ソウルボードの異変~禍殃発露ス

    作者:夕狩こあら

     民間活動の結果でソウルボードに影響が出ていないか、調査を行いたい――。
     クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)の提言で行われた灼滅者有志によるソウルボード探索だったが、想定以上の成果を出す事となった。
    「かつてのソウルボードには無かった感覚を感じますね」
    「えぇ、灼滅者に対して好意的な意思というのでしょうか? それを感じます」
     この時期に灼滅者がソウルボードに入った場合の影響を図ろうとした、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)と、民間活動の成果がソウルボードに影響を及ぼすのではと予測していた、黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)の両名が、ソウルボードの微かな異変を感じ取ったのだ。
     これが民間活動の成果だとすると……と前置きして、異叢・流人(白烏・d13451)が、一つの仮説を提唱する。
    「ソウルボードは種の進化を促し、動物の魂に干渉する存在であるのは確かだな。そうであるならば、動物の……この場合は人間だな、その魂がソウルボードに影響を与えたとしても不思議ではない……」
     民間活動により、多くの一般人が灼滅者の存在を知り、そして、灼滅者に好意的な気持ちをもってくれた。
     それが、ソウルボードに影響を与えたと考えれば、確かに説明はつくかもしれない。
     外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)や、神原・燐(冥天・d18065)は、流人とは違う持論を持っていたが、しかし、この現象が民間活動の成果である事については、不思議と納得できていた。
    「うむ、こっちに何かあるのですか?」
     ソウルボードからの意思に耳を傾けていた皆無が、その意思が示す方向へと進む事を提案する。
     調査隊の面々にも異論は無く、導かれるままにソウルボードの奥に進み続ける事とする。
     ソウルボードを導かれるままに進む事数時間。突然、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)の所持していた携帯が音をたてる。
    「えっ、どうしたんですか??」
     ソウルボードで携帯が鳴るという、ありえない現象に驚く陽桜。
     しかし、驚くのはこれだけではなかった。携帯から流れてきた放送は……。
    「この放送は……、ラジオウェーブのラジオ放送です!」
     陽桜の言葉に、調査隊は大いに驚いたのだった。

     灼滅者が民間活動に舵を切って数週経ち、その報告が続々と学園に届けられる中、羽柴・陽桜や九形・皆無、クレンド・シュヴァリエや黒嬢・白雛らは有志を募ってソウルボード内を探索していたのだが、そこで重大な発見があった――。
    「調査隊がソウルボード内で得た情報を報告するッス!」
     と、教室に飛び込んだ日下部・ノビル(三下エクスブレイン・dn0220)の鼻息は荒く、集まった灼滅者達は事態の深刻に触れる。
    「まず、ソウルボード内では『灼滅者に対して好意的な意思』のようなものを感じたそうなんスよ」
     これは、日々に積み重ねた民間活動の結果――成果とも言えるものだろうが、その意思に導かれた先で、調査隊は『ラジオウェーブの電波塔』を発見したという。
    「! ラジオウェーブの電波塔?」
    「ソウルボード内に何故、そんなものが……」
    「それは現時点では全く分かんねーんす」
     驚きを隠さぬ灼滅者達に、ノビルはフルフルと首を振って、
    「そんでも調査隊が所持していた携帯電話が、ラジオウェーブのラジオ放送を受信したんで、この電波塔がラジオウェーブに関係するものであるのは確実っす!」
    「……」
     これはバベルの鎖の影響により、本来は伝播しない筈の都市伝説に関する情報が『ラジオウェーブのラジオ放送』だけ特別に伝わる理由なのか――或いは逆に、灼滅者の民間活動と同様、多くの一般人にラジオ放送を聞かせた事で、このような施設を建設する事ができたのかもしれないが、現時点で断言する事は出来ない。
    「いずれにせよ、ラジオウェーブにとって重要な施設である事は間違いないだろう」
    「押忍。自分は破壊できるなら破壊してしまうべきだと思うんス」
    「よし、破壊しよう」
     灼滅者とエクスブレインの意見が合致したところで、作戦会議だ。
    「ソウルボード内にあったという電波塔について詳しく教えてくれ」
    「うす。調査隊によれば、こんな形だったとか」
     サラサラ、とノビルが紙に書いて示すにはこうだ。
     ラジオウェーブの放送が行われている電波塔は、『奇怪で歪な形状』をした全長45m程の塔。左右に触腕のような突起、塔の上部に直径20m近くの頭部があり、その頭部がアンテナのような形で電波を発している模様。
     その形状から『塔自体が戦闘力を持つ都市伝説のような存在』であると思われるのだが、調査隊の報告では外見以上の情報を得る事は出来なかったという。
    「内部調査は出来ず、か」
    「というのも、接近を試みた所、塔から発せられるラジオ放送によって周囲のソウルボードが都市伝説に変化して塔を防衛しようとした為、近付く事が出来なかったんスね」
    「防衛機能が働いていたのか……?」
    「ソウルボードが変化した都市伝説は、戦って撃破する事が可能なんスけど、そうして数分もすると、ラジオ放送によって再構成されて再び襲ってくるんで、突破する事は容易じゃないっす」
    「キリがないな」
     都市伝説の出現数も多く、突破するには相応の戦力が必要である――というのが調査隊の見解だ。
    「出現する都市伝説は、『学校の七不思議』と思われるもので、戦闘力は然程高くないみたいッス」
     ただ数が多く、1チームにつき3~5体の都市伝説を相手に戦う事になろう。
     更に、この都市伝説の防衛網を突破して、件の『奇怪で歪な電波塔』に近付くには、『全チームが同じタイミングで、一気に多数の都市伝説を撃破する』必要があるのだ。
    「同時に多数の都市伝説を撃破すれば、直後の数分間は敵の圧力が減るんで、ここで一気に距離を詰める事が出来ると思うんス」
    「成る程」
     都市伝説は数分後には再生して襲い掛かってくるので、電波塔に接触した後は、『電波塔を攻撃する灼滅者』と、『再生した都市伝説を迎撃する灼滅者』に分かれて対処する必要がある。
    「電波塔さえ破壊できれば、それ以上、都市伝説が再生する事は無い筈なんス!」
    「再生した都市伝説を迎撃する側は、それまで耐え抜かないとな」
    「自分は勿論、兄貴らの耐久性を信じてるッスよ!」
     ノビルはキラリ尊敬の眼差しを見せた後、更に言を続けた。
    「そこで当チーム、兄貴と姉御に担当して貰いたい都市伝説がこの4体っす」
    「特攻……愚蓮星……?」
    「あっ『特攻』の部分は『ブッコミ』って読んで欲しいッス」
    「ゾクの連中か」
     全員がいかつい改造バイクに跨り、釘バットをブン回して攻撃してくる少年達。
     高校の玄関前ロータリーで昼間からブンブン爆音を轟かしていそうな不良連中だ。
    「連中は人騎一体、全員が『騎乗』して戦う爆走集団で、ポジションはクラッシャー、ディフェンダー、ジャマー、スナイパーの4体っす」
     武器の釘バットは形状としては似つかぬものの、灼滅者が扱う妖の槍と同等という。
    「問題は――」
    「撃破のタイミングだよな」
    「押忍!」
     連中は屈強なる灼滅者にとって脅威にはなり得ぬものの、『他チームとタイミングを合わせ、出来るだけ同時に止めを刺す』事が重要な今回、戦闘を工夫する必要がある。
    「何か良い案がないか相談してみるか」
    「計画的灼滅っすね」
     暫し思案する灼滅者に、ノビルが力強く頷いた。
    「有志による調査でラジオウェーブの秘密の一端が解明されようとしている今、彼等の努力に報いる為にも、ここは成功させたいな」
    「ええ、それに今回の戦いで、他のダークネス組織とは一線を画していたラジオウェーブの秘密に迫る事が出来るかもしれないし……」
     必ずや電波塔を破壊してみせる、と意気込む灼滅者に、ノビルはビシリ敬礼して、
    「これまでの民間活動で兄貴や姉御を応援してくれるようになった人々の意思が、この機会を与えてくれたのだとすると……期待に応えたいところっす」
     と、武運を祈った。


    参加者
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    東郷・時生(踏歌萌芽・d10592)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)

    ■リプレイ


     道程を記した訳でなく、目印を残してきた訳でもない。
     だが、あの場所へと繋がる道――その感触は克明に覚えている。
    「やはりだ……ソウルボードの意思が俺達灼滅者を導いている」
     これまでに無かった感覚に触れるのも二度目なら、其を辿るクレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)の足も以前より速かろう。先頭を行く彼の言に、此度数を多くした仲間達が、己が第六感にも訴えてくる鋭感に頷く。
     慥か調査隊の報告書では、民間活動で関わった多くの人の魂が、ソウルボードに影響を与えている可能性が示されていたが、
    「私が関わった学校の生徒達の意思も、此処に在るのかしら……」
     他者を護る事こそ我が本懐と、民間活動に尽力した東郷・時生(踏歌萌芽・d10592)は、何処か温かな感触に繊麗の指を差し伸べる。
     その隣、神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)も嘗てない変容を感じる一人に違いないが、言は聊か冷ややか。
    「灼滅者に好意的な意思、か。それも何時まで続くことやら」
     日々届く民間活動の成果に一般人の意識の変化を視る一方、自分の大切な人が彼等に『化け物』と蔑まれた過去を忘れる筈なく――彼が警戒を解かぬのも当然。
     平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)は、己を導かんとするソウルボードの意思を手繰るように周囲を見渡して、
    「奴の遺志も、影響を与えているのか……?」
     ――慈愛のコルネリウス。
     我が友より「もし逢ったら宜しく」と言伝を与った身故にか、厖大かつ混沌たる精神の逗留に耳を澄ます。
     嘗て此処で彼女の最期を見届けた文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)こそ、先の記憶を甦らさざるにはいられようか、彼は慈愛の姫より受け取った言葉を反芻して、

     ――ソウルボードに残る慈愛の心と皆さんの力が合わさり、全てが幸福になりますように。

    「少しは近付けているのかな、希望ある幸せな未来へと」
     掌に乗せた【希望の欠片】をそっと包み、虚空に語り掛ける。
     そう、真実も謎も背負ってきた彼等には様々な想いが馳せよう、未だ秘密めくソウルボード、その意思の導く儘に進んだ灼滅者達は、軈て奇怪で歪な形状をした電波塔の、頭部と思しきアンテナを捉える。
    「こんなでけぇ隠し物をしてたとはな」
     天方・矜人(疾走する魂・d01499)はかの異様に一抹の既視感を得つつ、仮面に伏せた金瞳を不敵に細める。
     懐に忍ばせた携帯電話は今に電波を受信しよう、
    「目的はまだ分からねえが、放っておけねえよな」
     灼滅者の本能か性か、同じく不穏を嗅ぎ取った神虎・闇沙耶(罪と誓いを背負う獣鬼・d01766)は是を頷いた後、獣鬼の面に声を籠らせた。
    「あの塔、人の心へ語りかけるものか……もしくは人を操る、か」
     孰れにせよ厄介な物であるのは確実。
     その胸奥で六六六人衆の残党が絡んで無いことを祈った彼は、傍らで殲術道具を解放する弟分、聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)の殺気に触れる。
    「ラジオ野郎、人と都市伝説を同化させて手駒を造り出すつもりか?」
     ラジオウェーブのラジオ放送と、ソウルボード。
     其のカラクリを解き明かすより先にやるべき事を視る雄渾は、漸う形容を現し始める邪の群れに哮り立ち、
    「汚れたバベルの塔をへし折るぞ!!」
     狂暴の鎖を解き放った。


    「超速の向こう側を手に入れた俺達『特攻愚蓮星』のラインを塞ぐ……?」
    「ハッハァ! 愉しーじゃん、オメー等!?」
     爆音に紛れて何か言っている様だが、特に聞く必要はなかろう。
     時生は耳を劈く不協和音にも沈着と、他班と時を合わせた【優桜】の針に視線を落として佳声ひとつ、
    「計測を開始するわ」
     1ターン1分。
     10ターン目で一斉灼滅すべく、その足懸りを作った。
     全チームが同じタイミングで出現数も性質も異なる都市伝説を撃破せねばならぬ今回、通信が確認できぬ戦場では『時を共有する』作戦が最も有効であろう。
     彼女の声を戦いの鏑矢と受け取った矜人と直哉は双対の鋭槍と為り、
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
    「探偵的には謎解きタイムか、この戦い攻略してやるぜ」
     共に炎を紡いだなら、狙う相手も同じ後衛とは妙々。
     赫灼と揺らめく花弁が敵スナイパーのマスクに飛び掛かれば、低い叫声に弾かれた仲間が一気にグリップを捻る。
    「行くぜ、喧嘩(センソー)だッ!」
    「テメーらも踊れヨ!」
     吶喊――!
     唸る鉄塊、その迫り上がる車輪を身ごと阻むは凛凛虎。
     深紅の大剣【Tyrant】がバイクの暴走を止める代わり、釘バットの振り下ろしを喰らった彼は流血して尚も怯まず、
    「おら、死ぬ準備は出来てるだろ?」
    「!?」
     息継ぐ間もない。
     鮮血と共に迸るは猛炎か、闇沙耶が絶妙のタイミングでカウンターアタックを衝き入れ、ゴムを焦がす臭いをさせる。
    「来い。じっくり焼いてやる」
    「……上等ッ!」
     ハンドルを切って旋回した凶邪は、再び爆音を連れて一斉出撃するが、此度、厚みある守壁を破るは中々に難しかろう。
     クレンドとプリューヌ、兄妹の命の盾は敵の走行線に真っ向と立ち塞がり、
    「貫いてやるぜ!?」
    「ここを抜けたければ文字通り千回死ぬ気でかかってこい!」
    「うルァ嗚呼!!」
     轢き殺すッ、と速度を上げた先頭の一騎が紅盾【不死贄】と波動を衝き上げるや、後続のバイクはキャプテンODこと和守の炎弾に軌道を逸らされ、転倒・回転して路上(ソウルボード)に叩き付けられる。
    「畜生、テメーら暴走族(ゾク)の取り締まりか!?」
    「暴徒の制圧は機動隊の……いや、仕事を選分けるべきではないな」
     怒号に返るは貫徹した冷静。
     此度、連戦を想定した彼等は、敵に与えたダメージ量と自陣の損耗の程度により配慮しており、特に回復を担う優は戦線の維持に努めると同時、『次戦に向けた戦力の確保』に留意している。
    「何せ数分の猶予しかない上での耐久戦だからね」
     と堅牢に支える虎眼は相変わらずだが、何時になく剣呑が漂うのは、今回のベスト防具として海里に着せられた巫女服の所為か――「コ・ロ・ス☆」と微笑む玲瓏の何と恐ろしき哉。
     蓋し都市伝説『特攻愚蓮星』は、そんな彼等の周到など知るまい。
     属性を意識した防具の選定から、全員が感情の絆を結んだ鉄の連環、そしてサイキック構成……特に炎を駆使した戦術は頗る剴切であったろう。
    「雑魚相手に防戦ってのは気に入らねぇな」
    「ンだとウルァ!」
     墜下する釘バットを閃拳に撃ち返す凛凛虎。
     彼の言う通り、塔の防衛電波が生成した都市伝説は今の灼滅者を追い詰めるには至らない。
     寧ろ懸念すべきは、【万能標示灯】に暴走を禦す和守が示した様な『灼滅の時差』で、
    「途中で撃破してしまわぬよう注意せねばな」
    「ああ、その為に連中を大炎上させ撃破寸前まで弱らせる!」
     能力の異なる炎を浴びせる直哉然り、彼等は灼滅に至る真際まで敵を焼き尽くした。
    「クソッ、バットフルスイングだオラァ!」
    「相棒もスロットル全開だぜェ!?」
     時に彼等が強靭を増せば、矜人は神速の拳打で其を崩し、
    「悪いがそっちの強化はさせねえ」
    「ッ、テメー等だけにいい思いさせて堪るかよッ!」
    「おっと、こっちの切り札はやらせない」
    「!!」
     射線に爆炎の魔弾を差し込むクレンド、彼が言う『切り札』とは突破者の事だろう。役儀を分担して適切な行動を取捨選択した彼等は、実に堅実に優勢を奪っていった。
     更に、
    「6分経過!」
     殺伐たる軍庭に周期を違えず凛冽を置く時生。
     時告ぐ声あってこその戦術であろう、彼女は己が手番には臨機応変に、
    (「手が足りぬ処に支援を、他者が届かぬ処に手を伸ばそう」)
     延焼が乏しければ我が蒼炎を、攻撃多寡なら回復をと機智鋭い。
     そんな彼等が煩雑を覚えたのは、敵勢の減らぬ手数と口数であったか、
    「ぐぁあ熱イ! お前ら焼き肉屋かっつーの!」
    「俺らがミンチにしてやっからよ、テメーの炎でハンバーグになっちまえ!」
     闇沙耶は遠巻きにブンブンと喚く連中に柳眉を顰め、
    「ちっ、機動力は向こうが上か。ならその足を殺してやろう」
    「季節外れの蠅ほど煩いものはないからね。手伝うよ」
     賛同を示した優が光矢【Shekinah】を射れば、精度を増した鋭刃が飛燕と疾走り、虹色の軌跡を描いてタイヤを切り裂いていく。
    「お、俺の疾風(カゼ)、泥黎の韋駄天が……!!」
    「ッッ! 愚蓮の星堕としたケジメつけろや!」
     何を言っているのか解らずとも構わない。
     畢竟、8分を経過した彼等に残された時間は寡いという事に違いなかった。


    「クッ、俺達『超速の四天王』を止める奴が居るだとッ!?」
    「愛車(アシ)が……動かねェ……!」
     終盤になると、プリューヌと海里が重ね掛けた毒が効いてくる。
     ジグザグに広げられる炎も勢いは収まらず、連中は燃えゆく酸素を何とか吸っては、痩せ我慢の気炎を吐くのみであった。
    「そんでも心は! 止められねーッ!」
    「爆走(ハシ)るぞゴルァ!」
     最も彼等を苦しめたのは、数多の負の効果によって自慢の機動を奪われた事だろう。
     和守は愚蓮星の暴走を赤色誘導灯に阻害し、
    「迷惑走行に及ぶ虞犯少年らにとって、『こいつ』に従うのは嘸かし苦痛だろうが」
    「ぐああ、自由の翼が捥がれる……ッ!」
    「だが遵ってもらう」
     突撃ならず――と歯噛みした彼等は、然しこちらも都市伝説としての矜持があろうか、既にアイギスと化した精強の盾を突破ラインに見立て、殊更アクセルを回す。
    「テメーらの壁を破った先に、俺達の求める風(スピード)があるッ!」
    「眼前にあるのは脆弱な壁ではない。鋼の壁だ! 易々と通すと思うな!」
    「うおお嗚嗚嗚嗚ッッ!!」
     迎えるは闇沙耶の無【価値】。
     狂気もスピードも、普く存在の価値を否定する超弩級の振り下ろしが吶喊の切先を手折れば、烈風を切り裂いて進み出た二機目の鉄塊はクレンドが負う。
     刹那、凄まじい衝撃が胸を圧し上げ、轟音と颶風が怒濤と逆巻き、
    「タイマンだオラァ!」
    「そっちの特攻と、俺達の特攻。どっちが上か、その身で味わえ!」
     特攻(ブッコミ)――鉾と楯の相剋が互いの肌を烈々と裂くが、ソウルボードより伝わる意思が、民間活動を経て変化を遂げた人々の魂が、真紅の騎士の殪れるを許さない。
     尚も止まらぬ三機目の驀進に踏み出るは時生。
     異形の怪腕は眼前に迫る前輪を掴み、握り潰して、
    「なっ、素手で……止めた!?」
    「クレンドら調査隊の努力も、沢山の命で出来た想いも、この身を挺して護ってみせる」
     守りたいものは多くていい、寧ろ強欲でなければと輝く常盤の瞳は煌々と、浅草任侠一派『東藤組』三代目は、チンピラとの格の違いを見せつける。
     蓋し彼等が格上の相手とは、愚蓮星も薄々と気付いていただろう。
     だからこそ戦意は煽られ、
    「テメー等ブッ潰して神話(レガシー)作るぜ!?」
    「超速伝説だッ!」
     全身全霊、全速全開の最後機は――然し凛凛虎の猛き焔に屠られる。
    「そもそも貴様らは始まってもない存在! 面白くないんだよ!!」
    「ず熱ああアアッ!!」
     そう、既に10ターン目に突入すれば、炎は体力を削る手段に非ず。悪魔の舌と化した灼熱は闇の潰える瞬間まで禍きを味わい、虚無へと嚥下した。
     凄惨が過る中、優の淡然は愈々近付く終焉を示唆して、
    「確かに。数分後に再構成されて二度も戦うとなると、俺も面白くないな」
     然も彼等に自分達と戦った記憶は無いのだから、と都市伝説の性質に皮肉を零す。
     其は連戦に臨む意志でもあったろう、黒曜石を飾る双眸は余力を十分に保った二名の精鋭、その仕上げの一撃を聢と見届け、
    「タイミングばっちり、これでフィニッシュだ!」
    「最後の仕事はきっちりさせてもらうぜ」
     直哉と矜人、盤石を受け取ったクラッシャーが渾身の鋭撃を揃える。
     真実を暴くはクロネコ・レッドの命題か、敵を単車ごと持ち上げた彼はググッと海老反り大回転、凶邪の塊を路面に叩き付け、
    「探偵舐めんなよっ!」
    「ッッ……ッ!!」
     全き同時、終末を告ぐは髑髏の仮面。
     脊椎を想わせる多節棍【タクティカル・スパイン】、豊饒たる魔力を流し込まれた切先は死の中心で光と爆ぜ、
    「スカル・ブランディング!」
    「ぎゃああ嗚呼嗚呼ッッ!!」
     断末魔の叫びに灼滅の完了を知らしめた。


     爆音が止み、耳に密と満つ静寂が策戦の成功を実感させる。
     闇沙耶の声は束の間の寂寞に沁みよう、
    「征け、此処は我らが受持つ」
     彼が「条件は満たした」と言う様に、一同は他班とタイミングを合わせて一気に都市伝説を灼滅し、且つ現時点での戦力も十分、次戦に備えた戦術も有る。
     一抹の不安としては、クラッシャーが抜けると決定力に欠ける点だろうか。
     先刻、減らぬ手数に厄介を強いられた直哉は唸って、
    「今度はかなりの耐久戦……各個撃破は狙えないかもしれない」
    「いや、第一の目的は電波塔の破壊だ。当班からも可能な限り戦力を出したい」
     最低14名で挑まねばならぬ処、倍の人数が揃えば攻略の可能性は大きくなると、我が身の安全より作戦の遂行を望む和守は力強く彼の背を押す。
    「大丈夫、頑丈さには自信があるのよ」
     当初より持久戦を想定していた時生の凛然も頼もしい。
     彼女は己が覚悟を食らわせん勢いで、最も過酷を強いられよう守備陣の意志は固い。
    「幸い妹も、プリューヌも居れば手数としては引けを取らないし」
    「海里もまだ戦えるよ。――うん、じゃれんなって」
     ビハインドの消失を防げたのも大きく、クレンドがプリューヌと併せて再び不撓の盾となる事を誓えば、主の優にぴっとりと、すりすりと密着した海里も頷く。
    「なに、撃破しても再生する相手なら、時間まで踊らせておくのが得策だぜ」
     凛凛虎の言う事は尤も。
     元々ターン数を稼げる布陣で臨んだ彼等だ。ポジションや戦陣を変えずとも有利を取れるとは決して虚言ではない。
     仲間の強さを信じる矜人は、ここにコートの裾を翻し、
    「掴んだ尻尾は放さねえ。必ず秘密を暴いてやるぜ」
     往く者として、振り向かず。
     聢と覚悟を交わせる静謐もあと幾許、危殆を検知した電波塔は直ぐにも防衛電波を送出し、再び一帯を邪悪に満たそう。

     さあ、やるしかない――。

     攻略班と迎撃班に別れた灼滅者は、然し心はひとつ――謎に迫るべくそれぞれの力を振り絞り、軈て来たる事実に立ち向かうのだった。

    作者:夕狩こあら 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年3月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ