決戦巨大七不思議~巨人の行進

    作者:長野聖夜


    「我等がソウルボードの拠点を破壊されるとはラジオウェーブも凡庸よな。否、灼滅者達が非凡と言うことか。げに恐るべきは数の暴力か」
     とある都市にあるショッピングモール。
     凡そ5万人程が住まうその都市でも最も繁盛しているショッピングモールに現れた巨大な雄牛の様な顔をした全長7メートル程の巨人が溜息をつきつつ、口元に鱶の笑みを浮かべる。
    「無謀とは言え、此度の策、首尾良くゆけば人類と我等を阻むバベルの鎖を引き千切り、人類が真なる力に目覚めるであろうからな。まあ……気奴等が見過ごすとも思えぬが」
     巨人の姿にパニックになる人々に向けて、巨人は手に持つ斧を振り上げる。
     先端から生まれ落ちた人体模型を模した6体の都市伝説が人々をパニックに陥れるべく暴れ出した。
    「さあ、怖れよ、人間共。我が七不思議……動く人体模型に恐れ戦き、その恐怖を汝等の娯楽とするが良い! さあ、参らん灼滅者! 汝等の力我に知らしめよ!」
     哄笑と共に暴れ出す都市伝説達の姿に、人々は瞬く間に恐慌状態に陥った。


    「民間活動に関する投票の結果が出たよ。どうやらソウルボードを利用した民間活動になりそうだね」
    「ゆ~君は何となくそんな気がしていたんじゃないの?」
     集まった灼滅者達の前で事務的に告げる北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)に呼ばれて顔を出していた南条・愛華(お気楽ダンピール・dn0242)が首を傾げて問いかけると優希斗は何とも言えない微苦笑を零す。
    「まあ、俺の意志はさておき。実は今回の民間活動を行う前にラジオウェーブ配下のタタリガミ達が現れてしまったんだ」
     恐らく前回の失地を覆す為だろうね、と優希斗が小さく息を一つ。
    「方法自体は単純だ。多数の人口を抱える都市を7体の巨大な都市伝説に襲わせて、住民達に強制的に都市伝説を認識させる、ということらしい」
    「結構、強引なんだね」
     愛華の呟きに優希斗が軽く頷きを一つ。
    「ソウルボード内の拠点を潰されたから焦っているのかも知れないし、何か他に目的があるのかも知れない。いずれにせよ彼等によって人々に恐怖が与えられるのは前回判明したソウルボードの状態から見ても少々望ましくない。……彼等の目的はソウルボードに多数の一般人に影響を与えて拠点を作る事だろうからね。……もしかしたらそれを参考にすれば皆がソウルボードに働きかける際の手段のヒントになるかも知れないけれど」
     複雑な表情でそう告げる優希斗に愛華が軽く頷いた。
    「とにかく、都市伝説を放っておけないから何とかして欲しいって事だよね、ゆ~君?」
    「ああ、そうだな。……皆、どうか頼めるかい?」
     優希斗の問いかけに灼滅者達がそれぞれの表情で返事を返した。


    「今回の作戦だが、6体の人体模型の都市伝説と、それから1体の斧を持ち、巨大な雄牛の頭部を持つタタリガミと戦ってもらうことになる。どちらも、7メートル程に巨大化しているんだ。ただ……」
    「ただ?」
     優希斗の濁す様な呟きに、首を傾げる愛華。
    「……ただ、彼等は積極的に一般人を殺すつもりは無いんだ。あくまでも恐怖を植え付けるのが彼等の最大の目的になる。要するに……恐怖による一般人の支配を望んでいる、と言う事になるんだろうね……それが真実かどうかは定かじゃないけれど」
    「……」
     優希斗の溜息交じりの呟きに愛華が黙って続きを促す。
    「勿論、と言って良いのかどうか分からないが、彼等は建造物の破壊などによる恐怖は人々に与えてくる。よく漫画とか小説で異世界からの理性を持った侵略者が人々を脅す為に攻撃を開始して、でも人々に死者を出さない様に配慮するものがあるけれど……それに近いかも知れないね。最も、今回の敵の場合、数が数だからどんなに敵が殺さない様に配慮をしても、死者は出てしまうんだが」
    「そう……なんだ……」
     溜息交じりに告げる優希斗に相槌を打ち、静かに続きを促す愛華。
    「基本的にはタタリガミを灼滅しさえすれば都市伝説は消滅する。ただ、都市伝説を灼滅することを民間活動とするのも一つの手段、だろうね。因みに都市伝説自体は1体に対して3人ほどで挑めば灼滅出来るだろう。タタリガミは皆で挑まないと危険だが」
    「じゃあ、私達の役割は?」
     愛華の問いかけに一つ頷く優希斗。
    「愛華には、一般人の避難誘導及び広報活動に専念して貰う。タタリガミ達の相手はあくまでも戦闘部隊の皆の役割になる。都市の規模も規模だから、タタリガミ達を相手取る余裕はないだろう」
    「分かったよ、ゆ~君!」
     優希斗の指示に愛華は首を縦にふった。
    「ラジオウェーブは明らかに他のダークネス組織と違う形で動いている。其れが何なのかが分からなければ、ラジオウェーブを止めることは出来ないだろう。かと言って、今目前に迫っている脅威を疎かにするのは本末転倒だ。皆、どうかよろしく頼む」
     優希斗の言葉に灼滅者達はそれぞれの表情でその場を後にした。


    参加者
    レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    槌屋・透流(ミョルニール・d06177)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)
    有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)
    氷上・天音(拳が打ち砕くのは悲しみの氷壁・d37381)

    ■リプレイ


    「牛男の監視だね。了解だよ、有城くん」
    「よろしくおねがいします。神凰先輩」
     神鳳・勇弥に有城・雄哉(蒼穹の守護者・d31751)が無線越しに返しショッピングモールを見つめる。
    (「復讐者に、ヒーローって言葉はふさわしくない。一般人を守るって決めたから、そうするだけだ。……避難誘導頼んだよ、愛莉ちゃんたち」)
    「愛莉も来ていたんだな。……美雪と一緒に」
     南条・愛華(お気楽ダンピール・dn0242)達と避難活動の手伝いを始めた鈍・脇差との通信を終えた文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)の問いに雄哉が頷く。
    「はい。一般人の避難の為にですけれど」
    「……あの子を助けられて本当に良かったっす」
     獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)がOath of Thornsを見ながら目を細めた。
    (「海将ルナ・リード、戦神アポリア……もう、あの時の様な思いは御免です」)
     天摩の履く靴の名に籠められた意味を悟り、高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が思いつめた表情に。
    「大体他の都市伝説達の位置が分かったぜ。俺達はビジネス街から行くぜ」
    「了解した師匠。ならば私達は駅の方に向かおう」
     双眼鏡を覗いていた柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)の言葉に槌屋・透流(ミョルニール・d06177)が頷く。
    「そっちは任せたぜ、透流」
    「師匠もな」
     そうして二手に分かれ行動を開始する直前。
    「レイ先輩」
    「氷上?」
     胸元のガーネットのブローチに触れて瞑目していた氷上・天音(拳が打ち砕くのは悲しみの氷壁・d37381)がレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)に妃那を気遣わし気に見つつ話しかけた。
    「妃那さんの事、お願いします。彼女……色々と思いつめていて」
    「分かった。気を付けておこう」
     天音の心配にレイが頷き高明達と共にその場を後にした。


     ――ショッピングモール。
    「行くわよ、美雪さん、朱里さん!」
    「うん。分かったよ、愛莉さん」
    「それじゃあ、私は守衛室に急ぐね!」
     松原・愛莉の指示に【ホワイトキー】の藤崎・美雪と市川・朱里が行動開始。
     愛莉からショッピングモールの地図を受け取った美雪が突然現れた牛男達にパニックになる人々へと割り込みヴォイス。
    「皆、こっちだ!」
     美雪の呼びかけに驚く人々へと勇弥がラブフェロモン。
    「あのデカブツ達は、俺達の仲間が鎮めに走っています。皆さんは、避難場所の公園へ!」
     勇弥の声と同様に朱里が向かった放送室からも避難のアナウンスがされていた。
     牛男の斧がショッピングモールの店の屋根を砕き瓦礫とせしむ。
    「うわあっ!」
    「きゃああっ!」
     脇差が人々を瓦礫から守り、それでも巻き込まれた人々は怪力無双を使って救出する。
    「南条、頼むぜ!」
    「勇弥さん、今一番安全な場所は?!」
     携帯で勇弥から回答を得た愛華が脇差と共に其方へと人々を誘導。
     そうして朱里達がショッピングモールの人々を避難させる間、愛莉はモールの近くで輪っかを投げて暴れる人体模型の足元の瓦礫を除去しながら人々を避難させていた。
    「なのちゃん、傷ついた人はお願いね!」
    「なの!」
     なのちゃんが負傷者を癒すのを見ながら愛莉が叫ぶ。
    「あり得ない話だけど、これは現実よ。あの様な輩……ダークネスが、今、皆さんを苦しめようとしているの!」
     不安げな表情を浮かべる人々に愛莉が微笑む。
    「でも、私達の仲間がやっつけに来てくれるわ。大丈夫、希望を持って!」
     勇弥達の説得や朱里達の活躍により一定の秩序を保ち人々は避難できていた。


    「しっかし、ソウルボードの次は現実世界でとは。タタリガミの連中も追い込まれているって事かねぇ」
    「今までとは違ってラジオウェーブの動きが速いのは確かですね。ある意味ではチャンスかもしれませんが」
     高明の呟きに兎のぬいぐるみを握り締めた妃那が返す。
    「多くの人々の心に植え付けられた恐怖心。もしこれを放置したら新たな都市伝説を生んでしまう。そんな気がするな」
    (「でも、それで新たな恐怖を呼ぶならば、広がるのは負の連鎖、だな」)
     それは何としてでも避けたい事態だなと思いつつ呟く咲哉。
    「しかし、これではまるで怪獣大決戦の様だな……。怪獣じゃなく、人体模型だが」
     目前の人体模型を見つめてレイが呟き帯を射出。
     帯が槌を締め上げ、高明が黒鋼の剣Stiefbruderを死角から振り上げその足を斬り裂く。
    「へっ、雑魚に用はないってね!」
     突然現れた巨大な人体模型に臆さぬ高明の雄姿は人々を勇気付けた。
     敵の槌の振り下ろしから咲哉をガゼルが庇いつつ機銃を掃射、胸を射抜く。
    「今の内に安全な所へ逃げてください!」
     妃那が避難を促しつつ天使の歌声でガゼルを癒しガゼルの影から飛び出した最終決戦モードの咲哉が【十六夜】に漆黒の波動を纏わせ無数の突きで敵を滅多刺しに。
     槌を叩きつけ地震を起こす槌使い。
     咲哉を高明が庇いつつ不敵な笑みを浮かべ、ガゼルが地割れで飛散した破片から人々を守る。
    「へっ、そんなトロイ攻撃で俺達を倒せると思うなよ……レイ!」
    「分かっている」
     高明の合図にレイが自らの影を解き放ってその腕を締め上げ。
    「文月」
    「ああ!」
     レイの影に絡め取られ振り上げるタイミングが遅れたその腕に咲哉が乗りそのまま一気に駆け上がってジャンプ。
     敵の胸板を眼前にする高さに至り【十六夜】を突き立てた。
     重力に引かれて地面へと落下する咲哉と【十六夜】が胸から下半身に掛けてを残虐に斬り裂く。
    「皆、頼むぜ!」
     敵の体を蹴り華麗に降り立つ咲哉に応え妃那が兎と蛇の影を呼び出し兎に体当たりを食らわせると同時に蛇の影を食らいつかせた。
     ガゼルが体当たりを放ち高明が武骨な黒い銃砲『証明の楔』の引鉄を引く。
    「証を突き立てよ。己を繋ぎ、闇を打ち砕け、ってね!」
     聖歌を奏でながら放たれた光弾がその胸を撃ち抜き飛翔したレイが雲耀剣。
     高明に撃ち抜かれよろけていた敵の頭部を斬り裂いて灼滅。
    「4人がかりであればこの程度ということか」
    「みたいだな」
     地面に着地しながら妃那を見やるレイに高明が頷き咲哉が脇差に連絡を取る。
    「ビジネス街の都市伝説は灼滅したぜ、脇差。こっちの避難も頼む」
    「ああ、了解だ。と、そこからだと一番近いのは鉈使いだ」
    「牛男の方は今の所、ショッピングモールに被害を与えているだけよ。特に合流する気配も無いわ」
     続いた美雪の報告に咲哉は頷き妃那達を促し次の現場へと向かった。


    「的が大きければ当てやすい……ぶち抜く」
     天摩の残像を残す程の疾さの鋭い蹴りが敵の大剣を砕き透流が契約の指輪を翳す。
     放たれた制約の弾丸が止めを刺した。
    「これで終わりみたいだね」
     ビジューやスタッズが煌めくアイドル風衣装を纏った天音が瓦礫と大剣の一撃から仲間を守った雄哉へジャッジメントレイ。
    「ありがとうございます、氷上さん」
     一般人達を逃げやすくした雄哉が無線で愛莉達に連絡を取る。
     透流達の采配により、一般人への被害は最小限に留まっていた。
    「愛莉ちゃん、そっちは?」
    「愛華さんや脇差くん達の助けもあって今の所死者は出ていないわ」
    「牛男の動きも変わらずね」
    「有城くん達の所から一番近いのは銃使いが暴れている住宅街みたいだ。よろしく頼むよ」
     愛莉、美雪、勇弥に礼を述べ天音達は次の戦場、住宅街へ。
    「有城。大分、落ち着いたみたいだな」
    「槌屋先輩……ええ、そうですね。僕も漸く最近、大切な人を守りたい、そしてその人達と一緒に生きて共に未来を歩みたい……そう、思える様になりましたから」
     走りながら柔和な笑みを浮かべた雄哉に透流は内心で安堵の息を一つ。
    「スサノオ体内戦の時は話が出来なかったが……今のお前は安心できるな」
    「そうっすね。オレも今の有城君は前よりもずっと男前だと思うっす」
     透流に同意して笑う天摩に雄哉が微苦笑を零す間に次の敵に接敵。
    「もうちょい奥ゆかしい都市伝説のが好みなんすけどね!」
     軽口を叩きながら天摩が両端の穂を発光させつつ螺旋状の軌跡を描いた突きを放つ。
     その一撃で胸を貫き体を蹴り飛ばして離脱。
     逃さぬとばかりに銃使いが天摩へと光線を撃ち出そうとするがそれよりも先に天音が流星の如き線を描いた鋭い蹴りを放っている。
     天音に動きを狂わせられつつも尚天摩を撃ち抜こうとするが、雄哉が蒼穹の結界を展開彼を守った。
    「お前達の起こす事態を、見逃すわけにはいかない」
     自らの闘争心を雷へと変えて一撃。
     放たれたそれが銃使いをぶち抜き透流がジグザグスラッシュで追撃。
    「ぶっ壊す」
     透流の放った刃は天音の蹴りによる痣を大幅に拡大。
     苦しむ人体模型が円盤状の光線を発射。
     光線から天摩を庇うべく雄哉が前に立ち、透流がラビリンスアーマーでその傷を塞ぐ。
    「有城君、背中は任せたっすよ! 天音っち!」
    「分かったよ!」
     天摩が雄哉の影から側転で飛び出しマテリアルショットガンロッドを逆手に構えて敵の胸を強打。
     吹き飛ばされた銃使いの隙を見逃さず、アイドル風の衣装を翻しながら天音がアイスブルーの光線を撃ち出し片足を射抜いた。
    「電波塔を折られたから今度はリアルに直接介入?! だったらその企み事あたし達がへし折るだけだよ!」
     天音に撃ち抜かれ敵が膝をついた直後。
    「ぶっ壊す」
     透流がティアーズリッパ―を放ち雄哉が拳を鋼鉄化させて正拳突き。
     更に天摩が近くの壁を駆けあがりOath of Thornsで死角から鋭い蹴りを放ち銃使いを消滅させる。
    「大分、片付いてきたみたいっすね」
    「ええ。ですがそろそろ合流した方が良さそうです、獅子凰先輩」
     天摩の呟きに雄哉が告げる。
     治せるだけの傷は癒したが、それでも所々に傷痕が残る。
    「大丈夫か、有城」
     透流の気遣いに頷き雄哉が咲哉に連絡を入れると、咲哉から高明の負傷の度合いも同じ位であると告げられ合流を即決するのだった。


    「従業員の避難も終わったよ!」
    「後は皆に任せたよ!」
    「はい。分かりました」
     ショッピングモールで殿を務めていた朱里と愛華に礼を述べ牛男に向かう妃那達。
     やって来た高明達を牛男が一瞥。
    「我が七不思議達を倒してここまで来たか。流石は灼滅者、と言う事か」
    「……貴様らを、狩りに来た。随分大騒ぎして、覚悟は出来ているんだろうな」
     押し殺す様な声音で告げる透流に、牛男は巨大な斧を肩に担ぎ豪快に笑う。
    「我等が目的にとって障害にならん事を欲するか。ラジオウェーブが凡庸かと思うていたが、やはりげに恐るべきは汝等の力と言う訳か」
    「へっ、言いやがるぜ。まさかお前さん、俺達に勝てると思ってねぇよな?」
     余裕の笑みを浮かべ血の混じった唾を牛男に吐く高明。
     ガゼルがフルスロットルで自己回復。
    「良かろう。汝等の力、どれ程の物かしかとこの目で見極めてくれる!」
     巨大な斧を地面に叩きつけ地割れを起こす牛男。
     咲哉を雄哉が、ガゼルが天摩を庇って負傷した瞬間、妃那が清らかな歌を歌う。
     澄んだ声音の歌が彼等の傷を癒し更にガゼルの影から飛び出した天摩の螺穿槍がその身を貫き咲哉が死角から【十六夜】でその巨躯の足を斬り裂いた。
    「レイ! 天音!」
     咲哉に応じる様にレイが帯を解き放ちその身を締め上げ、天音がアイドル風の衣装を流星の様に煌めかせて蹴りを放つ。
     粒子の様に舞い散る蒼い闘気を見つめながら、雄哉がClear blue-sky Shieldから絆を表す蒼穹の球体を生み出し牛男へ。
    「お前の相手は僕だ」
    「お前さん如きじゃ俺達は止められねえんだよ!」
     高明が自らの守りをラビリンスアーマーで固める間に透流が制約の弾丸。
    「ぶち抜く」
     撃ち出されたそれが重ねられた足止めにより動きを鈍らせていた牛男の身を抉った。
    「なるほど……これが其方らの実力と言う訳か。誠に数とは恐ろしいものよ」
     自らの周囲のオーラを収束し足の傷を塞ぐ牛男。
    (「確実に回復をしてくるか」)
     レイが内心で思いながら接近し雲耀剣。
     袈裟懸けの一撃が牛男の斧を軋ませる。
    「文月センパイ!」
    「ああ!」
     レイのアイコンタクトを受けた天摩がストールの様に纏っていた漆黒の布に古代文字を浮かび上がらせ牛男を締め上げその布を駆けあがって高みに至った咲哉が【十六夜】でその胸を薙ぎ払う。
     漆黒の靄を巻き散らす牛男へ透流が崩れたコンクリートを駆けあがり宙返りをしながらジグザグスラッシュ。
     咲哉によって受けた傷を更に深く広げ落下するのに身を任せながら、ちらりと高明へと視線を送る。
    「師匠、頼むぞ」
    「任せておけって!」
     余裕の笑みを浮かべた高明が黒鋼の剣Stiefbruderで牛男の足を斬り裂き、ガゼルが機銃を掃射して牛男を牽制。
     その間に雄哉はシールドリングで自らの蒼穹の結界を強化し、妃那が天使の歌声で高明の傷を癒す。
    (「もう、誰も犠牲は……闇堕ちは出させませんから……!」)
     悲壮な表情の妃那をちらりと見ながら天音がアイスブルーの闘気を撃ち出した。
    「ふむ、我が七不思議達と戦いながらも尚、これだけの余力を残すか。その力は称賛に値する」
     牛男が妃那へ怨恨系の怪談を語る。
    「汝を恨む者、汝の前で死した者、消えし者達の怨念を受けよ」
    「……!」
     息を呑む妃那を守る雄哉。
     射抜く様な眼差しで牛男を見ている。
    「さっきも言ったけれど。お前の相手は、僕だ」
    「……やはり汝等は我を愉しませてくれるか」
     そう牛男は笑った。


     ――数分。
     牛男の重い一撃を妃那の回復でいなしつつ牛男にダメージを重ねる天音達。
     負傷が蓄積し鬼の様な形相と化した牛男が雄哉へと斧を振り下ろす。
     既に幾度もの庇いを実行し傷だらけのガゼルが雄哉を庇い機銃で応戦しつつ消滅。
    「へっ、どうしたよ? この程度で俺達を倒そうなんて、百年早いぜ?」
     ガゼルを内心で労わりつつ高明が証明の楔の照準を定めて引鉄を引く。
     黙示録砲が牛男の身を凍てつかせると同時に阿吽の呼吸で透流がジグザグスラッシュ。
     抉られた部分から氷を氷柱と化させ、体内から牛男を貫いた。
    「そこか」
     レイの影が牛男を締め上げたその隙を見逃さず、天摩が逆手に握ったマテリアルショットガンロッドのグリップで殴りつけ。
    「これでどうっすか?!」
     腹部で起きた大爆発に傾いだ牛男に咲哉が漆黒の闘気を【十六夜】に乗せて無数の突きを放ち更なる深手を負わせていく。
    「ぐ……がぁ……!」
    「そこ!」
     呻く牛男を衣装を閃かせた天音がジャッジメントレイで射抜き、畳みかけた方が良いと判断した妃那が影縛りを放ち、更に雄哉がシールドバッシュ。
     絶え間ない攻撃に牛男は我武者羅に斧を振るった。
    「ぐっ……!」
     強烈な一撃に雄哉が思わず膝をつくが、脳裏に愛莉達が過る。
    (「負けるわけには行かないんだ……!」)
     意識的に踏みとどまり鋼鉄拳で反撃。
    「獅子凰先輩!」
    「さぁて、これで終わりにするっすよ!」
     魂を凌駕させた雄哉に頷き天摩がOath of Thronsによる鋭い蹴りで牛男の腹部を引き裂いた。
    「文月センパイ、レイっち、天音っち、高野さん!」
    「任せろ!」
     咲哉が【十六夜】を下段から撥ね上げて右足を切断すれば。
    「あたし達の事を知って応援してくる人がいる限り何度だって立ち上がるよ!」
     天音がスターゲイザーで左足を粉砕し。
    「誰も堕ちずにすみましたか……」
    「そうだな」
     呟きながら鬼神変で右腕を吹き飛ばす妃那を気遣いつつレイがレイザースラストで左腕を締め上げて。
    「柳瀬」
    「おう! 行くぜ、透流!」
    「師匠、分かっている」
     天を駆けた高明がティアーズリッパ―で胸を斬り裂き急所を曝け出させ、そこに向けて透流が漆黒の弾丸を放つ。
    「ぶち抜く」
     透流のその一言が牛男が聞いた最期の言葉となり。

     ――まだ存在していた2体の都市伝説が声なき悲鳴を上げ、消失した。


     ――避難場所にて。
    「……何だったんだよ、あの化物達は」
     戦いが終わり、安堵からか男がぽつりと呟く。
    「あれは人の心が噂話を通して実体化したものです」
     勇弥が返すと男は目を丸くした。
    「それじゃあ、あんな化物を俺達が……?」
    「そうだな。人々の噂話や道を恐れる心から生まれるのがああいった都市伝説達だ」
     首肯する脇差に、男が表情を青褪めさせる。
    「そんな……」
    「でもな。俺達の仲間がそんな都市伝説を倒して皆を助けてくれたんだ」
    「皆さんが信じてくれるのならば、その想いが俺達灼滅者の力になります。だから、怖れないで下さい。俺達を信じて強い心を持ち続けてください」
    「新たな都市伝説はきっと、皆が心を強く持って恐怖心を克服すれば現れなくなる。だから、俺達の事を信じて心を強く持って欲しい」
     勇弥と脇差の言葉に男は静かに頷いている。
     周囲では、愛莉や朱里達が怪我人の手当てを行っていた。
     そこに都市防衛の功労者たる高明達が現れ人々が口々に礼を述べた。
     その輪の中に美雪はいた。
     彼女は咲哉と天摩へと近づいていく。
    「美雪っち。久しぶりっすね」
    「今回は俺達の手助けをしてくれてありがとうな」
     微笑する天摩と咲哉に凛々しく振舞おうとしていた美雪が頬を赤らめ小さく一礼した。
    「あの時は……助けてくれて、ありがとう……」
    「これからもよろしくっす、美雪っち」
    「よろしくな、美雪」
     拳を突き出す天摩と手を差し出してきた咲哉に彼女は頷き天摩と拳を合わせ、咲哉の手を握り返した。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2018年3月29日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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