ソウルボードの異変～彼方に電波塔を見ゆ

■リプレイ

●彼方からの意思
「これでよし、と」
　坂崎・ミサ（食事大好きエクソシスト・d37217）は腕時計のアラームをセットして、作戦のタイミングがずれないようにあらかじめ策を立てておく。
　既に場所はソウルボード内――件の電波塔前。
「まさか、コルネリウスたちを飲み込んだソウルボードに電波塔が立っていたなんて……」
　琶咲・輝乃（紡ぎし絆を想い守護を誓う者・d24803）はそこに展開する都市伝説の数を見て感嘆の声をもらした。
「わらわらといるな」
　四、五十はいるだろうか。
　鈍・脇差（ある雨の日の暗殺者・d17382）が平然と言うので、輝乃はじと目になって彼を諫める。
「脇差、怪我だけはくれぐれも気を付けてね？　……った！」
　軽く額を弾かれて、輝乃は目を瞬いた。
「そんな心配そうな顔すんなって。大丈夫、成功するさ」
「うん……」
　脇差は目を閉じて、ここへと導いてくれた好意的な意思へと思いを馳せる。
「結ばれた絆。それらの想いに応えるのは俺達の責務だからな」
「ああ。頑張らんとな」
　迦具土・炎次郎（神の炎と歩む者・d24801）は頷き、己の得物を構える。傍らに控えた霊犬のミナカタが吠えた。
　相手取る都市伝説は３種。
　周囲でも次々と戦闘が始まる。襲い来るお化けたちの群れへと、ミナカタが飛び込んだのが戦闘開始の合図だ。
「迎撃の時間。冒涜の時間」
　ニアラ・ラヴクラフト（宇宙的恐怖・d35780）の低い囁きと共に周囲が不気味な煙に呑まれてゆく。その先に見える都市伝説のお化けへと、御伽・百々（人造百鬼夜行・d33264）は軽やかな身のこなしで踊りかかった。
　ザシュ、と執刀法によって切り裂かれたお化けが耳障りな悲鳴を上げる。
「まったく、興味深い現象だな」
「ああ。扇動とか色々ソウルボードから直にやってきそうだよな」
　赤い髪をなびかせ、淳・周（赤き暴風・d05550）は自らも炎の化身となりながらレーヴァテインによる一撃を放つ――！
「都市伝説でも、これだけ集まると厄介だね」
　影龍・死愚魔（ツギハギマインド・d25262）はぽつりと呟き、１体目のお化けをオーラキャノンの砲撃によって危なげなく仕留めた。
　その背にバトルオーラを纏いつつ、死愚魔は宣戦布告する。
「さて、せっかくの学園祭なんだ。歓迎してもらおうかな」

●混戦
「３ターン経過や」
　劇場のスクリーンに螺穿槍を突き込みながら、炎次郎はミサのアラームを聞いてすぐに割り込みヴォイスで告げた。
　残る１体のお化けを相変わらず引き受けつつ、ミナカタはミサのビハインドの援護射撃に合わせて六文銭を射出。その向こうで、戦場の奥にいたカフェの都市伝説が動きを変えたのが分かった。それまでは皿やフォークを投擲していたのだが、不意に速度を早めて体当たりを始める。
「させないよ」
　最前線で日本刀を振るう脇差目がけて突進するその巨体を、割り込んだ死愚魔が受け止めた。
「く……」
　靴の踵が地面を抉る。
　個々の強さはそれほどでもないとは言え、３種を同時に倒すために敵の攻撃は絶え間なくこちらへ降り注ぐ。
「大丈夫ですか！？」
　標識を振りかざして味方の援護に回っていたミサが、すぐさま死愚魔へとラビリンスアーマーを飛ばした。
「ありがとう、坂崎」
「はい！　作戦的にディフェンダーの方の負担が多いですから。無理はしないで下さいね」
　ミサは元気に微笑んで、再び標識の色を黄に変えた。
　映画のスクリーンからは陰鬱な場面を殊更に印象付ける音楽とともに大量のエフェクトが放出される。
「そうはさせません！」
「ええ。邪魔させてもらうわ」
　輝乃も同じく、イエローサインで前衛の援護を行った。
（「これ以上、好き勝手にはさせない」）
　まだこちらの対処が間に合ううちに、確実に潰す――！
　電波塔への道を塞ぐ都市伝説の群れを、灼滅者たちは確実に追い詰めていく。周囲は輝乃が事前に張り巡らせた蜃気楼とニアラの奏でる不定形なる楽器の歪な音色によって何重にも護られている。
「普遍的無意識領域の良質的な臭い。其処に漂う噂の電波。糞餓鬼の如く癇癪を起こす、至極騒々しい愚物に破壊在れ」
　それはまるで死神の宣告だ。
　敵を愚物と断じ、破壊を齎す混沌の化身――。
　その昏き眼差しが彼方に見ゆる電波塔に差し向けられる。唇が僅かに動き、何事かを呟いた。真理とは何か。あの先にはその答えがあるのではないか？　もし携帯電話が通じるのならニアラは尋ねただろう。
　それは『人間の普遍的かつ根源的な感情』ではないか、と。
「荒れ狂う我こそが恐怖『噂』で在る。貴様の既知的な根源の蔓延。即座に灼き崩すのみ」
　生み出される闇の弾丸がスクリーンに洞を空けた。
「お客様、乱暴はおよし下さいませ」
　機械的な台詞を言いながら、案内人が攻撃を仕掛ける。
「ったく、学園祭は学校ん中でやるからいいんだよ。こんなとこまで出てくんな！」
　舌打ちしながら、周は脇差と連携して一気にスクリーンの破壊を試みた。脇差の指先が導く灯籠の灯が、周の闇を導くかのように道を作る。
「今だ」
　脇差が目を閉じ、灯籠が燃え盛るタイミングを計った。
「くたばりやがれ！」
　スクリーンが炎に包まれる中、大きく振りかぶって、周は影業を全力解放。放たれる影縛りがスクリーンを束縛して、そのままグシャグシャに破壊する。

●彼方に聳え立つ塔
「さて、次はおぬしか」
　得物の日本刀を構え直して、百々は耳障りな声色でこちらを牽制する案内人と向き合った。鋭い動きで腕を振るうと、残影が迸り案内人の胸を切り裂く。
「ラジオウェーブの電波塔……七不思議使いとしては興味深いがな」
「ほんまに。この後の調査がうまくいくとええのやけど」
　炎次郎は金錫の一振りで生み出したオーラキャノンを案内人へと差し向けた。耐久力はそれほどないらしく、集中攻撃によって案内人はもうあと少しで倒せるというところまで体力を削られる。
「都市伝説を吸収することで再生の妨害ができるとよいのだが……」
　百々は独り言のように呟きながら、最後の都市伝説と向き合った。ラジオウェーブが都市伝説を生み出す仕組みによっては不可能ではないかもしれない、が――炎次郎が再び叫んだ。
「気を付けや！」
　――まるでロボットのように立ち上がったカフェの都市伝説が二度目の突撃を開始。
「こい」
　攻撃を受け止め、脇差は微かに呻いた。
「さすがに、効く……」
「大丈夫？　無理はしないで下がって」
　撃破のタイミングを合わせるため、いつもの戦闘とは違って敵の止めがまだ刺せない。飛び込んでくる案内人の攻撃から脇差を庇いながら、死愚魔は前衛全体にワイドガードを展開。カフェが食器を乱れ飛ばす攻撃の威力を軽減させる。
　その隙にカフェの背後へと回り込んだマオゥが尻尾を振って魔法陣を叩き込む。自らを回復しようとするカフェだが、蓄積したエフェクトが効いてきたようだ。
「つらそうだな。すぐ楽にしてくれる」
　そろそろ規定の１０ターンが迫る。
　百々が日本刀から持ち替えたロッドに魔力が迸る。
　小柄な体を生かして敵の死角に滑り込んだ百々は、フォースブレイクを思い切り叩き込んだ。ガシャン、とカフェの体を構成していた食器が割れる。
「あと少しだぞ」
「是」
　短く頷き、ニアラは再び辺りを黒炎の煙で満たした。
　彼の周囲を取り囲んだ蝋燭から立ち上る怪奇煙がカフェの突撃を受けて体勢を崩した仲間たちを立ち直らせてゆく。
「諸々の禍事罪穢を祓い給い清め給えと白す事を聞し召せと恐み恐み白す」
　炎次郎の祭霊光が煙に反射して煌めいた。
「所詮は電波が孕みし愚物の群。鏖と成る。我が尋ねたるは其の源。彼方に視ゆ歪塔のみで在る」
　既にニアラの双眸は電波塔を捉えていた。
　――その時、遂に最後のアラームが鳴る。
　既にミナカタは消滅し、今はミサのビハインドが囮を引き受けている。ニアラの胸底に沈殿する凝り固まった闇の想念が死をもたらす弾丸と成りて、一瞥すら向けないままに残しておいたお化けを貫いた。
「次！」
　ミサは仲間が心置きなく攻撃に専念できるよう、最後までジャッジメントレイで彼らを援護した。輝く光の守護の中、百々と脇差が同時に案内人の背後を取った。
「ゆくぞ」
「ああ」
　短いやり取りの後、二刀が一閃。
　十字に切り捨てられた案内人が灼滅されてゆく。
「お前の相手はこのワタシだ！」
　残りはカフェのみ。
　炎を纏って突っ込んだ周は、カフェの攻撃をかいくぐってレーヴァテインをその頭上から振り下ろした。炎が敵を包み込む。
「足りないか！？」
「なら、これでどうやろか」
　続けてもう一撃、炎次郎がレーヴァテインを纏わせた金錫で殴りかかる。カフェの体が大きく傾いだ。輝乃と死愚魔が跳躍して、止めを叩き込む。
　龍を思わせる鬼神変がカフェの頭部を薙ぎ飛ばし、残る胴体をスターゲイザーによる鋭い襲撃が両断する。二人が着地した背後でカフェは一瞬にして灼滅された。

「今や、行ってくれ」
　炎次郎は他の仲間と共に迎撃態勢を取りながら脇差と百々を促した。
　絶対にぶっ壊して来てくれ、と声を張り上げる。
「俺達はここで信じて待っとるから！　ええ結果を期待しとるで……さあ、行って来い！」
「――承知」
「任されたぞ」
　仲間達の援護を受けながら、脇差と百々は電波塔を目指して駆け出した。その背を輝乃は渋々と見送る。怪我をして帰ってきたら、許さないから――囁きは彼に届いただろうか。
「……あっちは任せようか。後は俺のできる事をするしかないかな」
「ソウルボードが重要な役割を果たしていると分かった今、あんな施設を建てておくことはできませんからね」
　再び電波塔の周辺に都市伝説の影が生み出されてゆくのを見て、死愚魔はミサと頷き合った。ニアラと周は既に武器を構え直し、迎撃態勢に入っている。
「此処からが我が恐怖の神髄。暗澹たる絶望を撒きし佳境と解く」
「型に合わせてエナジー整形してんのか何だか知らねーが、何度復活したってアタシらが存分に遊んでやるぜ！」
　――そして、遂にソウルボードにおける電波塔攻略決戦の幕が切って落とされた。

作者：麻人	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2018年3月6日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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