マウスの複数形はマウシーズじゃなくて……

    作者:桂木京介

     人はタブーに惹かれるものである……多分。
     それはたとえば、花火工場で火遊びするなんていうリスキーなものだったりする。
     ここ、大阪府某市の郊外には、社長のどら息子が「根性試し」と称して本当にそれをやってしまって、工場大爆発! 炎上! 会社倒産! という聞くも無残見て滂沱の涙なコンボを演じた廃工場がある。もともと寂れかけていた地域だったこともあり、爆破炎上後この場所は見事、鶏ガラのようになってしまったメイン工場を中心とした廃工場ゾーンとして放置され、やがて人々の記憶からもゆっくりと抜け落ちていったのであった。
     ところが、捨てる神あれば拾う疫病神もあるという話なのか、工場跡に住み込んだ者たちがあった。家賃収入は期待できそうもない。なぜって彼らははぐれ眷属だから。それも、ポテチを食べ過ぎた人間ほどの大きさに巨大化し、鈍色に輝く一丁前の武装でうろつくネズミバルカンであったから。
     どことなく愛嬌のある声でチュウチュウと鳴く彼らであるが、この新たな『ナワバリ』に進入する者であればそれがネコだろうと人間だろうと容赦なく襲いかかる血の気の多い連中であることは覚えておきたい。
     
    「みんな集まったね! 秋だけど花火の話をするよ。といっても、かつての花火工場にはぐれ眷属が住み着いちゃったって事件なんだけどね」
     片手にペンをしっかり握って、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が挨拶をした。ラピスラズリのようなその青い瞳には、希望の光がぺかぺかに宿っている。
    「……舞台は、ここ」
     まりんは地図を広げ、ある一点にバッテンマークを入れた。それが廃工場の所在地だ。
    「敵は、ネズミバルカンって呼ばれる凶悪なネズミなんだよ」
     鴨が葱を背負ってくるのはありがたい話だが、ネズミがバルカンを背負ってくるのはありがたくなかろう。そのありがたくないやつが、しかも人間並の大きさがあるやつが、八匹の群れを形成しているという。
    「うん、要するにはぐれ眷属ネズミを退治してほしいってこと。マウスの複数形はマウシーズじゃなくって、『マイス』だったよね」
     ネズミバルカンの主たる攻撃方法はもちろんその両肩のバルカンだ。日本人的な『わびさび』の感覚を彼らに期待してはいけない。目玉はらんらん殺意でぎらぎら、彼らはこちらを見るなり警告もせず発砲してくるはずだ。
    「このマイスにはリーダーがいてね、リーダーはなぜか片眼に黒くて大きなアイパッチをしてるんだよ」
     この派手な特徴があるのでリーダーを特定するのは容易だろう。リーダーは群れを統率しており、甲高い声でたくみにこれを指揮する。その主な戦法は二つだ。集中砲火と、部隊を二つに分けての挟撃である。
     リーダーを仕留めればたちまちその統率は乱れると思われる。けれどボス狙いは敵も危惧するところのはずだ。いきなりリーダーを討つのは予想外に手こずる可能性もある。まずは大将首を狙うか。それとも、手下を順次屠ってリーダーを追いつめていくか。
     まりんは工場の状態についても語った。
    「中央には体育館ほどの大きな工場があるんだけど、これはズタズタで天井も吹き飛んでいるし壁も穴だらけ、視界は良好だけどそれは敵も同様と言えそうだね。それよりは多少小ぶりのサブ工場、それに、サブ工場程度の大きさの倉庫も併設されていて、その両方ともドアは破れているけど、それ以外は両方ともしっかりした造りが残っているよ」
     つまり、メイン工場、サブ工場、倉庫の三つがあるということだ。サブ工場も倉庫も、火薬の類はすべて倒産時に運び去れたそうだが、放置されたコンテナ等があるため身を隠すものには不自由しそうもない。
     色々と戦略が立てられそうだ。よく考えて、チームとしての行動方針を定めてほしい。
    「敵は凶悪だけど、団結して挑めば勝てない相手ではないはず。みんなの奮闘を期待しているよ!」
     そしてまりんは最後に、さりげなく一言加えたのだった。
    「かつての花火工場に巣くうネズミ……これがホントのネズミ花火……なんちゃって」
     一迅の秋風が、吹いた。


    参加者
    薫凪・燐音(涼影・d00343)
    黒鐘・蓮司(兇冥・d02213)
    織部・京(紡ぐ者・d02233)
    彩城・月白(雪月白花・d04512)
    七生・有貞(アキリ・d06554)
    惟住・多季(花環クロマティック・d07127)
    綾川・結衣(月夜に舞う一陣の風・d07281)
    高宮・綾乃(運命に翻弄されし者・d09030)

    ■リプレイ

    ●一
    「きれいさっぱりと吹き飛んじまってまぁ……」
     黒鐘・蓮司(兇冥・d02213)は廃工場を一瞥した。タブーに挑んだ結果がこれだよと言うほかない。よほど酷い爆発だったのだろう。メイン工場跡はまるで、肋骨だけ残して腐った鯨の死骸のような姿をしている。
     首の後ろに手をまわし、上着のフードを頭から被って所定の位置につく。
    「……まぁ、こんなトコでも一般人が来ないとは限らねーっすからね」
     これでもう誰も、蓮司の表情をうかがい知ることはできない。
     織部・京(紡ぐ者・d02233)は、彼と同じコンテナの影で息をひそめている。
    「わたし……そういえばネズミ花火は得意じゃなかったんですよね……」
     ふとそんなことを呟いたりもする。ネズミ花火にたとえれば、今はその導火線に火をともしたような状態だ。もうじき派手な立ち回りが始まるだろう。ただ本物の花火とちがって、この待ち伏せにおいては『導火線の長さ』がわからない。数分で始まるのか。数十分か。
     ここは敷地内のサブ工場だ。薄暗い上に錆臭く埃っぽいが、不平も言わず京たちは待ち伏せをしている。地の利を得るためには、じっと我慢の子とならねばなるまい。先行した三人が囮となって、敷地内のどこかに潜むネズミバルカンをここにおびき寄せるという作戦なのだ。
     サブ工場内に敵の姿がないのは確認済だ。囮班はサブ工場裏から捜査を始め、ネズミの注意を惹くべく声を上げつつメイン工場、そして倉庫へと向かう計画だった。

    ●二
     囮の一人、薫凪・燐音(涼影・d00343)に視点を移そう。三人は地続きのメイン工場跡にいる。
    「害虫駆除は徹底的に、ってね」
     燐音の容貌は十分美人の部類に入るというのに、彼女は女性的な服装が苦手らしく、運動部の男子みたいなパーカーを着ていた。そのパーカーだって水色だ。同じ中学生の惟住・多季(花環クロマティック・d07127)としては、なんだか勿体ないような気もしないではない。
     燐音は続けた。
    「ゴキブリ同様、放置して増えても堪ったもんじゃないし」
    「やあだ、怖いこと言わないでくださいよ」
     多季は首をすくめた。大ネズミがゾロゾロ大行進……想像すら恐ろしい光景である。
    「ああ、表現がストレートすぎたかな。ごめん、脅かすつもりじゃ……」
    「あ、いえ、騒いでネズミを誘い出すって話じゃないですか、だから少々大げさに言ってみただけですよ」
     二人の会話はここで中断された。
     少し前を歩いていた綾川・結衣(月夜に舞う一陣の風・d07281)が、ぎょっとしたように足を止めたからである。
    「お、来た来た……っていきなりかよ!?」
     天井も壁もほとんどなく、柱ばかりの吹きさらしになっているメイン工場、その中央に動くものを見つけたのだ。黒く巨大なサムシングだ。それが何であるかは考えるまでもない。
     チュン、と音がした。弾丸が飛んでくる音だった。結衣が予想していたより小さい音だ。
     さらにパラパラと数弾飛んでくるが、結衣の動体視力ならば見切れる速度だ。紙一重で避けてサブ工場の方を見る。走れば一分程度でサブ工場まで……。
    「えっ!?」
     結衣も、燐音も多季も息を飲んだ。
     そうせざるを得なかった。
     なぜって元来た道、すなわちサブ工場へ続く方角からも、わらわらと四匹、鈍く輝くウェポンを背負った巨大ネズミが出現し行く手を塞いだからである。泡を食い振り返ると、眼帯したボスを始めとする四匹が迫ってくる。前に四匹後ろにも四匹……囮で罠にかけるつもりが、自分たちこそ罠をかけられていたということだ!
     ようやく実戦に慣れてきた――そう考えていた結衣である。しかしそんな時期が一番危ないということを忘れていた。氷の張った湖上を歩いていたら、突然足元を踏み抜いたような気がした。
     そうだ確か……部隊を二つに分けての挟撃が、敵の主な戦法だとまりんは言っていた。

    ●三
     耳をつんざく音が轟いた。ホイッスルだ。
    「包囲されたり危地に陥ったときの合図だったよな……あれ」
     それまで力を温存するように目を閉じていた七生・有貞(アキリ・d06554)が、電撃に打たれたように両眼を見開いた。素早い。既に有貞は扉を蹴破りサブ工場から飛び出している。しかし有貞は冷静だ。恐慌に陥るでもなく焦燥の汗を流すでもなく淡々と、それでいて飛ぶような足の速さを見せていた。
    「あ、待って、下さい……!」
     高宮・綾乃(運命に翻弄されし者・d09030)も弾かれたように後を追った。もしホイッスルの準備がなかったら……と思うと綾乃はゾッとする。そのときは禁断の手段を採らざるを得なくなっていただろう。
     息を弾ませメイン工場跡までたどり着き、彩城・月白(雪月白花・d04512)は下唇をぐっと噛みしめた。酷い。あまりに酷い。バルカンが雨あられと降り注ぎ、囮の三人は身を隠すものもなく、一様に激しく血を流しているではないか。中でも結衣の状態が一番悪い。彼女は年上として責任を感じ、率先して仲間をかばおうとしたのだ。
    「お願い、ちからを貸して」
     悲痛な声を月白は上げていた。柔らかな羽音を立てナノナノの『ブラン』が飛ぶ。同時に月白は契約の指輪から、闇の力による癒しを結衣にもたらしていた。
     怒髪天を衝くとはまさにこのこと、あの大人しかった京が今は眼を怒らせ、下腹に響くような声とともにロケットハンマーを振り上げていた。
    「あたしの仲間痛めつけて無事でいられると思うな! 倍返しにしてやんよドブネズミ!」
     修羅の勢い。怒濤の一撃を振り下ろす。
     実はこちらの作戦も成功しているのだ。ネズミたちは、工場内への侵入者を『三人』きりと判断していた。つまり背後からの攻撃には完全に不意を打たれたのである。
    「殺ろう、けいちゃん!」
     京の一撃が唸り上げ、釣り鐘が落ちるような音たててネズミバルカンの頭に沈んだ。強烈すぎる当たりだ。たまらず叫ぶネズミの頭部に、
    「その場所、空けてもらう」
     ゴーグルを下ろしガトリングガンを構えた有貞が、間髪入れず弾丸を喰らわせた。空間を真っ黒に埋め尽くすほどの連射だ。このネズミは、真っ赤に熱したコンロを舞台にしたブレイクダンスのような動きを披露して地に沈んだ。直後に消滅を開始する。事切れたのだ。
     有貞の連射はこのネズミにとどまらず、こちら側にいる他の三匹にもまんべんなく浴びせられていた。
     有貞の腕はぞわわと粟立っていた。思っていた以上だ。ガトリング一斉掃射。この振動。硝煙の匂い。火花。すべてが――――たまらない!
     未体験の緊急事態だが綾乃は己を奮い立たせていた。
    「少し、怖いですけど……頑張ります、から……!」
     ここで行動が遅れれば、まだ挟撃状態にある三人の命が危うい。いまは攻撃を優先すべく、血も凍るフリージングデスを綾乃は解き放った。
    「すべてを……凍てつかせる力、お見せします……!」
     この魔法が奪うのは熱であり体温、一列のネズミ三頭は明け方のシベリア以上の寒さに凍え、うち二頭はそのまま冷凍ネズミへと変化する。
     フードをかなぐり捨てるようにして、銀色の髪が、躍った。
    「切り刻んでやりましょーかね」
     蓮司だ。兇冥『朔』の銘を持つ刀を片手で握りしめ、凍ったネズミの間を豹のごとく素早くすり抜けるや、燐音をかばうように立って白刃を水平に薙いだ。
     ヒッ、というような声を聞いたところからして、まさか自分が標的になるとは予期していなかったのだろう。アイパッチをしたネズミすなわちボスネズミは、蓮司の剣尖を受けて前脚から赤い血を流した。ネズミは言葉を理解しまいが、蓮司の物腰から察したかもしれない……彼の言葉の意味を。
    「アンタの相手は俺っすよ」
     蓮司はそう宣言したのである。
     頭が痛い――多季は両手を胸の前で組んでいた。弾丸がこれほど熱いものだとは知らなかった。肩や腰に受けた銃創が焼けつくような熱を発し、そのせいか頭が割れるようにガンガンする。けれど多季は逆境、すなわち、約一分間のバルカン一斉掃射を浴びても挫けることはなかった。逆境であっても、いや、逆境だからこそタフになるのが彼女だ。こんな状態でも希望は捨てなかった。蓮司と合流できた今であればなおさらだ。軽く息を吸い込むと、
    「うわあ、特撮みたいですね!? 髪の毛が焦げそう!」
     多季はきっぱりと明るく言った。本当に焦げた自分の髪の先に軽く触って腕を広げる。彼女の胸元にはシャドウの象徴たるマークが現出していた。同時に溢れだした闇は、多季を優しく包み生命力と活力を付与したのである。
     燐音も頬に血色を取り戻していた。バルカンを集中的に浴びることになったが、ディフェンダー二人が守ってくれたので彼女は比較的軽傷だ。
    「……さて、と」
     旧い歌を口ずさむように言い終えると、燐音はたちまち戦闘モードに復す。攻めあるのみだ。燐音の身に宿りし『カミ』は、激しく渦巻く風を生み出した。ただの風ではない。触れなば斬れん刃の風だ。その猛烈な勢いは、ボスを含む眼前の鼠たちを怯ませるには十分すぎるものであった。
     俄然、結衣も勢いを蘇らせていた。ブラウスはボロボロ、血の染みでワインをぶちまけたようになっているが、すでに月白がもたらした力により傷は塞がっている。
     さあ、眼にもの見せてやろう。気合十分、反撃開始!
    「はぁぁぁぁ!」
     両脚を揃えて結衣は飛んだ。その真下をバルカン弾が虚しく通過している。
     ぎらっと日本刀の腹が銀色の輝きを放った。これまでのお礼だ。上体を捻って背後の敵めがけ、結衣は両腕で握った剣を大上段から真っ直ぐ、ずんと音がするほど重く叩きつける。
     反動は両腕から両肩へ、そして脳を、揺らした。
     ざくっ。
     キャベツを包丁で両断したときに十倍するくらいの爽快な手応え。
     結衣の一撃は閃光のように、ネズミバルカンの頭を落としたのだ。
     着地と同時にとんぼ返り、きらきらした汗が宝石のように散った。結衣は宣言する。
    「日常を守る為にここであんた達を倒す! 覚悟しな!」
     怖れよはぐれ眷属ども。怖れよ。これより灼滅が始まる。

    ●四
     綾乃の眼鏡に何度も、敵味方の発砲や剣の反射が映り込んだ。まるで花火だ。ネズミ花火に灼滅者花火……勢いが強いのは後者である。
    「敵は、多いですけど……足手まといには、なりません……!」
     綾乃はただ、花火を見物するだけの存在にはなりたくなかった。仲間に劣らぬよう自分のすべてを投じた。情感ほとばしる舞踏でネズミを次々と撃ち、影縛りとフリージングデスで足止めをはかる。
    「綾乃さん、助かりました」
     多季が振り返り微笑した。彼女の眼前の敵は綾乃の影に動きを封じられた。その瞬間、タイミングよく多季はこれを紅蓮斬で両断したのだ。
    「あ、はい……どういたしまして……!」
     綾乃は照れたように返す。なんだろう。いい気持ちだ――チームの一員であると感じるのは。
     工場に残された焼け残りの柱は、燐音にとってはまるで橋。壁歩きの要領で彼女は、これを駆け登っては空中に身を投げ、バルカン弾の海を巧みに避ける。多少穴こそ空いたがそのパーカーの青は、雲一つなき空を思わせた。
    「だんだん、読めてきた」
     燐音は短く、はっきりと述べた。
    「マウシーズだかマイスだか知らないけど君たち……焦ってるのが判るよ。群がるだけでゴミ同然じゃん」
     燐音は言葉通り、ゴミを見る目で鼠を捕らえている。一匹に急迫し、電光石火の居合斬り。
     金属音と悲鳴。ネズミは背のバルカンごと両断されていた。
     牙を剥くようにして京が、足元よりドス黒い影を解き放つ。
    「どかーんとぶっ放せばいいんだろ?」
     両腕を拡げる魔影に怖れをなしたか、逃げ腰になったネズミだが、
    「逃がすかボケ! あたしの影はどこまでも追いかけるかんな!」
     京は許さない。許すはずがない。黒い影でネズミを飲み込む。ネズミは声一つ上げられずに消滅した。
     攻撃と攻撃の隙を塗りつぶすように弾丸の嵐が暴れる。
    「ネズミのくせにバルカン背負うとかわかってんな……けど」
     ネズミのバルカンなんてこれと比べれば豆粒、同じ銃(ガン)でも有貞のそれとネズミのあれでは、どだい出来がちがうというもの。
    「銃撃戦、やめられないよなあ。さあ、どんどん撃ってこいよ。倍返しはどうだ? 三倍がいいか?」
     有貞は我知らず言葉を重ねていた。アドレナリンがぎゅんぎゅんと、彼のこめかみを走っているのだ。クールな平常がついに決壊、口元にニヤリと笑みが浮かぶ。
     忙しく立ち回るのは人とネズミだけではない。ナノナノのブランもシャボン球を放って、バルカンの脅威を跳ね返さんと奮戦している。
    「ブラン、気をつけてね」
     手の届く距離にブランを眼でとらえつつ、月白は己が務めを果たす。ヒールだ。銃後にあって、彼女こそチームを支える重要なる生命源なのだ。
     月白の敗北は味方の窮地につながる。そう知っている結衣だからこそ、合流後は特に月白を護持するように動いた。
    「ほらほら、狙うならあたしにしろよ!」
     言いながらネズミの弾丸を誘うわけだが、もちろんそう簡単に射撃のマトになる彼女ではない。跳んだかと思いきや空中の、何もない場所を蹴って驚異の二段ジャンプ。翔んで攻撃を避け空から逆に、蜂のように鋭く反撃するのだ。
     気がつけば敵は、灼滅者たちに追いつめられる格好となっていた。自慢の一斉射撃なんて試すだけ無意味、得意の挟撃だってもうできない。なぜって敵は現在、アイパッチの一頭きりになっていたから。
     蓮司は合流以来、ずっとリーダーネズミの抑え役だった。その貢献度たるや筆舌に尽くしがたい。群れのリーダーたるアイパッチが思うように動けなかったことが、この展開、つまり灼滅者の逆転劇を招いたといっても過言ではなかろう。
    「それじゃ……覚悟してもらいましょーか」
     もう牽制に徹する必要はない。蓮司の剣は攪乱の動きから直線の動きへ。稲妻のような突きを繰り出したのだ。
     殺人鬼の技巧はネズミにも有効。敵は避けようとするも巧みに死角を奪い、蓮司の剣は深々、ネズミの腿に突き刺さる。
     身を捩って剣を抜いたネズミだが、これを京が襲った。
     有貞が狙い撃った。燐音が背後を塞ぐ。
     結衣の剣が追い打ちする。綾乃の影が縛ろうとする。
    「これで倒れちゃえっ」
     と月白だって攻撃に参加していた。
    「鬼さ……じゃないネズミさんこちら! 手のなる方へ!」 
     さらに多季が楽しそうに、ネズミの注意を惹いたところで、
    「……これで終いっすよ」
     再び蓮司の一颯が、それも、引き裂くような一颯が、ネズミの身を綺麗に両断したのである。上半身と下半身、泣き別れのティアーズリッパー!
     ネズミのアイパッチが飛んだ。
     その下にも、しっかり見開かれた目があった。
    「……何のために眼帯してたんだか」
     冷ややかな金属音が一音、短く立った。
    「あー、マジ疲れたっす……」
     それは蓮司が、『朔』を鞘に戻す音だった。

    作者:桂木京介 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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