ソウルボードの異変～走る者達

■リプレイ

●出現
「ま、今回はタイミングが大事だからね」
　ちらりと時計に目を落とした鹿島・狭霧（漆黒の鋭刃・d01181）は視線を前方へと戻す。高さが４５ｍもあるソレを灼滅者達が見つけられない筈もなく。
「あの塔の形状……何処からどう見ても――」
　何か言いかけた神楽・三成（新世紀焼却者・d01741）はいえ何でもないですと頭を振る。
「シャドゥ達の大戦以来ね」
「相変わらず、殺風景だ」
　ソウルボード内の景色を眺め神虎・華夜（天覇絶葬・d06026）が口を開けば、聖刀・忍魔（雨が滴る黒き正義・d11863）もポツリと漏らし、ただと続けた。そびえ立つ電波塔と言う見過ごしようのない大きさの差異がそこにはあり。
（「ソウルボード内で『灼滅者に好意的な意思』が感じられたですか。民間活動を頑張ってくれたみなさんのおかげですね」）
　エクスブレインの説明を思い出し、私もこの依頼を頑張らないといけませんねと前を見る双海・忍（高校生ファイアブラッド・d19237）の視界でソウルボードが変わり始める。
「さて、それじゃ始めましょうか……いつも通り、援護の方よろしくね」
「Ja，」
　狭霧の視線と言葉に灯屋・フォルケ（Hound unnötige・d02085）は短く了解の意を伝えてHkG29E4L-SOPMOD3 "Schweiss hund"を構え。
「……迷惑な灰色宣伝は終わりにしてもらいましょう」
　ザッと足を前に踏み出せば都市伝説達も動き始めていた。
「ゴ・ウ・ヂョ・オォォォォォォッ！」
「神命、先ず殺さない程度に遊んであげなさい」
　駆け出す胸像を視界に収めたまま華夜は霊犬に声をかけ。
「僕、人体模型ッ！　速いよッ！」
「一先ず、お前達の相手だな」
　忍魔は前方の味方目掛け突っ込んでくる他の都市伝説達の内甲高い声を発した人体模型へ目をとめ、エアシューズを駆る。
「こう、ひょうきんというか個性的だな。シリアスな空気が持つか少しだけ心配になるのだ」
　ボソッと零しつつ微妙そうな表情で秋山・梨乃（理系女子・d33017）が変えた交通標識は青色標識。
「さ、安藤君。私達も行くぞ？」
　都市伝説に妙な変化でも起こさせると拙いと無言で居た安藤・ジェフ（夜なべ発明家・d30263）に声をかけた梨乃が標識を突き出せば、先端から光線がバラ撒かれ。
「そうですね。タンゴ、行きますか」
「にゃっ」
　炎を宿したクルセイドソードを手に地を蹴ったジェフの言葉に短く鳴いたウィングキャットが右前足を上げ給食配膳車へ襲いかかる。
「ミケ」
「みいっ」
　名を呼ばれた梨乃のウィングキャットが放つのは、猫魔法。
「coverします」
　死角から斬りつけた狭霧がＣｈｒｉｓ Ｒｅｅｖｅ “Ｓｈａｄｏｗ　ＭＫⅥ”の刃をジグザグに変形させ、再び都市伝説に肉迫しようとすれば、断りを入れたフォルケが作り出した漆黒の弾丸を用いて牽制射撃を行い。
「反撃が来る頃合いね」
　禁呪で燃え上がる敵を見据えたまま己の影を嗾けようとしていた華夜は一瞬だけ霊犬の荒火神命へ視線をやる。それだけで充分だった。

●優先すべきは
「内臓あたっくッ！」
「がうっ」
　人体模型が飛ばしてきたパージした内臓へ霊犬は自分からぶつかって行く様に忍魔の盾となり。
「いきなり範囲攻撃ですか。こちらの方が数が多いからかも知れませんね」
「しっかし、内臓が生モノでなくて良かったぜ」
　ローラーの摩擦で生じた焔を纏って忍が都市伝説へ蹴りを叩き込み終えて呟けば、狙いがそれ足下に転がった内臓の模型を横目に三成がボソッと零す。
「まぁ、精神的なダメージはそっちの方が来そうですが――」
　のんびり考察しているような時間はなかった。
「ゴ・ウ・ヂョ・オォォォォォォッ！」
「十時方向注意！」
　都市伝説は三体居るのだ。仲間への警告を発したフォルケの目に映るのは全力での疾駆の勢いを借りて突撃してくる胸像であり。
「み゛っ」
　こちらはウィングキャットのタンゴが割り込む形で盾になりはね飛ばされる。
「あと一体」
　まるでその声に応じたかの様に給食配膳車は載せていた容器の蓋を開け中から何かを射出する。
「なっ、食べ……もの？」
　ウインナー、フライドポテト、ちくわの磯部揚げ。細長い見た目の食べ物が弧を描いて灼滅者達へ降り注ぐが、これがただのおかずな筈がない。
「ヒャッハー！　美味そうな攻撃だぜー！　っ」
　白き炎を放出していた三成が恋の予感壱号で弾いて軌道を変えたウインナーは深々と突き立ち。
「まぁ、サイキック攻撃なのだからそうよね」
　おそらくこの範囲攻撃で敵の足を止めさせ、ぶちかましをかけるのが都市伝説達の戦い方なのだろう。
「範囲攻撃は厄介ですね」
　この場を突破する予定の味方の消耗を避けたい灼滅者側からすれば、満遍なく攻撃されるのはありがたくなく。
「だからってこの場でどうこう言ってもどうしようもねぇぜ！」
　灼滅者達が為すべきは、可能であれば目の前の敵をほぼ同時に仕留めること。そして、残る予定のモノならば、次の戦場へ赴く仲間を送り出すこと。
「ヒャッハー！　走り回る都市伝説とか言うなら、その脚切り落として動けなくしてやればいい的だよなぁ！？」
「ええッ？！　僕ゥ？！」
　人体模型が大げさなリアクションをとるが、胸像に足はないし、給食配膳車についてるのはキャスターなので自分を狙うと言われたと思っても無理もない。
「いっくぜー！」
　だが、実際に繰り出した恋の予感壱号の杭が刺さったのは、脚ではなく足下。
「良か」
　良かったハズレだと言いかけたと思われる人体模型は生じた衝撃波をまともに食らって吹っ飛び。
「ゴッ」
　余波は他の都市伝説達をも襲う。給食配膳車はそもそも声を発しない様だったので悲鳴すら漏らさなかったが、かわりに寸胴からカレーシチューがちょっと零れた。

●戦闘継続
「攻撃するたびに良い匂いが漂ってくるのが、何というか……」
　どことなく複雑そうな表情で梨乃は半ば凍り付いた給食配膳車を見ていた。戦いは続いている。
「退いて退いてッ！　走るのの邪魔だよッ！」
「勝手なことを」
　斬艦刀を盾にいつでも攻撃を受け止められる様な姿勢で忍魔が人体模型を睨み据え。
「ここはシャドゥのものでも、お前達のものでもない！！」
　片腕を半獣化させながら地を蹴り、前へ飛ぶ。
「いダッ？！」
　すれ違い態に引き裂かれた都市伝説が欠片を落としながらつんのめり。
「ゴ・ウ・ヂョ・オォォォォォォッ！」
「胸部が開いて機銃ってどこのアニメよ。神命」
「がうっ」
　若干呆れの含んだ主の声を聞いた霊犬は一声鳴いて忍魔の前に割り込んだ。
「華夜姉」
　謝意の視線に華夜は頷きだけで応えた。
（「地味に嫌な攻撃をしてきますね。範囲回復を用意してきたら良かったのですが」）
　蓄積する味方のダメージに眼鏡の奥の瞳を送り出すべき仲間へやったジェフはタンゴとウィングキャットの名を呼びつつ縛霊手の指先に集めた霊力を撃ち出す。
「二時方向注意！」
「また、ですか」
　フォルケの警告の直後に降り注ぐ給食のおかず。
「同じ攻撃を続けてくれるのはありがたいけどよぉ」
「足止め喰らってるとそれでも当たっちゃうのよね」
　幾ら攻撃が単調でも全てをかわすのは不可能。
「ダメージは蓄積してるはずなのだけれど……そろそろ反撃に転じようかしら」
　華夜が呟けば、影の一部が形を変えつつ揺らぎ。
「神命、存分に暴れなさい！！」
「がうっ」
　胸部の機銃を格納しようとしている胸像めがけて霊犬はくわえた斬魔刀 で斬りかかり。
「私も暴れさせてもらうわ」
　後を追う様に伸びた影の触手が同じ胸像に襲いかかる。
「ゴッ」
　逃れる様に身体を傾けようとするが、悲しくもそこは胸像か。身体は曲げられず除け損ねた胸像の首に触手は絡みつき。
「ヒャッハー！　そろそろその脚切り落としてやるぜー！」
　三成の影が鋭い刃となって走る人体模型へ殺到する。
「ぎゃああああッ」
　大げさな驚きのリアクションをしてから脱兎の如く駆け出す人体模型。
「ふぅ」
　死角から斬撃を見舞った狭霧は肉迫した勢いのまま前に飛び着地した姿勢で振り返ると、吐息を漏らす。
「１体に集中すると色々マズいコトになりそうだしとは思っていたけど」
「ダメージが分散すると効いてるかどうかが解りづらいですね」
　一応都市伝説達の傷は増えているし、消耗はしているのだろう。
「回復するまでもないと思ってるのかはわからないが、傷を癒していない以上、ダメージはちゃんと蓄積しているはず」
「そうね、このまま削るわよ」
「Ja，」
　仲間達のやりとりに了解の一言でだけ加わったフォルケがHkG29E4L-SOPMOD3 "Schweiss hund"の銃口を給食配膳車に向ける。
「タンゴ達はまだ耐えられると思いますが……」
　ダイダロスベルトで味方のサーヴァントを覆い、傷を癒したジェフは三体の都市伝説を順に見やる。
（「想定のタイミングで上手く撃破出来るかですね。順番に倒して行けたなら分かり易いし、反撃の手数も減るのですが」）
　望めない以上、当初の予定通りやるしかなく。
（「弱ったら弱ったで勢い余って倒さない様に、か」）
　忍魔が視線を投げた先に居るのは、あちこち欠けた人体模型。
（「おそらく――」）
　このまま戦闘が継続されれば最初に倒れるのが、その個体であり。
「二時方向注意！」
「いい加減に――」
　フォルケの警告を聞きながら駆け出した忍魔は姿勢を低くして降り注ぐおかずの雨をくぐり抜けるとローラの摩擦が生んだ焔を足に纏ったまま給食配膳車に向かって飛び、蹴りつけた。衝撃に傾く配膳車だが自重からか転倒には至らず元へと戻り。
「援護するぞ」
　大きく揺れる車体へ突き刺さったのは、梨乃が詠唱圧縮した魔法の矢。
「時間もそろそろの筈ですね」
　クルセイドソードへジェフが炎を宿したのは、まだ畳みかけるには消耗のたりない胸像が視界にあったため。
「ゴ・ヂョバッ」
「にゃっ」
　繰り出されたレーヴァテインに頭髪部分を幾らか削り取られた胸像都市伝説をタンゴが襲撃し。
「さて、そろそろおしまいにしましょうか」
「Ja，」
　都市伝説の消耗具合を見て決断した狭霧へフォルケが同意する。
「まだまだ走るよッ！」
　決着の時を灼滅者達が求める中、空気を読まない人体模型が甲高い声で喚いた。

●次の戦いへ
「ギャッ」
　人体模型の顔面が深く斬り裂かれ頭部の大きな欠片がこぼれて地を叩く。この時フォルケは高速で胸像都市伝説の死角に回り込んでいた。
「ゴ・ヂュ」
　身を守るモノごと斬り裂かれた胸像は欠片をまき散らしながら傷口から中にあった機械部分を所々ショートさせつつ晒す。
「トドメよ。やれるわね、神命？」
「がうっ」
　給食配膳車を見据えたまま華夜の放った問いに、霊犬は跳躍から放つ斬撃をもって応えた。
「ゴ・ゴ・ゴッ、ゴ……」
　傷口をなぞる様に斬魔刀で斬られた胸像はバチバチ火花を散らしながらガクガク震え、上段の構えから黒影刀で両断された配膳車は悲鳴すらあげることなく、切断面からずれ始め。
「ヒャッハー！　いただきだぜーっ！」
「ギャアアアッ！」
　刃と化したリア充オーラが人体模型の両足を斬り飛ばせば。
「上手くいって良かったです」
　胸像が爆発四散する中、ポツリと漏らした忍は崩壊しつつあった配膳車を焔を纏った足で蹴り倒した。
「……areaclear!」
「よし、そんじゃま、違法建築物の撤去に向かうとするわね。みんな、後のコトよろしく」
　纏めて都市伝説達の残骸が消滅し行くのを確認するフォルケを横目でちらりと見てから狭霧は仲間達に軽く手をあげて見せ。
「華夜姉、俺は征くよ」
「行ってらっしゃい、あの塔の破壊は任せたわ」
　忍魔も華夜と言葉を交わすとその場を後にする。灼滅者達は無事仲間を送り出すことに成功したのだ。そう、戦いはまだ続くのだとしても。

作者：聖山葵	重傷：鹿島・狭霧（漆黒の鋭刃・d01181）  死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2018年3月6日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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