民間活動の結果でソウルボードに影響が出ていないか、調査を行いたい。
クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)の提言で行われた灼滅者有志によるソウルボード探索だったが、想定以上の成果を出す事となった。
「かつてのソウルボードには無かった感覚を感じますね」
「えぇ、灼滅者に対して好意的な意思というのでしょうか? それを感じます」
この時期に灼滅者がソウルボードに入った場合の影響を図ろうとした、九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)と、民間活動の成果がソウルボードに影響を及ぼすのではと予測していた、黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)の両名が、ソウルボードの微かな異変を感じ取ったのだ。
これが民間活動の成果だとすると……と前置きして、異叢・流人(白烏・d13451)が、一つの仮説を提唱する。
「ソウルボードは種の進化を促し、動物の魂に干渉する存在であるのは確かだな。そうであるならば、動物の……この場合は人間だな、その魂がソウルボードに影響を与えたとしても不思議ではない……」
民間活動により、多くの一般人が灼滅者の存在を知り、そして、灼滅者に好意的な気持ちをもってくれた。
それが、ソウルボードに影響を与えたと考えれば、確かに説明はつくかもしれない。
外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)や、神原・燐(冥天・d18065)は、流人とは違う持論を持っていたが、しかし、この現象が民間活動の成果である事については、不思議と納得できていた。
「うむ、こっちに何かあるのですか?」 ソウルボードからの意思に耳を傾けていた皆無が、その意思が示す方向へと進む事を提案する。
調査隊の面々にも異論は無く、導かれるままにソウルボードの奥に進み続ける事とする。
ソウルボードを導かれるままに進む事数時間。突然、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)の所持していた携帯が音をたてる。
「えっ、どうしたんですか??」 ソウルボードで携帯が鳴るという、ありえない現象に驚く陽桜。
しかし、驚くのはこれだけではなかった。携帯から流れてきた放送は……。
「この放送は……、ラジオウェーブのラジオ放送です!」
陽桜の言葉に、調査隊は大いに驚いたのだった。
羽柴・陽桜たち有志の調査隊によるソウルボードの探索により、重大な発見がもたらされたと、初雪崎・杏(大学生エクスブレイン・dn0225)は、力のこもった口調で告げた。
「何でも、ソウルボード内で『灼滅者に好意的な意思』のようなものを感じたらしい。これは民間活動の成果ではないかと思うのだが……その意思に導かれた先で、調査隊は『ラジオウェーブの電波塔』を発見したそうだ」
ソウルボード内にそんなものがある理由は不明。だが、調査隊の所持していた携帯電話が、ラジオウェーブのラジオ放送を実際に受信している。電波塔がラジオウェーブとかかわりがあるのは疑いようがない。
「ラジオ放送がソウルボード内から発信されていることが、『バベルの鎖』で伝播しないはずの、都市伝説に関する情報が伝えられる理由なのだろう。いや、むしろ、灼滅者の民間活動のように、多くの一般人にラジオ放送を聞かせていたから、このような施設を建設する事ができたのかもしれないが、現時点ではどちらとも言えないな」
いずれにせよ、ラジオウェーブにとって重要な施設ならば、破壊するべきだと、杏は言った。
「調査隊の報告によれば、ラジオウェーブの放送が行われている電波塔は、『奇怪で歪な形状』をした45m程の塔らしい。左右に触腕のような突起、塔の上部に直径20m近くの頭部があり、そのアンテナのような形をした頭部から、電波を発しているそうだ」
塔自体が都市伝説のような存在だと推測されるが、それ以上の情報はない。
「というのも、調査隊が接近しようとすると、塔から発せられるラジオ放送によって、周囲のソウルボードが都市伝説に変化。塔の防衛に集まってくるせいで、うかつに近づく事ができなかったのだそうだ」
ソウルボードが変化した都市伝説は、普通に戦えば撃破する事が可能だが、数分も経つと、ラジオ放送によって再構成され、また襲ってくる。
出現する数自体も多く、突破にはある程度まとまった戦力を要するというのが、調査隊の見立てだった。
「出現するのは、学校の七不思議と思われる都市伝説で、戦闘力は高くないが、なにぶん数が多い。1チームあたり、3~5体の都市伝説を相手にしてもらうことになるな」
都市伝説の防衛網を突破して『奇怪で歪な電波塔』に近づく方法は、全チームが同じタイミングで、多数の都市伝説を撃破する事だ。そして、都市伝説の再構成が行われる数分間のうちに、塔に接近してしまえばいい、というわけだ。
電波塔に接触した後は、電波塔を攻撃する灼滅者と、再生した都市伝説を迎撃する灼滅者に分かれる。
攻撃担当が電波塔を破壊すれば、都市伝説の再生は停止すると思われるので、迎撃担当は、それまで耐え抜かなければならない。
「君たちに担当してもらう都市伝説は、3体だ」
『初代校長の銅像』、『動く人体模型』、そして、『トイレの花子さん』である。
ディフェンダーの銅像は、バトルオーラ。クラッシャーの人体模型はロケットハンマー。スナイパーである花子さんは、影業のサイキックを使用する。
3体合わせても戦闘力は脅威ではないが、今回の作戦で重要なのは、他のチームとタイミングを合わせ、同時に止めを刺すという事。ただ撃破すればよい、というわけではないので、戦い方に何らかの工夫をする必要があるだろう。
「灼滅者に好意的な意思の正体が、民間活動によって灼滅者を応援してくれるようになった人々の力だとするならば、皆の努力が報われたという事だろう。このチャンスを生かすためにも、ここは頑張りどころだな」
参加者 | |
---|---|
神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914) |
外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527) |
居木・久良(ロケットハート・d18214) |
東雲・菜々乃(本をください・d18427) |
氷月・燎(大学生デモノイドヒューマン・d20233) |
師走崎・徒(流星ランナー・d25006) |
獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098) |
九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536) |
●異界エンカウント
「正直、またここに来れるとは思わなかったなあ」
師走崎・徒(流星ランナー・d25006)と獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)が、眼前に広がる世界を眺める。そのまなざしは感慨深げだ。
「ソウルボード……ここはオレらの仕事場っすからね、きっちり仕事させてもらうっすよ」
天摩が、シャドウハンターとしての矜持を口にする。
東雲・菜々乃(本をください・d18427)の胸には、かつてコルネリウスと会った時の 記憶が去来する。あの時とは別な場所ではあろうが、何かしら感じることはできないだろうか、と。
「それにしても、思わぬところからラジオウェーブが出てきたわね。ソウルボードの変化も見極めてみせるわ。……あれね」
神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)とウイングキャット、リンフォースの視線の先には、ソウルボードの中でもひときわ異彩を放つ物体がある。
「シュールだ……」
徒がつぶやいたのも無理はない。
そびえたつ電波塔の威容……あるいは、異様。このいびつな巨塔を発見した調査隊の驚きは、いかばかりであっただろうか。
「せっかく調査が成果を上げたのですから、このまま主を釣り上げておきたいですね。ソウルボードの謎と言う大物の主を、ね」
有志調査隊の一員でもあった外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)が、笑顔をのぞかせた。そのためにも、あの塔へとたどりついてみせよう。
「電波塔か。名前の感じからして関係ありそうやけど、やっぱラジオウェーブの情報媒体なんかなあ」
そもそもラジオウェーブとは普通のダークネスなのだろうか。氷月・燎(大学生デモノイドヒューマン・d20233)の疑問は尽きない。この戦いで、何かつかめると良いのだが。
そして、九条・九十九(クジョンツックモーン・d30536)が、じっと見つめた電波塔の方向。人影が接近してくる。ソウルボードにいる時点で、尋常の存在であるはずがない。
都市伝説、七不思議の数々である。電波塔の防衛システムとでも言うべきそれが、この場に集った灼滅者たちの排除に向かって来るのだ。
「都市伝説は嫌いではないがな。粗製乱造は感心しない。面倒事になる前に、砕かせて貰おう」
表情を無にしたまま、自らのポジショニングにつく九十九。
(「世界は繋がってる。ソウルボードも人もダークネスも。だからどこでも誠意を持って、誰かの笑顔のために命がけだ!」)
突破すべき障害を前に、居木・久良(ロケットハート・d18214)が闘志を露わにした。
久良にも待っている人がいる。だから、絶対に帰る。勝利を手土産にして、だ。
●七不思議バトル
今回の作戦の要は、塔を守る七不思議群を、全チームが同タイミングで排除すること。
他のチームとの打ち合わせ通り、目標は10分。それをもって全ての七不思議を殲滅し、電波塔へと攻略隊を送り出すのだ。
そして、灼滅者たちは一斉に、七不思議たちとの交戦に入った。
まずはこれを排除して、謎に近づく。燎がバイオレンスギターを構えた。
このチームが引き受けたのは『初代校長の銅像』、『動く人体模型』、『トイレの花子さん』の三体だ。
このうち、先んじて仕掛けてきた銅像と人体模型が、突如、霊力に囚われる。菜々乃の結界に足を踏み入れたのだ。
「コルネリウスさんを始めシャドウさんと色々あった場所ではありますが、ダークネスに渡していい場所ではないのです」
菜々乃の言葉にうなずくのは、敵の攻撃に備え、滞空するウイングキャットのプリン。
「そう、ソウルボードの世界で好き勝手にはさせないわよ!」
リンフォースに仲間の守りを頼む一方、明日等はダイダロスベルトを解き放った。その標的となったのは、トイレの花子さん。小柄な体を突き飛ばすようにガードを破り、貫きとおす。
仲間たちが攻勢に出る一方、九十九の掲げた交通標識が、警戒の黄色表示で前衛のガードを高める。
他の戦場からも刃を交える音が聞こえてくる中、久良のガトリングガンが砲声を上げた。獣の咆哮の如き音と共に、花子さんを狙う炎弾の群れ。元より赤いスカートを、更なる紅に染め上げたかと思えば、一転、黒く焦がしていく。
「決戦組は何としても無事に送り出す。行くぞ、天摩!」
「任せるっすよ、徒っち」
この作戦の成功が、バベルの鎖の謎、その解明に繋がるという予感を覚えながら。
徒がエアシューズで駆け、天摩が縦横無尽に動き回る。その動き、並の都市伝説には把握も一苦労か。
そして徒は、クロスグレイブのターゲットをロックすると、光条にて敵前衛を焼き払う。巻き起こる爆炎、爆風。
それをくぐり抜け、天摩が行く。銅像に槍を突き立て、削り取る。得物を引き抜いても返り血を浴びずに済むのは、ありがたいかもしれない。
怒りの表情を作った校長の銅像の乱打が、久良に迫る。しかし、それを遮ったのは九十九だった。この後電波塔に向かわせるためにも、前衛に立つ久良のダメージは、少しでも抑える。
顔色一つ変えず、ずんずん、と迫りくる人体模型が、両腕を地面に叩きつけた。同心円状に伝播する衝撃が、前衛を襲う。
震動が止まぬうち、花子さんの影が、後方にいた天摩を襲う。だが、牙を剥く影を翻弄するように体をひねり、戦場を駆ける。さながら鬼ごっこ、といったところか。
失速する影と入れ替わるように飛空したのは、黒武の背中から生えた翼……否、ダイダロスベルトだった。他方に気を取られていた銅像と人体模型を八方から切り裂いたのち、縛り上げた。
立ち止まらざるを得なくなった相手をギャラリーとして。燎がバイオレンスギターを響かせる。燎の魂の震えは超音波となり、銅像を、荒れ狂うリズムの渦に巻き込んだ。
●決着カウントダウン
黒武の戦術に合わせ、敵へのダメージを調整する灼滅者たち。
天摩が、ハンドサインを送りつつ、銅像を叩く。見た目通り硬い分、しっかりと削っていかなければ。
同じ器物系七不思議のよしみか。足並みをそろえて攻めてくる銅像と人体模型が、久良の手荒い歓迎を受ける。嵐の如く全身を穿つ弾丸が、ボディの表面を破砕していく。ぎろり、無機質な瞳に睨まれる前に、敵の視界から消える久良。
明日等が槍を軽やかに回して勢いをつけると、人体模型の脇腹を突く。硬い手応えとともに、パーツが飛散する。内臓は……元々露出していたか。
こっちのダメージは大丈夫、と手を振る明日等。それを受け、後方で攻撃タイミングを計っていた花子さんに、徒が仕掛けた。幾重にも分かれたダイダロスベルトの群れが、スカートを翻す花子さんを追走し、その体を切り刻んでいく。
ベルトの魔手より逃れた花子さんだったが、休憩タイムなどない。すぐに黒武の魔弾が迫って来たからだ。
死角からの一発は、さも突然のように命中し、炸裂。花子さんの幼い顔が、苦悶に塗り込められる。先ほど喰らった、黒武の毒も効いている。敵にまで明るく振舞ってやる必要はない。あくまで、狡猾に、残忍に。
花子さんを守るように割って入った人体模型の片腕が破裂した。射線をたどれば、天摩のバスターライフルが、闇の残滓をなびかせている。闇……収束した漆黒の想念を、射出したのだ。
銅像が、台座をブースターのように点火すると、突撃をかけた。その進路上には、菜々乃。
「菜々乃っち!」
後輩を呼ぶ天摩。だが、元より守りが今回の役割。しっかり踏みとどまる事で、菜々乃は、問題ないと示して見せる。
援護のため飛び回っていたリンフォースを、人体模型が急襲した。背後から両腕を叩きつけ、銀猫を墜落させる。だが、地面に叩きつけられる寸前、明日等がその体を受け止める。
攻撃の勢いを止めまいと、菜々乃が清めの風を呼んだ。大気に満ちた神薙の力が、仲間の足どりを再び確かなものとする。プリンも翼を広げ、回復に努める。
電波塔へ向かう以上、ここで余計な傷を負わせるわけにはいかない。燎は自らを守っていたダイダロスベルトをほどき飛ばすと、黒武に回復と守りを託す。
敵の余力を見定めながら、灼滅者たちの攻撃は続く。敵は行動阻害、特にパラライズを受け、動きが鈍くなっている。
すると、タイマーが鳴った。燎がセットしていたものだ。
「あと三分!」
それを聞き、皆に緊張が走る。
そろそろ王手をかける頃合いか。九十九の強酸性の雨が、銅像を襲う。溶解した頭部が、泣き顔のように変わっていく。その様を見た九十九は、その、なんだ……許せ、とつぶやく。
みすぼらしさを増した銅像が、全身から噴き上げた気の奔流を、叩きつける。その先にいたのは徒だ。とっさに両腕をかざし直撃を免れると、気の流れに逆らいつつ離脱する。
●電波塔ビクトリーロード
そして攻防の末、運命のときが訪れる。
10分。
もはや出し惜しみする必要はない。皆が全力で攻撃を繰り出していく。
始めに最期を迎えたのは、人体模型だった。先ほどのリンフォースのお返しだと、明日等が氷結弾にて、人体模型を完膚なきまでに破砕した。
銅像の拳を受け止めた菜々乃が、それをつかんだまま、身を回した。炎に包まれた足が、銅像にありったけの衝撃を叩き込む。
吹き飛ぶ銅像を追って、徒が行く。エアシューズの加速、ハンマーのブースト、そして徒自身の身体能力を乗算させた一撃が、ついに銅像を金属塊に変えた。
残るは花子さんのみ。仲間との連携をも織り交ぜた天摩のトリッキーな機動を読み切る事は、最後までできなかったようだ。鮮やかな火炎蹴りが、花子さんを地面に沈める。
顔を上げた花子さんの鼻先に、砲口が突きつけられた。燎の十字架砲だ。反応した時には、反撃も回避もできず。視界を白く染める光が、花子さんを氷結させる。
その隙に、九十九が腕とバベルブレイカーとの融合を終えていた。大型砲の一撃が、花子さんを光の中に掻き消したのだった。
時同じくして、他のチームも、七不思議の駆逐に成功していた。
今なら道を遮るものは何もない。電波塔に肉薄する絶好の機会が訪れたのだ。
「その、なんだ……ここは任せて先に行け」
九十九が言った。
いやそれフラグでは……仲間から不安というかツッコミの声が上がるが、練度の高い仲間も迎撃に残る事だし、大丈夫だろう。
仲間たちにうなずき、電波塔を目指す黒武。一度地面を蹴ったなら、振り返ることなく、全力疾走。感謝は、戻って来た後でたっぷりすればいい。
自分も行けるか。一瞬仲間たちをかえりみた久良に、皆がうなずく。行け、と。
迎撃班の余力は十分だ。皆で打ち合わせた作戦もある。燎が時計を確かめているののもその一つ。七不思議が再構成までに要する時間が分かれば、これからの迎撃戦、対処もしやすかろう。
ソウルボードに集まった一般人の思い、そして、今ここに集う灼滅者たちの思い。その2つを起爆剤として、久良は一気に加速し、すぐに黒武と並走する。
2人を見送った明日等は、周囲を見回した。
「みんな無事ね。ならいけるわ」
電波塔の破壊と、再生七不思議の迎撃。ここからは、それぞれの戦いだ。
作者:七尾マサムネ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2018年3月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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