寒さも吹き飛ぶぐらいの喧嘩勝負しようぜ!

    作者:芦原クロ

     奇妙な噂を聞き、石井・宗一(高校生七不思議使い・d33520)が調査した結果、都市伝説の存在を確認した。
     灼滅者を連れ、訪れたのは、まだ寒いとある山中の河原。
    『オイオイ……熊が出ても勝てるとか、威勢の良いこと言ってたから勝負持ち掛けたんだぜ? なのに、1度軽く殴ったぐらいで、なんだよそのへっぴり腰は!?』
    「ひ、ひいい! 怖い助けて!」
     怯えている一般男性の胸倉を掴み、地面に丸い線が引かれた場所から、追い出すように放り投げる男。
     投げられた一般人を宗一が上手く受け止め、その場から一般人を逃がしてやる。
    「河原で喧嘩を望んでいる番長風の都市伝説。アイツで間違いないぜ」

     男は、金髪の立て髪に、前を開けた短ランの中は派手な柄シャツといった、いかにもな不良姿だ。
     宗一の恰好に気づき、続いて灼滅者たちにも目を向け、男は両腕を前で組む。
    『骨の有りそうな奴等だな。どうだ、俺と喧嘩勝負しねーか? ルールは簡単だ、この狭い円の中で近距離で殴り合う。円から出たほうが負けだ。負けてもリトライ可能だ、根性の有るヤツは大歓迎だぜ!』
     男は誰が先に勝負を受けて立つか、楽しみというように待っている。
    「聞いての通りだ。喧嘩勝負か、手加減攻撃は侮辱になるかもな」


    参加者
    牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)
    石井・宗一(高校生七不思議使い・d33520)
    シャオ・フィルナート(女装は恥ずかしいが役に立つ・d36107)
    紫崎・宗田(孤高の獣・d38589)

    ■リプレイ


    「俺は影ながら応援団するですよ」
     シャオ・フィルナート(女装は恥ずかしいが役に立つ・d36107)は一歩後退し、勝負はしないというように首をふるふると小さく横に振る。
    「番長。喧嘩勝負にきたぜ」
     一般人の接近を防ぐ為、怪談を話してから都市伝説の番長に話し掛ける、石井・宗一(高校生七不思議使い・d33520)。
    「喧嘩勝負、なぁ……面白そうじゃねぇか。いいぜ、その勝負乗ってやるよ。覚悟しな」
     紫崎・宗田(孤高の獣・d38589)も喧嘩勝負する気、満々で笑みを浮かべる。
    「喧嘩は基本応援。戦闘ならともかく、殴り合いの喧嘩はそこまで得意じゃないですしね」
     サウンドシャッターを展開しながら牧原・みんと(象牙の塔の戒律眼鏡・d31313)が主張すると、番長は自分のうなじを擦る仕草をした。
    『まあ、仕方ねーな。女を殴るのは抵抗有るし。そこのマブい女子2人は、退屈かもしれねーが見学でもしといてくれや』
     女子2人。
     番長から見ると、シャオは完全に、女性に見えてしまったようだ。


    (「ついに番長風の都市伝説を発見か。以前はダークネスの番長と戦ったから、今回の都市伝説の戦いも楽しみだ」)
     宗一は密かに、闘志を燃やしている。
    「……俺、男の子だもん……」
     メンバーの人数を数え直し、自分が女性と間違われていることに気づいたシャオが、少し拗ねた口調で告げる。
    『男!? ジョーダンだろ!?』
     驚きまくる番長に、もう一度男だと主張する、シャオ。
     番長はシャオをじろじろと見て、なにかに気づいたように片手で頭を抱える。
    『ああ、良く見りゃ胸ねーな。こんなマブイのに男って、世の中どうなってんだ』
    「おーい、番長。どっちが勝つか勝負だ」
     悩み始めた番長に、宗一が声を掛け、円の中に入る。
    『一番手は、おまえか。よっしゃあ! 喧嘩勝負の始まりだぜ!』
     番長は喧嘩勝負が出来る喜びから、悩みを吹き飛ばした。
     宗一の素早いストレートパンチが、番長の顔にヒットする。
     反動で番長の上体は反り返るが、ぎりぎり円の中だ。
    『いいパンチ持ってるな! お返しだぜ!』
     番長は嬉々として、拳を振るう。
     宗一が両腕でガードし、痛みは無いものの、後方へ吹き飛ばされそうになる。
     更に番長の拳が繰り出され、宗一は踏みとどまれず、踵が僅かに円の外へ出てしまう。
    「中々、強いな」
     吹き飛ばす威力の強さを体感し、宗一が悔しげに呟く。
    『おい、俺はもう一度おまえと勝負してーから、休んだらもう一回来いよ』
     戻ってゆく宗一の背に向けて、番長が声を掛けた。
    「河原で殴り合い……俺知ってる。コブシでかたりあう、セーシュン、ですね」
     シャオが1人頷いてから、考え込む。
    「応援団するならどっちだろう……チアさん? 学ランにハチマキで旗振る方? それともやっぱりジャージで夕日に……あ、チガウ?」
    『チアって、やっぱりおまえ女じゃ……』
    「これでも男だゾ」
     シャオの呟きを拾った番長がまた疑い始めるが、バッサリと言い放つ、シャオ。
    『ぐあー、なんかワケ分かんなくなって来たぜ! あんたは女で良いんだよな!?』
     番長が頭を抱え、みんとに話し掛ける。
    「喧嘩したら眼鏡も割れそうですし、外したら見えませんし。……私は暴力は苦手ですので応援するだけですけども」
     みんとは頷いてから、自分の役割を主張。
    「技術もへったくれもないこの戦いは意地の勝負でもありますし、そこまで根性に自信ないですしね」
     冷静にサラリと呟く、みんと。
    「……気が向いたらサイキックなしの殴り合い、行ってもいいですよ」
     ビハインド、知識の鎧に無茶ぶりする、みんと。
     知識の鎧は素直に従い、円の中へ。
    『おい……これ人間か? 試しにワンパン入れてみるけどよ!』
    「ほらそこ右ガードが空いてますよ。……彼のパンチが炸裂。知識の鎧は呆気なく吹き飛ばされましたね」
     みんとは冷静に応援し、実況解説までしている。
    「力勝負っつーより根性比べっつった方が正しそうだが。……言っておくが、俺をそんじょそこらの不良どもと同じに見てたら痛い目見るぜ?」
     次は、宗田の番だ。
     宗田を見た番長は、フンッと鼻を鳴らす。
    『強そうに見えるから勝負持ち掛けてんだぜ! さあ来い! おまえの拳をぶつけてみろ!』
    「サイキックなんざあろうが無かろうが手加減しねぇ。最初から本気でいかせてもらう。それが、礼儀ってモンだろう?」
     円の中で、宗田が番長に拳を叩き込む。
     同時に、クロスカウンターで番長も宗田に拳を打ち込んでいた。
    「へっ、いい拳持ってんじゃねぇか」
    『おまえもな!』
     お互い、全身に力を入れて踏ん張り、円から出ないまま至近距離で殴り合いを続ける。
    「フレー、フレー、味方もバンチョーさんも、どっちもがんばれー」
    『次はおまえの番だからな! 待ってろよ!』
     応援するシャオに、番長は宗田から目を離さずに声を掛ける。
    「え、俺も戦うの……? 俺別に、戦うの好きじゃないんだけどなぁ……怪我させるのキライだし」
     シャオは自分を指差し、首をかしげる。
    (「そもそも……素手は得意じゃないのですよ。普段ナイフだし……」)
     口には出さず、胸の内だけに思考をとどめておく、シャオだった。


    「ただ力で捩じ伏せりゃいいってもんじゃねぇ、拳には魂が乗ってんだ。何のために戦う? テメェの信念はなんだ」
     拳を打ち込みながら宗田が問うと、番長の動きがピタリと止まった。
    『信念? 俺の、信念……』
     ぶつぶつと呟いている番長の攻撃が、いつ来ても良いようガードの姿勢を取りながら、宗田は言葉を続ける。
    「俺ァな、昔は反抗するためだけに拳を振り上げてた。世界に興味も無かった。人の顔色伺って媚び売って来る奴らも、社会の屑だなんだとレッテルを押し付けてくる先公共もくだらなくてな。だが今は違う」
     番長の攻撃が来ないと分かり、ガードを解く、宗田。
    「あいつと出会ってから……変わった。孤高の狼だのと噂されたが、俺がしてたのは理不尽な暴力だと気づかされた。これからは護る為に使うと……約束したからな」
     己の拳をじっと見つめながら、宗田は相手の姿を思い出す。
    (「あいつは非力でもチビでも、芯の強い奴だ。内に秘めた強さに惹かれちまった……放っておけなかったんだよ」)
    『俺の、護るべきもの……うおおおお!』
     物思いにふけっていた為、反応が僅かに遅れた宗田は、円の中から吹き飛ばされる。
     宙で一回転し、華麗に着地した宗田だが、勝負に負けた事に舌打ちした。
    『次だ! おまえ!』
    「断らないけど、ね。やるからには、手加減無しは……お互い様、だよ」
     シャオが身軽に円の中に入り、挑戦を受ける。
     番長の一撃を食らっても、シャオは表情を変えず、平然としていた。
     シャオとしては表情に出にくいのと、痛覚が鈍いだけだが、番長はそんなシャオを見て唸っている。
    『駄目だ! なんでこんなマブイ女顔の男が居んだよ!? やり難いぜ!』
     苦悩する番長が放つ、大ぶりの拳を、シャオは素早く避ける。
     まるで猫のようにしなやかな身のこなしで、番長の拳を次々とかわし続ける、シャオ。
     シャオは番長の動きを見極め、受け流せそうだと判断したものは器用に受け流し、力は強くないものの連打で番長を押してゆく。
    『く……! 俺にも護るモンが有るの、思い出したぜ! 野良猫だ! アイツが来てメシ食い終わるまで俺はここから離れるわけにはいかねーんだよ!』
    「……野良猫さん……?」
     猫に想い出が有るシャオは、思わず攻撃の手を止めてしまい、円の外へ投げ出されてしまった。
     一時的におとなしく身を引いたシャオだが、実は諦めが悪い性格ゆえに、再戦出来るタイミングを狙っている。
    「あんまり煽りすぎると、私自身もなんだか参加したくなっちゃうかもなので程々に」
     応援と実況を休み始める、みんと。
     番長は連戦にスタミナが減りだしたのか、ゼイゼイと肩で息をしていた。
     それでも灼滅者たちに視線を送り、宗一をビシッと指差す。
    『来いよ。おまえの本気、見せてみろや!』
    「今度こそ勝つぜ」
     宗一が意気揚々と円の中に入り、勝負が始まる。
     番長の拳をギリギリでかわし、隙を見いだした宗一は力を込めた拳を何発も叩き込む。
    『ぐ……! くそッ、俺の負けだ』
     とうとう円の中から叩き出された番長が、負けを認める。
    「この程度か?」
    『……ああ。おまえら強いぜ……』
     宗一の問いに、番長は立っているのもやっとな状態で、答える。
    『強いおまえらに1つ頼みが有る……自分は強いって誇張して、アイツ……野良猫を傷つけた奴らが居てな。何度かシメたんでもう来ないだろうが……もし野良猫が傷つけられてたら、俺の代わりに助けてやってくれ』
    「それは、番長の役目じゃないのか」
     黙って聞いていた宗一が、番長に問いを放つ。
     番長は首を横に振り、拳を開いて、透け始めた自分の手を見せた。
    『そこの強いヤンキーのお陰で、思い出したぜ。俺はもうこの世にいねー存在だ。アイツを捜してた時に、ドジって足踏み外して転落死。見ろよ、俺の体がどんどん透けてく。お迎えってヤツが近いんだろうな……楽にしてくれや。おまえらなら出来るんだろ、そんな気がする』
    「猫さん……好きだから、助ける……約束……」
     番長が頭を下げると、シャオが任せろとばかりに頷く。
    『女だと勘違いして悪かったな。アンタ、立派な漢だぜ……これ以上、湿っぽくなる前に楽にしてくれ』
     ちゃんとした男子だと証明が出来たシャオは、嬉しそうに少しだけ笑う。
    「回復は……いらなそう、かな?」
     シャオが仲間たちを確認し、仲間を狂戦士化させるのを目的に、ヴァンパイアの魔力を宿した霧を展開。
    「きっちり退治、しましょうか」
     知識の鎧に指示を出しつつ、クロスグレイブで乱暴な格闘術を繰り出す、みんと。
    「喧嘩勝負、楽しめたぜ」
     連携した宗一がナイフを構え、毒の風を巻き起こす。
    (「仲間との約束は死んでも守る。それが俺の信念だ。だからな……」)
     闘気を雷に変換し、握りしめた拳に宿す、宗田。
    「覚悟のある人間は諦め悪ィんだよ」
     宗田は素早く番長の懐へ飛び込み、アッパーカットを食らわせる。
     それがトドメとなり、都市伝説は完全に消滅した。


    「あいつのためにも、俺は強くならなきゃならねぇんだ」
     虚空を見つめながら決意を示す、宗田。
    「喧嘩の後は夕日に向かって走る展開とかに……ならないです……? テレビではそう言ってたのになぁ……?」
     シャオは不思議そうに、小首をかしげている。
    「春も近くなると、こういう都市伝説も出てきやすくなるのでしょうか。そういう話が好まれて噂になりやすい、的な意味で」
     噂について考え込む、みんと。
    「……猫、居ませんね?」
     後片づけをしながら、仲間たちに声を掛ける、宗一。
     不意に、ニャア、と猫の鳴き声がした。
     振り返った灼滅者たちは、時間を割いて探してみたが、猫は結局見つからなかった。
     これは不思議な、出会いと別れの季節の、お話。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年3月11日
    難度:普通
    参加:4人
    結果:成功!
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