。
　己に降ろしたカミの力によって、激しく渦巻く風の刃を生み出し。都市伝説をズタズタに斬り裂く。
「ソウルボードとタタリガミ……何か深く関わりがあるんでしょうか？」
　敵の攻撃を引きつけるように良太は動く。
　ご当地ビームで注意をこちらに向けさせ、動く石膏像と肖像から飛び出す音楽家の都市伝説が向かってくる。そこにビハインドがタイミング良くガードに入った。
「……斬り裂く」
　無表情に淡々と。
　アリスは黒死斬で敵を斬り伏せる。仲間と連携した一撃が効果を十二分に発揮。足を一本落とされた蛙が、悲鳴とも怒りともつかない絶叫をあげる。最初のターゲットとなる都市伝説は、順調にダメージを蓄積していた。
　だが、灼滅者達は決して気を抜くことはない。
「今回の作戦の成否でラジオウェーブに迫れるかもしれない。なら、失敗するわけにはいかないわね」
　必ずミッションは成功させる。
　エリノアの思いがこもった旋風輪が高らかに舞う。手にした槍は大切な人からの贈り物。切っ先の軌跡が冴えわたり、風を巻き起こして全てを蹴散らす。蛙のみならず、他の都市伝説もその圧力に気圧される。
　その衝撃波は不可思議な電波塔まで届かんとする勢いだ。
「ソウルボードにこんな場所があるなんて。いつの世にも学校の七不思議がなくならないのはこの所為かもしれませんね」
　ぽつりと悠花は呟き。魔力を込めた突きをヒットさせる。
　フォースブレイクによってこちらの力を流し込み、都市伝説を体内から爆破。蛙のお腹が風船のように急激に膨らんで、バチンという音を立てて破裂する。
「ゲ、ゲコゲコゲコ！」
「わ、我の音を聞け！」
「走る走るよ！」
　灼滅者達に押され気味の都市伝説達は、いきり立って反撃を試みる。
　そのどれもこれもが、ベタな学校の怪談の姿を具現化しているのはある種滑稽であり、純粋に気味が悪くもある。
「学校の怪談シリーズか、時期的にどうなんだね？　春先だぞ、出番早くはないか」
　国臣は除霊結界を発動させる。
　内蔵した祭壇を展開し、霊的因子を強制停止させる結界が現れた。今回の敵に対しては最もお似合いの退治方法のようにも思える。都市伝説達は苦痛に顔を歪め、その姿は徐々に薄くなっていった。

●
「皆、ファイトだよおっ」
「……防御を固める……」
　マリナが夜霧隠れを。
　隅也はイエローサインを。
　それぞれ使って、支援を行う。灼滅者達は更に勢いを増して、一気呵成に都市伝説へと集中砲火を浴びせた。
「これで終わりだ」
　供助の振るう一刀が、蛙の都市伝説を両断する。
　ダメージが重なっていた蛙は、成す術もなく光の泡となって四散する。断末魔の叫びをあげる刹那すら与えぬ勝利。今回の戦闘における初の白星だ。
　しかし、息を吐く暇はない。
　まだ敵は二体残っており。此度の相手は時間が経てば、再構成されて再び襲ってくるということが分かっている。
「中君、しんどいでしょうが頑張ってください。今回は壁が少ないので」
　良太は己がビハインドを鼓舞して、共にサイキックの攻撃を合わせる。
　こちらの方が優勢とはいえ、もちろん相手も黙ってはいない。窮鼠と化して何度も噛み付いてくるような反撃を受け、灼滅者達の方も相応に疲労している。
「……全力で……斬り裂く」
「くっ、我が音楽を喰らうが良い！」
　音楽家の都市伝説が、不快な快音波を奏でる中に。
　恐れることなくアリスはすっと飛び込んで、雲燿剣を差し込む。上段の構えから、まっすぐに早く重い斬撃を振り下ろし。都市伝説の持つ指揮棒を断ち切った。
「動きを封じさせてもらうわ」
「うう、走れ、走れない！」
　エリノアが影縛りを使う。
　影で作った触手を放ち、石膏像の都市伝説を絡めとる。捕縛された石膏像は四肢を動かすのに四苦八苦して、ふらふらとバランスを崩す。
（「ここからは、相手の体力を調整していかなければなりませんね」）
　悠花は手加減攻撃を織り交ぜ始めた。
　残りの敵は出来る限り同時に倒すのが望ましい、との判断からの行動である。都市伝説の障害を押し通るためにも、時間を合わせるのが肝要であった。
「蛙はまずまずのタイミングで倒せたかな。あとは、こいつらだが……」
　国臣はサーヴァントともにポジションを変えた。
　メディックとなって、ダメージ量の多い味方に適宜ヒールをかける。スナイパーとなったライドキャリバーの方は、精密さを増して継続して攻撃を続けた。
「どんどん、やっちゃうよおっ！」
　右手日本刀。
　左手ナイフ。
　意気込むマリナがジグザグスラッシュで駆ける。
　敵の肉を回復しづらい形状に斬り刻み。バッドステータスを上乗せする作戦だ。その見た目とは裏腹に、覚悟が決まった効率最優先の戦闘機械の如き何かを思わせる動作であった。
「……こちらも戦術を変更する……」
　隅也もジャマ―からスナイパーへとポジションを変更。
　二体を標的として、針の穴を通す集中力でサイキックを炸裂させた。気を使う上に難しい戦闘だ。慎重かつ大胆に行かねばならない。
　灼滅者達は、剛柔を合わせて波状攻撃の嵐をたてる。
「バランスよく削るようにしないとな」
　声を掛け合い。
　供助は雲耀剣とイカロスウイングで、武器封じと捕縛を重ねる。片側だけ落ちぬよう注意して、こちらに有益な状態を作り上げる。
「走る走る……走るるるるるるるるるるるる！」
「そんなに動けることが嬉しいのかい？」
　動く石膏像が滅茶苦茶に五体をばたつかせて突進してくる。息を吐いた良太は、シールドバッシュで殴りつけて更に自分に戦意を向けさせるように仕向ける。
　思惑通りとはいえ。
　こんな不気味な相手に熱視線を向けられるのは、ちょっと微妙な気分ではあるものの。
「……最速で……斬り裂く」
　周囲にある物を使って飛び回るアリスは、動く石膏像の頭を足場にして大きく飛翔。
　緩急のフェイントを織り交ぜ、音楽家の都市伝説へと居合斬りを一閃。緩から急の目まぐるしいチェンジオブペース。目にも止まらぬ一撃が、気がついたら既に決まってしまっている。
「吸わせてもらうわよ」
　エリノアが紅蓮斬でドレインを行う。
　鮮血の如き緋色のオーラを武器に宿し、都市伝説を深々と刺し抜き。敵の生命力や魔力を奪いとる。 攻防一体として、己にたまった疲労を吹き飛ばす狙いだ。
「我の芸術的な音が聞くが良い！」
「お断りします」
　音楽家の都市伝説を、悠花は思い切り打ち付け黙らせる。
　不協和音を垂れ流す敵は、己が苦悶の声を代わりに出すはめになった。あきらかにカツラであろうとしれる奇抜な髪型が、しおしおと歪んでいる。
「国臣お兄ちゃん、忙しくて目が回りそうだおっ」
「担当した仕事はきっちりこなすさ」
　マリナと国臣が回復に奔走していた。
　ラビリンスアーマーで守りを固め、祭霊光でバッドステータスをキュアする。戦線を維持し、しっかりと根を下ろすように仲間達をサポートした。
「走る、走る、走る！」
「我は奏で、奏で、奏でる！」
「……うるさい都市伝説だ……」
　騒々しい都市伝説達に対し、隅也は冷静に的を絞ってスナイプする。
　向こうのペースに呑まれたら、それだけでバランスが崩れてしまいかねない。これは忍耐力の戦いでもあった。
「あともう少しでリミットだ」
　供助が時間を確認して、仲間達に報せる。
　ちなみに経過時間予定の半分のときも同様のことを行っており、その都度攻撃を調整してきている。その成果は確実にあらわれていた。
「良い感じに敵も疲労している。これなら」
　首尾は上々。
　良太がサーヴァントと同時に、石膏像の都市伝説を攻撃して更にダメージの微調整を行い……ついに時は来た。
「……儚き光と願いを胸に……闇に裁きの鉄槌を……」
　仲間を信じ。
　体力を温存していたアリスは、全力で駆けあがる。その視線は前を塞ぐ都市伝説ではなく、遥か前方の電波塔に真っ直ぐに注がれている。
「走、走、走らせないよ！」
　そのアリスを阻まんと、石膏像が迫り。
　悠花の輝く閃光を纏った一撃が、都市伝説を木端微塵に粉砕する。セーブしてきた今までの力を全て開放した、渾身のサイキックだった。
「ここはわたしたちで持たせますので、行ってください！」
　力強い仲間の言葉に、アリスは決して振り向かない。
　振り向く必要はなかった。形を崩して消滅する石膏像を押しのけて、今度は音楽家の都市伝説が追撃しようとするが。エリノアがそれを許さない。
「妨害はさせないし、追撃もさせないわ」
　その体は、味方を温存するために傷だらけで。
　今回も己が身体を張って敵を止め、あらん限りの力をもって旋風輪をぶち当てた。都市伝説は地に倒れて崩壊の時を迎える。
（「ラジオウェーブ。数少ない残存ダークネス組織の中でもある意味で一番謎に包まれているわね。なにせ本当にダークネス組織なのか怪しいぐらいに組織だった行動がないのだもの。だからこそ、今回が謎を解く突破口になればいいけれど」）
　遠ざかっていく仲間の背を、しかと確認して。
　エリノアは自分が役割を果たしたのだと実感した。
（「何とか回復も間に合ったな」）
　国臣も胸中で安堵する。
　アリスが離れる間際、シールドリングを掛けておいたのだ。それが少しでも仲間の力になることを願うばかりだった。
「皆、気を抜いちゃ駄目だおっ」
「出来るなら、俺も続きたかったが。こうなったら仕方がないな」
　異変に一番に反応したのは仲間達を治癒しようとしたマリナだ。
　最初に倒した蛙が、いつの間にか復活していたのだ。供助が回り込んで、射線を塞ぐ。
「……行かせない……」
「アリスさんたちの帰る場所を守る戦いです」
　即座に隅也が、悠花が、他の皆が連戦に備える。
　行く者と留まる者。それぞれの背にそれぞれの想いを乗せて。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2018年3月6日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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