温泉モッチアの野望

    作者:聖山葵

    「『全国の温泉に温泉餅を売る』にはただ闇雲に売り込みをすればいい訳ではない、買って欲しいというだけで全国制覇出来るなら今頃他のご当地怪人が世界征服を終えてる筈もっちぃからな」
     そこで私は考えたもちぃ、とそれは言った。
    「女の子。そう、可愛い女の子をモデルにしたパッケージの温泉餅ならば馬鹿売れ間違いなしもっちぃ、個人的な好みを付け加えるならおっぱ……げふげふ、そうもっちあ(名詞)が大きいと言うこと無しもちぃな」
     ぐっと拳を握って個人的な趣向まで付け加えたご当地怪人はならば早速モデル捜しに出かけるもちぃと歩き出す、物陰から皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)に見られていたなどとはつゆほども思わずに。

    「お話はわかりました」
     零桜奈の話を聞き終えた倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)は、確認する。
    「そのご当地怪人を何とかしたいのですね?」
     と。どことなく零桜奈がデジャヴを感じたのは、似たやりとりをしたことが以前にあったからか、ともあれ。
    「確かに放置してはご当地怪人によって無理矢理モデルにされてしまう方も出てくるかも知れませんし」
     自分の趣味を口走るような相手だ。まして相手はダークネス、モデルが終われば解放するという保証もない。だが、今ならば誰かが囮になってご当地怪人を引っかけることも可能だろう。あとは囮にノコノコ釣られて出てきたご当地怪人をどうにかしてしまえばいい。
    「……今なら、まだ遠くには行ってないと思うし」
     零桜奈が目撃した箱根にある温泉の一つの周辺に赴き、囮に周辺をうろついて貰えばいい訳だ。
    「……ただ、見たのはそれだけだから」
     ご当地怪人が戦闘になった場合どんな攻撃手段を行使するかは不明とのこと。まぁ、ご当地怪人なのだから、ご当地ヒーローのサイキックに相当する攻撃はしてくるかもしれない。
    「……判らないことも多いけど、放置は出来ないし」
     恋人の居る零桜奈としてはどこかで女性が被害に遭うかも知れないという状況は見過ごせないのだろう。
    「……みんな……よろしく」
     零桜奈は君達に頭を下げたのだった。


    参加者
    鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    湯乃郷・翠(お土産は温泉餅・d23818)
    ラウラ・クラリモンド(咲く薔薇散る薔薇・d26273)
    紅坂・衛(高校生ストリートファイター・d38423)
     

    ■リプレイ

    ●思うところあれど
    「元温泉モッチアとしてきっちり引導を渡してあげないとね」
    「翠はそんな気にするなよ、元の人間が違うんだし仕方ないぜ」
     目を据わらせながら湯乃郷・翠(お土産は温泉餅・d23818)はポツリと零し、傍らの紅坂・衛(高校生ストリートファイター・d38423)に励まされていた。無理もないのかも知れない。翠が闇もちぃしなりかけたダークネスと同じなのご当地怪人が胸の大きい方が好きだとかのたまったのだ。胸の大きさについて気にしている翠からすれば、いろんな意味で宣戦布告に等しかった。
    「翠さん、ドンマイです」
     事情を察すからか、鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)もフォローし。
    (「ですが、久々のモッチアですね。零桜奈くんも良く見つけましたね」)
     ちらりと恋人である皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)の横顔へと視線をやった。
    (「もっちあは……居なくなること……なさそう……。蒼香に……緋那も居るし……頑張らないとね……あ」)
     その零桜奈自身の視線が蒼香のモノとぶつかったのは、おそらくたまたまだろう。零桜奈の視界には倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)も入っていたのだし。
    「では、行ってきますね零桜奈くん?」
    「……うん」
     だが、いちゃつく理由としてはきっと充分であった。
    「倉槌さんはお久しぶりですね」
    「確か、個性を吐く都市伝説と戦った時以来でしたか?」
    「はい、ブラッディ倉槌さんの一件以来だと思います」
     一組のカップルが二人だけの空間を生成する中、ラウラ・クラリモンド(咲く薔薇散る薔薇・d26273)は緋那と挨拶を交わし。
    (「ご当地怪人のモッチアさん一族とは、初めての戦いですね。気を引き締めて戦わないと」)
     会話しつつも胸中で警戒するのは、初見であるからか、それともある意味で厄介な体質をもつ怪人を相手にするからか。
    「ありがとう。そうよね、あまり気にしちゃ駄目よね」
     好きな人に励まされたからか、制裁はするつもりでもどこか吹っ切れた元温泉モッチアが行ってくるわと歩き出す。
    「さて、俺達も移動するか」
    「そうですね」
     翠の背を暫く見送っていた衛が口を開けばラウラが頷き、囮以外の灼滅者達も動き出す。むしろ、ここからが本番であった。

    ●囮と誘き出される者
    「温泉餅はやっぱり美味しいわね♪」
     温泉餅のご当地ヒーローとして言葉に嘘はなかっただろう。許せないご当地怪人へ向けたマイナス感情を帯びたままでは温泉餅に失礼だと言うことなのか、至福の表情で口元へまた一つと温泉餅を運び。
    「そういえば衛くんにチョコを渡していましたがその後はどうですか?」
    「んぐっ?!」
     思い出した様に投げた蒼香の問いで餅を喉に詰まらせかけたのは、内容と不意をつかれたことを鑑みれば仕方なく。
    「こんな所に女の子がこれはさい先が良いもちぃな」
     標的はしごくあっさりと現れた。
    「しかし、どうしたもちぃか? そっちの子はそんなに咽せて」
    「な、何でもないわ。ちょっと誤飲しかけただけ」
    「それより、何か御用でしょうか?」
     そして空気を読まず怪人が投げた質問に答えが返る中、蒼香は話題を変えつつ問い。
    「そうもちぃな、実は――」
     温泉餅を売りたいのでパッケージのモデルになって欲しいと言う答えは、零桜奈が盗み聞いた目論見のまま。
    「あっちに友人がいますし一緒に行ってみませんか? モデルをしてくれるかもしれませんよ?」
    「友人? それは願っても居ないもちぃ」
     提案すればあっさり乗ってくるのは、渡りに船と見たのか、それともメロンのように大きな蒼香の胸が無言でモノを言ったのか。
    「既に充分すぎる程大きい子が居るというのに」
     名誉のために補足しておくと、もう一人の方も好きな人が出来てから急成長しGカップであり、単に112のOカップが隣にいるから相対的に注目されてないだけであり、きっと怪人にも他意は無いと思う。
    「ふ、これは期待出来るもちぃな」
     囮二人、いや内片方の胸中などつゆ知らずご当地怪人は期待に胸膨らませつつこちらですよと先導する蒼香に促されて歩き出し。
    「っ、もちゃっ?!」
     よそ見でもしていたのか、マンホールの凹みに足を取られつんのめり。
    「あ」
     密かに隠れてついてきていたラウラが気づいた時には遅かった。
    「「きゃああっ」」
    「もちゃあっ」
     重なる女性の悲鳴が二つと怪人の悲鳴が一つ、だいたいお察しである。ご当地怪人の体質は早速やらかしたのだった。
    「……何か、言いたいことはあるかしら?」
    「す、すまないもちぃ」
     ご当地怪人の中では無力な一般人が相手と思っていても、流石に謝らざるをえなかった。支えるモノを求めて伸ばした手は右が蒼香の豊かな胸を鷲掴みにし、左は先程から刺す様な視線を向けてきている翠のお尻を鷲掴みにしていたのだから。
    「こ、これはわもぢゃっ」
     弁解の途中で振り下ろしたのが丸めたパンフレットなのは、まだご当地怪人を誘導する途中だからであった。もちろん、誘導が成功した暁にはもう遠慮は無用な訳であり。
    (「もう少し、もう少しの辛抱だわ」)
     心の中で呪文の様に繰り返しながらも翠はもう少し距離を開けて誘導しようと決め。
    「悪かったもちぃ、謝るから機嫌を――」
     直して欲しいと平謝りしつつついてくるご当地怪人を連れて歩くこと暫し。
    「ん? ひょっとして友人というのはあの子達もちぃか?」
     足を止めたご当地怪人の視線の先に人影があり。密かについてきているラウラがESPを行使したからか、それとも元々温泉街の外れだからか、囮の二人からすると見知った人物の姿しかそこにはなく。
    「と言うか、他に人も居ないし聞くまでもなかったもちぃか」
     自己解決しつつ、ではと前置きした怪人は新たなモデル候補の元へと歩き出し。
    「来たようですね」
    「だな」
     ご当地怪人がやって来るのは、衛達からも見えていた。おびき出せた以上、やることは一つであり。
    「……緋那にはスナイパーをお願い」
    「わかりました」
     零桜奈の指示に緋那は後ろへ下がり、灼滅者達は戦いに備えた。知らぬはご当地怪人ばかりである。
    「突然失礼するもちぃ、私は――」
     何も知らず、ご当地怪人温泉モッチアは名乗ってから用件を切り出すも、色よい返事が貰えるはずもない。
    「な」
    「まずは女性で広告すれば売れるっていう概念がダメなんじゃないか? セクシーなら良いってもんじゃないだろ」
     それどころか衛にダメ出しされ。
    「く、うぐぐ……黙って聞いていれば好き勝手ッ! こうなれば実力行使もちぃ!」
     激昂してご当地怪人が飛びかかろうとすれば動いた者が三人居る。
    「もぢゃばっ」
     一人は、手にしたバベルブレイカーで温泉モッチアを後ろから突き刺した元温泉モッチア。
    「……させない」
    「させません」
     残る二人は味方を庇おうとした零桜奈とラウラだった。

    ●お約束
    「……ごめんなさい」
     とりあえず、零桜奈は脱がせた緋那の服を掴んだまま謝罪の言葉を口にした。
    「す、すまないもちぃ」
     予期せぬ攻撃にバランスを崩し、ラウラの身につけた漆黒のドレスの裾がめくる形で押し倒していた温泉モッチアもまた謝罪していた。
    「えっち……」
     黒色のローレグサイズのパンティーに黒色のガーターベルトに黒色のストッキング、綺麗に黒で統一した勝負下着群と肌を晒す羽目になったラウラは真っ赤な顔でボソッと零し。
    「や、違うもちぃ! これは何かの間違」
    「と言うと思いましたか!」
    「もぢゃべっ」
     慌てふためいた温泉モッチアは怒りの表情へと顔を変えたラウラに殴られ、悲鳴をあげた。サイキックでもないのでダメージは殆どないはずだが、それはそれ。
    「うう、しかし、さっきの一撃は……」
     ラウラの上から退きながら怪人が振り返ったのは、無理からぬこと、転倒に至った一撃は攻撃サイキックだったのだから。
    「紹介が遅れたけど元温泉モッチア、そして温泉餅のご当地ヒーローの湯乃郷・翠よ! 温泉餅の為にも覚悟しなさい!」
    「なっ、灼滅者?! しまった、罠だったもちぃか」
     慌てて回りを見回せば既に形成された包囲網。
    「……い、今退く、わっ」
    「きゃあ」
     そして、その一角で折り重なる男女。と言うか、慌てて起きあがろうとしてもう一回押し倒している様にも見える。
    「とりあえず、あそこにもツッコミにいかないと行けないようね」
     殲術道具を丸めたパンフレットに持ち替えた誰かが嘆息し。
    「確かにあのままにしておく訳にはいきませんね」
     押し倒している側の恋人としてもと言うことなのだろう、蒼香も零桜奈の元へと向かい。
    「む? ひょっとしてこれは包囲脱出のチャンスもべらっ?!」
     移動する囮二人に気をとられた怪人の身体にラウラの射出したダイダロスベルトが突き刺さった。
    「よそ見してるとは余裕だな。だが、遠慮はしないぜ!」
    「べも゛っ」
     更に衛が影を宿したクロスグレイブで殴りつけ、温泉モッチアは地への接吻を強要され。
    「零桜奈くん大丈夫ですか? 緋那さんも」
    「……ん、ごめんなさい」
    「ええ、転んだだけですし、それよりも――」
     今はご当地怪人をと緋那は手を貸して恋人を立たせた蒼香に頷きを返し、上半身を起こす。
    「……そう、だね。……怪人には……触らせない」
     決意と共に零桜奈も蒼炎の大盾を広げ蒼香と緋那を守る様に立ち塞がる。
    「……ツッコミのタイミングを逃したわ」
     一人、微妙な表情で立ちつくしていた翠は仕方ないから後にするとしてと続けると、怪人へ向き直る。
    「え? どういうこともちぃ?」
    「どうするも何も、ご当地ヒーローとご当地怪人だろ?」
     戦うのは当たり前だろうにと横合いから指摘されると、温泉モッチアも得心がいったのか、ポンッと手を打ち。
    「て、ちょっと待」
     遅れて今からどうなるのに気付き焦るが、もう遅かった。
    「問答無用! 温泉餅なら味で勝負なさい! セクシー路線でだしてどうするのよ!」
    「もぢゃぁぁぁっ」
     攻撃サイキックの乗ったツッコミに怪人は悲鳴をあげ。
    「そもそもむりやりモデルをやらせるのは関心しませんよ」
    「もびべっ」
     地に伏した怪人の身体は魔法光線の直撃を受けてはね飛ばされ、ゴロゴロ転がる。
    「う、も、もちぃ」
    「さてと、張り切らせてもらうぜ、男子なら好きな娘の前では良いカッコをしたいだろ」
     地に手をつきヨロヨロ身を起こそうとすれば、怪人の視界には拳を握り迫ってくる衛の姿があった。
    「気持ちはわからないでもないが、殴られる対象がわも゛べっ」
     言葉の途中で鍛え上げられた拳は温泉モッチアの顔面にめり込み。
    「これ以上変なことをされる前にこのまま倒してしまいますか」
    「そうね」
    「変なこと?! 違うもちぃ、私はもっちあ(名詞)の大きな女の子に商品のモデルになって貰いたかっただけで――」
     倒されると決まってしまうことよりも自分の行動を誤解されてることを捨て置けないと思ったのか、顔面の痛みも忘れて怪人は弁解しようとし。
    「そこまで胸に執着心があるのか? 叩きなおしてやるぜ」
    「え? あ? は、話せばわ」
     世の中、話し合っても解決しないこともある。温泉モッチアの言葉は拳によって強制的に断たれ。始まる容赦のない袋叩き。まぁ、囮にやらかしたことを鑑みれば仕方もないのだろう。
    「も、もぢぃ……はぁはぁはぁ、く、まだだ私は終わる訳にはいかないもちぃ」
     ズタボロになりつつも身を起こした怪人は両手を広げると地を蹴った。
    「せめて最期はもっちあ(名詞)の側でッ!」
     最初のラッキー何とかを事故だとするなら、それは明らかに故意。
    「……させな、い? わっ」
     零桜奈はとっさに恋人を守ろう蒼香の前に立ったが踏んづけた小石に足を滑らせバランスを崩して手をばたつかせ、かろうじて何かを掴む。それは蒼香の服だった。だが蒼香の服は零桜奈を支えきれず、下着ごとずるりと脱げ。
    「あ」
    「え」
     事態を理解する時間はなかった。
    「っぷ」
     零桜奈はそのまま恋人の胸に顔から突っ込み。
    「いや、待つもちぃ?! どうしたらそんな羨ましいことに」
     なるとまで温泉モッチアは続けることが出来なかった。
    「危ういところだったぜ」
    「な」
     自身の下から聞こえる男の声。蒼香が後衛だったためやむを得ず翠を狙ったご当地怪人は割り込んできた衛を押し倒していたのだ。
    「男、もちぃ?! そんな馬」
    「……旅立つ準備はできたかしら」
     狼狽する怪人が知覚した低い声は、絶対零度の視線を向ける翠のモノ。
    「わ、私の野望が。もっちあ(名詞)が、世界征ふ――」
     アクシデントから一組のカップルがいちゃつくのを他所に正当な怒りを伴った制裁によって許されざるダークネスは灼滅されたのだった。

    ●一仕事終えて
    「これで温泉餅も守られたわね、疲れたわ……」
     ご当地怪人が滅びるのを見届けた翠はポツリと呟いた。
    「翠達は怪我はないか?」
    「ええ、私は大丈夫よ」
     気遣い声をかけてくれた衛に応じるとそのまま仲間達を振り返り。
    「わたしも大丈夫です。無事に倒せましたしちょっと楽しんでいきましょうか♪」
     応えた蒼香は零桜奈の腕を引き寄せつつ、温泉街の方を示して提案する。
    「あ、確かに温泉に入ってから帰るのもいいですね。教団の皆さんにもお土産も買って帰らないと」
     後片づけを始めていたラウラもこれには賛成の様であり。
    「そういえば温泉街だったな。少し見てから帰るか、翠も一緒にどうだ?」
     衛に誘われた翠はそうねと頷き。
    「これぐらいの役得もないとね」
     差し出された手を取る。
    「これで一件落着ですね」
     ポツリと呟いた緋那は零桜奈を確保したまま温泉街へ歩き始める蒼香の方を見て呟く。先程のアクシデントで先を行くカップルに不和やわだかまりが残っては居ないか気にしている様にも見え。ストイックというか何処までも自分は後回しの様子であり。
    「あ、忘れていたわ」
    「え?」
     ふと聞こえた声に緋那が視線を動かすとそこにはパンフレットを丸め始めた元の方の温泉モッチアが居て。
    「ツッコミ、入れてくるわ」
     宣言をすると衛を伴ったまま翠は足を速めたのだった。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年3月12日
    難度:普通
    参加:5人
    結果:成功!
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